ソードアート・オンライン ―ファダーズ・ストーリー― 作:網緑 錆
四十八層の主街区、リンダース。そこかしこに小川と水車があり長閑な空気が流れている。陽光を受けてキラキラとせせらぐ川の音が、風の音に混じって、どこかの山間のような静けさ。
穏やかさと静けさの原因になっているのはエリアの特徴だけではない。今日は一月四日。アインクラッドでも新年早々から忙しく動き回る人間はあまり多くない。窮地でも季節感を忘れないのは、いい意味で日本人らしい。
ぼくだって、一日中部屋でごろごろと転がってつまらないテレビ番組をみながら携帯ゲームをやって過ごしたい。……ゲーム自体は現在進行形でやってるけど。
そんな状況の中でこんな長閑なところに来たのには理由がある。勿論、観光しに来たわけじゃない。ぼくは一件の建物の目の前で立ち止まると、リズベット武具店の看板を横目に見てから店の中に入っていった。
「はいはーい。いらっしゃいませー! あけましておめでとうございますー!」
店のカウンターでは桃色の髪をした少女――店主のリズベット――が待っていた。ぼくは新年の挨拶を返しながら軽く会釈をし、自分の腰に装備していた片手剣をカウンターの上にごとりと置いた。剣の見た目はデザイン性に乏しく、ナマクラと化した刀身は鈍くくすんだ青色が覆っていて、武骨な風合いを出している。
「これを、研いでほしい。下層の鍛冶屋では上手く研げないみたいなんだ」
「《グランリッパー》……魔剣というわけではないけど、最前線クラスの武器だね。確かにある程度のスキルレベルがないと、難しいかも。一応、五日間時間がほしいな。他の依頼もあるし」
リズベットはひと目見て、スラスラと述べてくる。彼女の鑑定スキルと経験が光る。
今日の用件は、武器のメンテナンス。年末の依頼の報酬で手に入れた武器なのだが、すでに使い古されていてすぐに切れ味が落ちてしまった。
「わかった。五日後以降に取りに来る」
ぼくが頷くと、リズベットは剣を受け取って、カウンターの奥の棚にしまった。ストレージに入れないのは、区別をするためだろう。彼女はぼくに背を向けたまま、棚の中をいじりながら話し始める。
「そういえば、センは細剣使わない? 結構いい出来のがあるんだけど……」
営業トークだ。この子もぼくより歳は低いだろうに、しっかりしている。
いつも利用しているし、できれば応援したい気持ちもあるのだけど、ぼくは細剣を扱ったことがない。
「すまない。全く、使ったこと無いんだ、細剣は」
「そっかー。ま、他にも心当たりあるから気にしなくていーよ」
「心当たり……?」
何の気なしに聞き返すと、リズベットは「そう」と頷いた。
「《血盟騎士団》の《閃光のアスナ》。あとは同じく《血盟騎士団》スノウ」
今や攻略組の有名ギルドとして名を上げた血盟騎士団。その副団長の《閃光のアスナ》は二つ名までついて、すっかり有名人だ。スノウも、所々で名前を聞くようになってきている。一年前、事件発生直後に彼女が言ったように、ちゃんと攻略を続けているのだろう。
やはり有名プレイヤーがお客さんとしているのはハクがつくのかな。誇らしげに言うリズベットとは反対に、ぼくは苦虫を噛み潰したところだ。まあ、上位の生産職の人数なんてたかが知れているのだから、攻略組が一店舗に固まるのも頷ける話ではある。
ぼくは取り繕った笑みを浮かべて、リズベットに問う。
「そりゃ、すごい、ね。二人はよくここにくるのか?」
「そうだねー。武器買わなくても、センと同じで時々メンテナンスに来たりしているよ」
今までリズベット武具店を利用していて、会ったことは一度もなかった。運がいいのか悪いのか。すぐにでもスノウがここに来てもおかしくないと思うと、ぼくはなんとなく落ち着かなくなってきた。今でもやっぱり、合わせる顔はない。
振り返ったリズベットは、そわそわするぼくをみて微笑む。
「知り合い? やっぱり前線で会ったりする?」
リズベットが無邪気に問う。ぼくは曖昧にうなずきながら苦笑した。
「……もっと下層の頃、前線で会ったことはあるよ。今はもう、会わないけど。ぼくがもう前線には居ないから」
「それにしては、いい武器や素材持ってくるよね」
「それは、基本的には攻略組プレイヤーからの依頼の報酬かな」
「ふーん……。あ」
さほど興味なさげなリズベットが棚を漁りながら、動きを止めた。
「……じゃあさ、ちょっとした頼まれごととかって受け付けてるんだよね?」
「まあ、……あんまり直接受けては居ないけど」
基本的には依頼の仲介をしている人から受けている。直接依頼募集をかけるよりもその方が自分の実力にあった仕事を選べるし、何より依頼がなくて食いっぱぐれることがない。
それに、トーマや《匣の教団》のこともあるし、大声で依頼募集をかけられる身分でもない。
リズベットは棚を漁る手を止めて、ぼくに対して両手を合わせる。
「今回だけでいいから、少しだけ。お願い!」
「う……」
こっちも新年早々から研磨のお願いをしてしまっている負い目もある。持ちつ持たれつというのは柄では無いけど、ぼくは頷いた。
「わかった。それで、依頼は――」
目の前の少女がカウンターに隠れる場所で小さくガッツポーズをしたのが見えてしまったぼくだ。ちょっとおかしくなってしまって、微笑みながら依頼の内容をきいた。
○
そんなわけで、ぼくはリズベットの依頼を受け、三十九層北東部の丘陵地帯に来ている。純ファンタジー世界のような緑色の丘の景色が広がっていて、遠くには断崖と森が見えていた。
依頼の内容はこのあたりに生息しているドラゴン型モンスターが落とす《ワイバーンの麟皮》を集めてくること。質の良い砥石の材料になるらしい。年末年始で仕入れを怠ってしまい、ぼくの依頼した《グランリッパー》の研磨で残りの砥石を使い切ってしまいそうなのだとか。
仕事を受けたのは、何もぼくがお人好しだからではない。
最近タフトでアルゴを見かけなくなったこともあって、仕事に飢えていた。しかも《ワイバーンの鱗皮》を持ってくれば最前線レベルの革鎧を譲ってくれるらしい。おまけでポケットもつけておいてくれるとのことだ。
「……しかし、《血盟騎士団》にコネがあるなら、ついでに取ってきてもらえばいいのに」
ぼくは独りごちる。実は、ここ三十九層の主街区ノルフレトには血盟騎士団の新本部がある。ギルトシュタインからこっちに移ってもう何ヶ月か経っていたはずだ。血盟騎士団に限るわけではないが、前線を攻略していく上で、より上層にギルド本部を置いたほうが何かと都合が良いのだろう。
森の方に向かって丘陵地帯をほっつき歩いていると、早速一匹のドラゴン型モンスターが現れる。ぼくは周囲を見渡してから、上着のポケットに突っ込んでいた両手を抜いた。
誰もいないなら《グランリッパー》の代替用に持ってきた片手剣を使うより、《練気術》で戦ったほうが楽だ。ドラゴンが飛んでるときは《波動撃》でダメージを与えられるし、地面に落ちてきたら《打鋼発勁》でも《体術》でもぶつけてやればいい。
ドラゴンが一つ咆哮を吐き捨てる。ぼくは早速右拳を構え、後ろへ溜める。ソードスキルの光が現れた瞬間に、《波動撃》の自動操縦の動きを後押しするように身体を動かす。何もせず自動操縦に従っているときよりも速い動きで拳に押し出された空気の弾丸が空中を走っていく。
翼に当たると、ドラゴンは弱々しく翼をはためかせながら地面に落ちていった。
「……少し、鈍ってるな……」
スキル後の硬直を感じながらつぶやく。
自動操縦をちゃんと後押しするのは、簡単ではない。ずれた動きをすると阻害になるし、下手をするとソードスキル自体が不発になって硬直してしまう。
少し後押しするだけなら今のようにそこまで苦労はしないが、上位スキルと遜色ないくらいまで底上げするには訓練と特殊なカンが必要だ。
「……うん、ついでに練習していこう」
ぼくは墜落したドラゴン目掛けて《波動撃》を何度も打ち込んでいく。空気の弾丸自体の速度も少しずつ早くなっていき、ドラゴンを倒し終わる頃には感覚を取り戻しきっていた。
《波動撃》は《練気術》の中でも一番初めに覚えたスキルなので、カンを取り戻すのは楽だ。モーション自体も複雑ではなく、敵と距離を置けるから落ち着いてできる。
問題は《打鋼発勁》のような至近距離で使うスキルや《均化勁》のようなカウンタースキル。そして《九奉演舞》のような連撃スキルだ。《均化勁》はモンスター相手には何度か使った事はあるが受け流しの動作タイミングが難しいから対人で使ったことはないし、《九奉演舞》に至ってはモンスター含めて実践で使えたことがない。誰もいないところで試し撃ちしながら動きを確認しただけだ。
連撃スキルのあとの硬直の長さは、ソロで使うにはリスクが大きすぎる。仲間がいればその限りでも無いのかもしれないが。
結局、《波動撃》と、強いて言えば《打鋼発勁》が使いやすいし、何なら体術の《水月》や、片手剣の《ホリゾンタル・アーク》あたりの方が取り回しは良い。
「……文句ばっかり言っても、しょうがないか」
ぼくはストレージを確認し、《ワイバーンの鱗皮》が一つ手に入っているのを確かめると丘陵地帯を進み始めた。森の方には高台があって、さっきのドラゴン型モンスターはそっちのほうが出現頻度が高い。
なるべく、空の陽が高いうちに帰りたいな。
そんな気持ちで、道中更に数匹のドラゴンを狩りながら進んでいく。《波動撃》がドラゴンに対して非常に相性が良いこと、そして、ドラゴン自体がぼくのレベルからすると雑魚に等しいことが相まって、さくさくと気持ちよくアイテムが集まっていく。
森に入り込み、渓流沿いに奥へ奥へと進んでいく。ひと気もない。散歩のような気持ちで足を前へ。
「……一人は楽だな」
つぶやく。川のせせらぎに飲み込まれて言葉がうち消えていく。
「……味気ないけどな」
ふたつとも本音だが、後者のほうが、今の気持ちに近いかもしれない。
感傷に浸りながら森を抜けて、高台へ出たとき、ぼくの索敵スキルに引っかかる反応があった。しかも、モンスターじゃない。プレイヤー。距離はそこまで遠くない。脳裏にトーマの姿がよぎる。
ぼくは素早く振り返りながら、両手をポケットから出し、背中の投擲用ナイフを構えた。
「う、うわぁ!」
驚愕した青年の声。声の主が両腕を上げ、自身をかばうようにしている姿を見て、ぼくはぎりぎりのところでナイフを投げる動作を中断する。
トーマでも、《匣の教団》の人間でもない。カーソルは緑。オレンジですらない。装備の赤と白の配色をみて、なんとなく察する。それにここは三十九層で、彼らのお膝元だ。
「ちょ、ちょっと急に何なんですか!」
訴える青年を見て、ぼくはナイフを背中に戻す。これは、完全にぼくが悪い。トーマと《匣の教団》を怖がりすぎたせいだ。
「……すみません。音がしたので、モンスターかと」
ごまかしながら謝る。青年は落ち着きを取り戻したようで「勘弁してくれ……」と小さな声で言っていた。そして、その直後、ふたつのプレイヤーが近づいてくる反応があった。
「どうしたの?」
「あ、アスナさん……」
青年は近づいてきたプレイヤーを振り返ってその名を呟く。ぼくは両手をポケットの中に戻しながら、やってきたふたりのプレイヤーの方を見た。
「あ……」
ぼくは間抜けな音を出して、口を開けたままにしてしまう。
血盟騎士団の副団長、有名プレイヤーの《閃光のアスナ》が来たからではない。その隣にいる少女を見つけたからだ。
茶色でクセのある髪をおさげのようにしていて、その名のように白い肌、どこか物憂げでミステリアスな表情。――そこに居たのは、スノウだった。
「……セン」
スノウがぼくの名前を呼ぶ。表情からは何も読み取れない。何を考えているのだろう。何を思っているのだろう。あの日目の前でパーティ申請を断って、逃げるように消えたぼくをどう思っているだろうか。
言葉がうまく出せず、目をそらしてしまう。
「……えっと――」
「――スノウ。少し休憩にしましょう!」
ぼくのクソみたいな時間稼ぎの言葉を遮って、《閃光のアスナ》が急にスノウに話しかけた。
「でも、今日のノルマが……」
「わからないけど……。このまま続けるより、今、話をしてスッキリしてからのほうが、効率いいでしょ?」
「……ありがとう」
お礼を言うスノウ。《閃光のアスナ》は、にいっと笑みを返して、さっきからこの状況に置いてきぼりになっている青年の腕をつかんで引っ張る。
「君も、休憩だから、ちょっとあっち行こうか」
「あ、ええ? はい、分かりました……」
青年はそのまま《閃光のアスナ》に連れて行かれて見えなくなってしまう。
その様子を見ていたらスノウが歩み寄ってきた。
「じゃあ、少し、話そっか。……ね?」
ぼくはさり気なく後ろ手に握っていた転移結晶をそのままポーチの中に戻し、頷く。
逃げ出したいような、でも、この時を待っていたような、そんな不思議な気分だ。
「わかった。……話そう」
それから、ぼくとスノウは高台に転がっていた岩に並んで腰掛けた。景色がいい。遠くにノルフレトの町並みが見えて、そこからずっとこの場所まで、緑の絨毯が続いている。
「きれいだよね。ゲームの中だって、忘れてしまいそう」
「……うん」
こうやって肩を並べたのはいつぶりだろう。タフトの公園でよく話をしていたことを思い出す。
「今日はね」
ぎこちない空気の中、スノウが話し始める。今も変わらない落ち着いた声のトーン、話し方。
「アスナと一緒に、新人の訓練に来ていたの。だから、本当に、偶然」
あのびびりちらしていた青年は新人だったのか。……彼がびびったのは、ぼくがトーマと《匣の教団》にびびったからなんだけど。
ぼくが沈黙を守るのを受けて、スノウは続ける。
「私はキミと別れてからも、血盟騎士団で攻略を続けてたよ。今はこうやって、後続のプレイヤーに何かを教えることもあるくらい……。センは、あれからどうしていたの?」
疑問形の言葉が飛んできた。答えざるを得なくなる。
「ぼくは……」
話したいことは沢山ある。だけどひとつも言葉になってはくれない。喉に岩の塊が詰まってしまったようだ。
《練気術》というスキルを手に入れた。《The White Wolf Lord》という隠しモンスターを倒して《狼の掌》というレアアイテムを手に入れた。でも、トーマという男の裏切りで、呪いのような死の恐怖を植え付けられてしまった。それから、誰かとパーティを組めなくなってしまった。
「……ぼくは……」
パーティを組めなくなってからはレイドも組めないから、前線に出ることもできなくなった。《鼠のアルゴ》から細々とした依頼を貰って、命を繋いでいた。《練気術》のせいで《匣の教団》というオレンジギルドに狙われ続ける様になってしまった。
「……ぼく、は……」
今では《鼠のアルゴ》の所在もわからなくなってしまった。他の情報屋に接触しても、すぐにぼくの情報が《匣の教団》に売られて、新たな刺客が送り込まれてくる。
すっと逃げて、逃げて、辿り着く先はきっと……。
索敵スキルに、反応があった。
ぼくは反射的に岩から飛び降り、腰にある代用片手剣を抜く。反応のある方から足音が聞こえて、ぼくはそちらに向き直る。
緑布を体中に巻いたプレイヤー……。間違いない。《匣の教団》だ。
「覚悟……!」
「クソ……」
そういえば、年末に受けた依頼から、ぼくの前にその依頼主が姿を現さなくなっていた。ぼくの情報を《匣の教団》に売ったんだ。
ぼくが使い古された剣を研ぐためにリズベット武具店に行くであろうという情報を握った刺客が、武具店で待ち伏せして、会話を盗み聞いて、ここまでついてきた。リズベット武具店で襲撃してこなかったのは、攻略組プレイヤーが出入りする場所で戦うのはリスクが高いと判断したからか。
原因も過程も容易に推察できる。少し考えれば気づけたかもしれないのに!
「セン! これは……!」
「スノウはさがってて!」
ぼくは緑布の刺客に向かってナイフを投げる。刺客の男はたやすくそれを避けると、ぼくに向かって走り出してくる。
相手の武器は槍。ぼくは剣を腰だめにして、相手に切っ先をまっすぐ突き出すようにして構える。これは牽制と同時に、こちらの剣のリーチを読まれにくくするため。モンスター相手には通用しないが、対人相手にはある程度有効な構え方だ。
「甘えよ!」
緑布の男が槍を持つ手を持ち変える。順手から、逆手へ。ソードスキルではない。これは、槍投げだ。
読み通り男は槍を投げてくる。ぼくは咄嗟の反応で剣を構えて受けるが、その威力に剣が弾き落とされてしまう。同時に、男のカーソルが緑からオレンジへと変貌していくが、全く気にする様子もない。
「さあ……見せてみろ!」
男はこちらに駆け寄りながらシステムウィンドウを操作し、片手剣を装備した。《はじまりの街》で買える安い剣……おそらくは麻痺剣だ。
ぼくの《練気術》なら何とかしのぎきれるかもしれない。……しかしここにはスノウがいる。ぼくが他プレイヤーがいるときに《練気術》を使わないことを見越して、このタイミングで強襲をかけてきたんだ。
「見せる気がないのなら……落ちるんだな!」
逡巡しているうちに緑布の男が目の前まで来て剣を振りかぶる。ここまで来たら、《練気術》でもどうにもならない。一瞬の判断の遅れが致命的なミスとなってしまった。
ぼくは《狼の掌》で受ける準備をする。だけど、正直無理だ。さばききれる自信がない。きっとこのまま、ぼくは――。
――金属と金属がぶつかりあう音があたりに響いた。
「……邪魔するなよ、お前。犯すぞ?」
緑布の男のささくれだった声が聴こえる。
「あなたも十分、邪魔だけど……?」
あとから聞こえてきた声は、スノウのものだった。
ぼくを切り裂こうとした緑布の男の剣閃は、突如横から飛び出してきたスノウの細剣によって阻まれている。
この好機、逃す手はない。ぼくは腰だめに両の拳を握って、起死回生のソードスキルを放つ。《双牙》。体術の近距離用スキル。狙いは緑布の男が持つ片手剣。
「喰らえ……!」
《狼の掌》で固めた両拳が緑布の片手剣を割ると、男は慌ててぼくらと距離を取って転移結晶を手にした。
「仲間はいないんじゃなかったのかよ……。話が違う……くそ。転移、三十五層、迷いの森」
直後、男の姿は消えてしまう。ぼくはうんざりした気持ちでため息を付いた。スノウも、ほっと一息ついて細剣を鞘に収める。
「今の、は……?」
スノウの問にぼくは答えられず、無言で先程弾かれた自分の剣を回収した。
今のやり取りでよくわかった。トーマはどうだかわからないが、少なくとも《匣の教団》はぼくを何が何でも落とす気らしい。
……だとしたら、スノウを巻き込むわけには行かない。
ぼくは、転移結晶を取り出す。
「転移、十一層、タフト」
「セン! 待って……!」
彼女が手を伸ばしてくる。だが、その手がぼくに辿り着く前に、ぼくの視界はタフトの街並みに切り替わっていた。