艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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※注1 『天色 ましろ』

・『設定 登場人物』を参照



※注2 『巡田(めぐりだ)

・前作『艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話』ハッピーエンドルート、『黎明の空』作戦中に『海軍本部』の狙撃手により頭部を狙撃され、即死。
元は諜報班班長だったが、今はその任を別の者が引き継いでいる。
嘗て『海軍本部』に所属する洗脳された工作員だったが、提督を敵に回して拘束された後に
洗脳が解かれる。その後、横須賀鎮守府に異動したことになっていた。


第7話  南西諸島北海域制圧作戦 その4

 地下司令部に入ってから7日目になっていた。地下司令部に籠って長くなってきた頃だと思われたのか、差し入れという口実を使って作戦室に入ってくる輩が増えてきた。

今日からだが、出来れば今日からは辞めて欲しかった。昨日からでもだが……。

 発動中の作戦が現在、第一目標を突破しようと試みているところ。伊勢からの定時連絡、小規模な戦闘は既に2回目が終えたところ。初回の空母を含めた機動部隊程の規模ではないが、水雷戦隊との遭遇戦になったことがあった。それはどうやら伊勢の指揮で無傷のまま航空戦のみで完勝してしまったらしい。『航空戦だけで封殺しちゃうと楽なんだけど、それがなんだかなーって思う』と伊勢は言っていた。面と向かって砲雷撃戦をするよりも、格段にローリスクだと思うんだがな……。

 それで今回作戦室に来ているのは、『自称:武下の使いっぱしり』の姉貴、天色 ましろだ(※注1)。使いっぱしりを自称する癖に、立場は鎮守府内でも特殊でそれなりに高いところに居る。

つまり、ただただ何らかの口実を使って作戦室に来たかっただけだということだ。これで特務大尉なんだから笑える。

 

「作戦行動中にすみませんね」

 

「そう思うなら出ていってくれ。姉貴が居ても何も出来ないぞ」

 

 俺は椅子に腰かけながら、横に立つ姉貴に言う。ちなみに今日の秘書艦は山城。さっき『不幸だわ』とか言っていたが、何が不幸だったのだろうか。

 

「今回は台湾との正式な国交を結ぶためのお膳立て、というところですか」

 

「"お膳立て"をするなら東南アジアまで侵攻する必要があるんだが?」

 

「言葉の綾ですよ。……政府が言い出したことですし、提督はそれに従うのでしょう?」

 

「組織の一員として従わなければならないからな。当然のことだ」

 

 そう言いながら、俺はモニタを観察する。偵察機は本隊・支隊共に4機ずつ出ている状態。四方を監視しているところだ。

現在は台湾南方、高雄沖約50km針路040を航行中だ。もう半分を航行して、更に高雄を目指す。俺が作戦立案し、伊勢たち本隊と龍驤たち支隊もそれを頭に入れているはずだ。ちゃんと作戦通り、行動してくれているだろう。

 姉貴が言ってきた言葉、どこで作戦の詳細を入手してきたのだろうか。

大筋、台湾を取り巻く作戦であることは、少し考えれば分かること。だがそれが、国交を結ぶための"お膳立て"であることがどうして分かったのだろうか。

 

「まぁ、私が来たのには、少し提督に用事があったからです」

 

 ふふふ、と笑った姉貴が書類を渡してきた。それは武下に使いっぱしりされたような内容ではない。完全に姉貴の権限で作成されたものだった。姉貴なら言い回し次第でなんでも出来ると思う。本当に便利な道具を得た『特務大尉』様だ。

 姉貴から渡された書類は2枚あり、1枚目は『外出時の護衛選抜と割り当て』について。2枚目は『横須賀鎮守府艦隊司令部付き多国籍言語に対応するための人員配置』について。

1枚目は……確かに必要かもしれないな。自分の立場もわきまえているつもりだし、周りから心配されていることは分かっている。なので、この書類のような命令が下ったとしても仕方ないと思っている。2枚目は、今必要なのか分からないでいた。つまりマルチリンガルの通訳を置く、という話だろう。そんな都合のいい人材、今の国内に存在しているのだろうか。使われないだろうし、どう考えても需要無いだろう……。まぁでも、書類が作成されて大本営を通過しているものなら居るんだろうな。

 そんなことを考えつつ、俺は書類に一通り目を通す。

そしてその場で返事を返した。

 

「分かった。どっちも通す」

 

「はい。では、すぐに大本営に回しておきます」

 

 そういった姉貴はニコッと笑って作戦室を出ていったと思った。思ったんだが……。ぞろぞろと門兵たちが入ってくる。緊張した面持ちをした兵は1人も居ないけどな。作戦室に入るんだから、どうかと思うけど……。

 姉貴は何がしたいんだろう、さっきから山城が不穏な空気を滲み出しているから、すぐに止めたいところなんだが。

そんな俺のことは当然知らない姉貴は、俺に説明を始める。

 

「護衛の選別は終わっています。全員志願者で、任務を熟せるだけの実力者でもあります」

 

 確かに門兵の中、ひいては軍内部でも手練れに入るだろう兵たちだった。全員、当然だが武装はしていない。BDUとベストを着用しているだけ。戦闘配置時でない時の格好だ。数人私服だけど……。軍の組織としてどうかと思うぞ。

 俺が横須賀鎮守府に戻ってくる前、門兵と酒保の全員が軍から一度退役している。門兵はそのまま私設軍事組織『柴壁』として門兵と同じ役割を、酒保は全員そのまま酒保の運営をしていたそうだ。その中でも『柴壁』は組織として稼働しており、中には工作・特殊戦闘を任務としていたところもあった。工作・特殊戦闘を担っていた彼らは、基本的に個人戦闘力はずば抜けているんだとか。

 現在も門兵の中で担当を分けてはいる。だが、警備隊と諜報班にしか分かれてない。

大半が門の前で立哨か鎮守府内を小隊又は分隊で巡回を行う警備隊。少数が横須賀鎮守府に敵対的な勢力への工作・特殊戦闘を行う諜報班。諜報班は警備隊よりも圧倒的に構成人員が少ないため、『班』で判別されている。何やら諜報班のことを警備部の中では『猟犬』と言っているらしいが、どうしてそのように呼ばれているのか俺は知らない。

 

「確かに……日本皇国軍屈指の精兵しか居ないな。ここに集めすぎな気もするけど……」

 

 そう俺が答えると、姉貴が連れてきた兵の中から1人、前に出てきた。

 

「横須賀鎮守府艦隊司令部の重要性を鑑みると当然のことですよ。提督」

 

 今話したのは諜報班の南風 日向子(みなみかぜ ひなこ)。『海軍本部』壊滅に尽力し、戦死した巡田(めぐりだ)(※注2)の部下だった兵だ。

本来、諜報班は巡田が指揮を執っていたが、戦死したことで次席指揮官である南風が繰り上げで指揮官になった。班員全員が認め、武下も承認していること。俺は口出ししていないが、承認印を求められたので、一応俺も認めていることになっているらしい。

 南風は真面目な表情、大きな瞳で俺の瞳を捉えて答える。決して逸らすことはないが、かなり眼力がある。本人が顔立ちがかなり整っていることもあって、その真剣な表情はそれだけで真面目に答えていることが分かる程だった。

 

「……まぁ、それもそうですね。ですけど、もう少し分散しても良いと思うんです。ここ以外にも重要な軍事施設や要人は多くいるはずですし」

 

 あれ? 何故皆溜息を吐くんだろうか……。

 政府要人くらい数人居るだろうし、陛下の護衛も必要だろう。日本皇国には守らねばならない人間はたくさんいるはずだ。

なのに、ここに一定数を集中させても良かったのだろうか、と今更ながら思ったんだが……。

 

「敬語は止してくださいと、あれほど……」

 

「いや、皆さんは俺よりも年上ですし、敬うべきでは?」

 

 また溜息吐いた……。

 

「年齢以前に、私たちは提督の部下です。部下に敬語を使ってどうするんですか?」

 

「それは依然にも言いましたが、皆さんに崩れた言葉を使うつもりはありませんよ」

 

「長官や総督、陛下の御前でもですか?」

 

 それを言われると痛い。

 

「うぐっ」

 

「直してくださいね?」

 

「わかりm」

 

「え?」

 

「わ、分かった……」

 

 なんで怒られているんだ、俺。

 話は打って変わって、説明に入った。護衛は艦娘が付いて行けない範囲をカバーするためみたいだ。用は大本営との往復以外での要件の場合に付ける護衛とのこと。

それは外国でも同じことで、あり得る可能性を考慮した結果ということ。

外交の際に武官として派遣された場合、艦娘は先方からは人間と判断される可能性はあるが、その習性上、常に護衛として付いているのには問題がある。という姉貴の考えに新瑞が賛同し、このようなことになったんだとか。それに伴い、マルチリンガルの通訳も派遣するに至ったというのが、今回の話の顛末だった。

 俺は金剛か妙高を通訳に連れていくつもりだったんだが、それはダメだったみたいだな。

だが、外交の際に連れていく艦隊には金剛か妙高を連れていくことは決定だ。必ず双方の軍隊で通信がなされるからな。その時には必ず必要になるだろう。

それに、敵対勢力の探知に金剛は必要だ。何と言われようと、俺は護衛に付いてくる門兵の他に金剛か妙高は連れていく。外交官を守らなければならないから。

 

ーーーーー

 

ーー

 

 

 姉貴は門兵たちを連れて作戦室から出て行った。どうやら本当に要件は終わりだったみたいだ。

作戦室に何十人と入ってきていたからか、少し息苦しさから解放されて一息吐いていると、また誰かが作戦室に入ってくる。

 

「提督、作戦行動中に失礼します」

 

 入ってきたのは加賀だった。どっかの誰かさん(姉貴)のように、暴風雨のように来て去っていくことなく、普通に入ってきてくれた。

だが、要件があるのだろう。それに作戦行動中というのに、何か火急の要件でもあるのだろうか。それ以外であることはないと思うが……。加賀に限ってそんなことは無いだろう。

 

「ん? どうした?」

 

 俺が加賀の方を向くと、少しためらいつつも、あることを言ってくる。

 

「赤城さんが……」

 

「赤城がどうした?」

 

 何だか嫌な予感がするな……。

 

「将棋、というもので遊んでいるのですが、挑んでくる艦娘や門兵さんたちをことごとく打ち破って」

 

「打ち破って?」

 

 本当に、嫌な予感がする。

 

「グラウンド近くにある木陰のベンチでふんぞり返っているので、どうにかして欲しいです」

 

 あぁ、本当に何やってんだ。

というか、加賀の様子がおかしい。いつもならあまり表情を変えない(感情の起伏は激しい)のに、少しプルプルと震えている。顔を俯かせているので表情は見えないが、明らかに様子がおかしい。

 

「ふはははー!! 私は強いんです!! ……あっれー? さっき『赤城さんを打ち破って、散っていった皆さんの仇を取ってみせます』とか言ってませんでしたっけ?」

 

 なんだか急に加賀が言い始めたな。……赤城の真似か。

というか、さっきから震える動きが大きく小刻みになっているんだが……。

 

「って、赤城さんが……」

 

 あー、こりゃ不味い。経験則的に言えば、これは加賀が赤城と勝負した後の言葉で、加賀はそのままここに直行してきているのだろう。

面倒なことをしている、本当に。しかも作戦行動中に、だ。俺は戦域担当妖精の1人に声を掛けた。

 

「戦域担当妖精、鎮守府敷地内の該当カメラの映像を」

 

「はい」

 

 若干引き気味の戦域担当妖精が操作盤を器用に扱って、モニタの1枚に該当カメラの映像を映した。

そこには将棋盤を中心に、赤城が誰かと対戦している姿が映されている。周りには観戦者と思わしき姿が何人も確認できる。現状、特に問題があるとは思えないんだが……。

 

『ここまで追い詰められたら白旗を振るのが指揮艦ってものですよ。無駄な損害は無能の証拠です』

 

『くっ!! ですがこれはゲーム!!』

 

 見るからに熱い展開の真っただ中って感じなんだが、何か問題があるというのだろうか。

 

『さぁ、貴女の艦隊では私は打ち破れませんよ!! 同数の艦隊同士の対戦だというのに、既に半数がこちらの手の内……次は、こうです!!』

 

『なにっ?!』

 

 盤上が見えないが、恐らく赤城が獲った駒を置いたのだろう。それによって戦局は悪化したみたいだ。

 

『旗艦を包囲しました。もう逃げれませんよ……王手。ふふふっ、あっははははは!!』

 

『比叡お姉様の仇、討ち取れなかったです……』

 

 どうやら赤城の対戦相手は榛名だったらしいな。

 

『悔しいです。……ですが赤城さん、初心者相手にもう少し手を抜かないのですか?』

 

『え? 抜いたら面白くないじゃないですか?』

 

 あ、これはダメな奴だ。

 

『それで挑んできた艦娘20人斬りと、聞きつけた門兵さん10人斬りはやり過ぎです』

 

『そうですか?』

 

『姉様の前に対戦していた島風ちゃんとか、半泣きだったじゃないですか』

 

『そういえば……後でフォローしておかないと』

 

 チラッと俺は加賀の方を見た。

そうすると、加賀は言った。

 

「私は14回駒を進めた後に負けました」

 

「早すぎない?」

 

「ちなみに島風は5回でした」

 

 島風は一体何をしたらそんな早くに王手されるんだよ……。

ともかく、一度止めに行った方が良いだろうな。と思い、立ち上がろうとすると、赤城のところに誰かが観戦者を割っていった。そしてカメラが声を拾う。

 

『赤城ー?』

 

『あ、金剛さん。どうしました?』

 

『アンフェアな戦いは良くないネー。それに容赦なく駆逐艦相手でもやってるそうじゃないデスカ』

 

 金剛だ。さっきまで観戦者のところに居なかったのに、どうしていきなり現れたのだろうか。

 

『それに提督が話を聞いたみたいデース。あまり駆逐艦の娘たちがアレなようなら、飛んで来かねないネー』

 

『え?』

 

『報告は既に提督の耳に入っているデース』

 

『え"っ? そ、それは不味いです』

 

 確かに耳に入っているが、どうしてそれを金剛が知っているんだ。と思った刹那、金剛がカメラの方をチラッと見た。

……作戦室に来ていたんだな。恐らく。加賀が話をしていたので、入ってこなかったんだろう。

 

『カンカンとまではいかないデスガ、そろそろ切り上げた方が良いと思いマス』

 

『そ、そうします。いやぁ、すみません。将棋盤は共用のものですから、私はこれで!!』

 

 その場から赤城が走ってどっかに行ってしまった。それを見届けた金剛が、カメラに向かって笑顔でピースをしている。

やはりここに来ていたんだな。それで赤城に先回りして言いに行ったと、そういうことらしい。

 俺は溜息を吐いて、加賀の方を見る。

相変わらず表情は見えずにプルプル震えているが、本当にどうしたんだろうか。覗き込むのも良くないし、そのまま俺は待つことにした。

 本を開いて2分後くらいに、加賀がどうやら顔を上げたみたいだ。

チラッと表情を見たが、目が若干赤い。……少し泣いていたのだろうか。というか、そこまで悔しかったのか……。負けず嫌い過ぎるだろ……。そう思っていると、加賀が話しかけてきた。

 

「悔しくなんか、ないです」

 

「いや、聞いてないから!!」

 

 本当に悔しかったんだな……。

 ちなみに今日は、伊勢たち攻略艦隊は接敵することが無かったらしい。

 




 何やら毎回のように注が出てきているような気もします。今回に至っては、名前しか出てこない故人の登場人物ですからね……。今後も名前は出てきますけど、頻繁には出てこないのであしからず。

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