艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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第10話  提督と司令官 その2

 

 そのサイズや見た目から『軍艦島』と呼ばれ、かつて石炭が採掘されていた端島。現在では島全体の廃墟が取り壊され、日本皇国海軍の基地として稼働している。

海軍が試験的に設置した試験基地で、それと並行して南方からの資源輸送等を主任務としていた。現在、戦線の後退に伴って任務を遂行していないが、本州との連絡航路維持に尽力している。

 そんな端島基地もとい端島鎮守府に、俺は向かっていた。横須賀鎮守府から南風ら護衛4人と金剛を連れて東京駅へ向かい、新幹線を乗り継いで新長崎へ。そこから軍が用意していた車に乗り換え、端島鎮守府への補給物資を備蓄している軍が接収した小さい埠頭に到着した。

 道中何が起きる訳でもなく、何のハプニングもなしにここまで移動出来たのは幸いだった。だが金剛が何やらぶつぶつと言っていた言葉が気になる。特に京都と神戸、広島。まぁ、分らんでもないけどな。ぶらりと途中下車してフラフラしてみたいな、とか思ったりした。何でも広島は内海だから、深海棲艦の影響とかあまりないらしい。海産物がとても美味しいんだとか。……帰りに牡蠣買って帰りたい。

 

「ここにあるコンテナ全てが端島鎮守府の補給物資だそうです」

 

 横を歩く南風がそんなことを言う。高く積み上げられたコンテナたちが壁を作り、その間を道として俺たち人間が通っている。車が1台通れる程度の幅だが、車の往来が全くないここでは問題にはならないのだろう。

金剛は俺の後ろを歩き、前に2人、後ろに1人が小銃を携えて歩いている。ここまで厳重にする必要はないと言ったんだが、結局止めてくれなかった。そもそもここは民間の漁港だった場所ではあるが、今は軍が所有する埠頭。無粋なことをする輩はいないだろうに。

 コンテナブロックをいくつか越えると、やっと埠頭の端に出てくることが出来た。

そこには既に兵が数名と艦娘が立っている。

 

「待ってたっぽい!! 貴女が今日来るって提督さんが言っていた横須賀鎮守府の提督さんっぽい?」

 

 夕立だ。姿を見る限り虹彩も赤い訳ではないので、改二ではないのだろう。

艤装に目を向けてみても、主砲は12.7cm連装砲。魚雷発射管も四連装魚雷。対空機銃も変わらず。つまり、改造が何もなされていないどころか、改装もしていないということだろう。

 ふと、伊勢の言葉を思い出す。

補給線を途絶えさせないために、たった10kmばかりの航路を必死に守っていたこと。そして、その10kmの間に艦娘が次々と消えていったこと。轟沈を何としてでも避けてきた俺としては、想像もしたくない言葉でもあった。

そんな言葉を自分の知らないところで、艦娘が誰かを相手に零してしまうのは……。"提督"としても、人としても嫌だった。

 

「そうだ。端島鎮守府までよろしく頼む」

 

「了解っぽい!! じゃあ皆、夕立の艤装に乗って!! 出発するっぽい!!」

 

 元気よく俺たちの前を歩く夕立。俺たち、特に南風ら護衛は心底変なものを見るような目で夕立を見ていた。

それもそうだろう。彼女らが知る夕立は、横須賀鎮守府の夕立。積み上げた知識と培った経験を駆使し、忠実に任務をこなす高練度艦だ。俺がこの世界に来て着任した時、夕立は孤立してから横須賀鎮守府を目指して単独航海をした。結局到着することなく、近くを通りかかった横須賀鎮守府所属の遠征艦隊に拾われたが、それからというのも、『ぽい』の口癖をほとんど言わなくなってしまった。

曖昧な意味を表す『~ぽい』を言葉に発さず、ダメならダメと、良いなら良いとはっきりと言うようになってしまった。彼女のアイデンティティはそれだけではないが、かなり表面に現れるものを自ら使わなくなってしまっていったのだ。

 金剛が俺の横を歩きながらつぶやく。

それは端島鎮守府の夕立のことだった。

 

「本来の姿である夕立、デスネ。提督の夕立は……普通ならば経験しないことをたくさん積み上げマシタ。デスカラ、"あれ"を直視しちゃダメデース。"あれ"は夕立とは違いマス」

 

「……あぁ、分かっている」

 

「なら良いですケド」

 

 夕立の背中を追い、俺たちは埠頭に接岸された夕立へと乗り込む。

 俺は何も考えずに中へと進み、恐らく夕立が用意したであろう部屋に通された。

そこは士官食堂のようだ。無骨なその作りはそのまま残っており、各配置の妖精たちがせわしなく歩いていた。俺たちは椅子を引いて腰を下ろす。そうすると艦内スピーカから声が聞こえてきた。

 

『出航するっぽーい!! 到着は約25分後!!』

 

 どうやら出発するみたいだ。艦が揺れ始め、出発したことを身体全体で感じる。

 

『両舷前進いっぱーい!! 第三せんそーく!! っは!? 間違えたっぽーい!!』

 

 どうやら伝声管を間違えたらしい。というか廊下からも聞えてきたから、全体用のを使ったんだろうな。

赤城に乗った時にこんな間違いは聞いたことないが、こういうことはたまにあるんだろうか。俺が金剛の方を見ると、何かを察した金剛が説明を始めてくれた。

 

「単艦デスカラ、多分27ノットくらいネー。速度換算すると約50km/h。距離は約10km。おそらく多く見積もった数字デスネ」

 

 今計算したのかよ……。俺はまだ慣れてないから、もう少し頭の中で考えるのも時間が掛かる。

というか、俺が聞きたかったことと違うことを答えたな。

 

「ちなみに伝声管を使うのは本来妖精さんの役目デース。そもそも艦娘はほとんど伝声管を使うことはないデス」

 

「ということは」

 

「夕立も言っていましたが、間違えたのデショウ。そそっかしい子デース」

 

 フフッと笑う金剛は肘を立てて、士官食堂を見渡していた。

 

「……清掃も行き届いていマス。甲板もそうデシタ」

 

「姑かよ……」

 

「あーっ!! 私のこと、"おばあちゃん"だとか思ったデース!?

 

 え? いきなり怒り出した?! 俺はただ、息子夫婦の自宅に来てすぐに掃除とかの出来を確認する姑か~と思って口に出しただけだったんだが、金剛は何か別の方に捉えたみたいだな。

同じ机に向かっている南風は口を押えて笑うのを堪えているし、他の護衛も顔をそっぽ向ける。誰も助けてくれないのか、と考えている間に金剛は詰め寄ってきていた。

均整のとれた容貌の金剛が眉を吊り上げてズイズイと近づいてくる。俺は腰を引いて首を後ろにそらせる。それでも金剛は机に乗り出して顔を寄せてくるのだ。

 

「私だって女デース!! そんな風に思われていたなんて……ッ!!」

 

「い、いやいや!! 金剛が『清掃も行き届いていて、甲板も綺麗だった』とか言うから、息子夫婦の家に来て掃除チェックをする姑かよって意味で言ったんだよ!!」

 

「し、姑っ……」

 

 わなわなと肩を震わせる金剛が若干涙目になりながらも、俺に更に詰め寄ってくる。既に机を通りこし、俺とももうかなり近いところまで来ている。

近くで見ている護衛も助けて欲しいが、こういうのは仕事の内に入らないのだろうか。遂に南風も顔をそっぽ向けている状態だ。声を殺して笑っているのは見れば分かる。

 

「わっ、私はまだ19歳デース!! 提督とあまり変わらないデース!! そ、それを姑ってぇ……!!」

 

「悪かった!! 悪かったって!!」

 

 いい加減にじり寄りも限界に来ており、もう少しで後ろに倒れそうになっていた。俺は金剛の肩を押し返し、姿勢を戻す。

不貞腐れた金剛をなだめつつも、金剛の話に耳を傾けつつ、俺は色々と話をする。

 

「うぅ~……」

 

「ごめん、金剛」

 

「うぅ~……もう、言わないデスカ?」

 

「言わない」

 

「きっぱり言いますネ……。分かりマシタ。もう、私も気にしまセン」

 

 プリプリ怒っていた金剛も、その怒りを潜ませて、金剛は姿勢を正した。

俺も椅子にちゃんと座り、正面に座る金剛の顔を見る。

 

「……今回の件、聞いても良いデスカ?」

 

 突然真面目な話に切り替わった。俺もそれ相応の態度を出し、金剛の言葉を聞く。

あれやこれやと言うことのない金剛は、ストレートに俺に聞きたいことを聞き、言いたいことを言うタイプだ。今回もそれに倣い、金剛はストレートに道筋無しに言う。

 

「交渉したとしても、端島の司令官は艦隊運営に向いていマセン。それは提督も分っていることデース。デスカラ、私はこんなことに時間を割く必要はないと出発前に言ったデス」

 

 少し回り道をしている気がするが、金剛は最終確認で言っているのだろう。

 

「駄弁るのデシタラ、私はすぐに端島鎮守府から横須賀に行マスヨ? 暴れる提督を押さえつけてデモ……。端島の艦娘には悪いデスガ、大本営の人選が悪かったデス。一番経験のある提督に相談を持ち掛けなかったことが、いたずらに艦娘を失うような事態になるんデス」

 

 その言葉は出発前に聞いた言葉よりも強制力のある言葉の使い方だった。

 金剛の言っていることは、かなり無駄なところを切り落とされた極論だった。全てが理に適っており、何を優先するべきか分かっている。だが、それでも俺が端島に来る理由も理解していることだろう。金剛はそういう艦娘だ

表情を一切変えない金剛は、俺の表情を観察しながら言葉を続けた。

 

「情報収集なんて簡単なものデス。なんデスカ、アレ。無茶な遠征計画に防衛網、艦隊編成、装備、先のFF作戦での行動……。これが意図せずして執っているものだとすれば最悪デス」

 

 金剛の言う通り、端島の司令官の指揮は最悪なのだ。羅列された言葉の中に出てきた件、どれも言葉で表せば1つのことではあるが、中身はそれ以上に大きいものなのだ。

繰り返されてきたことを大半とする行動の結果は、その姿を見え隠れさせながらも、最低限国に影響を与えてきたものだった。だから本来はここまで貶めるようなことを言う必要なないのかもしれない。ただ、それが悪いことである、ということを知っている人間が居るのだ。駄目だと判断できた人が居たのだ。それでも止めることが出来なかった。

だから、今回は真相を聞きにこうして俺が出向いている。電話で聞いても良かったんだろうが、内容が内容だ。俺は面と向かって話すべきだと判断したのだ。

 

「それを面と向かって確認しに行くんだ。この情勢下で呼び出しでは先ず問題が起きる。だからこうして俺から行くことになっている訳だ。そもそも俺から頼んだことだしな」

 

 そういうと金剛が黙った。

 

「話してみて、確かめた後に決める。もし、本当に最悪な人間だった場合は手を打つ。それで良いだろう?」

 

「……ハイ。私はあまり期待しマセンガ」

 

 これ以降、俺と金剛はこの件について話をすることはなかった。

俺もこれ以上話しても仕方ないと感じ、金剛もまた話す必要はないと判断したんだろう。あと、出来れば南風は姑の件を蒸し返して欲しくなかった。本人は意図せず話題にしたようだが、俺としては金剛のことを気にしながら話す必要があったからな。

 





 次回から端島に移動します。前置きが長ったと思いますが、仕方ないデスネ!!

仕 方 な い デ ス ネ !  !

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