艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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第13話  提督と司令官 その5

 真田に連れられて、俺たちは埠頭近くの灯台に来ていた。そこからは空母が沖の手前に浮いているのが見える。形状からして翔鶴型だろう。かなり近くなので形が良く分かる。

 

「今日は翔鶴と瑞鶴が攻撃隊護衛と迎撃戦闘の訓練を行っています」

 

 遠くで発動機の音、機関砲の砲撃音が聞こえるのはそれが理由か。俺の肉眼では見えないが、金剛には見えているのだろうか。

 

「状況設定はどうなっているんですか?」

 

 訓練と言っても、どうやらそれ自体は実践訓練みたいなものをやっているみたいだ。的に向かって撃つわけでもないみたいだからだ。真田も何をしているのかくらい、訓練が行われるのなら知っているだろう。それを聞こうと思い、俺は問いかけた。

 

「翔鶴航空隊は瑞鶴に向けて攻撃隊と護衛戦闘機編隊が上空1200mを飛行。瑞鶴の見張り員と対空電探により編隊感知後、瑞鶴航空隊迎撃隊が発艦。翔鶴航空隊の迎撃を行う、という訓練内容です」

 

 なるほどな。赤城も良くやっている訓練内容だ。ただ、それでも赤城の場合は色々とキツイ決め事をしている。爆装した零戦五二型(機首機関銃:13mm x2に変更)のみの編隊で攻撃隊を編成し、護衛隊無しで突破するとかな。もう聞いてるだけで寒気がしてくる内容の訓練を行っている。しかも時々、駆逐艦の艦娘に声を掛けて対空砲火マシマシのえげつない状況設定をしている。火線がおかしい数出ている中、零戦はその間を縫って空母に爆弾を落とすわけだから意味分からないを通り越している。

 それは置いておいて、だ。赤城のようなことをしているのか。そもそも、装備をどういったものを使っているのかが気になるところではある。

まぁ、長崎に迎えに来ていた夕立の艤装を見る限り想像はしやすいが。

 

「装備は?」

 

「護衛戦闘機、迎撃機は零戦二一型。攻撃隊は九九艦爆、九七艦攻です。長い事使っているものですが、妖精たちの練度もかなり上がってきているので、上手くやれていると思います」

 

 初期の旧式装備だ。零戦二一型は機関砲の装弾数が少ない、九九艦爆は固定脚と発動機で足が遅い上に搭載量もそこまで多くない。恐らくウチみたいに魔改造をしていないと考えると、相当質は悪いだろう。艦載機に関して疎い金剛でさえも『うえぇ~』と言いたげな表情をしているのだ。本当の本当に旧式装備なのだ。それに状況を鑑みると、機関砲と機関銃の弾薬ベルトの見直しや新型弾頭の配備なども行っていないんだろうな。ベルトを変えるだけで、撃墜率も挙がると赤城や他の艦娘の航空隊からも報告を聞いていたりもする。

それを考えると、長崎との補給線維持に沈んでいった艦娘が報われない。稼働から時間の経っている鎮守府に進水して、装備が初期装備のままで沈んだんだからな。満足に戦えていなかったのは目に見えて分かる。

 

「そうですか……」

 

 少し考える。やはり端島鎮守府の戦術は、画面の向こう側の操作と何ら変わらない。挙句の果てに装備の更新までしていないと考えると、頭が痛くなるほどだ。

 会話内容を聞いていた護衛の南風たちも、話の内容は分かるらしい。艦娘と接触していれば、嫌でもそういう情報は入ってくるのだろう。問題提起、解決案までちゃんと出ているのだ。しかもすぐに実行可能な、弾薬ベルトに関する内容。

 

横須賀(横須賀鎮守府)の赤城航空隊の資料は先ほど見せていただきましたが、それでも私らは足元にすら到達していないです」

 

 少し引っかかるところがあった。どこがかというと、真田の話し方だ。どうも不自然に思える。

 

「あの程度のインターセプター(迎撃機)は無傷で返り討ちにしなければ、赤城を引き合いに出すのは失礼ってもんデス」

 

 今まで黙っていた金剛が話に入ってきた。

ずっと空を見て、たまに見えるようにリアクションをしているだけだと思っていたんだが、どうしたのだろう。それにやけに突っかかっているようにも思える。

 

「……どういう意味だね」

 

 初めて金剛の言葉に返事をした真田の声色は、どこか怒気が混じっているようにも思えた。

 

「零戦二一型は艦上戦闘機デース。専門は迎撃(インターセプト)じゃないことくらい、戦艦である私ですら知っていることデス。艦上戦闘機という区分ではありマスガ、陸上機と合わせて区分するならば軽戦闘機デース」

 

「単発単座ならば軽戦闘機だろうな」

 

 少し顔を歪めた真田のことを気にも留めず、金剛は表情を変えずに淡々と話していく。

 

「その軽戦闘機であれだけのことをやれるのは、用途によって専用に設計がなされた特別機じゃないと出来ないことデス。なのに赤城航空隊の行うような空戦機動や航空戦術を、端島の航空隊が一隊たりとも再現することなんてまず無理な話デース」

 

「ならば横須賀の艦載機には特別な改修が……」

 

「してある機もありマスガ、基本的には弄ってないって聞きマシタ。あの戦闘記録も覚えているか分かりマセンガ、日米合同作戦で見せた赤城航空隊の戦闘もそんな簡単なことで身につくようなスキルな訳がないデショウ」

 

「ノーマルでアレか?! パイロットが成せる業なのか」

 

 金剛が醸し出す剣呑な空気に呑まれていたが、俺はそこから脱する。とは言え、金剛と真田の間に入っても俺が何か出来るとも思えない。とは言って割り込んでもだんまりを決め込んでしまう自信しかない。

 2人の間には異様な空気が流れている。金剛の言葉の中から棘を感じて気分を悪くする真田に、敵意剥き出しとまでは行かない程度に好意的な話し方をしない金剛。

金剛は今回護衛という名目で付いて来ている。本来ならば、俺と真田の間に割って話をしてもいい立場ではない。だが空気が、状況が、そのように可笑しな空間を作り出していた。

 

「この鎮守府は設立から1年は経っているはずデス。それまでにどれだけの戦闘を経験してきたのデスカ? 今まで積み重ねた"墓標"は何のために標高を高くしていったのデスカ?」

 

 遂に金剛が明らかな攻撃的発言をした。その言葉を聞き、真田の表情も完全に崩れようとしていた。何も知らない第三者からしてみれば、小娘に煽られている大人にしか見えないこの状況だ。いくら任地とはいえ、周囲には自分の部下しかいない真田もこれ以上に無い屈辱を感じていることだろう。

 流石に俺も不味いと感じた。なので、金剛を黙らせて真田に意識を俺に向けてもらうようにする。

一応これでも階級は上だ。どうにか鎮めて、話の方向を変える必要がある。

 

「金剛」

 

「ハイ」

 

「頭を冷やしてこい」

 

 無理やりその場から離れさせ、俺は真田の目を見る。

その目は、さっきまで俺の目を捉えていたそれとは違ってみる。何か、今までとは別の感情を含有している目だ。

 

「真田大佐」

 

「はッ」

 

 声色からか、はたまた、表面では落ち着きを見せているような真田は、俺の方を向いて姿勢を正す。

 

「繰り返しになりますが……"資料室"、"戦術指南書"を読破するまではいかなくとも、アレは先達の遺したその言葉通り『血と肉で綴られた記録』は、深海棲艦を相手取るには必要不可欠なものです。書店に行けば知ることの出来るような内容から、それにしか書かれていないものまで……。少なくとも『旧式艦を用いた戦争をしている』とは考えてはいけません」

 

「は、はぁ」

 

「これまでに積み重ねられた人類史は戦争と共に発展を続けています。深海棲艦との艦隊戦を俯瞰した時、半世紀以上も前の戦術等が現在に行われる艦隊戦にあってはならないです」

 

 ハッ、と俺はあることを思い出した。

 

「以前、12.7cm砲に特殊砲弾を実戦運用したことがありましたね?」

 

「確かに、ですがアレは直後に深海棲艦による反映と大本営に使用禁止令が出ましたが……」

 

「APFSDS……今考えてみると、砲の方も改造を施していたのではないですか? 砲身だとか」

 

「えぇ。連装砲を実験で2基配備しました」

 

「私がしていることはそういうことですよ。より深海棲艦を効果的に倒すことが出来るか……その模索の繰り返しです」

 

 さっきまでも、分かっていないような表情をしていた真田が何かに気付いたようだった。資料室に行けば分かったかもしれないが、今の時点で気づければより早く行動に移すだろう。

 

「そういうことですか……」

 

「何にお気づきになったかは分かりませんが、そういうことです」

 

 俺はスッと背筋を伸ばし、海の方を眺めた。今、真田がどういう表情をしているかは分からない。だがきっと、顔を顰めてはいないだろう。笑っていることもないだろうが、せめて心から落ち着いた表情に戻っていて欲しい。そう思った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 埠頭で接岸している艤装は誰のもので、どういう状況にあるのかを聞いていると、瑞鶴と翔鶴が接岸した。

ぴったりとまではいかないものの、近くまで付けてから妖精たちが橋を掛けて下りてくる。どうやら資材の補給やらを行うみたいだ。その橋とは別のところから、翔鶴と瑞鶴は下りて来てこっちに向かってきた。

俺のところに居るのとそう大して変わらない見た目をしているが、瑞鶴の改造巫女服は迷彩柄になっていない。ということは改造を行っていないのだろう。

 俺と真田が並んでいるところに来て、翔鶴と瑞鶴、近くを通りかかった妖精たちが並んで敬礼をしてきた。

俺と真田、後ろに居る護衛たちも敬礼で返した。ちなみに金剛はさっき帰ってきたばかり。

 

「提督と……ッ?!」

 

「え?!」

 

 何、俺の顔を見て慌てないで欲しいんだけど。あと、急に翔鶴は顔を強張らせないで欲しい。かなり違和感がある。

 

「今日、用事があってお邪魔している。横須賀鎮守府の」

 

 そう言いかけたところで、瑞鶴がパーッと笑顔になった。

 

「嘘!? スゴ?! えー?! どうしちゃったのさー提督!! 大物中の大物がこんな僻地にいらっしゃるなんて!?」

 

 勢いはさながらマシンガンの如く、瑞鶴は真田に詰め寄って説明を求めていく。それをじりじりと後退しながら『落ち着けって』と諫める真田を見る限り、艦娘との関係は良好なのだろうか。

空白の日々で瑞鶴はかなり心に傷を負っていると思ったんだがな……。

 

「大本営を介してアポイントがあったんだよ。もう要件は終わってるから、見学に翔鶴と瑞鶴の訓練を見ていたんだ」

 

 瑞鶴のツインテールって逆立ちするんだな。真田の言葉を聞いた刹那、ビーンと真上に逆立った髪と共に表情が笑顔から少しずつ離れていく。

 

「中将。ご紹介は必要ないと思いますが、これが端島の五航戦です」

 

 少し雑な紹介を受け、俺はどうもと答える。2人は敬礼をして、すっと手を下ろした。

 

「えーっと、中将さんはずっと訓練を見ていたの?」

 

「あぁ。迎撃機の発艦前から」

 

「うわぁぁぁ!! いつも通りの訓練を」

 

 顔を赤くしたり青くしたり忙しい瑞鶴が真田と言い合っている間、翔鶴が俺に話しかけてくる。

 

「ご観覧なられたのでしたら、是非にお言葉を頂きたいです」

 

「ん? あー、良いけど」

 

 そう言って、俺は真田の顔を見る。まだ言い合っているが、声はちゃんと聞こえていたらしい。『ぜひお願いします』と言ったので、俺は翔鶴に遠慮なく言うことにした。

 

「翔鶴航空隊は護衛付きの艦爆・艦攻混成の攻撃隊を使っていたが、間違いないか?」

 

「はい」

 

 少し目を閉じ、状況を頭に思い浮かべる。

 

「とりあえずは、身重の攻撃隊をいたわるような指示は止めた方が良い」

 

「っ?! それは一体」

 

「攻撃隊の第一目標はなんだ? 直掩隊の第一目標はなんだ? 襲撃には察知出来たのか? 察知出来ていたのなら、どうして艦隊上空への到達を早めようとしない? 迂回路を用意しておかない? 別動隊を用意しない?」

 

「っ……」

 

「搭載機を失うのは確かに空母の継戦能力を失うことに直結する。手厚い護衛も確かに必要だろう。安定した航路を安全に航行することは、より多くの航空爆弾や魚雷を敵艦に当てるには重要だ」

 

 スッと翔鶴の目を見る。淀みのないように見える目、透き通っているように見える目だ。その目には今、何が映っているのだろうか。

俺の顔か? それとも、さっきの訓練の出来事か?

 

「先達の遺したモノを無駄にするな。今まで何をしてきたんだ」

 

 その言葉を発した刹那、翔鶴は目を見開いた。身の上もここでの生活がどうで、何を心に秘めているかも分からない。そんな翔鶴に、ただ一言放つ。その言葉はもちろん真田や瑞鶴にも聞こえていたはずだ。金剛にも、付いて来ている南風ら護衛にもだ。

 

「アレが相手だと、言葉通りに"七面鳥撃ち"になる。まさに飛んでいるカモがネギを背負って呑気に遊覧飛行だ」

 

「ち、中将?」

 

 俺は平和主義で染まり、硝煙の臭いも人の死とも密接に過ごしてこなかったが、この世界に来て分かったことがある。

この身に刻まれ、記憶が鮮明に蘇る"それ"は、俺の深層意識を上書きするには十分なものだった。

 そして俺を諫めようとする真田の顔が、これまでに見たことがないほど真っ青になっていた。

 

「最後まで粘っていた攻撃隊の1機。回避行動が他の機よりも浮いていたことを注意してみると良い。それをどうするかは考えろ」

 

 少し間を置いて、再開する。

 

「言い方は酷く、侮辱するものだったことは謝る。だが、そう言われても仕方のないものだった」

 

 俺が黙り、翔鶴と瑞鶴の顔を見る。2人とも表情に気持ちが出やすいみたいで、翔鶴は落ち込んでいるように見える。だが瑞鶴は違った。

怒っているようには見えない。俺の目を猛獣のような眼で鋭く見ている。2人の間で、かなり航空戦に対する訓練の意識の違いがあることが分かる。瑞鶴のそれは、何がなんでも食らいつく肉食獣だ。腹を満たすため、生きながらえるために。生存本能の赴くままとまではいかないものの、それに近いものを感じた。

 

「瑞鶴」

 

「は、はい!!」

 

 ちなみに今までの言葉は翔鶴に向けてだったりする訳だ。だが、瑞鶴も恐らく翔鶴航空隊の癖は理解しているだろうから、何かの糧になればいいと思うんだが……。

 瑞鶴の目を見て、俺は話し始めた。

 

「零戦はドッグファイト用に作られた戦闘機だ」

 

 戦術として一撃離脱を選ぶのは発動機がジェットに替わり、誘導弾が装備されるようになる前までは当然のものだった。だが、その戦術を使うのは奇しくも零戦。開発コンセプト的にも、性能的にもそれは常用するところまでではない。

 

「繰り返すようだが、先達の遺したモノを無駄にするな」

 

「はいッ!!」

 

「飛行隊から小単位編成(ロッテ)までの戦術は及第点にもならない。赤点だ」

 

 いきなり赤点とか言ってもなぁ……と思いつつ、翔鶴と同じように辛い言葉遣いをして話をする。

 

「クソ真面目な搭乗員妖精がいるようだな。そいつと一緒に真田大佐と翔鶴と缶詰してからが本番だ」

 

 そう。瑞鶴航空隊の迎撃隊24機の長機。アレは赤城航空隊に居てもおかしくないくらいの腕前だ。正直驚いた。驚きすぎてむせた。危険察知も攻撃精度も小単位編成との連携や、大局を見る目は凄まじいものだったのだ。

 

「翔鶴と同じだが、酷く侮辱する言い方だったことは謝る。だが、良いな?」

 

「はいッ!!」

 

 え? 目が輝きを通り越して、燃え上がるように見えたのは俺だけか?

ここまでかなり辛辣でとんでもない口調を使ったからか、どうしてもふざけてみたくなってしまった。なので、少し言ってみることにした。

 

「あ、あと」

 

 少し姿勢を崩し、俺は翔鶴と瑞鶴の顔を見て言った。

 

「真田大佐が許可するならば、横須賀に来てみると良い」

 

 そう切り出すと、瑞鶴は食いつく。

 

「え?! 本当ですか?! 横須賀の赤城さんの航空隊を見学したいなーって思っていたんです!!」

 

 良い食いつきだ。ここはひとつ、普段の行いの悪い赤城に仕返しだ。

 

「赤城ね。言っとく。あのトンデモうっかりさんでよければ気が済むまで見て行って欲しい」

 

 そう言って、俺は帰ることを真田に伝えた。もう少ししたら陽が傾き始める。暗くなるまでには駅に着いていたいのだ。

 それにしても、瑞鶴の口をぽかんと開けた顔は傑作だった。憧れの人の駄目な一面を見た、みたいな感じがして。

 




 最近また書くようになってきましたが、どうしても別の方には手が付かないです。
色々と考えては居るんですけどね。ここまで続いていると、むしろネタが……おぉっとイカンイカン(汗)
 忘れ去られた特別編短編集もちょくちょくネタを思いついて書いて、思いついては書いてを繰り返しています。大体が没ってるので意味ないですけど。

 話を戻して、本編のことを触れましょう。
 一応、今回で端島鎮守府への出張は終わりです。次からは少し休憩を数話……10話くらい挟みたいと思っています。思っています(2回目)
ですので、また少し更新が遅くなるかと思います。

 ご意見ご感想お待ちしています。

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