艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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※ これ以降、休息回です。回数は未定になります。


第14話  時雨と雨

 

 鎮守府は平和だ。既に季節も梅雨に入り、ジメジメした空気に皆がうんざりしている。俺はというと、執務室から出ることがそもそもあまりないので、そこまで不快感を感じることはない。

本部棟の廊下には空調はないので、梅雨らしい空気を感じることが出来る。とは言っても、長時間居ることはない。すぐに食堂に着いてしまうし、要件で出ていても1時間も外に居ることはないのだ。

 気候の話をしたが、現在絶賛外では雨が降っている。悪い天気だが、こういう天気だからこその艦娘がいる訳だ。今日、丁度秘書艦になっている艦娘でもある。

 

「良い雨だね」

 

「ここ連日雨だけどな」

 

「……むぅ」

 

 今日の秘書艦は時雨だ。時刻にして午前9時過ぎ。既に執務も終わらせて、時雨が提出まで終えている。

今からは他事をやっても良い時間だ。とはいえ、ここ最近執務の量が増えた気がしなくもない。デスクワーク中心だった俺の執務も、着々と量が増えつつある。外回りというか、デスクワーク以外での仕事が。

 特にメディアへの露出の件に関しては、大本営の方針でもあるので従わない訳にはいかない状態だ。時々、マスメディアが横須賀鎮守府に訪れて取材をしていく。昔のような、強引な取材方法を取ることはなくなり、良いように言えば『立場を弁えた』ということだろうな。

 このように小難しいことを考えることが多かったが、今日は特に考えることはない。

本当に今日は普段の執務以外には、いつやっても良いようなことばかりしかない。戦術に関してしか、俺の仕事になるようなことは残っていないのだ。

 

「て、提督は今日、この後何か……?」

 

 なんだか急に時雨がよそよそしくなったな。どうしたのだろうか。

 いつもなら、分かっているのか分かってないのか分からない表情で話をするというのに……。今日の時雨は様子がおかしい。

おかしな時雨を観察しつつも、俺は時雨の声に耳を傾けた。

 

「何もないならさ、提督の私室に行ってもいいかい?」

 

 時雨の表情と仕草を少し観察し、俺はすぐに返事を返す。

 

「別に構わないけど、いつも思うが野郎の部屋に入っても何もないぞ。あるのは本くらいだ」

 

「お腹が空いたら軽食が出てくるよ」

 

 ニコッと笑った時雨から視線を逸らし、俺は時計を見て時間を再度確認する。これから誰かが執務室に遊びに来るかもしれないが、まぁ良いだろう。居なかったら居なかったで、急用なら置手紙くらい置いていくだろうし、本当の火急の要件ならば探し回るだろう。大騒ぎしていれば、俺だって気付く。

 スッと立ち上がり、俺は自分の私室の扉に手を掛けた。

 

「今からでも全然良いが、どうする」

 

「うん。じゃあ今から行く」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 時雨がどうして俺の部屋に入りたかったのか、理由は複数考えられる。一番考えられるのは、俺の私室に置いてある本を読みたいとか言い出すのだろう。それ以外には……本目当て以外で俺の私室に入ってきたことが無かったな。

 私室に入ってきた時雨は、案の定本棚の前に立ち尽くしていた。

 本部棟にある資料室には色々な本が置いてあるというのに、どうして俺の本なのだろうか……と考えたことがあった。結局、本人に聞くまでは分からなかったが、時雨曰く『提督の本は資料室にはないものが多いからね。小説も漫画も……参考書だって、高等教育や専門書は資料室に無かったりする。提督の部屋に行くのが一番良いんだよ』と言っていた。真顔で。

 

「久々に来たし、借りている参考書はまだ解き終わってないから、今回は小説にしておこうかな」

 

 そんな独り言を呟いた時雨は、本棚の中で小説が置かれているところを見渡している。

 俺はそんな時雨を、椅子に座って眺めているところだ。私室と執務室の間の扉は開いたままだから、誰かが来てもすぐに分かる。ならば私室に居ても問題はない。ぼーっと見つめる先では、時雨が本を探していた。とは言っても、あてもない背表紙を見て手に取っては戻す動作の繰り返しになっているが。

 

「提督はさ」

 

「ん?」

 

 時雨は背中を向けながら、俺に声を掛けてきた。声色はいつも通りで、静か。落ち着いていた。

 

「物語のように、全ての事柄には必ず前触れや前座、フラグみたいなものがあると思うかい?」

 

「どうしたんだ、急に」

 

「まぁ聞いてよ」

 

 俺の方に顔を向けず、時雨は真意の分からない問いかけを続けてきた。俺は激しく悩んだ。言っている意味は分かる。だが、どうしてそれを急に訪ねてきたのかが分からないからだ。

 

「そりゃ注意して観察していれば誰だって気付くと思う。気付かないのは、積極的に情報収集を行わないか極端に情報収集が下手な人だけ。でもそれってさ、普通は無理だと思う」

 

 ハードカバーの本を抜いて、内容の確認をしながら、時雨は自分の右耳を触った。

 

「人間、それだけ注意をしていると疲れてしまう。もしできたとしても、途中で集中力が切れる等々結局は出来ないことが多いんだ」

 

「……どうしたんだよ、本当に」

 

 スッと俺の方を向いた時雨は笑っていた。ニコッとではなく、微笑んでいたという方が正しいのかもしれない。

それよりも、俺は時雨が何を考えてこの話を切り出したのかが分からない。どういう意図で以て、俺にこの話をする必要があったのだろうか。

 

「……まぁ、物語の話。どうしても現実的に考えてしまう僕の癖は異常なのかなって、そう思っただけの話だよ」

 

 『これにしよう』と言って、時雨は本棚から離れた。興味のある本でも見つけたのだろう。

 そのまま時雨は俺の真向かいに座る。椅子はあるが、わざわざ俺の真向かいに座った。執務室に戻っても良かっただろうに、どうしてここに座ったのだろう。

 

「提督はどう考えているの?」

 

 現実的云々という話に関してだろうな。

 

「物語の定型は、明らかに事柄への察知が出来るように作られている。それが伝統とまでは言わなくとも、そのように作られてしまっているのが現状だろう。だが俺も事柄というものは突然に、何の前触れもなく起こるものだと思うぞ。プロローグの時点で『何の前触れもなく事件が起きる事』は当然のように繰り返されてきたものではあるが、そこまで詰めてしまうと文学を全否定だ」

 

 肘を突き、手を頬に充てて俺は話を続けた。

 

「人間、未来予知なんて特殊能力があるのなら出来るだろう。だが基本的には『経験とそこからくる予測』で未来を見ることが出来る。これを現実世界と文学の世界に置き換えてもまた然り」

 

 時雨は表情を変えずに、俺の話を聞く。

 

「という訳で、結論は『読者がどのように捉えても良い』だ。だってそうだろう? 時雨のように『現実的に考えて、それはないんじゃないか?』と思うことは自由だ。それを同じ作品を読んだ人に強制することも無ければ、そもそもそんな権利があるはずがない。逆もまた然り。読んで不満を持ったのなら、そこで切り捨てて新しいのを読めばいい。自分に合ったものを読んで満足すればいい。それだけのこと」

 

「そう考えるんだね」

 

 また時雨は微笑んだ。そして本を脇にやり、刹那、俺が頬杖を突いている方とは逆の頬を触ってきた。

急なことで俺は動くことが出来なかったが、時雨はそのまま口を開く。

 

「物事は基本的に前触れもない、それまでの経験から導き出される予測に手を打つ訳でもない。僕は1秒でも先の未来は、大きなことは予測できてもそれ以外は無理だと思うよ」

 

「そ、そうか……」

 

 なんだか急に恥ずかしくなってきたんだが。頬を撫でられて、微笑みを向けられて……。

 

「変なこと訊いてごめんね」

 

 スッと離れていった時雨は、俺の対面にある椅子に腰を下ろした。

本を机の上に置き、肘を立てる。手のひらで頬を支え、目を閉じて言うのだ。

 

「今日、大本営から来客があるんじゃなかったっけ? 秘書艦日誌にはそう書かれていたけど」

 

「え? ……あぁ!! 確かに、今日は来客が!!」

 

 ガタッと立ち上がった俺は、急いで執務室に戻って確認をする。

一緒になって戻ってきた時雨は、いつも通りの表情だ。笑っている。雨が降っているからか、いつもよりも良い笑顔をしているのかもしれない。

 

「もうすぐで到着するじゃないか!! 急げ時雨!!」

 

「僕はもう準備出来ているよ」

 

「そうか」

 

 俺たちは机の上に置き手紙を遺し、執務室から駆け出した。

 結局、時雨はどうして俺にあんなことを聞いてきたのかが分からなかった。多分、後で聞いても教えてくれないだろう。ならば俺が考えるしかない。

本部棟まで装輪機動車で迎えに来ていた門兵と合流し、俺たちは来客との顔合わせに向かうのだった。

 





 色々と矛盾しながらも書いてきましたが、前書きにも書きましたが今回から休息回になります。メンタル等々の休息が必要かと思われましたので、というか必要でしたので休息回を入れます。とは言っても、本編に直接関係のある内容ですので切らないようにお願いします。

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