艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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第21話  通訳、着任

 執務を早々に済ませた俺は、秘書艦を連れて警備棟の第1会議室に来ていた。目的は1つ。

この前、姉貴の権限で作成、大本営で承認された書類が戻ってきていた。その件に関して、事務棟を通過した警備棟に人員が到着しているようなのだ。

 派遣される人員のプロフィールは確認している。歳もそこまで変わらないが、かなりの秀才。姉貴が提出した書類に該当する人員がいるという時点で驚きなんだが……。

 今日の秘書艦は時雨。外の人間との接触には不安しか感じないが、時間も経っているので慣れてきている頃だろう。

横を歩く時雨も、いつも通りの表情をしている。しているのだが、今日が雨だからだろう。気分が良いみたいだ。

 

「来客って誰だい? 新瑞さんなら書類無しで来るんだろうけどさ」

 

 秘書艦日誌には、情報が書かれていただろうからある程度のことは知っているだろう。どういう背景で来ているのか、くらいはだが。

 

「南西諸島北海域制圧作戦中に姉貴が作成した書類で派遣されてくる通訳だ。これからは作戦行動中、地下司令部や外国人との会談の際には通訳として付いてもらう」

 

 時雨は椅子に腰かけて、ふーんとつまらなさそうに反応を返してきた。

 

「確かに金剛さんは英語出来るけど、艦娘が通訳するというのも変な話だよね。今回の来客の件、分かったよ。来客というよりも、着任挨拶って感じかな?」

 

「そうなる。これからは基本的に事務棟勤務になるが、こちらから出頭命令を出して来てもらうことにもなる。これからは顔を合わせることも増えていくだろう。あまり敵対的な行動はしてくれるなよ」

 

「分かっているよ。ただまぁ、害がありそうならば話は別だけどね」

 

 害があったら、そもそも大本営がここに送り込んでくるとも思えない。人員を用意したのは大本営だ。横須賀鎮守府、艦娘との関係を悪くさせるのは本意ではないだろう。

 俺が忘れていたのも悪かったが、直前になって時雨が知らせてきたこともあり慌てて来たというのに、予定よりも早くに会議室に到着してしまうという、なんともおかしな状況に置かれている。待たされるのはそこまで嫌いではなく、好きでもないが、時間通りに来てもらえればそれでいい。

 

「秘書艦日誌と周囲にそれとなく伝えておくよ。通訳の件」

 

「頼む」

 

「一度、事務棟に言って顔を見てくるようにそれとなく皆に言っておくね」

 

 通訳と艦娘の間で不和が生じないように、最初に手を打ってくれるみたいだ。それに時雨がその話をするということは、夕立は確実にその日の内に挨拶に行くだろう。その先何かあったとしても、恐らく夕立が間に入ってくれるはずだ。

一番考え物なのは金剛やら鈴谷だが……こちらも通訳本人が変なことを言わなければ恐らく大丈夫なはず。(艦娘)の人間への警戒心も、この方どんどん薄れていっている。それとは反比例して、外敵への警戒心がかなり強まっているところが気になるところではあるが……。

 そろそろ予定の時刻になる。さして緊張もしていない。俺はどういう人物なのか知っているからな。あくまで書類上、軍の調査上での人物ではあるが……。

会議室の扉がノックされ、声が聞こえてくる。この鎮守府では初めて聴く声だ。

 

「どうぞ」

 

 苦笑いする門兵2名と女性が1人、中に入ってきた。女性がガッチガチで表情も硬い。着慣れていないのだろう、軍装に着せられているように見える。人のこと言えないが。

通訳、文官ということもあり腰にはホルスターはぶら下がっておらず、火器らしい火器は何一つとして携帯していないようだ。ビジネスバッグを肩から下げていたものを下ろして、床に立てておいた彼女は不慣れな敬礼を俺にしてきた。

 

「ほ、本日じゅけで大本営海軍部長官命令により海軍横須賀鎮守府艦隊司令部に着任しましゅ、梔 蘭花(くちなし らんか)れすっ!!」

 

 噛みまくってるが、大丈夫か、本当に……。どうやら門兵が苦笑いしていたのは、これが原因なんだろう。恐らくこの噛み噛み具合は緊張か焦りで出てくるものなんだろう。

 

「こちらぎゃ、辞令にゅいなりみゃす」

 

 ……悪化しているぞ。

 書類で見た時はしっかりしてそうな人だと思ったが、備考のことを思い出すと合点がいく。確かにあがり症だということは書いてあった。なるほどな。俺が着ているような軍装とは違い、一見スーツにも見えるそれは非戦闘員と戦闘員を明確に分けるものではある。俺は完全に戦闘員用の軍装ではあるんだがな……。

 腰まで長い黒髪をフリフリと揺らし、日本人にしては色白過ぎる肌を紅葉させ、何故だか垂れ目の紅い瞳をグルグルと回している彼女から、俺は辞令を受け取る。

内容は確かに大本営海軍部、新瑞が出した命令だ。確認をした俺は印鑑が無いのでサインを右下に書き込み、机の隅に置いた。

 

「そこまで緊張しなくていい。横須賀鎮守府艦隊司令部の天色だ。よろしく」

 

「よろしくおにゃがいしゃみゃう!!」

 

 ほんと、大丈夫か。この人……。これでも一応、俺と同い年らしいんだがなぁ。俺は確認のため、先行して送られてきていた書類を手に取って読み上げることにした。緊張しまくり上がりまくりの彼女だが、話すことが難しくてもこちらの言葉には耳を傾けるだけだから出来るだろう。

 

「確認だが、南西諸島北海域奪還に際して、今後想定される部隊・外国籍軍との連絡を円滑に行うための通訳として派遣された。当人はこれを遂行するため、多国籍言語を扱い外国との一次接触を角が立たぬように努めること。間違いないな?」

 

「ひゃう!!」

 

 何それ、返事? 面白い返事だ。特に気にすることなく、俺は話を続けた。

 

「着任より事務棟にて事務を負うが、横須賀鎮守府艦隊司令部の出頭命令等により鎮守府内を行動する。場合によっては艦隊に同行することも考えられるが、不具合はあるか?」

 

「にゃいれふ!!」

 

「じゃあ改めて、これからよろしく」

 

「ひゃい!!」

 

 こうして、横須賀鎮守府に梔が着任した。彼女の任務は通訳。任務中、俺と同様に地下司令部に籠りっぱなしになる。これから仲良くしていかないとな。

 梔には横須賀鎮守府内のどこでも移動できるようになってもらわないと困るため、現在時雨が案内中だ。雨が降っているが、傘をさせばいいだろうと言って連れて行ってしまった。また後日、と言おうとしたんだがな。そんなこんなで、警備棟第1会議室には俺と連れてきた門兵しか残っていない。

 

「提督」

 

「言わなくていい」

 

 苦笑いしたままの門兵が、頬を掻きながら言ってきた。

 

「噛み噛みでしたね……」

 

「聞いてたからよく知ってる。噛み噛みの彼女でも13カ国語くらい話すマルチリンガルだ。任務中に噛み噛みになって失敗するのは勘弁して欲しいが」

 

「それ、笑いながら言うことじゃないですよ。提督……」

 

「はっはっはっ。ぶっちゃけ、金剛が通訳している方が怖い」

 

 3人の中でよく分からない、納得した空気が作られてしまった。

 時雨と梔が居ない今、俺がここに残っていてもすることが無い。俺は門兵に言って、本部棟に戻ることを伝える。どうやら2人ともロビーの立哨だったみたいなので、戻ってきた時には2人に執務室に来るように伝えてくれるそうなので、俺はそのまま執務室に帰ることにした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務室に帰って小1時間ほどすると、執務室に時雨が帰ってきた。案内してそのまま執務室に来たのだろう、梔も一緒だ。見た様子だと、長時間外にいたようにも見えない。服や足元が少ししか濡れていないのだ。

どうやら執務室の案内はまだだったらしく、中で時雨があれこれと指さしたりだとか手に持ったりして説明しているので、俺は給湯室へと向かう。歩き回ったかは分からないが、喉は乾いているだろう。冷たい飲み物はあいにくないので、紅茶を2杯とコーヒーを1杯淹れる。どれもミルクと砂糖、クリームは入れない。梔が何を選ぶか分からないからだ。

淹れ終わるころにはどうやら説明も終わったらしく、時雨がソファーに座るよう促したみたいだ。チラッと覗いたら座っていたので、俺はお盆を持って行く。カップが3つに瓶が3つ乗せているお盆だ。

 

「時雨」

 

「案内は終わったよ。途中で色んな人に会ったから、簡単に説明もしてきた」

 

「そりゃご苦労。梔は何が良い?」

 

 そう聞いて、俺はお盆をソファーに挟まれている机の上に置いた。その様子を見ていた梔がおどおどするのを忘れて心底驚いているのも無理はないだろうな。高級将校が部下の分も淹れてくるなんて、思いもしなかっただろう。俺は自分で淹れることもあるだろうが、部下がいたら率先してその部下が淹れると思うんだけどな。残念なことに、その高級将校は俺だ。

わざわざ淹れさせようだなんて考えもしない。

 

「わ、私はコーヒーで」

 

 答えた梔の目の前にコーヒーのカップを置き、クリームと砂糖の入った瓶も置く。マドラー代わりのティースプーンはソーサ―の上に乗っているから、それを使って混ぜてくれ。どっちの瓶にも入れるためにスプーンが入っているからな。

 

「じゃあこっち。時雨は紅茶な」

 

「うん」

 

 座っていた時雨の前に紅茶の入ったカップを置き、俺は残った紅茶のカップを手に取った。

 俺と時雨の顔をちらちら見ながら、瓶に手を伸ばしてクリームを1杯と砂糖を3杯入れた、ティースプーンでコーヒーを混ぜる。

時雨はミルクを入れて、梔が砂糖を入れたのを確認して砂糖を入れる。こちらも3杯。俺はミルクと砂糖は共に1杯ずつだ。

 俺は自分の机にカップを持って行って飲み、時雨も普通に口をつけた。梔は『いただきます』と小声で言ってから飲んでいる。

一抹の静寂が辺りを包み、すぐにそれを時雨がぶち壊した。

 

「お茶請けが欲しいな。提督、何かある?」

 

「紅茶に合うものといったら……昨日の余りがあるぞ」

 

 俺はまた給湯室に向かい、バスケットを持ってくる。このバスケットの持ち主は秋津洲。昨日、おやつと言って持ってきたクッキーが想像以上多くて余っているのだ。勿論、ここに残しているのは秋津洲は知っている。

 バスケットをポンと時雨の前に置き、俺は中から3枚取って自分の机に戻る。時雨はゴソゴソと中を漁って、クッキーを手に取った。

このやり取り、慣れた相手じゃないと変に思うだろうな。執務室に入り浸る奴や、秘書艦を引くことが多い艦娘は慣れているのだ。慣れていないのはただ1人。梔だけだ。慣れていないのが当たり前なんだがな……。

 

「梔さんもどうだい? クッキー。美味しいよ」

 

「あ、はい。いただきます」

 

 噛まないんだ。……噛まないんだ。そんな風に思ったが、まぁ案内している間に時雨と話して慣れたのだろう。俺だとまだ慣れないみたいだけど。

 1枚目を食べ終わった頃、俺は梔に声を掛けることにした。仕事の話もそうだが、だいたいはここでの注意点や留意して欲しいことになるけど。思い立ったら行動に移す。

 

「梔」

 

「まう?」

 

 それ、そういう返事ってことで良いのかな? それにもぐもぐしながら返事をするな。

気にせず、俺は話を再開した。

 

「横須賀鎮守府では基本的に事務棟で事務処理をするとあったが、こっちに来ている書類だと週に何日か居ないようだが?」

 

「政府からの要請、大本営からの命令でこうして来ていますが、本来ならば学生です」

 

 アレ? 噛まなくなったな……。

 

「今すぐ大学を中退して軍に~なんて大本営や政府も鬼ではないので言いませんよ。在学しつつ、横須賀鎮守府にも来ますよ」

 

「そうか。学生だったんだな」

 

 心のどこかで何かが引っかかる。だがそれも一瞬だけだ。それよりも梔のことだ。在学中に下手したら海路で外国に行くことになるかもしれない。そうなった場合は休学することになるのだろうか。

そんなことをふと思ってしまった。

 

「はい」

 

 噛み噛みが無くなった梔は、そのままクッキーを食べようとする辺り、軍人の事務職でもなしに一般の大学生だということは行動から滲み出ているように思えた。そんなことを考えるのは俺だけで、時雨はその辺りを知らないだろう。俺の行動の意図を読み取った時雨は行動を起こす。

 

「提督はこんな風だけど、畏まったりへりくだったりされるのはむず痒いみたいなんだ。時間は少し掛かるかもしれないけど、僕みたいに接した方がやりやすいと思うよ」

 

「本人いるから居ないところで言おうな。それ」

 

「ふふっ」

 

 時雨の云う通り、自然体で接してくれた方がやりやすい。そう思うし、そうして欲しかったから丁度良かったと云えば丁度良かったのかもしれない。それに、時雨からそんなことを言われて、俺も否定しないものだから、梔もびくびくおどおどした様子を慣れてきてあまりしなくなった。

 俺は時雨が梔に質問して、それに答える梔を眺めながらティーカップを傾ける。いつもとは違う執務後の時間に新鮮さを感じていた。

騒がしい時にはとことん騒がしいし、静かな時は静かなところが執務室だ。そんな空気を楽しんでいると、急に梔がこっちを向いたみたいだ。視界の端で動きが見えたからだ。そっちを見てみると、やはり梔はこっちを見ていた。何だろうか、と思ったが梔から行動を始める。

 

「……提督は聞くところによると私と年齢は変わらないそうですね。それに詳しい話を大本営で訊いてはいますが」

 

 直感で感じ取った。この後、梔は時雨、艦娘を刺激する質問をするだろう。そう思った。

 

「こちらにいらっしゃったのはいつ頃ですか?」

 

 この場で俺だけが緊張する。時雨の目つきが変わったのも見えたし、纏う雰囲気も変わったことが分かる。もしかしたら近くで鈴谷が見ているかもしれない。

 

「18になってから少ししてからだが? それは向こう(大本営)で聞いているだろうに」

 

「はい。ですけど、直接確かめたくって……。それで、学校の方は?」

 

 梔の奴、特大の地雷を踏みあがった。恐らくその単語は時雨や他の艦娘も反応することだ。その件に関しては1も2も悶着があったからだ。一時、鎮守府内が裏切り裏切られで支配されたこともあったからな。俺もその中にいたし……。出来ればまた起きるようなことはないで欲しい。胃薬を買いに行く必要が出てくる。

 

「さぁ、どうだったかな。忘れたよ」

 

 『ただ、最終学歴は中卒だけどな』と言いそうになるのを飲み込んだ。今、その冗談は笑えない。笑えないのだ。俺的にも。

 

「……では」

 

 梔の言葉を遮るように、時雨が時雨が手を出した。俺の方を向いている梔の前に手を出し、睨み付ける。

 

「それ以上の詮索は止めてもらえるかな? 大本営でも聞いていると思うけど、僕たち(艦娘たち)との関係を悪化させたくないのなら、好き勝手に訊きたいことを訊かないことだね。いくら学生でマルチリンガル、政府から指名されたからと言っても分相応な行動を取るべきだ。結局のところ自分が"ただの"学生で相手が"提督"であることは忘れちゃいけない」

 

「時雨」

 

「提督も自分がどういう人間なのか自覚した方が良いよ」

 

 時雨は梔の前に出していた手を引っ込め、スッと立ち上がって姿勢を正した。

 

「実に複雑な立ち位置だけど、僕たちを含めて"この世界"の人間とは明確に違うんだ。梔さんも分かっていると思うけど、提督は異世界人だ。自分たちではどうすることも出来なかった"敵"を食い止め、押し返し、攻めたてるための存在なんだ」

 

「時雨」

 

 ハッと気付いた時雨はすぐに口を閉じた。

 時雨の言っていたことは間違いではない。俺は異世界人だし、国内では要人扱い、艦娘を運用するにはなくてはならない存在だ。……いや、俺じゃなくても最後のものは出来る気がしなくもないが、それでも試験運用している端島鎮守府とでは天地の差があることは知らないことにしておこう。

ともかく、現時点では俺という存在が何を意味しているのかは明確な話。軍上層部では俺がどういう存在であるのかは十二分に認知されているし、政府や皇室にも伝わっているはずだ。それを考えると、艦娘ということ関係なしに状況を詳しく知っている時雨という人間は、俺がどういう存在であるのかは明確に理解しているといえる。

とはいえ、事実を並べただけだが、梔も時雨の云った言葉を反芻して再確認している頃だろう。あまり酷いようだと、砕けるように言わなくては今後に支障が出るな……。

 

「たしかに、時雨さんの言うような説明は大本営で受けています。纏めた資料もありますし、注意事項も何度も確認・暗記させられました。ですけど……やはり線引きが上手くいかなくて」

 

「ならばこれから上手くいくようにしていけばいい。あまり気負いせずに、普通に接して欲しい」

 

「……」

 

 駄目か。少し萎縮してしまったようにも見える。

 

「ま、まぁ、大学の延長線だと思えばいいさ。社会に出ている訳だし、確か給料ももらえるんだろ?」

 

「はひ。月に85000円ですけど」

 

 ……所得税のことを鑑みているだろうな。どう考えても。軍がそれを考えて給料を決めているって、何だかかなり滑稽だな。あと、警備棟で会った時みたいに戻りつつある。

戻るな。やり取りし辛い。

 

「あ、ですけど、大本営では色々貰いました。護身用火器やその他色々と。軍の施設優待券の束とか」

 

 実物支給なんですね。やることなすこと、完全にアレだ。……まぁ黙っておこう。

 

「そうか。じゃあ、仕事に行ってもらおう。ここに居てもすることが無いだろうし」

 

「ま、まだ事務棟には行ってなくて」

 

 外だけを見てきた、という感じか。と考えながら、俺は立ち上がる。梔をこのまま引き留めていても仕方がない。特に通訳の仕事がないのなら、その業務に戻ってもらわねばいけない。梔もそれが分かっていたようで、立ち上がって『コーヒー、ごちそうさまでした』と言って出て行こうとした刹那、勢いよく扉が開かれた。

 

「執務外業務していないだろうと思って突撃しにきました。何やってたんですか?」

 

 姉貴が入ってきたのだ。この遠慮のなさといい、さっきの話が一瞬にして消し飛んだ。時雨もポカンとしているしな。

 

「お、お邪魔します」

 

「あ、沖江さんだ。どうしたの?」

 

「はい。ましろさんに付いてきて……」

 

 執務室にいる人を確認した姉貴は、そのままいつものようにずかずかと入ってきてソファーに腰を下ろす。沖江も『失礼します』と言って腰を下ろしていた。本当、自由だよな。姉貴。敬語な癖に。

 そんな光景を見てフリーズしていた梔は戻ってきて、そのまま出て行こうとするが、姉貴に止められる。

 

「待ってください。別の日に顔を合わせることになるかもしれませんが、今のうちに自己紹介を」

 

「え?」

 

「天色 ましろと言います。よろしくお願いしますね」

 

「はい……?」

 

 分かってない、って表情をしているからな。梔が。

そんなこともお構いなしに、そのまま沖江が流れで自己紹介をする。

 

「日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部 警備部所属の沖江 嗣羽伍長です。お見知りおきを」

 

「はい……」

 

 梔はぽかんとしているが、そんな彼女に姉貴は絡んでいく。

 

「外に居ても聞えてきましたよ。時雨さんも結構辛辣ですね」

 

「……そうかな?」

 

「言っていることは間違ってないですけどね。ですけど、知らなかったくらいでないと提督とは話せないです。もしくは長い付き合いか……。ねぇ、沖江さん」

 

 首を縦に振る沖江を見て、そのまま梔の目は姉貴に向いたままだ。しかも、驚愕と言わんばかりに目を見開いて驚いている。

あんな話をして、その話を肯定したにも関わらず、その提督の執務室にノック無しで入ってきてソファーに勝手に座る2人を見て、驚き以外にどのような感情が出るというのだろう。しかもその内の1人はBDUを着ており、もう1人は士官の軍装。だが俺のような軍装でもない。きっと梔の頭の中は、2人の行動がどういう意図でのことなのかの推理が始まっていることだろう。

 

「提督と接する時は気を抜いてください。あまり張り詰めていると、仕事にも支障が出ます。貴女の仕事で支障を来すと直接国益や様々なものへ悪影響を及ぼしますからね。なるべく早くに慣れておくことをお勧めしますよ」

 

 梔は反芻し、そのまま執務室を出て行ってしまった。これから時雨に案内されて覚えたばかりの事務棟に向かうことだろう。

 ……というか姉貴。俺とは仕事量が多い姉貴がどうしてここに居るのだろう。否、俺の仕事も執務以外を含めるとかなりあるんだがな……。そろそろ新瑞から連絡が入るような気がしなくもないし。

と頭の中で考えるが、俺は口に出さずに、飲みかけのティーカップを傾ける。もう結構冷めているな、そう思いながらカップをソーサーに置いた。

 




 今回は少し文字数が多いですが、1話に纏めたかったのでこうしました。
 オリキャラの登場になりますが、これに伴い『設定 登場人物』も更新します。

 キーパーソンになるかどうかは秘密ですが、決まって動くときには絶対にいる人間になります。ご注意ください。

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