艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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※注意 一平の視点で書かれています。

※注意 台湾との会談の場面にて、一部の方が不快に思われる可能性のある内容があります。


第26話  台湾、上陸

 歴戦の勇者、日本皇国が誇る最強艦隊の一角に囲まれながら、私は強襲揚陸艦 天照の右側面デッキで海を眺めていた。この艦を取り囲む艦隊の一角、横須賀鎮守府艦隊司令部派遣台湾方面使節団海上護衛艦隊(政府内呼称)の重巡洋艦 鳥海が目に入る。艦体の作りが素晴らしく美しいが、左舷側の大砲がこちらを捉えている。本体に比べてそのサイズは小さいものの、その砲の大きさは主砲やその他対空機銃の中間である大きさから、主砲の次に大きい砲であることは確かだ。

 その砲がこちらを向いている理由は、天照の乗員と世間話をした時に教えてくれた。あの砲はもし天照が艦隊行動で支障を来すような行動、横須賀鎮守府に不利益な行為をした場合にはすぐに撃って轟沈させるぞ、という意味らしい。

なんとも怖い話で、使節団の団員もこの話を聞いた時には冗談だと思っていたらしい。だが、乗員は顔を青くしてそれを否定した。

 

『そんなことあってたまるか!! 大本営発表で話されたことも報道機関が報道している内容も本当だ!! あいつら(横須賀鎮守府)は中将のために戦っているだけで、俺らのことなんか道端に転がってる石ころ以下だぞ?!』

 

近くに居た他の乗員もそうだと言わんばかりに頷いているだけで、表情や周囲に漂わせているオーラは本物だった。

 彼らの言う通りならば、横須賀鎮守府に不利益だったなら本当に攻撃してくるのだろう。自国の海を守る海軍でありながら、政府関係者が乗る船でも軍人が乗る船でも実弾で攻撃することを厭わない。そういう連中であるということだ。

 だが変に思えるのは、そのような組織であるにも関わらず、横須賀鎮守府の提督、あの若すぎる海軍中将は話が出来る相手であるように思えた。

見た目は私の息子よりも少し年上であるにも関わらず、発表や報道通りの人物ならば、相当な人生を歩んでいることになる。

息子と同じ年の時に戦争に参加。後ろ盾無しで死と隣合わせな任務を立案・遂行。国内の不穏分子の対処、時には銃撃で負傷して後送されていた。さながら大嵐の中をイカダで乗り越えようとしているような状況だろう。

不利になるような会話をも平然と発言し、劣勢を覆してきた手腕もそれは既に同年代のものとは隔絶していた。

 

「団長。そろそろ高雄に接近します。準備を」

 

「……あぁ。部屋に戻る」

 

 デッキに来た派遣使節団の団員に言われ、私はデッキを後にする。

 中将に頼んだ一件、陸上での艦娘による護衛は叶わなかったが、気を張って任務をこなさなければならない。彼にはあんなことを頼んだが、たしかに指摘通りの真意を心に秘めていた。それに、こちらの交渉材料を見据えたような牽制。アレは正直震えた。既に忠告でも警告でもない牽制は、攻撃に該当する域に入っていたように思える。宣戦布告、そのように聞こえた気もしたからだ。

 彼ら横須賀鎮守府の戦力を失うことは、日本皇国的にはこれまでにない大損害になってしまう。中将の声ひとつで国が傾くのは周知の事実。その気になれば国内を瞬時に制圧出来るらしいが、本土を包み込む完全包囲が出来るとは思えないので、恐らく要衝の早期制圧が出来るのだろう。最近は確認されていないらしいが、敷地内にある滑走路からジャンボジェット機並の大きさを持つ戦略爆撃機が空を埋め尽くすほど保有しているらしい。

 

「いよいよですね」

 

「そうだな」

 

「不安で仕方ないですが、これも……」

 

 団員は横を歩きながら、途中で言葉を途切れさせた。不安が心を蝕み、広がっているのだろう。私も同じだ。不安に思うのは。

 私たちが生まれた時には既に、深海棲艦は存在していた。始めは他国での出来事だとばかり思っていたと、母が云っていた。だが、私が中学生に上がる頃には身近な話となっていた。

世界各地の海に出現した深海棲艦らは貿易航路にてタンカーを攻撃、客船や軍艦をも轟沈させ続けた。これに対処するべく、国連は非常事態宣言をし、所属する各国海軍は共同で深海棲艦撲滅に打って出たのは、私が小学校低学年の頃。そしてすぐに国連軍はその戦闘力と無尽蔵に湧き出てくる敵艦に敗北を繰り返し、制海権を次々に奪われていった。

そして身近に感じた時には……日韓中比台露連合軍が小笠原諸島最終防衛線を放棄し、撤退を始めていたのだ。その情報に紛れて、当時陸上自衛隊東部方面隊第一連隊、現在の日本皇国陸軍第三方面軍第一連隊が小笠原諸島最終防衛線後方の補給基地に残ったという報道もあった。

そこからは速く事が進んでいく。ユーラシア東岸を守っていた一枚目の絶対防衛線、日比台絶対防衛線が台湾、フィリピンという順番で陥落。日本も太平洋側の急造された軍港が次々と襲撃を受けて損害。この頃、反対側のアメリカ西海岸でも苦戦を強いられているという情報が入る。そしてついに防衛線が瓦解したために二枚目で最後の最後、中韓露絶対防衛線も崩壊。絶海の孤島となった日本は、この頃に国号を日本皇国に変えた。そこからは……教科書にも載っていること。艦娘の登場、防衛線の構築に押し上げ、艦娘の代理戦争化だ。

 

「これも、日本皇国のためです……といえば格好いいんですが、本音を云ってしまえば、自分らのためですよね」

 

「なに……事実だ。だが、それも日本皇国のためとも言える」

 

 そして時は進んで十数年か数十年、横須賀に青年が現れた。それからは、深海棲艦の発現から絶対防衛線の陥落までとは比べ物にならないほどの激動だったように思える。

小さな動きから始まったそれは、バタフライエフェクトかと思わせるが如く大きな風となった。そして、一時はカスガダマまでの航路を確保していたのだから……。長らく行われなかった漁さえも行われたくらいだ。

 私はこの風、乗り切って迎えたい。いつか来たる蒼天とどこまでも続く海を、知りもしないこの大きな海を取り戻す。これのために流された血と消費された貴重な資源に見合った成果を手に入れたい。これは建前でもあるが、本心でもある。そう切に願っているのだ。

 

「ようやく私たちの仕事が出来る、そして上を目指す第一歩だ」

 

 だから踏み出す。だから助けを乞うた。だが、叶わなかった。不安しか残らない第一歩だが、これをしっかりと踏み出さなければ……後が用意されている保証は何処にもない。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 騒々しいが、その重厚感が私の心に安らぎを与える。日本皇国陸軍が保有する装甲車、装輪装甲車というものに乗っている。巨大なタイヤを8輪で走る巨大な鉄の自動車だ。重機関銃も装備しているらしいが、それを3両とジープ(兵は『ラブ』と呼んでいた)が2両付いてきている。これが護衛を務める、陸軍の精鋭部隊らしい。

確かに屈強な兵らであることは、本土で顔を見ているから知っている。中には女性も混じっていたが、このご時世だから普通のことだ。

 だがそんな彼らに、絶大な信用を持っているわけではない。何故なら、彼らは確かに精鋭部隊。だが、精鋭部隊なのだ。最高峰の兵で志願した者は皆、横須賀鎮守府に転属しているらしい。所詮は後釜の精鋭部隊、二番手なのだ。

それに彼らとて人間だ。もし何かあった時に失敗することだって考えられる。ならば、と思って横須賀鎮守府に要請したのだったが……結果は言わずとも知れていた。

 

「先程確認しましたが、どうやら私たちの周囲には台湾軍も護衛として展開しているらしいです。進路上の安全を確認しての移動なので、かなりの兵力が投入されているみたいです」

 

「それは?」

 

「護衛の部隊長から聴きました」

 

 護衛の部隊長というと、あの少し頬が痩けた男だろうか。身体は兵士らしい屈強さだが、どうも太れない体質なのだろう、頬が少し痩けていたのだ。だが、目には力が入っているのも、個としても群としても、指揮官としても優秀であることは既に知っている。護衛部隊の人員詳細に目を通したからだが。

 

「そろそろ港を出るらしいです。運転手が伝えろ、と」

 

「そうか」

 

 小さい覗き窓から、外の様子を確認するとそこには……台湾軍であろう兵士たちで出来た壁に群がる群衆があった。全員が手を振り上げ、口を大きく声を張り上げているように見える。そして時々目に入る日の丸。

 

「なんだ、これは……」

 

最初に持った感想がこれだった。

群衆が振っているのは日の丸、私たちの国の国旗だ。振る表情は曇っているわけでも、嫌々しているようにも見えない。むしろ笑顔じゃないか。これはどういうことだ。私は状況の理解に苦しんだ。ここは確かに台湾で、これまで数十年と日本との国交が途絶えていた国なんじゃないのか。なのにこの事態になっていることへの説明が私の中では付かなかったのだ。

 群衆に見守られながら、私たちの乗った車列は護衛と共に進んでいき、目的地である建物へと入っていく。車外に降りると、周囲の騒音に驚くが何を言っているのか分からない。そのまま気にせずに建物へと案内されながら入っていく。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 部屋に通された私たちは、相手が英語で話したことに合わせて英語で会話を始めていた。ここに案内してきたのは、台湾政府の外交官らしい。

この道中で起きたことを、彼曰く『IJNの来航が数度あってから、沿岸部の深海棲艦による航空爆撃の回数がみるみるうちに減ったからだろう』ということらしい。『IJN』は恐らく『Imperial Japanese Navy』、日本帝国海軍だと言っているみたいだが、帝国も皇国も英語で言えば同じなので気にしてはならないのだろう。それよりも、大日本帝国海軍と聞き分けがつかないのはどうにもならないだろうか。

 それはともかくとして、だ。今回の件に関しては、台湾内部でも高雄駐屯の台湾海軍しか横須賀の行動に関して詳しくも関与してなかったらしいが、それが今回の件で一気に伝播してしまったらしい。それでこのような状況になってしまっているとのこと。

 私にそのことを言われても困ったものではあるが、日本からの外交使節ということもあり、それに関してはちゃんと言葉を受け取っておかなければならない。報告書にも記しておかなければな。

 用意された席に使節団から選出された数名が着き、他の団員はまた別室で別の話をするらしい。私は台湾政府側との話をしなければならない。本命はこっちなのだからな。

 

「ようこそ、台湾へ。入国を歓迎します。ミスターカズヒラ」(※以降の台詞は本来は英語で話されています)

 

「はじめまして、ミスターイェン。本日から数日間、お世話になります」

 

 机越しに身体をせり出しての握手を交わす。イェンの握ってきたその手は、力強く私の手を握った。

 

「まずは私どもの紹介をさせて頂く前に、一つ確認して頂きたい事がございます」

 

「えぇ、何でしょうか?」

 

 そう切り出し、私は静かに椅子に腰を下ろした。

 

「こうして台湾日本間の政府の接触は数十年ぶりにございます。これまで、双方は自らの生存を優先しなければならない事態によって、隣に住まう"友"に目を向ける事が出来ませんでした。ですが今日からは違います。どうか、日本皇国の存在、生存をその目で確認したことの確証が欲しいのです」

 

「はい、勿論。隣、この焦燥の時代を生きる友の姿、しかとこのイェンが台湾を代表して確認しました」

 

「ありがとうございます」

 

 目の前に座るイェンが笑う。彼の表情は、疲れだろうか少し目の下にクマが浮かんでいるものの、清々しい表情をしている。ワックスで固めた髪が崩れることなく、スーツもパリッと着こなしていた。

 

「では、双方の状況確認と致しましょう」

 

 これは表面上での情報交換だ。だが前提には、国家機密の漏洩を避けるべきであることはあるが、そもそも国家機密も何もない。このようなご時世だ。政治家の不祥事程度しかないだろう。それ以外に目を向けている余裕があるのだろうか。日本皇国でもそれは言えるばかりか、他国なら尚更だろう。自国を維持するだけで精一杯のはずだからだ。もし余裕があるとすれば、このような状況を覆そうと行動に移しているはず。

 こちらから切り出したからには、日本皇国から状況を伝えるべきだろうな。

私は用意していた書類と、日本から持ち込んだパソコンなどの周辺機材を用意させて説明を開始する。

 

「現在、日本皇国は日本皇国海軍を中心に、深海棲艦反抗作戦を繰り返しています。防衛線は北はアルフォンシーノ諸島東方海域、南は南西諸島、西はカスガダマまで伸びましたが、現在はここ台湾南方まで後退している状況にあります」

 

 簡略化された地図とアニメーションで、現在の防衛線の状況を大雑把に報告。どのような戦力がどの程度投入され、どの程度の損害でそのような状況を作り出したのかは説明しない。ほぼ全てが艦娘に依存しているからだ。

 

「日本皇国内地では化石資源が枯渇してはいますが、長年の戦争からより快適にと状況に合わせた技術開発を行い、戦前と変わらない水準まで生活レベルを引き上げています」

 

 日本についてまとう食糧問題は既に解決済みだ。解決したのは艦娘らだが、これも詳細は言えない。

 

「治安も同じく安定。反政府組織、テロリズムの存在も確認できません」

 

 誰もが絶句しているように見えた。イェン以外の台湾側の外交官は皆、口をぽかんと開けるだけで、目はずっとパソコンの画面を映し出しているスクリーンに釘付けだ。

 

「おおよその状況は以上になります。ご質問は」

 

 大雑把且つ、情報を余計に与えないようにした説明を切り上げ、質問に突入する。刹那、台湾側の外交官は手を挙げていく。

彼らの前に置かれているネームプレートを見て名前を呼び、質問をしてもらう。

 

「数十年前の記録では、日本皇国海軍はほぼ壊滅状態だったと思いますが、それが慢性的な資源不足の中、どうやって一時はカスガダマまで防衛線を押し上げることに成功したのか……そこの理由が知りたいです」

 

 考えるまでもない。答えはひとつだ。

 

「それは私の口からはお教えすることは出来ません」

 

 だが言えることもひとつだけある。

 

「ただ、私たちは運が良かっただけなんですよ」(※以上までの台詞は本来は英語で話されていました)

 

 その言葉に、台湾側の外交官は何も質問することができなくなってしまった。

 この後、私がしたような説明を台湾側にもしてもらった。

はっきり言って、台湾の内政は良く持っているとしか言えない状況だ。台湾軍は日比台絶対防衛線の崩壊から行動を起こしていないことは、説明から想像に容易かった。国内では慢性的な食糧不足に陥っており、全土は市街地、住宅地、工場、森林、農耕場とはっきり全てが区別、管理されている状況らしい。痩せた土地でも生産出来るじゃがいもを大量生産し、それを備蓄しながら食べている状況。重工業も全てストップした後、再利用できるモノは全て再利用、処理するモノも再利用と言った政策方針を取り、なんとか回っているという。お陰か、戦前に比べて国民が生存のために全ての行動をするため、学習能力や運動能力の全体的な底上げが自然になされたらしい。

 お互いの状況説明を聞いた後、今後どのように付き合って行くのかを相談し始める。一度休憩を取りつつ、時には外に出て現在の台湾を視察して回らなければならないのが、外交官の仕事。

そんな仕事をこなさなければならない私たちの耳に、初日から緊急連絡が飛び込む。それは高雄に投錨している天照からだった。

 

「先程、台湾南方哨戒を行っている艦隊の入れ替わりがあったそうですが……少し確認してもよろしいですか?」

 

 休憩の間、外で天照と連絡を取っていた護衛部隊員と話をした団員が耳打ちで私に話しかけてきた。

 

「あぁ」

 

「事前説明によると、哨戒艦隊は6隻編成なんですよね?」

 

「そうだが……どうしてだ?」

 

 額から冷や汗を垂らした団員は重苦しく口を開く。

 

「先程周辺海域に12隻の艦隊が侵入してきたと……。日本皇国の方面から。そして艦隊が途中で分離、二手に分かれた一方がまっすぐ高雄を目指してきています」

 




 前回とのスパンが短いのは気の所為です。一平の視点は今のところ今回だけですが、台湾ではとりあえずこれで一平以外の視点に切り替えます。
それと話もあと数話で終わらせますので、次の準備を早々に始めなければ……。
 色々と悩んだ結果の台湾情勢でしたが、地理と国力を考えるとこうなるだろうな、という作者の勝手な想像です。不快に思われた方がいらっしゃいましたら、本当に申し訳ありません。

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