艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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第30話  台湾、撤収

 

 昨日の晩餐会から明けて、俺は日台外交の末席に腰を下ろしていた。理由は1つしかない。これから、日本皇国政府からの飛び入り命令を遂行するのだ。台湾政府から台湾海軍高雄基地の一部を日本皇国海軍に租借してもらえという命令。これを台湾政府から許可を取り、海軍を通して高雄基地の一部、現在も物資が置かれている区画を一時的に完全に日本皇国領としてしまう。

 俺にとっては転移してきた数年前、日本皇国にとっては嘗て、国内には米軍の基地が置かれていた。それとはまた違う形、間借りをする訳だが、少なからず国民からの反発があるだろうということは想定範囲内だった。

人が事象をどのように捉えるかなんて、人数が居るだけ考え方が存在する。良く捉える人もいれば、悪く捉える人もいるだろう。その辺りを踏まえて、台湾政府はこの件を受けるか受けないかを決める。

 

「次の案件ですが、日本皇国軍総司令部より追加として命令が送られてきました」(※以下の台詞は英語で話されています)

 

 一平が手元に置いてあるのであろう、進行表に目を一瞬落として話し始める。この時も隣で南風が同時進行の翻訳をしてくれている状況だ。とはいえ、国家間で執り行われる会議であることを忘れてはならない。俺が持ってきた案件の時以外は席を外していたし、なんならさっき入ってきたばかりだ。直前にどのような話しをしていたかなんて俺も知らなければ、勿論南風も知らない。後ろに立っている沖江や木曾も知るはずが無いのだ。

 

「今後の日本皇国軍の行動をより機敏にするため、台湾海軍高雄基地の港湾施設の一部を租借していただけないでしょうか」

 

 この言葉に、台湾側の人間らは口を噤んでしまった。これまでの会話の内容はどのようなものだったかは知らないが、この件が円滑に進むかは分からない。軍間での取り決めならば、即決出来るような内容であることは確かだ。そこに政治を挟んでくるとなると、話はかなり違ってくるだろう。

 

「……これまでの話し合いで、どうしてそれを求めるのかは十二分に理解出来ます」

 

 イェンは指を組んだ。

 

「ですが……軍の港湾施設で、現在我が軍が使っていない施設であることは確かですが、それでも物資の貯蔵等に使用されています。それに、租借したとして万が一のことが起きれば国家間の」

 

「国家間で問題になりますね。窃盗、暴行、諜報、破壊工作……ピンからキリまで起こり得ます。そこで事前に軍の者を連れてきておいて欲しいという知らせをしてありましたが……どうでしょうか?」

 

「はい。高雄基地司令が是非にと」

 

 好都合だ。高雄基地司令とは顔を合わせて、肉声で会話したことがないものの、好印象を持っている。とは言っても、俺たちにとって好印象というだけだが……。

 

「私が高雄基地司令であります。この件に関してですが、我々が保有する港湾施設の殆ど、特に埠頭や艦船用設備等々はそもそもそれらを利用する艦がないため、日本皇国に貸したとしても問題ありません。倉庫は我々が武器弾薬食料燃料、一部は兵舎として扱っているところもありますが、殆どは利用状態にあります。日本皇国側の要求を鑑みるに、港湾施設の租借は問題ないように思えます。保安の件に関しましても、台湾海軍兵士は皆誇り高く精強な軍人です。そのような下賤な行為、人の風上にも置けないような輩は訓練兵の時点でケツを蹴り出していますよ。台湾海軍は問題ないです」

 

 どうやら俺が話さなければならないらしい。イェンと一平、その他使節団や台湾側の人間が俺の方に一斉に視線を集めたのだ。

俺は構わずに、高雄基地司令に続いて口を開く。とは言っても、それを南風が隣で英訳してくれる訳だが……。

 

「日本皇国海軍、横須賀基地司令としましても、是非とも高雄基地の港湾施設租借が望ましいです」

 

 息を吸い込み、俺はもう一度口を開く。

 

「台湾側のメリットを云いましょう。簡単です。高雄基地の港湾施設の一部を我々に租借することで、台湾に回航する艦隊が増えます。"一時的に借り受けた軍事施設、そこに拠点を置くことで"、警備艦隊も派遣することになります。現在は防衛線が台湾南方にまで押し返していますが、近海に深海棲艦が出てこない等という保証はありません。もし先方にお断りされ、他の国で租借された場合、日本皇国海軍の"拠点"が置かれた国家、島、土地、海域が重要視されるでしょう。デメリットも簡単です。深海棲艦が近海に出現し、もし対応に遅れた場合は……高雄が火の海になります。それだけです」

 

 ハッキリとどのような恩恵が台湾にあるのかを口にすることで、考えやすくなったことだろう。遠回しな表現をしていれば、アピールにもプレゼンにもならないからだ。

 

「足りないようならば、もっとメリットを挙げましょう。回航、来航する艦隊。それは果たして哨戒・偵察艦隊だけになるのでしょうか?」

 

 そもそも察しの悪い人間は居ないこの場で、俺はこう明言したのだ。"高雄基地の一部を貸してくれれば、長く続いた焦燥の戦史が落ち着くだろう?"と。だが、先程のメリットの裏を返せば、深海棲艦に重要拠点と勘違いされ、襲撃されることも考えられるのだ。ということは、だ。借りている土地を襲撃されるのは不味い俺が執る行動など、1つしかないと誰もが気付く。

 

「停泊する艦隊もおられるということでしょうか?」

 

 もしそうなった場合、どのような艦隊が……と台湾側の人間らは表情をそれぞれ別々なものに変えている。その中で数人は当てていた。"拠点"を丸裸にする軍など居ない。借り物をボロボロにして返す人間も居ない。

 

「借り物を借りた当時と同じ状態に返す、当たり前ですよね」(※以上までの台詞は英語で話されています)

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 政府の目論見どおり高雄基地租借は完了した。そもそもこの件に関しては、俺も軍を通じて政府に口出しをしていた。というか、そういうことをするなら追加で頼めないか、というような形ではあった。何を追加で頼んだのかと云うと、『高雄基地租借交渉を遅れて命令』と『提督の台湾第一次派遣使節団同行』だ。

目的は簡単。外務省への恩着せ、それだけ。

 予定されていた任務を終えてしまった俺のすることは、残すところあと1つ。このまま台湾に残り、台湾第一次派遣使節団を横須賀まで連れ帰ること。その道中、陸の上で護衛することにある。

 

「……中将?」

 

「何でしょうか?」

 

「私共が既に護衛を……」

 

「万全を期すようにと国から言われています。私らは海軍側の護衛です」

 

「そうでありますか……」

 

 台湾との会談は睡眠と食事以外の全ての時間を使って2日で終え、残りの数日は後に出てくるであろう事柄についての会談と視察に時間が使われることになる。その行き先に俺たちは陸軍のジープや装甲車に乗っていた。

勿論、もともと護衛として付いていた陸軍部隊と同乗。艦娘たちはトラックに乗っている。1人は同じ装甲車に乗っているが……。

 そのまま移動を続けると、どうやら目的地に到着したようだ。台湾政府が置かれている台北だ。

 台湾首都、台北。追ってきた歴史は俺の知っているものとそう大して変わらない。中華民国政府が統治している。そこは中国共産党、中華人民共和国の土地という人間もいれば、台湾という独立国家だという人間もいる。国際法も『こ』の字もない絶海の孤島では現在、どう言ったところでどうしようもない。法律上は南京が首都である台湾は、臨時首都として台北に政府を置いていることになっているらしい。俺も詳しく知らないから、あまりデタラメは言えない。

 装甲車とトラックの車列は止まり、どうやら到着したように見える。揺られること数時間、途中に休憩を挟みながらの移動だった。

周囲の安全を確認しに、トラックから護衛の兵や艦娘たちが降車していく。数分ほど経つと車内に通信が入り、安全の確認がなされたと連絡が入る。

それを聞いてから俺たちは装甲車から降りるのだ。

 降り立ったところに関して、事前に使節団の方には連絡がいっているだろうが、あいにく飛び込みの俺のところにはそのような報告は1つも入っていなかった。

とは云え、護衛を兼ねている俺の同行に場所がどうというのは関係の無いことだ。ついて回り、警戒しながら観光をするだけ。

 最悪の事態がそう起きてもらっても困るものだ。それに、上陸した際に目撃した光景は信用しきれないものの、表向きは友好的な関係を結んでいくつもりであるのは火を見るよりも明らかだ。

だが、それは起きてしまう。

台湾第一次派遣使節団が高雄を出発し、日本に帰る2日前にそれは起きた。

 俺は団長である一平と宿泊していたホテルの一室で話していた時だった。

 

「一平さん。私が尋ねてもお答えしてもらえるかは分かりませんが、政府が提示した命令の方の完遂度はどれほどなんでしょうか?」

 

「いいえ。それくらいならお教えしますよ。ざっと98%と言ったところでしょうか。一部、こちらが譲歩したものがありましたが、無問題だと言えるでしょう」

 

「……詮索はしませんが、私どもには関係の無いものだというのは分かります」

 

「はははっ。何がともあれ、任務は完遂ですよ。後は帰るだけですg」

 

 そう言いかけた刹那、建物が揺れた。何事かと机やソファーに捕まる俺と一平の元に陸軍の護衛が部屋に飛び込んできた。完全武装状態で護衛をしている彼らではあるが、常に小銃からは弾倉を抜いていた。それが刺さった状態且つ撃鉄が起こされた後のようだ。グリップを握る右手の人差し指は引き金からは離されているものの、セレクターに掛かっている。安全状態ではあるが、すぐに操作すれば撃てる状態であることは確実だ。

それに護衛の声色。興奮とは違うが、平静とは少し違うような雰囲気を纏っているのだ。異常事態が起きている、だからこうして部屋に飛び込んできたのだ。要人が居る、確保しなければならないから。

 

「一平外交官!! 中将!!」

 

「何が」

 

「分かりません!! ですが、爆発物が爆発した揺れであることに間違いありません!!」

 

 すぐさま、俺は部屋に待機していた時雨に命令を下す。

 

「時雨。全艦に通達。艤装の7.7mm機銃の使用を許可する。敵性勢力は見つけ次第報告。攻撃を確認したならば、攻撃を許可する。正し、急所は外せ。それと俺の元に招集」

 

「既に招集してあるよ。すぐに皆来る」

 

 一平の方を向き、俺は伝えた。

 

「恐らく護衛が状況を確認に行っています。報告を聞くまでは動かないで居ましょう。貴方、そうでしょう?」

 

「はッ。隊長より、そのように。既に分隊が確認のため、フロントに内線と直接確認に向かっています」

 

「台湾軍にも念のために確認を取ってください。それとこちらが連れてきた兵にも独断での行動を許す、と」

 

「それは想定済みということで、既に行動を開始しています」

 

 敬礼をした護衛の陸軍兵士は数人を置いて走って行ってしまった。この場には俺と時雨、一平や数名の使節団員、護衛が残っている。

 一平ら使節団員は一箇所に固まり、その周囲を陸軍兵士が囲んでいるような状況だが、俺はそれが見える範囲のところに立っている状況だ。近くには続々と護衛の艦娘たちが集まりつつあり、騒々しくなっていく。外が。

どうやらこの建物内から飛び出してきた他の従業員や宿泊客が騒いでいるようだ。

 

「五十鈴」

 

 艤装を身にまとった状態で現れた五十鈴は手短に説明を始めた。

 

「ボイラー室で爆発。近くで作業していた従業員が1名死亡。現場には沖江さんが確認に行ってるわ」

 

「……現状は?」

 

「爆発の影響でボイラー室が全損したみたいだけど出火はしてないみたい」

 

 そこで俺は判断を下す。

 

「念のために移動をする。一平さん、危険が伴いますが階を降ります。もしボイラー室がこれから出火するようなことがあれば脱出しなければなりませんからね」

 

「危険? 危険とは?」

 

「貴方方が恐れていたことですよ」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺の言っていたことは、結局起こらなかった。ボイラー室の爆発はただの事故で、整備不良が原因だとか。それに『ボイラー』と言ったが、本当は別の物らしい。建物に存在するボイラー室が一番用途として近いものだったんだとか。なので『ボイラー』という表現をしたそう。

 そして現在、高雄の埠頭に来ていた。接岸しているのは天照と五十鈴。他の艦はそれぞれ警戒中。台湾第一次派遣使節団は日本皇国政府から請け負っていた任を終了し、俺もそのついでに帰る。

その見送りには台湾政府や台湾軍の高官ら数十から数百名集まっており、その外には高雄や付近に住んでいる住民たちが殺到していた。

俺たちが来たことで台湾内で何が起こったのか、先程別れを言い合った台湾海軍左営基地からの士官はこう言っていた。

 

『新聞では大騒ぎでしたよ。皆が苦しみながらもなんとか纏まって生き残ってきた甲斐がありました。全土を統治する政府や治安維持をする軍、それに従順に謙虚に生きることを続けた国民の皆、皆これほどの吉報を大変喜んでいます。政府同士でどのような取り決めがなされたかは分かりませんが、各国軍の間でどのような取り決めがなされたのかは状況から推察するに分かります。私も今の軍の方針には賛成です。またいつでもいらしてください。今度はちゃんとアポイントを取ってください。その時は盛大にお出迎えします。では、お元気で!!』

 

とのこと。ついでのように別れの言葉も貰ったが、この見送りに来ていた士官は挨拶もそうそうに切り上げて、音楽隊を連れてきて演奏をしてくれた。聞きなれない曲調に、何処で聞いたのやら、日本皇国軍の音楽隊でも時々演奏するような曲までも演奏してくれた。

そして出発の時、何やら勝手に天照の護衛の二航戦の航空隊がアクロバット飛行をしていた。五十鈴の艦内から2人には叱りを入れたが、ちっとも反省してない。台湾高雄の空を曲芸した航空隊を収容し、台湾南方に哨戒に行っていた遠征艦隊と合流して俺たちは横須賀へと戻っていくのだった。

 

「五十鈴」

 

「何?」

 

「護衛艦隊のあれは予定になかった。艦隊旗艦である蒼龍に間食禁止令が出たことを伝えて欲しい」

 

「……了解」

 

 ニヤニヤしながら五十鈴は通信妖精に俺の言った言葉を復唱して伝えると、最後に付け加えた。

 

「全艦に通達ね」

 

 五十鈴め。なかなか酷いことをしやがる。無論、通信を聞いていた全艦からは笑い声が聞こえ、蒼龍が通信妖精のマイクを取って『間食そんな……そんなにしてないのに酷いっ!! 提督の意地悪!!』と言っていたが、これまた全艦の無線を取っている妖精や艦橋にいる艦娘たちに笑われるのであった。

ちなみに天照の無線手も腹を抱えて笑っていたらしく、艦橋内でこっぴどく怒られたらしい。俺は笑い声で聞こえなかったが、通信妖精がそう言っていたのだ。天照の無線の向こう側で怒鳴り声が聞こえる、と。

 





 今回で台湾外交の話は終わりです。考えると結構長かったように思えますね。ずーっと同じような内容でした(白目) それはしょうがないということで。
 次からは切り替えて話を進めます。目標区分は次話にて語ります。
それに人間対人間の話も一時的に切り上げて、本来の艦これ二次に姿を戻s……ゲフンゲフン。

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