艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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第32話  横須賀と端島の交流 その1

 

 台湾南方海域、南西諸島北海域の深海棲艦個体数が見るからに減少してきたのは、台湾に1回目の使節団が派遣されてから1ヶ月が経った頃だった。その頃には既に2回目の派遣も果たし、台湾側から日本皇国に来ることもあった。

それほどまでに本州・九州・沖縄諸島・台湾までの航路の深海棲艦撃滅に成功したことを物語っている。ここまで漕ぎ着けたのは、絶え間なく哨戒・掃討を行っていた艦娘たちのお陰と言うわけだが、それは今後も長い事やってもらうことにもなる。水雷戦隊に編成される軽巡洋艦・駆逐艦の艦娘の練度もそこそこ上がって来ているところなのだ。

 話は変わり現在、横須賀鎮守府には来客が来ていた。いつもなら正門前で門兵たちとゴタゴタしてから数時間もしない内に帰らせるような輩が殆どだったが、今回は埠頭の方、海からの来客だ。深海棲艦が停戦協定を結びに来るとは到底思えないし、台湾海軍も未だに日本皇国海軍の護衛無しでは沖に出ることもままならない。とすれば、誰が来たのかは自ずと絞れるというものだ。

 

「ご招待、痛み入ります中将」

 

 俺の目の前にいるのは海からの来訪者たちだ。そう。この海を渡ってこれる人物など、この人以外には居ない。

 

「横須賀まではるばるお疲れ様です、真田大佐。道中に深海棲艦との戦闘はありましたか?」

 

「いいえ。ありませんでしたね。潜水艦も居ない、平和な航海でした」

 

 そう。俺たち以外にこの海を渡れる人物は端島鎮守府にしか居ないのだ。

 今日から数日間、端島鎮守府からはある程度の艦娘を連れて真田が来ることになっていたのだ。大本営へは『端島鎮守府艦隊司令部は横須賀鎮守府艦隊司令部の嚮導を受け、さらなる練度向上を目指す』という趣旨での来航という連絡を入れている。それ故に、若干ながら台湾方面への警戒態勢が崩れることになる訳だが、それも今後のことを考えると掛けなければならないリスクというものになる。

 今度、端島鎮守府艦隊司令部は大本営からの命令により、横須賀鎮守府と共同で海域攻略を行わなければならなくなるのだ。その他、同じような任務を受けることにもなっている。

それを始める前に、端島横須賀双方が嚮導を受けたいことと招きたいことが重なり、このようなことになっている。

端島は俺たちからありとあらゆる戦術を盗めるだけ盗み、俺たちはそれを出来るだけ端島にマスターさせることを主目標としているのだ。

 

「……限界量の艦隊編成、連合艦隊で来られるのは想定内ですよ。どうぞお気になさらず」

 

「大人数で押しかけてすみません。これでも抑えた方です。本来ならば、強引に遠征ということにした艦隊がこれの3倍も来ることになりそうでしたから」

 

「それは困りますね……。ベッドが足りないですし、南西諸島の警戒をこれ以上弱めることは出来ません」

 

「ははは。私もそう言い聞かせて出てきましたから」

 

 はぁー、と俺と真田は溜息を吐く。この件に関して、俺はどのようにしてくるのかは色々と推測して準備をしてきたが、どうやら真田も出撃艦隊限度を把握した上で艦娘たちの説得をしていたようだ。俺は飯とベッド、部屋数が足りるか不安で準備をしていたことと、真田は艦娘の説得に苦労したのだ。自然と溜息も出るというものだ。

 

「気持ちを切り替えましょう。さて、最初はどうしましょう?」

 

「中将……連絡をしたんですが。最初は今の練度を見図るために演習を行うと」

 

「え? そんな連絡受けて無いんですが」

 

 早々に問題が発生した。真田曰く大本営に取り次いでもらい、連絡をしたとのこと。俺が離席していたから秘書艦が取ったんだそうだ。その連絡は聞いてないから、恐らく秘書艦が伝達を忘れていたのだろう。

後ろに出迎えで並んでいる艦娘たちの方を向くと、隣同士で『どうしたんだろう』と話し合っていた。その中で1人、動きがおかしい艦娘がいる。その艦娘は、今日から端島鎮守府を訪問するまでの間に秘書艦になっていた艦娘の1人だ。そしてこういったミスをするのは1人にしかいない。

 

「あ~か~ぎぃ~?? まーたお前かぁ?!」

 

「ひぇ?! ご、ごめんなさーい!!」

 

 だろうな。うん。

 

「すみません。密に連絡を取り合っていればこのようなことは起きなかったでしょうに……」

 

「い、いえそんな!? こちらも到着早々に演習など頼んでしまい申し訳なく」

 

 隣でペコペコする赤城を尻目に、真田に謝罪をしつつ、俺はすぐに編成を頭に思い浮かべる。幾つか出した俺は真田に問いかけた。

 

「練度を見るとのことでしたが、どのようにしましょう? 私は端島鎮守府の練度は把握していますが、そちらはこちらの練度を」

 

「ええ、それなりには把握しています。ですが遠慮は要りませんよ、中将。端島鎮守府でも高練度で天狗になってる奴らと、向上心の高すぎるスポンジみたいな奴らしか連れてきていません。演習には天狗の奴らを宛てますので、その伸びた鼻を叩き折ってやってください」

 

 そう云いながら、真田は艦隊を紹介し始めた。真田曰く天狗艦隊の編成は長門を旗艦に、蒼龍、飛龍、利根、摩耶、島風。どれも戦闘経験が豊富で、第一線に投入することの多い艦娘だそうだ。天狗になっているというのは、戦術指南書を読まないで感覚で熟している節があり、周囲の意見を殆ど聞かないんだそうだ。

そりゃ確かに天狗な訳だ、と思いつつ、真田の今回の演習の魂胆が伝わった。その天狗たちは、真田が俺に説明している間もリアクションをすることなく堂々としていた。それは艦娘としてあるべき姿ではあるんだが、鼻につく態度がそこそこある。こちらが出迎えをした時にも、真田やその他の艦娘、俺たちの方は全員がビシっと敬礼をする中で、その艦娘たちは話をしていた。

まぁ、アレだ。社会科見学に来た学生のような態度だったのだ。

 全てを汲み取った俺はニヤリと笑いながら真田にアイコンタクトを送る。何を俺が考えていたのか伝わったようで、頷いた後に天狗艦隊に事を伝え始めた。

俺もこちらはこちらで聞こえるように艦娘を呼び出す。

 

「いきなり演習をするんだが、此処で編成を発表する」

 

 黙って聞いている艦娘たちに、俺は大声で呼び出す。

 

「扶桑、山城!!」

 

 オイ。ざわつくな、そこ。戦艦勢が『容赦ないな、提督』とか言っているが無視。

 

「時雨、夕立!!」

 

 静かにしろよ……。今度は水雷戦隊勢が『容赦なさすぎて可哀想……』とか言っているが、こちらも無視。

 

「赤城、加賀!!」

 

 うるせぇ……。全員が『提督は鬼だ。端島鎮守府を潰す気だ』とか言っているが、これは演習だし……。これも無視。

 一方で、真田の方も連絡は終えたようだ。天狗艦隊が並んで前に出てきている。

 

「噂にはかねがね聞いているが、どうだ。こちらの勝利は確定だな」

 

「長門、それは吾輩も同意じゃ。夕立、赤城は有名だが、その他の者は噂は聞かぬ」

 

 誰かそこでドス黒いオーラを放ってる長門を止めろォ!! 『同名同型艦だがぶっ飛ばしたくなった。オイ、止めるな陸奥。扶桑と山城を莫迦にされたんだぞ』とか言ってるぞアイツ!!

それにこちらの空母勢もやっちまったな、という顔をしている。加賀は表情をピクリとも動かさなかったが、こちらの五航戦たちが『ヤバイ。加賀さんが怒ってる』とか言っているからな。俺からも怒っているようにしか見えない。

 

「俺のところじゃ、扶桑山城は縁側で茶を啜ってるところしか見たことねぇぞ」

 

「時雨もこっちじゃ、第一線というより後方だよねぇー」

 

「加賀さん……。こっちでは滅多に出撃せずに秘書艦任務が多いですね。練度は私たちの方が遥かに上ですし」

 

 うわ……。こりゃ酷い……。

 俺はこの後のことを考えて震える中、真田が俺の隣に来た。どうやら同じようで、俺たちの方を見て察したようだ。

 

「ウチのバカ共が申し訳無いです。遠慮なく叩き潰して欲しいですが、私も赤城以外は噂を知らないんですよね……。実際彼女たちはどれほどの実力なんです?」

 

 どこからともなく現れた鈴谷が説明を始めた。

 

「ちーっす。鈴谷が教えてあげる!!」

 

「……任せた。俺が説明するよりも、近くで見てきた艦娘たちの方がよく分かっているだろうから」

 

「任された!!」

 

 鈴谷は真田の隣に立ち、指を指しながらジェスチャーを交えつつ説明を始める。

 

「最初に赤城さんだけど、金剛さんから聞いた話によると、真田大佐のところに持っていった資料があったそうだね?」

 

「あぁ。キルレシオのおかしい演習の」

 

「アレ、赤城さんの航空隊」

 

 あ。真田が絶句した。

 

「ちなみに加賀さんも赤城さんまでとはいかないにしても、練度で言えば赤城さんの次に高いよ?」

 

「……そ、それで他には?」

 

「扶桑さんと山城さんは、横須賀鎮守府艦隊司令部、提督の伝家の宝刀って言われてるくらいに強いねぇ」

 

「伝家の宝刀とは? そのままの意味か?」

 

「うん。強い。むっちゃ強い。赤城さんの航空隊とドンパチしてもどっこいなレベル」

 

 扶桑と山城が強く、俺の伝家の宝刀とか言われているのは知っていたが、盛り過ぎな気もしなくもない。という注意を鈴谷にする前に話が進んでいく。

 

「時雨と夕立はねぇ……敵に回したら最悪だね。特に夕立。真田大佐のところの夕立ってぽいぽい言ってるでしょ? ウチのは言わない。怖い。強い。怖い」

 

「そ、そんなにか……。そういえば、数年前に横須賀鎮守府の夕立が遭難した数週間後に近海まで自力で戻ってきて座礁していたという話を聞いたが」

 

「それがウチの夕立。怒らせたら怖いよ? それに時雨もね。赤城さんと加賀さんみたいな関係」

 

 最後、真田は鈴谷の目を見た後に俺の方を見たのだろう。少し間が開く。

 

「指揮をする中将は……どうなんだ? 手腕に関して」

 

 鈴谷も俺の方をチラッと見た後、話す。

 

「得意不得意を言っても仕方ないんだけど、多分演習すれば分かると思うよ? まぁ先ず言えることは、勉強はしていると思うけど、あの人の言う『セオリー』って『セオリー』じゃないからさぁ。提督の中に出来上がっている戦術とか作戦段階の構築にパターンを作って、それをセオリーとしているだけなんだよね」

 

 おおよそ鈴谷の言った意味が分かったのか、真田は『なるほど』と言いながら呟いている。

 

「ま、今回は天狗になってるそっちの艦娘もろとも真田大佐、貴方も叩き潰されると思うよー?」

 

 鈴谷はそう云うと、おどける。笑いながら、俺の指名した艦娘の名前を順番に読み上げた。

 

「旗艦は扶桑さん。以下山城さん、夕立、時雨、赤城さん、加賀さん。彼女たちはいわゆる攻略組。前線で必死に戦っている叩き上げの熟練艦娘だよ? 提督の指示通り、思ったと通りに動くからね。勿論、提督の手足のように」

 

 顔の引き攣った真田が更に鈴谷に質問を畳み掛ける。

 

「演習は勿論演習弾だろうな? 物理的にはなくとも場合によっては艦娘たちに精神的な負荷が」

 

「あるんじゃない? たまーに見るけど、ウチの駆逐艦の子たちは主砲を直接艦橋にぶつける子もいるからねぇ」

 

 真田がこっちを見て『流石に轟沈はないでしょうね?』と表情で訴えて来るが、演習弾で轟沈なんてされたら俺が困る。

 そんなこんなで、各艦隊は演習弾の積み替えを行っていた。そんな間に俺は扶桑たちを呼び出して、今回の演習概要の説明を近くに真田がいるが気にせず始めた。

 

「今回の演習は実戦形式。相手は端島鎮守府の手練、6人。真田大佐から『天狗になった鼻をへし折って欲しい』とのことで、扶桑たちに声を掛けた」

 

「提督? それなら長門さんたちの方が良かったのでは?」

 

 扶桑が手を挙げてそのように言う。それには山城も賛同しているようで、扶桑の横でウンウンと頷いていた。他のメンバーには異議は無いらしく、黙ったままだ。

 

「さっき長門が怒っていたのを見ただろう? あれじゃとてもじゃないが演習には出せない」

 

「そうですか……。ですが、指名されたのなら全力で叩き潰してみせましょう。彼処まで啖呵を切ったのです。相当自信があると見ました」

 

「そうですね、姉様。私はともかく、姉様を貶されたのならこの山城、黙ってなどいられません。泣きわめくまで叩き潰してくれましょう」

 

 何この2人。怖い。何その喧嘩上等的な空気は。スケバンかなにかですか?

一方、赤城と加賀はいつも通りのように見える。赤城は相変わらずだし、加賀も精神統一でもしているのだろうか。夕立と時雨も同じだが、お互いにどのような戦術を相手が取ってくるのかを考えている様子。議論が繰り広げられていた。

まとまりが無いように思えるブリーフィングだが、声をかければすぐに皆こちらに意識を向ける。

 

「さて、方針を決める」

 

 一瞬にして静かになる演習艦たちは、俺の方を向いた。

 

「セオリー通りだ。哨戒機による索敵、発見次第攻撃隊発艦、全艦砲雷撃戦、追撃。出し惜しみは無し。相手を深海棲艦だと思え」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

「そこに更にタスクを与える。赤城、加賀は被撃墜無し。扶桑、山城、時雨、夕立は被弾なしだ。ダメージを受けるな」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

「装備の変更等は思う様にやってくれ。航空隊の編成艦載機規制は通常、烈風改、震電改、艦戦隊の爆装、艦爆・艦攻隊の航空戦も許可する」

 

 そんな指示を出している俺の後ろで鈴谷が呟いた。

 

「フルボッコじゃん、それ……」

 

 知ってる。端島鎮守府には生き残って欲しいし、海域攻略の支援も頼みたいのだ。だからそれ相応の経験と練度と向上心を俺は求めているんだからな。それくらい受けてもらわなければやってられないだろう。

 





 今回から数回、横須賀と端島の交流の話になります。台湾の件から、また艦娘の登場回数が減ったような気がしなくもないですが……。

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