では、本編の開始です。
prologue 戦端
緊張感に包まれているここは日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部。その敷地内にある、作戦中に指揮官が部隊の指揮を執るために設置されている司令部施設である地下司令部では指示を下し続けている若すぎる青年将校が居た。ここに将校が居るということは現在作戦行動中であり、戦闘中であることを示している。
将校は黙っているが、その他はリアルタイムで戦況報告や部隊の状況を知らせていた。
「攻略艦隊が敵艦隊に突入ッ!!」
「駆逐艦 深雪被弾ッ!! しかし損害軽微!!」
「攻撃隊損耗率1割。未だ敵航空隊の存在を認めず。損害は対空砲火によるもののみ」
「砲弾残弾数80%、着弾数8%!!」
戦域情報を纏めて上げられる声を、将校は全て汲み取り、命令を下した。
「攻撃隊の敵艦隊上空到達はまだか」
「既に降下態勢に入っていますが、高度が若干低いようです」
「攻撃隊に緩降下爆撃を行うように伝達。同時に護衛戦闘機隊も降下開始。増槽を棄て、対空砲火の牽制に当たれ。攻略艦隊はそのまま突撃を続行し、砲撃による敵艦隊撃滅を最優先せよ」
「了解」
状況報告に負けじと声を出しつつも、落ち着きのある声で命令を下した。
「この海域を再び我らが突き進む平和への橋頭保とする。ただし、誰一人欠けることは絶対に許さない。何があっても、何がなんでも帰ってこい!!」
将校は攻略艦隊に繋がる無線送受信機のヘッドセットに向かって、そうハッキリと口に出した。
そしてこう続けたのだ。
「まぁ、ここで誰かが欠けるなんてことはないだろう」
将校の手元に置いてある作戦指令書に目を落とした。
現在攻略艦隊が出撃しているのは日本近海から台湾を通るために抑えなければならない南西諸島北部。この海域に出没する人類の敵、深海棲艦は前衛艦隊を展開している。編成は軽巡を筆頭とした水雷戦隊。対する将校が派遣している艦隊は―――旗艦に航空母艦 飛鷹を据えた機動部隊。編成は飛鷹、隼鷹、神通、吹雪、白雪、深雪。
旗艦が保有する航空隊の練度は将校の指揮下にある航空隊の中でも割と低い。だがそんな練度の航空隊であっても、将校はこの海域を制圧するには十分な練度であると考えていた。経験不足であるならば、実戦にて培うしか方法はない。そう考え、投入するに至ったのだ。
真剣な表情で刻一刻と変化していく画面に映る戦域の略図を睨み、どう戦況が動いていくのかを先読む。
そして起こるであろう事柄への布石を行うのだ。
「通信妖精」
「はッ」
「大本営に連絡を」
軍の一司令部、しかも作戦行動中にも関わらず、将校は"妖精"という単語を出した。理由は簡単だ。ここ地下司令部に居る人間はただ一人、作戦総指揮を行っている将校ただ一人だけなのだ。それ以外はおよそ15cmほどの二頭身の小人しかいない。これには深い理由があるが、ただ言えることは他の人間には務まらないことだということくらいだ。
通信妖精と呼ばれた妖精は戦域情報を伝えている妖精たちとは別で、作戦行動中にはすることが無く、暇をしていた部門だ。
地下司令部ではそれぞれ妖精たちは担当任務が与えられていた。戦域情報を管理・報告・伝達を行う戦域担当妖精、鎮守府内への緊急放送等を行う伝令妖精、鎮守府外へ緊急連絡等を行う通信妖精が居る。それ以外にも担当任務や部門が与えられている妖精は数多く存在しているが、この地下司令部に居る最低限の妖精はその3つの役職を持つ妖精のみとなっている。
「横須賀鎮守府です。海軍部長官執務室へ」
通信妖精が大本営に連絡を入れ始めたのを確認し、将校は通信妖精から受話器を受け取る。
『海軍部の新瑞だ』
「横須賀鎮守府艦隊司令部の……」
『
「現時刻を以て、
『……そうか』
「はい」
『……すまないな』
「それは聞き飽きましたよ、新瑞さん」
『あぁ、言い飽きるほど言っているからな。……だが、本当に」
「よしてください。聞き飽きました」
『そうだな』
「……俺はもう"異邦人"なんかじゃないです」
『……』
「何をするにも、深海棲艦を駆逐しなければ何も出来ません。ですから俺と日本皇国は一心同体です」
『……』
「俺はここに
『
刹那、戦域情報妖精が叫ぶ。
「南西諸島沖に存在する敵深海棲艦の艦隊の殲滅を確認ッ!!」
将校は口元がにやけそうになるのを堪え、先ずは地下司令部の妖精に労いの言葉をかける。
「作戦終了だ。攻略艦隊に撤退命令。現刻を以て、針路反転。横須賀鎮守府へ帰投せよ。合わせて入渠場に連絡。損傷艦受け入れドックを開き、帰還次第すぐに修理の出来る態勢を整えておけ」
そして受話器を再び耳に当てる。
「俺たちは再び一歩を進めました。南西諸島沖の制圧が完了しました」
『ご苦労』
「それも聞き飽きることになるでしょうね」
『はっはっはっ!! 違いない!!』
「……では、私はこれから慰労会の準備がありますので」
『いいな。私も是非にお暇したいところではあるが、これから忙しくなりそうだ』
「えぇ、そうでしょう。日本皇国政府と天皇陛下への報告、各報道機関への情報のリークと統制、各軍への緊急報告……それ以上は思いつきませんでしたが、仕事が一気に増えましたね」
『あぁ。それまでの一番"重い"仕事はキミに任せてしまっているからな』
「良いんですよ。今のところ、俺にしかできないことです」
『そうだな。……作戦成功おめでとう。これからの奮戦に期待する』
「はッ。ご期待ください」
将校は受話器を通信妖精に渡し、少し騒々しい地下司令部で声を挙げた。
「攻略艦隊が帰ってきたら慰労会だ!! 美味い物いっぱい食うぞーー!!」
「「「「「「おおぉぉぉぉ!!」」」」」」
妖精たちが興奮した様子で顔を綻ばせているので、将官は喝を入れた。ここで終わりではないからだ。
「だがまだまだ俺たちの仕事は続く。気を抜かないように、最後までやり遂げる」
「そうですね。私たちが目指すものは……」
「深海棲艦から海を開放し、平和な世界を取り戻すッ!!」
将校は拳を作り、声を張って宣言した。
そう。この将校が、横須賀鎮守府艦隊司令部の提督。階級は中将に当たる。
これから続く物語は、彼、提督とその仲間たちが歩んだ軌跡である。
いよいよ話が始まります。前話(prologue はじめに)を読んだ方はかなり違和感を持たれると思いますが、まぁ……こういう落差が頻繁に起きると思います。ただし、今回だけ三人称視点ですけどね……。
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