艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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第36話  横須賀と端島の交流 その5

 端島と横須賀の艦娘の交流は活発に行われた。横須賀来航の目的はお互いの(※端島側が横須賀側の指揮系統)理解や、共同作戦展開可能であるかの現状確認等々。果たされるべき目標は着実にクリアしていた。俺の方でも現在の端島鎮守府艦隊司令部の力量は計れた。それらを元に、横須賀から大本営経由で大本営名義の作戦指令書を作れるか否かということも大本営から目的として与えられていた。俺が端島を訪れた際に真田と五航戦に言った言葉が、このような大事に展開してしまったことは驚きだが、今後どうしても必要になるだろうという新瑞からの言葉で決行に踏み切ったことだった。

 既に日程もほぼ全てを終了し、明日端島へと帰路に就くことになっている端島からの来客に、俺は声を掛けていた。

色々と気がかりな点や、所要があってのことだった。

 

「真田大佐」

 

「中将。もう此処ともおさらばで寂しいような気もします。荷造りは既に終え、積み込みも終わっていますので、明日は乗艦するだけです」

 

「その件を伺いに来た訳では無いのですが……。少々表に出ませんか?」

 

 本部棟にある一室に泊まっている真田の部屋を訪れた俺は、呼び出して外へと連れ出した。

真田には見えなかっただろうが、荷物も持っている。

 時間としては既に陽も落ちた夜。消灯時間間際で、外は巡回の兵以外は誰も居ない状況。俺が真田を連れ出した場所はというと、立ち並ぶ要塞砲の1つだ。そこならば、巡回の兵が通るものの見えない場所。物音と声に注意すれば見つかることは無い場所だ。俺の私室や執務室でも良かったのだが落ち着かないし、艦娘が来ることもあるのでこうして外に出た訳だ。

 

「要塞砲の上とは……。銃座の軸に机の足を刺して、なんと可笑しな」

 

「まぁ、此処は私が執務に飽きた時に隠れるところです」

 

 椅子を出し、腰を掛けて貰って俺も腰を掛ける。

 

「本当ならば街にでも出て、警備部の兵に聞いている居酒屋とか行きたいところではありますが」

 

「保安上、無理でしょうね」

 

「はい。ですから……ここでは話だけでも」

 

 腰掛けた俺は帽子を脱ぎ、机の上に置く。真田はそのままだが、特になにか言う必要もないだろう。

そもそも俺も本来は真田にそのような事を言える立場には無いからな。

 

「横須賀遠征、お疲れ様でした」

 

「はははっ。ありがとうございます」

 

 月を眺め、俺が聞きたいことを取り敢えず口に出すことにした。

 

「2日目の件ですが、どうでしたか? あの2人の様子は」

 

「五航戦の件ですか? 本当、お世話になりました。伺ってはいましたが、相当扱き抜かれたみたいですね。毎日帰っても部屋に居なくて、夜中にフラフラ帰ってきて泥のように眠り、誰よりも早く起きて出ていたそうですから」

 

「何か言ってましたでしょうか?」

 

「いいえ。あの2人は……先程報告に来ましたが、目が輝いていました」

 

 最初に聞きたかったことは、俺が取り付けた赤城の訓練・演習だった。内容は知っていたし、どのように行われているかは逐一報告を受けていたので知っている。

だが、赤城たちの視点と俺の視点、直属の部下として持っている真田の視点では見え方も違うだろうと思い、聞いてみたのだ。

 

「最後の演習では相手に全滅一歩手前まで叩いたと誇らしげに言ってましたよ。こちら側は文字通り、全滅したそうですが」

 

「聞き及んでます。相手の編成を何も分からない状態での訓練にて、瑞鶴・翔鶴両航空隊が赤城を発着艦不能状態にまで追い込んだとか」

 

「周到な作戦だったみたいです」

 

 言葉に発すれば誇らしいことではあるが、真田は苦笑いを浮かべていた。何故なら、翔鶴と瑞鶴はあることをしていたのだ。この赤城と加賀による勉強・訓練・演習の繰り返しの中、思いついたことがあったそうだ。そのことを赤城に云うとこう言われたそうだ。

 

『この間に思いついたことはメモして2人だけで考えなさい。それが戦術なのか、戦略なのか、はたまたそれ以外なのか……それを自分だけの物にして、自分たちで使いなさい。使う場所はいくらでもありますから』

 

そういう訳で翔鶴と瑞鶴は唯でさえ寝る間も少ないというのに、寝る間も惜しんで準備したそうだ。横須賀にいる間に、それを使うと。そうして最後の演習で実行したのだ。

これまで端島である程度缶詰をして勉強をしてきたが、それとこの赤城と加賀の短期間集中コンビーフ(※端島の瑞鶴談)中に身に着けた知識をフル動員したんだと云う。

結果は俺が言った通り、赤城の飛行甲板を使用不能に追い込んだ。悔しそうでもあり少し誇らし気にしている赤城が教えてくれたのだ。その五航戦が思いついたことを。

 

「私が言った『消費する資材はこちらが用意するし、真田大佐にも許可を取り付けた』から、色々手回しをして水面下で準備したそうですね」

 

「本当、ご迷惑を」

 

「お気になさらず。これであの五航戦は強くなったんですから」

 

「そうですか」

 

「えぇ。それにしても傑作でした。赤城の飛行甲板に航空魚雷に偽装した航空爆弾を使う等。どうやら見張員も赤城もその当時は笑っていたようですが、着弾してからは笑えなかったそうですね」

 

 そう。五航戦の2人は航空魚雷、九一式魚雷の外郭に500kg演習爆弾それぞれ本来ならば爆薬が入っているところと、推進機系が入っているところに内蔵した航空魚雷を赤城甲板上に投弾したとのこと。

他の通常の航空魚雷を搭載した天山攻撃隊と共に偽装魚雷を積んだ翔鶴攻撃隊所属の天山が投下装置の故障のように見せかけ、腹に抱えたまま機首引き上げを行い赤城上空を飛び去る際に投弾。命中したとのこと。お互い、航空隊に1機ずつ抱えさせていたようだ。だが、瑞鶴攻撃隊所属の九七艦攻は到達前に撃墜判定を食らったので投弾することなく被撃墜回収艦に着艦したそうだ。

 

「対大型艦用航空通常爆弾ですからね。500kgで直撃ならひとたまりも無いです」

 

 少し笑い、話を続けた。

 

「他の艦娘たちの様子はどうでしたか?」

 

「五航戦のように向上心が高い連中は躍起になってましたよ。とは言え、睡眠時間厳守した状態でですけど。天狗になっていた奴らも叩き潰されてからというもの、大人しくなりましたし、話を聞くようにもなりましたね。滅多打ちにされて、その後の評価でも中将はこちらの演習艦隊にある問題点を何も仰らなかったことを相当気にしているみたいです」

 

 心底苦い顔をした真田は後頭部を掻きながら『問題がありすぎて、手につけられないと思われたと思っているようで』と云う。

まぁ……確かに、こちらの演習艦隊に全く損害を与えないまま文字通りの全滅をしたのでその通りなんだがなぁ。

 

「それで天狗の鼻をへし折ることが出来たのなら良かったです。今までの自分に疑問をそれぞれ持ったでしょうから」

 

「そうですね。威張り散らさなくなりましたし、復習をするようにもなりました」

 

 これで俺の聞きたいことは終わり……ではある。本題はこれからだ。連れ出した本題を切り出さなければならない。

少しスッキリした顔をしている真田に、俺は誘いを入れた。

 

「そろそろ行きましょうか」

 

「……何処へ?」

 

「ちょっとしたところです」

 

 そう言って俺は真田を伴い、要塞砲から降りて歩き始める。消灯時間も既に過ぎており、鎮守府内は街灯がポツポツとあるだけで薄暗く人気のない場所へと変化していた。最初の頃は、この時間帯に出歩くのはとても怖かったが、今では完全に慣れてしまっている。侵入者も警備体制から俺自身が警戒する必要は無いのと、もし誰か勝手に入ってきていたとすれば、艦娘たちが気付かない訳が無い。もし、警備を抜けて侵入してきていたとしても、金剛辺りに感づかれて捕縛されているだろうしな。どうなっているかは知りたくもないが……。

そんなこんな歩いていると、目的地に到着した。そこは鎮守府内にある建物の1つ。

 

「警備詰所……。ここに何が?」

 

「まぁ、入ってみれば分かりますよ」

 

 入って見れば分かるのだ。それに、俺ではどうしても出来ないことを、ここに居る人たちに頼んでいるというのもある。

扉を潜ると、中は騒然としていた。机と椅子が大量に並べられており、中には顔を赤くした兵士たちが居る。そう。ここは普段は使われていない詰所だ。俺が帰って来る前、効率化のための再編の時に使わなくなった場所だ。そこをこうして非番の兵たちが夜に集まり、酒を飲んだりしても良い場所としているのだ。そもそも、敷地自体は軍の所有物ではあるのだが、建物の大部分は俺の所有物ということになっているらしく、どう使おうが俺が良いと云えば良いらしい。治外法権区域になっているくらいだから当然といえば当然ではあるんだがな。

 ここに来る兵士たちは代わり代わり料理が出来る者はつまみを作り、酒を呑み、遊ぶ。ただし風紀を乱すようなことや喧嘩なんかをすればつまみ出される上、武下や俺のところに個人名で報告が来る。決まって武下のお叱りコースではあるんだが、俺に報告する必要はあるのだろうか。

それは置いておいて、つまりはそれぞれの基地に置かれた飲酒可能施設がここなのだ。敷地内に兵士用の居酒屋を用意出来ないという理由もあるのだが、それは追々大本営と相談するつもりだ。

 

「端島には居酒屋が用意されていますが、横須賀ではこのような形なんですね」

 

「ウチは特性上、このような形になっています。問題が色々ありますので、居酒屋の件は大本営と相談するつもりではいます」

 

 俺たちが話しながら入ってきたことに気付いた兵士たちは起立をするが、すぐに手で敬礼は良いとサインする。

 

「少し邪魔するぞ」

 

「いいえ!! 提督は飲まれないのだと思いましたが、遂に飲むんですか?」

 

「違う違う。明日端島に帰る真田大佐は、こちらに来ても激務だったからせめて最終日にはどうかと思って」

 

 近くでビールをグビグビ飲んでいる曹長が顔を赤くしながらも話をしてくる。大して真田は『確かに酒を飲んでいられないほど激務でしたが』とかつぶやきながらも規模と人数に心底驚いているようだった。何故ならここ、毎日数十人はいる。そんなに入れるようなところを用意する軍はそうそうないらしい。武下がそんなことを言っていた。

 

「おぉなるほどなるほど!! お前らァー!! 場所を開けてつまみと酒持ってこーい!!」

 

「隣、邪魔するぞ」

 

 曹長の近くで飲んでいた中尉が大きい声を出し、場所を確保すると隣から箸と共につまみと未開封のビールや日本酒、焼酎、ワイン、ウィスキー等など流れてくる流れてくる。あっという間に真田が座った席の前に酒とつまみのタワーが出来てしまった。

 

「はははっ。私は酒好きだがここまで飲まないぞ」

 

「いやいや!! 今日はパーッと飲んでください!!」

 

「ふむ、確かに。任官したばかりの頃に発泡酒で誤魔化していたことを思い出していたが、ここでは安酒が無いな」

 

 いただきます、と手を合わせた真田はつまみを口に放り込み、酒を飲み始める。ちなみに俺も既に開けてもらった場所に座っている。真田の正面の席だが、流れてきた物の類で真田の顔が殆ど見えない。額だけだが山から見えているのだ。

 

「安酒が恋しいですか? 大佐」

 

「いいや。端島でも酒は飲めるのだが、定期便で入ってくるコンビニでしか買えないものしか飲めてない」

 

「こっちは陸続きですからねぇ。あ、どうぞどうぞ」

 

 俺も回って来たつまみは食べるものの、酒は飲まない。と言うか飲めない。確かに成人したにはしたんだが、周りに酒の飲み方を教えてくれる人がいないのだ。仲良くしてもらっている人は居るものの、酒を飲むだとか食事をするだとかということはないのだ。

 

「あれ? 提督じゃないですか。こんなところに顔を出して」

 

「あら、本当」

 

「提督がいらしてると聞いて、探しに来ました」

 

 だとか考えていたが、どうやらそんなことは無いらしい。たまたま非番だった沖江、南風、西川が居た。こっちのはまだ出来上がってないみたいだが、既に飲んでいる模様。

俺の両脇の兵にどいてもらう3人に若干引きつつも、俺の周りにも酒のタワーが出来てしまった。これは不味い状況だろうか。

 

「私もあまり来ませんが、まさか提督もいらっしゃるとは」

 

「武下中佐」

 

 グラスが用意され、既に俺のコップにはビールが注がれているところに武下までもが現れた。時間的にも現れるのは分かるんだが、気付けばこの詰所に入り切らないほどの兵が集まっている。出入り口も開きっぱなしで兵が溢れており、立ち飲みまで始めている輩が居るほどだ。

 

「ここでのシステム、あまり分かっていないのだが、どうなっている」

 

「はッ。ここでは基地に設置される居酒屋の代わりに、飲酒が出来る場所として用意したものです」

 

 ここの存在は知っていたものの、システムまでは知らない俺は武下に尋ねる。

 

「厨房も用意されており、材料は軍持ちな代わりにつまみは酒が飲めない兵が作り、酒はここに運ばれているものを兵士が購入しています」

 

「……ここで飲んでいる分の酒、今日の分は支払いを止めて置いて貰えないか?」

 

「了解しました」

 

 という訳で、今日は秘密で俺持ちだ。うん。来ただけでホイホイと自分の酒を差し出すんだ。それに上官が来ているので気を使わせてしまうので、金は俺が払うことにした。

 

「俺、高杉伍長が一発芸をしやす!!」

 

「「「「「「わー!!」」」」」

 

 ……そんなこともない、かもしれないな。

 

「子どもの頃の貴○花。……『あのねぇ~、ぼくねぇ~」

 

 よく見える場所、そこに立った高杉伍長が一発芸を始める。良く艦娘を笑わせているところをよく見るが、こういう席でもそんなことをしているなんて知らなかった。何にせよ、後半の方は笑い声で全く聞こえず、俺は1人で笑いを堪えるのに必死だった。

何故ならその一発芸は有名なものだったからだ。どうやらこっちでも有名なものみたいだな。それにしても人数が多い。どうにもならないレベルで人が集まっている。

 そんな時間が日を跨ぐ頃まで続き、明日は真田も早いということで解散となった。兵たちに消灯時間は無いが、同じタイミングで皆も帰るようだ。

酒の支払いを止めていたことを思い出し、俺は武下にある頼み事をしておく。

 

「ここに来ている兵たちの給料に、今日の飲酒代を入れておいて欲しい」

 

「分かってます」

 

「今日の売上分を俺が警備棟の人事に行く。先に連絡をしておいてくれないか?」

 

「了解しました」

 

 仕事を増やしてしまったなぁ、と考えつつも俺は帰路に付いた。いつもよりも遅い時間に歩く鎮守府の中は不思議な空気で満ちており、人が密集していた部屋から出たことで開放感に当てられていた。それは隣を歩く真田も同じようで、飲んで顔が赤いが千鳥足でもないし体調も悪くは無いっていないようだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 翌日。真田たちは帰って行った。目的は様々だったが、それのどれもがクリア出来たのではないだろうか。

そんなこともあったなぁ、と思い出している今日このごろではあるんだが、大本営から俺にある連絡が入った。

 

『中将か? いきなり済まない』

 

「いいえ。それで、どうしたんですか?」

 

『真田大佐がやったぞ。端島鎮守府所属艦隊が長崎台湾間の護衛任務中にあった遭遇戦で、護衛目標と護衛艦隊双方被害なしで完全勝利を収めた』

 

 詳細は追って書類で送られて来たが、どうやら台湾第三次派遣使節団護衛のために長崎から台湾に向かっている最中、制圧された南西諸島北海域奪回のために深海棲艦が派遣した斥候潜水艦隊、前衛水雷戦隊、主力機動部隊を全て無傷で撃破したとのこと。これまでの端島のキルレシオからは考えられない戦果だったのと、俺のところに来た後だったということもあり、もう結果が出始めているのではないかという連絡だったのだ。

 ちゃんと真田が『天狗の鼻をへし折ってやってくれ』という目的が達成されたことと、ついでのように書類に混じっていた護衛艦隊の編成を見て、俺は笑うしかなかった。

秘書艦ではなかったが、たまたま執務室に来ていた赤城と加賀もそれを見て微笑んでいた。自分たちが短期間で鍛えた艦娘が戦果を挙げたからだ。そして、編成を見て目を細めている。

そう。護衛艦隊として出撃していたのは、たまたま横須賀に来ていた艦隊だったのだ。真田が天狗と云った艦隊と、向上心の高い者たちと云った艦隊。そして編成表の一番上にはこうあった。

『旗艦:航空母艦 瑞鶴』と。

 




 今回は後日談というかなんというか……っていう内容になります。交流の話はここまでで、次からは話を進めていこうと思いますので。

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