艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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第38話  謁見 その2

 昼はカレーだった。焼き物の皿は何処か気品を感じ、盛り付けや付け合せ等も何処か庶民離れしているように見える。とは言え、メニューがメニューだ。庶民的なものであり、至って普通に食べられる家庭料理だ。早々に呼び出された俺たちはさっさと食べ終わらせ、会談の続きへと移り変わって行く。ちなみに陛下は別室だったみたいだ。

 

「今回中将にお越しいただいたのには訳があります」

 

 女中、使いの者、お手伝いの人、言い方は色々あるが、その人に何かを持ってこさせた。分厚いファイルには閉じきれない量が挟まれており、今も辛うじて閉じることが出来ているようなものだ。

ファイルが俺の目の前に置かれると、陛下は言い放つ。

 

「それは……先程話した記録です」

 

「開戦から今日までの、記録……ですか」

 

「はい。今日はそれを……私どもが知り得る限りの真実を知ってもらうために、こうしてお呼び立てしました」

 

 そーっとファイルの先頭を開き、中を確認する。横書きだ。そして記録の冒頭には国号が書かれている。『日本国』と。

ページを捲る度、衝撃が走る。頭がグラッと揺れ、悪寒が走り、怠くなっていった。この記録、この歴史は日本皇国と世界が歩んできたものだと言うのだろうか。このような"歴史"が。

 

「驚かれるのも無理はないです」

 

「……そう、なんでしょうか」

 

「えぇ」

 

 そんな状態になりながらも、俺はページを捲り続けた。内容を読み続けた。精神が拒絶しようとも、それを身体が拒絶する。書かれていることが必要だと、無理矢理に身体を突き動かされていく。知りたくない、知らされたくもない。どうして、何故、このようなことが……。

 

「中将、貴方が知るべきこと、知らなければならないこと……なんですよ。既に重い責任を背負わせているというのに、このように足を引っ張るような真似はしたくはありませんでしたが……。ですが、いずれ知らされることとなった。知ることになったのです」

 

 膨大な情報を叩き込み、最後のページを閉じた時には額は汗に濡れ、目眩までしてきていた。ハンカチを取り出して額を拭い、目を閉じて呼吸を整えた俺は陛下の方に向き直る。

このファイル、内容を知っているのは……誰なんだろうか。陛下は勿論のこと、他に誰が。

 

「これの内容を知っている者は少ないです。この場では私と中将のみ、新瑞には見せておりません。ですから、貴方にはこのような位置取りをしてもらいました」

 

 陛下の言う通り、会談が午後にも続けられているが、今は俺と陛下だけが向き合っているような様子。新瑞も姉貴も少し離れたところに座っており、ビスマルクらは定位置に立っている。目が良くても、どれだけ近かろうとも見えるような位置には居ない。

 ファイルの表紙を閉じ、少し離れたところに追いやる。精神が疲弊したからだ。せめて少しの間は見たくもないものだった。

 

「これを踏まえてお願いしたいことがあります」

 

「……」

 

 まだ返事を出来るほど、俺は回復していない。無礼だが、その様子を見せることなく陛下は続ける。

 

「どうか日本皇国の、"世界"のために勝利を」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 心の中で整理が付いたのは、静寂に包まれてから10分ほど経った頃だった。額の汗も引き、動悸も収まった。目眩も怠さも深呼吸や水を飲んだりして落ち着かせた。万全とはいかないが、元に戻った俺は陛下に向き直る。

 

「詳しくお聞きしたいことがあります」

 

「えぇ」

 

「その前に、人払いを」

 

「……そうでしょうね。新瑞、艦娘の皆さんと共に別室へ」

 

 ファイルの事を話すのだ、人払いするべきだろう。俺だけに見せたものだと言うのなら尚更だ。だが、人払いに艦娘たちが応じる訳もない。直立不動の状態で一歩も動こうとはしないのだ。

 

「一度、出ていってくれ」

 

「駄目よ」

 

「保安上、陛下のお側も安全だ。行け」

 

「……」

 

 聞かねぇ……。どうしたものかと考えるが、仕方が無い。強引に行ってもらう。

 

「命令だ。行け」

 

「……了解」

 

 これで良い。ぞろぞろと会談をしていた部屋から人が出ていき、残ったのは俺と陛下のみ。これで話が出来る。

 

「さて、お聞きしますよ」

 

「では遠慮なく。……この記録に嘘偽りは」

 

「ありません」

 

 最悪だ。俺がこれほどまでに知らないことがありながらも、深海棲艦と戦争をしていたのか……と。否、知ってはいた、何処か気付いていたこともある。そう。"深海棲艦の正体"については、分かることだった。だが、それ以外はどうやっても俺が知ることはなかったことだろう。知ることが出来なかったことだろう。

録音もメモも取らない。記憶に残すように確認を取っていくことにした俺は、ゆっくりと話しを続けた。

 

「この戦争、深海棲艦との戦争は50年続いている、と」

 

「はい」

 

「現在の状況に陥ったのは20年前」

 

「はい」

 

「艦娘の出現は50年前」

 

「はい」

 

 聞かされていた話と全く違う。深海棲艦との戦争はいつから始まったのかは分からない。だが、艦娘の発言は現在の状況、強制的鎖国状態に陥る直前のはず。つまり20年前でなければならない。だというのに、それ以前から艦娘は存在していたというのだ。

そして逆算して30年、人類は深海棲艦に対して戦い続けていたことに驚きを隠せない。ということは、深海棲艦出現からずっと艦娘は戦い続けているということになる。辻褄が全く合わない。となると、一度は敗戦しているのでは無いだろうか。何故なら領海まで一度は奪われていたのだから。

 

「艦娘の存在がタブーになったのも50年前で、それからずっと代理戦争だった……ということですか?」

 

「……はい」

 

「そして、"私"のような人間が何人、何十人、何百人、何千と投入され、命を落としていったと?」

 

「……はい」

 

 最悪だ。

 累計日本皇国軍戦死者約120万人。内、異邦人14054人。俺の前には14054人、同じように転移させられて死んでいった人間が居るというのだ。人道的にも道徳的にも問題しか無い。その上、記録には日本皇国軍内には異邦人は現在、俺のみしかいない。そして、今後異邦人を転移させることは出来ないとのこと。その斡旋をしていたのは『海軍本部』。この異邦人が艦娘の指揮を執るというシステムを作り出した元凶がいないのだから、異邦人がこれ以上増えることは無いのだ。

 本来隠すべきだったのはよく分かる。俺の存在も、艦娘の存在も。発現してすぐにタブーとされた上、これまで異邦人の存在は明るみにならなかった。何故なら、それは国として問題にしかならなかったからだ。何故、今は問題にならないのか? 限定的な情報開示で国民の知り得る情報を統制して、俺という存在を都合のいいように印象を操作した結果だったからだ。

危機的状況の日本皇国に現れた救世主。それが俺。艦娘たちはその救世主と共に敵を倒すべく戦う戦乙女。

もう隠して戦うことも出来ないのだ。そのような余力は残っていないのだ、この国には。

 

「分かりました。分かりましたよ。もう日本皇国には余力があるように見えて無い。食料があっても、その他物資が枯渇。余裕が無いのを隠すために私という存在を世に出し、もし私が負ければ終わりなんですね?」

 

「はい。完全に他国との関係が切られ、絶海の孤島と化します。各国が深海棲艦の排斥に成功したとしても、現状それはあり得ないですから……」

 

「半永久的に日本は世界を失う。世界が好戦的になった場合、未来は目に見えていますからね」

 

 負ける。人類は負けるのだ。そしてこの世で陛下が求めるものは……。

 

──────理由は分からないが、地獄に垂らされた1本の蜘蛛の糸を掴んで上がること

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 帰り道、俺は考え事に耽っていた。"あのこと"について知っているのは、陛下と俺、そして総督だけらしい。何でも先代から隠されてきたことらしく、もし光が灯されれば開示することになっていたとか。これまで積み上げられてきた墓標は失敗で、もう最期の1人になってしまっている。その1人には絶対に勝って欲しいということ。

 異邦人に関しては、陛下はこう言っていた。

 

『これはこの世界の理なのかも知れないです。ですが彼ら、異邦人が排斥されようとするのもこの世界の理。表裏一体なんですよ。世界として平行させるための安全装置であり、世界を平衡させるための点火装置。本来は滅びるはずの世界が、こうして足掻き続けているんですから。その足掻きを理は釣り合いを取るために異邦人を遣わせた、ということでしょうか』

 

 何とも傍迷惑な理だと思う一方で、そこまでして藻搔こうとする世界も世界だ。つまりは、俺は日本皇国の興廃を背負っているだけではなく、地球を、世界を背負っているのだというのだ。

ここまで言ってはなんだが、異邦人に関しては完全に憶測らしい。確かに異邦人が代理戦争をする形態は歪ではあるが、深海棲艦、艦娘という存在がその形を是正している。そもそもおかしいことだらけだったからだ。それが一転して正しいように見せかけているというだけ。

 ただ確実に言えることは、深海棲艦の発現は50年前であること。その間に各国は敗北に敗北を重ね、現在の状況に陥ったのが20年前。艦娘の発現も50年前だとすれば、確かに鎮守府資料室に置かれている戦術指南書はそれ相応の屍を積み上げた成果であると言える。

艦娘の事を考えると、恐らくタブー化されたのは発現から数年以内だろう。ということは、少なくとも40と数年は艦娘のみの代理戦争だったというわけだ。その間、優勢劣勢どちらにせよ数十年は持ち堪え、20年前に完全に崩壊した。

となると、疑問が浮かんでくる。艦娘たちが話していた"アノ"話はなんなんだろうか、と。敗北を繰り返した結果、東京湾への侵入を許してしまい、残存艦だった護衛艦 こんごうを轟沈させられた後、現れた艦娘たちという話。憶測は瞬時に幾つか立てられるが、確証が得られない以上はそれを信じることは出来ない。

 

「どうしました?」

 

「……い、いいや」

 

「??」

 

 "この"話は俺と陛下しか知らない。姉貴は何も知らないのだ。この話の際、俺にだけ記録を見せたということは、陛下は姉貴は知る必要が無いと判断したのだろう。姉貴のことも報告されているはずだ。"異邦人"ではあるが、正規の手順を踏んで居ないと思われる"異邦人"。それが姉貴。真相は何も分からないが、艦娘たちとの話を加味しても現れ方が全く違う。違いすぎる。

 

「陛下との話、何かあったんですか?」

 

「……いいや、何も」

 

 こういう時、というよりいつも鋭すぎる。あまり姉貴の前で考え込まない方が良さそうだ。

 俺は今までの思考を隣に置き、別のことを考え始める。今後、どのように制海権を広げていくかについてだ。おおよそは筋書き通り進めていくつもりではあるが、場所によっては繰り上がりになる可能性もあるし、後回しになることも考えられる。とはいえ、台湾までの航路を確保している現在で言えることは少ない。それまでの間にあったことを加味したところで、何も分からないのだ。

次作戦に向けた動きも既に始めている。その間、何かしらの情報を掴むことが出来るだろう。そこでまた考えれば良い。何か進歩出来れば良いのだ。

 俺はここまで考えた後、目を閉じた。今日は色々なことがありすぎたからだ。恐らく鎮守府に帰ると、何かしらが待ち受けている。それが書類なのか、執務なのか、赤城を叱ることなのかは分からないが、今の内に休んでおいた方が良いだろう。

鎮守府に着き、執務室に帰ると案の定、報告書や置き手紙があり就寝前まで忙しくなったのは言うまでもない。勿論、赤城を呼び付けるようなこともあったが。

 




 今まで分からなかったことの一つが出てきました。そのお陰で分からないことが増えましたけども……。
 久々に自分の書く物語っぽくなったような気がします。今話の件に関して、設定の方に書き加えるか否かは追って考え、書き加えようと思います。ちなみに、分かった件から連想出来ること……色々ありましょうよ(ニヤニヤ)

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