艦隊これくしょん 艦娘たちと提督の話   作:しゅーがく

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※注意 閑話です。


第43話  ネアオリンポス作戦 閑話『バタン島 その2』

 

 バタン島での作戦は委細順調。師団長と共に上陸した装甲部隊も不具合無し。そのまま第二二連隊と合流、師団として各方面に展開しつつバスコ空港に入った。

先方だった第二○連隊の私たち第三中隊は滑走路を見て唖然としている訳だが……。

 

「えっと……」

 

「中隊長。これは一体」

 

 塗装が剥げた航空機が5機。置かれている。人の気配は無い。その航空機は掩体壕のようなところに入れられており、近くには工具が落ちている。それもホコリを被っているが。

 

「司令部に報告……した方が良いだろうな」

 

 隣にいる中隊長も呆然と立ち尽くすしか無い。誰だってそうだろう。このような光景を見れば。

 

「つ、通信兵は至急司令部に報告。後続の部隊にも」

 

「了解」

 

「司令部にはバスコ空港に置かれている機について。見たままで良い、伝えろ」

 

「了解」

 

 そう。ここバスコ空港に置かれている機というと……。

 

「零戦と……一式陸攻か?」

 

 塗装は剥げているが、その形状はどう見ても大戦期に運用していた大日本帝国軍の艦載機と攻撃機にしか見えないのだから……。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 中隊長は空港内の調査に各小隊をあてがったが、私の小隊は別行動をしていた。掩体壕に入れられている機、零戦と一式陸攻の調査だ。ただし、触らずに外観のみを観察することを厳命されている。

丁度、私の小隊にはこういったものに詳しい兵が居るのだ。こういう時、知識がある人間が居ると良い。すぐさま状況が確認出来る。

その兵には一時的に小隊の各兵に指示を出すことを告げ、私たちはその兵に言われた通りに調査をしていた。と言っても、見てメモを取るだけではあるのだが……。

 

「アイツ、製造番号と所属部隊を書き留めておけって云うけど……」

 

「こんだけ塗装剥げてたらわかんねぇぞ……」

 

 その兵はそれぞれ書かれている場所を指定して言ったが、ご覧の通り塗装は剥げているのでそれが書かれている場所が分かっても分からないことだらけなのだ。それに知識も無いので、見ただけで零戦であることは分かっても、それ以上は何一つとして分からないのだ。

とはいえ、分からないと話が進まない。もしかしたら、横須賀鎮守府の空母のものかもしれない。ただこれだけ塗装が剥げている状態を見る限り、それはあり得ないだろうとは想うのだが……。

 

「お、なんとなく分かって来たぞ。垂直尾翼に書かれているものと、胴体尾翼付近だろ? やっぱりそれらしいのがあるな」

 

 どうやら見つけたらしい。メモを取って『発見しました!! メモも取りました!!』と兵が言っている。他のところからも、報告が集まって来た。

バスコ空港の掩体壕に隠されていた零戦4機と一式陸攻1機、全ての所属部隊と製造番号は分かったようだ。それを詳しい兵に見せる。彼はというと、指示は出していたが掩体壕から離れて、他に機が無いか探していた。丁度帰ってきたところだったのだ。

 

「ふむ……。零戦3機は二一型。1機は不明。全ての所属部隊はA。一式陸攻は二二型。製造番号も所属部隊も分からなかった……」

 

「どうなんだ? 上にちゃんとした報告はできそうか?」

 

「製造番号を見る限りだと、戦中に作られたもので間違いないようですね。そうでなければ、これだけ劣化しているのはおかしいです。ただ、一式陸攻の所属部隊が分からないのは困りましたね」

 

「そうなのか?」

 

「えぇ」

 

 そう言って、兵は不明な1機を見に行くと言った。それに付いて行く。

零戦の不明機は隣の掩体壕にあり、ただ1機のみ置かれた状態になっているのだ。それを見上げた兵はぐるぐると周りを練り歩き、眺める。確かに兵が言っていた製造番号の書かれている場所は削られているし、垂直尾翼の所属部隊もかすれて分からない。数字ならなんとか読めるが、肝心のアルファベットが分からないんじゃ意味がない。胴体にある色帯、塗装でも所属部隊が分かるらしいが、それも分からないのだ。ただ1つ言えることがある。この機だけ、他の塗装がまだ綺麗に残っているのだ。他の機程剥がれていない。

 

「エンジンカウルから出ている管。推進式単排気管……これを見る限りだと零戦五二型としか思えない。だけど、不自然に伸びている機首武装はなんだ?」

 

 何を言っているのかさっぱり分からない。他の皆もそうみたいだ。

 

「……」

 

 遂に黙りこくってしまった。これじゃあ報告のしようがない。彼からの話がなければ、曖昧な報告を上にしてしまうことになる。それだけは避けたい。円滑に作戦を進める為だ。

私も一緒になって例の零戦を眺める。確かに、この機だけは製造番号が削り取られている。所属部隊は確かに分からない。ひと目見て分かるような塗装がされていないのだ。深緑に下部はクリームのような、白のような色。至って普通の零戦じゃないか。

 そうこうしていると、どうやら兵は何かに気付いたようだ。

エンジンに近寄り、推進式単排気管と言った場所をよく観察し始めるのだ。私にはそれが何だか分からないが、排気口のようなものであることは確かだ。それが何かあるのだろうか。

 

「……少し違う、な」

 

「何か分かったのか?」

 

「えぇ。小隊長。こいつは多分、零戦六四型。報告には五二型として、備考に五二型には見られない特徴もある、としておいて下さい」

 

「分かった」

 

 零戦六四型、聞き慣れない零戦の型番だ。それを言われて分かる人間など居るはずもなく、私は言われた通りにメモに書き込んだ。

 その後、後続の中隊が続々と到着。機甲師団もすぐに空港内に入り、トラック等の輸送部隊も到着していった。その時には大々的に空港内の調査が入ったが、結局掩体壕に隠されていた機体がどのようなもので、どうしてここにあるのかは全く分からなかったそうだ。

ちなみに報告では、例の兵が言った通りに報告。違和感を持った師団長が台湾を経由して総司令部に報告したそうだ。写真を何枚も撮り、それを現像とデータ両方を本土へと送りだすことになった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 第六師団の任務はまだ終わらない。バスコ空港を手中に収めた私たちは、そのまま西進。西の海岸線にある市街地へと入る。私たち第二○連隊は師団から先行し、一足先に市街地へと入っていた。師団本隊の到着は半日後とのこと。

中隊長は各小隊長を集め、これからの指示を出した。私の小隊は市街地中央を調査しながら進むことになる。道中、軍・人の痕跡を探しながら進み、途中、師団本部を置ける場所を探さなくてはならない。割りと重要な任務ではあるが、これは他の小隊にも課せられている。担当地域が違うだけなのだ。

 46人の部下を引き連れ、人気のないゴーストタウンを進む。自動車なんて足はなく、徒歩で小銃を構えたままだ。

張り詰めた空気が包み込み、日差しが体力を徐々に奪っていた。

 この市街地に入った時の第一印象は『古い』だった。とにかく何もかもが古い。道路は舗装されておらず、アスファルトも敷いてない。街路には電灯がかなり離れた間隔でしか立っておらず、信号機なんてものはない。両脇に立つ建物も、高くて4階建て。それ以上の物はない。一番高いと思われる時計塔でさえも5階建てない程度だ。そして木造ばかりで、鉄筋コンクリート製のものは一区画で1つあれば良いほうだ。

時々覗き込む建物の中はホコリだらけで、どう見ても劣化してボロボロの商品しか置かれていない。

 

「もう少しで陽が傾きます。野営出来る場所を探しませんと」

 

「そうだな。よし、そこの4階建ての建物に入ろう。屋上の上に更に何かが立てられている。夜はそこに交代で見張りを置こう」

 

 もう日の入りの時間が迫っていた。さっきまでカンカン照りだったのに、もう夕焼けに染まっている。建物に入り、中を調査している間には夜になってしまっていた。

各部屋、階を調査していた分隊からそれぞれ報告を聞く。どうやらこの建物は地上4階建てのみ。出入り口は表に大きな扉が1つと、裏手に小さい扉が1つだけ。それ以外はなく、2階から上には窓があり、ベランダは無し。4階から上に上がると、屋上に上がるタラップがあり、そこを出ると物干し竿があるだけだったそうだ。中も至ってその通りで、棚は壊れ、商店だったんだろうが、商品は須らく劣化していた。本のようなものはなく、新聞もない。3階から上はどうやら居住スペースだったということが分かり、水回りはあるが水は出ない。それだけだった。一応、3階、4階は軽く掃除しておいたとのこと。

 陽が完全に沈むと、見張りを交代しながら食事を摂る。その間にも連隊には報告を送っている状況。他の部隊がどのような場所で野営しているかは知らないが、人の声や銃声が聞こえないとなると、比較的安心出来る場所を確保しているということだろう。

程なくして、自分の見張りの番まで仮眠を取る時間となる。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 市街地には人っ子1人も居なかった。それが第二○連隊が出した答えだった。確かにこのバタン島には人の居た痕跡があるが、今も人が住んでいるかと言われると首を傾げざるを得ない。

西進を続けた結果、西端の海岸に到着してしまったのだ。それまでに兵は誰も人と会わず、1人として死傷者を出すことは無かった。そして、ある程度の痕跡を見つけることが出来たのだ。それは、軍隊が居た跡。野営したような痕跡、銃撃戦をしたのか空薬莢が散乱し、血飛沫が舞った跡もあったのだ。だがそれだけ。戦死体は白骨化しており、戦闘服ももう何が何だか分からない状態だったのだ。ただ分かることは、空薬莢は自分らが使う自動小銃と同じ物を使っていたのと、それ以外にも西側のものも混じっていたことだ。放置されていたオンボロの兵器たちも同じようなものだった。

そういうものに詳しい兵曰く、この市街地は『兵器の骨董市』だという。退役していなければならないものがわんさかあったからだ。それに見つけていたのだ。砂とホコリを被った自動小銃本体が。

 第二○連隊は市街地西端で待機。師団が到着し、そのまま南進を開始。結局、バタン島に上陸した第六師団は小さい事柄を幾つか得ただけで、現地民との接触も何も無かったのだった。

ただ、師団本部がバスコ空港で発見した航空機たちに関する報告は、総司令部まで上がっていったようだった。他の報告も全て上がったのだが、それに関してはかなり興味を示していたという。約10日間のバタン島上陸は南端にあるイトブットから強襲揚陸艦によって回収されることで幕を閉じたのだった。

この上陸がどのような意味をもたらしたかは分からない。それに私らの小隊が調査したところ以外でのことは、何1つとして起きた事柄を知ることはないが、私たちの発見だけでも何か作戦を左右するようなことになったのかもしれない。

通過した都市部には人の気配がなく、戦闘した跡が残っており、遺された装備は全て骨董品。こんな状況のバタン島が今後の動きに大きく左右するか等は、一介の士官である私には何も分かることは無いだろう。

 

 





 前回からあまりスパンを開けずに投稿しました。その1を上げた時点で、その2も書き終わっていたんですけども(汗)
 今回閑話ということで2話書きましたが、閑話とは言え本編に関係のある話です。登場人物に関する勘ぐりもありますが……その辺りは触れません。

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