今までは内容から読み取らなければならなかった設定も起こしてありますし、今後も必要に応じて投稿して行こうと思います。
満開だった桜も散り始めた頃、"今まであったこと"を思い返しては己の無能さや非力さを嘆いてきた。もっと力があれば、もっと頭が良ければ、もっと己を強く持つことが出来れば……。
考えて、考えて、考えて……それでも結局"それが無意味"だと悟った。
それさえも必要とせず、ただ己が意思を赴くまま突き進む。これまでの行動の結果を棄て、戦術的思考を放棄する。人が生まれ持つ直感を信じて進むのみ。それでも駄目だと悟ったならばどうするべきか……。
「こうするんだよォ!!」
パチンッ。
それにより混乱する戦場。こちらの状況など知らない相手は、突然起きた小さな事象に困惑する。
大局を見直し、飛び交う号令がピタリと止む。大局を見ているのだろうか……。
「あぁん!! ひどいですっ!!」
目の前で長い黒髪を揺らしてわたわたと慌てている女性。厳密に言えば同年代ではあるが、ハッキリとは分からない。
名前は赤城という。正しくは『赤城型航空母艦 赤城』なんだけどな。艦娘と呼ばれる『特異的な能力を持つ少女』ということにはなっているが、その辺りははっきりしていない。ただ分かっていることは、艤装と呼ばれる軍艦を手足のように扱えることと、それを自分の身に纏わせることができること。歳を取らないことくらいだ。
まぁ、そんなことは気にしても仕方がない。誰も気にしていないからな。
「いきなり戦術を変えて……ッ!! 今までのワンパターンな行動は一体なんだったんですか?!」
「知らない!!」
そんな彼女と俺は将棋をしている。
どこでしているのかというと仕事部屋。俺が普段執務をしている執務室に置かれている、少し年季の入ったいい味を出している革のソファーに座り、机の上に将棋盤を置いている。
盤上での戦況はというと、俺の王将の駒が赤城の敵陣に浸透侵入している兵に囲まれている状況。自ら歩を前線に出さずに一点突破を狙ったツケが今来ているのだ。飛車と角行は既に赤城の手に堕ちている。左翼の後衛、銀将も陥落。
「ですが提督、こちらが優勢なんです!! 既にこの戦は私の手に落ちています!! ご覚悟を!!」
パチンッ。
赤城が駒を進める。今の手で王手がなされた。絶体絶命だ。こちらから手持ちの駒を出しても王手をかけられない上、王将の周囲には防御を固めた他の駒で移動できない状況。王手を取っている赤城の
完全に詰みだった。
「参った……」
「え? 今何と?」
楽し気な表情で、赤城は耳に手を当てて聞いてくる。
「参った。もう手が打てない。ここから足掻いても仕方ない上に、竜馬を取って竜王に駆られるのは格好悪いからな」
そういうと赤城は立ち上がり、ニコニコと笑う。
「ふふん!! 勝ちました!! やったー!!」
暇だとずっと言っていたから『将棋でもやろうか』と提案したらこのザマだったのだ。しかも赤城はルールをよく知らない状態からスタート。駒の動かし方だけを教えたらもうこの調子だったのだ。
赤城の手を読めずに俺の常套手段の
得意気な表情で喜ぶ赤城を見て、俺は悔しいとは思うがそこまでだった。楽しかった。こうやって誰かと何かをして遊ぶ、ということもほとんどなかったからな……。
この世界に来て、俺はずっと深海棲艦との戦争に目を向けていた。国内の世論や暗躍する敵対組織に注意していた。ただそれだけをこなし、それ以外は本を読んだり勉強をしたりなどをしていた。どれも独りで出来ることだ。
だからこうやって誰かと遊ぶのが楽しいことだったなんてな……。いやまぁ、ちょくちょく遊んでいるとは思うけど。グラウンドで。……まぁ、それとは違う室内での遊びって意味で、だ。それにそれも"この世界"に来て数か月の"何も知らない時"の話だ。それからはずっと、ずっと、ずっと、俺は何かと戦っていた。それは1つではなくて、色々な相手と。だがそれも、もう過去の話だ。
「結構時間を潰しましたね。そろそろお昼に行きますか?」
「ん? それもそうだな。時間にもなったし」
赤城のその声に反応し、俺は部屋の壁に掛けられている時計を確認する。時間は午前11時57分。もう少ししたら昼食の時間だ。
机に出されたままの将棋盤と駒を片付け、俺たちは執務室を後にする。向かう先は食堂だ。
『今日のお昼は何でしょうね』と、赤城と話しながら道中を過ごす。
そう遠くない食堂までの道のり、他の艦娘たちに混じりながら向かっていくと、だんだんと食欲を掻き立てるようないい匂いが漂ってくる。発生源はもちろん食堂だ。
「お昼ご飯を食べた後はどうしますか?」
もうすぐ食堂に着くというタイミングで、赤城が不意にそんなことを聞いてきた。
俺は"いつも通り"、特に考えていない。何かあるというのならば、それを優先しよう。
「特には。いつものように読書か勉強。何かあればそっちを優先だ」
「ならば提督、重要案件があります」
何だ? 俺の知らないところで何か起きているのだろうか。
そんなことを言われたが、この後赤城はこの話題に一切触れなかった。
今起きているであろうことを想像しながら、俺は昼ご飯を食べる。いつも食べている間宮のご飯だが、今日も美味しい。絶妙なさじ加減で味が整えられているのだ。何というか、もうプロの域だ。プロ。料理人として、どっかの料亭でもフレンチでも中華でも是非にと雇ってもらえそうなレベルだ。
とは考えるものの、本人に対してそんな風に言ったことはなかった。ただただ『美味しかった』と言うだけ。きっとこれだけでも気持ちは伝わるだろうからな。
結局赤城が何を重要案件としているのかを考えていたのに、間宮のご飯ですっかり忘れてしまっていた。
食べ終わるのと同時にそのことを思い出し、俺はまだ横で食べている赤城を視界の端に入れながらテレビを眺める。
今見ているのは昼の報道番組だ。話題としては最近巷で話題のスイーツ、商店街、ファッション。婦人向けの内容で固められている。
こういう時間にテレビを観ているのが専業主婦をしている女性が多いことから、そういう層を狙った内容になっているのだ。小さい頃は不思議に思っていたことだったが、今となっては分かることも多い。少し考えるだけで、普段不思議に思っていることの解が見つかることなんて珍しいものではない。このテレビのことだってそうだ。
そんなことを考えていると、どうやら赤城も昼食を食べ終わったみたいだ。俺と同じようにテレビを眺め始めたのだ。
ーーーーー
ーーー
ー
赤城に重要案件があると言われてから、昼食はいつものように食べることができなかった。昼食が終わって執務室に戻るなり、赤城が例の件について話をするとのこと。
俺と赤城はソファーに腰を沈め、向かいあった形で話をすることとなった。
正面の赤城が緊張した面持ちで、俺の顔をジーッと見ること10秒。やっとその重要案件に関して、俺は聞くこととなる。
「重要案件とは……」
少し溜める赤城をせかすことはせず、俺は黙って聞く。
「南西諸島沖の制海権を確保したことによって、私たちは再び海を暴れまわることになりましたよね?」
「確かにこれを橋頭保に再奪還をする予定ではあるけど……というか、海を暴れるって」
言い方に少し反応してしまったが、今はそこが重要ではない。赤城から伝えられる重要案件が一番重要なのだ。
もしかしたら俺が気付いていないところで、赤城だけが気付いていることがあるのかもしれない。それを重く受け止めた赤城が俺に『重要案件』という言葉を使ったのだと考えた。
「それで考えたんです。私たちの現状を。そうしたら……」
「そうしたら?」
少し溜めた赤城が目をカッと開いて言ったのだ。
「このままでは資源が底を尽きますッ!!」
俺はその言葉を聞くなり立ち上がり、椅子に座った。そんな俺の行動見て、赤城はドヤ顔をしている。
何だか負けた気分になるから、俺は一言言うことにした。
「それは俺が帰ってきた時に報告していたじゃないか。自分自身で」
「え?」
そう。俺が療養もとい隠居治療をして戻ってきた日の次の日、赤城が長門や鈴谷、金剛と共に報告に来ていたのだ。鎮守府にたんまり溜めていた備蓄資源を大本営経由で民間に売りさばいた、と。その辺りの説明はどうも曖昧だったからよく分からなかったが、別に俺はそのことを怒ったりはしなかった。状況を鑑みれば……普通のことだったと考えるべきだろう。
「しかももう手を打ってある。今日から日本皇国内にある資源各種の残りを確認して、大本営経由で買い上げる予定だ。幸いにも、我横須賀鎮守府の財政は潤っているからな」
と言って、俺はピラピラと書類を振る。それを赤城に渡して、俺は肘を突いた。一方赤城はというと、俺から受け取った書類に目を落として、見慣れた表情にみるみる変わっていく。
そう。赤城は超が付くほどのうっかりさんなのだ。これが色々な場面に響く上、艦娘たちから絶大な信頼を寄せている赤城ではあるが、信用は点で無いのだ。本当に残念な子……。
「あっ……あの……」
「ん?」
そう声を震わせながら、赤城は俺にあるものを差し出した。それは書類だ。
内容を確認すると、どうやら大本営経由で国内にある資源を少し買い付けをする趣旨の内容だ。ちなみに書類と言ったが、正式書類じゃない。便箋に手書きで書いてある。ということはつまり、直接大本営にいる海軍部長官の
もしそれが郵送前のものだったのなら、封筒に入れているはずだ。だが赤城はこれをペラッと出しただけ。
俺は恐る恐る聞いてみた。
「赤城」
「は、はい……」
「これって、もしかして……」
「……下書きです」
あぁ……完全にやらかしている。もう最後まで聞かなくても分かる。下書きしかないのだとしたら、清書されているものがあるはず。そして下書きが必要なくなったから、こんな風にしてペラッとどこからともなく出せるのだろう。
ということはつまり……。
「どっちで出した?」
「速達です」
てへっ、と言いたげな仕草をした赤城に、俺は心底脱力した。話しも電話口で付けてあったし、その手続きも始めていることだろう。そんなところに速達で赤城から郵便が届くなんて……。
俺は頭を掻いた。赤城のうっかりさんは健在だ。しかも以前よりも猛威を振るっている。
大きなため息をついて、俺は赤城に言った。
「本当にうっかりさんだ……」
「すみませぇん」
ーーーーー
ーーー
ー
赤城の出した郵便は結局新瑞さんの手まで渡ってしまい、その直後に俺から正式書類が郵送されてきたものだから混乱したそうだ。俺に電話口でそう言っていたから確かだろう。
結局、資源の方は目途が立った。国内にある必要最低限分を残して石油と鋼材、ボーキサイトを抑えることに成功。弾薬はそもそも使うところがないので、丸々残っていた。それらが送られてくるのは数日後らしい。そして、あることを新瑞さんから聞くこととなる。
『端島鎮守府の再稼働が決まった。これまでは資源がなく、活動が出来なかったが、九州方面の生き残っている船で船団を形成、無傷で到着。積み荷を降ろすことができたらしい。これによって、時間は掛かるが支援の出来る態勢を取ると連絡を受けている』
その言葉に少し引っ掛かりがあるが、端島鎮守府なら仕方のないことだろう。
ここは日本皇国内に存在する、俺以外が指揮を執っている鎮守府。それでも戦闘力はまるでなく、横須賀鎮守府から派遣した水雷戦隊と端島鎮守府の主力部隊をぶつけてもこちらが余裕で勝ってしまうほどに差があるのだ。そのようなところであるが故に、主な任務を海運としている。資源を調達できる要衝と端島鎮守府を経由して呉に運び込み、国内に循環させることが主任務となっている。その為、駆逐艦や軽巡が多く活躍しているらしい。大型艦は何もできないのだとか……。
俺はその話を訊き、返事を返した。
あまり干渉することのほどでもないからだ。
「分かりました。心に留めておきます」
『あぁ、頼んだ』
そう返事をした新瑞さんと電話を終えた。もう要件は終わりだったみたいだ。
俺としても話しておかなければならないことは、今のところなかったからな。
近くで腰を下ろしている赤城に、俺はあることを伝える。
今回の件だ。
「一応話は付いた」
「本当ですか?」
「無事に処理されて、もう数日後には到着するらしい」
「そうですか……よかった……」
「あぁ」
俺はそう言って立ち上がる。これで執務は終わりだからだ。緊急の要件がない限り、俺の仕事は朝のうちに終わらせているからな。
それはいつものことだし、これからもそうだ。
「赤城」
「はい」
そんな俺は赤城に声を掛ける。赤城も秘書艦としての仕事は終わっているからな。
「何か、甘いものでも食べに行くか」
「良いですね!! 行きます!!」
俺は財布を手に取り、赤城と共に執務室を後にする。
向かうところは……どこでも良い。ただ、鎮守府からは出られないな。そういう決まりになっているからだ。それでも赤城は一度出たことがあるし、他にも出たことのある艦娘がいる。俺はというと、立場が立場ということで、護衛が必要みたいだ。あまり目立たない程度の護衛と一緒に買い物に出掛けることはある。それでも、あまり外に出る回数は少ないな。
……なんだかネオニートみたいで嫌だけど、そんなこと気にしてなんていられないな。
次回からは少し投稿が遅れ気味になっていきます。それに、上から下まで結構激しい動きをすると思いますので、ご注意ください。
ちなみに、ここからは一人称視点で物語を書いていきます。内容によっては提督視点での本文にならない可能性もありますので、よろしくお願いします。
ご意見ご感想お待ちしています。