せっかくモードレッドに憑依したんだから遠坂凛ちゃん助けちゃおうぜ!   作:主(ぬし)

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娘を抱っこしたまま階段で滑って尾骶骨を強打したので身動きがとれません。痛い。なので文章が短いです。許して。


10話

‡憑依モードレッドサイド‡

 

焦燥する凛に急かされて衛宮邸に向かったオレたちを待ち受けていたのは、やはりと言うべきか、原作そのままの流れだった。脱兎のごとく遁走するランサーの気配と、召喚されたばかりのサーヴァントの気配。“世界(セカイ)の修整力”という概念は知っていたし、もしかしたらとも身構えていた。けれど、本来の流れであれば、“学校内でランサーに一度殺されて凛に命を救われる”という段階を経た後に衛宮士郎が7人目のマスターになるはずだった。それらをすっ飛ばしても結局、士郎はマスターとなる運命なのか。

ということは……

 

(召喚されたサーヴァントも、やっぱり()()()()()なのか)

 

アーサー王(アルトリア)

その名を心中に呟くと同時に、胸のなかで処理しきれない激情が大蛇のように渦を巻く。処理できないのは、これがオレ自身のものではなくモードレッドの感情だからだ。

モードレッドにとって、アーサー王とは単なる主君でもなければ親でもない。いつか追い付き(おいおとし)たかった背中という、強烈な尊敬と嫉妬の二重対称なのだ。

 

だから、理解でき(わか)る。

アーサー王(オリジナル)の接近が!

 

「凛!邸内から新手のサーヴァントが出てきます!下がって!」

「えっ!?まさか衛宮君がマスターに!?」

 

凛の俊敏なバックステップを確認すると同時に、オレはクラレントを防御のために大上段に構え、腕と脚部の関節に力を込めて全身をロックする。続いて闇夜を背景に翻るのは聖剣の神秘的な剣閃(かがやき)

 

「ぐうっ!」

「なっ!?」

 

転瞬、両腕に走る衝撃。凄まじい衝突音が大気をビリビリと振動させる。杭打機、いや削岩機に匹敵する剣撃が骨身を襲い、その威力に度肝を抜かれる。ランサーをも超える技の冴えだ。一流の武道家たちは拳を一瞬交えただけで双方の実力を悟ると言われる。だから、そのたった一合だけで、オレたちは互いの力量を理解した。そして一流を遥かに超える英霊たるオレたちは、言葉より多くを察した。互いの過去を───生き様を───()()を理解した。

 

「よもや、貴様は……!?」

 

そう呟いた襲撃者を渾身の力で弾き返せば、相手は風に流れる木の葉のように空中でヒラリと舞って華麗に着地する。白銀の鎧が軽やかな金属音を立て、金色の髪と青天色の装束が月夜の明かりを受けて滑らかに風に流れる。稚気を残せど気高い美貌、内省的な影を宿すエメラルドグリーンの瞳。紛れもない、まさしくアルトリアその人だった。

愕然と見開かれたその双眸に映るのは、彼女に瓜二つのサーヴァント───オレだ。

 

「モードレッド……!!」

 

驚愕から一転、怒髪天を衝くが如くセイバーの長髪が逆立ち、整っていた顔面が憤怒に引き攣る。セイバーにとってモードレッドは祖国に弓を引いた反逆者そのものだ。怒りを伴って相対(あいたい)するのは当然だ。

 

()()()()()……!)

 

一方のオレはどうか。自分自身、アルトリアと面と向かい合うことになったらどうなるのか、予想も付かなかった。モードレッドと記憶が融合しているオレという混ざり物は、彼女を前にしてどんな反応をすることになるのか、想像も出来なかった。それは原作ですら起き得なかったイベントだからだ。ただ、とんでもない反応が自身に起きるということは確実視していた。今、オレの心に襲いかかっているこの激情のように。

 

「ぁ───」

 

そそり立つ崖の岩肌のようにささくれたモードレッドの心に、あらゆる感情が大波となって打ち寄せてくる。飛沫を上げて叩きつけられるたび、精神の柱がグラグラと揺れる。モードレッドの冷たくも熱い想念が怒涛の如く押し寄せてくる。これは───“恨み”と“嫉妬”、そして───。

 

「アーチャーに瓜二つ?いえ、()()()()()()()()()ということ?それじゃあ、このサーヴァントは……!?」

 

凛の声が震えている───いや、震えているのはオレの方だ。微震する肩に合わせて鎧がカタカタと音を立てている。反逆者(モードレッド)の目前に現れ出でた元・主君(アーサー)。聖杯戦争でしか目にし得ないこの皮肉な構図を前にして、さしもの凛も動揺している。

我知らず、クラレントを握る手にギリリと力が籠められる。飛び掛かる寸前の猛獣のように全身がザワザワと総毛立つ。沸騰する湯のように心中がボコボコと煮え立つ。ああ、もうダメだ。もう、オレはオレを抑えられない。手元から暴れ馬の手綱が離れてしまうイメージとともに、オレの肉体は弾かれるように勝手に動き出す───。

 

 

 

 

 

 

 

‡士郎くんサイド‡

 

「父上ェ───ッッッ!!!んむぅぉおおしわけッッッありませんでしたァアア─────ッッッ!!!!」

 

ザシャアアア───ッッッ!

激しい擦過音と土煙を伴って、そのパーフェクトジャパニーズDOGEZAは完成した。妖精のように可憐な容貌の西洋美少女が見本のような土下座をして、地べたに額をゴリゴリと擦り付けている。

 

「父上ぇえええ↓オレは───オレ───オレは───オレ───オレはぁああ↑あぁああ↓ぅぅあぁぁぁうう↑」

 

アシカの鳴き声じみた嗚咽がおうおうと上下しながら夜空に響き渡る。垂れ流される涙と鼻水とヨダレでアスファルトがビチャビチャに濡れていく。こんもりと丸められた背中はぶるぶると震えて、全身全霊の謝罪であることを目前の者に伝えている。正直、見ているこちらが居心地の悪さを感じるほどの平謝りっぷりだ。彼女が先ほどまで握っていた大剣はどこへ行ったのかと目線を泳がせると、放り投げられたらしく我が家の石垣と土塀のあいだにグッサリと突き刺さっていた。ああ、修理に手間がかかるぞこれは。

ちなみに、その真に迫る謝罪の対象はというと、

 

「は……?も、モードレッド……?き、貴様、なに、なにをして……?」

 

奇妙キテレツなことに、その西洋美少女とまったく同じ顔をした俺の命の恩人(セイバー)だった。こちらは謝られていることが不思議なのか、それとも謝り方が不思議なのか、とにかく混乱の極みに陥っている様子だった。迎撃のために正眼に構えていた大剣が振り下ろす先を見失ってふらりふらりと所在なく揺らめいてる。

風に流れる雲間から月光が差す。それに照らされたのは、土下座する美少女と、土下座される美少女。それぞれの背後には、俺と、何故かクラスメイトの遠坂凛。

 

「“父上に瓜二つ”って本当だったのねぇ……」

 

あんぐりと開いた口から溢れた呟きの内容はまったくもって意味不明だったが、そんな俺にでもとりあえず理解できたことがあった。それは、

 

「戦わずして相手を土下座させるなんて……!セイバー、いや、セイバーさんと呼ぶべき、なんですかね!?」

「ああっ!?マスターに不本意な尊敬をされている!?」




このシーンを描きたかったがために書き始めたといってもいい。とりあえずここまで辿り着けてよかったです。
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