せっかくモードレッドに憑依したんだから遠坂凛ちゃん助けちゃおうぜ! 作:主(ぬし)
‡士郎くんサイド‡
「───というわけで、衛宮くんは今回の聖杯戦争に参加するマスターになったってわけ。ここまではわかったかしら?」
「まあ……納得はしてないけど、理解はできたよ」
「よろしい」と腕を組んで頷く遠坂凛。なぜだか俺は今、深夜の自分の家の居間にて、学園で最たる才女と名高い遠坂凛から“聖杯戦争”なる理不尽な魔術儀式の説明を受けていた。それによると、俺は魔術師たちが召喚した“サーヴァント(過去の英雄たちの霊魂らしい)”による戦争の参加者として強制的にノミネートされたのだそうだ。なんでさ。
「でも、なあ」
「なによ、文句あるの?言っとくけど、本来なら私は貴方の敵なんだからね。て〜き!わかる?懇切丁寧な説明をしてあげてるだけでもありがたいと思いなさいな」
如何にも“お嬢様”といった普段の優雅な物腰とはガラリと異なったざっくばらんな口調と態度に面食らう。そういえば一成も「遠坂凛は猫を被っている!」と事あるごとに口を尖らせていた。そのことからも察するに、目の前で披露されているこちらの姿が本来の遠坂なのだろう。少し驚きもしたが、人間ロケットを目撃した後では何もかも大したことではないように思える。というわけで、それはいったん横においておくとして。
「いや、俺が言いたいのはそのことではなくて」
俺は“違う違う”と顔の前で手を振ったあと、その手から人差し指を伸ばすと縁側を胡乱げに指す。
「
俺の視線の先には、2人の女の子が縁側で庭に向かってちょこんと並んで腰を下ろしていた。髪留めやスカートの赤と青という色合いを別にすれば双子のように見える後ろ姿だが、あれで親子───しかも“父上”と“息子”!?───というのだから驚きだ。緊張に肩をピンと張る2人の間にはきっちり1人分の空間が空いていて、その隙間には目には見えない分厚い壁がみっちりと詰まっているように思えた。それくらい、傍目から見ても気まずい雰囲気だった。
「ええっと……ご、ご健勝ですか、父上……?」
「え、ええ……」
「……あっ、さ、さっきは急に土下座なんかしてすみませんでした。こんなところで父上にお会いできたことに驚いてしまって……」
「ああ、いや、その、私も取り乱してしまって……」
「……そ、その……クラレント、まだお借りしたままで……お返しした方がよかったり……?」
「あ、いえ、べ、別に……」
時折、遠坂の連れの女の子───彼女もサーヴァントらしい───であるアーチャーが気を振り絞ってなにかと話しかけてみるも、ランサーと戦っていた際とは打って変わってすっかり精彩を欠いているセイバーに話題を膨らませる余裕はない。懸命に投げ出された会話のフックは引っかかることなく水中にトプンと哀れに沈む。沈黙の湖面は一つ波打てどすぐに静まるといった具合で、傍から見ているこちらの方が居た堪れないほどだ。
「“親子水入らず”って言うけど、アレは水どころかダムだって間に入りそうなくらい隔絶があるんじゃないか?アーチャー、困ってるぞ」
水を向けた先の遠坂は胸の前で腕を組んで眉をハの字にして「そりゃあね?」と唸る。
「乗りかかった船ではあるし、私だってなんとかしてあげたいとは思うわよ。アーチャーのことは相棒として気に入ってるし、解決してあげるのも吝かじゃないわ。でもねえ、親子間の問題だしぃ?」
「そんな行政の民事不介入みたいな」
「あのねえ!そうはいっても、アーサー王とモードレッドの確執なのよ?苦労して国を興した国王と、それをブチ壊した息子。そんじょそこらの親子喧嘩レベルじゃないのよ。私なんかの手には余るわ。衛宮くんなら仲裁できるっての?“まあまあ、ここは一つ僕の顔に免じて”とでも?」
「うむむ。そう言われると……」
アーサー王とモードレッド。世界史やそれらに類する伝説に疎い俺でも薄ぼんやりと耳にしたことはある、ヨーロッパ屈指の英雄と反乱者の名前だ。そんな有名人の彼らが───いや、彼女らが我が家の縁側に気まずそうに座っている。しかも女の子2人というビジュアルで。居心地悪そうにお互いに小さな尻をモジモジとよじらせながら。
「結局、目の前の戦いに集中するためにも、本人たちに区切りをつけてもらうしかないのよ」
机に肘をついた手に形の良い顎を乗せて、遠坂が鼻息を一つ漏らす。
「ま、大丈夫よ。うちのアーチャーなら出来るわ」
そう言うと、遠坂は自身のパーソナルカラーと同じ赤色の背中に静かな視線を向ける。その柔らかな瞳には確かな信頼が湛えられているように思えた。俺も、セイバーとそういった関係になれるのだろうか。拳を固めたおれは小さな声でガッツを送る。
「頑張れ、セイバーさん……!」
「……不本意な……不本意な尊敬ぃ……っ!」
「ああっ!父上が苦悩しておられる!」
次回、和解(ラップ調)。