せっかくモードレッドに憑依したんだから遠坂凛ちゃん助けちゃおうぜ!   作:主(ぬし)

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「親子参上
おや?この惨状
一旦謝罪で
確執返上
共闘一緒にどうでしょう?」
作:礎ゑなり様

エミネムに歌って欲しいくらい好き


12話

‡憑依モードレッドサイド‡

 

(き、気まずい……!)

 

衛宮邸の縁側に腰を下ろしたまま、強張った背を丸めたオレは口端をヒクヒクと引き攣らせていた。ゲームやアニメや漫画で何度も目にしたあの衛宮邸に自分がいる。その現実に感動の一つも覚えたかったけれど、残念ながらそんな心理的余裕はひとかけらも味わえない。何故なら、オレのすぐ隣にはセイバー……アーサー王(ちちうえ)が座っているからだ。

()()()()()()()。その事実だけで心身は雑巾のように固く引き締まり、染み出した脂汗が背筋を濡らす。先ほどの全力土下座のときも同じだ。父上を目にすると、モードレッドとしての感情が火山噴火のように身体の底から湧き上がってくる。

 

(これは……モードレッドの()()()()だ)

 

意を決して次期王の後継者に選んで欲しいと父上に迫った記憶が額の内側にリアルに閃く。そのときは、夜に供された仔牛肉の味がまだ口の中に残っていた。自らを励まそうと飲み下した酒精の強いワインの酔いが喉にこびり付いていた。

 

 

『モードレッド、お前に王の資格はない』

 

 

その声は石の壁に幾重にも反響して耳朶を打った。拒絶された際のショックが胸に深く突き刺さった痛みも生々しく()()()()()。父上が立ち去ったあともオレはその場から動けなかった。窓の外は月のない夜だった。ロウソクのか細い明かりが空になった玉座を妖しく照らしていた。

 

『オレは王の器ではないか。やはり……やはりか。そんなにオレをお疑いか。そんなにオレを厭うか。愛しの父上よ』

 

握り締めた拳に爪が食い込み、流血が床を汚した。愛してほしかった。認めてほしかった。でも、叶わなかった。純粋な期待を裏切られ、オレのプライドはズタズタに切り裂かれていた。尊敬も愛慕も、同じだけの熱量でもってベクトルが暗黒の方向に反転した。肉体が破裂しそうなほどの憎悪が荒れ狂っていた。

玉座を射抜くようにまっすぐ睨みつけながら、オレは血が出るほど唇を噛み締めて決意した。父上を裏切ってやる、そしてオレのことを嫌でも認めさせてやるのだと───。

 

 

 

 

「モードレッド、貴様に尋ねたいことがある」

 

 

神妙な声に意識を叩かれ、過去の呪縛から解かれたオレは隣の父上をハッと見やる。父上はオレの顔を見ることはなく、庭の小さな池に映り込む月に視線を注いでいる。そう、父上は、まだ一度もオレとちゃんと向き合ってくれてはいない。

 

「はい、なんなりと、我が王。(それがし)は全てお答えする所存です」

 

家臣として応じるべき場面だ。肌でそう理解したオレは居住まいを正すべく縁側から滑り降りると父上の正面で地に膝をつく。反発心のカケラも見せず従順そのものの騎士の態度に、父上がわずかに息を呑む気配がした。そんな反応をするのも仕方がない、と第三者の視点で思う。セイバーがもっとも会いたくない英霊は、ランスロットよりも、やはりモードレッドだっただろうから。

そもそも、アーサー王(アルトリア)は特殊な英霊だ。厳密には()()()()()()()()()なのだ。死の直前に世界(セカイ)と契約してサーヴァントとなり、願いを叶えてもらうために魂だけが様々な時代や異なる時間軸に召喚されている。だから………だから、セイバーの体感では、反逆者モードレッドを、自分を“父上”と慕っていた家臣を相打ち覚悟で突き殺したのは、つい先ほど───わずかほんの数分前のことなのだ。その手には未だにモードレッド(オレ)を貫いた際の感触が残り、網膜には息絶えていく姿が焼き付いているに違いない。それ故に、父上はオレの目を直視しない。()()()()のだ。

 

「貴様が謀反を起こしたのは……私があの夜、貴様を拒絶したからか」

 

断定を多分に含んだ問い掛けだった。その苦しげな声音に、オレは“父上にも心当たりはあったのだ”と沁みるように悟った。同時に、“それも当然だ”と彼女たちの物語を読者の視点で俯瞰できるオレは思う。

 

(そもそも、アルトリアはモードレッドを嫌ってはいなかった。そこからボタンの掛け違いが始まったんだ)

 

モードレッドの出自───アーサー王の破滅を願って創られたクローン───を知ってもなお放逐することはなく、逆に騎士としての武功を認め、円卓の一員として迎え入れた。その証拠に、遠征でアーサー王が玉座を空ける際はモードレッドが王国の護りを任されるほどだった。内政面の実力すらきちんと評価され、信頼もしていたのだ。モードレッド自身も王からの信頼を誇りに思っていたし、それを下地にして己を後継者に指名してほしいと大きく願い出た。

でも、モードレッドは大きな勘違いをしていた。信頼されていることと()()()()()()()()()()()()()()はまったく異なる次元の話なのだ。

 

(セイバー……アルトリアにも余裕はなかったんだよな)

 

己の存在証明に躍起になる余り、モードレッドはブリテン王国の頂点として王冠を戴くことの本質的な意味を理解できていなかった。即ち、()()()()()()を。

理想の国家を目指す過程で、王は法の天秤としての役割を厳格に強要されていき、人間性が排除されていく。理想の化身、理性の権化、完全無欠の守護者。そんな非人間的なナニカと成り果てていく。そうした己の致命的な()()をアルトリアは明確に認知していた。そんな使命と孤独の重荷を他者に背負わせることに引け目を感じていた。だから、アルトリアはモードレッドを拒絶した。だから、モードレッド(オレ)アルトリア(ちちうえ)に拒絶された。

 

(アルトリアからしてみれば、ただ“()()()()()モードレッドはブリテンの王としての適性はない”と伝えたかっただけ……。でも精神的に飽和していたアルトリアは、モードレッドに寄り添うように丁寧に説明することが出来なかった。モードレッドにもっとも必要だったのは、その“寄り添うこと”だったのに)

 

言ってみれば、これは単なる悲しいすれ違いだ。自らの半端な出自ゆえに「父上に認められたい」と強く願い、その裏返しとして「認められなければ己には価値がない」と焦るモードレッドと、信頼しているが故に言葉が足りなかったアルトリア。絶望的に異なる背景を持つ双方の不理解が行き着いた悲劇の結末なのだ。

 

「……はい、我が王。仰る通りです。あの夜、(それがし)は決起を覚悟致しました」

 

モードレッドとして静かに告白したオレは、そのまま視線をチラと転じる。その先には凛。念話は必要なかった。オレのことをそっと見守ってくれていたのだろう。凛はほんの僅かに頷きを返すと、士郎の首根っこを掴んで居間を後にした。慌てた士郎に「空気を読みなさいな」と口を尖らせる。去り際の流し目が「後悔のないようにね」とオレの背中を押してくれた。二人きりにしてくれたことに後で礼を言わなければと頭の隅っこにポストイットを貼った後、オレはすうっと鼻で一つ息を吸う。モードレッドであってモードレッドではないオレにしか出来ないことをするために。

 

「まずは、謝罪を。御身が幽明境を異にする結末を引き起こしたのはこの愚生に他なりません。配下たちは某の世迷言に扇動されただけ。故に付き従った者たちには一切の罪はありません。御容赦願いたく存じます」

「それは、私も同じ思いだ」

「しかし、我が王!御身には一言申し上げたいことがございます故、差し出がましいですがどうかひとつ最後までお耳を傾けて頂ければ幸甚に存じます」

「……?」

 

モードレッドの心を、想いを、噛み砕いて伝えるのだ。

 

()()。オレは、ファザコンなんです」

「ファ……?」

「オレは本当は父上が昔も今も大好きだってことです!!」

「だッッッ!?」

 

意外な告白に肩を跳ね上げて絶句する父上に、オレはにじり寄るようにして続ける。

 

「オレは、選定の剣(カリバーン)を引き抜くチャンスを聖杯に願おうとしていました。当然、オレなら引き抜けるに違いないと盲信していました。王になれる、と。貴方に取って代わることが出来る、と。それこそがオレのたった一つの願いだと思い込んでいました」

「今は違うと?」

「明確に違います」

 

Fate/Apocryphaの劇中において、様々な敵と戦い、経験を重ね、視野を広げ、艱難辛苦を乗り越えながら、モードレッドはついに辿り着いていた。己の()()()()()に。

 

「オレは……オレは、ただ貴方の隣に立ちたかっただけだったのです。貴方の重荷を共に背負いたかったのです」

「私と、共に……?」

 

心を塞いでいた栓が音を立てて外れた気がした。それが呼び水となってモードレッドの心が濁流となって溢れてくる。オレはそれを伝えるべきだった相手に届けるべく必死に言語化していく。モードレッドとオレとのシンクロがより深まっていく。

 

円卓の騎士たち(アイツら)は父上を()()していた。理想を目指す父上に、理想そのものを幻視していた。オレはおかしいと思っていました。アイツらは理想の体現者を欲して、それを父上に押し付けていた。諸侯の連中や草莽(そうもう)たちだってそうです。父上に都合のいい守護者の役割を押し付けていた。誰も父上の隣に立たず、(かしず)くだけだ!でも……でもなにより腹が立ったのは、父上がそれを良しとして受け入れてしまっていたことでした。ついに最後まで叡慮の一端もお漏らし頂けなかった。オレは……オレはそれが悔しかった。他ならぬ父上から助けを求められもしない、助ける実力も持たない非才の身が情けなかった……!」

 

そのとき、俯いていた父上が顔を上げて、初めてオレと向き合ってくれた。常に内省の色を宿す双眸が痛々しく細められていた。

父上自身にも自覚はあったに違いない。不安や不満だって数え切れないほど抱えていたに違いない。それでも皆の期待に応えるために骨身どころか魂も削って堪えていた。それを理解していた者は間近にちゃんといたのだ。

 

「モードレッド」

 

唇を震わせて漏れた呟きには、主君のそれとも肉親のそれともとれる人肌の温もりがあった。頬は紅潮し、その瞳はわずかに潤んでいるように見えた。きっとオレも同じだ。モードレッドとしてのオレが泣いている。辛いのではない。悲しいのではない。()()()()()()()()という温かい安堵が涙となって溢れてくる。

 

「悩んでいるのなら、苦しんでいるのなら、声を掛けて欲しかった。他ならぬ息子のオレにだけは、心の内を明かして欲しかった。……それがオレの想いの全てです、父上」

「……そう、か」

 

静かに目を細めた父上がその視線を夜空に転じる。エメラルドグリーンの瞳の海に黄金色の星々の輝きが満ちる。万の絵画に勝る神々しい瞳だと思った。星の光で鍛えた聖剣とはまさしくこの御方のためだけに在るのだと誰もが納得する姿に、オレは思わず心から見惚れる。

 

「……私たちは、もっと早く、腹を割って話し合うべきだったのかもしれない」

「……はい、父上」

 

染み入るようなしっとりとした声音に、オレはゆっくりと頷く。2人の吐息がシンと冷えた空気に白くたなびく。しばし目を伏せ、思いを馳せる。一方は夜空を見上げ、一方は地面を見つめ、だけどきっとオレたちは同じ“もしもの世界”を幻視している。“もしも、もっと話し合えていたら。そうしたら、ブリテンはどうなっていただろうか”、と。

時間にして一分ほどだろうか。父上がスッと深く息を吸う。それはアーサー王がなにがしかの決断を下す際に示す兆しだった。

 

「モードレッド。貴様……いや、貴方(・・)について、見極める時間が欲しい。私に猶予をくれないか」

「父上……!」

「貴方がこれほどまで立派な騎士として成長していたとは思いもよらなかった。ここまで大成する余地を育んでいたとは想像もしていなかった。それはひとえに至らぬ私の手抜かりだ」

「そんな、滅相もありません!御身がどれほど粉骨砕身されたことか……!」

「いいや、事実としてそうなのだ。貴方の言う通りだ。私はもっと周囲を頼るべきだったのだ。誰かに補われ、誰かを補うことを良しとして、己の不完全さを受け入れ、理想と現実の折り合いをつけるべきだったのだ。そしてそれは遅くない、と私は思いたい」

 

父上が見事な体幹ですっくと立ち上がる。果断とした迷いなき表情には意思の力が充溢し、その背には後光が差しているようにすら見えた。決断を下した歴史上の偉人とはかくもこうあるのだろうと思わせる荒野の獅子めいた迫力に、オレの心臓は熱く高鳴る。

 

「故にモードレッド、私は貴方を再びこの胸のうちに迎え入れたく思う。願わくば轡を並べる機会を得たい。許してくれるか?」

 

急に視界が歪んだ。水たまりに映る景色のようにゆらゆらと潤む。頬が濡れて雫が顎の先から次々に落ちていく。主君に諮られたのだから一刻も早くご回答申し上げなければならない。わかっているのに、喉がパクパクと開くだけで言葉が形を伴ってくれない。濁流を制御できず、制御することを諦め、オレはただひたすらに何度も何度も頷く。涙が散るのも構わず必死に頷く。そんなオレの肩に優しく手を置いた父上が微笑む気配がした。

 

オレたちは……アーサー王とモードレッドは、第五次聖杯戦争において、ついに和解を果たしたのだ。




描きたかったシーンその3でした。描けてよかった!
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