せっかくモードレッドに憑依したんだから遠坂凛ちゃん助けちゃおうぜ! 作:主(ぬし)
‡憑依モードレッドサイド‡
「□□□□□───!!」
曇天の真夜中、広大な外人墓地に轟々と響き渡る、太古の恐竜を思わせる咆哮。
身長2メートルを優に超える圧倒的な巨体と、岩のように黒い肌。第五次聖杯戦争のバーサーカー、真名をギリシア神話の半神半人ヘラクレス。狂化というバフを与えられた世界に名高き威容の大英雄が、雄叫びをあげて
そう、
「父上、コイツは難敵です。激せしめるには単騎では苦労すると愚考します」
「ああ、私もそう思う」
「意見具申を?」
「許す」
「オレが前衛、父上が本衛を願います。オレが隙を作ります」
「よし、それでいこう」
「バドン山で侵略者どもを蹴散らして以来、久々の共闘ですね」
「懐かしいな。その時はまだ貴方は“寡黙のモードレッド”と呼ばれていた」
「ち、父上!そんな昔のことを仰られて……!」
耳たぶを赤らめたオレの抗議を
「な……なによ、その落ち着きようは!?バーサーカーは強いのよ!?特別なのよ!?無敵なのよ!?」
銀長髪の少女───イリヤスフィールが戸惑いをあらわに肩を怒らせて雄叫ぶ。マスターの感情に反応したバーサーカーが丸太のような脚を一歩前に踏みだして大地がズンと震動させる。まっすぐ縦に伸びるイトスギが恐怖したようにザワザワと震える。胸筋を大鷲のように広げて堂々と威嚇するバーサーカーを前にしても、オレたちの精神に過度の緊張が強いられることはない。むしろ───
「シロウ、奴はアーチャーと共にここで打倒します。お下がりを」
「わ、わかった。セイバーさん」
「だから”セイバー”で結構ですってば!」
「リン、別に倒してしまっても構いませんね?」
「……やれるのね?」
「やれます。オレはリンのサーヴァントですよ?」
「ふふ、言ってくれるじゃない。私に出来ることは?」
「然るべき時に令呪のサポートと、得意のガンドで牽制を。令呪のタイミングについてはこちらに一任してください。ガンドのタイミングは任せます」
「令呪については了解。ところで、」
(牽制対象を敢えて伏せたわね?)
敢えて念話で呈された疑問に対し、オレはバーサーカーを前にして浮き足立つ士郎にチラと視線を転じる。それだけで凛はすべてを察してくれた。やれやれと首を小さく振って鼻息を一つ落とす。
「甘ちゃんそうだものねぇ。オッケー、了解した。じゃあ、
「お互いに」
目礼するオレに勝ち気な笑みを投げ返し、凛が士郎を連れて足早に戦闘エリアを離脱していく。さすがというべきか、わずか2回の英霊戦を経験しただけで被害が及ぶであろう範囲の程度を直感で理解したらしい。マスターとして頼もしく思う。オレとリンが出会ってから日は短いけど、原作のエミヤ・アーチャー並みに強い信頼関係が結べられているという確信があった。遠坂凛という傑物に認められた事実は素直に嬉しく、また誇りに思う。
ふと視線を感じて隣を見る。幼子の成長に感心するような驚きとほほ笑ましさが入り混じった表情の父上とパチリと目が合う。
「な、なんですか、父上。その生温かい目は」
「いやなに、貴方がそんな風に誰かと良好な主従関係を結べるほど騎士として成長していたとは、と素直に感じ入っていた」
「……オレは父上の息子ですから」
「……モードレッド……」
こんなことをしていたら、当然、放置されている側は怒る。
「〜〜〜ッ!
顔を真っ赤にしたイリヤスフィールがぶんぶんと両手を振り乱して怒りを顕にする。
「馬鹿にするのも大概にしなさいよ、サーヴァントのくせにッ!!」
「どうやらあちらのお嬢さんを怒らせてしまったようです」
「そのようだ」
決して忘れていたわけでも、侮っていたわけでもない。ただ、第五次聖杯戦争の舞台において、
オレたちは原作の流れの通り、凛が士郎を引率する形で冬木教会に顔を出すこととなった。そこでこの戦争を裏から掻き回している元凶、言峰綺礼と出会う。物語の登場人物としてではなく、血の流れる本物の人間として目にする言峰綺礼は、如何にも厳格な修行僧めいた引き締まった雰囲気を纏っていた。今までの来歴や第四次聖杯戦争でしでかしたことといった裏の“愉悦”に固執する本性を知らないと生真面目な神父にしか見えないのが腹立たしい。
そんな綺礼からなおざりな聖杯戦争のイロハを説かれてしばし歩いた後、やはり例によって例の如く原作の通り、バーサーカー陣営───イリヤスフィールの襲撃を受ける形となった。イリヤスフィールとしては衛宮士郎に対する奇襲の形をとったつもりだったが、当然、襲撃を予見していたオレが警戒を怠らない臨戦態勢をとっていたため全員が呆けることなく瞬時に対応できた。
さらにイリヤスフィールとしての誤算は続く。
「しかもそっくりなサーヴァントですって!?違う陣営同士が同系統の派生型英霊を同時間軸に重複して召喚するなんて、いったいどんな確率なのよ……!」
傍から見れば双子のように見えるのだろう。同じ英霊からセイバーとアーチャーに派生したサーヴァントと捉えられても不思議はない。実際、成長の止まったアルトリアと彼女のコピーとして生み出されたホムンクルスであるモードレッドはよほど近しい者でないと見分けがつかないほど似ている。設定上もそうだし、他ならない自分でもそう思う。
だが、嬉しいかと言われるとそうではない。まったくもって喜べない。
「……オレ如きが、父上と同じ存在だと?」
「へ?」
“地雷を踏んだ”と一聞しただけで分かるような低い声が喉を震わせる。あっという間に胸中にモヤモヤとした淀みが沸き上がる。
ガシャンと鎧兜を展開・着装すると同時に背部にマウントしたクラレントから魔力を全力噴出。流星となったオレは進路上の墓石を蹴り倒しながらまたたく間にバーサーカーに肉薄する。次の瞬間、オレはイリヤスフィールとバーサーカーの間に割って入る形となっていた。風圧に巻かれた銀髪が風を受けた帆のように拡がる。兜の目庇を介してイリヤスフィールの見開かれた瞳とオレの視線が交差する。
「ッ!?ば、バーサー──」
「見る目が無いな、お嬢さん」
まんまと懐に入られたバーサーカーが迎撃に移ろうと筋肉をギリリと収縮させ、
「□□□ッッッ!!??」
麝香に似た臭気が鼻腔に張り付く。飛び散るバーサーカーの汗の臭い───”焦燥”の臭い。ドラゴン因子を引き継ぐ強靭な肉体から放たれたアッパーカットに顎を粉微塵に砕かれ、バーサーカーが血反吐混じりに短く呻く。
だが、怯みはしない。横合いからイリヤスフィールの勝ち誇った台詞が投げつけられる。
「その程度の攻撃で私のバーサーカーがやられるわけないでしょう!」
イリヤスフィールの気迫に応じてバーサーカーがギョロリと目を剥いてオレを鋭く睨む。直後、力を取り戻した剛腕が大気を捻って高く振り上げられる。その手には人の背丈はあろうかと思うほどの岩剣。
「やっちゃえ!バーサーカー!」
聞き慣れた台詞とともに荒削りの岩剣が振り下ろされる。直撃すれば全身鎧といえど大ダメージは避けられない強撃。まさにその刹那───オレは口端を不敵に吊り上げた。
ただの『憑依』ではなく『モードレッドとの魂の同質化』というのがこの小説のミソなきがします。この形に落ち着いたのは『汝、暗君を愛せよ』という神小説を読んだからです。面白いッスよ!買えオラ!(ステルスマーケティング)