せっかくモードレッドに憑依したんだから遠坂凛ちゃん助けちゃおうぜ! 作:主(ぬし)
「やっちゃえ、バーサーカー───きゃあっ!?」
色とりどりの宝石の軌跡を描いて、強力なガンドの魔弾がイリヤスフィールの足元の地面を派手に打ち砕いた。石礫が散弾のように四散して少女の薄い肌を手痛く叩きつけ、余波がオレの鎧も甲高く打つ。途端、バーサーカーの動きがビクリと引き攣るようにして再度強制停止に陥る。
「遠坂!あんな小さな女の子を狙うなんて…!」
「狙ってない!ちゃんと当てないように撃ってるわよ、この甘ちゃん!」
後方から言い争う男女の声。事前の打ち合わせの通り、凛がガンド魔術で牽制をしたのだとわかった。“マスターを狙って欲しい”と言外に含めた意図を正確に汲み取り、しかも絶妙なタイミングで実行してくれた。
(さすがオレのマスター!)
心中に大絶賛の拍手をしつつ、オレは背部のマウントからクラレントを抜き放つと同時に半身を竜巻のように捻り、バーサーカーの腕を一刀のもとに斬り落とす。さらにそのまま返す刀で脚部の靭帯を深く抉る。剣風が吹き荒れ、岩剣を握ったままの上腕が地面に転がって血しぶきをまき散らす。
(
オレは知っている。狂化していても、バーサーカーは
「う、腕を斬り落とした程度で───」
「お嬢さん、聞いてなかったのか?オレは
「───っ」
疑懼に歪む瞳がハッと息を呑んで見開かれる。次の瞬間、聖剣の残光が颯爽と煌めいた。一点の曇りもない刀身が空間に流麗な弧を描いたかと思うや否や、続いてドスンと墓石の十字架に突き刺さるのは切り株のように鈍重なバーサーカーの頭部。
「この程度か」
月の光を織り込んだような金髪が自ら黄金の光を放ち、
「腕は落ちていないな、モードレッド。というより、私が知っている頃よりも遥かに計算高く慎重になった。好ましい変化だと私は思う」
「お褒めに預かり光栄に存じます、父上。……ですが、」
原作を知らなければこの時点で勝利を確信するだろう。首を落とされれば大抵の人型をした生命体は絶命する。だけど、オレはちゃんと覚えている。対抗策も、練っている。
「どうやらこちらのお嬢さんの様子からして、このウドの大木にはまだ隠し玉があるようです。大方、不死性でも付与されているのでしょうか」
「な!?こ、コイツ、どこまで見抜いて……!?」
ぞんざいに看破してみせたオレにイリヤスフィールがよろりと一歩後退りをして言葉を失う。自身のサーヴァントの勝利を確信するイリヤスフィールは、敗北に打ち据えられた演技もしなかった。むしろ抑えられない威嚇的な気配すらにじみ出ていた。イリヤスフィールは第四次聖杯戦争のケイネス・エルメロイ・アーチボルトの上位互換と言える。“圧倒的な魔力と技術で正面から押し潰す”という戦い方を得意とする。つまり、
「……ほう。なるほど、なかなかどうして、骨のある御仁のようだな」
父上が猛禽のように目を鋭く細めて振り返れば、まさにバーサーカーが再び生を取り戻して力強く立ち上がるところだった。首と腕と脚部の傷が暗黒色の煙を巻き上げてみるみるうちに修復されていく。持ち前の直感スキルを用いてバーサーカーについてただならぬ要素を見抜いたらしく、父上は驚愕の片鱗すら見せずにエクスカリバーの握りを冷静に確かめる。
「□□□……ッ!」
バーサーカーのうめき声に悔しさのようなものが滲んでいるように思えた。回復しざまに攻撃してこなかったところを考えると、油断していなかったオレたちの不意をつけずに本能的に攻めあぐねているようにも見える。
(……よし。
小心者の本来の自分が安心を得ようと、先ほど傷つけたバーサーカーの靭帯をチラリと視認する。首と腕の回復を優先しているせいでまだ回復途上らしく筋繊維がヘビのようにのた打ち回っているのが見える。大丈夫、今のところ上手く立ち回れている。
腕を斬り落としたのは
「父上、コイツはガウェインの奴が倒した怪物騎士と似たような化け物と規定して構えるべきかと存じます」
「ガウェイン卿───
「しょせん狂戦士です。ガウェイン
「ふふ、なるほど心得た」
例の大味ポテトを口腔内に回顧したらしい父上が余裕の表情で頷く。対象的に、話題についていけず取り残される形となったイリヤスフィールの表情には焦燥が募っていく。同じ伝説に根付いた英霊であるオレたちは阿吽の呼吸で作戦を構築できる。それを他ならぬ父上と交わせることがなによりも嬉しい。
『緑の騎士』とは、ガウェインの英雄譚に登場する、首を切り落としても活動する不死の騎士のことだ。それを例に出すことでオレはバーサーカーの宝具『
(『
大英雄ヘラクレスに与えられた
だが、事前にわかっていれば攻略方法は編み出せる。
「出し惜しみは不要かと。まずはオレから先陣を切ります。父上は聖剣解放に備えつつご照覧あれ。こちらのお嬢さんについての処遇は任せていただきたく」
「今の貴方になら安心して委ねよう」
オレの宝具解放を察した父上が戦装束をはためかせながらひとっ飛びで後方に退避する。父上の信頼をまた一つ積み上げることが出来た充足感を短くも深く噛みしめると、オレは敢えてバーサーカーから視線を外して周囲をざっと見渡す。そして叩きつけるように警告する。
「一気に畳み掛ける!ホムンクルスども、大事なお嬢さんが危ないぞ!今なら見逃してやる!」
すでに覚悟を決めていたのだろう。弾かれるようにして物陰から2人のメイドが血相を変えて飛び出してきた。
「セラ!リズ!どうして───!?」
2人のメイドは身の危険も顧みずにオレに向かって一目散に接近すると、瞠目するイリヤスフィールを抱え上げて速度を落とすことなくそのまま傍らを駆け抜ける。セラとリズは、メイド姿を装っているが、イリヤスフィールを守護するために設計された戦闘用ホムンクルスだ。彼女たちは常に主人を守るために傍に控えている。原作にもそのような描写があったし、実際に気配も感じていた。
先頭を切っていた方のメイドと視線が交差する。オレに攻撃の意思がないことを悟ったのだろう。去り際に「感謝します」と小声で語りかけてきたことからして、今のはセラの方に違いない。イリヤスフィールも含めて
イリヤスフィールを巻き込む恐れがなくなったオレはクラレントを両の手で強く握り、正眼に構える。
(凛、令呪を!そして伏せて!)
(了解!“令呪をもって命じる!アーチャー、バーサーカーを倒しなさい!”)
打てば響く反応で両肩にズンとした
「煮え滾れ、星の怒りよ!『
ちなみに13話においてイリヤスフィールのセリフにあった『同系統の派生型英霊を同時間軸に重複して召喚する』というのは、拙作がもろに影響を受けた神作品である『Fate/Imitation Saver』に登場する『アルト』と『リア』をリスペクトしたものでした。セイバーに憑依してしまった衛宮士郎が第五次聖杯戦争に凛のサーヴァントとして参戦する、というストーリーです。まんま拙作の基盤とさせてもらっています。