せっかくモードレッドに憑依したんだから遠坂凛ちゃん助けちゃおうぜ!   作:主(ぬし)

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僕のなかの遠坂凛はテンプレ的なじゃじゃ馬です。


3話

 

‡凛ちゃんサイド‡

 

放課後。日が暮れて学校から人の姿が見えなくなったのを見計らって、私は図書館に潜んでいたアーチャーと合流した。

結論から言えば、私自身を利用した罠作戦は半分成功し、半分失敗した。血のように不吉な夕暮れに染まる屋上で、私は機嫌の悪さを隠さずにフンと鼻息を一つ落とす。

 

「まさか、真っ昼間から学校でこんな悪辣な結界を張るバカがいるとは、さすがの私も予想もしていなかったわ」

 

意気揚々と登校した私たちを出迎えたのは、なんと人間の生命力を少しずつ削り取る悪辣な結界群だった。成長期真っ只中でエネルギーに満ちあふれた学生を狙うのはたしかに効率的だと理解できる。だけど、やっていいことと悪いことがある。それに、魔術を用いて一般人を無差別に狙うことは魔術協会の方針とも真っ向から対立するテロ行為だ。

学校のいたるところで無実の生徒たちが生命力を吸い取られたことで眉根を寄せて苦しんで倒れていく様子をまざまざと見せつけられ、私の義憤心は頂点に達しようとしていた。

 

「アーチャー、私はこの愚行を決して許せないわ」

「はい。オレも同じです」

 

さも憎々しげな私のセリフに、アーチャーも同じ熱度で同意を返してくれる。彼女の横顔には、私と同じ無辜の人々の犠牲を良しとしない騎士道らしき規範が滲んでいた。私はあらためて彼女が私のサーヴァントでよかったと思い、微笑を浮かべるだけの心理的な余裕を得た。気分が少しだけ良くなった私は、手元で解呪のための魔術を編みながら多少口調を軽くして推理を持ち掛ける。このアーチャーというサーヴァントは、なんというか日本人にとっての常識や慣習に近しい感覚を持っているらしく、フランクに話しやすいのだ。これも聖杯からの知識供与のおかげかもしれない。

 

「犯人は十中八九、学校関係者でしょうね」

「え?ええ、そうですね。オレもそう思います」

「学校って、言ってみれば一見さんお断りな、顔馴染みばかりが集まってる閉鎖空間でしょう?外部の誰かが危険を冒して忍び込むとは考えにくいのよね。ひょっとして教師のなかの誰かかしら?」

「ええっと〜自信はないんですけど、あくまで勘なんですけど、案外、生徒かもしれませんよ?あー、同じ学年とか、同じクラスとか、同じ部活とか、前々から近しい関係だったりとか、海藻とか、ワカメとか、ほら……」

「モニョモニョ言っててもわからないわよ。もっとハッキリ言いなさいよね。今日は風が強いんだから」

 

両手の人差し指同士をツンツンとつつき合いながら自信なさげに何かを呟くアーチャーを尻目に、私は屋上の床面に刻まれた結界を解呪魔術で力任せに削り取る。これで結界の起点はすべて消失させたから、もう被害は増えないはずだ。そう考えると、負荷の掛かっていた心もかなり軽くなった。

 

「はあ、覚悟をしていたつもりだったけど、私もまだまだお子ちゃまだってことかしらね」

「そんなことないです。凛は立派にやってます。凛は自分の身も顧みずに今もこうして危険に身を晒しています。オレは凄いと思います。いざとなったら凛を抱えてここからピョンとグラウンドまでひとっ飛びしますよ」

 

即座に横合いから返ってきた擁護のための反論に、素直になれない私は嬉しさを押し隠した苦笑で応える。私のことをよく見てくれている。うん、良い相棒だ。

 

「ふふ、ありがとね。でも、アンタって空を飛べたっけ?」

 

私の問いかけに、アーチャーは左上を見上げながら細顎を人差し指と親指でつまんで「ふむ?」と記憶の引き出しを探る。

 

「モードレッドに純粋な“飛翔”のスキルはないですね。アーサー……父上なら風王結界を活用すればいけると思います。オレは……う〜ん、なんとかならないかなぁ」

 

なにやら他人事みたいに呟いている。とはいえ、サーヴァントシステムはあくまでオリジナル英霊から分離させたコピーの顕現というから、当の本人からしても他人事といえば他人事なのかもしれない。他のサーヴァントにも聞いてみたいものだ。……本当に聞いたりはしないけれど。

 

「あのねえ、腐っても超一級の精霊様なんだから、そういうのは気合でなんとかしてみなさいよ、気合で。蜂だってそうしてるらしいわよ」

「凛、昆虫は精神力で空を飛んだりしません」

 

キョトンとするアーチャー。その反応に待ってましたとばかりに私は昼休みに友人の綾子から聞きかじった新鮮なトリビアを面白げに語る。

 

「あら知らないの?クマバチって身体のサイズの割に羽根が小さくて、物理学上では飛べない構造をしてるらしいわよ。なのに空を飛べているから謎の理屈が働いてるって都市伝説があるのよ」

 

まあ古代人に物理学やらなんやらの小難しい話をしても仕方がないわねオホホ、と続けようとして、アーチャーの表情に想像を超えた理知の色が翻るのが見えて、私は思わず口を噤んだ。

 

「あれは航空力学ではなく流体力学で考えれば理解できます」

「……は?」

 

なんて?

 

「固定翼の概念で捉えると理解できませんよね。あれは翅によって下方向に渦を作る回転揚力と推進力の後進回収によって浮力を得ているのです。彼らにとって大気中とは粘性を帯びた水中のような空間であり、それを掻き回しながら水面に浮き上がるように飛んでいると思えば分かりやすいでしょう」

 

……なんて?

 

「………それも聖杯からの知識なの?」

「いえ、本で読んだんです。オレはもともと読書が好きなんです。特に航空分野に興味がありますね。さっきも図書館でずっと本を読んでいました。以前から、一度でいいから身一つで空を飛んでみたいものだと思っていたものです。これを機会に検証してみるのもいいかもしれませんね」

 

鼻息を荒くするアーチャー。この英霊はなにを目指しているのだろうか。もしや図書館でひがな一日小難しい本に熱中していたのだろうか。日中はほとんど人けのない図書館で待機しておけとは命じたけど、まさか読書に励んでいたとは思わなかった。

……もしかして、アーサー王がモードレッドをちゃんと評価していたらキャメロットは滅びるどころか技術立国として栄えに栄えたのでは……?

 

「……凛、日が暮れました。そろそろ(・・・・)です」

「ああ……そうね」

 

アーチャーの低い声に、私は子供じみた現実逃避を断って意識を戦闘モードに切り替える。視野の限界点、世界の稜線から太陽が完全に姿を消した。周囲がとぷんと音を立てるように呆気なく暗闇に包まれる。夜……魔の夜が来た。魔術師たちの跋扈するフィールドが訪れた。

よし───よし、行くわよ。遠坂凛。私は内心に強く意を決すると、さっと振り返って背後の給水塔を仰ぎ見る。

私の罠は半分成功。他の陣営を誘い出すことができた。そして半分失敗。まさか、ものの見事にいきなり一本釣り(・・・・)しちゃうなんて。

 

「待たせたわね、ランサー!」

「…………おう。コイツは、なかなかやるじゃねえか、嬢ちゃん」

 

。最初の戦闘は───対ランサーだ。




面白い、待ってた、と言ってくれる人がこんなに!!誰にも更新を気付かれないと思っていたので、ありがたいです。励みです。感謝!!m(_ _)m
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