せっかくモードレッドに憑依したんだから遠坂凛ちゃん助けちゃおうぜ!   作:主(ぬし)

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噛ませ犬扱いされちゃうけどランサーの兄貴は世界最強クラスなんやで


4話

‡凛ちゃんサイド‡

 

「チッ、ドジったぜ。それなりに気配を隠していたつもりなんだがな。 いつの間に気づいてやがった?」

「とっくに見破ってたわよ。こちとらそれなりに腕の立つ魔術師なんだから。小娘だってナメてかかると痛い目見せてやるわよ、ランサー」

 

私の強気な態度に、気だるげに槍で肩を叩きながら蒼のサーヴァント───十中八九“ランサー”───が「へぇ」と口端を吊り上げた。本当に私が実力で看破したと言えればいいのだけど、さすがに気配を消しているサーヴァントを見破るほどではない。実はアーチャーが「サーヴァントに監視されています。おそらくランサー」とそっと耳打ちしてくれたから気付けたのだ(さすが“弓兵”のサーヴァントなだけあって目が良い)。でも、果たしてそのハッタリが通用したのかは怪しかった。それくらい、一目で“これでもかと場数を踏んだ古強者”だと肌で理解できる迫力を全身から発奮していた。

 

(こいつ、絶対に強い。真名はわからないけど、最強クラスといっても過言じゃないわね。初戦からとんでもない奴に当たったわ)

 

私は自分の直感(かん)を信じている。その直感が、目の前のランサーに最大級の警戒を金切り声で叫んでいた。それは隣のアーチャーから発せられるピリピリとした緊張の息遣いで確信に変わった。伝説のモードレッドが油断ならない相手だと身構えているのだから。

ランサー。常に口元に張り付いている笑みは実力に裏打ちされた確かな自我の肥大化を示している。押し出しの強い好戦的な口調は自信と威厳に満ち溢れているけれど、決して油断の隙は見せない。アスリートも裸足で逃げ出しそうな引き締まった体躯は一流血統書付きのドーベルマンを連想させる。

戦慄する私が摺り足で一歩下がると、まるで示し合わせていたかのようにアーチャーが私とランサーの間にするりと割って入る。息ぴったりに私を護ろうとしてくれている。暖かい安心感を覚えると同時に、そんなヌルい覚悟では駄目だと内心で己を叱咤する。アーチャーは私のボディーガードじゃない。“武器”なのだ。武器が振るわれるために持ち主(わたし)が足手まといになるなんて本末転倒だ。

 

「この悪趣味な結界はアンタの仕業かしら?」

「いんや、小細工は魔術師の仕事だ」

 

表面上は探るようなやり取りを交わしてみつつ、裏では必死に現状分析で脳を回転させる。

 

(屋上は逃げ場が少ない……分が悪い)

 

袖口に仕込んだ隠しポケットから小ぶりの宝石を幾つか手のひらへと密かに滑らせる。事前に魔力を充填させた宝石はいわば“特定の魔術の記憶スロット”として機能する。いざとなれば手榴弾の真似事だって出来るほどの自慢の品だ。喉をゴクリと鳴らして拳を握り込む。相手に知られずに手元に握っているだけで相当なアドバンテージになるはずだ。

 

「ほう、大したもんだ。隠し武器とは当代の魔術師もなかなかやるじゃねえか」

 

でも、即座にランサーの双眸がスッと細められて、私の小手先の足掻きが難なく見破られたことを悟る。野生の狼のような洞察力だ。額から流れた緊迫の汗が頬を伝い落ちる。

 

「曲がりなりにも隠れていた俺の存在に気付いていたうえに、戦いの要点も押さえてやがる。機転も利くし度胸もあると来た。こいつは面白くなってきた───」

「凛ッ!」

 

アーチャーの鋭い警鐘。給水塔にいたランサーの姿が揺らぎ、次の瞬間にはなんと目前に迫っていた。真っ直ぐに伸ばした切っ先が迫る。予備動作がまったく認識できなかった。

人間とサーヴァントの身体能力の格差に驚愕しつつ、まるで攻撃が来ることを予知していたかのようなアーチャーの警告のおかげで私はその刺突を難なく回避できた。すれ違う刹那、ヒュウとランサーが称賛の口笛を吹く。目にも留まらぬ槍捌きは、けれどランサーにとってはちょっとした小手調べに違いなかった。

今ここで反撃に移りたいけど、まずは移動しなくてはならない。十分に動きまわれるフィールドに───アーチャーが全力で戦うことができて、マスター(わたし)が彼女の足を引っ張ることのない広大なフィールドに。つまり、

 

「アーチャー、着地任せた!」

 

グラウンドに!

幾つかの魔術を自分の身に重ねがけすると、私はフェンスを飛び越えて空中に身を躍らせる。重力干渉の魔術も虚しく、地面が見る見る近付いてくる。風切り音が鼓膜を叩く。本能が悲鳴を上げて肌が粟立つ。でも、理性は恐怖を感じない。何故なら、私が飛び出した時から決して離れることなく、視界の端で黄金のオーロラのように鮮やかな髪がキラキラと輝いているからだ。落下の寸前にお姫様のように颯爽と抱きかかえられた私は無事に着地を果たした。ズドンと杭打機のような衝撃が大気を揺らす。アーチャーの足をほんの少し心配したけど、彼女にダメージを負った様子は見られなかった。その理由はすぐに分かった。先ほどまでブーツを履いていたはずの脚部に、いつの間にか昨晩の召喚時に身に着けていた鎧が着装されていたからだ。

 

(抜けてるようでなかなかやるじゃない!アーチャー!)

 

さすがは円卓の騎士の一角。感嘆とともにバックステップを踏んで距離をとる。十分に距離をとったと思うや否か、アーチャーが轟と魔力の竜巻を纏う。鮮血のような紫電を発しながら腰部、腹部、胸部、肩部、腕部と次々に鋭角的な鎧が出現し、柳のように細い矮躯に金属音を立てて着装されていく。ワインレッド色の戦装束が勝利の御旗のように勇壮にはためく。最終的に頭部が覆われた後には、筋骨隆々の闘牛を思わせる雄々しい全身鎧(フルアーマー)の騎士が威風堂々と直立していた。

 

「アーチャー、手助けはしないわ。アンタの力、ここで見せて!」

 

アーチャーは振り返りもしない。ただ握り拳の親指をグッと突き立て、「任せて」のハンドジェスチャーで応えてくれた。

今まで見てきたなかで、最高に格好の良いサムズアップだった。

 

 

 

 

 

───まさか、ここから空中戦(・・・)に繋がるとは思ってもみなかった。

 

 

 

 

 

 

‡士郎くんサイド‡

 

「なあ、衛宮。ちょっといいか?」

「ん?一成、どうしたんだ?」

 

1年生からの友人、柳洞一成の首を傾げるような胡乱げな呼び掛けに、俺は片眉をあげて応じた。常に明朗会活を心掛けている一成にしてはやけに歯切れの悪い口調だったからだ。

 

「衛宮は“図書室に金髪美少女の幽霊が出る”という噂を聞いたことがあるか?」

「………ない、な」

 

あるわけがなかった。「だよな」と一成が何とも言えない表情で頷く。

 

「いや、すまない。今日、生徒たちのあいだで広まっていた噂なんだがな?なんでも“生徒ではない金髪美少女の幽霊”が図書室で小難しい本を読んでいる姿を何人もの生徒が目撃したらしくてな。話しかけると、その幽霊は驚いて悲鳴をあげたあとにスッと消えたというんだ」

「そりゃあずいぶんと可愛げのある幽霊だな」

「ああ。俺もそう思う。それに、そんな幽霊がいるのであれば、いつも図書室やその隣の視聴覚室の機材を修理してくれている衛宮が気が付かないはずがないと思ってな」

「そりゃそうだな。そして一成の言う通り、俺は会ったことがない」

「うむ、わかった。安心した。他でもない衛宮が言うのだから、やはりデマだな」

 

胸の前で腕を組んだ一成がコクリと頷いて何がしかの思考を消化する。俺のことを高く信用してくれていることは純粋に嬉しく思う。

幽霊がこの世にいるかと聞かれれば、魔術をほんの少し齧っている立場からすると「いない」とも言い切れないものがある。とはいえ実際に見たことはないし会ったこともない。

 

「ちなみに何の本を読んでたんだ?」

「航空宇宙工学関連だそうだ」

「……鳥人間コンテストにでも出場するのか?」

「知らん。会ったら聞いてみてくれ。今日もまた弓道場の掃除をするつもりなんだろう?」

「ああ、この司書室のストーブを修理したらな」

「いつもスマンな。だが、便利屋扱いをさせてしまっている俺が言えた義理ではないが、弓道場は自分たちで掃除させたらどうだ」

「いいんだよ。好きでやってるんだから」

 

そう言うと、一成はあからさまに眉を顰める。懸念の先にいるのは間桐慎二(しんじ)なのだろう。馴れればそんなに悪い奴じゃないのだが、なにかと誤解されやすい性格だし、生真面目な一成とは折り合いが悪いことも理解できた。これ以上は不毛な話になるなと予見した俺は話を締めるキッカケとなるように足元のストーブを持ち上げる。

 

「それじゃ、ストーブを持って行くがてら、一応図書室を見回ってみるよ」

「そこまでする必要はないぞ。帰宅がさらに遅れてしまうではないか」

「大丈夫だよ。俺も空を飛びたがっている女の子の幽霊に会ってみたいしな。幽霊への伝言はあるか?」

 

堅物の一成が「ふむ」と素直に考え込む。

 

「現世に未練があるのなら柳洞寺に来い、と」

「よし、うけたまわった。伝えておく」

 

「無理はするなよ」という心配の忠告に後ろ手をヒラヒラと振って返し、俺は図書室へと向かった。

 

 

──まさか、ここからロケット打ち上げ(・・・・・・・・)を見上げる流れに繋がるとは思ってもみなかった。




アーチャーのサーヴァント適性って、投擲する対象が自分自身でもイケる?イケるイケる!
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