せっかくモードレッドに憑依したんだから遠坂凛ちゃん助けちゃおうぜ! 作:主(ぬし)
‡憑依モードレッドサイド‡
オレはモードレッドが好きだ。そんなオレだからこそ、わかる。
モードレッドには、実はセイバーやクー・フーリンに圧倒的に勝っている点があるということを。
「アーチャー!着地任せた!」
そのセリフを待たずしてすでに凛とともに屋上に飛び出していたオレは、すかさず彼女を守るように抱きかかえる。次の瞬間、グラウンドに両足で着地する。ズンと大地に沈み込むような接地音からしてまったく軽やかな動きではなかったけど、両脚にダメージはまったく感じない。直前に脚部に鎧を装着していたからだ。
脚部のみに鎧を着装したオレの体重は約60キロ程度だ。重力加速度を9.8m/s²とし、4階建て校舎の屋上からの落下距離を15 m とすると、その際の衝撃は88200ニュートン、つまり約9トンだ。これでわかることはつまり、この鎧と肉体は瞬間的にはなんと9トンもの衝撃を受け止めることが可能ということだ。
(9トン───9トンだって!?やっぱりモードレッドは凄い!)
検証計算を繰り返し、間違いがないことを確認して、オレは度肝を抜かれた。普通の人間が耐えられる瞬間的な衝撃は12000ニュートン、つまり1.2トンだ。それを基準とすれば、この肉体はまさに別格だ。
アーサー王を模したホムンクルス、つまり
そう。モードレッドの何よりの強みは、まず全身鎧という強靭な防御力があり、そこにプラスして俊敏な機動力を獲得しているということだ。『ブースターを装備したフルアーマーの騎士』。オレはモードレッドをそう定義している。原作『Fate/Apocrypha』だとモードレッドの猪突猛進な性格のせいでせっかくの防御性能が持て余し気味となってしまっていた。だけど、逆を返せば『攻撃特化型の戦いをしても問題ないほど相手の攻撃をある程度無視できる防御力』を有している証明でもある。従って、『防御力と機動力の優位性』を前提条件として戦い方を構築すれば、居並ぶ強敵相手でもなんら劣勢とならずに渡り合える。
(敵を知り己を知ればなんとやら、か)
自信と確信を深めたオレは全身に鎧を展開させてランサーと向き合う。
「アーチャー……って感じには見えねえな。“真っ当な一騎打ちこそ誉れ”って顔付きに見えたが」
「称賛と受け取らせてもらう、ランサー。だけど、この身はたしかにアーチャーだ」
「ほお。それじゃあ、その背におぶってる大層な剣は飾りか?」
「いや、それも違う。オレの主武装はこれだ」
背中に手を回し、鎧の背部にマウントされたクラレントの刃をコンコンと軽く小突いてみせる。大丈夫だ。昨晩にも確かめた通り、肉体の制御は完全だ。オレという異物が混入したことでモードレッドと同じように考えることは出来ないけど、同じように動くことは出来る。剣を振るえる。戦える。
そんなオレを上から下まで眺めて、ランサーは困惑半分、愉快半分といったふうに片眉を吊り上げる。
「なのにアーチャーだと?そりゃあまた、ぶっ飛ぶようなおもしれえ種明かしを期待したいもんだな」
「そうだな。たしかに
「あん?」
あえて意味深にした微笑混じりの返事に、ランサーがこめかみの血管をピクリと震わせる。こういう混ぜっ返しじみた押し問答は気に食わないのだろう。原作通りの直線的な性格に、戦慄と同時に安堵も覚える。
「ランサー。お前との戦いを軽んじるつもりはない。だが、一つ試したいことがある。胸を借りたい」
「率直な奴だな。馬鹿だとは思うが、嫌いじゃねえ。……だがな」
凄みのある表情に一転すると同時に、かの有名な朱槍宝具ゲイ・ボルクを低く構える。目と鼻の先から引き絞られた矢先を向けられているような殺気に肌がひりつく。
「俺は手加減してやれるほど器用じゃねえぞ……!」
背後で凛が息を呑む。それくらい、ランサーの気迫は恐ろしいものがあった。無理はない。ランサー───その真名はケルトの大英雄クー・フーリン。特に恐るべきはその呪いの朱槍『
「器用、か」
その言葉に思うところがあり、オレは兜の内側でふっと笑みを浮かべる。
オレの兄貴はオールマイティそのものだ。なんでも平等に愛し、なにからも平等に愛されていた。勉強、料理、資格取得、アルバイト、ボクシング、その他の趣味。ユーキャン片手にゲラゲラ笑いながらなんでもそつなくこなす姿は『器用』という言葉の権化のようだった。でも、オレは正反対だ。一つの事に懸けて地道な全力投球しか出来ない。これと決めた分野にのみ集中するだけのキャパシティしか持たない。
以前は兄貴のことを羨ましいと思ったこともある。でも、今は引け目を感じない。むしろ優越感すら感じる。『大好きなモードレッドというキャラクターをどうやったら他のサーヴァントに勝利させることが出来るのか』。脳内でシミュレーションを重ねてきたオレにだからこそ、今ここで出来ることがある。証明できることがある。兄貴に勝ることができる。さすがの兄貴だって、まさかサーヴァントに憑依したりはしないだろうし。
「わかってる。オレもそうだ」
この背筋の震えは、しかしゲイ・ボルクを前にした恐怖によるものじゃない。不思議なことに、今この瞬間、オレは純粋な武者震いを味わっていた。モードレッドと記憶やスキルを共有しているおかげなのだろう。常人なら感じるはずの怯えや気後れが忍び寄る気配は微塵もなく、戦闘を前にした闘志の昂りが腹の底から湧いてくる。
「アーチャー、手助けはしないわ。アンタの力、ここで見せて!」
凛の声に弾かれるようにオレは行動を開始する。
いざ!『ゲイ・ボルク絶対解放させない作戦』、開始だ!
そして5分後。
「なんの真似だ!アーチャー───ッ!?」
オレはランサーをベアハッグで締め上げながら、時速300キロで大空を滑空していた。地面が近付いてくる。
近付いてくる。
近付いてくる───。
ランサーが飛んだ!この人でなし!