せっかくモードレッドに憑依したんだから遠坂凛ちゃん助けちゃおうぜ!   作:主(ぬし)

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書きたい熱意が止まらねえ


8話

‡凛ちゃんサイド‡

 

「わァ…あ…」

 

私は空を見上げてポカーンと口を開けていた。こんなに“ポカーン”なんて間の抜けた擬音が似合う場面が自分の人生に訪れるとは思ってもみなかった。

空中に赤い尾を引きながら、ゴゴゴゴゴ……と爆音が空に向かって遠のいていく。頭のなかで「こんな光景どこかで見たことないかしらぁ?」と呑気な自分が茶をしばきながら疑問を口にして、「昔にテレビで見たロケットの打ち上げじゃないのぉ?」と別の自分が爪先を弄りながら適当に答えた。あーそれそれ、アハハハハハハ……。

 

背景、天国のお父様。私のアーチャーがジェットアーチャーになって、もしかしたら今からそちらに行くかもしれません。その時はこう伝えて下さい。

 

「好きにしろとは言ったけどマスターをおいて敵といっしょに流れ星になるやつがあるか〜〜ッ!!そんなのポイして早く戻ってきなさ〜〜い!!」

 

私の渾身の怒号がグラウンドにこだましながら虚しく夜気に吸い込まれて消える、その瞬間。

 

───ガサッ

 

「……誰!?」

 

私は、ここにいるはずのない、いてはならないクラスメイトの姿を見つけた。

 

 

 

‡憑依モードレッドサイド‡

 

鳥人間コンテストに出てみたかったな、きっと優勝出来たぞ、と。

必死過ぎて遂にキャパシティを飽和した思考が自嘲気味に呟いた。

現在、上空約3000メートル。高度計もないのに何故わかるのかというと、周囲の気温が実にマイナス15度程度まで低下したからだ。気圧が低いために大気は冷却され、吐き出す息すら凍りつきそうだ。鎧の表面に霜がビッシリと張り付き、ところどころが岩のように氷結してギシギシと苦悶の音を立てる。肌に直接触れる鎧が氷のように冷たく、霜焼けを引き起こす。だが、そんな過酷な環境よりも徹底的にこの身を苛むのは、()だ。

0.5秒で時速1000キロに達すると、肉体に掛かる重力加速度(G)は56Gにも達する。これは3トンの重量が進行方向前面に余すところなく伸し掛かってくるという絶大な負荷を意味する。スペースシャトルの大気圏突入時が30Gであることを考えればその重大さが伝わるだろう。しかも、これは加速が漸減しない限り永遠に続く。常人であれば、呼吸困難、毛細血管破裂、内臓損傷、筋繊維破断、関節脱臼、多重骨折、網膜剝離といった大ダメージを負うことは必至だ。上空3000メートルをほぼマッハに近しい時速1000キロで飛行し続けることは、生身では到底堪えられない致死行動なのだ。

つまり、

 

「……ぐ、ぉおお、があ……ッ、アー、チャー……!!」

 

つまり、いまだ意識を失うことなく抵抗の意思を見せるランサーの頑強さはまさに“驚異的”の一言に尽きる。

割れんばかりに食いしばった歯のあいだから苦悶の声が漏れる。真っ赤に充血した眼球から血涙を流しながらも、オレの全身の力を結集したベアハッグからなんとか抜け出そうと彼は双腕の筋肉に血管を浮き立たせて逃れようとしていた。全身鎧という保護スーツに身を包み、さらにランサーを風よけ(たて)としているオレより遥かに条件が悪いにも拘わらず、彼は諦めることなく死力を振り絞って四肢をバタつかせていた。あらためて、クー・フーリンという大英雄の底力を見せつけられて兜の下で冷や汗が頬を伝う。

チラリと兜の目庇から眼下を見下ろす。凛の姿が0.5ミリ以下にまで縮んで見えた。アーチャークラスによる補助の恩恵とモードレッド持ち前の飛び抜けた視力により、凛が怒りに腕を振り上げて怒鳴っている様子が見て取れた。「帰ってこい」と言っているに違いない。思わず苦笑が浮かぶ。よし、()()だ。帰ろう。

オレは最新鋭ジェット戦闘機のベクターノズルをイメージしながらクラレントの推力を偏向する。垂直上昇から垂直下降へ力付くの急転換。グンッと視界が180度切り替わり、星空から一転して再びグラウンドを目指す。覚悟していたとはいえオレの四肢の関節にも引きちぎられそうな激痛が走る。さすがの分厚い甲冑も至るところからメキメキと悲鳴が上がる。

 

「がぁああッッッ!?」

 

比喩する気持ちも失せるようなゴリゴリという鈍い音がランサーの全身から伝わる。密着している分、彼の苦痛がダイレクトに理解できてしまった。冷え切って突っ張っていた頬の皮膚が薄紙のようにビリリと裂けて鮮血が派手に吹き出る。

あまりの痛々しさに、本来のオレの良心がひりつく。そしてモードレッドと融和したオレの闘争心が笑みを刻む。作戦通りだ、と。

ゲイ・ボルクは強力な宝具だ。使い方を工夫すればギルガメッシュすら仕留められる。解放されれば因果逆転により必ず心臓を穿たれてしまう。アルトリアと違って高レベルの『幸運』や『直感』のスキルを持たないモードレッドでは、ゲイ・ボルクを解放されればその時点で敗北が確定する。たとえランサーと同じタイミングでクラレントをぶつけたとしても、“すでに心臓を貫いた”という結果を引き寄せた事実を覆すことは出来ず、相打ちとなってしまう。それでは本末転倒だ。対ランサー戦で勝利できても、サーヴァントを失った凛は聖杯戦争を敗退してしまう。

でも、そんな強力無比に思えるゲイ・ボルクにも弱点はある。それは“投擲されない限り効果を発揮出来ない”ことだ。ゲイ・ボルクは持ち主から槍として放たれなければその本領(のろい)を解き放つことが出来ない、という制約がある。だから、ランサーがゲイ・ボルクを解放しようとする一瞬の隙を突いた。全サーヴァント中最速を誇るランサーも、ゲイ・ボルクの解放寸前に限っては動きが一瞬だけ止まる。それは原作を見てよく分かっていた。ランサーの動きが止まったその刹那、最速のランサーすら超える速度で彼を羽交い締めにして、切り札を封じてしまう。これが、モードレッドとしてランサーに()()()()ためにオレが編み出した作戦だ。

見る見る大地が近付いてくる。ランサーを羽交い締めにしたまま、オレは全速力でグラウンドに向けてぐんぐんと加速し続ける。あと数秒もすれば隕石のように地面に衝突する。ランサーはもとより、鎧を装着しているオレであっても致死レベルのダメージを負うことは確実だ。傍目には自滅覚悟の巻き添え攻撃に思えても不思議はない。

 

「なんの真似だ、アーチャー───!?」

 

オレは応えない。“お前を倒すことが目的じゃない”とは口が裂けても言えないからだ。

そう、あくまでこの作戦は“負けない”ことが前提となる。後ろ向きというわけではなく、しょせん奇をてらった不意打ちに過ぎないと割り切っているからだ。こんな低レベルな方法で強大なランサーを倒しきれるとは思っていない。原作終盤では、言峰綺礼の令呪を用いた強制自害を命じられて尚、不屈の意志で逆襲を果たしていた。そんな生粋の戦士であるランサーを舐めて掛かるわけにはいかない。

 

(オレの本当の目的は───)

 

「……マスター!ふざけんじゃねえ!余計なことを──クソッ!」

 

憎々しげな台詞と時を同じくして、ランサーの肉体の負傷が瞬時に癒えて、さらに末端部から光の粒子となって端々から消えていく。十中八九、言峰綺礼の令呪によって強制回復をされ、重ねて強制転移を命じられたのだろう。予測が的中したことにオレは内心でガッツポーズの拳を振り上げる。言峰綺礼の令呪をさっそく二つも消費させることに成功したからだ。

言峰綺礼は今ごろ肝を冷やしているだろう。まさか序盤も序盤の、しかも偵察目的の小競り合い規模に収めようとしていた対アーチャー戦で、なんとランサーが敗北寸前まで追い込まれ、彼を逃がすために貴重な令呪を消費する事態となってしまったのだから。綺礼の性格と方針から考えて、こんな初戦で便利な手駒(ランサー)をみすみす見捨てるはずがないと確信していた。

ざまあみろ、だ。これで凛に簡単に手出しはしなくなるに違いない。

 

「アーチャー!勝負はお預けだ!」

「応とも」

 

オレはあっさりと拘束を解く。こちらの本当の目的が己を打倒することではなかったと本能で察したのだろう。さも悔しそうな大きな舌打ちを残して、ランサーは呆気なく消えた。次の瞬間には、オレは自身を守るために再度クラレントの出力と推力方向を調整し、逆噴射の要領で落下速度を相殺する作業に掛かる。今までで一番の負荷が全身を襲い、ミシミシと骨身が振動する。ドドドドドと爆音が轟き、次第につま先に地面が触れる。鎧の外装表面に張り付いた氷が剥がれ落ちてキラキラと煌めく。足の裏に固い安心感を感じる。着地を終えてふと目を転じれば、そこは偶然にも凛と目と鼻の先だった。

オレは緊張を解いて鎧兜を収納する。ガチャガチャと金属音を響かせながら兜が外れ、涼やかな空気が肺に満ちる。冷たい夜気が頬にヒリヒリと染みた。フラつきそうになる両脚をしっかりと踏みしめて、オレは誇らしげに胸をそらす。

 

「ただいま、凛。とりあえず勝ったよ」

 

朗らかに笑ったはずのオレに対する凛の反応は不思議なものだった。最初は「アンタねぇ!」と怒ろうとするも、兜を外して素顔を晒したオレを見て、大きく開きかけた口をグッと噤んだ。綺麗な形をした眉が今にも泣きそうにハの字に歪む。どうしたんだろうと目を丸くするオレの目の前で、凛は鞄からそっとハンカチを取り出すと、そのままオレの頬を拭いてくれた。赤子を撫でるようなふんわりとした優しい手付きにオレは思わずドギマギしてしまう。

 

「り、凛?」

「……アンタ、気付いてないでしょうけど、血だらけよ。鼻血も出てる」

「へっ?」

 

驚いているオレにハンカチの表面が突きつけられる。そこにはベッタリと真っ赤な血がついていた。どうやら空中で皮膚が裂けていたのはランサーだけではなかったらしい。どうりで頬がヒリヒリと染みるはずだ。棒立ちしてなすがままになっているオレの傷をハンカチが汚れるのも厭わずに丁寧に労りながら、凛が静かに問う。

 

「アーチャー、詳細を報告して」

「あ、は、はい。ええと、ランサーにはかなりの深手を負わせたものの、令呪による回復と転移によって逃げられました」

「すると、ランサー陣営は令呪3つのうち二つを使用したと?」

「間違いなく」

 

オレの戦果報告に凛は持ち前の優秀な頭脳で素早く思考を回し、消化を終える。

 

「よろしい。……よくやったわね、アーチャー。お疲れさま」

「……うん」

 

サーヴァントはしょせん使い魔に過ぎない。冷徹な魔術師ならそう割り切って負傷を慰撫することはない。それなのに、凛はオレの血を拭ってくれた。悲しそうな顔をして、“お疲れさま”と労ってくれた。

そんな優しい彼女の微笑みを見て、オレは凛を守るという決意を新たにした。




この小説の根幹にあるのは、僕がドハマリしたFateのTS作品である『Fate/Imitation Saber(著 柚子餅さん)』と『きんのゆめ、ぎんのゆめ(著 志穂さん)』の2大作品です。偉大なお二方に感謝。貴方方のエネルギーを受け取って、僕は今ここでこうしてFateのTS小説を書いています!
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