Fate/Septem peccata mortalia 作:幽鬼兎
平凡な朝だ。
この熱帯地かと思えるほどの灼熱の世界にまた足を運ばなければならない生活。クーラーの部屋で過ごす休日の有り難みがよくわかる。おまけに夏休みがもうすぐ。正直、今からエンジョイしたい。
「コータっ! お昼、一緒に食べよう?」
朝方の授業が終わったばかりで脱力感満載な僕にお弁当を二つ見せつけてくる女子生徒。緋色の長い髪、その前髪つけられた青に黄色のラインが無数に刺繍された特徴的な髪結びが左右に揺れ、満開の笑顔をより輝かせる。まるでこの世の者とは思えないほどだ。
そう……この
「ランさ____________こほんっ。ラン、僕は疲れてる。昼食より仮眠が欲しい」
「うん! 睡眠は大事だね! 寝ることは良いこと、寝る子は育つ! ささっ、僕と一緒に屋上へ行こうぅ!」
この話を聞かないっぷりは人間ではない。
あの日、この校舎の屋上で僕達は出会った。
条件を満たし、マスターとして認められ、サーヴァント『ランサー』を従えた。そして、あの聖杯戦争へと話は飛躍する。僕の家計は魔術師だった。それ故か、魔術や聖杯戦争、サーヴァントの事も必要知識として叩きつけられていたのだ。
(ま、姉の素質が高すぎてマスターになるのは姉の役目だとか言ってたけど)
「はい、マスター。あーん?」
「自分で食べん…………うまい」
「アハハ、正直だねぇマスターは。ささ、どんどん食べてよ! 僕、料理には自信があったんだぁ」
無理やりあーんされた卵焼きは本当に美味しい。
程好い甘さで固くなってない。と言っても半生という訳でもない。絶妙な、そして精密な卵焼きだ。
サーヴァント『ランサー』
真名『不明』
マスター『
容姿端麗、博識多才、僕っ娘、笑顔満開。
(なんともまぁ……僕に不似合いなサーヴァントだろうか)
聖杯戦争が始まってから四日目。
土日は特に何もなく、今に至る。ランサーに関しては、恐るべき知力で飛び級し、この学校へ編入してきた。霊体化すればいいだけなのに、一緒に暮らしたい! だなんて、言い出したのは正直驚愕でしかない。
本当に誰なんだろうかこいつは。
「なぁ、ランサー。質問なんだけど」
「うん? なんだい、マスター。僕と何かしたいのかな? 駄目だよ? 愛は限りなく一つの者として与えるべき。マスターは大事な人に捧げる槍にならないと」
「はしょりすぎ。君が真名を隠す理由なんだけど……多分、僕を信用していないから。違う?」
「うん、そうだね」
正直だな……。
孝太は切り替えるように今一度、卵焼きを食べる。ランサーの表情が変わり、空気がピリピリしている。これ以上踏み込むのは令呪があったとしても無理だ……だが。
「僕は君のマスターだ。そして僕は君の試練を呑み、ここにいる。君の事を売るのなら自害だってできる。だから……」
「五月蝿いよ、マスター」
「………………悪い」
「マスター。マスターがどう思おうが僕の心は変わらない。そういう英霊なんだ。だから僕が真名を証すとき、それは君が勝利する時だ。僕の槍を越える物はなく、僕の意思を越える者もいない。君は僕を見て、そして考えるがいい。僕が何者で誰なのかを。その答えこそが君の勝利であり、僕が最強である証の
これだけ長い言葉を並べながら一片の迷いさえ見せない。勇猛なる勇気、自信、実力が揃ってこその意気込みだ。マスターにとって、サーヴァントとは勝つための一つの特権である。だから、サーヴァントはマスターへ忠誠を誓う。そのはずなのだが、このランサーは……。
「アハハ、丁度いいね。マスター、敵襲だ。仕掛けてきた!」
自由奔放を糧とし、生きとし生けるもの全てに牙を剥く。この絶対なる王者の風格……本当に誰なのだろうか。
ランサーが黄金の槍を顕現させると、その刹那にして学校中が紫の風で覆われていく。これは人よけの結界に近い魔術だ。これは……キャスターか? いや、この程度の魔力量ならアサシンやライダーでもいけるが。
「ランサー、情報を」
「うん! 敵モンスターの数33機。他の生徒達に危害を加えるつもりはなく、狙いは確実に僕達だ。さて……どうするかな? マスター」
「多勢に無勢。僕達はこの場所を拠点とし、奴等を待つ。初の戦争になるけど、宜しく頼むよランサーッ! 」
そう宣言した瞬間、孝太達の目の前に壁をよじ登ってきたのだろう敵____________竜型の魔物が一瞬にして凪ぎ払われる。そして、マスターの命を受けたランサーは高々と槍を掲げて宣言した。
「その命、この一槍にて叶えようっ!」
***
「マスターの命だ。深淵に潜む我が同士達よ、標的はランサー及びそのマスターのみである! それ以外には手を出すことは許さぬ!」
カツンッ! と硬い音を響かせた巨大な鎌を所持する黒ローブが叫ぶ。普通の意見なら気持ち悪いと言えるほどの骸骨仮面を着け、思いの外若々しい声を控えて、思考を口に出していた。
「全く……我がマスターにも困ったものだ。標的を求むのなら、それ相応の餌を用意すれば良いものの……時を停止させてまで、命を守るとは」
(仕方ないわ。私、人間が大好きなんだもん)
「ふん、今からその手を罪に染めようというのに愛すると申すか。愛に狂った者なら嫌程裁いてきたが……我がマスターは確実に死刑宣告であるな」
(あらそう? まぁそれは兎も角、見つけたわ。屋上に二つの反応ありよ)
テレパシーのような会話を切り、伝達された敵の位置を見つめ、「よかろう」と言葉を残した瞬間に黒いローブが全身を包みこみその場から消える。その刹那、屋上では____________
「敵が増えた……?! ランサー、右だ! 次に左、跳躍して凪ぎ払ってっ!」
「ほいっ、よっ、あーらっよっとぉっ!!!」
流石は魔術師の家系と言わんほどの指揮で巧みに指示をこなしていく孝太。それを迷い無くしてランサーは応じ、全ての敵を凪ぎ払う。竜型の魔物……言うならば、リザードマンが次々に無とかしていった。
(本当に凄い……僕の思った以上に反応速度が速いし、慢心を一切許してない! 正直、ここまでやれる英霊はそうそう出会えない気がするくらいだ!)
これなら何百体いたって勝てる! と、思い込んだ瞬間、孝太の首筋に鋭利な鎌が出現する。後悔する時間はない。いくらサーヴァントが慢心しなくしても、マスターが慢心しては本末転倒だ。だが、死を覚悟する暇もなく……
「僕の『
それを読んでいたかのようランサーが鎌をガードし、そのまま弾き飛ばす。やっと敵が黒いローブの骸骨仮面だと理解し、孝太も我に戻ったのちランサーが服を掴んで後ろへ跳躍し距離を取る。
「マスター、相手はアサシンだ。気を抜かないことをオススメするよ。いくら僕の目があってもね」
赤かったランサーの左目が金色に輝き、オッドアイとなっている。これがランサーのスキル……ロスト・アイ。さっきのが本当にスキルなら、それは未来予知にも匹敵する力だ。
だが、ランサーが言う通り相手はアサシン。
いくらランサーでも守りながら勝てる相手ではないということなのだろう。
「……ここからはサーヴァントの戦いだ。頼んだよ、ランサーッ!」
「うん、任された! よーし、マスターに良いところ見せちゃおうかなっ!!」
黄金の槍を大地へ響かせると、ランサーは高々と声を上げる。それは優雅に力強く、それでいて迷いのない一心が槍となって言葉となるよう……今、目の前にいるのは敵ではなく、標的でもなし。それはただの引き立て役なのだと。
「僕は『ランサー』。合いまみえるのは『アサシン』とお見受けするが、如何なものか?」
「……マスターからの命を受けた。如何にも、我はサーヴァント『アサシン』。聖杯戦争のルールに乗っとり、貴様らを暗殺____________それは失敗しておるな。訂正だ、処刑しにきた」
「間違いを訂正するのは大いに結構! だけど、まだ足りないんじゃないかな? 処刑しにきたんじゃなく____________
威圧混じる風格を大地に響かせ、その震動は時間を止める。
「我が魔である左目を代償に捧げ、無数に及ぶ知を得た。その富なる知の一つを開こう。貫け____________『