夜。
鎮守府の入り江の海岸にて、摩耶は月明りの水平線を眺めていた。
そこへ向かって、両手を伸ばしながら。
「・・・・撃てたんだな・・・・・アタシ・・・・」
そして守れた。
つい、その事が嬉しくて、口元があがった。
「ふむ」
「うわぁあああ!?」
いつの間にか背後に提督が立っていた。
それにビビって悲鳴をあげる摩耶。
「ててて提督!?」
「今回の任務はご苦労だった。悪くない対空性能だ」
慌てる摩耶をお構いなしにそう告げる提督。
当人は至極真面目だ。
「お、おう、そうか」
「ただまだ荒い。まだ精度はあがる」
「ん?これは?」
提督から渡された書類を受け取る摩耶。
「お前の練成メニューだ」
中身を見てみると、それはそれはハードな対空戦闘や砲撃の際の練習メニューだった。
しっかりとレベル別に分けられている。
「・・・・これ、全部やれと?」
「一ヶ月
「おう・・・・」
思わず顔が引き攣る摩耶。
がっくりと頭を垂れる。
「どうした?」
それがどういう意味なのか理解できない提督。
ただ、次に聞こえてきたのは、渡された書類に関する事では無かった。
「・・・・なあ、提督・・・」
「なんだ?」
「・・・・守れたよな・・・・みんな・・・」
顔をあげ、水平線を見る。
「知らんな」
提督の返答が来る。
「それを決めるのはお前だ」
「・・・・そっか」
ふっ、と笑う摩耶。
ぐぐっと伸びをして、パンッ!と両頬を叩く。
「よし!明日から今までのブランク、取り戻しに行くぜ!」
そう意気込む。
「じゃあな!提督!今日はもう寝る!」
「そうか」
走り去っていく彼女の背を見届け、提督はまた月明りの水平線を見る。
「・・・・・明日か」
どうにか間に合って良かった。
そう内心で思う提督。
「ええ!?司令官、明日から第三鎮守府に出張するんですか!?」
朝潮が執務室でその様な驚きな声を発する。
「はい。作戦が言い渡される前に第三鎮守府の提督から連絡があったようで・・・」
大淀がその様に、この執務室にいる、朝潮型の四人、朝潮、満潮、荒潮、霞の四人。
この鎮守府にいる朝潮はこの四人だけだ。
そこで大淀の言葉を遮るように、提督が毎度おなじみ単刀直入で言い放つ。
「艦娘の引き渡しだ」
『!?』
大淀と荒潮を除いた全員の顔が驚愕に染まる。
「・・・そういう事です」
「どういう事よ!?」
満潮が怒声をまき散らす。
「さっき言った通りだ」
「私は行かないわよ!なんであんな所に戻らなきゃ・・・・」
「ああ。
大淀が満潮の言葉を遮ってそんな事を言い出す。
「は?」
「連れていくのは荒潮。お前だけだ」
『!?』
二度目の驚愕。
荒潮は分かり切っていたかの様に溜息を吐く。
「やっと来たのね」
「ちょっと、どういう意味よ荒潮?」
霞が問い質す様に聞いてくる。
「私はただ、満潮と霞の付き添いでここに着任しただけだからねぇ」
「だろうな」
提督は分かり切ったような口調で姿勢を崩さずに答える。
「とにかく、お前は明日、俺と共に引き渡しを実行する。荷物はまとめておけ」
「まとめる荷物なんてたかが知れてるけどねえ」
さっさと話しをまとめていく提督と荒潮。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
そこで割り込む霞。
「なんだ?」
「どうして荒潮が行かなくちゃいけないのよ!?」
「知らん。あちらの提督が勝手に所望しただけだ」
「それにみすみす従うって訳!?」
「ここの機能は艦娘用の孤児院の様なものだ。機会を見て引き抜きや預かりをするのは当然だろう?」
「ッ!所詮はアンタも、他の提督と同じなんじゃないの!」
「そう思うのなら勝手にしろ」
まるで火に油を注ぐような提督の言い分にとうとう霞の怒りが頂点に達しようとした時。
「見苦しいわよ。霞」
「!? でも荒潮・・・・」
「これは上が決めた事よ。艦娘の引き渡しは、上にも分かる様に、先に申請書を出すのが当たり前。そこで認められるかどうかは分からないけど、その印鑑があるなら、すでに話は通っている事でしょ?」
それに答える様に、提督は束になった書類から無造作に一枚の紙を引っ張り出し、それを突きつける。
それには、確かに『艦娘引き渡し申請書』の文字と、何人かの担当の印鑑がしっかりと押されていた。
その中には、海軍元帥のものもあった。
それを見た満潮と霞は顔を悔しさに歪めるも、喚く事を続ける。
「それでも、あんな
「どうでも良いが、それでは荒潮は殺されるぞ」
突然、提督が割って入る。
「どういう・・・ことよ・・・?」
「反逆罪で処刑されると言っているんだ」
「「なっ!?」」
それに絶句する二人。
「俺にとっては、貴重な戦力である艦娘が処分されるのはよろしくない。が、これだけは言っておくぞ。荒潮を殺されたくなければ従え」
「・・・・殺されるのは、あんたじゃなくて?」
挑発的な満潮の言葉。
「知らんな。少なくとも、俺が反逆している訳ではないからな」
「ッ・・・」
たとえ証拠でも捏造しても、この男はそのことごとくを打ち払うであろう。
万事休すだ。
「話は終わりだ。朝潮は特に言う事はないか?」
「え・・・」
突然、話を振られ、困惑する朝潮。
「あ・・いえ・・・特には・・・・」
「そうか。話はこれで終わりだ。各自自室に戻れ。以上だ」
「ちょっと!話はまだ・・・・いたたたたた!?」
「いいえ、もう終わりよ」
「いたたた!?ちょ、なんで私まで!?」
荒潮に耳を引っ張られ、連れていかれる霞と満潮。
そしてその後をおずおずとついていく朝潮が、次々に退出していく。
最後の朝潮が扉を閉める際にぺこりとお辞儀をして、扉が閉められる。
「・・・・それで」
大淀が口を開く。
「なんで提督までわざわざ同行する事にしたんですか?」
通常、艦娘の引き渡しはやってくる憲兵が受け取り、そして鎮守府へ送っていくのが基本だ。
「別に可笑しい事ではないだろう?」
「ですが珍しい事ではありますよ」
「む」
希な例としては、提督の様に、引き渡し元の提督が同行する事がある。
珍しく唸った提督に大淀はしてやったりと笑みを作る。
「まあ、明日から二日は私がしばらくここの管理をしますので、安心して行って下さい」
「そうか」
立ち上がる提督。
「どちらに?」
「必要なものを取ってくる」
「はあ・・・」
それが何なのか、大淀には分からなかったが、まあこの提督の事が。
きっとろくでもないものだろう。
自室に戻った提督。
そこは特に目立つものは
目立つもの。
それは複数のジュラルミンケース。
横長なもの、中途半端なもの、小さいもの。
大きさはさまざまだ。
その中にある中途半端なサイズのジュラルミンケースを引き抜く。
それを横たわらせ、留め具を外して開ける。
入っていたのは、『ベレッタM9』が入っていた。
更には青と赤の弾薬箱がいくつか。
中にはそれぞれ六十発の弾丸が収まっている。
そしてマガジンが四つ。
提督はそれを見ると、整備を始める。
いつ不祥事が起きようとも、問題無く対処出来るように。
マガジンに弾丸を込めていく。
いずれくる、『奴ら』の襲撃に備えて。
青い弾薬箱。
それにはこう書かれている。
『Tiefsee Kugel』
読みは「ティーフゼー クーゲル」。
意味は、直訳のドイツ語で『