鉄兜提督がブラック鎮守府に着任しました   作:幻在

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勝ちに行くぞ

あの会議から数週間。

 

 

 

 

 

 

「―――――オーラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

摩耶が上空に向かって機銃、高角砲、三式弾など、とにかく対空兵装を全力で上空に向かって放っていた。

そのどれもが精密な射撃で、上空に飽和状態で飛び回る艦載機たちを次々に落としていく。

「すっげぇ・・・・」

その飛んでいる艦載機たちを飛ばしている隼鷹は、摩耶の鬼気迫る対空防御に唖然としていた。

それは飛鷹と大鳳も同じで、大量にあった艦載機たちは、ものの数秒で全滅した。

「――ッハア!・・・ハア・・・ハア・・・・睦月、タイムは?」

摩耶が、その様子を遠目から見ていた睦月に問いかける。

「は、はい!八秒です!」

「くっそ・・・まだ遅い」

「いや十分に速いって。というか、なんでそんなに疲れてんの?」

隼鷹が呆れた様に聞いてくる。

「提督がな・・・・・」

曰く、自分の敵だけを見ろ。他の敵は味方が全て倒す。

曰く、一体一体を見据え、それぞれの目標を機銃についている妖精に下し、確実に落とせ。

曰く、撃ち漏らすな。一発も外すな。弾丸は有限。それを意識して敵は一発で仕留めろ。

曰く、機関部を狙え。そこをやられれば確実に落ちる。

曰く、頭を焼き切れ、敵のみを視界に納めろ、撃鉄を起こせ、撃ち下ろしと共に全てを一秒以下で落とし尽くせ。

「・・・・だってよ」

「「「「無理があるでしょそれ」」」」

隼鷹、飛鷹、大鳳、睦月の四人がまとめて同意する。

それに、そうだな、と笑う摩耶。

だが、表情を引き締め、摩耶は言う。

「でも、これぐらいしなくちゃ、今度はお前らを失ってしまう。もうあんな思いはしたくねえんだ。高雄姉さんや愛宕姉さんを守れなかった。でもアタシは生きている。だったら、その罪を背負って強くなりたいんだ。もう、弱いから後悔するのはもう、嫌なんだ」

まるで、憑き物でも落ちたかのように、スッキリとした表情で、摩耶は四人に言う。

その言葉に、四人の表情は笑みに変わる。

「しゃあない。それなら手伝ってやるとするかね」

「補給してくるから待っていなさい」

「すぐに戻ってきます」

「あ、摩耶さん。もう少しタイムがあがる様に、作戦とか考えませんか」

「お、いいねそれ。やろうやろう」

それぞれが摩耶に協力する意志を見せ、動き出す。

 

 

 

一方で、こちらは長良と朝潮の単艦演習、というか、決闘形式の演習だ。

そこではまさに一方的な戦いが繰り広げられていた。

「うあ!?」

朝潮にまた砲弾が直撃する。

「ほらほら、まだまだ行くよ!」

「くぅ!」

ドカドカと砲撃する長良。

脳筋ならではの攻撃方法であるが、その体に叩き込まれた正確無比な射撃が朝潮を襲う。

狭叉狭叉狭叉狭叉狭叉、そして渾身の直撃コースの砲弾。

「うあぁあ!?」

回避間に合わず。直撃を喰らい、吹き飛ばされながら水面を滑る。

だが、それでも持ち前の精神力で立ち上がる朝潮。

「まだまだァ!」

「よーし!来い!」

再度の突撃を始める朝潮、それを迎える長良であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は、提督が実施した大演習の日だ。

その目的はただ一つ、艦娘の大幅練成だ。

それぞれに合った方法で演習をし、大幅な練度上昇(レベルアップ)を図る、というものだ。

その様子を海岸から遠目で見ている鉄兜の男。

紛れもなく、この第四鎮守府の提督だ。

「提督」

横から声をかけられる。

そちらを振り向くと、そこには鳥海がいた。

「今回は無理を聞いていただいて、ありがとうございました」

「いや、俺も体が鈍って来たところだ。良い肩慣らしになる」

鳥海は、足を肩幅に広げ、両手に握り拳を作り、それを腰のあたりにおいていた。

艤装はつけていない。

ただ、その構えからして、どうやら提督に向かって格闘戦を挑む様だ。

 

何故、鳥海と提督がこの様な事をしているのかというと、会話の通り、鳥海の申し出だ。

艦娘は、人の姿をしている。といっても実際元は人なのだが、その姿で、当然人間の格闘術も体得する事も可能だ。

鳥海は、真面目でおしとやかそうに見えて、実は根っからの軍人気質。

対人戦闘も学んでおいて損はない、という事で提督に頼んで、それを了承してもらったのだ。

 

 

「言っておくが、俺は正面戦闘はあまり得意では無いが良いのか?」

「いえ、貴方がどうであれ、戦争に卑怯もへったくれもないというのは、重々承知していますから」

「そうか・・・・その構え、『日ノ丸式軍隊格闘術』だな?」

「え・・・・知ってるんですか?」

鳥海が目を丸くする。

「俺も、習った事がある」

「・・・そうですか、なら、遠慮する必要は無さそうですね」

すぅ、と左半身を前に出し、右手を右肩辺りに、左腕は真っ直ぐ腰の前に出す。

「では、第四戦隊 重巡洋艦『鳥海』、参ります!」

地面を蹴る。

重心を前へと倒し、前に出した左足のみで大きく前へ飛ぶ。

そのまま後ろに引いていた右拳を前に出す。

その右拳の正拳突きを、提督は体を僅かに捻って回避。

通過した所で踏みとどまり、体の向きを提督に向けて、その回転の反動を使い、回し蹴りを放つ。

だが、提督はすでにその射程から逃れ、鳥海の蹴りは空振りに終わる。

「く!」

すぐさま追撃に転じるも、その攻撃もかわされる。

そのまま何度か拳打や蹴りを放つも、全て紙一重でかわされてしまう。

「だったら・・・!」

このままでは当たらないと理解し、一度距離を取る鳥海。

それを黙って見ている提督。

その行動に懸念も感じるも、鳥海は構わず、走り出す。

そのまま、提督に突っ込もうとする。

だが。

「む」

提督が唸る。

その理由は、こちらに走ってきていた鳥海の姿が()()()からだ。

「ここォ!」

鳥海が、提督の視界の外、鳥海から見て右側から正拳突きを放つ。

動きに緩急をつけ、前後左右に残像を作り出す、特殊な歩法。

完全な不意打ち。

例え回避行動に入れても、かわす事は叶わない。

 

 

 

だというのに。

 

 

 

いきなり目が痛くなる。

「ぬあ!?」

それによって目を閉じ、攻撃を急遽中止したくなる。

その一瞬の逡巡が、勝敗を分けた。

訳が分からないまま、浮遊感を感じ、痛みも無しに、自分が地面に背中から寝転がっている事を理解したのは、顔に水をかけられ、目が開けられるようになってからだった。

「・・・・・」

しばし茫然とする鳥海。

「小麦粉だ」

「・・・・」

なんと卑怯な。

提督の答えに、そんな悔しさが滲み出てくる。

というか・・・

「一体いつ拾ってたんですか?」

「ポケットの中にある、小麦粉を入れた卵の殻を割り、それをお前に投げた。本当なら唐辛子や刺激の強いものを入れるものなのだが、今回は小麦粉にした」

手を差し出す提督。

それを手に取る鳥海。

「頭脳戦では敵いませんね・・・」

「いや、お前のあの残像を作り出す歩法も良かった。一対一で、活用できるだろう」

「ありがとうございます」

「戦いにおいて、観察する事を忘れるな。敵の体の動き、僅かな筋肉の伸縮、呼吸の荒さ、回数、歩幅、拳を握るか握らないか、そのタイミング、視線。ありとあらゆる動作が、その人間の本質を前もって物語る。これを極めれば、少なくとも、銃口がどこを向いているのかが分かるはずだ」

「そこまで意識する事なんて出来ませんよ」

「そうか?」

相変わらず、無理な事を言う。

「というか、さっき私の攻撃を避けてたのは、全部それをやっていたからなんですか?」

「ああ。観察することは相手の知らない一面を知る事にもつながる。例えば大淀は、考え事をする際、ペンの頭を顎につける癖がある。それ以外にお茶の入れ方は、淹れたてを捨てて、二度目に淹れたものを出してくるし、文字は書き癖も無く綺麗な字を書く。他にも、間宮は料理は手早くやり、癖で割烹着の結び目を無意識に確認する事もある。今のお前も、呆然としている時は口が良く開いたままだ。まあ、そこは大体の人間が同じ様な癖を持っているが」

「え」

言われてみると、確かに口が開いたままだった。

「人間はたいてい、動揺や呆然としている時は、口が開いたままだ。他にも、目を見開いたりもしたり、僅かな反応を示す時は目元が良く動く。覚えておいて損はない」

「はあ・・・・」

なんとも勉強になる話だが、どうにも実感がわかない。

「試しだ。そこで海風と五十鈴が戦っているだろう。次に三十秒後、海風がどう動くか予想してみろ」

「え」

突拍子な事で困惑するも、そちらに視線を向けてみる。

するとそこでは、圧倒的実力差を見せつけられながらも奮闘する海風と、その海風を圧倒している五十鈴の姿があった。

「えっと・・・」

「はじめ」

「いきなり!?」

いつの間にか握られていたストップウォッチのスイッチを押され、困惑する鳥海であったが、とにかく、今は流されるがままに考えるしかない。

「えっと・・・・魚雷を撃つと思います」

「そうか」

提督はこう答えた。

「俺は突撃だ」

 

結果、提督の予想が当たった。

 

海風は決しの覚悟で五十鈴への特攻を敢行。が、弾幕によって挙げられていた水柱及び、既に放たれていた酸素魚雷の存在に気付かず直撃、轟沈判定を受けた。

「・・・・」

「酸素魚雷は、その特性上、見つかる確率が低い。その理由は?」

「え?あ、魚雷に使われる燃料の酸化剤に中濃度以上の酸素混合気体、あるいは純酸素が使われており、燃料と混合させて燃焼させると炭酸ガスを放出し、炭酸ガスは海水に良く溶ける為に発見されにくく、かつ長距離の航行させる事が可能な事から、『長槍(ロング・ランス)』とも呼ばれていました」

「ちなみに、それは、いつ、どこの誰がつけた名前だ?フルネームでだ」

「戦後、アメリカのサミュエル・エリオット・モリソン海軍少将です」

「そうだ」

鳥海の完璧な説明にうなずく提督。

「海風にはそれが見えていなかった。だから魚雷の直撃を喰らった」

「大淀さんから聞いた話なんですが、あれは長良型の皆さんと、睦月ちゃんと如月ちゃんに持たせると聞きました。それは一体・・・・」

「過去の功績から、魚雷を撃つタイミングを十二分に理解しているのがこの鎮守府にいる長良型だ。それに対して、魚雷による狙撃技術が突出しているのがあの二人だ。だから持たせた」

「高威力かつ長距離射程。これさえあれば、戦艦ともやりあえますね」

「そうとも」

提督はうなずく。

「魚雷は火力の低い、駆逐艦や軽巡には優先すべき必需品だ」

視線の先で、海風が立ち上がり、再度の演習を開始する。

「お前は火力担当だ。これから、おそらくお前の出撃頻度が多くなるだろう。覚悟しておけ」

「分かりました」

提督は立ち去り際、鳥海とすれ違った時に肩に手を置いた。

「今日は、演習している者たちの行動を先読みする事に専念しろ。動く際の癖なども見逃すな。視線もみろ。良いな」

それだけを言い残し、提督は立ち去っていく。

否、ある艦娘の所へ向かったのだ。

今回、提督はこの演習の監督官だ。

だから、この場をあまり離れる訳にはいかないのだ。

その提督を見送った鳥海は、とりあえず言われた事を実践してみる事にする。

あちらこちらで動き回っている艦娘たち。

「あれ・・・・」

そこで鳥海はふと思う。

 

―――ここにいる人たち全員見なくちゃいけないのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう・・・・」

疲労困憊と言った様子の山風。

それもそうだろう。

不知火による、なんとも無理のある蛇行訓練を課せられているのだ。

かなり負荷の掛かる様な動きで、体のあちこちが軋み、無理のし過ぎか目がチカチカする。

ふと、小さな波に足をすくわれ、それだけでへたり込む山風。

「きゃぁ」

「ん?」

それに気付いた不知火は、一時蛇行を中止する。

「どうかしましたか?」

「す、すみませ・・・ぜは・・・まだ・・・」

「ふむ・・・」

完全に疲れ切っている山風の様子を見て、ふと考え込む不知火。

「何よ?もう疲れた訳?」

山風の後ろにいた霞がその様に見下す。

それにギュッと口元を引き結ぶ山風。

「ん?」

ふと、どこから電信が入る。

『どうした?』

それに応じる不知火。

「山風が疲労でへたり込んでしまいました」

『息は?』

「上がっています」

『顔色』

「悪いかと」

『なら帰投させろ。無理は禁物だ』

「了解しました」

通信を終わり、山風に向く不知火。

「司令が戻れと言っています」

「ッ!?そんな・・・まだ・・!」

「無理は禁物、だそうです。そんな状態で倒れられても困りますし、先に休んでおいたほうが良いでしょう」

「・・・・分かり、ました・・・」

せめてもの抵抗のつもりか、わざと切って応じ、列から離れる山風。

「ふん、よくあんなで艦娘になれたものね」

「提督、霞が愚痴ってうるさいのですがどうすれば良いでしょうか?」

「ちょ!?告げ口すんな!?」

「はい、分かりました・・・・どうやらもう少し蛇行速度を上げても良さそうです」

「え・・・」

霞は頭から血の気が引く感覚を覚えた。

そんな霞などの様子など興味無いように、不知火はふと朝潮の方を見る。

「・・・・・」

そこでは、長良にボッコボコにされている朝潮の姿があった。

いくら演習用の障壁無貫通弾とはいえ、痛いものは痛いのだ。

朝潮の顔から疲労が見て取れる。

この間の演習から、朝潮の真価に気付かされたのは良いのだが、問題は、彼女の第三鎮守府での『あの事件』から、全く練度が下がっていないという事だ。

不知火や他の艦娘と違って、訓練や演習を全くやってこなかったので、多少のブランクはあるものの、それを感じさせないような程の実力を持っているのだ。

 

ふと、疑問に思った事は無いだろうか?

先日、提督の上官たる上杉から聞かされた、朝潮が引き起こした輸送任務の事件。

その時に帰還したのは朝潮ただ一人。

その時の状況を、()()()()()()()と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の一致によって、当時の鎮守府の『反人感情』を持つほとんどの艦娘たちから『裏切り者』のレッテルを貼らされて、迫害を受けて、なお艤装を纏って戦えているのか。

通常だったら、あまりの罵詈雑言に心が折れて戦えなくなる筈だ。

なのになぜ朝潮は、今、戦えるのか。

その理由は、()()()()()()()()()()で、不知火と彼女自身しか知らない。

 

「・・・・」

考えても仕方が無い。

とにかく、今は、演習に集中しなければならない。

「行きますよ」

「ッ!?ま、待ちなさいよぉ!」

悲痛に満ちた霞の声を無視して、不知火は走り出す。

 

――――陽炎、もしあなたが()、生き残っていたなら、貴方は朝潮をどうしますか?

 

もう既にいない、相棒にそう問いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果的に、確実な練度向上の見えた艦娘は摩耶、海風、朝潮、他数名の艦娘たちだった。

今回、初日の演習の目的は現状のこの第四鎮守府の艦娘たちがどこまでやれるかをふるいにかける事だったのだ。

その為、午前午後と分けた演習メニューの結果から、次の日の練成メニューを決める必要があるのだ。

提督は夜、その作業に駆られていた。

「大淀」

「なんでしょう?」

「大鳳には艦載機、特に爆撃機の急降下爆撃の練習をするように書いておけ」

「わかりました」

「あと、摩耶には対空戦闘も交えた艦隊演習を実施する。メンバーは任せる」

「それも分かりました」

「あとは・・・」

「朝潮の成績が、あまり著しくありませんでしたね」

「ふむ・・・・」

最後の一枚を書き終え、それを山積みになった紙の上に置く。

そこでペンを止める提督。

「どうやら、過去のトラウマとやらと関係しているみたいだな」

「それに詳しそうなのは、長良あたりでしょうか?」

「いや、事はそれほど単純ではないだろうな」

「ん?」

珍しい。

そう思う大淀。

「何故そう思うのですか?」

「奴が霞と満潮と裏切り者と呼ばれている理由。どうやら、輸送船の護衛任務の時だったらしい」

「ふーん・・・・」

意味有り気に笑う大淀。

それに首を傾げる提督。

「どうした?」

「いえ、今まで他人の過去に興味無かった提督が、朝潮の事だけはちゃんと調べていたなんて思いませんでしたので」

「調べた訳じゃない。上司から、聞かされただけだ」

「その話、嘘という事は?」

「あの人はそんな人じゃない。俺の恩人だ」

「恩人・・・・」

その時、提督の声音が、僅かに震えた事に、大淀は気付くも、聞いても適当にあしらわれると思い、やめた。

「そう言えば、提督って自分の過去ってあまり話しませんよね」

「そうだな」

「自覚あるんですか?」

「話す気なんて無いからだ」

「そうですか」

分かり切っていた答えに、大淀は仕方が無いとでも言うように笑う。

この男はいつもそうなのだ。

いつも自分の正体を隠し、決して自分の過去を明かそうとしない。

まるで、何かを恐れているかのように。

あの仮面はきっと、自分の弱さを隠すための殻の様なものではないのだろうか?

そんな予想が、大淀にはあるのだが、これ以上詮索しても無駄なだけだ。

大淀がそう割り切れたのは、ただ、彼女の望みは、信頼できる者に、使われる事なのだから。

「む」

そこへ、突如、ダイヤル式電話が、騒音をまき散らす。

「なんだ?」

「なんでしょう?」

鬱陶しそうに、受話器を手に取り、耳に無造作に押し当てる。

「第四鎮守府だ」

『よう、第四の提督』

「お前か」

第二の提督、斑鳩真だ。

「何の用だ」

『おいおい、一応俺はお前より階級が上なんだぜ?そういう相手には、敬語を使うっていうのが筋なんじゃないのか?』

「用がないなら切るぞ」

『オイコラ。上司からの電話を、そんな簡単に切る奴が』

 

ガチャリ。

 

真が何かを言い終える前に電話を切る提督。

「・・・・間違い電話だった」

もはや笑うしかない大淀。

すぐさままた電話が鳴る。

「なんだ?」

『本気で切りやがったなこの野郎・・・』

「・・・」

『待て切るなボケ!用も無しに電話かけるバカがいるか!』

「ならさっさとしろ。こちらとて暇ではない」

『チッ、面倒な奴だなオイ』

「・・・」

『だから切るなァ!』

舌打ちする提督。

「それで、何の用だ?」

『ああ、どうやら第一の提督さんがお前ら第四の艦娘と演習がしたいそうだ』

「それで何故お前の所から電話がかかる?」

『ハ、そんなもん、決まってんだろ』

「そうなのか?」

『ああ』

くくく、と笑い声が聞こえた。

『俺の第二と、あのデブの第三もその演習に参加するんだよ。『大演習祭』って奴だ』

「そうか」

『オイ待て、まさかもう切る気か?』

「そうだが?」

『まだ話は終わってねえよ!』

「そうなのか?」

『そうだよ!』

もはや完全に提督のペースに持ち込まれている。

『クソ・・・・でだ。お前は受けるのか?まあ、断った所で元帥命令で強制参加だろうけどな』

「そうか。まあ良いだろう。今の第四の力がどこまで通用するのか知っておく良い機会だ」

『そんな呑気に言ってられんのも今のうちだぜ?』

「そうなのか?」

『・・・お前、馬鹿なのか?』

「分からんな」

『・・・』

提督の対応に黙ってしまう真。

「どうした?」

『いや、なんでもねえ・・・・』

何も言えない真。

「まあいい。日付、場所、時刻、そのほかの情報は?」

『ん?ああ。今から一週間後だ。時刻は十時。場所は横須賀。第一がある所だ。三日間開催する予定だ。午前と午後に開催するんだと』

「そうか」

『せいぜい、指をくわえて見ている事だな。お前の部下たちが、俺の艦隊にボコボコにされる様を見ておけ』

「そうか」

 

ガチャリ。

 

興味無さげに返し、提督は電話を切った。

「それで、内容は?」

大淀が聞いてくる。

「一週間後、第一、第二、第三、第四で合同の大演習を行うらしい」

「ええ!?」

これにはさすがに驚く大淀。

「第三ならまだしも、第一、第二と、合同で演習をするんですか!?」

「ああ、六対六の艦隊戦だ」

「拒否権は?」

「聞く限り、無い」

提督の言葉に、絶句する大淀。

「・・・意見具申、よろしいでしょうか?」

「・・・許可する」

数秒にも満たない間の後に発せられる許可の一言。

「正直言って、今の我が艦隊の練度は、他の鎮守府と比べて、圧倒的に足りません。それに相手は、実践を何度も積んでいるベテランがほとんどです。あまり出撃しない我が鎮守府の実力では、遠く及ばないかと思われます」

「そうだ。()()()()()()()

「え?」

提督の言葉に、きょとんとする大淀。

「奴らは幸運にも一週間の猶予をくれた。我が艦隊の編成は、全て同じ艦隊で挑む事にする。重巡二、空母一、軽巡一、駆逐二の編成で出る」

提督は、執務机へ行くと、万年筆(ペン)と紙を無造作に引っ張り出し、がりがりと何かを書いていく。

「敵の編成は、火力重視、航空戦重視、雷撃重視の三つの編成の艦隊が出てくる筈だ。その三つの要素を、それぞれ分担して解決する」

提督は、書き終えた紙を大淀に渡す。

「翌日、鎮守府にいる艦娘全員を、入江前に呼び出せ。俺自らが指揮を執り、この六隻の練成を担当をやる。良いな」

大淀は、その紙の内容を見て、思わず絶句していた。

「良いか大淀。俺が求めるのは徹底した実力主義。その為だったら、俺は何でもしよう。使えるものは全部使うし、使えないものは使えるようにする」

提督は、大淀に言う。

 

「―――勝ちに行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

入り江に呼び出された第四の全ての艦娘たち。

それぞれ艦種ごとに一列に並び、整列している。

「何の用だろ?」

「私に聞かないでよ隼鷹」

飛鷹と隼鷹がひそひそと言い合っている。

実際、全員は大淀に室内放送で入り江前の海岸に来いとしか言われていない。

「全く、こんな朝早くから呼び出すなんて、一体何の用なのよあのクズは」

満潮がうんざりとした様子でそう言っている他所で、最後尾で朝潮は不安そうな顔で立っていた。

(まだ演習二日目で、どうしてここに)

「ん、来たぞ」

摩耶がそう言い、全員の視線がそちらに向く。

そこには、大淀を傍に、ずかずかといつもの歩調で歩いてくる提督の姿があった。

提督は、彼女たちの前に立つ。

「一体何の様よ?こんな所に呼び出して」

霞がいきなりそう問いかける。

「霞、少し黙っていなさい」

「ふん」

不知火が咎めるも、ふい、とそっぽを向く霞。

ただ、本当の所、それは誰もが聞きたい事だ。

そこで提督は、一度、周りを見渡し、全員がいる事を確認すると、口を開く。

「一週間後、第一、第二、第三、第四で、合同の大演習をする事になった」

いきなりの事で、艦娘たちが困惑の声をあげる。

中には理解できていない者もいる。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

満潮がその様な声を挙げる。

「他の鎮守府といきなり合同演習なんて、何考えているのよ!?」

「知らん。強制参加だそうだ」

「だからって話進めないでよ!」

「もう決まっている事なんだから話しを進めるも何も俺は何も関わっていない」

「ふざけないで!」

「ふざけてなどいない」

「私たちじゃ叶うわけないでしょう!?」

「お前は出さない」

「え・・・」

提督の言葉に困惑してしまう満潮。

「今回の演習は、全て同じ編成で出撃する。その為、その艦隊については、俺自らが練成を指揮する。一週間も猶予がある。十分、間に合う」

提督の一方的な言葉にもはや何も言えない艦娘たち。

「今からその編成を発表する。大淀」

「はい」

横で控えていた大淀が、脇に抱えていたボードに貼られている紙を見て、艦隊の編成を告げる。

「編成は重巡二、空母一、駆逐二、軽巡一の構成で行きます。では、まずは空母から」

大淀は、この鎮守府で唯一の重巡二人に視線を向ける。

「制空権確保のため、大鳳に出て貰います」

「分かりました」

「次は重巡。艦載機の不足を補うために、対空戦闘を担当してもらいます、摩耶」

「おう」

「次、主要火力を鳥海に担当してもらいます」

「はい」

「次は駆逐艦。判断力から、不知火」

「承りました」

「そして、朝潮」

「・・・・え?」

視線が一斉に朝潮に向く。

「え、あの・・・どうして?」

「それは提督に聞いてください」

いきなり話を提督に振る大淀。

それに舌打ちするも、提督は朝潮に言う。

「お前、どうやら輸送船団護衛作戦で、自分一人だけ生き残ってしまったようだな」

「!?」

朝潮の顔が驚愕に染まる。

何故、提督がその事を知っているのか。

「それだと困る」

提督は冷たく言い放つ。

「俺が求めるのは徹底した実力主義だ。そんなトラウマ如きに足を引っ張られては困る」

「ッ・・・」

ギュッと、拳を握りしめ、悔しそうに唇をキュッと引き結ぶ。

「ねえ、そんなに困るんなら変えたらどうなの?」

突然、霞がその様に言う。

「ようするに、役立たずはいらないって事なんでしょ?だったら変えるなりすれば良いじゃない。それとも、あんたの不満を解消する為のサンドバックにするつもり?」

「生憎俺にはその様な不満は持っていない」

全く持って、呆れた様な表情で(兜で分からないが)そう返す提督。

「朝潮、お前にはそのトラウマを克服して貰わなければならない。ならばどうするか。いつもなら、護衛船団をやらせるのが良いのだろうが、生憎時間がないからな。第三の奴らを利用させて貰う」

提督は言う。

「第三の艦娘を屈服させろ。それをもってお前のトラウマとやらを克服しろ。過去などどうでも良い。今を見ろ」

提督は朝潮に言う。

「罪を背負え。必要なのは過去(うしろ)ではなく現在(まえ)だ。異論とかそういうのは言わせん。良いな?俺は徹底した実力主義者だ。戦場に卑怯も腰抜けも糞も無い。生き残った奴が勝者だ」

提督は言う。

「俺はお前たちにこの戦いで生き残る術を提供するだけだ。今回の演習もその一環。他の鎮守府などただの通過点に過ぎん。お前たちはどうしたい?」

提督は聞いた。

それにすぐには答えられない艦娘たち。

だが、その中で、一人だけは威勢よく答えた。

「そんなもん、決まってんだろ!」

摩耶だ。

「勝つ!それだけだ!」

グッと握り拳を作って、そう言い放つ。

「そうとも」

提督は答える。

「よく、ここの艦娘は役に立たない、言う事を聞かない、などと言うが、お前たちは本当に役立たずか?仲間を失い、その時の光景は脳裏に焼き付く事はあるだろうな。だが、そんなものをいつまでも見ている事はそいつの進歩を止める事になる。ならばどうするか。それを踏み台にしろ。裏切られようがなんだろうが、その光景に怯える事はあっても忘れる事はするな。それは罪だ。お前が償うべき罪だ。罪は生きている事でしか償えない。死ぬまで一生、離れ、消える事はない。ならば乗り越えろ、連れていけ、その後悔を忘れるな。人はそうする事で強くなってきた」

提督は、兜の奥で、紅い双眸を見せる。

「勝ちを取りに行くぞ。その為の大演習だ」

摩耶が右拳を左掌に打ち付ける。

鳥海が眼鏡のブリッジを持ち上げる。

大鳳が胸に握り拳を当てる。

不知火が目を細める。

朝潮は茫然とする。

「過去は捨て置け、罪は背負え、勝ちは奪い取れ。良いな。朝潮」

「・・・・はい」

朝潮は、力強く答える。

自分を、救ってくれた提督の為に。

 

全員が、意気込んでいる中、霞と満潮だけは、朝潮の様子を見て、歪んだ表情で、睨み付けている事に、気付く事無く。

 

 

 

 

「あ、そういえば提督」

「軽巡の話か?」

摩耶の質問に提督はそう答えた。

「そうそう。誰なんだよ?」

ふう、と提督は溜息を吐くと、隣の大淀見る。

「では、最後に、軽巡の事ですが、この艦には、旗艦を務めて貰います」

おお、と一同からその様な声を挙がる。

一体だれになるのか、その様な期待が一同に伝播する。

ふと、大淀が一歩、前に出る。

「その軽巡洋艦ですが・・・・」

大淀は、ボードをおろす。

「この、大淀が務めさせてもらいます」

ええ!?と半ば予想外な事に声を挙げる一同。

「分かったらさっさと演習を開始しろ。今言われた六人はこの場に残って練成の詳しい内容を伝える。良いな」

混乱する時間さえも与える事なく、提督の一言で演習二日目が始まった。

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