鉄兜提督がブラック鎮守府に着任しました   作:幻在

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補給は必要だ

台所に入る提督。

そこはやはり薄汚れていて、鍋やフライパンなどは洗面所にて無残に放り入れられている。

提督はその中身を除き、まだ使える事を確認する。

次に包丁。

包丁立ての中にある一本を抜き取り、精査する。

「・・・・・・ふん」

手入れはされていないが使える。

砥石(といし)があれば大丈夫だろう。

「あ、あの・・・・司令官・・・・」

「なんだ?」

朝潮の言葉を聞きながらも提督は台所の点検を進める。次は、水道。

「もしかして・・・・料理出来るんですか?」

「・・・・」

急に黙り出し、水道の蛇口をひねる。透明で汚れてはいない。どうやら大丈夫の様だ。

「え?まさか出来ないのか?」

隼鷹がそう聞いてくる。

だが、男は水道の下の棚を空け、砥石を取り出す。

「・・・・・・昔、母に教わった程度だが出来る」

「えーっと、誰かに食わせた事は?」

「ある。それなりに食ってくれていた」

「ああ、そうなんだ」

取り出した砥石の箱を開け、中の砥石を取り出す。

包丁を研ぎ始める。砥石の入っ男は黙々と手慣れた手つきで包丁を研いでいく。

ものの数分。それだけで研ぎ終わったのか、手に持っていた包丁をまな板の上に置く。

「・・・・」

そこでしばし棒立ちになる提督。

それに瞬きをする隼鷹と朝潮。

だが、提督は二人に向き直る。

「俺が台所をやる。お前たちは食堂をやれ」

「「え」」

「分かったな?提督命令だ」

重要な部分の抜けた命令。

それに思わず首を傾げる隼鷹と朝潮。

「えーっと・・・・掃除をしろと?」

「それ以外になにがある?」

さぞ何言ってるんだコイツといった表情(兜で分からないが)でこちらを見る提督。

そんな訳で、ほうきを持たされた二人。

台所の方ではガシャンガシャン!と、騒音が鳴り響いている。

「・・・・やりましょうか」

「ああ」

提督曰く、テーブルを拭く、埃を掃くだけで良いそうだ。

埃で足跡が残る部分を徹底的に掃いていく。

ふと、そうした騒音の中で掃除をしていると、扉が開く。

「・・・・・何をしてるの?」

「霞・・・」

朝潮の姉妹艦、霞だ。

「何って掃除だけど~?」

相変わらずお気楽な感じでそう返す。

「温厚派の隼鷹がいるって事は、いるの?提督」

僅かに滲み出る殺気。

「ああ、いるよ。あそこに」

「ちょ!?隼鷹さん!?」

隼鷹は悪びれもせずに今提督が掃除をしているであろう台所を指さす。

大井は、朝潮にとっての危険人物の一人。

「ここに・・・・提督が・・・・」

「呼んだか」

ひょっこりと提督が台所から出てくる。

「てい・・・・ッ!?」

叫ぼうとする朝潮。

だがそれよりも速く、霞が提督に向かって艤装を展開し飛びかかる。

 

艦娘は、通常なら歳に似合った筋力しか発揮できない。だが、艤装を発動した場合は、人間の数倍の筋力が発揮され、人間など本気で殴られれば新幹線に()ねられるかの様に吹き飛ぶ。

 

だが、提督の対応は冷静なものだった。

右手に持っていた、小麦粉。

それを空気中にまき散らす。

「ぬあ!?」

それが顔、目に入り、視界を奪う。

そこへ、提督を捉えようとした伸ばされた右腕の手首を左手で掴み、更には右手で襟首をつかむ。

そのまま飛びかかって来た勢いを利用して、床に叩き着ける。

「ガッハァ・・・・!?」

肺の中の空気の一切が吐き出される。

更には背中からくる鈍痛で動けなく。

提督はそんな霞を一瞥すると、なんでもない様に台所へ歩いていく。

「か、霞!」

朝潮はそんな霞に駆け寄る。

「う・・・ぐぅ・・・」

霞の上体を起こす朝潮。

だが、朦朧としていた意識がそれで元に戻ると、突然、霞は朝潮を突き飛ばす。

「触らないで!」

「きゃ!?」

思わず尻もちをつく朝潮。

「あんたの様な()()()()なんかに触られたくないわよ!」

「かす・・」

「呼ぶなァ!」

「ひぃ・・・」

怒声を飛ばす霞にすっかり恐縮する朝潮。

「おい」

そこへ提督が割って入る。

その行動に、隼鷹はちょっとした期待を抱く。

「な、何よ・・・・」

「て、提督・・・・」

キッと睨む霞。

「掃除をするかしないかどっちかにしろ。しないならでていけ」

「「「は・・・・?」」」

全く持って予想外な言葉に、その場にいる全員がポカンとする。

「どうした?」

至極真面目に首を傾げる提督。

見ると、霞の手が僅かに震えている。

「・・・・・な」

「なんだ?」

「私に命令するなァ!」

展開したままの艤装を向けようとする霞。

だが、それよりも速く提督の脚が霞の主砲を持つ手を真上に蹴り飛ばす。

勢いによって体制を崩す霞。

そんな霞の肩を押し、倒す。

「う」

「やらないなら出ていけ」

「ッ!だから私に命令・・・・・ひっ」

霞が突如として黙る。

その理由は提督が彼女の喉に向かって包丁を向けていたからだ。

「もう一度言う。掃除しないなら出ていけ、するならほうきを取れ」

「ッ・・・・」

本来、艤装を纏った艦娘は現代兵器は傷をつける事など不可能だ。

それは深海棲艦にも言える事だが、とにかく、ただの弾丸や刃物では傷をつける事は不可能だ。

それは霞も理解している。

だが、幾たびの『地獄』を見てきた霞であっても、提督の放つ威圧は、全く違う恐怖を感じた。

それは、苦しめられるという事に対しての恐怖では無い、()()()()という事に対する恐怖だ。

だから霞は、ここは大人しく従う事にした。

「わ、分かったわ・・・・・出ていけばいいのね・・・?」

「そうだ」

包丁を引っ込める提督。

そのまま台所に戻っていく。

霞は力無く立ち上がり、食堂を去っていく。

その際、朝潮は何かを言いかけたが、言葉が見つからず、そのまま見送ってしまう。

(まあ・・・・あんな事があったらなぁ・・・)

被害の対象にならなかった隼鷹であっても、あれは嫌でも思い出す。

(あの人には、アタシもそれなりに信頼出来たんだけどなぁ・・・・)

と、もの思いにふけっていると、更なる来客が来る。

「・・・・何してるんですか?」

不知火だ。

「よう不知火。掃除だよ掃除」

「分かっています」

「じゃあ聞くなよ・・・・」

「そんな事より、提督はどこですか?」

「ん、あそこ」

隼鷹が指さす先。

いつの間にか音が無くなっていた。

提督が出てくる。

そんな提督の前に不知火が立つ。

「・・・・・何の用だ?」

「貴方の監視を任された不知火です。これからは、貴方は私の管理下に置かれる事になるのでご了承を」

「そうか」

「早速ですが、着任早々、何をしているんですか?」

「掃除だ」

理由(ワケ)を聞いても?」

「良いだろう」

提督は説明する。

「艦娘には補給が必要だ。だがこんな悪環境でまともな補給が出来る訳が無い」

「まともな補給・・・・私たちはこれでも()()()に補給をしていますが?」

「質の問題だ。レーションなどという()()()()()()で奴らに敵うものか」

「必要な栄養さえ取れれば十分戦えます。それとも貴方はそんなもの補給では無いとでもいうつもりなのですか?」

「バカな。それは立派な補給だ。だが、それでは調子が悪いというものだろう」

「調子など問題の外です。私たちに必要なのは補給以前に戦闘です。所詮、私たちは『兵器』です。それは散々貴方たちが言ってきた事でしょう?」

「そうだ」

提督は肯定する。

「兵器という認識があるのは結構。だが、いつまでも質の悪い燃料で、本来の性能は発揮されんだろう」

「戦えればそれで結構。私たちはそれで良いんです」

「そうか。じゃあ、お前が沈んで悲しまない奴がいるんだな?」

ピクリ、と眉が動いた気がした。

「・・・・どういう意味で?」

「そのままの意味だ。俺は例外として、お前の姉妹艦、親しい者、信頼している者。誰もがお前を沈んでハイソウデスカと割り切れるのか?割り切れたらそれは立派な人間だろう。何せ、何も感じないのだからな」

提督は続ける。

「何も感じないのは素晴らしい事だ。痛みも感じない、激情に駆られる事もない。ましてや、誰かを家族と思わず、かつての友達だと思い出せず、ただ自分が朽ちるのを待つ。素晴らしいではないか」

だが、と提督は更に続ける。

「だが、なにもしないでただ朽ちるだけの行為になんの意味がある?何かを成し遂げる前に滅んでは何の意味がある?名誉も栄光も与えられないまま、ただ朽ちて死んでいく。お前たちはそれで終わるつもりか?」

提督は、兜の奥で光る鬼火の様な赤い目を、不知火に向ける。

「・・・・・それだけですか?」

「俺は聞いているんだ」

変わった返答に目を見開く不知火。

だが、すぐに目を細め、答える。

「私たちに・・・名誉と栄光も無いでしょう。少なくとも、この時代では、ただ戦う事だけが、私たちの存在意義です」

「ならばその意義を保つ為に、質の良い燃料は必要だ。さすればいつもよりは動きがマシになるだろう」

「そういうものではないでしょう?」

「そういうものだ。実際、俺がそうだ」

提督の返答に、不知火は僅かに眼光を強くする。

「・・・・貴方と私たちを一緒にしないで下さい」

「いや、同じだ。兵器も人間も、それなりに整備は必要だ」

「人間に整備など必要ないでしょう?」

「それは間違いだ。俺たちはいつでも清潔を保たなければならない。なぜなら傷を負った時、そこから細菌が入り、体を蝕まれる。それを防ぐ為に、俺たちは入浴という行為をするのだ。構造からしても全く同じだ。生物は、体内にある内臓を守る為に皮膚という装甲が存在し、その上に服という追加装甲を身に着ける事でダメージを軽減する。兵器であっても、内部にある重要な装置を守る為に鋼鉄の装甲を見纏い、守りを固める為に装甲を厚くする。同じだろう?体を構成するものが、肉か鉄かという事に目をつむれば、な」

なんとも偏見から入った正論。

だが、それでも不知火は反論する。

「確かにそうでしょう。ですが、体の頑丈さから見れば、人間と兵器は全くの別物。私たちは鉄。そして『艦』です。その力は貴方たちを簡単に屠れるのですよ?」

「なるほど、俺は死ぬのは確定という事か」

突然の提督の言葉に不知火はおろか、聞いていた朝潮や隼鷹でさえも面食らった。

「・・・・何故、そう思ったんですか?」

「普通。艦娘は人間を殺すなどと言わない。そして、体の形と作りが人間と同じなら、まずその様な思考に至れる訳が無い。そう考えられるのは、一度人間を殺した事がある艦娘(もの)だけだ」

冷静な推理と、()()()()()()にある事を元に、そう推理をする提督。

「そうですか・・・・ここまで頭がキレるとは落ち度でした」

「そうだな」

提督は単調に返す。

「不知火、お前が艦娘には質の良い燃料(まともな食事)はいらないといったな。ならば、そのまともな食事がお前たちにどんな影響を与えるのか、試してみないか」

「どういう意味ですか?」

突如として朝潮を指さす提督。

「三日後、演習を執り行う。お前と朝潮が勝負をし、お前が勝ったら俺は食の改善は諦めよう。だが、朝潮が勝った場合・・・・・お前は俺の側につけ」

「ええ!?」

声をあげたのは朝潮。

「そ、そんな無理ですよ!不知火さんはこの鎮守府の駆逐艦の中で最高練度を誇る艦娘なんですよ!?とても私なんかが・・・・・」

「だが手頃の相手がお前しかいない」

「それは・・・・そうですが・・・・」

次の言葉が見つからず、言葉に詰まってしまう朝潮。

「良いでしょう」

そんな中で朝潮の葛藤などお構いなしに不知火がそう返答する。

「どちらにしろ、貴方は殺す予定です。私の勝利条件を貴方の死亡とするなら受けても良いでしょう」

「な・・・・ッ!?」

不知火の提案。

それに提督は。

「良いだろう」

躊躇い無く了承した。

「提督・・・・!?」

「お前が勝てば、俺はこの命を差し出そう。だがお前が負けた場合、大淀とは手を切れ」

「流石に気付いていましたか」

「あからさまに艤装を展開していれば、いやでも殺す気があるのは明白。それに気付かない馬鹿も馬鹿だが、少なくとも俺には殺気は丸分かりだ」

「良いでしょう。朝潮が勝ったら、私は大淀さんと手を切ります。反故は許しません」

「良いだろう」

そのまま不知火は立ち去っていく。

それに、朝潮は鬼気迫る表情で提督に詰め寄る。

「何を考えているんですか!?」

「何って、俺がこの鎮守府に残る為の算段だが?」

「そういう事じゃなくて・・・・自分の命を、勝手に他人に委ねないで下さい!」

「俺は、お前を信じて委ねたんだが?」

提督はさぞ不思議そうに答える。

「どうして・・・・今日会ったばかりなんですよ・・・?そんな相手を・・・どうして・・・・」

「お前の俺に対する最初の行動は、執務室の掃除だ」

淡々と、語り出す。

「そして、俺と相対した時は、お前の目には恐怖と・・・・確かな優しさを感じた。俺は、そこからお前の信頼性を決めた。現にお前はこうして真面目に掃除に取り組んでいる。今は信じる要素はそれだけで構わない」

「そんな・・・・・勝手ですよ・・・・」

「そうか?」

首を傾げる提督。

「そうなんです!」

その反応に思わず声を挙げる朝潮。

「そうか」

「~~ッ!」

何か調子が狂う。

そんな事を思いながら、頭に血が上るのを感じる朝潮。

だがそんな彼女をお構いなしに提督は朝潮から視線を外す。

「調理場の清掃は終わった。お前たちは、ここの清掃が終わり次第、自由に過ごせ。隼鷹、後で精神のダメージが少ない艦娘を紹介しろ」

「あいよ。というか、終わったんなら、手伝ってくれよ提督」

「無理だ」

そう答える提督。

「今から街へ出る」

 

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