第四鎮守府入り口。
「んー・・・・
割烹着姿の茶髪の長い髪を後ろでまとめた女性が、風呂敷包みを持って立ち往生していた。
「ん?」
視線を感じた女性は、鎮守府の窓へ視線を向ける。
するとその視線は切れ、どうやら隠れた様だった。
「話には聞いてたけど・・・・どうやらその様ね・・・・あ」
扉が開く。
その扉を開けた主を見た女性は、表情をほころばせる。
「お久しぶりです、
「来たか、『間宮』」
数分前。
「同僚?」
「そうだ」
廊下をずかずかと歩く提督と、その後をついていく不知火。
「貴方に同僚がいたんですね」
「そうだ」
「その同僚って、本営じゃ料理長でも勤めていたんですか?」
「給糧艦だ」
「え」
提督の返答に意外そうな声をあげる不知火。
「食料艦って事は・・・・・艦娘なんですか?」
「ああ。戦闘の役に立たないという理由で本部の食堂で働いていたんだが、俺が
「なら良いのですが、ここの惨状見ても大丈夫なのでしょうか?」
「やわな鍛え方はしてない」
「そうですか」
提督のめちゃくちゃな説明を理解している不知火。
そんな訳で出迎えた給糧艦『間宮』。
先で話した通り、彼女は提督の上司らしい。
「ここの惨状は『奴』から受け取った筈の俺の手紙に書いてある通りだ」
「存じております。さきほど、窓の方から視線を感じました」
「だろうな。奴らには話していない。大淀には気を付けろ」
「はい。名簿には目を通しました」
やはりめちゃくちゃ。要点しか話さず、それに至るまでの行程をほとんどすっ飛ばしている。
そんな事はどうでも良い様に、食堂に案内する間宮。
「基本的に注文制だ。頼まれたものだけ作れ」
「分かりました。食料の方は・・・・」
「すでに調達させている」
「女将さ~ん、そこのナスくれよ~。ついでにそこの大根も」
「あいよ。しかしアンタ、見ない顔だね。引っ越してきたのかい?」
「まあそんな所だね~」
「じゅ・・・・おーい、早くしてよ!」
「あ、ワリィワリィ!今行くよ!」
「すでに隼鷹たちを行かせてたんですね・・・・」
「そうだ」
食堂にて、椅子に腰かけている提督と不知火。
ちなみに不知火はとっくに『料理』の『有用』さを認めているので、問題は無い。
時刻は十二時だ。
そろそろ昼食の時間だ。
だが、提督の『教え』で、来るものはいる。
「あ、司令官」
「よーッス提督ー!買って来たぜ!」
「買ってきてあげたわよ。全く、私たちはパシリじゃないのよ」
朝潮、隼鷹、飛鷹の三人だ。
「来たか」
「お疲れ様です」
そちらに顔を向ける不知火と視線だけを向ける提督。
「あ、来たんですか?」
そして厨房の点検をしていた間宮が顔を出す。
「お、あんたが提督の言ってた腕利きの料理人か?」
「はい。給糧艦の間宮と言います」
ぺこりとお辞儀をする間宮。
「はい、食材」
「ありがとうございます」
一杯になった巨大な袋を間宮に渡す隼鷹。
そこで重要な事に気付く飛鷹。
「あ、それおも・・・・」
それ重い、といいかけた飛鷹だったが、なんと間宮はなんでもないようにひょいっと隼鷹の持ってた巨大な袋を片手で軽々と持ち上げる。
「さ、そちらもくれませんか?」
「アッハイ」
飛鷹から袋を受け取ると、そのまま厨房へ行ってしまう。
茫然とする飛鷹と隼鷹。
「・・・・なあ、提督」
「なんだ?」
「あの人何者?」
「料理人だ」
「あ、そう・・・」
提督の正確かつ簡潔な答えに、曖昧な返ししか返せない隼鷹。
そんなこんなで、間宮の作った料理を食した朝潮たちの感想は・・・・・
「美味しいです!」
「美味い!」
「本当!美味しい!」
「・・・!」
三者三様ならぬ、四者四様。
それぞれの表現で、しかしどれも同じ感想で、気持ちを表現する。
「喜んで頂けて何よりです」
「俺は戻る。良いな?」
「はい」
立ち上がる提督。
「不知火は食べ終わるまでここにいろ。――――」
「―――!分かりました」
そのまま去っていく提督。
「・・・・」
「どったの朝潮」
「いえ・・・・提督がご飯食べてる所、見た事ないな・・・・て思って」
「確かに」
朝潮の疑問に同意する飛鷹。
「あの人は、他人の事しか考えないのよ」
ふと間宮が厨房からやってくる。
その手にはオレンジジュースの入った瓶だ。
「あ、ありがとうございます」
「他人の事しか考えないってどういう事なんですか?」
飛鷹が聞く。
それに対し、間宮は困った様な笑みを浮かべる。
「そうですね・・・・まあ、そういう事です」
曖昧な答えを返し、戻っていく間宮。
「彼の事には、あまり口に出さないで下さいね。あの人、ああ見えて結構凄惨な過去を持っていますから」
その一言を残し、厨房へ戻っていった。
執務室にて、提督は書類にペンを走らせる。
「・・・・・む」
ふと、腹が鳴る。
それに提督は冷静にポケットからレーション、それも
全て食べ終えた後、提督はまたペンを躍らせる。
「・・・・・・これは」
最後の書類に手をかけ、その内容を見た提督の動きが止まる。
それには―――――
――――――――『会議資料』と書かれていた。
全ての資料を片付けた提督は、しばし仮眠をとっていた。
そんな中、ぎぃ、と扉が開く。
入って来たその人物は、一歩一歩、提督に近付いていく。
起きない提督の状態を良い事に、にやりと笑みを浮かべ、ゆっくりと近付いていく。
そして、その手首につけられた主砲を、ゆっくり向ける。
そのまま、引き金を引こうとした瞬間。
「俺がそのまま寝ていると思ったか?摩耶」
「な・・・!?」
向けていた腕を引っ張られ、思わず執務机の端に片手をつく。
そのまま引っ張られる時に起こった運動を止めた時、喉元に、ぎらつく刃が向けられていた。
「ッ・・・・」
「寝込みを襲うのは良かった。だが、俺は
勝ち誇る事も無く、ただ淡々と、油断なく、敵から目を離さず、その刃を向ける提督。
それに動く事が出来ない摩耶。
「・・・・・ハ」
だが、摩耶は笑う。
「おいおい、こんな
そのまますぐさま左手を向けようとした瞬間。
「だろうな」
その左手に、鮮烈な痛みが走る。
「ガァッ!?」
気付けば、喉元に向けられていたナイフは、執務机のついていた左手の甲を貫き、机に縫い留めていた。
「な・・・に・・・・!?」
訳が分からず、目の前の光景に眼を疑う。
通常、艦娘は、艤装を纏っていない状態では普通の女性よりわずかに力がある程度の力しか持たない。
だが、艤装を纏った状態ならば、力がその数倍に跳ね上がり、弾丸、バズーカなどの近代兵器は全く通用しなくなる。
それはすでに
ただ通用するのは互いの主砲や魚雷、機関銃のみだ。
だから、提督の持っている、何の変哲もないナイフなどで、艤装を纏った摩耶を傷付けられる事など、ありえないのだ。
「――――ありえない事はありえない」
「な・・・んで・・・・だよ・・・・・」
鼓動が高くなる、呼吸が浅くなる、あまりにも信じられない事が目の前で起きているから、混乱に陥る摩耶。
提督は、摩耶の左手を刺したナイフから手を離し、更にもう一本のナイフを取り出す。
手を刺しているナイフと同じ、刀身が通常のものとは幾分か長いコンバットナイフだ。
それは、よく見ると刀身が墨を塗ったかのように黒い。
「これは、深海棲艦の装甲板から造られた特殊仕様のコンバットナイフだ。この様に、艤装を展開した艦娘、または深海棲艦に対して有効な武器だ。だが、これを持っているのは
首に向けていたナイフを腰にあろう鞘に納め、摩耶の左手に刺さっていたナイフを抜く。
抜けた事によって、左手を抑え二歩三歩下がる。
「このやろ・・・・!?」
突如噴き出た、または、恐怖を振り払うかのように右手の主砲をむける摩耶。
だが、それよりも速く、頬を漆黒の刃が通過する。
僅かばかりの痛み。僅かに斬られた頬から、血が流れる。
「・・・・・」
それに糸が切れた人形のように地面に膝をつく摩耶。
そんな摩耶を気にした様子もなく、扉に刺さったナイフを取りに行く提督。
そのまま、ナイフを抜き取り、扉を開けた。
「姉妹そろって、俺を殺しにきたか」
そこには、おそらく扉を突き抜けたナイフの刃に驚いた鳥海が、床にしりもちをついて座っていた。
「あ・・・あの・・・・・」
「摩耶を入渠させろ。手を負傷した」
提督がそう告げ、中に戻る。
少しして摩耶の腕を引っ張って連れてきた。
「摩耶!?」
思わず駆け寄る鳥海。
意気消沈している摩耶を見て、思わず絶句する鳥海。
「鳥海」
ハッとなり、提督を睨みつける鳥海。
「何があったかソイツに聞け。今ここでお前も向かって来てもいいが、結果は同じだ」
それだけを告げて、提督は執務室の中に入っていった。
「・・・・・」
鳥海は、追いかける事が出来なかった。
ここで摩耶を置いて襲い掛かる事が出来た。
だが、今は摩耶の状態をどうにかするのが先決だ。
先ほどみた、摩耶の左手から流れ出す血。
なぜその様な事に至ったのか、鳥海にはわからなかった。
翌日。
「・・・・・」
送られてきた書類にペンを躍らせる。
「司令」
ふと不知火が声をかける。
提督は手を止める事無く、不知火に返答を返す。
「本営から電話が来ました」
そこで初めて手を止める。
「分かった」
提督は、不知火から受話器を受け取り、変わった事を告げる。
そこから二度三度相槌を打ち、内容を聞き取る。
「分かりました」
そして遠慮なく受話器を電話に叩き付ける。
「本営からはなんと?」
提督は言う。
「艦娘の引き渡しだ」