鉄兜提督がブラック鎮守府に着任しました   作:幻在

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過去などどうでもいい

 

 

――――視界が歪む。

 

 

理由は、涙の所為だろう。

 

 

ではなぜ涙を流しているのか。

 

 

・・・というか喉も痛いし、体も焼けるように熱いし、視界は歪んでると言ったが赤いし。

 

 

理由は明白であるだろう。

 

 

 

姉さんたちが死んだ。

 

 

 

 

 

それ以外にありえない。

 

 

だったら、自分は、ここまで泣かないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大量の艦載機(てき)から、姉さんたちを、守れなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、起きろ」

「うわぁああああぁあああ!?」

突如、猛烈な殺意を浴びせられ、飛び起きる摩耶。

「て、ててて提督!?なんで!?どうして!?」

「なんでも何も、お前に聞きたい事があってやってきたんだが?」

「艦娘とあまり接触はしないんじゃなかったのかよ!?」

「そうだ。これは必要事項だ」

寝起きで混乱状態の摩耶なんぞどうでも良いとでも言うように会話を進める。

「で?聞きたい事ってなんだよ?」

「演習についてだ」

摩耶の目が見開かれる。

「お前を編成した艦隊だが、毎度必ずお前が出てこない。あれほど威勢の良いお前が演習に出てこないとはどういう事だ?」

「・・・・」

答える事の出来ない摩耶。

それに溜息を吐く提督。

「摩耶。俺はお前たちの過去など()()()()()()

提督は言う。

「お前たちが過去になにをしでかしたのか。それによってどんな傷を負ったのか。そういうのは全てまとめてどうでも良い。何を失ったのか。そんなもの知ったところで何かできる訳でもないんだ。都合の良い物言いは俺には出来ないし、ましてやお前を元気付ける事などもってのほかだ」

立ち上がる提督。

「ただこれだけは言っておく」

扉を開け、去り際に提督は言い残す。

「それだと困る」

ばたん、という音と共に、提督は部屋から出た。

そこには、ただ悔恨という表情を浮かべる摩耶の姿があった。

「・・・・くそ野郎が」

 

 

 

摩耶、鳥海の部屋を出て廊下を歩いていた提督。

「提督」

ふと、大淀がやってくる。

「どうだ?」

「一応、ここにいる皆さんに聞いてきました。特に大鳳さんが戦闘機を御所望です」

「戦闘機だと?」

「ええ、まあ、過去に色々と・・・・・」

大淀もよく知らないようで、言葉を濁らす。

「・・・・・烈風だな」

「はい?」

「ここの空母はたった三隻。それも正規空母はたった一隻。その弱点は艦載機の性能と随伴艦の対空能力で補うしかないだろう?」

「そうですねぇ・・・・分かりました。工廠に行って妖精たちに言ってきます」

「分かった」

そのまま工廠に向かう大淀。

執務室に向かう提督。

執務室の前につくと、そこで鳥海と出くわす。

「む」

「提督・・・」

鳥海がこちらに近付く。

「今回、言い渡された作戦に、摩耶を入れたそうですね・・・」

「ああ。第二鎮守府の情報で、空母の小規模部隊が発見されたそうでな。対空戦闘に適した摩耶を入れる事にした」

「その事で、意見が・・・」

「摩耶の演習でも出撃しない理由か?」

「ッ!?」

図星だったらしく、眼を見開く鳥海。

「悪いが、()()()()()()()()()()()

「で、ですが・・・!」

「どちらにしろ、摩耶には再起して貰わねければならない。理由がなんであれ、そんな事でうだうだして貰わねければならない」

「・・・・・・提督は、艦娘の艤装の事について、この事を知っていますか?」

「艦娘の精神状態と艤装リンクしており、艦娘の方になんらかの精神ダメージによって艤装が上手く扱えない、という事だろう?」

「!?」

まさか即答されるとは思ってなく、驚愕の表情をする鳥海。

「精神ダメージ、つまりは過去によって負った心の傷というものだったか?それが艦娘を陸に留める杭となって、海への出撃を阻害する。悪い場合は海に踏み込む事も出来ないみたいだな」

「それを分かってて・・・・」

「そうだ」

淡々と告げる提督に、何か熱いものが込み上げるものを必死に喉で止める鳥海。

こんな所で感情を爆発させた所で、この提督は巧みな言葉遣いであしらうだろう。

「そんな所だ。解ったら部屋に戻れ、お前には戦艦がいない分、摩耶のバックアップを担当してもらう事になる」

執務室に入ろうとする提督。

だがここで何かを言わなければ、摩耶が、苦しむ事になるかもしれない。

「・・・・・提督は・・・・」

どうにか、言葉を紡いだ。

「自分の過去について・・・・何も話しませんよね・・・・」

そこで、提督が()()()()

それに気付く鳥海。

まさか気に障る事だっただろうか?

ここで追い打ちをかけなかったのは、鳥海の良心故の行為だろう。

「・・・・・一つ教えてやろう」

提督は、いつもの淡々とした声で、答えた。

「俺は、過去の事が原因で、味覚と嗅覚が無い」

「・・・・・・え?」

それ以上はなにも言わず、提督はさっさと部屋の中へ入って行ってしまった。

思わず立ち尽くす鳥海。

 

 

()()()()()()()()

 

 

一体どういう事なのだろうか?

ふと、提督の握っていたドアノブに、何らかのへこみができていた事に、鳥海は気付く事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

執務室内で、提督は、自分が立っている向かいの窓を見る。

そこでは二羽の鳥たちが、まるで遊ぶかの様に飛んでいた。

 

 

兄妹の様に。

 

 

 

「・・・・・過去」

ふと呟く二文字。

窓に手を触れさせ、蒼天を仰ぐ。

「・・・・・全部失った俺には、無用の長物だ」

そう吐き捨て、机の上にある書類に手を付け始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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