ラストダンスは終わらない   作:紳士イ級
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000.『プロローグ』

 艦娘――それはかつての大戦で沈んだ艦の魂が少女の姿と成り、現れたもの――らしい。

 数年前に突如現れ、恨みでもあるかのようにこの国を海から攻め立てる深海棲艦に立ち向かう事が出来る唯一無二の存在――らしい。

 

 海に囲まれている島国であるこの国にとって、守護神そのものと言っても過言ではない。

 彼女たちがいなければ、今頃この国は一体どうなっていたのか――今日も水平線の向こう側で、彼女たちは戦っているのであろう。

 

 俺は自室のベッドの上で、一人呟いた。

 

「ふぅ……やはりオータムクラウド先生の作品は最高だな」

 

 今日も日本は平和である。

 彼女たちのおかげで戦禍とは無縁の自室で、俺は艦娘モノの同人誌で一息ついていた。

 

 オータムクラウド先生は、そのリアルな艦娘描写で大人気の同人作家だ。俺が世界で唯一尊敬している人物といっても過言ではない。

 妹たちの世話や家事ばかりで、元来無趣味でインドア派だった俺が有明まで足を運ぶようになったのは、オータムクラウド先生のおかげである。

 ここ一年ほど新刊が出ていないのが気になるところだ。俺の生きがいが無くなってしまう。

 

 一息ついた俺はそのまま眠くなってしまい、瞼を閉じた。

 すっかり習慣になってしまった、眠る前の妄想が始まる。

 

 もしも俺が提督になったら、オータムクラウド先生の同人誌のように桃色の鎮守府生活を送るのだ。

 もちろん艦娘の見た目によっては対象外だ。妹たちと同年代くらいの見た目の子に欲情するのは変態だけだろう。

 妹たちの面倒ばかり見ていたせいか、年下には興味がない。いや、そもそもリアルでは女性に縁が無いのだが。

 いかん。リアルの事を考えてはいかん。

 そう、提督となったからには、全提督の夢であるハーレムを作るのだ。お姉さん達限定で。

 

 俺は過去のトラウマから、女性不信ぎみである事を自覚している。

 もう恋なんてしないと決めている。

 それゆえに極度のコミュ症であり、特に綺麗な女性の前に立つと上手く話せなくなる。

 年下の女の子だったら妹感覚で普通に話せるのだが。

 

 俺は妹たちから常日頃罵られているように、男としての魅力は皆無であることも自覚があるし、性格もひねくれている。

 風呂上りに鏡に映った俺は結構イケメンだと思うのだが、ネットで調べるとそれは気のせいだとの事だった。妹にも訊いてみたが同様の意見だった。凹む。

 中身にも見た目にも乏しい、こんな俺を好いてくれる女性などいるはずが無いという事は、世界で一番この俺がよくわかっている。

 

 故に、提督の権力を活かしたハーレムを作るのだ。

 愛は要らないが、性欲は溜まる。

 たとえ艦娘たちに嫌われても無理やり、いや、嫌われるのは俺の心が持たない。好かれないのはわかっているが、嫌われない程度に抑えたいところだ。

 無理やりも犯罪だ。そういうのはフィクションだけにするのが大人の嗜みである。

『好きでは無いけど、提督の命令だし仕事だから仕方なく』って感じのハーレムを作るのだ。

 これは果たしてハーレムと言えるのか……ま、まぁいい。

 

 オータムクラウド先生の同人誌を参考にすれば、提督が一言「女性経験が無いんです」と相談すれば、練習巡洋艦香取や鹿島が抜錨してくる。

 少し疲れたそぶりを見せれば重巡洋艦愛宕や高雄が癒しに来てくれる。いつもお世話になっています。

 駄目だ。参考にならない。

 そもそもあれは提督の好感度がかなり高いからでは無いのか。

 いや、それとも提督であれば無条件にあんな感じで接してくれるのか。

 後者である事を願いたい。

 いや、違う。それだけでは無い。

 オータムクラウド先生の作品ではどの提督も有能であるという描写がされていた。

 他の同人誌を参考にすれば、性格が最低なキモオヤジでもハーレムを作っているようなものもある。

 つまり、男性的な魅力が無くとも、提督として有能であれば好感度は別としても夜戦突入可能という可能性も無きにしも非ず。

 

くそっ、もしも俺に提督の素質があれば艦娘を好き放題、ではなくて、俺に隠されているような気がする指揮官の才能的な何かの力でこの戦争を終わらせる事が出来るのに……!

 

そんな事を考えた瞬間、部屋の扉が勢いよく開いた。

 俺は驚いて反射的に身を起こしてしまう。扉の前には何故か動揺した様子の妹が立っていた。

 

「お、お兄ちゃん! お、お、お客さん!」

「はぁ? 俺にお客さんなんて来るわけないだろ」

「か、か、艦隊司令部の人。すごく偉そうな」

「エッ」

 

 変な声が出た。

 妹は震えながら俺の両肩を掴み、激しく揺さぶる。

 

「どどどどうすんのよぉ! そんな薄い本所持してんのがバレたからじゃないの⁉」

「マママ、マサカァ」

「と、とにかく失礼の無いように着替えて、早く玄関行って!」

「コ、心の準備が」

「知らないわよ! いいから早く行けっ、ほらっ!」

 

 妹に急かされ、俺はとりあえず寝巻きであるジャージから、外出用のシャツに着替えた。

 玄関に向かうと、そこには妹が言う通り、明らかに偉い立場にありそうな、風格のある壮年の男性が立っていた。

 その後ろには、付き添いだろうか。若い軍人が数人、姿勢よく並んでいる。

 偉そうな壮年の男性は、俺を見るや小さく微笑み、軽く頭を下げた。

 

「こんばんは。艦隊司令部の佐藤といいます」

「アッ、ハイ、コンバンワ」

「こんな夜分に急に訪れてしまい、すまないね」

「アッ、イエ、ハイ」

「ははは、そう緊張しなくてもいい。君を軍法会議にかけようなんて話じゃないんだ」

「アイヤー、ソ、ソノ」

「実は先日の国民検査で、君に艦娘の提督となる素質が見つか」

「やります」

「エッ」

 

 こうして俺は提督になったのだった。

 








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