ラストダンスは終わらない   作:紳士イ級
<< 前の話 次の話 >>

21 / 48
020.『最高の提督』【提督視点】

『提督さんを囲えー』

『祝えー』

『わぁー』

『わぁい』

『歌えー』

『踊れー』

『はぁー、よいしょ』

『それそれそれー』

 

 妖精さんがどんどん俺の周りに集まってくる。

 万歳をしながら俺の周りを回り始めた。俺は盆踊りの櫓か。

 そういえば外国ではキノコが円状に生える現象をフェアリーリングというらしい。

 妖精さんが輪になって踊った跡にキノコが生えると信じられているらしいが、その正体はまさかこれでは無いだろうか。

 

 動くに動けない俺を見て、鳳翔さんと間宮さんが笑った。

 

「まぁ、なんて微笑ましい……」

「えぇ。こんなに妖精さんに懐かれている方は見た事がありません」

 

「そ、そうなのか……うむ」

 

 懐かれてる……というのか、これは。

 明石もそんな事を言っていたが……。

 鳳翔さん達には聞こえていないだろうが、妖精さん達は妙な歌を歌いながら俺の周りを踊り続ける。

 何だその夏祭りのような歌は。

 

『童貞音頭です』

 

 何が童貞音頭だ。お前らホント後で覚えてろよ。お前コレ立派な虐めだからな。

 鳳翔さんさえ見てなかったらお前らなんか一瞬で蹴散らせるんだからな!

 流石に可哀そうだからやらないが、やろうと思えばそれくらいは出来るんだからな!

 

 俺を蔑む歌を延々と聞かされながら馬鹿にされるのもムカついたので、俺は妖精さん達をまたいで鳳翔さん達の方へ向かった。

 妖精さん達は俺に構わず踊り続けている。

 キノコ生えてきたら責任持ってちゃんと収穫しとけよマジで。

 

「と、ともかくこれで私の目的は終わりだ。後は、皆の帰りを待つだけだな」

 

 歓迎会から逃げる為とはいえ、流石に戦闘時間が長すぎる。

 金剛に伝言も頼んだし、そろそろ帰ってくるだろう。

 

 アイツらが帰ってくるまでは寝る事もできない。

 せっかく鳳翔さんに手伝ってもらってまで、徹夜で書類を処理したのだ。

 ここでアイツらよりも先に休んでしまっては意味が無い。

 寝ずに仕事を終わらせてアイツらを待っていた事を見せつけてやらねば。

 できれば一人にさせてもらって、その間に『クソ提督でもわかるやさしい鎮守府運営』を読み込んでおきたいのだが……。

 鳳翔さんが俺の監視をやめる気がしない。

 

「皆の帰りを……提督は、皆が帰ってくるのだと信じておられるのですね」

 

 鳳翔さんがそう言った。

 え? 何? もしかしてこのまま逃亡して帰ってこない可能性とかもあるの⁉

 それは流石に考慮していなかった。

 そ、そうなったら提督として無能ってレベルじゃねーぞ。

 着任一日目にして艦娘に逃亡されるとか、提督に向いていないという話では無い。クビになってしまう。

 

「……そうだな。願わくば、私の下からは、一人たりとも欠けてほしくは無いものだ。私にそれだけの力があるかはわからないが……」

 

 何だか自分で言ってて落ち込んできた。

 アイツらが帰ってきた時に、翔鶴姉とか千歳お姉とか、香取姉の姿が無かったらどうしよう。

 俺は本当に死ねる。いや、歓迎会欠席の時点で嫌われてる事はわかってるんだけど……。

 

 俺の表情が曇った事に気が付いたのか、不意に間宮さんが俺の手を取り、じっと俺の眼を見て、言ったのだった。

 

「大丈夫です。提督、貴方ならきっと大丈夫! 私だって、そう願っています。私も精一杯、提督のお手伝いをします!」

 

 結婚したい。

 い、いや、違った。俺の目的はハーレム。俺の目的はハーレム。

 しかし、間宮さん、これはいけませんよ。

 そう簡単に、異性の手を握るものではありません。

 たとえ間宮さんは俺の事を異性として見ていないのだとしても、俺みたいにチョロい奴は、すぐに堕ちるんだから。

 手を取られただけで好きになっちゃうのだから。結婚したい。

 いや、俺は自分の事をよく理解できているからまだよかった。

 俺の事なんて好きになってくれる女性はいないと理解しているからかろうじて勘違いとかしないけど、そうじゃない奴は勘違いしちゃうからね? 気をつけないと。

 

 うっひょー! 手ぇ小っちゃ! 指細っ! すべすべで柔らかーい! あったかーい!

 アッ、また俺の機関部がオーバーヒートしそう。鼓動パナイ。死ぬ。

 でも間宮さんの顔を見てたら自動的に疲労回復して永久コンボ。

 死ぬに死ねない。生き地獄、いや、生き天国。

 手を握られてるだけでそろそろ天国にイキそうです。

 俺が心の中で鼻の下を、ズボンの中で股の下を伸ばしていると、鳳翔さんがにっこりと微笑みながらこう言ったのだった。

 

「そうですね。提督の願いはとても困難な道のりでしょうが、私も力になれればと思います」

 

 俺の下から艦娘が逃亡しないようにするのって、そんなに困難な道のりなの⁉

 鳳翔さんアンタ本当に容赦ないな! 本当に笑顔でズバっと言うな!

 わかってますよ! 逃げられないように頑張りますよ! これからもお力を貸して下さいね!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 執務室の窓から外を見れば、もう空が白んできている。

 来たぁ! 朝だぁ! 朝です! 朝の風ってほんっと気持ち良いー!

 そんなわけがない。いや、朝の空気は好きだが、気分は落ち着かない。

 鳳翔さんが気を使って何度も休むように言ってくれたが、不安で仕方がない。執務机に座っているのも落ち着かず、ひたすら窓の外を眺めながら祈るしかなかった。

 全員帰ってきてくれるだろうか……一人でも逃亡してしまったら、俺の提督の地位が、ひいてはハーレム計画に支障が……。

 

「提督! 港の加賀さんから無線が……敵艦隊の迎撃に成功! これから艦隊が、帰投するそうです!」

 

 鳳翔さんが嬉しそうに、そう言った。

 結局この人、本当に一晩中、俺の監視を務めおった。恐ろしい人だ。

 敵艦隊の迎撃に成功って……逆に数十人で出撃して、どうやったらこの時間までかかるのだ。

 駆逐イ級とかってそんなに強いの? そんな訳がない。引き延ばすにも程がある。

 金剛も、伝言してくれれば早く帰ってきてくれていいのに、まだ帰ってこないし。

 まぁ、感動の再会が何とかと言っていたから、積もる話もあるのだろう。

 俺の偏見かもしれないが、女子会と言えば恋愛トークか陰口だ。上司、つまり俺の悪口で盛り上がっていたりして。凹む。

 

 うぅむ、しかし、人数が減っていないかが気になって仕方が無い。

 一刻も早く確かめねば。

 

「出迎えに行ってくる」

「はい。私もご一緒します」

 

 俺は席を立ち、港へと向かった。

 向かう途中で、何やら重たい荷物のようなものを背負い、引きずっている少女が、こちらに向かってきているのに気が付いた。

 

 少女、雷は俺の姿に気が付くや、その手から荷物を放して敬礼する。

 

「あっ、司令官! おはようございます!」

「う、うむ。おはよう。ところでその後ろの……」

「あぁっ、ご、ごめんなさい天龍さん! 落としてしまったわ!」

「……お、おう……」

 

 雷に背負われて、いや、身長が違いすぎて半ば引きずられていた天龍は、顔面から地面に叩きつけられ、そのまま動かなかった。

 微妙に痙攣しながら返事をしていたので、なんとか生きてはいるようだったが。

 ボロ雑巾のように見えた天龍だったが、よく見れば服が破れてしまって世界水準を軽く超えた胸部装甲から肌色がポロリしている。

 スカートも破れており、白いパンツがチラリしていた。

 これこれ! こういうの欲しかったんだよ! 早くぶっ放してぇなぁ。

 俺の股間をこんなに強化しちゃって大丈夫か?

 

 い、いかんいかん。

 こんなにボロボロなのだ。そういう目で見てはいかん。

 

「お前達も今帰ってきたのか」

「いいえ、天龍さんが大破しちゃったから、私だけ先に連れて帰ってきたのよ。他の皆はまだ戦っているわ」

「ちょうど今、戦闘が終わったと連絡があって、私達もお出迎えに行くところでした」

「鳳翔さん、本当? やったわ! 私もお出迎えに行きたいところだけど、天龍さんの入渠をお手伝いしなきゃだから、もう行くわね!」

 

 雷はそう言って、再び天龍をその背に背負い、引きずりながら歩きだそうとする。

 背負うと言っても、天龍の両腕を肩から回し、掴んでいるような感じで、天龍の下半身は地面に引きずられる形になる。

 

 瞬間。俺は――閃いた。

 

「雷。私が背負うのを代わろう」

「いいのよこれくらい。もっと私を頼ってくれてもいいのよ!」

「提督命令だ」

「えぇー……」

 

 俺の十八番、職権乱用である。

 雷に背負われている天龍を横から見た瞬間、そこには世界水準を軽く超えた景色が広がっていた。

 押しつぶされて改装された天龍改二乙ならぬ天龍のパイオツである。

 こんなものを見せつけられては、たとえボロボロであっても、そういう目で見てしまっても致し方無し。職権乱用不可避。

 

「雷さん。提督は、遠征帰りで疲れてる雷さんを気遣っていらっしゃるみたい。ここはお言葉に甘えてはどうかしら」

「そっか……ありがとう司令官! 優しいのね!」

 

 鳳翔さんがナイスフォローしてくれた。

 うむ。その通りである。雷も天龍も疲れているだろうからな。

 特に天龍は、大破状態で引きずられてはたまったものでは無いだろう。

 俺の下心は、天龍をいたわる気持ちという名のダズル迷彩で隠されている。もっと俺を頼ってくれてもいいのよ!

 鳳翔さんの眼さえも欺く策略。

 神算鬼謀を自在に操る俺の事を智将と呼んでくれてもいいのよ?

 

「い、いいよ提督……思いっきり濡れてるし、焦げちまってるし、さっきから引きずられて砂だらけだしよ……汚れちまうよ」

「構わん」

 

 天龍が恥ずかしそうに、小さな声でそう言ったが、身体は言う事を聞いてくれないようだった。

 フフフ、身体は正直である。

 俺はその声に構わず、天龍を背負う。

 天龍は腕に力が入らず、そのまま俺の背にもたれかかり、世界水準を軽く超えたそれが俺の背に押しつぶされて姿を変え――。

 

 ――ぱんぱかぱーい! 股間に未だかつて無い勢いで血液が補給された。

 俺の主砲の火力MAX。

 俺の魚雷の雷装MAX。

 俺の機銃の対空MAX。

 俺の陰部の装甲MAX。

 これが……これがチン大化改装……!

 

「……あーあ、汚れちまった。新品じゃねぇのかこの軍服……」

「カマワン」

「……おい、オレそんなに重いか? そんなに前かがみになっちまってよ」

「モンダイナイ」

 

 身体は正直である。

 俺は一歩一歩、幸福を噛み締めるように歩み出した。

 背中に全神経を集中しろ。五感の全てを触覚に集中しろ。

 くそっ、何でこんなに無駄に生地が分厚いのだ、この軍服という奴は。脱いでから背負えば良かった。これでは感触が完璧にはわからんではないか。

 手袋も邪魔だ。太ももの手触りが全くわからん。夕張の時といい、この手袋はセクハラの邪魔だ。実にけしからん。

 しかし、この状態ですらこの柔らかさだというのに、軍服を脱いでしまったらどうなるというのだ。

 是非とも次の機会には試してみたいものである。

 

「……へへっ、悪ぃな提督。余計な仕事押し付けちまってよ」

「カマワン」

 

 むしろもっと押し付けちまってほしい。

 しかし、やはり戦いとなれば、こんなにボロボロになるものなのか……。

 目立った外傷は無いものの、天龍は自分の足で歩けないほどに疲弊しており、満身創痍といった状態だ。

 

 ……なんだか、それを見て股間を膨らませてる俺って、かなり最低じゃないか?

 

 考えなければよかった。

 背中の幸せな感触もそれ以上楽しむ気になれず、俺の股間もすっかりしおらしくなってしまった。大潮です。

 何と言うか……、うん。

 よくよく考えれば、艦娘達は俺達を守る為に戦ってくれてるんだよな。

 俺が仕事も探さずにオータムクラウド先生の作品を読んでデイリー任務に勤しんでいた時も、こんな風にボロボロになっていたのだ。

 罪悪感がひどい。申し訳ない。

 俺はもうたまらなくなって、思わず天龍に言ったのだった。

 

「天龍……本当にありがとうな」

「あぁ? 何がだよ」

「いや、こんなにボロボロになってまで戦ってくれたお前を背負っていたら、何だかな……申し訳なくてな。自分が情けなくなる」

「……なぁに言ってんだよ、提督。オレの方こそありがとうだぜ。俺を旗艦に抜擢してくれてよ。こんなに楽しい夜は久しぶりだったぜ……」

「お前がそれでいいなら何も言わんが、頼むから轟沈だけはしないでくれよ。できればこんなにボロボロな姿も見たくは無いのだ」

 

 そうだ。自分で口にして、気が付いた。

 こんなに満身創痍なのがいけないのだ。

 先ほどの翔鶴姉のように、せいぜい艤装が壊れて装束が破れるくらいなら、こんなに罪悪感に苛まれる事は無い。

 むしろいいオカズではないか。

 

 天龍お前、何ボロボロになってるんだ。馬鹿者め。これでは罪悪感でオカズにできん。

 

 今の天龍のように大破は駄目だ。艤装や装束だけでなく、本人まで疲労困憊している姿を見ては、罪悪感に苛まれる。

 轟沈など以ての外だ。それだけは絶対に駄目だ。オカズどころではない。罪悪感で逆に飯が食えなくなる。

 小破も駄目だ。艦娘に被害が少ないのはいいが、艤装と装束の損傷が軽微すぎる。

 艤装と装束が破損し、かつ、艦娘の身体自体にはそこまで影響が無い中破がオカズとしてはベストコンディションであろう。

 俺が後ろめたさを感じる事が無いように、これ以降、艦隊の皆にはなるべく大破しないで頂きたい。

 

 俺の言葉に、天龍は少し気恥ずかしそうに言葉を返した。

 

「な、何だよ提督……意外と心配性だなぁオイ。それより、次の出撃もオレを外すなよ」

「それはまた戦況と相談だ。必要な時には勿論、頼りにさせてもらう」

「……へへっ、期待してるぜぇ、提督」

 

 天龍は嬉しそうにそう言うと、無意識にだろうか、今まで以上に俺に身体を押し付けてきたのだった。

 俺の股間のチン龍ちゃんはすでにチン大化改修MAXであった。

 すでに限界である。

 これ以上の刺激を受けては、轟チン不可避。

 少しの刺激で暴発寸前。

 露出の多い艦娘の方もなるべく見ないようにしなくては……。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ぱんぱか、ぱかぱーい!

 ぱんぱかぱかぱか、ぱかぱかぱーい!

 

 天龍を入渠施設へ送り届け、ようやく帰投した艦娘達を出迎えた俺は、思わず言葉を失った。

 言葉というか語彙力を失った。

 艦娘を見ないようにするなど、不可能だった。

 俺は――夢でも見ているのではないか。

 

「第一艦隊旗艦、長門。報告します。敵主力艦隊五隻、敵補給部隊十八隻、迎撃成功しました。こちらに轟沈した艦は……無し!」

「ウム」

 

 衝撃のあまり、長門が何を言っているのか全然頭に入ってこなかった。

 目の前には艦隊ごとに整列している艦娘達。

 いつの間にやら、遠征に出ていた大淀達も合流していたようだ。

 全員を代表して、一歩前に出た長門は――中破していた。よーし、コンディション最高ー!

 これが噂のビッグセブンか……。胸が厚いな。俺の股間も熱いな……。

 

 長門だけでは無い。

 先ほど出て行ったはずの金剛も、比叡も、榛名も、霧島も、姉妹仲良く中破している。コンディション最高ー!

 金剛型はその胸部装甲をサラシで押さえつけていたらしく、四人とも出撃前に俺が目視により計測していたものを遥かに上回るサイズのそれが露になっていた。

 流石戦艦、データ以上の胸ですね。

 俺のマイク限界大丈夫? チェック、ワン、ツー……よし。

 

 その戦艦の超弩級胸部装甲を上回るインパクトを俺に与えたのは、千歳お姉、千代田、磯風、浜風、浦風、谷風の艦隊だ。

 全員中破。コンディション最高ー!

 こちらは元から押さえつけておらず、その存在は十分に理解していたつもりだったが、まさかここまでのものだったとは。

 水上機ボイン姉妹はともかく、他の三人は本当に駆逐艦なのだろうか。一部の軽巡洋艦に謝れ。大淀とか夕張とかに。

 谷風は別の意味でインパクトがあった。こいつだけは早く服を着せてあげたい気持ちになった。なんかゴメン。俺が満足するまでもうちょっと我慢して。

 

 妙高さんは小破程度だったが、那智、足柄、羽黒、利根、筑摩は揃って中破していた。コンディション最高かよ……!

 妙高型四姉妹と利根姉妹は、生地の厚い装束が破れ、その下に着ていた白いブラウスが水に濡れ、透け透けであった。

 透け透けのブラウスは決して直接的に肌を露出していないというのに、普段から丸見えの長門や夕張のお腹よりも興奮できた。

 普段の露出が控えめだからこそ、透け透けの薄いブラウス越しに彼女達の肌色を目にする事は特に貴重、故に欲情不可避。オータムクラウド先生の教えである。

 素晴らしいわ! 漲ってきたわ……! ねぇ! 試し撃ちしてもいいかしら⁉

 利根はペチャパイかと思ったら意外とある事が判明し、龍驤、谷風とはめでたく別枠扱いとなった。

 

 少なくとも俺のハーレム候補である艦娘は、誰一人として逃亡していないようだった。

 駆逐艦は数が多くてまだ全員覚えていないが、この様子では逃げた者はいないだろう。

 一安心だったが、今は別の意味で心が落ち着かない。

 

 何でこんな鎮守府近海で、ここまでボロボロになるのかが気になったが、すぐにどうでもよくなった。

 報告された敵の数も多かったように聞こえたし、無理やり敵を探して時間を引き延ばして戦っている内にダメージが蓄積したのだろう。

 そんな事よりも、今のうちに、この素晴らしい光景を目に焼き付けておかねばならない。

 もう二度と、こんな光景は見られないだろう。

 何とかして時間を稼がねばならない。

 

 俺は咄嗟に、長門の名前を呼んだ。

 

「長門」

「はッ!」

 

 何だかもう、俺の事を嫌いかどうか、などという事はどうだってよかった。

 歓迎会に参加したがらなかった事も、もうどうだってよかった。

 俺が提督である限り、この光景を見る事ができる。

 ただそれだけで全てが許せた。

 名前を呼ぶと姿勢を正すものだから、当然、胸など大事な部分を隠せないわけで……。

 

 いかんいかん。胸を見るな。ガン見するな。

 それで俺はこいつらに警戒されているではないか。

 同じ轍は二度と踏まない。

 艦娘の眼を見据えながら、残りの視野で堪能し、その目に焼き付けるのだ。

 俺レベルのチラ見スキル持ちなら可能なはずだ。

 

「金剛」

「ハァイ!」

「比叡」

「はいっ!」

 

 次々に名前を呼んでいく。

 提督への報告という真面目な場面だからか、誰一人として恥ずかしがるそぶりを見せなかった。あの羽黒ですらだ。

 ハラショー(素晴らしい)……スパスィーバ(ありがとう)……ウラー(万歳)……ただそれだけしか言葉が出なかった。

 何とかして時間を稼ごうとしたが、ついに名前を憶えていないゾーンに差し掛かる。

 少しでも時間を稼ぎたかった俺は、とりあえず俺の隣に立つ鳳翔さんの名前を呼んだ。

 

「鳳翔さん」

「……」

「鳳翔」

「はい」

 

 微笑んではいたが、目が笑っていないように感じた。フフフ、怖い。

 

「間宮、伊良湖、香取、鹿島……」

 

 時間稼ぎも、もう限界だった。

 残りの駆逐艦達の名前は完璧には覚えていない。ボロが出ないように誤魔化さなくては。

 

「――この鎮守府を支える全ての艦娘達よ!」

 

 それらしく上手くまとめたのだった。

 いやぁ、実にいい光景を堪能させてもらった。

 ある意味で、歓迎会を開くよりもいいものを見る事ができたのではないか。

 そんな思いを込めて、俺は言ったのだった。

 

「――よく、頑張った」

 

 それは心からの言葉だった。

 これも、コイツらが俺の歓迎会から頑張って逃げてくれたお陰である。

 雉も鳴かずば撃たれまい、とは少し違うが、艦娘も逃げねば見られまいである。

 お前達が俺の歓迎会を避ける為に夜戦を頑張ったお陰で、俺はいいものを見る事が出来た。

 少し皮肉を込めた言葉だった。

 長門が、いや長門だけでなく皆泣きそうな顔をしている。

 いかん、流石に少し嫌味過ぎたか。反省だ。

 

 しかし、せっかくのいい機会なのだ。

 前からの景色だけでは勿体ない。後ろから見た景色も目に焼き付けねば。

 

「皆、後ろを見てくれ」

 

 俺の言葉に、艦娘達は一糸乱れず回れ右をした。

 瞬間、俺の目の前に現れる尻の艦隊。俺の股間が蒼き鋼と化した。

 

 ややっ、アドミラル・ヒップ級プリンケツ・オイゲン発見!

 それではいただきマックス・シュルツ!

 俺の股間のティーガー戦車、主砲仰角最大!

 パンツに向かってパンツァー・フォォォォオッ! んんーッ、ダンケッ!

 衝撃のあまり俺は意識を失い思わず駆け出し、そのまま尻の海に飛び込んでしまいそうだったが、なけなしの理性で何とか踏みとどまった。

 

 水平線から太陽が昇る。

 徹夜明けの目に朝日が沁みる。しかも逆光のせいで目標がよく見えなくなった。

 ちょっと眩しくて邪魔だからもう一回太陽沈んでくんない?

 目を細めて、何とか尻に注目する。よし。わらわには見える。

 

「素晴らしい」

 

 俺は思わず声を漏らした。

 俺の股間にケツ液、いや血液が更に補給される。

 スカートが破れ、清ケツ感、いや清潔感のある白い下着が見えている者。

 大人の色気を感じさせる黒い下着が見えている者。

 色とりどりの、フリートガールズ&パンツァーコレクション。

 パンこれ、始まります。

 いいこと? 提督の網膜に、ショーツを刻みなさい!

 下着の存在が確認できず、尻が半分見えている者までいた。

 普段は見ることのできない背中、太もも……。

 目の前に広がる素晴らしい光景を俺は満ケツ、いや満喫していた。

 

「この景色を見る事が出来た……それだけで、この鎮守府に来た甲斐があったというものだ」

 

 それは素直な言葉だった。

 俺の本心からの言葉だった。

 

 もう俺の歓迎会に出席しなかった事などどうだってよかった。

 許す。俺が許す。

 お前ら全員半ケツ、いや判決、無罪!

 

 俺は改めてケツ意、いや決意した。

 俺は絶対にハーレムを諦めない。艦娘達は俺の事を、歓迎会にも参加したくないと思うくらいに嫌っているが、それでも俺は諦めない。

 人望が足りない事など知った事か。

 こんなに素晴らしい景色を尻ながら、いや知りながら、諦めるという苦渋のケツ断、いや決断など出来るはずがない。

 人望が無いのならば、これから挽回すればいいのだ。

 加賀にも話したPDCAサイクルだ。

 失敗したのならその原因を分析し、改善する事が、成功へ繋がる秘ケツ、いや秘訣だ。

 幸いにも、俺には鳳翔さんや間宮さんなど、一応信用できる人達がいる。

 鳳翔さんは少し怖いが、皆でエッチ団ケツ、いや一致団結すればきっと出来るはずだ。

 好かれるまでは行かずとも嫌われない程度の人望と、艦娘が逆らえないほどの権力を手にする事が。

 

 ――俺は絶対に、完璧に、有能な提督を演じきる。

 

 この景色を守る為に。

 そして、いつかこの素晴らしい景色を手中に収める為に。

 俺の夢を、艦娘ハーレムを実現する為に!

 

「いつまでも眺めていたいものだが……そういう訳にもいかないな」

 

 あまり長時間眺めていても不自然に感じるだろう。

 今までの俺であったらこのあたりの塩梅を誤り、艦娘の人望を失っていたはずだ。

 すでにこれ以上失う人望は無いが、俺は学んだのだ。もう二度と同じ失敗はしない。

 ガン見はほどほどに。チラ見程度で。

 見る時間が減った分は、気合と根性と愛国心による瞬間記憶でカバーだ。

 

 再びこちらを向くように促すと、艦娘達は先ほどと同じように回れ右をした。

 やっぱり前からの景色も素晴らしいな……いや、これ以上見る事は出来ない。もう限界だろう。俺の股間も。

 

「――我々の勝利だ。損傷の大きい者から優先して入渠、傷の浅い者は明石の泊地修理。各自、補給はしっかり行い、休息を十分に取るように。報告書はそれらが全員、済んだ後でいい。以上、解散!」

 

 俺は早口にそう言って、即座に踵を返す。

 艦娘達への指示は、俺がデイリー任務をこなす為の時間稼ぎだ。

 すでに股間のビッグセブン陸奥(ムッツ)リの主砲は暴発寸前だった。あら、あらあら。

 このままでは主砲火薬庫爆発事故が起こる。マラ、ムラムラ。

 網膜に焼き付けた記憶が少しでも薄れないうちにデイリー任務をこなすべく、俺は前かがみになりながら、忍者走りで執務室へと走り去る。

 

 ようやく俺が消えたからか、背後から大歓声が湧き上がった。また涙が出てきた。

 歓声に混じり、ゴリラのごとき猛獣の咆哮が大気を震わせる。

 よくよく聞いたら長門の叫び声だった。

 こうやって走っているだけでも、股間を刺激と快感が襲い、ヤバい。何かヌメヌメするぅ⁉

 執務室の奥にある提督専用トイレへ急ぐ。

 あぁっ、もう間に合わん! よしッ、提督専用トイレの個室確保! 施錠確認!

 何とか辿り着いた執務室(シャングリラ)で俺は蒼穹に、いや早急にファスナーを下ろす。

 

 俺、抜錨!

 砲雷撃戦、用意!

 

 イク、イクの! イクの魚雷が、うずうずしてるの! イクの魚雷攻撃、イキますなのね! 酸素魚雷六発、発射するアッ。

 

 …………。

 

 やりました。

 流石に気分が高揚します。

 

 俺は小さく溜息をつき、なんかもう色々と明日から頑張ろうと思ったのだった。凹む。




ここまで読んで頂きましてありがとうございました。
これにて第一章は終了となります。
大体ラノベ一冊分くらいにまとめられたと思います。
ここまで目を通して頂けた皆様には、とても感謝感激です。
皆様から頂いた感想を読み返すのが、私の毎日の楽しみとなっております。

今後もまた章ごとに書き上げ、完成したら毎日投稿していくスタイルで投稿しようと思っております。
一応ラストまでのプロットは出来ているのですが、現在、このお話を書き上げるのが先か、私の下ネタが尽きるのが先かのチキンレース状態となっております。
しばらくお待たせするかとは思いますが、ご容赦ください。


本日より艦これでは夏イベが始まりますね。
私も今年の五月に始めたばかりのクソ新人提督ですが、春イベのE1でお迎えできた伊13と水無月は宝物です。
今回は何人のニューフェイスをお迎えできるのか、楽しみです。
このお話を読んで、少しでも艦これに興味を持っていただける方が増えてくれれば、何よりの喜びです。


それではしばらく、お待ちいただく事になります。
第二章からもまた目を通して頂ければ、幸いです。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。









※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。