「えへへっ、提督にプレゼントネー! 私がお酌してあげるデース! どんどん飲むネー!」
「お姉さま、流石です! よぉし、私も……比叡! 気合、入れてぇっ、注ぎまーす! はぁーいっ!」
「提督、もし良かったら、この榛名にもお酌をさせて頂けないでしょうか……わぁ、ありがとうございますっ」
「冷え具合良ーし、瓶の角度良ーし、ビールと泡の比率良し! よーし大丈夫! 司令、どうぞ!」
「ヘーイ、テートクゥ。お次はバーニング・ラァーブッ! ……をたっぷり注いだウイスキーデース!」
「なるほど、司令が呑み飽きないように、色んな種類のお酒を……流石です、お姉さま! それじゃあ私は……司令! 気合を込めた日本酒、注ぎますっ! とおりゃあああ~っ!」
「それでは榛名は、提督への感謝を込めた赤ワインですっ。飲んで頂けますか……? わぁぁ、榛名、感激です!」
「ふむふむ、この霧島の戦況分析によれば……ここは焼酎のお湯割りがベストですね! 銘柄はズバリ黒霧島! お湯の温度良ーし、焼酎との比率良し! 司令、こちらを!」
戦艦達と軽く挨拶を交わした後、俺は金剛型戦艦四人によるお酌連撃を浴び、文字通り酒を浴びるように呑む羽目になった。高速戦艦だからだろうか、注ぐペースも速い。
というかコイツらもすでに酔いが回っているようだ。高速戦艦と言っても速すぎるのではないだろうか。
しかも飲み飽きないようにと気を遣ったらしく、様々な種類のお酒が次々に注がれていく。これを酒のチャンポンと言います。
ゴーヤ酒よりは断然マシだが、コイツらは意図的に俺を悪酔いさせるつもりなのだろうか。
しかし四人ともめっちゃいい笑顔なのである。提督アイを発動するまでもなく、悪気が無い……。
わざわざ注いでもらうたびに飲み干さなくても良いとは思ったのだが、俺は気付いていたのだ。
那智がめっちゃこちらを見ている。俺が飲んだ分だけ飲むと言っていたから、それはそうだろう。
それを気にしないわけにはいかなかった。何故ならば、俺は那智に、「敬意を払うべき相手から酒を注がれる際には、杯を空にするのが礼儀だ」と話してしまったからである。
つまり金剛達が俺にお酌をしてくるのに対してグラスを空にしなかった場合、俺は金剛達を「敬意を払うべき相手ではない」と判断したという事になる。
あの那智がそれを見逃すとは思えない。後で金剛達に「お前達は敬意を払うべきと思われていなかったぞ」などと伝えられてみろ。せっかく好感度が高そうな金剛型四姉妹を敵に回しかねない。
故に、俺は那智の眼がある限り、お酌される際にはグラスの酒を飲み干さねばならないのだった。
だがここでピンチはチャンス、ポジティブシンキングである。智将の策が光る場面ではないか。
おそらく俺はこの程度の量ではまだまだ大丈夫だ。ここで金剛達に大量の酒を呑まされる事で、那智も一気に同じ量を呑まなければならない。
つまり、那智が早々にダウンする可能性が高くなるという事なのだ。そうすればあの強烈な視線から逃れる事が出来る。
更に、これだけの量を呑まされたのであれば、俺が多少酔っぱらった振りをしたとしても不審には思われないはずだ。
金剛達も「私達があれだけ呑ませたのだからしょうがない」と思うであろう。つまり酔った振りをして意図的にラッキースケベを狙える可能性の芽が出てきた。
勿論、初心忘れるべからず。第一は艦娘達の信頼を得る事。第二は艦娘達のチラリポロリを得る事だ。
しかし、酒を呑まされ過ぎた結果、ちょっとよろめいて艦娘の胸に顔面ダイブしたところで、誰が俺を責められようか。相手を選べばちょっとくらいならいけるような気がしてきた。
榛名辺りなら「あっ……いえ、榛名は大丈夫です!」って感じで許してくれそうだ。
いや、いかんいかん。ノーパンなの忘れていた。迂闊な事はできん。
つまりセクハラをする為にはまずはパンツを履いて、いや、パンツ一枚で一体何が変わるのだ。くそっ、呑み過ぎたせいか思考が上手くまとまらん!
とりあえず一旦休憩を挟まねば、延々とお酌されてしまう気がする。
俺は金剛達に待ったをかけ、一人一人を適当に労いながら酒を注いでやったのだった。
キャッキャと喜ぶ金剛達とは対照的に凛とした佇まいの長門に酒瓶を向けると、長門は真剣な表情のままに小さく頭を下げて、こう言った。
「提督、申し訳ない。お気持ちは有り難いのだが、私は下戸でな……明日の体調に差し障る」
「む、そうか。それならば……このオレンジジュースで」
「あぁ、有り難い。提督のお心遣いに感謝する」
一応、駆逐艦用にと用意してあったオレンジジュースをお酌してあげたのだが、智将たる俺は一手先を読む。
この見た目で下戸であるという事が果たして事実であるかはともかくとして、ここで大事なのは長門がこの歓迎会において
何しろこの長門は横須賀鎮守府のリーダー格。素面の状態で俺を監視する為に、あえて酒を呑まないという事も十分に考えられる。
やはり油断はならない。足柄や潜水艦達のように俺への好感度がそこまで低くない者がいる一方で、那智や長門のように警戒している者もいる。当然だ。
那智は酔い潰せるだろうが、長門は難しい。私の酒が飲めんのか、と無理に勧めて酔わせるか……いや、下戸だと言っている以上、流石にそれは悪いしな。
そうなると、せっかくの酒の席だが、やはり酔いに乗じたセクハラは難易度が高いか……。
君子危うきに近寄らずと言うしな。昔の人もそう言っている。
俺の眼によれば、足柄やイク達のように俺への好感度がそこまで低くない艦娘達が俺の歓迎会よりも夜戦を優先した理由の一つとして、この長門の存在は大きい。
ゴリラの話になるが、群れのボスを務める、背中が銀色の毛に覆われた雄の事をシルバーバックと呼ぶらしい。
さながら長門は横須賀鎮守府という群れにおけるシルバーバック。長門が俺の歓迎会よりも夜戦を優先すると言えば、他の艦娘達もそれに従う傾向があると推測される。
長門がウホと言えば白、ウホホと言えば黒になるだろう。長門を敵に回すか味方につけるかが俺の提督生活を左右すると言っても過言では無い。
コイツの扱いには気をつけねば……場合によってはご機嫌取りに動く必要があるかもしれん。バナナとかでいいだろうか。
俺の今後の運命を握る長門を前にした緊張感からか、先ほどから暴れ放題だった俺の股間も大人しくなる。
提督の魚雷さんは、お利口さんなのでち! 股間、潜りまーす!
この調子で、歓迎会の間だけは二度と浮上しないで頂きたい。
「テートクゥ! 目を離さないでって言ったのにぃー! 何してるデース⁉」
不意に、金剛が俺の腕に抱き着いてきた。ご馳走様でち!
必然的に俺の魚雷さんが再び発射準備を完了した。凹む。
俺に建造された事がそんなに嬉しかったのか、金剛はやけに好感度が高い。
というか、人目も憚らずにバーニングラブだのなんだのと叫んでいる。スキンシップも激しい。
とても嬉しい事なのだが、少しトラウマが蘇ってきて胸が痛くなる。素直に喜ぶ事ができないのだ。
そう、あれは俺が高校三年生の夏の事だった。特に接点の無かったクラスメイトの女子が、いきなり話しかけてきたのだ。
「あまり目立たないけど、かなりイケメンだよね。めっちゃ私のタイプ!」などと言ってやけに思わせぶりな態度を取り、「結構細マッチョだよね。腹筋触らせて!」などと言ってボディタッチも激しかった。
コミュ障の俺は話題を広げる事もできず、ただ狼狽えるだけであったが、その子はそんな事は気にしないように、毎日のように話しかけてきた。
今までモテた事の無い俺が、「あれ? もしかしてこの子、俺の事好きなんじゃね?」と思うのに時間はかからなかった。
そう思ったら、何だか俺もその子の事を好きなのではないかという気になっていった。
恋バナをする相手がいなかったので当時小学生であった一番上の妹に相談したところ、何故か腰の入ったローキックをケツに叩き込まれるという仕打ちを受けた。
仕方なく俺が一人で独自に調べた調査によると、どうやら告白というのは男の方からするものらしい。女子は男が告白してくるのを待つものらしいのだ。
徹夜で告白のシチュエーションや台詞を考え、人生初の告白をするべく、俺がなけなしの勇気を振り絞って登校したその日、その子はバスケ部のキャプテンとイチャイチャしていた。
後に知った事だが、どうやらその子とバスケ部のキャプテンは前々から付き合っており、少し前に大きな喧嘩をしたのだとか。
俺に話しかけてきたのは、彼女がキャプテンの気を引く為だったらしい。
彼女が俺と話している姿を見て、振られるのではと焦ったキャプテンは彼女に「俺が悪かった」と謝罪し、彼女も「私も悪かったの」などと言って仲直りをしたのだとか。
その日から、その子は今まで通り、俺に話しかけてくる事は無かった。俺は二人の仲直りの為の道具として利用されただけだったのだ。
あれから数年。その二人は多くの友人達に祝福されながらめでたくゴールインし、現在二人の子に恵まれて幸せに暮らしているのだとか。リア充爆発しろ。
あれ以来、俺はコミュ障に加えて女性不信になった。
いや、女性不信というよりも、俺が誰かに好きになられるという事が信じられなくなったと言った方がいいかもしれない。自分不信だ。
ただでさえ自分に自信が無かったが、それはますます根深いものになったのだった。思い出すだけで凹む。
そもそも、恋心の類をオープンに出来るという事が、コミュ障で童貞を拗らせている俺からすれば信じられないのだ。
今にして思えば、あの時の彼女もわざわざ周りに言い聞かせるように、俺への好意を口にしていた。彼氏の耳に入るようにしていたのだから当然である。
気軽に口に出来るというのは、つまりその程度の気持ちだという事なのだろう。
というわけで、金剛が俺に対してラブだ何だと言ってくれるたびに、俺の古傷が痛むのである。
そして俺の右腕に柔らかな金剛の胸が押し付けられ、股間が痛むのである。トラウマと色欲は別物のようだった。畜生、第二席強すぎる……。
周りの艦娘達の視線も痛いような気がするので、俺は金剛に離れるよう、小声で促した。
「こ、こら。若い娘が男にそうくっつくものでは無い。離れないか」
「ガビーン⁉ て、提督に拒絶されたデース⁉」
いちいちリアクションが大きい。そして若干古い。
金剛は背後に吹き飛ぶように大袈裟に俺から離れるとふらふらと倒れ込み、俺に尻を向けて畳にへたり込んでしまった。
瞬間、その短いスカートがチラリ。
くそっ、コイツ本当に俺に対してガードが緩すぎる! こんな至近距離でパンツを見る事が出来たのは嬉しい事だが、俺の主砲がもう後に引き返せないレベルになってしまっている。
金剛がこのままの姿勢だと、ずっとパンツが見えてしまう。妹に言われていた事だから絶対にガン見はするまいとわかってはいるが、自動的に俺の視線がホーミングされてしまうのだ。
恐るべし金剛のケツ。俺の視線への脅威の吸引力、まさにケツダイソン!
お姉さま、しっかり! などと言いながら比叡が駆け寄っていく。四つん這いになって肩を揺さぶっている。
俺の視線はその小ぶりな尻に吸引された。ダブルケツダイソン!
榛名も同じような姿勢で金剛に声をかけ出した。トリプルケツダイソン‼
霧島も以下略。クアドラプル、いや、クアドラプリンケツダイソン⁉
前代未聞の鬼畜編成である。
ややっ、敵艦隊の向こうに水上機母艦コマン・ダンテスト発見!
俺も思わず主砲をコシュリュー!
航空母艦マラーフ・ツェッペリン、配置に着いている!
フォッケウルフならぬ仮性フォーケーウルフ攻撃隊、出撃! ンフーーッ、
無意識に金剛達にダイブしそうになったが、ギリギリのところで舌を噛んで正気を取り戻した。
ま、マズい。コイツらに酒を呑まされ続けたせいか、普段よりも理性のタガが外れやすくなっているような気がする。
恐れていた事だったが、やはり戦艦の体つきは俺に特効を持っているようだ。
金剛以外の三人では比叡が一番上の姉であり、その比叡がどう見ても元気な後輩キャラであった為だろうか。その体つきにも関わらず今まで俺ランキングでは惜しくも圏外であった。
その印象は今でも変わらないが、なんかもう色々とマズい。
一番俺好みでは無い比叡ですら、胸部装甲だけならば横須賀鎮守府でも上位に入るであろう。
高速戦艦ならぬ拘束戦艦という事だろうか、ブラの代わりにサラシで胸をキツく締めてあるようだが、その拘束が解かれた時にどうなるのか、俺は今朝目の当たりにしてしまった。
コイツらは中破する事で胸部装甲のサイズが倍率ドン! 更に倍!
金剛型のこの現象を改二ならぬパイ二と名付けようと思う。
だ、駄目だ。金剛がこの姿勢でいる限り、俺の眼の前に桃源郷が広がり続けてしまう。俺の思考も桃色に汚染され、正常な判断が出来ない。
俺のマイク大丈夫? チェック、パン、ツー……
この状況を切り抜ける唯一の方法は、そう、金剛を起こしてこの姿勢を崩すしかない。
この絶景を自ら捨て去るのは非常に遺憾ではあるが、金剛には再び普通に座ってもらい、金剛のケツを視界から消し去るしかない。
「うぅー……ぐすっ、提督に嫌われたデース……。もう私は駄目ネー……」
「こ、こら。早とちりをするな。お前の事は大切に思っている」
「本当デスカー⁉」
がばっ、と飛び起きた金剛は、そのままずざざざ、と俺への距離を詰めてくる。い、いかん。牽制せねば。
金剛の進撃を抑えようと、俺が思わず両手の平を突き出した瞬間、ハグをしようとした金剛の胸を思いっきりタッチしてしまった。
「あっ……」
俺と金剛は同時にそう声を漏らした。
絶頂までの勢いを増した俺の股間とは対照的に、金剛は急に先ほどまでの勢いが無くなり、胸を庇うように少し体を逸らしてその場にぺたんと座り込む。
そして俺に悪戯っぽい笑みを向けながら、こう言ったのだった。
「……ンッフフ、テートクゥ、触ってもいいけどサー、時間と場所をわきまえなヨー!」
なッ、何ッ⁉ こ、こうしてはいられん! 可及的速やかに時間と場所をわきまえねば――⁉
い、いや違った。落ちケツ、いや落ち着け、俺。妙な事は考えるな。
まだ大丈夫。サラシのおかげでその感触は固く守られていたではないか。まだ致命傷では無い。
危なかった。これが高度の柔軟性を誇るノーブラの天龍だったら俺の股間は間違いなくぶっ放していたところだろう。
目の前の欲に囚われるな。
ここで金剛にくっついてもらえるのはとても嬉しいし柔らかいし気持ちが良い。
だが、そのままだと俺の股間が暴発するのは必然である。これだけビンビンだと、これまでの経験上、手でいじらずとも何かの衝撃だけで十分にイケる。俺は島風より早い。
そうなると艦娘達から信頼を得る事など夢のまた夢だ。
先の事を考えて、金剛には適切な距離感を保って頂きたい。
俺は邪念を祓うかのように大袈裟に咳払いをした。
「んんっ! とにかく、今後はあまりこういう事はしないように!」
「ぶぅー、提督だって、さっきは潜水艦に抱き着かれて喜んでいたデス」
金剛は唇を尖らせて、納得がいかないようにそう言い返してきたのだった。
「あ、あれはまだ子供だからいいのだ。お前のような年頃の若い娘が人前で」
「心配しなくても、提督以外には抱き着きマセン!」
「そ、そういう事ではなくてだな!」
「オーケーオーケー、ドントウォーリィ、デース! それよりそれより、本題デース。私の事を大切に思っているって言ってくれたデスが、例えるならどれくらいデスカー? えへへっ」
「う、うむ。まぁ、上から二番目といったところだな」
アッ。
い、いかん! やはり思ったよりも酒が回っているのか、うっかり俺ランキングを暴露してしまった!
何も考えずに口にしてしまったが、なるべく表情に焦りを出さないように金剛を見る。
金剛はふるふると小刻みに震えたかと思うと、俺の両肩をがしりと掴んで激しく揺さぶる。
「どどど、どういう事デスネー⁉ この私が二番目とは一体どういう事デスネー⁉ 一番は、提督の一番は誰デース⁉ 答えるネー!」
「ま、待て待て! お前の思っているような意味では無い!」
「ではどういう意味デス⁉」
「そ、それは自分で考えるのだ」
便利な言葉であった。
我ながら下手な誤魔化しであったが、金剛は不満げながらも俺の肩から手を離し、腕組みをして唸ったのだった。
「ムムム……オーケイ。提督の考えている意味はわかりませんでしたが、代わりに私が確実に一番になる方法がわかりマシタ! 一番と思われる艦娘を片っ端から倒していけば、いつかは一番になれマース!」
「わぁぁ、お姉さま、流石です!」
ぐっ、と拳を握りしめた金剛を、比叡が囃し立てる。
何とか攻撃目標を俺から逸らす事が出来たようだ。
「こうしてはいられマセーン……提督のハートを掴めるような可愛い艦娘は……あっ、見つけたデース! ってこれは比叡デース!」
「わわっ、私なんてお姉さまの足元にも及びませんよぉ」
「何言ってるデース! 私の妹達は世界一可愛いネー! 駄目な子ほど可愛いというやつデース! さぁ、比叡! さっそく相撲でウィナーを決めるデース!」
「ひ、ひえぇっ……て、撤退しまぁすっ!」
「あぁっ、何故逃げるデース⁉ 待てぇーーい!」
う、うん、仲良いね君達。
店の外に駆け出して行った比叡と金剛を追いかけるように、榛名と霧島もようやく離れて行ってくれた。
俺達の様子を大人しく眺めていた長門も、それでは失礼した、と軽く頭を下げて離れて行く。
う、うぅむ……長門は大人しい分、油断できんな。静かに俺達の姿を眺めていたのも、俺がボロを出さないか監視していたとも捉えられるし……。
やはり賄賂として南の国から高級なバナナを取り寄せる事を検討すべきだろうか。
ようやく静かになり、俺は一息ついた。
いかんな。完全に股間が元に戻らない。今なら釘が打てるような気がする。イクの時よりも悪化しているではないか。
冷静に考えてみれば、あれだ。今朝にあんなにもあられもない姿を晒していた金剛達が、普段通りに笑う姿を目の当たりにした事。これがイカン。
目の前にいる金剛達と、半裸状態の金剛達をどうしても重ねて見てしまうのだ。
特に金剛なんて風呂上りに全裸でタオル一枚を首からひっかけたような状態だったからな。無防備にも程がある。
少しそよ風でも吹いた日には、金剛のビーチクが露になっていた事だろう。そう考えるだけで、イカン、俺の股間がますます敏感に――⁉
ま、マズい! これはマジでマズい! もうオ〇禁なんて言ってる場合じゃねー‼
すでにズボンに擦れる刺激だけでイケる領域に突入している!
パンツ履くとかそれ以前に、ここらで一発抜いとかないと社会的に死ぬ!
だと言うのに、俺の脳内には今朝の金剛の姿が完全に焼き付いて――!
「提督、何かお考えでしょうか」
「……あぁ、金剛のビーチクの事を考えていてな」
…………ん?
今俺は何を言ったのだろうか。焦りすぎて反射的に答えてしまった。
見れば、そこにはいつの間に近づいてきていたのであろうか、大淀の姿。
ウォォォォォオオオァァァアアアア‼‼
俺はもう叫んでしまいたかった。
ハイ終わった! たった今、俺の提督生活は終わりを告げたってばよ!
くそっ! これも全部酒のせいだ! あのクソ不味いゴーヤ酒だろうか。それとも金剛達の高速チャンポンだろうか。
頭は全然酔っぱらっていないのに、考えてもいない事が口に出る。いや、考えてる事が口に出るのか。
酒を呑むと本音が出やすいとは聞いてはいたが、今の今まで他人事だと思っていた……。
もうヤケクソで、筑摩辺りに鎮守府を去る前に一目だけでもおっぱい見せて下さいって土下座して頼んでみようか。
オータムクラウド先生の作品の中で筑摩の胸が総合的に一番俺好みであった事は、妹であるにも関わらず筑摩がランカーである要因として大きなウエイトを占めているのだ。
金剛のビーチクも気になるが、乳首のマーチクも捨てがたい……って俺は一体何を考えているのだ。駄目だもう。色々駄目だ。凹む。こんな状況でも股間は凹んでくれない。凹めよ。
俺が諦めと共に必死に涙を堪えていると、大淀は真剣な表情で、意を決したように俺にこう言ったのだった。
「――提督、よろしければ、この大淀にお任せ頂けませんか」
「……何?」
俺は耳を疑った。
どういう事だ。一体何を言っているのだコイツは。
俺がこの歓迎会の場で艦娘のビーチクの事を考えているクソ提督だと知って、何故そんな真剣な表情なのだ。それは一体何の進言だ。
大淀に何を任せろと――ま、まさか、金剛のビーチクを⁉
そ、そうか! そういえばコイツは翔鶴姉のパンツを捉えた聖典『艦娘型録』の編集者の一人!
大淀がその気になれば金剛のビーチク程度、いとも容易く手に入れる事が――⁉
お、落ち着け。ここは落ち着くのだ。さっきのは俺の聞き間違いではないだろうか。焦ってはいかん。
俺は表情を変えぬままに、ゆっくりと確かめるように言ったのだった。
「……任せてもいいのか?」
「はい。平坦に関してはこの一か月間、私が中心となって管理しておりました。私がそちらを担当する事で、提督は他の執務に集中できるかと愚考いたします。日報にて逐一状況報告を徹底し、何かありましたら指示を頂ければ対応します。いかがでしょうか」
やはり聞き間違いではないようだ。お、大淀、コイツは――!
平坦に関しては大淀が中心に管理を……提督アイを発動するまでもなく、確かにその胸は平坦であった。胸部装甲の大きさによって管理する担当が決まっているのだろうか。
補給と平坦、大切です、というのが大淀の口癖のようだしな。平坦はステータスだ、希少価値だと考えているのだろうか。
どちらかと言えば豊満担当の御方を紹介して頂きたいのだが……明石だろうか。奴も意外と豊満だし。
その場合、平坦とも豊満とも言えない者は一体誰が管理を……大きさ的には夕張辺りか。一体何を考えているんだこの三人娘は。姦しいってレベルじゃねーぞ。
いや、むしろ『艦娘型録』を作成する為の副産物だろうか。性能や練度と共に、艦娘のパイオツの形状や感度を管理していたとしてもおかしくはない。
名付けて『艦娘乳型録』といったところか……どうにかして資料として提出させられないだろうか。
大淀が提案したように、確かに今の俺は金剛のビーチクが気になって、今後も執務どころでは無い。大淀がそちらを担当する事で、俺も安心して他の執務に集中する事ができるだろう。
俺が金剛のビーチクを確認しようとすれば難易度が高いが、同性の大淀達の方が難易度は低いに決まっている。
大淀達が中心となって作成した『艦娘型録』に翔鶴姉のパンツが捉えられたように、資料作りの為だとか何か理由をつけるも良し。青葉の協力を得て、脱衣所に隠しカメラを配置するも良し。俺が許す。
そ、そうか。大淀にとってはこの鎮守府を混乱なく運営する事が大事。
俺を仕事のできない変態クソ提督だと知っているからこそ、俺が仕事に集中できるよう気を利かせてくれたのだろう。
俺の欲望を内密に処理し、これ以上鎮守府運営が混乱しないようにと……。
曲がった事は許してくれなさそうな鳳翔さん辺りにバレたら激怒されそうだが、大淀は清濁併せ吞む性格という事か……無能な俺はさながら提督という名の傀儡。
それを裏から操る大淀はまさに鎮守府の黒幕……オータムクラウド先生の言う通りではないか。
目の前に人参をぶら下げられた馬車馬の如く、金剛のビーチクをちらつかせられた俺は全力で仕事に取り組む事が出来るだろう。
股間の変態司令部より入電! 本日のMVP決定の瞬間であった。
「――大淀。褒美は何がいい」
俺がそう言うと、大淀はしばらく呆けたように口を半開きにし、はっ、と気が付いたように勢いよく顔を伏せながら早口に声を上げた。
「……はっ、はぁぁっ! とっ、とんでもございませんッ! これがっ、これが私の仕事ですからっ! ご褒美なんてっ、そんなっ⁉ そんな、考えた事も……」
「ふむ……ならば、思いついたらいつでも言ってくれ。その代わりに、この件については大淀に一任する」
「は、はっ、お任せ下さい。すぐに作戦を立案いたします。出来上がりましたら提督の許可を――」
いや、これ以上は俺の方から積極的に介入するべきでは無いだろう。
まだこの件は他の艦娘にはバレていないはずだ。バレたら俺の信頼は失墜してしまう。
リスクを最小限に抑える為にも、ここから先は大淀が独自に動き、内密に俺へ報告するべきなのだ。
「いや、私の許可を待たずに、大淀の判断で開始して構わない。報告も随時で良い。ただし、なるべく迅速に頼む」
「――承知いたしました!」
や、やった、やった……やったぁぁ‼
俺は真剣な表情を保っているつもりだが、もう顔がほころぶのを堪える事ができなかった。
もう勢いのままに立ち上がって、童貞音頭に合わせて踊ってしまいたい気分だった。
何とか自分の感情を抑えて、心の中で歌いながらスキップして回る程度に留めておく。
昨日から思っていた事だったが、龍驤といい谷風といい、少し厳しいけれど鳳翔さんといい、やはりペチャパイにはいい奴が多い!
特に大淀は不慮の事故により俺の本性を知りながら、それを利用して俺の点数を稼ぐというしたたかさを見せた。大淀、恐ろしい子……!
しかし他の艦娘がそうとは限らない。今は好意的に見える足柄などにも嫌われてしまうだろう。
大淀だけが例外なのだ。そういう意味では、俺がうっかり口を滑らせてしまった相手が大淀だった事は、幸運であったと言う他は無いだろう。
やったー! 見たか! これが童貞の本当の力よ! 俺には幸運の女神がついていてくれるんだから!
俺が内心ほっ、と胸を撫で下ろしていると、金剛が「テーートクゥーーッ!」と叫びながら全速力でダッシュしてきた。
イクとゴーヤなど数人の艦娘達まで飛んできて、俺は瞬く間に取り囲まれてしまう。うわっ、何故か長門まで寄ってきやがった。
い、いかん、油断した瞬間に、また逃げ場が!
「ヘーイ、テートクゥ? これはどういう事デース? 詳しく聞かせてもらいマース!」
「提督! 大淀ばかりズルいのね! イクも頑張ったご褒美欲しいの!」
「一人だけ贔屓するのは駄目だと思うでち! ゴーヤはお休みが欲しいでち!」
「提督さんっ! 夕立ももっともっと褒めてほしいっぽい!」
「私は夜戦演習許可して欲しいなぁー? ねっ、いいよね提督っ⁉ や・せ・んっ!」
「寝ずに頑張ってた私にもご褒美をくれてもいいんですよ? 提督の膝枕とか! キラキラ!」
し、仕方ないな。そこまで言うなら明石には膝枕を……ってアッ、大淀に首根っこを掴まれて引きずられていった。凹む。
「ま、待て待て。贔屓では無い。大淀は私がこの鎮守府に着任してから、よくやってくれているのだ。私はこれからも皆の頑張りを見て、正当な評価を下すつもりだ」
「じゃあ、出撃とか遠征とかお仕事もっと頑張れば、イク達もご褒美貰えるの?」
「勿論だ。皆の頑張りには期待している」
ぎゃんぎゃんと騒ぐ他の艦娘達を何とか宥めていると、川内が立ち上がって掌をひらひらと振り、追い払うような仕草と共に言うのだった。
「はーい、ともかくもう私達が挨拶する時間だよっ。戦艦も潜水艦も、ホラ散った散った!」
川内がそう言うと、金剛達もしぶしぶ離れていった。うむ。ナイス川内。大人では無いが一応長女なだけあるな。
俺の眼の前に集まったのは、川内の妹の神通と那珂ちゃん、そして時雨、夕立、江風だった。
反省してこれ以上酒は呑みたくないところだったが……那智がめっちゃこちらを見ている……。
い、いや。まだ大丈夫だ。あともう少しだけなら大丈夫だろう。多分。
戦艦部隊と違って、今度の相手はちんちくりんだ。
せいぜい中学生くらいにしか見えない時雨達に、高校生くらいにしか見えない川内達だ。俺のストライクゾーンにはかすってもいない。
簡単な挨拶を交わしながら、まずは川内型三姉妹と酒を酌み交わした。
人懐っこい笑顔を浮かべながら、川内と那珂ちゃんが俺を挟み込んでお酌をしてくる。
「で、どう? 提督、夜戦演習、駄目かなぁ~? いいよねっ?」
「きゃはっ! 那珂ちゃんのボイトレも許可して欲しいでーっす!」
「せ、川内姉さん、那珂ちゃんも……提督にそんな無理を言っては……」
「どっかの誰かさんのせいで私は欲求不満なんだけど」
「う、うぅぅ……それは、本当にすみません……」
神通が二人を宥めたが、川内の一言で何故か小さくなってしまった。
川内の言う夜戦演習と那珂ちゃんのボイストレーニング、ついでに言えば神通の朝演習もだが、何故か駆逐艦に恐れられているらしい。
川内型に関しては俺もあまり詳しくは知らないのだが、川内は気さくな感じでいい奴そうだし、那珂ちゃんも少しウザいが悪い奴ではなさそうだし、神通に至ってはこんなに大人しくて気弱な感じだというのに、何故恐れられているのか。
オータムクラウド先生がいつかの後書きで述べていたが、まるで参加した事があるかのような語り口であった。流石の表現力、描写力である。
曰く、「昼なのに目隠しをさせられて疑似夜戦演習をさせられる」だとか、「七時から十五時まで鎮守府に帰れず八時間ブッ続けで演習させられる」との事らしいが、この川内型がそんな鬼のような事をするようには見えないが……。
実際に参加するはずもないオータムクラウド先生ですら恐れる川内型の演習であるが、まぁ熱心なのはいい事だと思う。
夜間であるがゆえに騒音問題に発展した事もあるようだが、それ関係で禁止されていたのだろう。そこだけは注意してもらいたい。
「うむ。夜戦演習もボイトレとやらも、熱心なのは実に素晴らしい事だ。この私が許可しよう。ただし、皆の迷惑にならない程度にな」
「わぁ、さっすが提督! 話がわかるね!」
「ありがとー! お礼に那珂ちゃんのとびっきりのスマイルあげちゃうねっ! きゃはっ!」
ウザ可愛いとは思うが先ほどの妙高さんと香取姉の足元にも及ばなかった。
艦隊のアイドルへの道はまだまだ遠いようである。真の艦隊のアイドル間宮さんもいるしな。
それに負けずに頑張ってもらいたい。何かに向かって頑張っている人は無条件に尊敬できる。
両手を上げて喜んでいる川内だったが、思い出したように俺の耳に顔を近づけて、こう囁いたのだった。
「あっ、そう言えば、さっき鹿島を秘書艦にするって話をしてたみたいだけど、正直、身の安全が不安じゃない?」
鹿島を秘書艦にすると身の安全が不安……川内に心配されるレベルか。
やはり鹿島がドスケベサキュバスであり、夜な夜な提督を襲うというのは周知の事実という事だろうか。そこまでわかっていながら何で野放しにしているんだ。
不安じゃない訳がない。鹿島に寝込みを襲われたが最後、童貞を奪われて死ぬ――いや、それならばまだいい方だろう。
提督たるもの、常に最悪のケースを考えるべし。
何しろ普通の女性の三倍の性欲を持つであろう鹿島だ。いきなり本番というわけが無い。
まずはキスからだろうか。童貞では耐えられるはずもないディープなキスの刺激だけでまず三発。
次は手がある。俗にいう手〇キである。右手で三発、左手で三発。
足もあるな。俗にいう足〇キである。これで三発。
明石に負けず口も使うだろう。俗にいうフ〇ラである。これで三発は搾り取られる。
胸があるな。俗にいうパイ〇リである。ここでも三発。
本番の前に太腿で挟んで焦らす事も考えられる。俗にいう素〇である。つまり三発だ。
何と言う事でしょう。本番に入る前に最低でも二十一発! 俺のデイリー任務一週間分ではないか。テクノブレイク不可避。
つまり童貞を奪われるどころか童貞のまま俺は死ぬ可能性が高い。
「うむ……ここだけの話だが、少しな……昼はいいのだが、夜の睡眠中が不安でな」
「だよね。鹿島も悪い子じゃないんだけど……やっぱりそこは生まれ持った性能が大きいからね」
鹿島の性的な能力は後天的なものではなく生まれ持ったものだと言うのか……!
ナチュラルボーンドスケベサキュバスではないか。
コイツは生まれながらの淫乱だな! とかいう台詞は成人向け漫画でしか見た事が無かったが、まさか実在していたとは……なんて奴だ。
「そこでさ、どう? 私達三姉妹、提督が寝てる間だけでも護衛として傍に置かない?」
「何?」
「いやぁ、自分で言うのも何だけど、私達、夜は結構強いよ? それに、神通も提督の近くに控えたがって――」
「ねっ、姉さんっ! 何でそれを――!」
神通が慌てて川内に何かを言っていたが、これは悪い提案では無いように思える。
自分から推薦するくらいだ。実力に自信があるというのは事実であろう。
鹿島の本性も知っているようだし、つまり夜に俺を襲い来るドスケベサキュバス迎撃部隊という事か。
三人とも若い見た目故に俺の好みからは離れているし、間違いは起きないだろう。
川内が高三、神通が高二、那珂ちゃんが高一ぐらいの印象だ。妹達と同年代の子に手を出す気にはならん。
うーむ、どうやら川内型も俺への好感度はそこまで低くないような気がする。有り難い。
「私の身を守れる自信があるのか」
「もっちろん! 夜と言えば私、私と言えば夜! いわば夜戦のエキスパートと言えばこの私! そして神通はこの私さえも凌ぐ夜戦火力の持ち主だよ!」
「ほう……ちなみに那珂は」
「那珂ちゃんはぁ、三人の中で一番早く改二になれた実力派アイドルでぇーす!」
よくわからんが、やはり実力にも自信があるようだ。
見た目がどう見ても高校生な川内型を夜遅くまで働かせるのは申し訳ないが、その気になれば眠気には強いと明石も言っていたしな。
上手くシフトを組めば何とかなるだろうか。見た目もまだ若いことだし、無理のないよう、後で考えてみよう。
ドスケベサキュバスに怯えずに安眠できるというのはありがたい。お言葉に甘えさせてもらおう。
俺は川内、神通、那珂ちゃんの三人に一人ひとり目を向けて、はっきりと言ったのだった。
「うむ。それではしばらくの間、川内、神通、那珂に私の護衛をお願いしよう。もしも私が無防備な時に不埒な者が忍び寄ってきたのなら、容赦なく迎撃してもらいたい」
「了解!」
三人は一糸乱れず敬礼する。こういう姿を見ると、やはり子供ではなく艦娘なのだなと思ってしまうな。
「きゃはっ! 不埒、ってなんだかやらしい響き~!」
「那珂ちゃん、不埒者、は不届き者という意味で……」
「あ~、でも確かに刺客がヤツらなら見た目もやらしいもんね。提督、言葉遊び上手いねっ」
「も、もう、川内姉さんまで」
何やら話しながら、川内達は俺から離れていった。
うむ。やはり見た目は高校生レベル。想定通り、俺の心には響かなかった。
残るは中学生レベルの時雨達だけだ。もう何も怖くない。
俺が目を向けると、待ってましたと言わんばかりに、夕立が両手でビール瓶を抱えた。
慣れない手つきで、どうも危なっかしい。
「提督さんっ、上手く注げたら褒めて欲しいっぽい! えーと、ラベルは上向きで、泡ばかりにならないように……」
「……よし、よし。上手じゃないか。ありがとうな」
「えへへっ、龍田さん達に教えてもらったっぽい!」
そう言って夕立が目を向けた先を見れば――いつの間にやら駆逐艦が俺に向かって長蛇の列を成している。
その誰もが様々な酒瓶を抱えており、その列の後ろの方には――。
「そう、上手ね~。これなら提督も喜んでくれると思うわ~」
「わぁぁ、龍田さん、ありがとう、なのです!」
「こ、この程度、一人前のレディとして当然の嗜みよ!」
「うふふっ、そうです。ビールを注ぐ時は角度に気をつけて下さいね」
「鹿島さん、ありがとう! これで司令官に喜んでもらえるわ!」
「ハラショー。私はウォッカを用意したんだ」
た……龍田ァーーッ⁉ 鹿島ァーーッ⁉ お、お前ら何してくれてんの⁉
俺の視線に気づいたのか、こちらに目を向けた龍田達と目が合った。
鹿島はニコッ、と魔性の笑みを、龍田はニコォ……と妖艶な笑みを俺に返す。
こ……こいつら、まさか――!
俺が思考を巡らせる間も無く、もう待ちきれないといった風に、駆逐艦の大軍が俺に向かって押し寄せてきたのだった。
「睦月型駆逐艦五番艦、皐月だよっ。よろしくなっ!」
「睦月型駆逐艦、その六番艦、水無月だよ。司令官、よろしくね。えへへ」
「あたし、文月っていうの。よろしくぅ~」
「睦月型八番艦、長月だ。駆逐艦と侮るなよ」
「朝潮型駆逐艦のネームシップ、朝潮です! 司令官、ご命令を!」
「どーん! 駆逐艦、大潮です~! 小さな体に大きな魚雷! お任せ下さい! ほらっ、満潮もご挨拶です!」
「……」
「荒潮ですぅ。うふふふふっ、好きよ……?」
「ちょっ、アンタたち、こんな一気に……あぁもう、バカばっかり!」
「霰です……んちゃ、とかは言いません……よろしく……」
「朝潮型駆逐艦五番艦、朝雲よ。貴方が司令……かぁ。ふぅーん」
「朝潮型駆逐艦、六番艦、山雲です~。よろしくお願いいたしま~す」
「最終量産型艦隊駆逐艦、夕雲型一番艦の夕雲です。提督、甘えてくれてもいいんですよ?」
「夕雲型駆逐艦二番艦、巻雲です。司令官さまぁ、お役に立てるよう頑張ります!」
「夕雲型駆逐艦、三番艦の風雲よ。『ふううん』じゃないですよ?」
「陽炎型十九番艦、秋雲でぇーす! いやぁ、提督のおかげで色々はかどりますなぁ~! ひひっ!」
「夕雲型駆逐艦四番艦、長波様だよ! 提督、よろしくなっ!」
「あ、あの……夕雲型駆逐艦六番艦、高波です。よろしくお願いしますかも……です」
「夕雲型十一番艦、藤波。司令、よろしくね。私も、もち、頑張るから」
「夕雲型駆逐艦十四番艦の沖波です。えっと……はい、頑張ります! よろしくお願い致します!」
「あたいは夕雲型駆逐艦十六番艦の朝霜さ。よろしくな、忘れんなよ?」
「夕雲型駆逐艦……その十七番目……早霜です……。私はこうして……いつも見てるだけ……見ています……いつでも……いつまでも……」
「夕雲型のラスト、十九番艦の清霜です! よろしくお願いです!」
「綾波型駆逐艦七番艦の朧です。誰にも負けない……多分」
「綾波型駆逐艦、漣です。ご主人様! さぁさぁ、お酌しちゃいますぞ?」
「特型駆逐艦……綾波型の潮です。も、もう下がってよろしいでしょうか……」
「暁よ。一人前のレディーとして扱ってよね!」
「ハラショー」
「雷よ! 元気ないわねぇ、そんなんじゃ駄目よぉ!」
「い、電です。どうか、よろしくお願いいたします」
「あぁーーっ、皆ずるいっぽい! まだ夕立たちの順番っぽい! ぽい~っ‼」
多い多い多い多いよ‼ 『艦娘型録』読んでる時点でわかってたけど多すぎるよお前ら‼
そんな一気に来られて覚えられるわけねーだろ! 夕雲と長波様と潮しか覚えられなかったわ!
ちゃんと順番に一人ずつ……い、いや、コイツら元からそのつもりだ。
そうなると俺はあと何杯の酒を呑めばいい。那智が俺をめっちゃ見ている。
ちょ、ちょっと待て。落ち着いて考えろ。
普通に飲めばまず酔わない、酒の強さに自信がある俺だが、人生でたった一度だけ、記憶を無くすほど呑んだ事がある。
ちょうど仕事を辞めた頃だった。まだオータムクラウド先生の作品にも出会っておらず、時間だけを持て余し、何をすればいいのかよくわからなかった時期だった。
それで何かが解決するとも思わなかったが、ドラマや漫画でよくある、酒に溺れるという事に挑戦してみたのである。
一晩中酒を呑み続けた俺はいつしか記憶を失い、翌日目覚めた時、何故か全裸だった俺は妹達の手によって両手両足を縛られていた。
妹達はガチ泣きしながら俺にすがりついてこう言った。
「お兄ちゃん、もう二度とこんな風に呑まないで。外でこんな風になったら警察のお世話になっちゃう」
妹達の話によれば、酔いつぶれた俺はいきなり「我が名は
俺には記憶が無かった為、それが妹達の作り話だと断ずる事もできたのだが、妹達がいつものように俺を蔑むでもなくガチ泣きでお願いするという事が、それを事実であると雄弁に物語っていた。
お、おい……待てよ。俺は記憶を無くしているから、結局どれくらいが俺の限界なのかがわからない。
駆逐艦一人ひとりに注がれる酒の量は、俺の限界に至るのか⁉
その場合、この歓迎会場は阿鼻叫喚の地獄と化し、俺は警察どころか憲兵のお世話になることは間違い無い。
ならば危険を避けて、那智の勝負も諦めるか? いや、もしも那智がそんな俺の事を気に食わず、「この程度の男の下では戦えん。鎮守府から去れ」と言われたら――!
くそっ、誰だ、何か賭けなければつまらないなんて言った奴は! 俺だった。凹む。
何故、龍田と鹿島は駆逐艦共をたぶらかし、こんな馬鹿な真似をしたのか。
この智将の眼は誤魔化せない。真実はたった一つ。
龍田は俺を泥酔させる事で、俺の本性を白日の下に晒す為。俺を社会的に殺すつもりだ。
鹿島は俺を酔い潰して寝込みを襲う為。俺を性的に殺すつもりだ。
この二人は確実に俺を殺しにかかっている! 横須賀鎮守府殺人事件の開幕だ。
たった一つの真実見抜く、股間は子供、頭脳は大人げない、その名は神童貞、捨てるの
こういう時こそ、出番だ、川内! ってアイツらどこにもいねェ! 何の為の護衛だ! 不埒な者が早速俺を狙ってんぞ!
駆逐艦達は無垢な瞳をキラキラと輝かせて、俺にお酌をしたがっている。
一人ひとりが注ぐそれを飲み干さねば、俺はその艦娘に対して敬意を持っていないという事になってしまう。
那智に負けを認めたら、最悪の場合鎮守府を去る事になる可能性もある。
酒に溺れて自分を見失ったら、憲兵のお世話になり、社会的に死ぬ。
俺の中の闇が目覚める前に酔いつぶれて寝てしまったら、鹿島に搾り取られて死ぬ。
忘れてしまいそうになるが、俺の股間は未だに戦意高揚状態だ。
そして俺は現在ノーパンである。
全ての酒を飲み干しつつ正気を保つしかねぇ――!
こ、この窮地から性感、いや生還する事が出来るのか、俺⁉
長らくお待たせしてしまいました。
キリのいい所までと思うと、登場人物の多さにより少し長くなってしまいました。
いつも多くのご感想を頂きまして、ありがとうございます。
皆様から頂けるご感想のひとつひとつが、私の励みになっております。
それに関しまして、ご感想を下さっている皆様にお願いがございます。
展開予想と共に、「〇〇は△△という意味ではないか」「こう勘違いしているのではないか」などのような勘違いに関する予想に関しても、ご遠慮頂けないかと思っております。
理由を申し上げますと、そのご感想を目にする事で、その発想が思いついていなかった他の読者の皆様の楽しみを半減させる事になると思うからです。
本来ならば誰にも予想できない展開を考えるべきなのですが……私の実力不足ゆえ申し訳ありません。
より多くの皆様に楽しんで頂けますよう、どうかご協力をお願い致します。