ラストダンスは終わらない   作:紳士イ級
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028.『歓迎会』【艦娘視点②】

「那智、提督に失礼な事を言わなかったでしょうね」

「無論だ。事前に話していた通り、呑み比べに誘っただけさ。ふふ、むしろ提督の方から、何か賭けねばつまらん、などと言いだしてな」

 

 元の席に戻ってきた私に、妙高姉さんが釘を刺すような言葉をかける。

 まぁ、わからんでもない。

 昨夜の私の態度を見ていれば、提督に対して批判的な態度を取ると考えられたとしても、何らおかしな事ではないだろう。

 そんな事をいつまでも根に持つ私では無いというのに、実に心外な事だった。

 

「まぁ。提督からそんな事を言ったのならば、相当お酒の強さには自信があるのかしら。那智が吞兵衛だって事を知らないわけは無いでしょうし」

「誰が吞兵衛か……奴も酒の強さに自信があるか、案外ただの負けず嫌いかもしれんぞ」

「言っておくけれど、この勝負に勝ったからと言って、提督に逆らうなんて真似は」

「妙高姉さんは私の事を何だと思っているんだ……昨夜の戦いで、その実力も人格も、十分に理解できたつもりだぞ。呑み比べの勝ち負けなど、どうだっていい。賭け事の話も提督から言い出した事だ」

 

 そんなに私は信用が無いのだろうか。

 昨日の時点では、提督の事を何も知らなかった故に、私も怒った。それは何らおかしな事ではないだろう。

 そして今回の戦いで提督の事は十分に理解した。故に、親睦を図ろうと試みた。ただそれだけの事だった。

 だというのに、妙高姉さんは私への警戒の眼を止めてはくれない。全くもって、心外な事だった。

 賭け事についても、別に私が勝ったところで、何を言うつもりも無い。提督が何か賭けようなどと言うから、提案しただけの事だ。

 

「じゃあ何でわざわざ、呑み比べなんて提督を試すような真似を」

「そ、そういう訳では無い。この那智は、この手の事は苦手なのだが……私なりに親睦を深める為には、こういう方法しか思いつかなかった」

「まぁ、あの提督なら理解して下さると思うけれど……」

 

 妙高姉さんが心配そうに、遠くの提督を見つめた。

 どうやら潜水艦達が無礼な真似をしているようだったが、それを不快に感じている様子は見られない。

 むしろ、喜んでいるようにも見えた。

 この歓迎会が始まる前に、提督は「普段通りの姿を見せてくれ」と提督命令を発した。

 それを受けての事だろう。潜水艦達も我慢をせずに感情をさらけ出し、私も気を遣わずに声をかける事が出来たと思う。

 礼を失することにもなると思ったが、それを不快に思うような男には見えなかった。

 やはり、懐は大きいようだ。

 

 作戦会議にすら顔を出さない、艦娘に全てを任せる指揮――やはり、今考えても有り得ない。

 しかしそれでも、結果としてあの絶望的な戦いから誰一人欠ける事なく生還できたという事実。

 中破した状態にも関わらず、自らの放った砲撃の火力に、思わず足柄と顔を見合わせてしまったものだ。

 提督への信頼が私達の性能を底上げするというのならば、私の放ったあの火力は、そのまま提督への信頼そのものであると認めざるを得ない。

 

 提督としての能力に関しては認めざるを得ないが――唯一、指揮官として不満なのは、出撃した私達を想って涙を流していたという点だ。

 気に食わないという意味ではない。批判する気などさらさらない。

 心配される側としては悪い気はしないが、上官としてはあまりにも情けなく、頼りない。

 何よりも、兵器の一つ一つの損傷や損失に涙を流していては、提督自身の心が持たないだろう。

 そこだけは軍人として、何とか割り切って欲しいものだが――。

 

 何故だろうか。あんなにも頼りになるのに、こんなにも頼りなく思えてしまうのは。

 

「……そうだ。それよりも妙高姉さん、聞いていないぞ。羽黒を秘書艦に推薦するなどと」

「あら、そうね。推薦しようとは思っていたのだけど、決めたのは直接話してみての事だったから」

 

 妙高姉さんは悪気も無さそうにそう言った。

 羽黒を見れば、すでに心配なのだろう。自信無さげに俯いてしまっていた。

 事前に聞いていなかったのは羽黒も同じのようだ。

 

「せっかく秘書艦候補として名前を挙げて頂いたのに、無理を言う事になってしまったけれど……」

 

 始めは妙高姉さんと香取を秘書艦候補として考えていたとの事だった。

 以前、妙高姉さんが秘書艦を担当していた際に、約束事を忘れてすっぽかした当時の提督を数時間に渡って説教したという話は、今でも艦隊司令部で語り草になっていると聞いている。

 妙高姉さんを怒らせると怖いという事は、私達姉妹だけではなく、艦娘ならば誰しもが知っている周知の事実というやつだ。

 当然、提督がそれを知らないわけは無いが……。

 

「フッ、妙高姉さんと香取を選んだのも、案外、前の提督と同様に、尻を撫でるつもりだったのかもしれんぞ」

「あの提督がそんな事を考えるように見えますか」

「じょ、冗談だ、そう怒るな……そ、それよりも、何故このタイミングで羽黒を推薦した? 今までの提督には秘書艦として推薦などするつもりもなかっただろう」

 

 危うく妙高姉さんの逆鱗に触れるところだったので、すぐさま話題を元に戻す。

 提督を侮辱したからか、はたまた、尻をいじったからなのか……危ないところだった。

 どうやら妙高姉さんは、足柄と同様に、すでにあの提督の事を認めてしまっていたらしい。

 

「勘、かしらね。あの提督ならば、羽黒を更なる高みに連れていってくれる……何となくそう感じたの」

「更なる高み……改二という事か」

 

 羽黒と私達姉妹の練度は、そう差があるわけでは無い。

 妙高姉さんだけは一つ抜けているが、羽黒の実力や秘めたポテンシャルは、この那智に劣るものでは無いと、私自身も認めている。

 持ち前の優しさや臆病さ、自信の無さがその足を引っ張っているのだとは思うが、そればかりは生まれ持った性格だ。変えようとしてもなかなか変えられるものではない。

 ましてやこの一年間、我ら重巡洋艦はまともに運用されていなかった。

 戦艦の完全下位互換であると断じられ、自慢の主砲も埃を被らされていた一年間。成長する余地など全く無かった。

 

「まぁ、それだけじゃないけれどね。改二に至る条件は艦により様々だけど、私はその艦の想いであったり、信念であったり、そういった『気付き』が必要だと思っているの」

「あの優秀な提督ならば、それを羽黒に気付かせてくれると?」

「さて、どうかしら。とにかく、頑張ってね、羽黒」

「みょ、妙高姉さぁん……」

 

 まるで他人ごとのように言って席を立った妙高姉さんに、羽黒もすっかり困り果てているようだった。

 羽黒は人見知りでもあるから、提督と打ち解けるのも一苦労かもしれん。秘書艦の仕事以前の問題だ。

 果たしてこの羽黒を成長させる事ができるのか……提督の御手並み拝見か。

 

「うぅぅ……那智姉さん。私なんかが、あんなに優秀な司令官さんの補佐なんて出来るのでしょうか。昨夜の作戦だって全く予想が出来なかったのに」

 

 羽黒は自身無さげに、そう言葉を零した。

 

「予想が出来なかったのは誰も同じさ。いや、強いて言うなら大淀くらいか。だが、あの提督は大淀を秘書艦候補として挙げなかった。そしてお前が秘書艦で構わないと言った……だから、それでいいのだろう」

「それは、妙高姉さんの無理を聞いて頂けたからで、私なんかじゃ司令官さんのご迷惑になるのでは……」

「さてな。ともかく、あの妙高姉さんがあぁ言っているのだ。やる以外の道はあるまい。どうしても無理だと思ったら、その時に辞めればいいさ」

「は、はい……」

 

 憂鬱そうな表情で俯いてしまった羽黒の隣に、妙高姉さんが戻って来る。

 そして何やら緑色の液体が入った酒瓶を私の前に置いたのだった。

 

「何だこれは」

「ゴーヤ酒というらしいわよ。提督は二杯呑んでいたから、那智も同じだけ呑みなさい」

「……冗談だろう?」

「同じものを呑まないとフェアじゃないでしょう」

「そ、それはそうだが……! お、おい、妙高姉さん! 何か怒ってないか⁉ し、尻の件は冗談だと……!」

「怒ってないわ。呑みなさい。早く」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「……イムヤ、どうしたの? さっきから元気が無いの」

「えっ、あ、いや……元気が無いわけじゃなくて、少し考え込んでただけ」

 

 イクの声に、はっ、と気が付くと、私はグラスの水面をじっと眺め続けていたようだった。

 慌てて取り繕い、グラスに注がれたジュースに口をつけた。

 一息ついて、改めて考える。

 ほんの一か月前の、私達の事を。

 

 持ち前の燃費の良さを活かして、私達はよく資材の回収に向かわされていた。

 前の司令官はやたらと重い編成の艦隊運用を好み、また、建造に多くの資材をつぎ込んでいた為、鎮守府は慢性的な資材不足に陥っていた。

 私達は昼も夜もなく、ただひたすらに資材を回収する為に海に潜り、得られた資材が瞬く間に消えていくのを目の当たりにする毎日を過ごしていたのだった。

 当然、疲労は溜まる。深海棲艦も資材を必要とする為、パワースポットの周りでは交戦する事が多い。

 降り注ぐ爆雷の雨に打たれて、時には避け切れずに被弾、損傷する事は当然あり得る事だった。

 

 だが、前の司令官は、それを許さなかった。

 負傷して撤退した私達に降り注いだのは、自分の思い通りの結果にならなかったという苛立ちをぶちまけた、更なる罵倒の雨だった。

 

『資材を回収するだけという簡単な事も出来んのか、役立たず共め』

『何故被弾するのだ。愛国心さえあれば敵の攻撃など当たらぬはずだ。恥を知れ』

『貴様らが不甲斐ないせいで、儂の計画が台無しだ。どう責任を取るのだ』

『入渠もタダでは無いのだぞ。計算外の余計な資材を消費してしまうだろう』

『貴様らの尻拭いに余計な資材は使えんからな。入渠は許さん。入渠したければ、その分の資材は自分達で稼いでこい』

『疲れているなどと甘えた事は言うまいな。少し損傷したくらいで泣き事を言うな。根性無しめ』

 

 数え上げればきりがないが――中破状態、ひどい時には大破状態で反復出撃をしたのは一度や二度ではない。それこそ、数え上げればきりがないというものだった。

 死に物狂いで何とか資材を回収し、命からがら帰投すれば、前の司令官はふんぞり返ってこう言うのだった。

 

『ほら見ろ。私の言う事は正しいだろう。無理だと思うから無理なのだ』

 

 私はひねくれているのだろうか。それともイクやゴーヤが純粋なのだろうか。

 良い事なのか悪い事なのかわからないが、きっと私が冷めているだけの事だと思う。

 司令官の言葉を真に受けて、イクやゴーヤは「被弾する私達には愛国心が無いのではないか」と本気で悩んでいた時期がある。

 私はそうは思わなかったが、あの時期のイク達は見ていられたものではなかった。

 

 あんな無謀な出撃を繰り返して、私達潜水艦隊から誰も失われる事がなかったのは、奇跡としか言えないだろう。

 いつ誰が沈んでもおかしくはなかった――そんな地獄だった。イクもゴーヤも、おそらく私も、死んだ目をして、毎日毎日、地獄に繰り出していた。

 毎日を生き抜くのに精いっぱいで、誰かに甘えたり、イタズラする余裕なんてなかったのだった。

 

 だから、あんなイクとゴーヤを見るのは、とてもとても久しぶりの事だったのだ。

 目を爛々と輝かせて、司令官にイタズラを仕掛けた瞬間、私は色んな意味で驚いてしまった。

 何でわざわざ、自分から嫌われるような事をするのかと。

 

 だがそれが、本来のイクとゴーヤなのだ。

 そんな本来の、自然な姿で接して欲しいと、司令官は言ったのだ。

 それを信じてイク達はイタズラを仕掛け、司令官はそれに驚き、困りながらも喜んだ。

 内心不安だったであろうイクとゴーヤの喜びは、如何ばかりだった事か。

 

 ――司令官はきっと知らないのだろう。

 

 提督の背中にくっついてイタズラをしていたイクが、どんなに幸せそうに笑っていたのかを。

 その背中にくっついていたイクが司令官の言葉で一度離れた瞬間、どんなに名残惜しそうな顔をしていたのかを。

 もっともっと甘えたくて、もっともっとくっついていたくて、どうしても我慢できなくて、もう一度くっついてしまった事を。

 私達が、司令官の事をどれだけ待ち望んでいたのかを。

 

 出撃する事をあんなにも辛いと思っていたのに、今の私は、もう今すぐにでも海に飛び出したいくらいにうずうずしている。

 お休みが欲しい、なんてゴーヤは訴えていたらしいが、それでは司令官に褒めてはもらえない。

 ご褒美目当てだろう、イクもゴーヤも目を輝かせて張り切ってしまっていた。

 

「明日の資材回収と近海警備、頑張るの! 頑張って頑張って、提督のご褒美貰うのね!」

「いっぱい活躍して、お休みを貰うでち!」

 

 現在の横須賀鎮守府の資材状況は、枯渇寸前と言ってもいい。

 そうなると、燃費の良い私達潜水艦隊や水雷戦隊の出番だ。最低限の支出で近海を警備し、資材を回収する。

 しばらくはそういった、兵站の面での戦いが続くだろう。これもまた、立派な戦いだ。

 

 私は他の皆と比べて、性能が劣っている事は自覚できている。

 イクやゴーヤに比べれば雷撃の威力も低いし、被弾率も大破率も私が多い。総合的に、性能が低い。

 前の司令官には、よく『最初から期待していなかったが、足手まといめ。潜水艦は数が少ないから使ってやっているだけだ。有り難く思え』などと言われていたものだ。

 

 性能に恵まれず、龍田さんや香取さんのように戦闘センスにも恵まれず、改状態になっても潜水空母の能力は得られない。

 褒められる方が珍しい、期待などされた事のない、平々凡々な潜水艦。

 そんなコンプレックスまみれの私に、司令官は『潜水艦の中では特にお前に期待している』と言ってくれたのだ。

 潜水艦隊のリーダーに任命してくれたのだ。

 お前にしか無い長所があると言ってくれたのだ。

 

 こんな……こんな私に!

 それがどれだけ嬉しかった事か!

 

 しかしいくら考えても、私にしかない長所など一つも思いつかない。

 私は恥を忍んで、イクとゴーヤに声をかけたのだった。

 

「ねぇ、二人とも。司令官に言われたんだけど、私にしかない長所って何かあるかな」

 

 イクとゴーヤはきょとん、とした顔を見合わせ、少しも考えるそぶりを見せずに、こう言ったのだった。

 

「イムヤは頭がいいから、いつもイク達をまとめてくれるのね。字も綺麗だし、報告書を作るのも一番上手なの!」

「それに燃費もいいから、資材の消費量も入渠に必要な時間も、ゴーヤ達よりも少なく済むでち」

「そ、そう……? 確かに回復力には自信があるけど……っていうか、たまにはイク達が報告書を作ってくれてもいいんだけど」

「えぇー、それは面倒なの」

 

 長所というより、仕事を押し付けられてるだけのような気がする……。

 しかし、この潜水艦隊をまとめる事が出来るのはやはり私しかいないという事だろう。

 司令官もそれを期待して、私を潜水艦隊のリーダーに任命してくれたのだろうし……頑張らないと。

 内心、気合を入れた私を見て、イクはこう言ったのだった。

 

「明日の出撃頑張ったら、イムヤもご褒美に、提督にくっつくといいの!」

「えぇっ⁉ な、何で急にそんな事」

「色々考えて我慢しちゃうのがイムヤの悪いところなの! イクが提督にくっついてる時、羨ましそうに見てたの、イク、知ってるの!」

「頭がいいのはイムヤの長所だけど、そのせいで大人ぶって妙に気を遣ったり遠慮しちゃうのは短所だと思うでち」

 

「お、大人ぶってるとか遠慮してるとかじゃなくて、は、恥ずかしいでしょ! 普通!」

「あっ、くっつきたいのは否定しないのね」

「そ、そうじゃなくてぇ! もぉぉぉ~!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ほらほらっ、満潮も! 司令官に挨拶! 行っきまっすよぉ~!」

「……私はいい。行かない」

 

 大潮がいつものように強引に手を引くが、満潮は動きたがらない。

 朝雲と山雲にも励まされてはいるのだが、一向に変化は見られなかった。

 

 満潮は私達が無事に帰投してから、ずっとふさぎ込んでしまっている。

 その原因はただ一つ――私、大潮、荒潮、そして満潮。第八駆逐隊の中で、満潮だけが唯一、昨日の遠征部隊から外された事だ。

 満潮の代わりに霞を編成したそれは、単純に練度の高い者から選んだように思えるが、満潮と霞の差はそこまで大きくは無い。

 つまり、霞の代わりに満潮を編成したとしても、あまり任務に支障は無かったように思えるのだ。

 にも関わらず、司令官は満潮だけを外し、代わりに霞を編成した。

 

 それに一体、何の意味があったのか。

 満潮のトラウマを抉るような、酷薄な編成。まさか何も考えていないという事もないだろう。

 大淀さんの話では、あの司令官は私達の事をよく知ってくれている、と。

 つまり、満潮の過去を知った上で、あんなにも残酷な編成を組んだという事だろう。

 

 かつての大戦――まだ私達が艦娘ではなく、艦であった頃。

 満潮が入渠している間に、私も、大潮も、荒潮も、次々に沈んでしまったという過去。

 私達と同じ戦場で戦う事も、助けに行く事すらも出来なかったという後悔。

 そのトラウマは未だ深く、大きい。

 

 私達が遠征に出た後、満潮はどんな想いで待機していたのだろう。

 日が暮れても戻らない、連絡も取れない私達の事をどう考えていただろう。

 

 それがどれだけ辛かっただろうか、苦しかっただろうか、心細かったであろうか。

 

 いくら優秀な司令官であると理解が出来ていても、感情が追い付いていないのだろう。

 

 その怒りや悲しみは、一体どこに、誰にぶつければいいというのか。

 やはり、そんな編成を命じた司令官にぶつけるしか無いのだろう――。

 

「うふふふっ、満潮ちゃんも、しょうがないわねぇ~。気持ちは、わかるけどぉ」

「そうね。無理やりここまで連れ出してはきたけれど……司令官に挨拶に行くのは無理かしら。置いていくわけにもいかないし」

 

 荒潮がひそひそと小さく声をかけてきたので、私も同じように答えた。

 司令官の歓迎会に顔を出さないというのは流石に失礼なので、何とかここまでは引っ張ってきたのだが……挨拶に行くとなると、やはり尻ごみしてしまうのだろう。

 

「ったく、見てらんないったら! いい加減にしなさいな!」

 

 あぁ、やはり。

 予想はできていた事だが、やはり霞が痺れを切らしたようだった。

 ふさぎ込んでいる満潮に向かって、勢いよく立ち上がった霞は一切の遠慮なく厳しい言葉を投げかける。

 

「言っておくけど、司令官を恨むのは筋違いだからね。私の方が、練度が高かった。今回は危険な出撃だったからこそ、少しでも練度の高い私が選ばれた。ただそれだけの事よ」

「……あぁそうね! 私じゃ力不足って事ね! そんな事わかってるのよっ!」

「わかってるなら、何をいじけてるの⁉ それで強くなれるならどうぞ好きなだけ落ち込んでいればいいわ。惨めよね!」

「うるさいわねっ! ウザイのよっ! 霞っ!」

「はぁ⁉ それで逆ギレ⁉ だらしないったら!」

「喧嘩売ってきたのはアンタでしょ⁉」

「さっきから目障りなのよっ! 落ち込んでる暇があったらこんなところでウジウジしてないで――」

 

「――何を大きな声を出しているのですか? この場は提督の歓迎会ですよ」

「元気がいいねぇ。やっぱり夜はいいよね、夜はさ。元気が有り余ってるなら、夜戦演習行っちゃう? 今から提督に許可を貰うつもりなんだけど」

「ミッチもカスミンも大きな声! 那珂ちゃんと一緒にボイトレどう? きゃはっ!」

 

 いい加減にしなさい、と声をかけようと腰を上げた私よりも早く、二人の間に割って入ったのは、川内さん達、三姉妹だった。

 時雨さん達と共に、提督に挨拶に行く途中だったのだろう。

 満潮と霞は一瞬にして悟ったかのように顔を青くして、顔を伏せて縮こまってしまった。

 

 私は神通さん達の下へ歩み寄り、二人に代わって謝罪すると共に、事情を説明したのだった。

 何も言わないのに正座をして黙り込んだ満潮と霞を一瞥して、神通さんは目を瞑りながら口を開く。

 

「……なるほど。確かにそれは悔しいですね。確かに私も、あの編成が気になってはいたのです。何故、満潮さんではなく霞さんを選んだのか、と」

「単純に、練度の高い順であると言われればそうなのですが……満潮の過去を知った上での判断だったのでしょうか」

「そうですね。ここに配属される軍人であるならば、先の大戦の事は知っていて当然の事でしょう」

「それにしては、少し酷薄すぎるのではと……い、いえ、司令官の指揮に不服があるわけではないのですが、その……」

 

「ふぅん。話を聞けば、あの提督の考え方は、どこか神通に似てる気がするねぇ」

「あっ、それ那珂ちゃんも思った!」

 

 神通さんと私の会話を聞いていた川内さんと那珂さんは、いつものように飄々とした雰囲気のままに、そう言った。

 その言葉の意味がわからなかったのか、神通さんは何故か少し頬を染めて、川内さん達に言葉を返したのだった。

 

「提督が、私に……ですか? ど、どの辺りが……」

「そうだねぇ。厳しさの理由には優しさがあるというか、ほら、間宮さんが教えてくれたでしょ。夜戦の為に全員送り出した後、一人でこっそり泣いてたって」

 

 その無線は、私も聞いていた。

 司令官が私達を想って涙を流してくれていたと聞き、何と素晴らしい人なのだと感服した。

 その慈悲深さと満潮への仕打ちが、どうにも繋がらないのだったが、川内さんはこう言葉を続けたのだった。

 

「私達は遊びに海に出てるわけじゃないでしょ。一歩海に出ればそこは戦場。いつ沈むかもわからない死地で、地獄だよ。提督はそれをよくわかっているから、自分だけが安全な場所にいるのが悔しい、って泣いてたんだ。その気持ちは、満潮もよくわかるんじゃない?」

「……はい」

「ましてや、提督にはあんなに大きな危機が迫っているってわかっていたんだから、少しでも練度の高い艦で固めたかったと思っても、おかしくは無いんじゃない?」

「……えぇ、川内姉さんの言う通りです。通常の遠征ならばともかく、あの航路は駆逐艦の皆さんにはかなり厳しいものでした」

「過去の編成を優先して少しでも練度の低い艦を編成した結果、目も当てられない事になったら、それこそ本末転倒なんじゃないかなぁ。どう思う、朝潮?」

「……返す言葉もありません」

 

 川内さんの言う通りだった。

 思い返せば、昨日の戦い、それに至る作戦というのは、ほんの僅かにでも手を抜けるほど、余裕のあるものであっただろうか。

 否。一つ間違えれば全てが無に帰すような、綱渡りのような作戦だった。

 全ては司令官の掌の上だと大淀さんは例えたが、それならば少しでも慢心しても良いという道理は無い。

 ほんの僅かにでも、満潮よりも霞の方が練度が高いと、司令官は判断した。

 ならば、あの編成は司令官の考え得る限りの全力だったはずだ。

 

 それに対して、もっと手を抜いてもよかったのではないか、などと言えるはずがない。

 辛い事だが、満潮は口だけでは無く、認めなければならないのだ。

 自分自身の力不足を。

 

 川内さんは正座している満潮の前で膝を曲げ、ぽんぽんと頭を叩いて、言葉を続ける。

 

「だから、私達は強くならなきゃならないんだ。大切な仲間と共に強くならなきゃ、その内、隣に立つ事も出来なくなる……。大切な仲間が危険に晒されている時に、何も出来ないって事にもなるんだ。私も那珂も、神通に置いてかれないように、こう見えて必死なんだよ?」

「……はい」

「満潮は今回、悔しかったね。もうちょっとだったよね。だからこそ、頑張らなきゃ。いつか、朝潮達や時雨……大切な仲間に危機が迫っている時に、自分の手で助けに行けるように」

「……っ、はいっ」

「神通の演習はかなり厳しいけれど、それも皆の事を思って、心を鬼にしているんだよ。実戦で沈んでしまったら何の意味も無い。あの時、もう少し厳しく教えていればよかった、なんて思ったって、後の祭りだからね。だから神通は、たとえ皆に嫌われたって、怖がられたって、厳しい演習を続けるんだ……提督もきっと、表情には出さないけれど、案外、心の中では泣いてるんじゃないかな」

 

 川内さんの言葉に、満潮は肩を震わせ、ぽろぽろと涙を流してしまった。

 行き場無く司令官にぶつけていた怒りや悔しさ、悲しみが、全て自分自身への不甲斐なさとなって返ってきたのだろう。

 普段から、あとほんの少しだけ頑張っていれば、今回の編成から外される事は無かったかもしれない。

 司令官の作戦が少しでも上手くいかなければ、私達は沈んでいた。そうなれば、満潮は思い出したくもない過去の二の舞となるところだったのだ。

 満潮も本当はわかっていたのだ。あんなにも私達の事を想ってくれている司令官を恨むなど筋違いである事など、霞に言われるまでもなく、理解できていたのだ。

 

 それにも関わらず、司令官を恨む事で自分の弱さを誤魔化していた事を自覚したのだろう。

 

「今回の作戦で、あの加賀さんも少し失敗しちゃったんだってさ。それで落ち込んじゃった加賀さんに、提督はこう言ったそうだよ。『失敗は誰にでもある。大事なのはそれを後悔で終わらせる事では無く、反省し、次に活かす事だ』ってね。その悔しさをバネにして、進まなきゃ。一歩でも、ほんの少しだけでも、前にね」

「ひっく……ぐすっ……はっ、はいっ……!」

「よしよし。悔しいよね。これから皆一緒に頑張ろうね」

 

 川内さんは満潮を抱き寄せ、ぽんぽんと軽く背中を叩く。

 満潮の背を優しく撫でながら、川内さんはそのまま私達に目をやり、言葉を続けた。

 

「それじゃあ私達は提督に挨拶に行ってくるけど……朝潮達も失礼のないようにね」

「はいっ。無論です」

「朝潮や大潮なんかはまぁいいとして……霞はまさか、普段通りでいいって言われたからって『あの作戦は何なのよ、このクズ!』とか言い放つつもりは無いよね?」

「ギクッ⁉……そ、そんな事は……な、無い、です……」

 

 言うつもりだったようだ。私からも釘を刺してはおいたのだが……。

 霞は言葉を選ばない。先ほどの満潮への言葉も、言うなれば霞なりの叱咤激励だ。

 満潮に語っていた通り、霞も司令官の指揮方針については理解できている。だが、おそらく司令官と顔を合わせれば、納得のいかなかった点について思いをぶちまけるだろう。

 

 霞は相手の事を考えた上で正論を言う。

 だがそれが少し過激すぎるというか、口癖なのか、過去に司令官をクズ扱いした事は一度や二度では無い。

 感情が昂ると抑えが利かないのか、考えるよりも先にそういった厳しい言葉が出てきてしまうのだろう。

 そのせいで、過去の司令官の中には、霞を苦手とする方もいた。

 適切な言葉さえ選べば、霞も避けられる事は無いのだと思うのだが……姉としては、今後が心配だ。

 

「それと……荒潮。嬉しいのはわかるけど、さっきから目が怖いから、あまり提督を見つめ過ぎないように。荒潮の直視は目力が強すぎて、私でも目を逸らしたくなるくらいなんだから」

「えぇ~? うふふふふっ、何でかしらぁ? おかしいわねぇ~?」

「う、うぅん、でも提督も普段通りでいいって言ってたし……ま、まぁ、いっか。そのままで」

 

 荒潮は昨日の遠征の途中から様子がおかしかった。

 何だか随分と機嫌が良いように見える。

 私の妹ながら少し変わっている子だとは思うが、それが少し誤解を生んでしまいがちだ。

 前の司令官には、よく『何だその目は!』と顔を合わせるたびに怒鳴られていたし、機嫌の悪い時には頬を張られるのも日常茶飯事であった。

 最終的には、その目が気に食わないという理由で、顔を合わせないように部屋から出るなとまで言い放たれた。

 それでも荒潮はいつものように笑みを浮かべていたが、内心、どう思っていたのかはこの私にもわからない。

 

 朝潮型の中で特に問題児として扱われやすいのが、荒潮、満潮、そして霞の三人だ。

 荒潮は余裕ぶった笑みや態度、何よりも目が気に食わないと。

 満潮は捻くれた物言いが、霞は歯に衣着せぬ物言いが気に食わないと、私達の中でも特に冷遇されてきた。

 上官に向かってその態度は何だ、と言われれば、返す言葉も無いのだが……。

 

 ともかく、霞も荒潮も、そして満潮も、自分を偽るつもりは無いようだった。

 何よりも、提督自身がいつも通りの自然な姿を見せてくれと言っていたのだから、偽らずとも正解なのだろう。

 悪い子ではない、少しだけ個性的な私の妹達を、司令官が受け入れて下さる事を祈るばかりだ。

 

 司令官への挨拶に向かうべく立ち上がった川内さんを私は呼び止め、敬礼した。

 満潮と霞の喧嘩を仲裁してくれただけではなく、貴重な話を聞かせて頂いた。

 厳しく感じられる神通さんの演習には、厳しさ以上に確かな優しさがある。

 提督の指揮もまた然り。

 ならば、川内さんも那珂さんも、私達の事を想っていてくれているのだと、実感する事ができたのだった。

 

「ありがとうございました! あ、あの、もしかして神通さんだけではなく、川内さんの夜戦演習や那珂さんの発声練習も、私達の今後を思って――」

「あぁ、私は自分がやりたいからやってるだけだよ。夜戦最高ー!」

「那珂ちゃんもでぇーすっ! きゃはっ!」

「えぇ……?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「だ、大丈夫ですか⁉ 金剛お姉さまっ!」

「シ……シィット……! 流石は私の妹デス……!」

「えぇと……この一年間、数えきれないくらい戦場に送り込まれてきたので、勝手に練度が上がってしまって……」

「フフフ、頑張ったのデスネ……でも次は負けまセーン……! 提督のハートを掴むのは私デース! さぁ、もう一度勝負ネー!」

「わぁぁ! お姉さま、流石です! よーし、私も気合っ、入れてっ、行きまぁすっ! とぉりゃぁぁあっ!」

 

 比叡お姉さまに投げ飛ばされ、相撲勝負に敗北してしまった金剛お姉さまだったが、すぐに立ち直り闘志を燃やしている。

 元々の練度の差が大きいのか、現在は比叡お姉さまの方が若干強いようだ。

 そうなると、私や霧島もまた、金剛お姉さまよりも上にいるという事になるが、おそらくこの程度の差は、すぐに覆されてしまうのだろう。

 

 夢のようだった。こうやって金剛お姉さまとはしゃいで、騒いで、笑い合える日が来ることを、私達は文字通り夢見て過ごしてきたのだ。

 私達の誰かが沈んでしまう前に、四人で再会する事が出来た。その御恩は、一体どうすれば返す事ができるのだろうか。

 そんな事を話そうかと隣に座る霧島に目を向けると、何やら難しい顔をして考え込んでいる様子だった。

 

「……どうしたの、霧島」

「いえ、結局のところ、司令の一番とは一体誰なのかと考えていて」

 

 それは、先ほど提督が金剛お姉さまに話した事だった。

 確かに、それは気にならないと言えば嘘になる。

 提督の表情を見るに、金剛お姉さまが二番目であるという事は、うっかり口が滑ってしまったというような感じであった。

 本来言うつもりが無かったのであろう。

 

「司令にとって、金剛お姉さまは昨日出会ったばかり。だというのに、上から数えて二番目。この霧島の分析でも、どうも理解ができないわ。初めての建造で出会えた故に一番というならまだわかるのだけれど、何故二番……」

「うーん……?」

「そもそも一体何の序列なのかしら。金剛お姉さまの、どれくらい大切に考えているかという問いに対して、迷うことなく二番目と答えたという事は、司令の中であらかじめその序列が決められていたという事よね。大切にしている序列として考えるならば、司令は艦娘に優劣をつけている……?」

「ま、まさか……」

「そうだとしても、何故金剛お姉さまが二番目……わからないわ、この艦隊の頭脳、霧島の分析でも……!」

「で、でも、あの提督が大切にしている艦娘に序列をつけているだなんて考えられないわ。提督も、そういう意味では無いと仰っていたし……」

「そうなのよ。だからますますわからなくて……司令の領域に至るには、この霧島の頭脳でもまだ足りないという事かしら」

 

 私と霧島は、腕組みをして唸ってしまう。

 大淀さんから前もって指示があったように、提督は質問を嫌うらしい。

 まずは自分の頭で考えてみて、どうしてもわからなかったら大淀さんに相談して下さい、との事だった。

 

 どれくらい大切に思っているか、という問いに対して、金剛お姉さまが二番目であると迷わず答えた。

 という事は、提督の中で大切に思っている順位があるとして、今回の建造により金剛お姉さまが二番目に滑り込んだという事だろうか。

 そうなると、金剛お姉さまでも超える事の出来なかった一番目とは、一体……。

 

 考えても考えても、わからなかった。

 

「もうっ、いい加減にして下さいっ! お手洗いにまでついてくるなんて!」

「た、頼む! 一回だけ、一回だけでいいんだ! 私と朝潮型で輸送連合艦隊なんてどうだろうか。皆で弁当を持ってだな」

「戦艦含んだ輸送連合なんてありますか⁉ どんどん要求が露骨になってきてるんですよ! もう大人しくしてて下さいっ!」

「お、大淀……!」

 

 一体どうしたものか、と考えていた所に、ちょうど大淀さんが通りかかった。

 何やら長門さんに付きまとわれているようだが……一体どういう状況なのだろうか。

 大淀さんも私達の姿に気付き、声をかけてくる。

 

「な、何してるんですか。何故こんな時間に相撲を……」

「えぇと、実は……」

 

 大淀さん達に事情を説明しようとしたところで、再び比叡お姉さまに投げ飛ばされていた金剛お姉さまが、声を上げて走ってきたのだった。

 

「あーーっ! そうデス! 長門デース! この横須賀鎮守府のリーダー格! ヘイ、長門! 提督の一番の座を賭けて勝負デース!」

「……何? 提督の一番? さっきの話の事か」

 

 首を傾げる大淀さんと長門さんに、私達は提督にかけられた言葉について説明したのだった。

 一通り説明を終えた所で、長門さんは理解が出来たというかのように大きく頷く。

 

「なるほど、そういう事か。先ほどの話の中で、提督が一番大切に思っている艦娘は一体誰かと……フフ、それで私か。胸が熱いな」

「シット! 何を見せつけてくれるデース! さぁ! 相撲で勝負ネー!」

「ふむ。それが事実だとしたならば、提督の一番に選ばれたその名誉は簡単には渡せんな。良かろう、受けて立とうではないか」

 

 長門さんと金剛お姉さまは土俵の中に入り、そのまま戦いを始めてしまった。

 

「金剛型の高速張り手を喰らうデース! ファイヤァーーッ!」

「フッ、効かぬわ。長門型の装甲は伊達ではないよ」

「なっ、なんて硬さとフィジカルデース⁉ まるで歯が立ちマセーン⁉」

「お姉さま、助太刀しますっ! とぉりゃぁぁあっ!」

「ハッハッハ! ビッグセブンの力、侮るなよ!」

 

 お姉さま二人がかりでもビクともしていない……長門さんのあの力も、提督への信頼から来るものなのだろうか。

 怒涛の勢いで勝負が始まってしまったが、大淀さんに目を向ければ、呆れたような表情で大きな溜め息を吐いていたのだった。

 

「はぁぁ、まったく、もう……人の話を聞かないんだから」

「あの、大淀さんはどう思いますか? 提督の一番大切にしている艦娘とは……」

「提督は艦娘に序列をつけたりなんてしません。鹿島も私も常に平等。提督はそういう御人です」

「えっ、なんでそこで鹿島さんが」

 

 私の問いに、大淀さんはハッと気が付いたように口をつぐみ、小さく咳払いをしてから言葉を続けたのだった。

 

「コ、コホン。と、とにかくですね。提督も、そういう意味ではないと仰ったのでしょう? 考え方のスケールが小さいんですよ」

「考え方のスケールが……どういう事でしょうか」

「まぁ、私も先ほどまでそれに悩んだりもしましたが……提督の言いたかった事は、金剛が二番目という事ではなく、私達艦娘全員が、提督の中で二番目に大切だという事なのでしょう。おそらく艦娘の中で序列があるという意味ではありません」

 

 大淀さんの言葉に、私と霧島は顔を見合わせた。

 確かに、筋が通っている。金剛お姉さまが二番目ではなく、私や霧島も含めた、艦娘という一つのスケールで、二番目に大切に思ってくれているのだ。

 そう考えれば納得がいく。私達の為に涙を流せるような人なのだ。艦娘そのものを大切に思ってくれている事は、よく理解できていた。

 

「なるほど……それでは、提督の一番とは」

「言うまでも無いでしょう。今朝、私達はそれを心で感じたはずですよ。提督の一番は私達にとっての一番と同じ。この国の平和、ただそれのみです」

 

 ――私と霧島は、もう恥じ入るしか無いのだった。

 この国の平和を一番に、そしてこの私達の事を二番目に大切に思ってくれている、そんな高潔な御人に、失礼な事を考えてしまった。

 艦娘に好みで序列をつけているのではないか、などと、妙な考えを持ってしまった。

 少し考えればわかりそうなものだが、大淀さんの言うとおりに、私達は考え方のスケールが小さかったようだ。

 まだまだ、提督の領域に至るまでは遠い。

 

 大淀さんは困ったように笑いながら小さく息を吐いて、言葉を続けた。

 

「それはとても光栄な事ではありませんか。ご自分の事よりも何よりも、この国の平和の次に、私達の事を大切に思ってくれている……人間に歯向かった兵器だと今も警戒されている、こんな私達を」

「そう……ですね。前提督に逆らった事で横須賀鎮守府の艦娘が問題視されている事はご存知でしょうし……まさかあんなにも有能な御方が着任するとは思いもしませんでした」

「私達はその恩に報いねばなりません。皆さん、戦艦部隊は空母機動部隊と同じくしばらく出撃を控える事になりますが、資材管理も立派な戦いです。ご協力をお願いしますね」

「えぇ、勿論です」

 

 私と霧島が大きく頷いたところに、何やら楽しそうに笑みを浮かべた間宮さんがひょっこりと現れる。

 どうやら厨房から、私達の声を聞いていたようだった。

 

「あらっ、間宮さん。どうしたんですか」

「うふふ、何やら楽しそうなお話をしているなぁと思いまして。思わず厨房から誘われて来てしまいました。ふふふっ」

 

 間宮さんは何故か、大淀さんに目を向けてニコニコと微笑んでいる。

 大淀さんもそれを怪訝に思ったのか、眼鏡の位置を直しながら間宮さんに尋ねたのだった。

 

「な、何ですか?」

「いえ、やっぱり大淀さんは提督の事をよく理解しているなぁと思いまして。もしも提督が信頼できる艦娘の序列をつけるのなら、一番は大淀さんかなぁ、なんて。うふふっ」

「はっ、はぁぁぁっ⁉ ななな、何を言うんですかっ⁉ わ、私なんて、そんな、そんな……」

「ふふっ、例えばですよ、例えば。女房役とはこういう関係の事を言うんでしょうね」

「にょ、女房……って、もう! 間宮さんっ! さてはからかいに来ましたね⁉」

 

 先ほどまでの冷静さは何処へやら、一瞬にして真っ赤に染まった頬に手を当てて慌てふためいている大淀さんを見て、間宮さんは愉快そうに笑みを浮かべる。

 何とか冷静さを取り戻そうとしている大淀さんだったが、間宮さんの話を聞いていたのであろう、金剛お姉さまと長門さんに詰め寄られるのだった。

 

「一人だけご褒美を貰ってたから怪しいとは思っていましたが、一番は大淀だったデスカー⁉ さぁ、土俵に上がるデース!」

「お、おい、大淀! お前、私に活躍の場を与えないだけでは飽き足らず、私から提督の一番の座まで奪うつもりか⁉ ずるいぞ!」

「いや貴女達はまず人の話を聞いて下さいっ‼」

 








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