ラストダンスは終わらない   作:紳士イ級

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029.『歓迎会』【提督視点④】

 色欲童帝(ラストエンペラー)、シココ・フルティンコでぇーすっ! ひゃっはァーッ!

 パーッとイこうぜ! パァーッとなぁ! イけるイけるぅ! イクイクゥ!

 那珂ちゃんに負けじと歌いたい気分だ! 聴いて下さい! 『恋の0-7-21』‼

 

 い、いかん……今一瞬、俺の闇の人格が垣間見えた。

 俺は今一体何をしようと……危うく股間のスタンドマイクを両手で持って立ち上がるところだった。

 堪えるんだ……ここは堪えねば……!

 

 駆逐艦による物量作戦が始まってから、まだたったの十人程度しか消化していない。

 子供だと思っていた駆逐艦が今の俺にとっては鬼畜艦である。

 このままでは俺の理性が駆逐されてしまうではないか。

 俺はあと何杯の酒を呑めばいい……駆逐艦はあと何人いるんだ……!

 適当に応対したからもう自分でも一人ひとりに何を言ったかよく覚えていないし、誰と話したのかも定かでは無い。

 し、しかし上官としてせめて部下の顔と名前くらいは憶えねば……!

 

「提督さんっ! 手が止まってるっぽい!」

「う、うむ。昨日はよく頑張ったな、偉かったな。お酒の注ぎ方も上手だったな」

「えへへぇ……ぽいっ! ぽいっ!」

 

 幾多の駆逐艦達に途中で割り込まれた事に憤慨した様子の夕立は、さっきから俺の傍にくっついて離れようとしない。

 もっと撫でるっぽい、褒めるっぽい、と、俺に指図してくる有り様であった。

 その通りに褒めてやると本当に嬉しそうに笑ってくれるので、俺もなかなかストップをかける事ができない。

 夕立のその様子を、すでに俺への挨拶を終えた時雨と江風は、一歩引いた位置から呆れたような目で眺めている。

 

「まったく、夕立の姉貴はお子様だねェ。なぁ、時雨の姉貴」

「あ、あぁ、うん……そ、そうだね」

「むっ! 時雨だって本当は提督さんに甘えたがってるの、夕立にはわかるっぽい! 意地張らずにこっち来ればいいっぽい!」

「ぼ、僕はいいよ……」

 

 江風はともかく、夕立と時雨は見ているとアレだな……中学生というより、昔おばあちゃんの家で飼っていた犬を思い出すな。

 夕立はゴールデンレトリバーのダッチに似ている。

 なんかこう、フリスビーを投げたら全速力で取りに行って、戻ってきたらハイテンションで褒めて褒めてと全力ではしゃぐタイプのアホ犬だった。

 時雨はシベリアンハスキーのグレイに似ている。

 頭が良くて、あまりはしゃいだり甘えたりはしない落ち着いたタイプなのだが、ダッチがいなくなるとそそくさと寄ってきてそっと甘えてくる、そんなクールな犬だった。

 もう十年以上前に二匹とも亡くなってしまったが、どちらも可愛い奴だった……。

 

 い、いや、昔に思いを馳せて和んでいる場合では無い。

 今は目の前の駆逐艦達の相手に全力を注がねば。

 

 思い出せ。時雨達の次に挨拶したのは、そう、睦月型の……くそっ、見た目はカラフルだが名前が似すぎてよく違いがわからん!

 そうだ、皐月、そして水無月……えぇい、確かあと二人……! そ、そうだ、文月!

 世に文月のあらんことを……い、いや俺は何を……駄目だ、あと一人がわからん。

 いや、この限られたヒントから答えを導くのだ。真実はいつもひとつ! ()っちゃんの名に賭けて!

 

 小学生にしか見えない睦月型駆逐艦。当然俺のストライクゾーンの範囲外である。

 興味が無かった為、事前情報は少ないが、かろうじて俺が持つ知識によれば、睦月型駆逐艦には他に睦月や如月、弥生や疼き、いや卯月とやらがいるはず。

 つまり、睦月型駆逐艦は暦の名前からその名が取られているという事は明白だ。

 一月から順に考えるのならば、睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、葉月、長月、神無月、霜月、師走。

 そして俺の前に現れたのはその中の四人。確か黄色いのが皐月で、青いのが水無月、茶色いのが文月だ。

 

 そういえば俺が事前に読んでいた書物によれば、水無月は春日丸同様、数少ない男の艦娘だったな……ズボン履いてたし、雰囲気もボーイッシュだったから事実なのだろう。

 おまけに自分の事をボクと言って……いや、それは皐月だったか……駄目だ、記憶が混濁してきた。ひゃっはァーッ! 聴いて下さい! 『ぱん☆ぱか☆ぱーい♪』‼

 

 いや、正気に戻れ俺。世に文月のあらんことを……。

 俺の知っている睦月、如月、弥生、卯月の四人は、そのまま暦の順番だ。一月、二月、三月、四月。

 おそらくこれでひとまとめ、いわゆる駆逐隊なのであろう。何か法則性があるように思える。

 十二の暦で四人組を作れば、ちょうど三つの駆逐隊ができるではないか。

 睦月、如月、弥生、卯月。

 皐月、水無月、文月、葉月。

 長月、神無月、霜月、師走。

 そして俺の眼の前に現れた四人の内、三人は五月、六月、七月の名を冠している……。

 

 おそらくこの四人は暦の順番になっているはず。

 したがって緑色の奴の名前は八月――ゆえに葉月だ! 髪の毛の色も葉っぱみたいだったしな。そうとしか思えん。

 酒に酔った状態でこうも容易く真実を導くあたり、やはり俺は天才じゃったか! 証明終了。

 

 次にお酌をしてもらったのは、確かアヴァロンみたいな名前の……オヴォロン、いや、バビロン……ホビロンだっただろうか。

 いかん。記憶がおぼろげで全く思い出せん。度重なるお酌のせいで、俺の頭はボロボロだ!

 ともかくソイツと、口調が特徴的なメイド喫茶のメイドみたいなのと、潮だ。

 そう、俺の頭がボロボロなのはこの潮にも原因がある。

 震えながらお酌をしてくれた潮に普通に礼を言おうとしたら「ひゃあああああ!」と悲鳴を上げられ、「も、もう下がってもよろしいでしょうか……」と面と向かって言われた事により俺の心がブレイクした為、この三人は応対した時間が短いのである。

 どうやら潮は想定通り、俺への好感度が最低レベルであるようだ。凹む。

 

 足柄や潜水艦、金剛型など、俺に普通に接してくれる艦娘がいた事で油断した俺の脇腹に容赦なくボディブローを叩き込まれた気分であった。

 あまりのショックに頭が真っ白になり、せっかく頑張って記憶しようとしていた艦娘の名前など消えてしまったのである。

 い、いや、駆逐艦だし、最初からハーレム対象外だし、別にいいんだけど、嫌われるという事実はやはり凹んでしまう。

 残りの二人は好意的だったような気もするのだが……潮ショックでよく覚えていない。

 ポジティブに考えれば、これのおかげで俺は初心を思い出せたと言えなくも無い。

 俺への好感度は低くて当たり前なのだ。調子に乗ってはならん。気を引き締めねば。

 

「司令官! 僭越ながら朝潮型姉妹、挨拶に伺いました!」

「う、うむ。ありがとう」

 

 俺が気を引き締め直したところで、朝潮がそう声をかけてくる。

 夕立に少し離れるように言うと、しぶしぶ言う事を聞いて下がってくれた。

 

 俺の中では、駆逐艦は中学生タイプと小学生タイプに分類される。

 浦風や磯風、浜風に谷風、時雨に夕立、江風、そして先ほどの潮その他などは中学生タイプ。

 皐月に水無月、文月に葉月、暁、響、雷に電、そしてこの朝潮型は小学生タイプだ。

 夕雲や長波様と同じ制服を着ているのがいわゆる夕雲型なのだろうが、これはどちらも混在しているように見える。若干中学生寄りだろうか。

 浦風という例外を除き、どちらにせよストライクゾーンの範囲外なので俺にとってはどうでもいい話なのだが、それとは別の意味で、子供と言えど油断は出来ない。

 朝潮が引き連れてきた面子を見れば、不穏な気配を纏う者が数名いるように見えるのだ。

 

 警戒しながら、順番にお酌をしてもらう。

 俺からも、準備していたオレンジジュースを注いでやりながら、一言ずつねぎらってやった。

 オレンジジュースを注がれた朝潮は肩を震わせながら、「……司令官! 朝潮、この感謝の気持ちは……一生忘れる事はありませんっ!」などと言っていた。

 固いよ。小学生なのに固すぎるよ。今現在の俺のフルティンコじゃないんだから。もっと肩の力抜いて。

 

「えへへっ、司令官っ! 大潮も撫で撫でを所望しますっ!」

 

 う、うん。朝潮にも、帽子を置いて満面の笑みでそう言う大潮を見習ってほしい。大潮は年相応に元気いっぱいだ。実に良い事である。

 大潮の頭を撫でてやりながら昨日の頑張りを適当に褒めていると、隣にもう一人、帽子を脱いで俺をじっと見ている子がいる。

 こ、こんな子居ただろうか……座敷わらしじゃないよな……。

 名前も思い出せないが、とりあえず適当に褒めながら撫でてやった。

 

「……んちゃ」

 

 わからん……喜んでいるのかわからんが、まぁ、目を細めておとなしく撫でられてるし、敵意は感じないし……良しとしよう。

 続いてお酌をしに来た霞が凄い目で睨んできている……。

 この霞、遠征を出す時にも少し感じていた事だったのだが、改めて近くで見て感じる。

 俺の一番目の妹、千鶴(ちづる)ちゃんに似ている瑞鶴同様、コイツは俺の四番目の妹に似ているのだ。

 見た目もだが、その纏う雰囲気が瓜二つである。つまり瑞鶴と同じく、俺とは相性が悪い可能性が非常に高い。気をつけねば。

 

「……お、おちゅ、お疲れ、さま、です……!」

 

 ピクピクと目尻と口角が痙攣している笑顔といい、言い慣れていない様子の台詞といい、物凄く無理をしているのが伝わってくる……。

 後ろから朝潮が「いいわ、その調子よ霞!」などと声をかけている。もしかして朝潮は真面目なのだが頭が少々残念なのだろうか……。

 今にも我慢の限界が訪れそうな霞を見ていると申し訳なくて、俺はつい声をかけてしまったのだった。

 

「普段通りでいいと言ったろう。何か私に言いたい事があるのではないか」

 

 俺の言葉に、霞の堪忍袋の緒が切れる音がしたような気がした。

 霞は酒瓶を座敷に叩きつけるように置き、どこか活き活きとした表情で立ち上がり、俺を見下ろしながら叫んだのであった。

 

「えぇ、そうよ! よくも何の説明も無しに、あんな辛い航路に押し付けてくれたわね⁉ 私達がどれだけ不安だったかわかる⁉ 大淀さんがいなければどうなってたと思う⁉ 大淀さん達にも色々説明されたからもう我慢するけど、それでも言わせてもらうわ! 司令官は私達の事を書類か何かで知ってるのかも知らないけど、私達、まだ司令官の事、何も知らないじゃない! それで信頼しろって言われても、出来る訳ないじゃない! えぇ、わかってるわよ! 司令官にやれって言われた事に文句を言う私の方が、兵器としておかしいって事くらいね! でも、そう思うんだからしょうがないじゃない! 司令官に何か考えがあっても、考えてるだけじゃ伝わんないのよっ! 大淀さんは頭が良いから理解できるのかもしれないけれど、他の皆がそうとは限らないでしょっ! それとも、それも全部司令官の掌の上なのかしら⁉ あぁもう、私だってわかってるけど、理解してるつもりだけど、それでも文句言いたいのよっ! これが私なのよっ! 文句ある⁉ このクズッ!」

 

 早口に、一気にまくしたてた霞は、そこまで言ってようやく大きく息をついたのだった。

 しん、と歓迎会場に静寂が訪れた。

 艦娘達全員がこちらに注目しているのを肌で感じる。

 

 う、うむ……正直何を言いたかったのかはよくわからんが、情報を整理すると、俺が適当に遠征先を決めたのがいけなかったのだろうか。

 航路も辛かったと言っていたように思うし……妖精さんの言う通りにしていたが、もしかして結構キツい遠征だったのか。

 同じ遠征に向かったはずの川内達や朝潮達は何も言わなかったが……上官の命令だから気を遣ってくれたのかもしれん。

 最後にクズと言われて普段の家での扱いを懐かしく感じる辺りが悲しい。妹にもクズって呼ばれてまぁ~っす!

 

 それはそれとして、他人に言われるとやはり凹むが……うぅむ、この気性の激しさ、やはり俺の四番目の妹、澄香(すみか)ちゃんにそっくりだ。

 俺の育て方が間違っていたのか、澄香ちゃんも口が悪く、こうズバズバと物を言うのだ。

 ただし悪口や陰口を言うのではなく、悪い事は悪い、間違っている事は間違っていると、はっきりと言える性格に育ってくれたのだと思う。

 

 今は大丈夫なようだが、そのせいで学校のクラスメイトから避けられがちになった時期もあった。

 クラスメイトへの虐めを注意した事で、今度は自分が虐めの標的になったのだ。

 私は間違ってないのに、正しい事を言ってるのに、何で私が悪いのかと悩んでいた時期があった。

 俺が学校に相談に行くと、担任の先生が遠回しに虐められる方にも理由がある、などと言うものだから、思わず掴みかかってしまって危うく大問題になりそうだった事もある。

 この冷え切った歓迎会場の雰囲気はその時を思い出す。

 

 おそらく霞は正しい事を言ったのだ。俺がクズなのは俺自身が一番よくわかっている。だがそれは、上官である俺にとって本来耳の痛い指摘だ。

 俺が適当に遠征先を決めた事で霞達は相当苦労をしたようだし……。

 部下の集まる歓迎会場でTPOを弁えずにそれを大声でまくしたてたという事は霞に非がある事かもしれないが、口にした事は間違ってはいない。

 空気の読める艦娘がここで霞を咎めれば、おそらく正しい事を口にした霞にとっては納得がいかないはずだ。

 あの時期の澄香ちゃんのように塞ぎこんでしまう可能性もある。

 

 やはり瑞鶴と同じく、妹に似ている霞もまた俺の本性を嗅ぎ取っているような気がする。

 俺との相性は最悪だと言ってもいいかもしれん。ここで他の艦娘に抑え込んでもらうのも一つの手だろう。

 今回の霞の言動は、正しいが歓迎会の空気をぶち壊す、決して褒められたものではないが……かと言って俺がクズなせいで、正しい事を言った霞がかつての妹のように塞ぎこんでしまうのは心苦しい。

 な、何とかフォローしなければ!

 

 俺は改めて霞の顔を見上げ、大きく頷いて言ったのだった。

 

「いや、返す言葉も無い。霞の言う通りだ。私も気をつける事にしよう。私に至らぬ点があれば、今後も遠慮なく、我慢する事なく、気を遣わずに意見をぶつけてくれ」

「えっ……ふ、ふんっ! 当たり前でしょ⁉ 言われるまでもないわ! 司令官も私に言われる前に、せいぜい精進する事ね‼」

「うむ。善処しよう。それと……昨日は辛かっただろうが、本当によく頑張ってくれた。ありがとう」

 

 俺はそう言って、霞にオレンジジュースを注いでやった。

 まだ何か言い足り無さそうだったが、霞はそれを飲み込んだように目を瞑り、顔を背けて言ったのだった。

 

「ふん、当然の事をしたまでよ……ったく、何なのよもう……死ねばいいのに」

 

 お前、口悪すぎるよ……上官に対する言葉遣いじゃねぇよ……。

 俺は普段から言われ慣れてるからいいようなものの、他の人に言っちゃ駄目だからなマジで。慣れてる俺も普通に傷ついてるからな。

 まぁ、俺が言わずとも朝潮に何やら口うるさく叱られているようだし、それで許してやろう。

 これが大人の余裕である。またの名をやせ我慢と言います。凹む。

 

 俺が辺りを見回すと、俺達の様子に注目していた艦娘達も胸を撫で下ろしたように笑みを浮かべ、談笑を再開したのだった。

 よ、よし、丸く収められただろうか。

 朝雲と山雲と名乗った二人とも無難に挨拶を交わし、何とかうまくこの場を乗り切る事が出来そうだ。

 肝が冷えたせいか、少し酔いも醒めたような気がする。いいぞ、この調子だ。ひゃっはァーッ! イけるイけるゥ!

 なお股間は一向に収まらない。霞もまさか現在絶賛対空強化中のノーパン野郎にキメ顔で対応されていたと知ったらブチ切れていた事であろう。

 

「ほらっ、満潮も司令官にお酌して!」

「……」

 

 大潮に無理やり背中を押されている満潮と呼ばれた艦娘の姿を見て、俺は再び肝を冷やす事となった。

 コ、コイツ……俺の三番目の妹の美智子(みちこ)ちゃんに似てやがる……!

 見た目だけではなく、このどこか捻くれた、いじけたような雰囲気……瓜二つではないか。

 つまり瑞鶴が俺への疑いの目を止めず、霞が俺と出会って一日でクズだと看破したように、コイツも俺と相性が悪い可能性が高い。

 まさか二番目の妹、明乃(あけの)ちゃん似の奴まで……い、いや、一通り見まわしたがどうやらいないようだ。流石に全員集合とはいかないか。

 

 しかし、この満潮とやら、枯れた声や目元を見るに号泣した後ではないか。明らかにご機嫌斜め三十度だな……。

 上官である俺を前にしてこの態度、満潮の号泣の理由に俺が絡んでいる事は明白である。

 全く身に覚えが無いが、これは少し厄介な気がする。

 

 俺の三番目の妹、美智子ちゃんは結構寂しがり屋なのだが、友人関係だったりもしくは自分自身の事だったり、ちょっとした事で悩んだりして塞ぎこんでしまう。

 一人で悩む癖があり、寂しがり屋のくせに決して自分の悩みを他人に相談したりはしない。一人で悩んで、その間は塞ぎこむ。

 そんな時には、どんな声をかけても反発されてしまうのだ。

 美智子ちゃんに味方をしても駄目、かと言って反対意見を言っても駄目、正論も駄目、感情論も駄目、優しくしても駄目、何をしても反発する。

 結局、自分の中で問題が解決するまで、声をかけずにそっとしておくのが一番なのだ。

 

 この満潮もそんな雰囲気を醸し出している。

 霞と違って、余計な事は言わない方が良さそうだ。

 たとえ満潮の求めていた言葉を俺が言ったとしても、おそらく満潮はキレる。いちいち言わなくてもそんな事わかっている、と言ってキレる。

 少なくとも美智子ちゃんであればキレるはずだ。雰囲気の似ている満潮もその可能性が高い気がする。

 口は災いの元である。黙っておくに越した事は無いし、無理にお酌をさせる事も無い。

 俺は大潮と朝潮を手招きして、小声で耳打ちしたのだった。

 

「私は構わないから、満潮を連れて下がってもいいぞ」

「で、ですが、ご挨拶も無しに……」

「いいんだ。私からかけられる言葉も無い。今はそっとしておいてやってくれ」

 

 俺がそう言うと、朝潮は申し訳なさそうに目を伏せた。

 

「……了解しました。司令官のお心遣いに感謝します。その……昨日の遠征に自分だけ編成されなかった事を気にしてしまって」

 

 そ、そうだったのか……何も考えず練度の高い順に編成したが、艦娘同士の相性もあるのだろうか。

 自分だけ、という事は、朝潮、大潮、荒潮、霞の中には本来満潮がいたという事だろう。いわゆる駆逐隊というやつか。

 うぅむ、そういえば俺は艦娘の事はほとんどオータムクラウド先生の作品内の情報でしか知らない。

 那智の弱点が首筋だとか、足柄の弱点が耳だとか、そんな情報よりも提督として知らなければならない、もっと重要な事があるのでは……。

 いかんな、やはり満潮が塞ぎこんでしまったのは俺のせいか……。

 しかし下手に謝ったり励ましたりすると満潮がキレそうだし……練度が高ければ満潮が選ばれていたわけだし……やはりそっとしておこう。うん。

 

「霞といい、私の妹が重ね重ね本当に申し訳ありません……」

「いや、元はと言えば私のせいだからな……満潮には悪い事をした。だがこの問題を解決できるのは満潮自身だけなのだ。そして満潮ならばこれを糧にもっと強くなれると……私はそう信じているよ」

「……はいっ! 司令官の仰る通りです!」

 

 朝潮と大潮は俺に敬礼すると、他の姉妹達を連れて去っていった。

 うむ。難を逃れただけではなく、これで呑む量も一杯分減らす事が出来た。

 一石二鳥の策略に、我ながら惚れ惚れしてしまうな。

 

 俺が去っていく朝潮達の後ろ姿を眺めていると、近くから視線を感じる。

 見れば、荒潮がまだ残っているではないか。そう言えばまだ挨拶をしていなかった。

 

「うふふふふっ、あはははぁっ! やっとぉ、気付いてぇ、く・れ・た? ずっとずっとぉ、見つめて、いたのよぉ? あはははぁっ!」

 

 な、何だコイツ、危ねぇ……。眼が完全にイッてしまっているではないか。

 荒潮はじっと俺の眼を見て、その視線を逸らさない。

 妹達からなるべく相手の目を見ろと言われてはいたが、俺は荒潮の眼力の迫力に我慢ならずに、思わず目を逸らしてしまったのだった。

 

「あらぁ~? 何で目を逸らしてしまうのぉ? ねぇ、何でぇ? 何でぇ? うふふふっ、荒潮、傷ついちゃうわぁ」

 

 うわっ、寄ってきやがった……。

 蛇のように距離を詰めてきた荒潮は俺の身体に手をかけて、至近距離から俺の眼を射抜く。

 く、くそっ、小学生にガンをつけられて負けるなど……!

 俺は再び荒潮の目を見る。荒潮も決して逸らさない。我慢比べであったが、俺は僅か数秒で再度目を逸らしてしまったのであった。凹む。

 畜生、コイツ見た目小学生のくせに眼力強すぎる……!

 

「し、司令官っ! すみません! 荒潮は、その……この上なく純粋な子なんです! それが、少々目力に現れるというか……」

 

 俺達の様子に気が付いたのか、朝潮が慌てた様子で戻ってきた。うん。タスケテ。

 朝潮が俺から荒潮を引きはがそうと声をかけるも、荒潮は俺を見つめたまま、狂気の笑みと共に言うのだった。

 

「ねぇ、何でぇ、何で皆、荒潮から目を逸らすのぉ? うふふふっ、提督もぉ、荒潮の事を見てくれないのかしらぁ」

「あ、荒潮……司令官、すみません! お気になさらず!」

 

 い、いかん……荒潮コイツ、俺の事を嘲笑ってやがる……こんなに堂々と目の前で煽る奴がいるとは……!

 このままでは俺が小学生の眼力に負けて視線を逸らすチキン野郎だという噂が艦娘達の間で広がりかねん。

 しかし眼力勝負で勝ち目があるとは思えない……やむを得ん。

 人生負けてばかりのこの俺がただで負けると思うなよ。

 

「朝潮、荒潮はこの上なく純粋だと言ったな」

「は、はい……」

「そうか……道理で瞳が綺麗なわけだ」

 

 狂気の笑みを浮かべていた荒潮が、一瞬、きょとん、としたように見えた。

 朝潮も意味がわからない、というような表情をしている。

 俺は荒潮の頭にぽんと手を置きながらその目を再び見据え、逸らしてしまいたい衝動を我慢しながら、こう言葉を続けたのだった。

 

「済まない。私には荒潮の瞳が眩しすぎて、どうしても目を逸らしてしまうのだ。そのまま見つめていると、吸い込まれてしまいそうでな」

 

 それらしい適当な言葉で、荒潮を褒め称える。

 そう、俺が負けたのは俺が弱いせいではない。荒潮が強すぎるせいなのだ。

 お前が弱かったわけじゃない、俺が強すぎただけだ、という漫画によくありそうな台詞の逆バージョンである。

 俺はこの考え方により自身のメンタルを保ち、多くの負け戦を生き延びてきた実績があるのだ。このテクニックを負け惜しみと言います。

 PDCAサイクルとは程遠いこの考え方ゆえに、俺は全く成長しないのであった。凹む。

 ともかく、これにより俺が負けたのはチキン野郎だからではなく、荒潮が凄すぎるせいだという事に出来るはずだ。

 

「……ふふっ、うふふふふっ、あははっ、あはははっ! あははははぁっ!」

 

 うおっ、怖っ!

 荒潮の瞳孔が更に開き、いきなりテンションを上げて笑い出した為、俺も思わず目を逸らしてしまった。

 しかし俺が目を逸らす前に、荒潮は自ら朝潮に顔を向けていたのであった。

 

「ねぇ、朝潮姉さん、聞いたぁ? 面白いこと、言ってくれるのねぇ。うふふふふっ、私、相当しつこいけど、耐えられるのかしらぁ……荒潮からは逃げられないって言ってるのに……あははははぁっ!」

「あ、荒潮、落ち着いて」

 

 朝潮の制止にも耳を貸さないように、荒潮は「勝利の女神はここよ~、早く捕まえてぇ~」などと言いながら、踊るように店から出て行ってしまった。

 名前の通り、嵐のような奴だったな……ま、まぁ、今日のところはこの辺で勘弁しといてやるか。うん。

 そう言えばお酌もしなかったし、よくわからん奴だが……呑む量が減ったわけだからまぁいい。ちょっと怖いが、少なくとも瑞鶴や霞、満潮の怖さよりは遥かにマシだ。

 俺が呆気に取られて店の出入り口を眺めていると、何故か朝潮が再び俺に敬礼をしたのだった。

 

「……司令官っ! この朝潮、感服しました!」

「う、うむ。朝潮も真面目なのはいいが、もう少し肩の力を抜いてもいいぞ」

「はいっ! 駆逐艦としては、かなりいい仕上がりです! 御心配には及びません!」

「いや、そうじゃなくてな……ま、まぁともかく、朝潮型の長女として、妹達を上手くまとめてくれ。期待しているぞ」

「了解しました! 司令官との大切な約束……朝潮、いつまでもいつまでも守る覚悟です!」

「だ、だから肩の力をな……」

 

 大丈夫か朝潮型……ま、まぁいいか。まだ子供だしな。

 とにかくこれでようやく朝潮型の相手は完了した。名前を憶えられていないのもいるが、それはもう後で考えよう。

 朝潮も元の席に戻ったところで、ようやく一息ついて――。

 

「じゃーん! 司令官! 雷たち皆で、司令官にプレゼントを作ったのよ! 見て見て!」

「はわわ……響ちゃん、上手なのです」

「スパスィーバ。電のも可愛い……暁のそれは……何だい? 怪獣?」

「勲章よ! ぷんすか!」

 

 また小学生組がやって来やがった……!

 暁に響に雷に電という、暁はともかく名前からして賑やかな面子である。

 雷が自慢げに見せつけてきたものを見れば、どうやら折り紙で作られた勲章のようだった。

 暁のそれは……何だい? 怪獣?

 

「ふっふーん、大きな戦果を挙げた司令官に、私達が一生懸命作ったのよ! 今回は一つだけよ。どれがいい?」

 

 う、うむ……大きな戦果を挙げた覚えは無いのだが、年相応で可愛いじゃないか。

 しかしどれか一つとなると悩むな……ぶっちゃけどれでもいいだけに、迷う。

 暁のものだけは少し不格好だが、それ以外はまぁ、色使いや形に性格が出ているような気がしないでもないが似たようなものだ。

 一つ選ぶとなると、必然的に選ばれない者が出てくるわけで、そうなると残りの三人に悪いからな……。

 満面の笑みを浮かべている雷、クールで表情が読めないが結果に興味はありそうな響、遠慮がちに俺を見上げてくる電、自信がないのか、そわそわしている暁。

 誰を選んでも角が立つ……。

 

「全部は貰えないのか?」

「司令官ったら欲張りねぇ。そんなんじゃ駄目よぉ。今回は一つだけ! さ、早く決めて頂戴! あっ、でも司令官が悩んでる間に、暁は作り直してもいいのよ?」

「ば、馬鹿にしないでよね! 少し形は崩れちゃったけど、間宮さんと一緒に、一生懸命作ったんだから!」

「暁のを頂こうか」

 

 即決であった。

 間宮さんと一緒に作ったという事は、それはもはや間宮さんからのプレゼントと同じではないか。家宝にしよう。

 暁のものが選ばれると思っていなかったのか、四人とも目を丸くして俺を見上げた。

 

「えっ……ホ、ホントに暁のでいいの? 自分で言うのもだけど、あの、その……」

「フフフ、まぁレディファーストというからな」

「れでぃ! ま、まぁそうよね! 一人前のレディだもの!」

「フッ、そういう事だ。胸につけてくれるか」

「と、当然よ!」

 

 得意げな様子の暁に、安全ピンで折り紙製の勲章を胸に飾ってもらった。

 ハハハ、不器用な奴め。針が何度も俺に刺さっておるぞ。地味に痛いです。

 胸に飾られた勲章からは、心なしか間宮さんのぬくもりを感じるような気がする。ひゃっはァーッ! イけるイけるゥ!

 

「レディファーストとはそういう意味では無いが……司令官は優しいな。ハラショー」

「はわわ……暁ちゃん、凄く嬉しそうなのです! 電も嬉しいのです!」

「さっすが司令官! でも、次はこの雷の勲章を選んでもらうんだから! 皆、間宮さんに教えてもらいながら作ったのよ!」

 

 すっかりご満悦な俺と暁に、残りの三人がそう言った。

 仲良いなコイツら……これが原因で喧嘩とかになったらどうしようと思っていたが、一安心だ。

 しかし暁の勲章だけではなく、全てに間宮さんが関わっているとは……もはや国宝級ではないか。これは何としても回収せねばならんな。

 

「フフフ、皆の作ってくれた残りの勲章を貰う為にも、私もこれから一生懸命頑張らねばならんな」

 

 調子に乗った俺がそう言うと、雷たちはわぁっ、と嬉しそうな笑みを浮かべたのだった。

 そうそう、小学生はこうでなければ。何だったんださっきの朝潮型は。

 あれっ、響が何やら小さな酒瓶を取り出して……。

 

「さて、やりますか。司令官、お酌をさせてくれ。ウォッカを用意したんだ」

 

 さ、さらに酒の種類を増やそうというのかコイツは……!

 しかも度数がかなり高そうだ。

 いかん、これ以上俺の身体に入る酒の種類が増えると、ただでさえさっきからちょこちょことシココ・フルティンコの先っちょが顔を出しているというのに、それを抑えられるかどう……か……。

 

 あ、あれ……待って、い、痛い! 腹が痛い! 急に腹痛が……!

 ま、マズい……! 流石に一気に水分を取りすぎたか……!

 まさか俺の理性が限界を迎えるよりも先に、腹が限界を迎えるとは……!

 神は俺にどれだけ苦難を与えれば気が済むのだ……! これは一体何の罰だ……⁉

 お……俺また何かやっちゃいました……?

 か、神に祈りを捧げねば……世に文月のあらんことを……。

 

 股間の防空巡洋艦マラ様から久しぶりに緊急入電! このままじゃ漏れちまうぞ、クソが!

 くっ、大淀にビーチク任務を任せられた時は幸運の女神がついていてくれると思っていたのだが、今ではコーウンの女神のキスを感じちゃいます! 呼んでない! カエレ!

 このままでは二つの意味で名実ともにクソ提督となってしまう可能性大!

 最悪の場合、明日からはこう名乗らなくてはならなくなるかもしれない。

 ボンジュール、私の名前はコマンダン・テストならぬ、ウンコマン・ナンデスと。洒落にならん。

 

 いかん。冷や汗と脂汗が一気に噴き出てきた。この感覚は学生時代、授業中や試験中に限って腹が痛くなった時と同じだ。

 余談ではあるが俺はこの現象を疾風怒濤の便意(シュトゥルム・ウンコ・ドランク)と呼んでいる。

 何で休み時間になると痛みの波が引くんだろうな……いや、懐かしさを感じている場合ではない。

 現在ハザードレベル2.3……いや、2.4……! 落ち着いて深呼吸をすればまだ我慢できる……そんな気がする……!

 

 ア、アカン……今だけはこの国の平和とか艦娘ハーレムとかどうでもいい……!

 ただ一刻も早く、トイレに行きたい……‼

 

 目の前の座敷の狭い通路には、足の踏み場もないくらいに駆逐艦達が順番待ちをしている。

 服装的に夕雲型だが……一、二……九、十、じゅ、十一人いる⁉ ば、馬鹿な……朝潮型よりも多いな……。

 これでは合間を縫って出口まで歩いていくのも難しい。下手すればトイレに辿り着くまでに漏れてしまう可能性が……迷っている暇は無い!

 モーレイ海ならぬ、あと少しでモーレル海、強行突破作戦発動!

 まずは響達に事情を説明して、これ以上のお酌を遠慮させてもらって……。

 

「……司令官、どうした?」

「響の次はこの雷の出番よ! 見てなさい! 練習の成果を見せちゃうんだからね!」

「はわわ……あ、あの……司令官さん……電も精一杯頑張るのです」

「一人前のレディとして、お酌だってちゃんと出来るんだから! そわそわ、そわそわ……」

 

 い、言いにくい……いや、ちょっとトイレに行きたいというだけではないか。

 いくらヘタレの俺でもそれくらいは……し、しかしコイツらのキラキラ輝く目を見ていると、どうにも……!

 そ、それに那智がめっちゃ俺を見ている……!

 忘れかけていた。酒を遠慮したらその時点で俺の負けに……つ、つまり呑むのは必要だが、とりあえずトイレ休憩を挟んで……!

 よ、よし。とりあえずトイレに行かせてもらって、その後で改めてお酌して貰えば――。

 

「さぁ、提督お待たせ! 足柄特製、勝利のカツカレーよ! カツは揚げたてが一番美味しいの! 召し上がって!」

 

 あ、足柄お前……! タイミングを見てお持ちしますとは言っていたが、何てタイミングで持ってきてくれてんだ……!

 まさに第六駆逐隊、カレー大作戦、なのです! 言ってる場合か。

 こんな状態でカツカレーなど食ってみろ。俺のポンポン砲はその刺激で爆発四散し、ケツからカレーのような特別な瑞ウンが発艦される。

 神は俺を見捨てたもうたか……!

 

 手料理を作ってくれた足柄からすれば、一番美味しい時に食べて欲しいはずだ。

 俺にも身に覚えがある。一生懸命作った晩御飯を、妹達が少し遅れて部屋から出てきて食べた時のあの申し訳ないような、哀しいような、あの感じ。

 温め直せばいいというものでは無い。俺には妹達に、一番美味しい時に食べて欲しいという気持ちがあったのだ。

 

 見ただけでわかる。足柄がこのカツカレーに込めてくれた想いが、手心が。

 足柄は一番美味しく食べられる状態で、俺の前に持ってきてくれたはずなのだ。

 

 このタイミングで俺がトイレに立つと、足柄的には少し冷めてしまった、つまり味の落ちたカツカレーを提供してしまう事になる。

 一番美味しいタイミングで食べて欲しいという足柄の気持ちを、今度は俺が無碍にしてしまう事になるのだ。

 

 足柄はいい奴だから、俺が食べる前にトイレに行きたいと言えば、笑顔でそれを了承してくれるだろう。

 だが、内心残念に思う事は想像に難くない。

 俺が席を立ち、目の前で冷めていくカツカレーを見て、友好的な足柄の俺への好感度も冷めていきかねん。

 こ、これだけは何としても今食わねば……あんなにも待ち望んでいた手料理にここまで苦しめられるとは……!

 

 しかも俺は現在ノーパンだ。

 パンツという装甲が無い今、股間の高角砲の対空射撃も、後ろの噴式戦闘爆撃機によるジェット噴射も、直にズボンにダメージが届いてしまう。

 前も後ろも大惨事だ。いや、パンツがあろうとなかろうと大惨事は免れないのだが……。

 駆逐艦の相手をしている間も俺の股間はビンビンのまま萎えてくれなかったし、足柄のカレーは俺の腹に直撃する。

 まさに前門のマラ、肛門に効く飢えた狼ってやかましいわ!

 まさか翔鶴姉のパンツよりも俺のパンツが欲しいと心から願う日が来るなどとは想像もしていなかった。

 

 こんな時には大淀さん! 助けて下さい! って、いねェ!

 何で俺が助けてほしい時に限っていつもいないんだアイツは⁉

 さてはお手洗いか⁉ 俺も連れてって下さい‼ 

 だ、駄目だ……他に助けは来ないと考えた方がいいだろう。

 

 足柄も駆逐艦に負けないくらいに目を輝かせて、早く食べて感想を聞かせてほしい、と言わんばかりにニコニコと笑ってくれている。

 コイツは本当に、物凄く良い奴だ。足柄は何も悪く無い。悪いのはタイミングと俺の普段の行いだけだ。

 

 足柄のカツカレーはありがたく、今すぐに美味しく頂くしかない。

 こうやって迷っている間にも、カツカレーはどんどん冷めていってしまう。

 出来立てのカレーよりもトイレを優先したら、せっかく俺に友好的な足柄を失ってしまう……それだけは嫌だ……!

 だがこのカツカレーを食べたら最後、俺は駆逐艦に囲まれた檻の中で、股間を龍騎いや隆起させたまま漏らした男として社会的な死を迎える可能性が……い、嫌だ! 嫌だァッ‼

 間宮さんっ! 金剛っ! 香取姉っ! 千歳お姉っ! 翔鶴姉っ! 妙高さんっ! 筑摩ーッ、ちくまァーーッ‼

 出してくれっ! 出してくれよォッ‼

 俺は帰らなくちゃいけないんだ! 俺の世界(トイレ)に!

 嫌だ……嫌だァッ‼ ここから出してくれッ! 出してェッ‼

 

 ……何でこうなるんだよ……俺は……。

 

 俺は――。

 

 

 ――ハーレムを作りたかっただけなのに……。

 




お食事中に読んで頂いた方がおりましたら申し訳ありません。
提督視点が想定以上に長くなってしまったので分割します。
次回も提督視点になります。これで提督視点の歓迎会編は最後のはずです……多分。

どうでもいい裏設定
※提督兄妹の現在の年齢
 提督(26) 二日前まで無職 → 提督
 千鶴ちゃん(20) 公務員
 明乃ちゃん(17) 高校生
 美智子ちゃん(16) 高校生
 澄香ちゃん(15) 中学生

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