ラストダンスは終わらない   作:紳士イ級
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038.『浴場』【提督視点①】

 デカアァァァァァいッ! 説明不要!

 浴場に足を踏み入れ、雑談している間にも、佐藤さんの言葉が何も頭に入らなかった。

 つーか佐藤さんのナニの事しか頭に入らなかった。

 それは主砲というにはあまりにも大きすぎた。

 大きく分厚く重くそして大雑把すぎた。それは正に鉄塊だった。

 はぇ~、すっごい大きい……。

 

「それにしても、一晩であんなに書類を処理したんだね。無理はしていないかい?」

「イ、イエ……」

「それにしては元気が無いが……疲れが溜まっているんじゃないのかい」

 

 元気が無いのはアンタのせいである。

 どういう事だ。俺の想定を遥かに超えるあの巨大な主砲は……。

 俺の股間の主砲を12cm単装砲だとするならば、佐藤さんのそれは51cm単装砲……⁉

 仮に俺の娘艦(こかん)を『信頼(ヴェールヌイ)』と名付けるならば、佐藤さんのそれは『十月革命(オクチャブリスカヤ・レヴォリューツィヤ)』……⁉

 俺の中の常識にとって革命的すぎんぞ……⁉ 佐藤さんブルジョワすぎる……! 俺のはどう考えてもプロレタリアート……凹む。

 いや、むしろ俺の駆逐艦(destroyer)に対して佐藤さんのそれは完全生命体の方のデストロイア(destroyah)……⁉

 本物の怪獣ではないか。俺の小美人では万に一つも勝ち目が無ェ……!

 混乱する頭で佐藤さんとの雑談を何とか繋ぐ。

 

「イ、イエ、全然……大淀がしっかり下準備していてくれましたし、鳳翔さんが徹夜で手伝ってくれたので」

「そうか、鳳翔くんが……懐かしいな。艦娘や深海棲艦についてまだわからない事だらけだった頃、彼女は私の秘書艦を務めていてくれたんだよ」

「ソ、ソウナンデスネ……」

 

 佐藤さんの昔話にも興味はあったが、俺の頭はそれどころではなかった。

 何を食ったらそんなに育つのだ。それは俺のと同じ器官なのか。

 佐藤さんのそれはさながら重戦車。例えるなら鋼鉄のブルーウォーリア! ツエーイ!

 一方、俺のそれはまるで脱兎のごとき逃げ足にしか定評の無い子兎だ。早漏(ハエ)ーイ……。

 あれこそが日本人の平均だとでも言うのか……⁉

 馬鹿な……こんなレベルの一物は俺も見た覚えが無い――いや、どこかで見たような――。

 

 ――不意に、俺の脳裏にとある薄い本の内容がフラッシュバックした。

 オータムクラウド先生の作品では無いが、俺の自室の段ボール箱(パンドラボックス)の中に今も厳重に封印されているはずだ。

 前後編で構成されており、前編の内容は股間の小さい新米提督が、着任先のお姉さん系の艦娘達とイチャラブハーレムを形成するというものだった。

 メインで描かれているのも間宮さんや香取姉、妙高さん、翔鶴姉に千歳お姉などなど、俺好みの艦娘ばかりであった。

 俺の性癖にベストマッチの作品だと舞い上がり、主人公にすっかり感情移入した俺は、喜び勇んで後編を購入した。

 

 その後編で、主人公の新米提督は艦隊司令部の指示により急遽別の鎮守府へ異動となり――そしてその間に巨根のチャラい後任提督や上官のオッサンに次々と堕とされ、寝取られていく艦娘達の姿を見て、俺は殺虫剤を振りかけられた虫のごとく手足をバタバタさせながら床の上をのた打ち回るほど悶え苦しみ、号泣しながら死ぬほど抜いた。

 

 非人道的……あまりに悪魔的所業……予告無しでの寝取られ展開‼

 寝取られ耐性の無い俺にはキツすぎる内容だった。

 あまりのショックに数日間食欲が無くなり、夜は眠れなくなり、体重は数キロ落ち、抜きすぎて精気は無くなり、その時の俺の落ち込みっぷりは、妹達が四人揃って「悩みがあるなら聞くから」と心配してくれたくらいだ。

 現物を見せながら素直に相談したら四方向から同時にぶん殴られた。

 

『提督のじゃ届かなかったのぉ!』という台詞は今でもたまに夢に見てうなされる。

 妹達からも、最近寝ている俺がたまにうなされながら『届いて! もう少しだから!』などと叫ぶ事があると気味悪がられた事がある。

 股間にコンプレックスを持つ俺には、今でも深いトラウマになっていた。凹む。

 

 い、いや、落ち着こう。あんなものが日本人の平均であるはずがない。

 あれはもう日本人のナニじゃない。あれは別の何処かから来た(ナニカ)だ。

 佐藤さんの股間(ここ)は……デカすぎる……‼

 

 佐藤さんだけが規格外で、まだ日本人の多数が俺レベルである可能性もあると信じよう。

 そうとでも考えないと俺はもう劣等感で死んでしまいそうだ。

 

 ここは気持ちを切り替えねば。

 股間にコンプレックスを持つこの俺だ。職場旅行など何かの間違いで、職場の人達などと温泉に行かねばならなくなる場合もすでに想定済みだった。

 強制的に股間を見られ、比較され、恥をかく事になるであろう事も予測できていた。

 そんな時の為に、股間の小ささを誤魔化す為の能力もすでに日頃の修行で開発済みだ。

 俺の先見の明がこんなところで役に立つとは……。

 ここは金剛……いや、困った時の天龍ちゃん! 行くぜ!

 

 俺は昨日の天乳ちゃんの感触を脳内で具現化する事で、股間にオーラ的な何かを集中した。

 脳内具現化系、股間強化系、股間変化系、股間操作系、股間から放出系の五系統を同時かつ精密に発動する高等技術……!

 適度にエロい事を考えて股間を戦闘体勢に持っていきつつ制御する事で、少しだけ大きい状態に留める……!

 制御する限度はフル改装状態の半分(約1.5倍)までで十分……‼(つーかこれが限界)

 これにより俺の小口径主砲を中口径主砲へ装備改修!

 俺の残(ネン)能力の一つ『見栄っ張りな嘘(ボッキリテクスチャー)』……! 発動‼

 またの名を半勃ちと言います。

 

 一歩間違って戦闘体勢に入ってしまったらゲイと間違えられかねない諸刃の剣……!

 縮こまった状態を脱し、かつ戦闘体勢に入らない精密操作……お前ならば出来るはず……!

 信頼してるぞ、同志ヴェールヌイ……!

 俺の呼びかけも空しく、股間は一向にでっかくならず、縮こまったままであった。

 そんな……同志……⁉

 

 駄目だ。佐藤さんの股間から受けたショックですっかり塞ぎこんでいるようだ。

 マラショー()、敗北感を感じる……。

 改修に失敗しました……‼ 凹む。

 く、くそっ……み、見たけりゃ見せてやるよ(震え声)

 

 俺の気も知らず機嫌良さそうに朗らかな笑みを浮かべる佐藤さんの隣の洗い場に、諦めて俺も腰かけた。

 しかし、一向に俺を叱りつけるような気配が無いな……。

 説教を喰らうと思っていたのだが、もしかして俺の勘違いだったのだろうか。

 それならば何故さっきはあんなにも真剣な顔を……。

 そんな事を考えながら、備え付けのシャンプーと石鹸で頭と身体を洗う。

 ついでに髭も剃りたいが……。

 

『提督さん、あったよ。剃刀が』

 

 よし、でかした! ……じゃねーよ。何当たり前みたいに入ってきてんだ。

 脱衣所の隅に放り投げたグレムリン共がいつのまにか洗い場にいた。

 ご丁寧に身体にタオルを巻いているのが妙にムカつく。

 いつの間にか目の前に置かれていた剃刀を手に取って眺めていると、佐藤さんが声をかけてきた。

 

「あれっ、神堂くん。そこに剃刀なんて置いてなかったよね」

「え、えぇ。妖精さんが持ってきてくれたみたいで……」

「えぇっ⁉ き、君についてきているのかい?」

「は、はぁ……追い出しましょうか」

「い、いや。私には見えないから……」

 

 佐藤さんは身体を洗いながら、何やら考え込んでいるようだ。

 俺の方から話を切り出すのも変なので、俺も無言で身体を洗う。

 駄目だ、無心になろうと考えても、チラチラと佐藤さんのナニを見てしまう。アカン()これデカイ()

 やがて、頭と身体を洗い終え、佐藤さんは湯船に浸かりながら口を開いた。

 ついに個別面談のスタートである。

 たとえ叱られないとしても、油断はできん……気をつけねば。

 

「はは、しかしようやく気が抜けるよ。さっきまで油断が出来なかったものでね」

「ハ、ハイ……」

「報告書に目は通しているが……いやぁ、初日から大変だったね」

「ハイ」

「提督印が押してあったから当然だろうが、君も報告書には目を通したんだよね?」 

「エッ――アッハイ、と、当然です!」

 

 い、いかん。股間の事ばかり考えている場合では無かった。

 こんな事を聞くという事は、佐藤さんは俺が報告書に目を通していないのではと疑っている――⁉

 ず、図星ではないか。マズイ……!

 これでは早速仕事をしていないクズだという事がバレてしまう……!

 思わず反射的に嘘をついてしまったが、疑われないだろうか……?

 い、いや、最初の部分だけは目を通したしな。完全に嘘という訳でも無い……。

 

 佐藤さんはしばらく考え込んだ後に、言葉を続ける。

 

「あの夜戦に関する一連の出撃については、君が指揮したのかい?」

「アイヤー、ソ、ソノ、佐藤元帥に頂いた本のチュートリアルを参考に、自分なりに頑張ってみたのですが、その、金剛を建造できた以外は上手くいかず……最後には艦娘達だけで話し合って、出撃していきました……。夜戦の指揮をしたのは長門です……全ては私の力不足で……」

「ふむ、やはりか。大淀くんの報告書には、あたかも君が全ての指揮をしたかのような記載がされていたんだが……それはどういう事だい?」

 

 ……何?

 どういう事だ。最速で状況を整理しろ。

 股間の事はもう忘れて、今はこの状況を切り抜ける事だけを考えねば。

 大淀の報告書に俺はほとんど目を通していないが、佐藤さんの言によると、俺が全ての指揮をしたかのように記載をしていたと……。

 俺の想像とは違う。大淀にとって俺は都合のいい傀儡であり駒程度のものでしかないのだから、てっきり悪行の数々をチクられているものかと……。

 そういえば、佐藤さんも全然怒っているようには見えないし……いや、それは大淀がうまく説明を――。

 

 そ、そうか! そういう事か! 流石は大淀……! 俺の為、いや違う、これは横須賀鎮守府の為に……!

 キングコング(猿王)長門やホークアイ(鷹の目)加賀、マッドドッグ(狂犬)那智などは、佐藤さんに俺が頼りにならないクソ提督であるという事を伝えようとしていたのかもしれないが、もしや大淀はそれを止めようとしてくれていたのではないか。

 大淀にとっては、俺が提督である方が傀儡とするには都合が良い。そういう事ではなかろうか。

 いい奴の龍驤、対ドスケベサキュバスの護衛を申し出てくれた神通、忠誠を誓ってくれたらしい磯風がやはり数少ない俺の味方であり、大淀はそれらと共に俺を擁護してくれたのだとすれば、三対四の多数決で、何とかあの桃太郎のお供を邪悪に強化したような三匹を押さえつけられる。

 

 もしも大淀があまりに駄目すぎる俺を追い出したいのならば、金剛のビーチクはお任せくださいなどとは言わないだろうし、明石や夕張も協力しないだろう。

 むしろ俺が駄目すぎるが故に都合が良い事があるのかもしれん。

 大淀のする事に間違いは無いはずだ。俺はオータムクラウド先生から鎮守府の黒幕と称される大淀の頭脳を信じている。

 ならば、大淀が報告書に記載していたという、俺が全ての指揮をしたかのような虚偽の報告も、大淀が横須賀鎮守府をスムーズに運営する為に必要な事なのだろう。

 この俺が大淀の足を引っ張るわけにはいかん。下手をしたら都合が良い傀儡とはいえ切り捨てられる可能性も十分にある。

 よし、そうなれば大淀が黒幕として暗躍しているという部分は隠しつつ、俺の考えを語れば間違いは無いだろう。

 

「その、ここだけの話ですが。一応、私はまだ素人だという事はバラしていないんですが……多分察しのいい数人にはバレてると思うんです」

「ふむ。まぁ、仕方の無い事かもしれないな。今思えば君には無理を言ってしまったが……ん? 全員にはバレていないのかい?」

「おそらく……。少なくともすでに大淀や長門、それに瑞鶴などにはバレていると思うのですが……大淀は、混乱を避ける為に私のフォローをしてくれているのだと私は考えています」

「ほう、なるほど……そういう事か……。大淀くんからそれを申し出たわけでは無いんだね?」

「はい。私からバラすわけにもいきませんし、おそらく大淀も気を遣ってくれているのだと……」

「そうか……そういう形になったか……」

 

 佐藤さんはまた再び考え込んでしまった。

 艦娘達に素人だとバレてはいけないという任務に初日から失敗した俺であったが、そんな駄目な俺を責める様子は無い。

 まぁ、佐藤さんも自覚しているようだが、かなり無理のある任務だったからな……。

 かと言って自分から言い出す事もできないし、開き直る訳にもいかんから演技を続けるしかないのだが……。

 またしばらく沈黙が続いた後に、佐藤さんは小さく息を吐いて、言ったのだった。

 

「いや、大体わかった。君がここの提督になってくれて、本当に助かったよ。ありがとう」

「い、いえ。私は何も」

「謙遜する事は無い。あの夜の大戦果は勲章ものだよ。おそらく近いうちに、君の功績を称えて勲章が与えられるだろう」

「えぇっ⁉」

 

 く、勲章ものなの⁉ まだ鎮守府近海しか出撃してないよ⁉

 報告書もチラッとして見てないからよく覚えてないけど、駆逐イ級とかそれ以下の鬼とか姫とかしかいなかったよ⁉

 深海棲艦は艦種や強さごとにいろは順で名付けられているらしいが、俺は「いろはにほへと、ちりぬるを」までしか知らない……。

 そういえば確か報告書の中にワ級とかいうのがいたような……艦種までは覚えていないがそいつが結構強かったのだろうか……?

 少なくとも俺が知る限り最強であろうヲ級よりも強いのだろうし……。

 

 ともかく鎮守府近海で勲章ものの大戦果とか、い、意外と勲章のハードル低いな!

 それとも素人である俺への初回サービス的なものなのだろうか……。いや、そういうのがあるのかは知らんが……。

 案外ノリで適当に決めているのではないだろうか。「おっ、一晩中夜戦とは頑張ってるなぁ。これって勲章ですよ」みたいな感じで……。

 しかし俺はあの夜戦に全く関わって無いというか、むしろ俺の歓迎会よりも優先して長門が仕切ったというか……。

 

 そ、そうだ。落ち着いて考えてみろ。

 あの夜戦の戦果が勲章ものだったとして、その功績はどう考えても艦娘達、さらに強いて言えば仕切った長門にある。

 間違っても、無関係の俺が貰えるものでは無い。

 俺はあの日、誰も歓迎会に参加してくれなかったショックで号泣していただけではないか。

 いわば俺は今回の大戦果とは最も対極にある存在だ。

 だというのに、部下の功績を横取りして、無能な上司の俺が勲章なんて貰ってみろ。

 黒鋼(くろがね)のマッスルモンスター・ゴリラゴリラ、じゃなかったナガトナガトが黙ってはいない。ヤベーイ! ウッホホーイ!

 

 い、いかん! 今の俺にとってこれは罠だ!

 佐藤さんにそんなつもりは無いのだろうが、この勲章を受け取ってしまったら、長門達からの印象が更に悪くなる可能性大!

 元々勲章などに興味は無い。大事なのは艦娘達からの好感度だ。

 俺にとって大した価値の無い勲章などよりも、夢の艦娘ハーレムを優先せねば!

 ここは丁重に辞退させて頂いて――。

 

 ――瞬間。俺の脳内に神の一手が舞い降りた。

 用意された巧妙な罠を逆手に取り反撃に出る、まさに一転攻勢、起死回生の一手!

 これだ! 一石二鳥! ピンチはチャンス! このチャンスを生かして艦娘達からの好感度を稼ぐ!

 佐藤さんの用意してくれたこの絶好の好機、やはりありがたく頂こうではありませんか! オッスお願いしまーす!

 俺は佐藤さんに向けてキリッとした表情で口を開いた。

 

「いえ、佐藤元帥。身に余る光栄な事なのですが、辞退させて頂くというのは可能でしょうか」

「えぇっ⁉ ど、どうしてだい」

「あの戦いは、私は何もしておりません。頑張ったのは艦娘達です」

「君の言う事も理解はできるが……自分達の提督が勲章を貰うという事は、彼女達にとっても誇らしい事だと思うよ」

「そうかもしれませんが……今回は勲章を辞退する代わりに、私のお願いを聞いて頂けないかと」

「ほう。何だい?」

「彼女達の為に、何とか資材を融通して頂けないでしょうか」

 

 そう、先ほど利根から聞いていたが、現在この横須賀鎮守府は資材が枯渇の危機にある。

 その原因の一つは、俺が何も考えずにチュートリアルで金剛を建造した事にある事は言うまでも無い。

 燃費の悪い正規空母四人を含む空母六人での出撃や、それをフォローする為の千歳お姉達の無用な出撃も原因の一つであろう。

 俺が長門のカリスマに勝てなかった事による、その後の艦娘全員による夜通しの夜戦もあり、現在、大淀はこのクソ提督によって引き起こされた資材の危機(オイルショック)を何とかするべく、遠征作戦を指揮してくれている。ダンケ。

 

 資材が不足しては、艦娘達は戦えない。

 燃料が足りないと、海に出る事が出来ない。

 弾薬が足りないと、砲撃が出来ない。

 鋼材が足りないと、損傷を修復する事が出来ない。

 ボーキサイトが足りないと、艦載機を飛ばせない。

 資材は正に、艦娘達にとっての生命線。

 今頃、大淀や他の皆も備蓄の回復の為にてんてこ舞いであろう。

 

 ここで俺が颯爽と登場! 俺の唯一の人脈である佐藤さんというコネを使って資材を調達!

 備蓄量の回復と共に俺への信頼も回復!

 鎮守府の危機を救った俺への好感度も急上昇!

 資材が回復すれば、安心して出撃は勿論、装備開発や建造をする余裕も生まれるだろう。

 それにより艦娘達に心の余裕が出来る事で、運が良ければ我、夜戦に突入す! 夜の性感帯開発! ゆくゆくはハーレム建造も可能に――⁉

 

 海老で鯛を釣るならぬ、勲章で資材を得る!

 わらしべ長者のごとく、勲章が資材へ、資材が信頼へ、信頼がハーレムへと繋がるであろう。

 初日で失った信頼を回復できる完璧な作戦ではないか。自分の才能が怖い……。

 いや、そもそも資材の枯渇の原因はほとんど俺にあると思われるのだが……。

 自分で問題を起こし、自分で解決する事で賞賛を得る。

 これをマッチポンプと言います。まぁ多少はね? 備蓄の回復の為だしね?

 

 佐藤さんはしばし考えた後に、ゆっくりと口を開いた。

 

「……ふむ、なるほど。報告書を見た限り、確かに備蓄に余裕は無かったね。ならば迅速に、という事か」

「はい。出来得る限り、大至急で」

「わかった。君への勲章の辞退が認められるかはともかく、艦娘達の功績を称える事と、資材に関しては私が何とかする事を約束しよう」

「ほ、本当ですか⁉ ありがとうございます! 助かります!」

「何、他ならぬ君のお願いだからね。無下に断るわけにもいかないよ。それにしても、勲章よりも艦娘達への資材を優先するとは……」

「勲章なら、昨夜暁に貰いましたからね。何よりの宝物です」

 

 それは俺の本心であった。

 何せ、間宮さんの温もりが込められている折り紙だ。

 神堂家の家宝決定の代物である。

 俺にとっては本物の勲章よりも価値があると言っても過言では無い。

 たとえ見た目が勲章に見えなくとも、大事なのは見た目ではなく中身なのだ。

 俺の言葉に、佐藤さんも愉快そうに笑ったのだった。

 

「ハハハ、そうか。その調子で、皆と仲良くしてもらえると嬉しいよ。ところで、身体の具合はどうだい?」

「……身体、ですか?」

「あぁ、君の身の上を簡単に調査したのだが……この一年間は、心身を病んで自宅療養中だったのだろう?」

 

 身の上調査だと……そうか、どこの馬の骨かもわからん奴に艦娘達を任せるわけにもいかないからな。

 俺には無縁の世界だが、過激な思想を持つ輩だの、本人や身内が犯罪者だったりするとやはりマズいのだろう。

 ならば一応犯罪になるような悪い事だけはせず、清く正しく真面目に生きてきた俺ならば大丈夫だろう。

 かつて色欲童帝が降臨した際、身体を張って四人がかりで外への被害を食い止めてくれた妹達に感謝だ。

 もしも玄関を突破していたら、俺には間違いなく前科がついていただろう。

 しかし、やましい事があるわけでもないが、俺達の家庭環境とかはあまり人に話したい事でも無いのだが……千鶴ちゃん辺りが対応してくれたのかな。

 

 一年前、俺は出勤途中で突然意識を失って道端にぶっ倒れた。らしい。目撃者の話によれば。

 気が付いたら病院のベッドの上で、俺は何も覚えていなかったのだ。

 今思えば、あの時は俺も自分で信じられないくらい無気力になっていたからな……。

 俺が豆腐メンタルなのは知っていたが、まさか長年のストレスが原因だの、職場環境が何だの、鬱だの何だのと病名までつけられるとは思わなかった。

 

 妹達に泣きながら促されて、流れるように仕事を辞めて一時期は死んだように生きていたし、家事をする気にもなれず、働く気にもなれず、何をすればいいのかわからなくて酒に溺れる真似事をしてみた事もあった。

 いや、その結果シココ・フルティンコなる化け物が産声を上げたわけだが、それはともかく、オータムクラウド先生の作品に出会ってからは性器に精気を、もとい生気を取り戻せた。

 何をしても生きる気力を取り戻せなかった俺に艦娘の魅力を伝え、再び蘇らせてくれたのが、オータムクラウド先生という訳である。

 そのおかげで今ではすっかりオ〇ニー狂いの駄目人間になってしまったわけだが、死んだように生きていたあの頃に比べれば、艦娘ハーレムを夢見る今の方が確実に生きているという実感があるだけまだマシなのかもしれない。

 反抗期を迎えた妹達にめちゃくちゃ軽蔑された目で見られているのは凹むのだが。

 

 そんなわけで、確かに一時期はメンタルが原因で身体にも不調が出てしまったが、今はもう大丈夫だ。

 むしろその後寝取られ物を読んだダメージの方が確実にメンタルに深い傷を負わせたような気がする。

 今は身体も至って健康であるし、毎年夏風邪にはよく罹るものの、冬には風邪やインフルエンザに罹った経験は無いというのは小さな自慢だ。

 不調と言えば、強いていうなら股間のヴェールヌイが常時バルジを装備して放してくれない事くらいか。

 いや、それは病気ではないが、最悪の場合、手術を考えている事は事実だ。

 俺はチラッ、とお湯の中の佐藤さんの股間に目をやった。

 く、くそっ、佐藤さんのような状態が普通だというのか……⁉ 俺は戦闘体勢になって更に手動でようやくバルジをキャストオフ出来るというのに……!

 

「提督の仕事は激務だからね。せっかく調子が戻ってきていた君の体にまた負担が掛かったらと……」

「い、いえ……最悪の場合は手術を……」

「? 手術して治る病では無いだろう、君の病は」

「そ、そうですね……」

 

 い、いかん……佐藤さんの話と全く関係の無い悩みが口に出てしまった。凹む。

 佐藤さんはメンタル面を気にしているのに、何で俺はバルジの事を気にしているんだ。

 真面目な話をしているのだ。俺も真剣に、ふざけた事は考えないようにしなくては。

 

 しかし、他ならぬ君の、と言って快く引き受けてくれたが、何故佐藤さんはこんなにも俺に優しいのだろうか……。

 初日から任務にも失敗してるし、素人である事がバレたらこの国は滅びるかもしれないとまで言われていたのに。

 たとえ俺が素人だとしても、二つ返事で引き受けてしまった俺に責任はあるのだから、激怒されても仕方が無いと思うのだが……。

 ただ優しい性格であるだとか、人間が出来ているだとかで、ここまで寛大になれるものだろうか。

 俺の直感だが、無知な俺が知らないだけで、なんとなくこの裏でシリアスな展開が繰り広げられているような気がする……。

 俺はふと気になって、恐る恐る佐藤さんに問うたのだった。

 

「あの、佐藤元帥。何故、私にここまで良くして下さるのでしょうか」

 

 俺の言葉に、佐藤さんは少し考え込み、そして火照った顔を俺に向けた。

 瞬間、俺の背筋に寒気がよぎる。

 佐藤さんは優しく微笑みながら、がしりと俺の両肩を掴んだのだった。

 

「何を言っているんだ。最初に話した通り、君を支えるのが私の仕事だ。……だがそれとは別に……私はね、君の事が大好きなんだよ」

「エッ」

 

 …………ファッ⁉

 き、聞き間違いかな?

 今、二十六年間の人生での初告白をオッサンから頂いたような気がしたのだが。

 エッ、今、確かに「お前のことが好きだったんだよ」って……。

 ちょ、ちょっと待て。佐藤さん、もしや俺に優しかったのは――⁉

 

「君の身の上を見て、私は男として君に惚れてしまったんだ。若い内に両親を亡くし、唯一の男手ひとつで妹四人を支える為に彼女も作らずに……感動したよ。そんな感心な若者を支えてあげたいと思ったんだ。君さえよければ、プライベートでも付き合っていきたいくらいだ」

 

 アウトォォォオオオッ‼

 決定! 佐藤さん、まさかのゲイ!

 俺の失態を色々大目に見てくれていたのは、男として俺に惚れたから――!

 シリアス展開ならぬ尻アヌス展開――⁉

 駄目だ。何か色々褒めてくれていたが、「彼女も作らずに」という部分しか頭に残らなかった。

 そこ重要!? えっ、そんなん関係無いでしょ⁉

 いや二十六年間彼女作らなかったのは俺が女性に興味無いからじゃないよ⁉

 普通に興味あるけどモテなかっただけだよ⁉ 凹む。

 どこに食いついてんの⁉ 何だこのオッサン⁉ もしや俺にもゲイの素質があると――⁉

 い、いかん! そう言えば俺はさっきから佐藤さんの股間をチラチラと盗み見ていた……!

「お前さっきからチラチラ見てただろ」なんて言われても否定できねェ……!

 くそっ、「まずうちさぁ……大浴場あんだけど……入ってかない?」みたいな事を言い出した時に警戒すべきだった……!

 俺を風呂に誘った時に見せたあのぎらついた野獣の眼光……!

 言わばこの状況は昨日の歓迎会に引き続き漢ゲイ界という事か……!

 

 なんてこった……! まさか俺の正体を知る唯一の頼れる味方だと思っていた佐藤さんがゲイだったとは……!

 ハハッ、まさにゲイがミーを助けるってやかましいわ! 全然笑えねぇ!

 ちょ、ちょっと待て! ゲイという事は当然ながら男同士のプレイを想定しているわけで……!

 プ、プライベートでも付き合っていきたいとは、まさかお突き合いのお誘い――⁉

 やはり今もマリアナならぬ俺のシリアナ海域攻略作戦が着々と進行中――⁉

 最終的には佐藤さんのナニが潤動! 俺と二人でファンキーマッチ! 合体してアナルブロス(尻穴兄弟)に――⁉

 じょ、冗談じゃねェ! 佐藤さんの股間を見ただけで、俺の本能が即座に答えを出した。

 あんなモンぶち込まれたらサケル! サケルガ! オレノ・アナルガ!

 

 やべぇよ……やべぇよ……!

 俺の両肩を掴む腕はまるで万力のようだ。

 力ずくで振りほどける気がしない……!

 よく見たら佐藤さんめっちゃムキムキではないか。

 俺の細腕では勝てるはずも無い。

 今の俺は負ける気しかしねェ!

 漁師の網に捕らえられ蹂躙される姫級深海棲艦達の気持ちが少しだけ理解できたような気がした。

 む、無理やりはいけないと思います!

 し、しかし男同士、密室、全裸。何も起きないはずがなく――⁉

 

「いいかい。艦娘達への建前上、彼女達の前では元帥と提督として振舞ってもらう。しかし、君だけは提督の中でただ一人、事情が違う。君が望むなら私は君の手足となって、いつだって陰から全力で支えるつもりだ。遠慮しないでくれ」

「ア、アリガトウゴザイマス……アッ、サッキカラ携帯鳴ッテマスヨ」

「ふむ、本当だね。山田くんかな……済まない、ちょっと出てくるよ」

「ハイ。ゴユックリ」

 

 タイミングよく電話がなったのは神の恵みだろうか。

 佐藤さんが脱衣所に電話をしに出て行った隙に、俺は頭をフル回転させる。

 ふ、不覚……! こんな事ならば佐藤さんに資材とかお願いしなければよかった……!

 これ以上借りを作ったらマジでケツを差し出さねばならない可能性が……!

 すいません許して下さい! 何でもしますから! いや何でもはイカン……!

「ん? 今何でもするって言ったよね?」などと言われてしまったら終わりだ……! 言葉は選ばねば……!

 何で童貞を捨てる事だけじゃなく後ろの処女を守る事に悩まねばならんのか……!

 提督として着任してから、神は何でこう俺に試練を与え続けるのだ……⁉

 つーか恵みと試練を交互に与えられ、神の掌の上で滑稽に踊らされているような気がする……!

 

 同志大淀! 早く俺をタシュケント!

 駄目だ、肝心な時に限って俺の近くにいない事に定評のある大淀はこういう時は大概当てにならん。

 自分のケツは自分で守護(まも)らねば……!

 いや、ケツだけではなくドスケベサキュバス鹿島の夜襲に対して前門(股間)の、佐藤さんに対して後門(肛門)の守りを固める必要がある。

 わ、私が(前後)を守るんだから!

 

 とにかく佐藤さんが戻って来るまでの数分、いや多く見積もって数十秒で、何とかして尻を差し出さなくてもよい作戦を練らねば……!

 いつの間にか目覚めた俺の『下ネタを出す者(アンダー・トーカー)』の能力ならば数秒あればイケるはず……!

 この力はあらゆる問題に対して即座に下ネタが出るというものである。

 いや下ネタじゃなくて答えを出さねば……! 落ちケツ……いや落ち着け……!

 俺の天才的頭脳でこの絶望的な状況を乗り切る解ケツ策、いや解決策を導くのだ……!

 馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前……!

 

 俺はすぅぅ、と大きく息を吸った。

 さぁ、実験を始めようか……――よし! 閃いた! ゆけっ、金剛型戦艦三番艦、榛名! 君に決めた!

 お前に隠されたポテンシャル、俺でなきゃ見逃しちゃうね。

 

 Haruna → H aruna → anaru H → アナルH‼

 

 つまり口癖の「えぇ、榛名は大丈夫です!」は「えぇ、アナルHは大丈夫です!」となり、アナル適正がある可能性が――⁉

 いや駄目だ……ゲイの方々は男と交わる手段としてケツを選択しているだけであり、ケツで致す事が目的では無い……!

 手段と目的をはき違えては駄目だ……! つーかアナル適正って何だ。

 ケツはあくまでも手段であり、目的は男である事だから……該当者が俺しかいねェーーッ⁉

 

 い、いや! 幸いな事に横須賀鎮守府には数少ない男の艦娘である春日丸と水無月がいるではないか!

 これぞ神の御導き!

 歴史には全然詳しくないが戦国時代とかには美少年とのそういう風習もあったそうだし、二人を俺の代わりの生贄に差し出して――!

 し、しかし佐藤さんの51cm単装砲……あの軽空母と駆逐艦の小さな体で耐えられるだろうか……。

 一撃大破……いや、下手したら一撃で轟沈も……。

 流石に可哀そうだ……。俺が難を逃れる為とはいえ子供をそんな目に会わせるのは罪悪感が……。

 こ、この案はボツにしよう……うん。

 それに佐藤さんも男なら誰でもいいわけではなくて、普通にショタは対象外で適齢の俺にターゲットを定めているとしたら……やっぱり俺しかいねェーーッ⁉

 駄目だ、万策尽きた……チェックメイトだ!

 

 く、くそっ! こうなれば最終手段! ポジティブだ。ポジティブに考えよう。

 俺の十八番(おはこ)である発想の転換! つまりこの試練は逃れられるものではなく必要経費であると考えるのだ。

 錬金術の基本は「等価交換」! 何かを得ようとするならそれと同等の代価が必要なのである。

 今、俺の中で真理の扉ならぬ尻の扉が開かれた。

 先日艦娘達が戦い、勝利する為に大量の資材を消費したように、艦娘ハーレムの為にはケツを捧げる必要がある。

 夢を叶える為には少々の代償はつきものだ。

 痛み無くして得るもの無し!

 最終的に艦娘ハーレムの夢を叶える為ならば、佐藤さんにケツを差し出すのもホンモォ(┌(┌^o^)┐)……いや本望!

 よし、このポジティブシンキングで自分を鼓舞して乗り切るしかねェ!

 覚悟を決めろ! 神堂貞男ッ‼

 

 何でも出来る! 何でもなれる!

 輝く未来(艦娘ハーレム)を~……抱きしめて!

 フレッフレッ貞男! フレッフレッ私!

 いっくよー!

 

 諦めんなよ! 諦めんなよお前‼

 どうしてそこでやめるんだ、そこで!

 もう少し頑張ってみろよ!

 駄目駄目駄目! 諦めたら!

 艦娘の事思えよ、叶えたい夢(艦娘ハーレム)の事思ってみろって!

 あともうちょっとのところなんだから!

 言い訳してるんじゃないですか⁉

 出来ない事、無理だって、諦めてるんじゃないですか⁉

 駄目だ駄目だ! 諦めちゃ駄目だ!

 出来る、出来る! 絶対に出来るんだから!

 何を躊躇(ためら)ってる⁉ お前には守るもの(艦娘ハーレム)があるんじゃないのか⁉

 自分が叶えたい夢の為に戦うんじゃないのか⁉

 それとも全部嘘だったのか⁉

 Are you ready? ……って無理に決まってんだろ! ポジティブシンキングにも流石に限度があるわ!

 艦娘ハーレムの為とはいえ、想像してみろや!

 あの突き穿つ股間の槍(ゲイ・ボルグ)が無理やりぶち込まれたらどうなるか‼

 アナルが割れる! 佐藤さんに食われる! 後ろの処女が砕け散るゥ! オーラァア‼

 だからァ! お尻はやめてって言ってるのにィ! もうやだやだァ!

 これ以上私にどうしろと言うのですか!

 ぬわぁぁああん疲れたもぉぉおん‼

 

 俺が万策どころか一つの策すら編み出せずに無様にもがいていた所で、脱衣所の扉がガラガラと開いた。

 アーーッ⁉ ここで無情のタイムアップ!

 小便は済ませてない!

 神様(文月)にお祈り!

 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備はOK!

 

 白目を剥いて半笑いで震えていた俺であったが、意外にも佐藤さんは再び浴場に足を踏み出さなかった。

 それどころか、何やら急用が出来たから急いで帰らねばならないなどと言うではないか。

 よ、よっしゃラッキー! もしかして俺は宇宙一ラッキーな男なのではないだろうか。

 すでに身体を拭き、着替え始めている佐藤さんに置いていかれぬよう、俺も慌てて湯船から上がった。

 一刻も早くこの閉鎖空間(漢ゲイ界)から脱出し、佐藤さんを丁重にお見送りせねば。

 

 身体を拭き、パンツとズボンを履いたところで、着替え終えた佐藤さんがスッと近づいて、耳元に口を近づけてきた。

 一瞬力ずくで唇を奪われるのを覚悟したが、佐藤さんは声を潜めて、こう言ったのだった。

 

「神堂くん……急な事だが、状況が変わった。つい先ほど、新たな提督候補が現れたらしい」

「エッ」

「艦隊司令部の職員でね。私の印象では、君より年下だが、礼儀正しく、友人も多く、人望もある好青年だよ。背も高くて、男女問わず好かれる男だ。スポーツも万能、成績も優秀で、艦隊運用の知識も申し分ない」

 

 ……なるほど、佐藤さんが帰らねばならなくなった急用とはこれか。

 新たな提督候補……俺より若く、礼儀正しく、友人も多く、人望もあり、背も高くて、男女問わず好かれ、スポーツ万能、成績優秀……。

 素人の俺とは違って艦隊運用の知識もしっかり持っている……な、何一つ勝てねェ……。

 俺の完全な上位互換ではないか。

 いや、下手したら互換どころか陰と陽のごとく全く異なる存在なのではないか。

 いわゆる陰キャと陽キャ、リア充と非リアと呼ばれるような……。

 それはまさしく月とスッポン。さっきまで俺はスッポンポン。いや何の話だ。

 混乱している場合では無い。そ、そうなると、アレッ、俺がここにいる意味って……エッ。

 

「そ、それでは私はお役御免という事でしょうか……」

「いや。太平洋側の守りを強化すべく、新たに呉鎮守府を置く事が以前から検討されていてね。今までは艦娘の数と提督候補に余裕が無かった為、実現できなかったのだが……まだ確定ではないが、今後は横須賀、舞鶴、佐世保、大湊に呉を加えた五つの拠点に提督、艦娘達を再編成する事になるだろう。つまりまだ君には力を貸してもらう事になる」

 

 恐る恐る訊いてみたが、佐藤さんの答えに俺はほっと胸を撫で下ろした。

 よ、よっしゃラッキー……。まさかこのタイミングで拠点の数が増えるとは……。

 それならば俺はまだこの横須賀鎮守府に残る事ができるというわけだ。

 よかった。何しろ、ここには俺ランキングでもかなり上位を占めている艦娘達が奇跡的にも数多く揃っているのだ。

 ザ・大人のお姉さんな妙高さん、ラブリーマイパンツ翔鶴姉、二式爆乳装備の千歳お姉に、貴重な眼鏡のお姉さんな香取姉、そして建造で初めて出会え、何故か俺への好感度が高いと思われる金剛に、言わずもがな俺のマンマ、マミーヤ!

 それに、こんなクソ提督な俺をサポートしてくれる頼れる仲間も数少ないが存在する。

 横須賀鎮守府の黒幕こと大淀に裏工作艦明石、それに俺のアオハルこと夕張に、微妙なところだが鳳翔さん、そしてやっぱり俺のマンマ、マミーヤ!

 長門に加賀、那智に瑞鶴、霞に満潮など正直相性が悪そうな面子も存在するが、人数が多い以上それはしょうがない。

 

 短所を気にするのではなく長所を見出さねば。

 俺のハーレム計画に十分すぎるメンバーが揃っている事や、頼れる同志達の助けにより金剛のビーチク作戦も着々と進行中である事。

 そう考えてみれば、横須賀鎮守府に着任できて本当に良かった!

 皆と出会えた奇跡を俺が改めて噛み締めていると、佐藤さんが長々と言葉を続けた。

 

「それに加えて、舞鶴鎮守府の周辺海域はほとんど攻略が完了していてね。舞鶴の提督……露里(つゆさと)くんというんだが、彼も、今後は舞鶴鎮守府を数が多く練度が十分では無い駆逐艦達の演習兼、近海警備の為の拠点にしてはどうかと意見具申をしてきているんだ」

「は、はぁ」

「佐世保と大湊に挟まれている地の利もあり、今後は舞鶴方面への大規模な侵攻も無いと推測される為、彼の意見にも一理ある。そこで一つの提案なんだが、森盛(もりもり)くんをここに着任させ、代わりに君が舞鶴鎮守府への異動というのはどうだい? このまま横須賀鎮守府にいるよりは、君の心身への負担は各段に軽くなる。悪くない話だとは思うのだが……」

 

 ……ん? ど、どういう事だ?

 佐藤さんの言葉を整理すると、舞鶴鎮守府へ異動すれば俺の心身への負担は軽くなると……。

 それは何故かというと、周囲はほとんど攻略が完了しており、駆逐艦達を集めた演習を中心に運用する拠点になるからだと……。

 く、駆逐艦を中心に⁉

 つまり俺のストライクゾーン外のガキ共に囲まれて過ごす事に⁉

 お、おい! 佐藤さん! そんな殺生な話があるかよ!

 つーか当たり前のように出てきたけどモリモリくんって誰だよ⁉

 何がモリモリなの⁉ 股間⁉ 股間が⁉

 

 いや落ち着け。俺の天才的頭脳でこの流れから推測するに、モリモリくんとやらはおそらく新たな提督候補の事……!

 つまりモリモリくんは俺の上位互換、いや、完全に俺とは正反対の好青年……!

 ま、待てよ、ここまで正反対という事は、やはり股間も俺と違ってモリモリくん――⁉

 コミュ障の童貞である俺と正反対であるならば、むしろコミュ力のあるヤリチン野郎である可能性が――⁉

 二股とか三股とか当たり前のようにこなすクズ野郎かもしれん……!

 くそっ、何て奴だ……!

 

『ハーレムと同じなのでは』

『ブーメラン凄いですね』

 

 うるさいよ君達。少し黙ってなさい。

 俺の頭の上で正論を語るグレムリン共は無視して、俺は思考を再開する。

 

 そんな奴が万が一横須賀鎮守府に着任してみろ。

 ただでさえ俺というクソ提督の駄目さ加減を目の当たりにしてきた横須賀の艦娘達である。

 俺との比較により相対的かつ合法的かつ必然的にモリモリくんの好感度は急上昇!

 俺が舞鶴でガキの面倒を見ている隙に、間宮さんや金剛、香取姉や千歳お姉、翔鶴姉もあえなくソイツの毒牙に……ウォォォオオアアアアアーーーーッ‼‼

 俺のトラウマになった寝取られ物の展開そのまんまじゃねェかァア‼‼

 くそったれがァ! 俺には寝取られ耐性無いって言ってんだろ!

 何を追体験させようとしてくれてんだァア‼

 もう想像しただけで死にそうだ……!

 いかん、またトラウマが再発しかねん……!

 

『そもそも……付き合ってもいないし……』

『それはただの失恋なのでは』

 

 うるさいよ君達。少し黙ってなさい。

 俺の豆腐メンタルがぶっ壊れるのはどっちでも変わらないから。

 つーかハーレムが寝取られて俺のガラスのハートが崩壊するだけではなく、同志達が着々と進めていたビーチク作戦すらも、全てが水の泡……。

 これでは俺はただ古傷を抉りに着任したようなものではないか。

 痛み残して得るもの無し。

 期待させるだけさせて収穫ゼロというのはあまりにも残酷だ。

 あんまりだ。いくらなんでもあんまりな仕打ちではないか。

 こんなに苦しいのなら、着任しなければよかった。

 現実を知らずに、部屋のベッドの上で艦娘ハーレムを夢見てシコっていた方が幸せだった。

 そう、知らなければ……知らなければ幸せだったのだ。

 

 俺はもう知ってしまった。

 間宮さんや妙高さん、香取姉の魅力を。

 千歳お姉のデカさを。

 翔鶴姉の生パンツを。

 金剛のパイオツの柔らかさを。

 イクのパイオツの柔らかさを。

 天龍のパイオツの柔らかさを。

 筑摩の暖簾の中身を。

 俺はすでに、本物の艦娘達を知ってしまったのだ。

 それは禁断の果実だったのかもしれない。

 着任してしまった事で、俺は妄想という名の楽園から追放されてしまった。

 もはや俺は、後戻りはできない。

 今更諦めるなど、出来るはずも無い。

 

 今まで俺にとって艦娘ハーレムとは、現実から逃げていただけだった。

 そんな事は無理だとわかっていながら、幸せな妄想の世界に逃げていた。

 今は違う。

 今の俺にとって、艦娘ハーレムは現実だ。

 それを掴み取る為には、現実と戦わなければならない。

 俺は現実と戦う。そして勝ってみせる!

 

 グレムリン共に構わず、俺は佐藤さんに向き直り、頭を下げ、なりふり構わず叫んだのだった。

 

 

「佐藤元帥! どうか、私を横須賀鎮守府に残しては頂けないでしょうかっ!」

 

 ――それは俺の心の叫びであった。

 

「確かに私はまだまだ至らない事ばかりです! それだけでなく、様々な事情を鑑みても、この横須賀鎮守府を任せるには不安が多いとは思います!」

 

 ――素人の俺をここに置く理由など何ひとつ無いと理解できていた。

 

「ですがっ! この横須賀鎮守府に着任し、艦娘達の顔を見て! 改めて思いましたっ! 私の居場所はここにしかありませんっ!」

 

 だが、俺には横須賀鎮守府しかない。

 俺はロリコンでは無い。舞鶴だけは嫌だ。

 そんな環境で喜ぶ奴はどう考えても変態ではないか。

 

 失いかけて改めて気付いた。横須賀鎮守府の面子は俺にとってほとんど理想的なのだ。

 着任前から存在する俺ランキングでも上位陣が揃っており、俺をフォローしてくれる有能な大淀(黒幕)もいる。

 たとえ都合のいい傀儡であろうとも、俺の居場所はここにしか無いのだ。

 

「身体の調子も、もう大丈夫ですっ! 着任してからも何の症状も出ておりません! 少々の負担など、何の問題もありませんっ!」

 

 実際に、身体の調子はもう万全だ。

 久しぶりに徹夜もしたが、翌日もぐっすり眠らせてもらえたし、全く支障は無い。

 だが舞鶴に異動になり、恐れていた事が起きてしまったならば、おそらく俺は再び倒れる自信がある。

 間違いなく倒れる。そしてもう二度と起き上がれなくなるかもしれない。

 

 フィクションですら数キロ痩せたのだ。実体験したら俺は痩せすぎて消滅してしまう可能性がある。

 俺の心身への負担を考えてくれているのなら、どうかここに置いてくれませんか。

 

「私はこの横須賀鎮守府に骨を埋める覚悟ですっ! 私の死に場所はここですっ! どうか、どうか、私を! 横須賀鎮守府に残して下さいッ‼ オナシャス! オナシャス!」

 

 

 俺は必死に頭を下げた。

 何度も何度も、見苦しいほどに深く頭を下げ続けた。

 名案など浮かぶはずもなく、ただそれしか俺の頭では考えつかなかった。

 具体的な代案や根拠もメリットも何も説明できずに、ただお願いをするという無様な姿を晒していると我ながら理解はできていた。

 

 やがて、佐藤さんは小さく息をつき、口を開く。

 

「……そうか。いや、わかった。君の熱意はしかと受け取ったよ。だが、この件は私の一存で決められる事では無い。これに関しては、また連絡する事にするよ」

「はっ、はいっ! どうかよろしくお願いしますっ!」

 

 佐藤さんの声は優しかったが、同時に嫌な予感がした。

 俺の願いが通らないからこそ、慰めに優しくしてくれているのではないか、と何となく感じたのだった。

 もしくは俺に惚れているから優しいのかもしれないが、それは考えない事にした。

 ともかく、俺に出来る事はもはや何も無い。

 後はもう、祈る事しか出来ないだろう。

 

 しかし、こうなると、もう諦めた方がいいのだろうか……。

 提督たるもの常に最悪の場合を想定するべし。

 つまり俺に異動命令が下るのが確定だとして、それがどうしようも無いのであれば、せめてその前に一目だけでも金剛のビーチクを……。

 大淀達を待っている余裕が無いなら、俺が直接土下座でおっぱい見せて下さいと頼むか……。

 いや、せっかくだから童貞を捨てさせてもらえないだろうか……。

 もし金剛が本当に俺の事を好きなのだったら俺が異動するのも悲しんでくれそうだし、土下座で頼めば一夜限りの過ち的な感じで……。

 いや、最悪というなら佐藤さんにケツを差し出せばまだワンチャンあるか……?

 し、しかし肉を切らせて骨を断つにも限度がある……!

 諦めるべきか、最後のチャンスに賭けるべきか……⁉

 上半身裸のままである事も忘れて真剣に今後の事を考えていると、魔女っ子みたいな恰好のグレムリンが声をかけてきた。

 

『ねーねー、キュアチェリー』

 

 誰がキュアチェリーだ。いつ俺がプ〇キュアになったんだ。

 ネーミング的に絶対ピンクだろ。主役じゃねぇか。まさに脳内ピンクキュアってやかましいわ。

 エッチ(H)エロ(ERO)をレッツラ、まぜまぜ!

 弾けるイカの香り! 抜きたてフレッシュ!

 空元気のプ〇キュア、キュアチェリー! ブラァァァ! って何やらせんだ。

 

 グレムリンは矢印のついた棒を俺の眼の前で振った。

 グレムリンが指し示した先は、先ほど俺が奴らを放り投げた方向であった。

 そこにはマッサージチェアが備え付けられてあり、その後ろには何やら荷物が積まれているようだった。

 

『なんだか怪しい気配がするシコ』

 

 何その語尾? 何微妙に個性出そうとしてんの?

 もしかしてお前キュアチェリーのパートナー妖精の座狙ってんの?

 って言うかもうちょい良い語尾無かったの?

 

『チェリーのパートナーといったらこれしか無いと思って……』

『あー、ずるいよー』

『抜け駆け禁止だよー』

『私もチェリーのパートナーに立候補するシコ』

『ここは譲れないシコ』

『いやいや、サダオのパートナーは(わたシ)ココ』

 

 シココじゃねぇよ。何若干アレンジしてんだ。つーかさりげなく呼び捨てにすんな。

 

『すいませんシココさん』

 

 そっちじゃねぇよ! 貞男の方! って言うかいい加減提督って呼べや!

『わぁぁー』などと言いながら取っ組み合いを始めた四匹のグレムリンには構わず、俺はマッサージチェアの方へと向かった。

 一応妖精さんの言う事は聞いておいた方がよさそうだからな……。

 マッサージチェアの後ろに、何やら物が積まれているのか布が被せられている。

 何の気なしにその布をめくってみると――体を丸めている青葉とばっちり目が合い、そして――。

 

「ひゃっ……ひゃああああああっ⁉」

 

 顔を紅潮させた青葉の甲高い声が、脱衣所中に響き渡ったのだった。

 




大変お待たせいたしました。
私事ですが転居を伴う環境の変化があり、予定よりも投稿が遅れてしまいました。
そして予定よりも何故か提督視点が長くなってしまったので分割します。

諸事情により更に遅筆になると思われますが、次回の更新も気長にお待ち頂けますと幸いです。

※どうでもいい裏設定
 提督達の好みのタイプ
【露里提督】
・年下

【神堂提督】
・巨乳で包容力のあるお姉さん

【森盛事務員】
・美形で自分より背が高くて痩せ型で不器用で子供に好かれるような優しい人







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