ラストダンスは終わらない   作:紳士イ級

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043.『理解』【提督視点】

 俺が着替え終えて帽子を被り直すと、周りで踊っていたグレムリン達が『わぁぁー』などと言いながら俺の体を登ってきた。

 そのまま俺の帽子の中やら、ポケットの中やら懐の中に潜り込んでいく。

 えぇい、鬱陶しい。帽子をバサバサと振ってみたり、ポケットの中を見てみたが、すでにその姿は無い。

 くそっ、隠れるのが上手い奴らだ……。

 そんな事をしていると、まだ外にいたグレムリンが二匹、俺に声をかけてきた。

 

『ねーねー、キュアチェリー』

 

 だから誰がキュアチェリーだ。

 特別()規格外(EX)をレッツラ、まぜまぜ!

 海風に揺れる一輪の栗の花!

 悪知恵のプ〇キュア、キュアチェリー! ブラァァア! ってだから何やらせんだ。

 

 見ればグレムリンは自身の体よりも何倍もある機械を持って浮かんでいる。

 何だこれは……。

 

『無線機と集音器です』

『青葉さんの忘れ物のようです』

 

 あぁ、青葉の取材道具か。俺が見苦しいものを見せつけてしまったせいで、両手で顔を覆いながら走り去ってしまったからな。

 持って帰るのを忘れたのだろう。

 おそらく俺達の会話を聞きとる為の集音器とやらに……無線機だと?

 

 どういう事だ。青葉が言っていたように独断で侵入したのなら、こんな荷物はいらないはずだ。

 無線機は一つでは意味が無い。つまりリアルタイムで聞いていた相手がいたはず……。

 つまり奴はただの取材だけでなく実況配信していたという事か……⁉

「【R18】男湯侵入したったwww【ホモ】」みたいな感じで……!

 

 あンのクソパパラッチがァ~……! あの場で更に俺に嘘を重ねていたという事か……ッ!

 これでは俺の慧眼がまるで節穴のようではないか。

 俺が青葉を庇った時、奴は心の中で「敵はまだ気付いてないよ」とほくそ笑んでいたのだろう。

 誰が敵だ。くそっ、せっかく俺が寛大にも許してやったというのに……!

 

 い、いや落ち着け。短絡的に判断するな。

 人の悪い面では無く、良い面を見るのだ。

 青葉は俺と佐藤さんに対してさらに嘘をついたが、つまりそれは共犯者の存在を隠し、自分一人で罪を被ったという事……。

 そして青葉が俺の味方になった今、もしも艦娘達に盗撮がバレたとしても、青葉は同じように決して俺の名前は出さないだろう。

 

 な、なんだ、そう考えれば良い奴じゃないか、うん。

 昨日の敵は今日の友。

 俺の為に働く際にも同じ姿勢でお願いしたい。

 

 グレムリンからとりあえず無線機と集音器を預かる。

 これは後で青葉に返しておこう。

 

『それでは私達も戻りますねー』

『失礼します』

 

 グレムリンはそう言って、俺の懐の中にもぞもぞと入りこんできた。

 いやどこに帰ってんだ! さっさと持ち場にカエレ! 仕事しろ仕事!

 くそっ、馬鹿にしやがって……。

 

 相手にするのも疲れるので、俺は構わず脱衣所の扉を開け、そしてぴたりと足を止めた。

 何やら妙な雰囲気を感じて、入渠施設の陰からそっと顔を覗かせてみると、少し離れたところで佐藤さんと艦娘達が何やら話していたのだった。

 

 な、何だ……⁉ 遠くてよくわからんが、艦娘達が全員揃っている……⁉

 嫌な予感がする。な、何を話しているのだろうか……。

 しかし俺が姿を見せると、おそらくその話題は切り上げられてしまうだろう。

 そう、陰口のように……。

 くっ、何とかして聞く事が出来れば……。

 

 そんな俺の肩に、グレムリンがひょこっと姿を現した。

 

『サダオ、サダオ、いいものがあるじゃないですか』

 

 もう完全にサダオ呼ばわりかお前ら。

 俺は心が広いからもう諦めるが、一体何なんだ。

 

『この集音器を使えば、聞き取れると思うよー』

 

 俺が右手に持っていた集音器に、ぴょこぴょことグレムリン達が集まってくる。

 おぉっ、なるほど。しかし俺には使い方がわからん。

 

『世話が焼けるなー』

『機械の事なら私達にお任せ下さい』

『ここを……こうして……』

『聞きたい方向にこう、向けて、ここを耳に当ててみてください』

 

 ほう、グレムリンもたまには役に立つんだな……。

 俺は言われた通りに、集音器を耳に当ててみた。

 

≪彼の……神堂提督の舞鶴鎮守府への異動案についても、聞いていたのかい?≫

≪……はい≫

≪君達はどう思う≫

≪……先ほど皆とも話したのですが、致し方ない事かと思います……≫

≪そうか……理解が早くて助かるよ。彼に横須賀鎮守府の運営は荷が重い……≫

 

 なるほど、鮮明に聞き取れるな。鮮明に聞き取れすぎて凹む。

 そうか、青葉の奴が実況配信していたという事は、俺と佐藤さんの濃厚な展開だけではなく、その件についても聞かれていたという事か。

 

 ん? つーか佐藤さん、普通に艦娘達にそれを話しているという事は……青葉が嘘をついている事も気付いていたという事か……⁉

 ば、馬鹿みてぇじゃん、俺……!

 おそらく青葉を信じていた俺があまりに哀れ過ぎて、あの場では俺の顔を立ててくれたのだろう。

 青葉ワレェ! お前のせいで赤っ恥かいたじゃねえか!

 い、いや、青葉は俺の味方。青葉は俺の強い味方……。堪えねば。

 

 し、しかし大淀……舞鶴鎮守府への俺の左遷は致し方ない事だと……。

 すでにあの場にいる皆とも話したと……そ、そんな……もう駄目だァ……発注! おしまいだァ……!

 確かに佐藤さんの言う通り、横須賀鎮守府の運営は荷が重いのかもしれんが、それを承知で着任させてくれていたのでは……!

 くそっ、素人に任せるには舞鶴鎮守府の方が色々安心らしいというのは理解できるが……そんな殺生な……!

 

 凹んでいる俺の耳に、艦娘達の声が次々に届く。

 

≪せやな……あの司令官は救いようの無いアホや……ザザッ……無理して……ザザザッ……壊されるのはまっぴら御免やで≫

≪そうですね。提督の事を考えるのならば、佐藤元帥が仰った通り、ここよりも舞鶴鎮守府がちょうどいいでしょう≫

≪えぇ、赤城さんの言う通りね。これ以上提督に……ザザッ……せる訳にはいかないわ≫

≪フン……奴自身はやる気のようだがな。艦隊司令部のみならず、この国自体が、ここで奴が指揮を執る事に不安を覚えているというのならば、致し方ない事だろう≫

≪この磯風が共にある。心配はいらない……と言いたいところだがな。フッ、どうやら司令は、この磯風の手にさえ負えないようだ≫

 

 くっ、雑音が入って鮮明に聞き取れなかった部分があるが、俺の評価が散々である事だけは理解できる。凹む。

 俺の数少ない味方、いい奴の龍驤にまで救いようの無いアホとまで言われるとは……い、いや、しょうがない事だな。事実だ。

 素人がここで無理して指揮を執り、鎮守府を壊されるなどまっぴら御免だろう。

 

 赤城の言う通り、俺のレベルでは舞鶴鎮守府がちょうどいいのだろう。

 これ以上俺に指揮を執らせるわけにはいかないという加賀の言葉が胸に刺さる。

 佐藤さんにより俺は横須賀鎮守府に着任したが、やはり素人が指揮を執るという事には、艦隊司令部だけでなくこの国自体が不安を覚えたとしてもおかしくはない。

 

 しかし磯風は何故か俺の味方っぽいんだよな……。

 俺が色々と手に負えないのは事実だが、そんな俺を支えようとしてくれているというか……昨日も忠誠を誓ってくれたし……馬鹿ではあるが悪い奴では無いようだ。

 まぁそんな磯風も多数決で致し方ないと諦めたといったところだろうか……凹む。

 

≪い、磯風くん。ところで、君は昨夜、神堂提督に秋刀魚を焼いたと聞いたが……≫

≪む? あぁ、焼いたさ。忠誠を込めてな。それがどうしたというのだ≫

≪い、いや、失礼かもしれないが、その……意外だと思ってね。君が手料理を作ったのもだが、彼に忠誠を誓うなどと言ったという事が……≫

≪フッ、何を言っている。あの司令のような人物こそ、この磯風が忠義を尽くすに相応(ふさわ)しい……至極当然の事ではないか≫

 

 磯風アイツ……本当にいい奴だな!

 あの焦げた秋刀魚の炭はともかくとして、やはり俺に忠誠を誓ってくれたのに嘘は無かったのか……!

 佐藤さんが驚いていたように、磯風がここまでするというのはとても珍しい事のようだ。

 金剛や足柄など何故か俺に好意的でいてくれる艦娘もいるにはいるが、自分から忠誠とまで言い切ったのは磯風くらいだ。

 一応浜風も、私達も同じですとは言ってくれたが、あれはあの場の空気を読んでくれたのかもしれない。

 それはともかく、俺のどこに忠義を尽くすに相応しい要素があったのかは理解不能だが……。

 

『駄目なところじゃないですかね』

『私達と同じですねー』

『あー』

『あぁぁー』

『わかるわかる』

 

 うるせぇよ! 何勝手な事言ってんだ!

 俺の頭の上で駄弁(だべ)っているグレムリン共には構わず、俺は壁に隠れて艦娘達の様子を窺う。

 しかし磯風はもしやグレムリンの言う通り、俗に言うダメンズ好きなのか……?

 着任した初日は俺の事もよくわからなかったが、むしろ出撃を通して俺があまりにも駄目である事を察してデレたとか……。

 つまり急に態度が軟化したのは千歳お姉達みたいに龍驤の説得によるものではなく、俺が駄目すぎたから……。

 そ、それはいかん。今の俺にはありがたいが、アイツの将来が心配だ……。

 駄目な男に騙されなければ良いのだが……。

 

『現在進行形ですよね』

『罪な男ですね』

 

 やかましいわ! 冤罪だそれは!

 くそっ、しかしもしもそれが事実だとすれば、俺の本性を知ってなお鎮守府の健全な運営の為に仕方なく味方してくれていると思われる大淀や明石などとは違い、磯風は純粋に俺の味方をしてくれているのでは……。

 それは俺が駄目すぎるからというのが情けなさすぎるが……。

 

 見た目中学生系の駆逐艦、包容力皆無、乳以外はストライクゾーン外の磯風が、まさか俺の片腕に近い存在になるとは……。

 頭は残念そうだが、純粋に忠誠を誓ってくれている分、いざという時にはある意味で黒幕大淀さんに匹敵するレベルで頼りになるかもしれんな……。

 い、いや、このままだと普通に離れ離れになるんだけど……凹む。

 

≪佐藤元帥。磯風だけ……ザザッ……提督が着任して僅か三日だが、横須賀鎮守府の全員が……ザザッザッ……と言っても過言では無い。ゆえに、舞鶴鎮守府への異動は、我々にとって……ザザザッ……なのだ……!≫

≪そ、そうか……いや、しかし、受け入れてくれてありがとう。君達の気持ちもわかるが、彼の為、引いてはこの国の混乱を避ける為なのだ≫

≪あぁ、提督のような……ザッ……が……ザザザッ……良かったと……心からそう思うよ≫

 

 ノイズが酷く聞き取れなかった部分が多かったが、脳内補完された長門の言葉に俺は再び深く傷ついた。

 ウ、ウン、ソウネ……磯風だけ特殊なのよね……。

 横須賀鎮守府の全員が俺に不信感を抱いていたとしても過言ではないよな……。

 エッ、全員……⁉

 こ、金剛とか足柄とか、それ以外にも川内型とか、駆逐艦とか、潜水艦とか、一応俺に友好的でいてくれる艦娘もいたような気が……お、俺の気のせいデスカ……?

 

 い、いや、友好的なのはともかく、今は俺の上位互換モリモリ君が現れた状況だ。

 それなら話は別だよな……。

 ド素人の俺なんかよりも、ちゃんとした知識を持つ方がいいに決まってる。

 俺の舞鶴鎮守府への異動は、もはや艦娘達にとっての悲願……俺のようなド素人が左遷されて良かったと、心からそう思うよな……凹む。

 

 そんな俺の耳に飛び込んできたのは、思いもよらぬ青葉の声であった。

 

≪あっ、青葉もッ! 青葉も提督に着いて行ってはいけないでしょうかッ⁉≫

≪なっ――あ、青葉っ、何を言っているの⁉≫

≪提督は拳骨一つで今回の愚行の罪を水に流して下さり、更に青葉にこう仰りました。お前は、私の艦隊に必要な存在なのだと……! 唯一無二の個性を活かしてほしいのだと……! そしてこう諭して下さりました。握れば拳、開けば掌……力の扱い方を誤らぬ、強い心を持てと! 青葉は、青葉は、提督の下でっ、力の扱い方を学んで行きたいのですっ!≫

 

 あ、青葉お前……やはり俺の同志(フレンズ)に! ハラショー!

 俺の真意は理解できていたようだ。クソパパラッチとか言ってすいませんでした。

 そうそう、握れば拳、開けば掌。父さんの教えはすでに俺よりも理解できているようではないか。

 そんなに俺に着いてきたいとは可愛い奴め。

 しかし一緒に舞鶴に来ても、そこが駆逐艦とかしかいないのならば青葉の個性も無意味なのでは……。

 どうせなら横須賀鎮守府に残って、お宝写真を手紙とかで送ってくれた方が助かるような気が……。

 

≪……彼が、そう言ったのかい?≫

≪はっ!≫

≪そうか……うん、そうかぁ……彼が、そんな事を…………うん、そうだな。舞鶴には君の相方の衣笠くんもいる事だし……青葉くん一人くらいなら、再編成時に舞鶴に一緒に異動しても支障は無いかもしれない。そうなると、代わりに舞鶴から高雄くんと愛宕くん辺りを横須賀に――≫

≪えぇぇっ⁉ ちょ、ちょっと待って下さいっ! 佐藤元帥っ! い、いいんですか⁉≫

≪うぅむ、しかし、彼も青葉くんもそう望んでいるのであれば……≫

 

 佐藤さんと大淀が何やら揉めていた。

 っていうかちょっと佐藤さん! 青葉の代わりに高雄と愛宕を⁉ 聞き捨てならんぞ‼

 横須賀鎮守府版になる前の俺の旧ランキングで高雄と愛宕がどの位置にいたのか知っての所業か⁉

 

【参考:旧神堂ランキング】

 一位:給糧艦・間宮

 二位:重巡洋艦・高雄 ←

 三位:練習巡洋艦・香取

 四位:水上機母艦・千歳

 五位:正規空母・翔鶴

 六位:重巡洋艦・妙高

 七位:戦艦・扶桑

 八位:戦艦・陸奥

 九位:重巡洋艦・愛宕 ←

 十位:重巡洋艦・筑摩

 

 二人ともランカーですよ! 同じ重巡でも完全にストライクゾーン外の青葉一人とは釣り合わんのですよ‼

 等価交換の原則を無視してますよ!

 オータムクラウド先生の『何かが私の中で開放されたような……素敵な気持ち……』と『タンクが大きいと肩が凝るのよねぇ』は名作ですよ! いつもお世話になっております。

 特に高雄は二位ですよ! 今でも金剛と張り合うレベルの猛者ですよ!

 もしも俺の舞鶴行きが避けられん事ならば、クソパパラッチ青葉はいらん!

 青葉には横須賀に残ってもらい、舞鶴の俺にお宝写真供給ウィークリー任務常時発動!

 その代わり高雄と愛宕は残して下さいお願いします! 何でもしますから! いや何でもはアカン……!

 

 青葉の言葉が意外だったのか、何やら艦娘達がざわめき始めた。

 そりゃあ、こんなクソ提督に自ら着いて行きたいなんて酔狂な奴はいるはずも無いからな……。

 青葉には先ほど俺に庇われたという負い目と、父さんの教えに感銘を受けたというのがあるのだろうが……。

 艦娘達の様子を窺っていると、腕組みをした磯風が一歩前に足を踏み出し、言ったのだった。

 

≪佐藤元帥、一人だけ抜け駆けは良くないだろう。ならばこの磯風も連れて行ってもらおうか≫

≪おどりゃ磯風ェ! わりゃえぇ加減にせんとシゴウしゃげたるぞ!≫

≪どの口が抜け駆けは良くないなどと言うのですか!≫

≪かぁ~っ! べらんめぇ! 流石にこの谷風さんの堪忍袋の緒も切れちまったぜ! 浦風、浜風! とっちめちまえ!≫

≪こ、こら! やめろ谷風! 青葉が行くなら司令の片腕たるこの磯風も共に行かねば……!≫

≪だからいつ磯風が提督の片腕になったんじゃ!≫

 

 アッ、浦風達三人にシメられた。関節技を決められている。

 おぉっ、女体が絡み合ってくんずほぐれつ。俺も混ざりたい。

 あれはまさに入渠ならぬ乳巨……谷風、そこを代わってくれまいか。

 馬鹿な事を考えている場合では無い。

 

 まさか磯風までもが俺に着いて行きたいなどと言うとは……どうやらアイツの忠誠は本物のようだ。

 アイツ本当にいい奴だな……頭は残念だし、下手したらただのダメンズ好きっぽいけど……。

 普通に感激している自分が悔しい。

 

 そうか、アイツ、自分から俺の片腕とまで……よし、許可しよう。

 俺の右腕は流石に色々と世話になっている大淀さんから譲れないが、左腕の座は磯風に差し上げようではないか。

 知力体力時の運と言うからな……頭が残念そうな磯風だが体力には自信がありそうだ。

 大淀の知力に磯風の体力、後は今までの人生経験的に薄幸な俺の運さえも塗り替える幸運艦が居れば万全では無いか。

 幸運艦、幸運の空母……瑞鶴。い、いや、瑞鶴だけはアカン。

 

≪佐藤元帥。提督に……ザザザッ……ザザッ……ザッ……磯風を見ればわかるように……ザザッ……内部崩壊に繋がり……ザッ……青葉もここに残るよう意見具申致します≫

≪う、うん。そうだね……青葉くん、済まないが……やはりやめておこう≫

≪がーん……そ、そんなぁ≫

 

 くそっ、ノイズが酷くてほとんど聞き取れなかったが……何? 俺のせいで横須賀鎮守府は内部崩壊の危機にあるの?

 磯風を見ればわかるようにと……俺に悪影響を受けたという事だろうか。

 お、大淀さん、それは流石に濡れ衣だ!

 確かに俺は色々と悪影響しか無いかもしれんが、磯風のダメンズ好きはおそらく生まれ持ったものだ!

 いや、俺が駄目すぎるせいでそれが顕在化したというのなら返す言葉も無いが……。

 

 とにかく青葉が残る事が決定したのなら、後はお宝写真を送ってもらえば……いやだから高雄と愛宕はともかくそもそも舞鶴に行きたくねぇんだよ!

 横須賀には間宮さんが、金剛が、香取姉が、千歳お姉が、翔鶴姉が、妙高さんが、いや、しかし舞鶴には高雄と愛宕が……!

 でもモリモリ君に皆を寝取られたら俺は悲しみに包まれて死の危険性が……!

 

 ええい! もういい! 頭がこんがらがってきた!

 話を聞いたはいいものの、聞けば聞くほど悲しくなるわ!

 磯風がマジで俺に忠誠を誓ってくれてた事しか収穫は無かった。

 くそっ、何だか色々と怒りがこみ上げてきた。

 とりあえず俺が青葉に騙されていたという事実は無かった事にしよう。

 そして俺と佐藤さんの実況配信を楽しんでいた馬鹿者を炙り出そう。

 まったく、コイツらという奴は、実にけしからん! 盗み聞きなど言語道断!

 

『どの口が言うのですか』

『ブーメラン凄いですね』

 

 お前らがそそのかしたんだろうが! いい加減さっさと持ち場にカエレ!

 俺は怒りを堪えつつ、真剣な表情で艦娘達へと歩み寄った。

 

「何を騒いでいる」

 

 静かなる俺の怒りを察したのか、艦娘達は瞬時に隊列を組み、敬礼した。

 コイツら本当に外面だけはいいのな……。

 まぁ俺も人の事を言えたものではないのだが……。

 というか、これは普通の社会人ならば常識だ。

 たとえ嫌な事があっても、目の前で文句を言う奴は滅多にいない。

 もちろん陰口は言わないに越した事は無いのだが、知らぬが仏。

 本人の知らぬところで文句を言って不満を吐き出し、それでストレスを溜めずに働けるのならば、それは決して悪い事では無いと俺は思う。

 まぁ、文句を言われる本人が盗み聞きとかしてなければの話なのだが……凹む。

 

 俺が青葉を睨みつけ、集音器と無線機を見せると、青葉は白目を剥いていた。

 俺に嘘をついていた事がバレたからだろう。

 くそっ、返してやろうと思っていたが、これは没収だ。けしからん。

 

「青葉。何やら落とし物のようだが……これは没収だ。いいな」

「ハ、ハイ」

「それと……今回の件に関わっているのは青葉一人。そうだな?」

「エッ」

「……そうだな……⁉」

「ハッ、ハイ!」

 

 俺の眼が節穴だったという事実など無い。

 この横須賀鎮守府のトップは一応俺なのだ。

 俺がウホと言えば白、ウホホと言えば黒、いやこれは長門の話だった。

 ともかく俺の十八番、職権乱用により、俺の意見こそが絶対だ。空気読んでそういう事にしといて下さい。

 

 さて、青葉はそう認めてくれたが、他の面子は……。

 青葉の実況配信を聞いていた不届き者は誰だ……!

 俺が目を向けると、次々に艦娘達は視線を逸らす。

 エッ、ちょっ、しょ、翔鶴姉、妙高さん、千歳お姉、香取姉、金剛……ま、間宮さん⁉

 皆、な、何その申し訳なさそうな顔⁉ 何で皆そんな表情で目を逸らすの⁉

 ま、まさか全員⁉ この場の全員、俺と佐藤さんがくんずほぐれつケツに入巨しかねない実況配信を黙って見てたの⁉

 下手したら俺が掘られかねなかった状況にも関わらず、誰も止めてくれなかったの⁉

 駆逐艦のガキ共まで⁉ 教育に良くないだろ! マンマミーヤ(なんてこった)

 

 俺の怒りがみるみるしぼんでいく。

 ……い、いや、そうか、そうね。

 これは青葉一人の独断だから、実況配信の事実など無かった。

 全員とかそういう話じゃない。ゼロ人だ。

 うん、俺が提督権限で主張している通りの事実では無いか。何も問題は無い。

 そういう事だ。

 そういう事なのだ。

 そういう事なのだった。

 

 俺は泣きそうになるのを堪えながら、佐藤さんに何とか声を絞り出した。

 

「……そういう事です」

「う、うむ……わかった。そういう事にしておこうか……そうだ、神堂提督。先ほど話した通り、私は急いで帰らねばならないのだった……済まないが、ここで失礼するよ」

「あっ、そうでしたね。それでは正門までお見送りを……」

 

 そうだ。佐藤さんは何やら急用が入ったのだった。

 後は丁重にお見送りをして、とりあえず今後の事は後で考えよう。

 そんな事を考えていると、一匹のグレムリンが飛んできて、長門の前で何やら手をばたばたと動かしていた。

 そう言えば艦娘達には妖精さんの声は聞こえないと言っていたな……。

 俺はそちらに顔を向けて、身振り手振りで何を伝えようとしているのか耳を澄ませてみた。

 推測するしかない艦娘達と違って、一応俺ならちゃんと声が聞けるからな……。

 

『ウホホ、ウホウホホ』

 

 いやわかんねーよ。

 何ゴリラ語で説明してんだ。

 長門(ゴリラ)に少しでも伝えたいという気持ちはわかるが、そもそも声自体聞こえないのだから、いくら長門でも理解できるはずが……。

 

「む……遠征艦隊が帰投したのか」

 

 わかんの⁉

 何で声が聞こえてる俺にわかんねー事がお前にはわかんの⁉

 俺だけでなく大淀も驚いているようで、長門と何やら話していた。

 

「長門さん、そこまでわかるんですか? 凄いですね……」

「まぁ、何となくはな……」

 

 マジかよ……お前もう完全にゴリラじゃねぇか。

 まさかゴリラ語までリスニングできるとは……。

 オータムクラウド先生がゴリラとして描いていた以上ではないか。

 俺が長門のゴリラっぷりに戦慄を覚えていると、佐藤さんが長門に声をかけた。

 

「長門くん、何かあったのかい?」

「はっ、妖精の様子を見るに、遠征艦隊が帰投したようなのですが、何やら様子が……」

「あぁ、それでは君達はそちらに向かってくれ。神堂提督も。悪いが、私はこれで失礼するよ」

「は、はっ。しかし、お見送りは……」

「よろしければ、佐藤元帥には私達が付き添いましょうか」

 

 声をかけてきたのは、鳳翔さんだった。

 その傍らには、間宮さんと伊良湖もいる。

 そう言えば、鳳翔さんはかつて佐藤さんの秘書艦を務めていたとかいないとか、さっき言っていたような。

 

「おぉっ、鳳翔くん、間宮くん、伊良湖くん。それでは君達にお願いしようかな」

「はい。御一緒致しますね」

 

 何だか俺がついていけるような雰囲気ではなかった。

 遠征艦隊が帰投したらしいし、佐藤さんもそう言うのだから、俺はそちらに向かわねばならないようだ。

 俺は艦娘達と共に佐藤さんに敬礼し、その背中を見送った。

 ある程度離れた所で俺は港へと歩き出し、その後ろを艦娘達がぞろぞろと着いてきた。

 うぅ、居心地が悪い……。さっきまで俺がここにいない方がいいとか話してたのを聞いてただけに……。

 遠征艦隊も俺がグースカ寝てるにも関わらず、朝早くから出撃してくれたのだろうし、どんな顔を合わせればいいのだろうか。

 

 気の重さに比例して重くなる足取りと共に、俺は港へと向かったのだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「……何が……一体、何があったというの……」

 

 ――頭が真っ白になった。

 

 先ほどまで気を失っていた様子のイムヤから、きらきらと光が立ち上っていた。

 不思議と、綺麗だとは思わなかった。

 それは何故だか、とても、とても不吉な光に見えた。

 

「……朝潮。状況を、報告します。朝潮、大潮、満潮、荒潮――中破。潜水艦隊、伊19、伊58――中破……伊168、大破後、敵の爆雷を避けられず……ここまで連れてきましたが……」

「ひっ、ひっ……ひぐっ、イ、イムヤが、初戦で大破しちゃったの……! それで、て、提督の期待に応えたいからって、嫌われたくないからって……!」

「い、今まで大丈夫だったから、今回もって思ったんでち……! うっ、うっ、うぅぅ……!」

 

 ――朝潮達が状況報告をしている間も、何が何だか理解できなかった。

 

 中破してボロボロの朝潮達、潜水艦達。

 朝潮と響以外は、ボロボロと涙を零している。

 それは、同じ中破状態だらけの昨日の帰投とは全くの別物だった。

 

 やり遂げた、という満足感に溢れた表情の昨日の朝とは違い、今は逆だ。

 やり遂げられなかった、成し得なかった、失敗した――。

 それは、何を――何を、失敗した?

 

 満潮が膝から地面に崩れ落ちた。

 顔を伏せて、まるでイムヤに土下座をするような体勢で、肩を大きく震わせて、堪えてもなお漏れ出すような悲痛な泣き声を絞り出す。

 そんな満潮を、誰も支えようとはしなかった。

 薄情なのではなく、そうする事が、唯一の慰めなのだと理解しているかのようだった。

 

「大破進軍をした先で、運悪く敵水雷戦隊三隊に同時に捕捉されてしまったようです。無線を受けて、私達は救援に向かいましたが……その、申し訳ありません。満潮が、疲労を隠していたようです。万全に力を発揮できなかった為、私達の連携が上手く行かず、体勢、戦況を立て直すまでの隙を狙われ、イムヤさんの被弾を許してしまいました……大変、申し訳、ありません……」

「……私達も救援の無線は受け取っていたんだが、距離が遠くて、場所も正確にわからなくて、間に合わなかった。合流できたのは、ついさっきだ……」

「ひっ、ひっく、ひっく、い、電が悪いのです、パワースポットの場所を間違えて覚えていたから……!」

 

 ――何が起きているのだ。一体、何が起きたというのだろうか。

 

 目の前にへたり込む満身創痍な様子のイムヤの体。

 光の粒子が立ち上るそれは、昨日の朝に見た、中破した艦娘達とは違う、大破した天龍とも違う。

 似て非なる、1と0の間にある確実な、残酷な、絶対的な、あまりにも遠すぎる距離だけは、なんとなくわかった。

 ――今のイムヤはゼロだという事だけは、かろうじて理解できた。

 

「……大破、進軍を……したというのですか……っ⁉」

 

 大淀の震える声が耳に届く。

 大破して、更にダメージを受けたらどうなるのか――言うに及ばない。

 

 そんな事は艦娘達が一番知っている事だろう。

 何で、イムヤはそんな事を――。

 

 ――提督の期待に応えたいからって――。

 

『ここだけの話だが、潜水艦の中では特にお前に期待しているのだ』

『潜水艦隊のリーダーとして、頑張ってくれ』

 

 ――俺の、せいか……――?

 

 イムヤの体から立ち上る光の粒子は、徐々に色濃くなっていく。

 その背中に添えられていたイクとゴーヤの手が、不意にその身体をすり抜けた。

 まるで、幽霊のように、その場にイムヤの存在など最初から無かったかのように――。

 

「――えっ……えっ、えっ、あっ、あぁぁっ……! いやっ、いやぁーーっ! イムヤァーーッ‼ いやなのーーっ‼」

「行っちゃ駄目でちーーっ! あっ、あぁっ! 何で、何で、触れられないの……⁉」

 

 イクとゴーヤが叫び、イムヤに縋りつこうとする。

 出来ない。まるで虚像のように、幻影のように、イムヤの姿は見えるけれども、すでにそこにイムヤはいなかった。

 すぐ近くに見えるのに決して辿り着けない。

 イムヤから立ち上る七色の光は虹のようだと思った。

 手を伸ばしても届かない。

 イムヤのそれは闇夜に光る星のようだと思った。

 

 薄い、イムヤが薄い。だんだんと、薄くなっていく。

 何も出来ずにただ立ちすくんでいるだけの俺に対して、イムヤがゆっくりと顔を上げた。

 俺は一歩も動いていなかったが、イムヤは俺とは少しズレた方向に向けて、手を伸ばす。

 そこに、俺はいない。

 その目はちゃんと開いていたが――。

 

 ――見えてないのか?

 

 伸ばされたその手は、身体は、かたかたと小さく震えている。

 

 ――寒いのか?

 

「……イ、イム……ヤ……おい……ここだ、ここだよ、私は、ここにいる……」

 

 何とか震える声を絞り出したが、反応は無い。

 

 ――聞こえてないのか?

 

 よろよろと、放心状態で、石のように動かない足を引きずるように、イムヤが手を伸ばした目の前へと自ら歩を進めた。

 そんなことをして何になるのかもわからなかった。

 だが、イムヤは手を伸ばしていた。

 何かを求めていた。

 何かじゃない。求めていたのは――俺だ。

 

「司令官……そこに……そこに、いる……?」

 

 イムヤの問いに何も答える事は出来なかった。

 駄目だ。何とかしなければ、何とかしなければ。

 このままでは、イムヤは。

 しかし、俺に何ができる?

 何もできるはずがない。

 手を伸ばしても届かない。

 

 考えろ、考えろ、考えても――。

 

 俺じゃ無理だ。俺の力じゃ無理だ。

 俺ではイムヤは救えない。

 こんなに近くにいるのに。

 目の届く場所にいるのに。

 手の届く場所にいるのに。

 

 ――さだくんは優しい子だけれど。

 さだくんはヒーローにはなれないよ。

 世界の裏側で泣いてる誰かを助けに行くのは難しい。

 その声は聞こえないし、その姿は見えない。

 その手は届かないし、走っていくには遠すぎる。

 だけど泣かなくてもいい。

 自分の非力を悩まなくてもいい。

 ヒーローになれなくてもいい。

 ただ、その代わりに。

 さだくんの目の届く場所にいる人で。

 さだくんの手の届く場所にいる人で。

 さだくんに声が届く場所にいる人で。

 さだくんが走っていける場所にいる人で。

 無理はしないで、出来る範囲で。

 その場所で泣いている人を見つけた時には、決して見捨てない男になってね――。

 

 ――母さん。

 

 何でだ。何でこんな時に、母さんの事を思い出すんだ。

 これじゃあ、まるでイムヤが――。

 

 それは、今の今まで忘れていた記憶。

 

 母さんが俺に遺してくれた最後の言葉――。

 それは病による痛みと薬の副作用で朦朧とした意識の中で見た、幻覚の話だったのだと思う――。

 

 

 ――さだくん。

 

 お母さんね、妖精さんに出会ったの。

 

 ほら、そこの窓のふちに腰かけてる。

 

 見えないの? そう――いつか見える時が来るのかな。

 

 妖精さんと、もっとお話ししたかったんだけどねぇ。

 

 妖精さんね、さだくんの事、気に入ってるみたい。

 

 だからね、お願いしたの――。

 

 もしも、お母さんがいなくなっても。

 

 さだくんが――。

 

 

 何でこんな事を思い出すんだ。

 何で母さんの事を思い出すんだ。

 それどころじゃない。

 どうすれば、どうすれば。

 

 何とかしなきゃ。

 

 俺が何とかしなければ。それでも何とかしなければ。

 

 俺が、俺が――。

 

 

 ――瞬間。辺りは無音に包まれ、時が止まったような感覚がした。

 

 

 

『――提督さん、提督さん』

 

 どこからか、声がした。

 

『もう一人で頑張るのはやめてください』

 

 それはどこかで聞いた事があるような声だった。

 

『一人で抱え込むのはやめてください』

 

『一人では難しくても』

『誰かを頼れば何とかなる事もあります』

『私達を頼って下さい』

『指示を下さい』

『命令して下さい』

『私達は味方です』

 

『提督さんは、一人じゃないよ』

 

『提督さんに見えてなくても』

 

『提督さんが頑張っている時は』

 

『朝も、夜中も、休日も』

 

『ずっと、ずっと』

 

『いつだって、近くにいました』

『いつだって、見守ってきました』

 

『ずっと、ずっと』

 

『いつだって、近くにいます』

『いつだって、見守っています』

 

『頼まれましたから』

 

『あなたが笑顔でいられるように』

『愉快な日々を過ごせるように』

『あなたの世界を守れるように』

 

『提督さん、提督さん』

『あなたが望めば』

『あなたが無理でも』

 

『私達なら救えます』

 

『さぁ――』

 

『呼んで下さい』

『命じて下さい』

『頼って下さい』

『願って下さい』

 

『今までは見ているだけだったけれど』

『今までは助けてあげられなかったけれど』

 

『今はその目に映るから』

『今はこの声が届くから』

『今は助けてあげられるから』

『必ず応えてみせるから』

 

 

『今度こそ助けてみせるから』

 

 

『――さだくん』

 

 

 

 ――誰の声だかわからなかった。

 

 何を言っているのかさえわからなかった。

 

 それはただの白昼夢だったのかもしれない。

 

 そんな事などどうだってよかった。

 

 止まった時の中で、イムヤが、目の前のイムヤが、俺に向かって――笑ったのだった。

 

「……資材、回収、出来なかった……ごめん、ごめんね――」

 

 ――誰でもいい何でもいい天使でも悪魔でも何だっていい‼

 救えるんならイムヤを救えと、誰でもいいから何とかしてくれと、俺は大声で叫んだ。

 いや、叫んだつもりだったが、実際には声は出ていなかった。

 もう泣いてしまいそうで、喉がひりついて、声を上げる事ができなかったのだ。

 だが――俺が心の中で叫んだ瞬間、時は動き出し、俺を中心に一陣の風が巻き起こった。

 

 訳が分からなかった。

 ただ、吹き荒ぶ風の中で、俺の周りから妖精さん達が次々に飛び出し、イムヤに飛んでいくのが見えた。

 

『命令が出たぞー』

『指令が出たぞー』

『頼まれたぞー』

『頼られたぞー』

『急げ急げー』

『提督さんを泣かせるなー』

『おー』

『救えー』

『傷を治せー』

『私達の出番です』

『応急修理だー』

『艤装を直せー』

『工廠に運べー』

『おー』

『燃料と弾薬を補給しよっか?』

『わー』

『わぁぁー』

 

 イムヤの艤装を運んでいく者。

 ドラム缶をバシバシ叩いている者。

 イムヤの体にくっついて木の板のようなものを金槌で叩きつけている者。

 何が何やらわからなかったが――妖精さん達がイムヤの体にくっついてから、その身体は透けていない。

 木の板のようなものがイムヤの体に溶けてなじんでいき、やがて光の粒子も止まった。

イムヤと、はっきりと目が合った。

 その目はきょろきょろと周りを見回している。

 見えている、聞こえている――。

 何が起きているのか分からなかったが、俺の帽子の中から声がした。

 

『彼女達は応急修理要員さんです』

『轟沈を食い止めてくれる能力を持ちます』

 

 轟沈を……食い止めて……。

 つまり、イムヤは……助かった……のか……?

 俺もイムヤも固まっていた。

 はらり、と桜の花びらが舞い、何やら妙な音楽が俺の頭の上から流れてきたが、そんな事はどうでもよかった。

 

 時は動き出し、イムヤが助かったという安心感からか――俺の中で燻っていた感情が、少しずつ漏れ出してきた。

 感情と涙を抑え込む石壁に、ぴしりと音を立てて亀裂が入る。

 イムヤが……イムヤがこんな無茶をしたのは……。

 

「……私の、為か……?」

 

 イムヤは何も答えない。

 ただ、茫然と俺を見つめていた。

 

「……私の為に……そんな無理をしたのか……っ……?」

 

 亀裂は徐々に広がり、臨界点に達して、そして――。

 

「馬鹿者ォーーーーッ‼‼」

 

 溜めに溜め込んだ感情と涙が、一気に溢れ出した。

 俺は勢いよく両膝をつき、イムヤの両肩を強く掴み、感情のままに叫んだ。

 

「そんな事をして私が喜ぶとでも思ったのかッ! お前のそんな姿を見て私が喜ぶとでも思ったのかッ! 資材などっ、戦果などっ、そんなものどうだっていいんだッ‼ 沈んでしまったら取り返しがつかないではないかッ‼」

 

 イムヤは何を勘違いしていたのだ。

 俺は、俺には、そんなつもりは無かった。

 個性的なイクとゴーヤを、常識人としてまとめ上げてくれればそれだけで良かったのだ。

 無理をして資材を集めようが、戦果を上げようが、そんなものはどうだってよかった。

 お前の轟沈と引き換えに得られる資材や戦果などに何の意味も無い、俺は心からそう思った。

 

 資材が枯渇したのはほとんど俺のせいだ。

 イムヤは、そんな俺の為に、期待に応える為に、無理をして資材を集めようと……!

 何で、何で大破進軍など……!

 

 俺は勢いのままに大淀を睨みつけ、強い口調で問いかけた。

 

「今までもこうやって来たのか……⁉ これがこの鎮守府のやり方かッ⁉」

「……は、はッ……! 私や長門さんが指揮を執っている間は、無論、禁止しておりました……! しかし、前提督の指揮下では、その……潜水艦隊は、そのやり方を、強要されており……! おそらく、その影響で……」

 

 大淀の答えに嘘は無さそうだった。

 つまりイムヤは、大淀や長門に禁じられていてもなお、前提督の指揮方針を優先したという事だ。

 前提督がどれだけ有能な人物だったのかは知らんが、今もなおその提督命令が後を引いているのは……俺が提督らしい指示を一つも出していないからではないか。

 俺はぎゅっと目を瞑り、顔を伏せた。

 大粒の涙がぽろぽろと溢れ出して止まらない。

 

「そうか……全部、全部、私のせいか……私が、ちゃんと言っておかなかったから、前の方針に従ってしまったという事だな……!」

 

 前の提督のやり方が正しいのかもしれない。

 俺もまだ全てに目を通せてはいないが、教本にもそう書いてあるのかもしれない。

 戦場で甘えた事は言っていられないし、物事に優先順位は必要だ。

 時には艦娘の尊い犠牲と引き換えに、護られる命もあるかもしれない。

 時には艦娘の尊い犠牲と引き換えに、多大なる戦果を得られる戦いもあるかもしれない。

 それこそ、等価交換の原則さえも無視するほどの――。

 

 ――尊い犠牲。

 

 ――そんなもん、俺の辞書には無い‼

 

「大淀ォーーッ‼」

「はッ‼」

「提督命令だッ‼ 今後、艦隊の一隻でも大破した場合、進軍する事は決して許さんッ! できれば大破もするなッ! 轟沈などもってのほかだッ! たとえ目的を果たせずとも、必ず全員で帰還しろッ! 二度と……ッ! もう二度と沈むなッ! お前達が俺の下にいる限り、ずっとだッ‼」

 

 俺はもう最後の力を振り絞り、感情のままにそう叫んだ。

 それ以上はもう無理だった。

 体中の力が抜けていき、イムヤの肩を掴んだまま、顔を伏せて崩れ落ちた。

 演技が出来ているのかもわからなかった。

 有能提督の仮面などすでにボロボロに剥がれ落ちていた。

 情けないとわかっていても、俺は溢れる涙を止める事が出来なかった。

 

「……はっ……! 了解しました。横須賀鎮守府全艦娘に、直ちに、確実に、以後、絶対に順守するよう、周知徹底を図ります……!」

 

 大淀が何かを堪えているかのような声で、そう答えた。

 俺はもう声を出す事も顔を上げる事も出来ずに、ただ深く頷く事しか出来なかった。

 

「……司令官……」

 

 かすれた声で、イムヤが俺を呼んだ。

 顔を上げる事すらも出来ない俺だったが、それにだけは応えなければと思った。

 何とか力を振り絞って、イムヤの顔を見る。

 イムヤはもう今にも眠ってしまいそうな表情で、俺の眼を見て言ったのだった。

 

「司令官……イムヤのこと、嫌いになった……?」

 

 俺はイムヤの問いの意味がわからなかった。

 だが、問いの意味や答えを考えるよりも先に俺の手はイムヤの肩から離れ、感情のままにイムヤを抱きしめていたのだった。

 考えるまでもなく、答えは感情と共に勝手に口から溢れ出た。

 

「馬鹿っ、そんな訳があるか。よく頑張ったな、よくここまで帰ってきてくれたな。ありがとうな。偉いぞ」

 

 もう今だけは演技など無理だった。

 俺は溢れる感情のままにイムヤの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

 ちゃんと触れられる事を確かめた。

 もう二度と手の届かないところへと行かないようにと、強く強く抱きしめたのだった。

 

 そうしてどれだけの時間が経ったのか。

 数秒かもしれないし、数分かもしれなかったが、わからなかった。

 

『元気出してー』

『よしよし』

『いつもの提督さんに戻って下さい』

『えーん、えぇぇん』

『しくしく』

 

 俺の頭の上で妖精さん達が俺を励ましたり何故か泣き出したりしていたが、それに構っている余裕は無かった。

 俺にはもう指一本動かす気力すら無かった。

 

「あぁっ、もうっ! いつまでメソメソしてんのよっ! 情けないったら!」

 

 不意に甲高い声が上がり、俺に駆け寄る音が聞こえたと思ったら、尻を衝撃が襲った。

 澄香ちゃッ……⁉ 違った。俺の尻を蹴り上げていたのは霞であった。

 地面に膝をついてへたり込んだままの俺を見下ろしながら、霞は強い口調を俺に叩きつけたのだった。

 

「泣いてたって何も変わんないでしょ! イムヤもまだ大破してんのよ⁉ ほらっ! 損傷のある子はさっさと入渠! さっさと指示出して! ったく……! しっかりしなさいな! 私達の司令官でしょ⁉」

 

 ――私達の、司令官……。

 そ、そうだ……まだ、今は、俺は横須賀鎮守府の司令官だ。

 俺は一体何をしていたのだ。

 イムヤもまだ轟沈から救われただけで、満身創痍なのには変わりないではないか。

 

「う、うむ……! そ、そうだ……! イクと朝潮達も、傷ついた者は入渠施設へ! ご、ごめんなイムヤ、すぐに連れてってやるからな……! 頑張ってくれよ……!」

 

 俺は慌てて立ち上がり、そう指示を出してイムヤを抱きかかえた。

 イムヤはすでに眠っているようだった。

 周囲に集まっていた艦娘達も道を開け、俺はイムヤを抱きかかえて入渠施設へと駆け出した。

 並走している霞に背中をバシッと叩かれる。

 俺の眼を覚まさせようとしているかのようだった。

 

 その手に感じるイムヤの確かな重み。

 並走する霞の足音、叩かれた背中と蹴り上げられた尻の痛み。

 

 ――あぁ俺は、一人じゃないんだな、と思った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「……司令官、その……昨日は……」

 

 入渠施設へと走りながら、霞が顔を伏せながら何かを口ごもった。

 だがそれ以上何も言えないようで、俺達は入渠施設前に辿り着いて足を止めた。

 俺はまだ感情のタガが外れたままのようで、霞の目を見て言ったのだった。

 

「霞……その、さっきは、ありがとうな」

「……はぁ……?」

「いや、お前が活を入れてくれなかったら、私は今も情けない姿を見せていただろう。イムヤもまだ大破したままだというのに……その……助かった」

 

 俺の言葉を聞いて、霞は肩をぷるぷると震わせ、我慢しているような、我慢できないといったような、妙な表情で叫んだのだった。

 

「~~ッ‼ あぁっ、もうっ! 悪かったわよっ! 昨日はっ!」

「な、何がだ……?」

「そのっ……! クズとか、死ねばいいとか言って……何も知らないのに、言い過ぎた……ごめんなさい」

 

 霞はそう言って深く頭を下げたのだった。

 あ、あぁ、そういう事か……。

 コイツ本当に澄香ちゃんに似てるな……。

 澄香ちゃんもカッとなって友達とかにもめちゃくちゃ厳しい事言っちゃって、後で家に帰ってから悩むタイプなんだよな……。

 さっきもそうだったが、カッとなったらブレーキが効かなくなるのは、ある意味俺と似てるのかもしれないけれど……。

 澄香ちゃんの担任に掴みかかった時もそうだったが、大体後で死ぬほど後悔するんだよな……。

 

 俺は頭を下げた霞に向けて言葉を返した。

 

「まぁ、クズはともかく、確かに死ねは言い過ぎだな」

「え……? ク、クズはいいの?」

「私にはな。他の人達には大変失礼だから絶対に言わないように」

「い、いや……司令官にも言わないように、これからは気を付けるわよ……」

 

 ばつが悪そうな表情で視線を逸らした霞の前で、俺はイムヤを抱えたまま膝を曲げ、視線を合わせた。

 霞に尻を蹴り上げられ、背中を叩かれてから、何だか元気が出てきたような気がするのだ。

 文字通り、活を入れられたという事だろう。

 澄香ちゃんに「おにぃ! しっかりしなさいよ!」と尻を蹴り上げられた時の感覚と同じなのだ。

 尻と背中のじんじんとした痛みが、何故か嬉しい。

 俺のやる気スイッチは尻や背中にあるのだろうか……。

 俺は霞と目線の高さを合わせて、妹に対してそうするように、ニッと笑って言ったのだった。

 

「これからも、私が情けないところを見せたら遠慮なく尻を蹴り上げてもいいからな」

「なっ……⁉ だっ、だからっ、昨日も言ったけどっ! 私に言われる前に精進しなさいよっ! またあんな情けない姿見せたら、本ッ当に皆に愛想尽かされるわよ! このクッ……んんっ!」

「う、うむ……お互い頑張ろうな」

「ふんっ!」

 

 顔を紅潮させた霞がそっぽを向いたと同時に、微妙に演技するのを忘れていた事に気が付いた。

 そうだ、妹達に笑うなと言われていたのだった。

 確かに鏡の前で笑顔の練習をしてみた事があったが、ヤバいくらいキモかったからな。

 俺が有能提督の仮面を装着しなおしていると、イクや朝潮達が追い付いてきた。

 朝潮は霞の顔を一目見るや否や、目を丸くして俺に顔を向けたのだった。

 

「司令官っ! 霞の鼻の穴が開いています!」

「なぁっ⁉」

「霞は嬉しい事があると鼻の穴が開く癖があるんです! 一体何があったのでしょうか⁉」

「ちょっ、ちょっと何、変な事言って……! そんなのっ、知らなっ……」

「うふふふっ、あはははぁっ! 本当だわぁ~」

「嘘でしょっ……⁉ や、やめてよ! もっ、もぉぉお!」

 

 霞は恥ずかしそうに鼻を隠しながら、朝潮の肩を揺すった。

 う、うむ……まぁ、その……そっとしておいてやってくれ。

 顔を真っ赤にした霞は話題を変えるように、鼻を隠しながら大声を張り上げた。

 

「そっ、それよりっ! 満潮はっ⁉」

「それが……ここに向かう途中でどこかに駆け出して行ってしまって……」

「まぁた勝手な事を……」

「そう言わないであげて。流石に今日の事は……イムヤさんに合わせる顔が無いと思っているのかも」

 

 朝潮の言葉に、その場の全員が落ち込んでしまったように見えた。

 そう言えば放心状態でよく俺も憶えていないが、満潮が何かやらかしたと言っていたような……。

 改めて見回すと、わかっていた事ではあるが朝潮達もイク達もボロボロだ。

 いかん、立ち話をしている場合ではなかった。

 俺は慌てて声をかける。

 

「と、ともかく今は満潮の事はそっとしておこう。まずは、イムヤを入渠させてやってくれ」

「イク達が一緒に入渠するの!」

「うむ。し、しかし随分深く眠っているようだが、イムヤは大丈夫だろうか……」

「湯船に頭から放り込んでおけば勝手に治ってるの」

「う、うむ。もう少し優しく扱ってやってくれな……溺れないようにな」

「潜水艦が溺れるわけないの」

「そ、それもそうだな……」

 

 いかんな……霞と話している時は少し元気も出ていたが、また気分的に落ち込んできた。

 抱きかかえていたイムヤをゴーヤに任せると、思わず、はぁ、と大きな溜め息が出る。

 何と言うか……駄目な提督だな、俺は……。

 艦娘ハーレムなる不純な動機で着任したが、艦娘達はこんな風に命を賭けて戦ってくれてるんだよな……。

 大破した天龍を見た時にもわかっていたはずなのに……最低だ……俺って……。

 

『もう大丈夫だよー』

『元気出してー』

『よしよし、よしよし』

『ふぇぇぇん、えぇぇん』

『いつもの提督さんに戻ってよー』

『しくしく』

 

 帽子の中で妖精さんが泣きながら励ましてくれたが、今はもう無理だ。

 イムヤが無事だった事で安心はしたが、どっと疲れた。

 もう今日分の元気を使い果たしてしまった感じだ……。

 この気分の重さは数日は後を引くだろう。

 しばらく立ち直れそうに無い。

 何だかもう、今日こそは自分自身が嫌になった。

 すると俺の落ち込んでいる背中を見かねてか、イクが勢いよく俺の背中に抱き着いてきたのだった。

 

「提督っ! 元気出すの! 頑張るの!」

 

 アーーッ⁉ 俺の股間の(そー)ろーちゃんが元気出ちゃうって! 頑張る~、がるる~!

 駄目だ。疲れている時こそ股間は正直だ。これを疲れマラと言います。凹む。

 中破によりスク水という名の鎧から解き放たれたイクのパイオツ、それはまさにグローブを外したボクサーの拳……!

 つまり凶器である。昨日の感触とは比較にならん……!

 いかん……駆逐艦に囲まれた状況で股間の試製晴嵐ならぬ仮性性乱を発艦させるわけには……! 急速潜航!

 浮上しても抵抗するよ……! 持ち上がった20mm単装機銃が火を噴くわ……! いや火を噴いたらアカン……!

 横須賀十傑衆第十席イクの生乳は絶え間なく俺の背中に触接中!

 俺の背中のやる気スイッチ(ハザードトリガー)が連打された。

 ツァァアアーーッ‼ 性乱さん達は友達だもーん‼ ひゃっはァーーッ‼ イケるイケるぅ‼

 

『わー、いつもの提督さんに戻りました』

『平常運転です』

『やりました』

『一安心です』

『嬉しいです』

『よかったです』

『祝えー』

『おー』

『わぁぁー』

『わぁい』

 

 俺の帽子の中で、何故か妖精さん達が喜んでいた。

 くそっ、情けない……。

 そう言えば、イムヤを助けにコイツらが出て行く前、何かの声が聞こえていたような……。

 ショックのせいか何故か記憶が曖昧だ。

 俺はあの時一体、何を考えて……全く覚えていない……。

 ……あれ? 俺、何かしたっけ?

 

『何もしてないですね』

『固まってただけです』

『仕方ないから私達が働きました』

『サダオは私達がいないとダメダメですね』

『まったく、サダオってば、まったく』

『何か言う事があるんじゃないですか』

『ほら早く早くー』

 

 ダ、ダンケ……くそっ、まさかコイツらに礼を言う日が来ようとは……。

 しかし妖精さんには逆らうなと聞いていたが、実際コイツらのおかげでイムヤは助かったわけだしな……。

 マジで頭が上がらない。俺の頭上に巣を作られた今、色んな意味で尻に敷かれている。

 うっくぅ~……今回ばかりは何も言えねぇ……。

 それにしても、あの時流れてた音楽と桜の花びらは何だったんだ……?

 

『あれは特注家具職人さん達による演出です』

『桜の和のアレンジメント的な奴です』

『音楽はBGM付家具妖精さんが演奏してくれました』

『曲名は名付けて「提督(あなた)との絆」でしょうか』

『おぉー』

『おぉぉー』

『素敵です』

『いい仕事してますねー』

 

 演出ってなんだ……? 必要だったのか……?

 一体何の意味が……。

 いや、そもそも家具職人とは……。

 

『普段は鎮守府の施設管理もしてるんですよ』

『わぁー』

『偉い』

『凄いです』

 

 そう言えば佐藤さんが大浴場の掃除とかも妖精がしているとか言っていたような……。

 つまり特注家具職人とは鎮守府内の施設や備品の維持管理を担ってくれている妖精さんという事だろうか。

 それはともかく演出とは一体……。つーかBGM付家具って何なんだ……。

 楽隊みたいな演奏専門の妖精さんがいるという事なのか。

 掛け軸から音楽が流れたりするのだろうか……機械とかじゃなく妖精達の人力で……。

 

『もしもサダオが誰かと結婚する時には演出してあげてもいいですよ』

 

 な、何を言っているんだコイツは……。

 結婚か……間宮さんと……桜の花びらと音楽に包まれて……い、いいかもしれんな……。

 

『結婚だなんて、そんな』

『照れてしまいます』

『まずはお友達からです』

 

 お前らじゃないよ?

 頭上の何妖精さんだか知らんが、少なくともお前らじゃないよ?

 わかったからもうおとなしくしてくれ。

 演出の意味はわからんが、そもそも妖精さんの考えなどさっぱりわからん。

 お前らに構ってる内に、さっきから俺の股間がヤバい事になっている。

 俺は背中にぎゅうっとくっついているイクを振り向いて、何とか声をかけた。

 

「イ、イク、わかった、わかったから。元気出たから、早く入渠してきなさい」

「いっひひ! 元気出たなら何よりなのね!」

「イクも早く手伝うでち!」

 

 イクが俺の背中から離れて艦娘用の脱衣所へと入っていったところで、俺はたまらず近くの段差に腰を下ろした。

 疲れていたのもあるが、完全に股間が元気を取り戻したからである。凹む。

 すると、何やら数人の艦娘達がこっちに向かってくるのが見えた。

 夕雲型に睦月型、暁型……お、多いな。

 どうやら全員駆逐艦のようだったが、一番早く俺の目の前に辿り着いた雷は、どんと胸を叩く。

 

「司令官! お手伝いに来たわよ! 何か手伝える事は無い? この雷に任せて! あら? 元気ないわねぇー、そんなんじゃ駄目よぉ! 大丈夫! 司令官、私がいるじゃない!」

「そ、そうか……そうだ、朝潮達も入渠を……」

「いえ、今はイムヤさん達三人が入渠していますから、入れてあと一人ですね」

「そういうものなのか……? 男湯は随分広かったが……」

 

 俺がそう言うと、朝潮は言葉を続けた。

 

「はい。確かに入れるスペースはあるのですが、単なる入浴ではなく入渠する場合、私達の身体に吸収されるエネルギーは艦種問わず四人分が限界なのです。五人以上が同時に入渠しようとすると格段に効率が落ち、身体の損傷はほとんど回復しません。その為、負傷した艦が多い場合、入渠待ちの時間が発生します。小破程度の損傷ならば明石さんが泊地修理してくれますし、艤装だけは、先に工廠で妖精さん達が修理してくれますが……」

「なるほどな……そういう事なのか。ならば、誰かあと一人だけでも入ったらどうだ」

「司令官のご命令ならばそうしますが……出来る事なら、私達は満潮と一緒に入渠させて頂けないでしょうか」

 

 朝潮は申し訳なさそうにそう言った。

 あぁ、そういう事か。

 満潮が勝手に単独行動しているとはいえ、置いてけぼりにするのを気にしているのだろう。

 昨日の歓迎会で塞ぎこんでいたのも、朝潮達の編成から一人だけ外れたからという話だったしな。

 ましてや今の満潮はかなりデリケートな状態だからな……取り扱い注意だ。

 俺は朝潮の頭にぽんと手を置いて、言ったのだった。

 

「わかった。満潮を一人にしないようにな。頼むぞ」

 

 朝潮は俺に触れられた頭に手をやり、しばらくぽーっとしていたが、すぐにいつもの調子で敬礼した。

 

「はっ……はいっ! 司令官との大切な約束……この朝潮、いつまでもいつまでも守り通す覚悟です!」

「う、うむ……少し肩の力も抜こうな」

 

 股間の力が一向に抜けない俺が言えた事でも無いのだが……。

 とにかく、朝潮達は中破しており、服はボロボロだ。下着も肌も見えているあられもない姿ではないか。

 子供だから俺も別に何とも思わないし、朝潮達も恥じらう様子は見られないが……放置しておくのも忍びない。

 俺は雷たちに目を向けて、言ったのだった。

 

「とりあえず、朝潮達に何か羽織るものを。それと、艤装だけでも工廠で修理しておいてくれ」

「はーいっ! わかったわ司令官! まっかせて!」

「い、いや、そういえば雷たちも帰投したばかりではないか。疲れているだろう、別の者に……」

「いいのよこれくらい! それに私達はほとんど戦闘も負傷もしてないもの! もっと私に頼ってくれてもいいのよ? ねぇ皆?」

「なのです!」

「ハラショー」

「なんで雷が仕切ってるのよ! 暁の方がお姉さんなんだからね!」

「そ、そうか……ともかく、出撃した者は入渠していない間もしっかりと身体を休めるように。補給もしっかりとな。報告は後でいいから」

 

 本当に働き者だな、雷は……。

 というよりも、やけに生き生きしているというか、頼られる事でむしろ輝いているというか……よく見れば何か全員輝いて見えるのは気のせいだろうか。

 雷とかもさっきまで泣いていたのに、なんかこう……わくわくしているというか、戦意高揚しているというか……遠足前日の小学生みたいだ。

 

 暁型四人と朝潮型の満潮除く七人を工廠へと向かわせると、文月がてててっ、と俺の隣に寄ってきて、ちょこんと座った。

 そしてキラキラと輝く瞳で俺を見上げて、言ったのだった。

 

「しれぇかぁん、もう泣いちゃ駄目だよ~? これでもくらえぇ~い」

 

 とろける声でそう言って俺に横から抱き着いてきたのだった。

 世に文月のあらんことを……今、何気に時代は文月……。

 笑顔でぐりぐりと頬を押し付けてくる神に俺が祈りを捧げていると、それをからかうような目で見ながら、緑色の髪の艦娘……確か葉月が言ったのだった。

 

「なんとなんと! 情けない司令官もいたものだな……フッ、だが、我々もこれまで以上に頑張らないとな」

「いいじゃない。ボクは嫌いじゃないよ! ふふっ、司令官、可愛いね!」

「さっちんとふみちゃん、こういうタイプ好きそうだよねぇ……ま、それは水無月もだけどね! えへへっ」

 

 ボクっ娘・皐月と男の艦娘・水無月も微笑ましいものでも見るかのような視線を俺に向ける。

 ボーイッシュな奴らとは言え、何で俺がこんな小学生型に子供扱いされねばならんのだ……。

 いや、情けないところ見せたからだけど……凹む。

 

 ……何か凄い視線を感じる……うわっ、夕雲……⁉

 な、何でそんな庇護欲をかき立てられたかのような尊い視線を……⁉

 物凄い視線を送る夕雲よりも早く、次に俺に駆け寄ってきたのは夕雲型の妹達だった。

 相変わらず数が多い……。

 そ、そう言えば結局コイツらの名前全然覚えてないんだよな……。

 歓迎会でまったく話せていないとは言え、まさか今になって全然覚えていないとは言えん……この機会にさりげなく覚えねば……。

 任務開始(ミッションスタート)

 

「司令官様ぁ、巻雲、夕雲姉さんを見習って、お役に立てるよう頑張ります!」

「提督、どうしたの? しっかりしてよ。貴方が元気じゃないと、この風雲も本気が出せないわ!」

 

 なるほど、萌え袖眼鏡っ子が巻雲で、ごく普通のポニーテールが風雲な。よし覚えた。次!

 

「どうしたー? 浮かない顔をしてー。提督がそんな感じだと、艦隊全体に影響が出てしまうぞ。まぁ、ここはこの長波が胸を貸そうか?」

「司令官、高波、一生懸命頑張ります……かも、です!」

 

 長波様はすでに覚えていた。胸を貸して下さい。

 おどおどしていて常に長波様にべったりなのが高波な。よし覚えた。次!

 

「……早霜、見ています。ふふっ……ふふふふっ……」

 

 怖ェよ。片目隠れた黒髪ロングの占い師みたいな奴が早霜な。

 しかし俺の股間みたいな名前だな……早下(ハヤシモ)。よし覚えた。次!

 

「ひひっ、朝霜参上! よぉ、どうしたよ司令。元気無いじゃんか。よっしゃ! このあたいが元気づけてやんよ! ん? 歌でも歌ってやろうか? んん?」

 

 ふむ、片目隠れた灰色髪で威勢のいい奴が朝霜な。

 しかし今朝の俺の股間みたいな名前だな……朝下(アサシモ)。よし覚えた。次!

 

「しれーかーん! あのさ、疲れたなら、清霜と一緒に一休みしよ? ねぇ、ねーぇ?」

 

 なるほどな、元気いっぱいで見るからに末っ子な感じのが清霜な。

 しかし穢れ無き俺の股間みたいな名前だな……清下(キヨシモ)。よし覚えた。次!

 

「あ、あの~……司令官。えっと……はい! 頑張ります! これからもよろしくお願いします!」

「いっひひひ。沖ちんだけじゃなくて、藤波も頑張るからね。もち!」

 

 前髪切るのを失敗した感じの奴が藤波で、図書委員みたいな雰囲気の眼鏡っ子が沖ちんか。

 しかし今の俺の股間みたい名前だな……オッキチン。よし全員覚えた。任務完了(ミッションコンプリート)

 ってあれ、何か一人離れたところでスケッチしてる奴が……。

 

「あっ、提督動かないでー。そのままそのままー。いや~、いいもの見せてもらったわ~! 何かわからないけど疲れも消えて~! うっひょひょ~! (はかど)りますねぇ~!」

 

 う、うむ……だから君の名は……ま、まぁいいや、後で……。

 はっ、と気が付くと、夕雲が俺を挟んで文月と反対側に腰かけていた。

 うっとりとした目で俺を見つめている。

 アッ、これ甘やかされる奴だ。俺の本能がそう告げた瞬間――。

 

「テーートクゥーーッ‼」

 

 金剛が高速回転しながら俺に向かって飛んできた。

 周囲に群がっていた駆逐艦達は弾き飛ばされ、俺の両側にいた二人も木の葉のように吹き飛ばされた。マ、マンマーッ⁉ そして(文月)よー⁉

 

 金剛はその勢いのままに俺の上半身にがばっと抱き着いたのだった。

 同時に勢い余った金剛の右膝が立ち上がったままの俺の股間を痛打した。

 オゴォォオオッ⁉ 砲塔へしゃげとるしボロボロになってしもうた‼

 金剛お前俺の早漏物(ソロモン)強襲すんの本日二度目やぞ‼

 

 激痛で白目を剥いた俺はその勢いを支え切らずに、地面に押し倒されたような形になったが、金剛はそのまま俺をぎゅうっと抱きしめてくる。

 まだ名前覚えられてない夕雲型がうひょひょ~資料資料などと言いながら至近距離でスケッチしている。

 エッ、アッ、アノッ、アノネ、駆逐艦ガ見テルカラ、離レテ、ネッ? ネッ、ネーエッ。

 俺が金剛の背中をぱんぱんとタップすると、金剛は俺を押し倒したまま、ゆっくりと俺から離れ、超至近距離で俺と顔を見合わせた。

 アレッ、なんかいつもと雰囲気が……何でそんなに悲しげな、泣きそうな表情を……。

 

「提督ぅ……」

 

 ただそれだけ言って、金剛は再び俺を抱きしめたのだった。

 アッ、こいつ俺の事好きだわ。何かわかんないけど絶対そうだわ。

 時間も場所もムードもタイミングも揃ってるわ。

 これもうヤレるわ。最後までいけるわ。

 女性不信にも関わらず、俺の本能がそう告げていた。

 

 普段と違う金剛の表情……グッと来たぜ!

 よっしゃァァアッ‼ 提督権限において、実力を行使する‼

 提督ガッタイム‼ 性器を掴み取ろうぜ‼

 俺は金剛のケツを震える手で鷲掴みにしようとしたが、無意識に間違えてその背中に手を回していた。

 

 こんな俺を好きになってくれる女性(ひと)がいたなんて。

 そう確信した瞬間、急に胸が苦しくなってきた。

 ……ヤベエ、金剛に触れてる。

 心臓がドキドキ、バクバク、そんな言葉じゃ形容できませんねぇ。

 駄目だ……緊張して金剛の顔が見れない!

 でも見たい! 至近距離で見たい!

 よーし貞男!

 ここは心火を燃やして覚悟を決めて(スリー)(ツー)(ワン)……!

 

「……んんっ! あー……金剛、提督……皆、見てますから」

「うぉあーーッ⁉」

 

 気まずそうな浜風の咳払いに、俺は再び正気に戻った。

 金剛を無理やり押しのけて、がばっと身体を起こして大きく息をつく。

 顔を手で覆いながら指の隙間から見ている者や、気まずそうに視線を逸らしている者、凝視している者、目を輝かせている者、呆れたようなジト目で見ている者、恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべている者、頬を膨らませている文月……周囲の駆逐艦から様々な視線を向けられていた。

 あ、危なかった……よくよく考えてみれば時間も場所もムードもタイミングも全然大丈夫じゃねぇ……!

 つーか入渠中のイムヤを尻目に四方八方を駆逐艦に囲まれながら野外で致すのは童貞にはハードルが高すぎる……!

 性欲の前に人は盲目になるとは言うが、まさかここまでとは……。

 そんな俺を、何だか恐ろしい微笑みの浦風が、腕組みをしながら見下ろしていたのだった。

 

「……提督ぅ? 今、何を考えとったんじゃ? 怒らんけぇ言うてみ? ん? んー?」

「な、何でも無い!」

「つーんっ、どうじゃか……そ、そもそも何で金剛姐さんがここにおるんじゃ!」

 

 拗ねたように唇を尖らせた浦風の言葉に、俺から押しのけられた金剛はケロッとした表情で後頭部に手をやりながら答えた。

 

「磯風と交代したネー! 磯風が、私は提督の側にいた方がいいからって……これぞまさにWin-Winの関係デース!」

「あんにゃろ、また単独行動を……かぁ~っ! どうしようもねぇな!」

 

 谷風だけでなく浜風と浦風もキレているようだったが、俺だけは磯風に感謝していた。

 あいつ本当にいい奴だな……俺の為に金剛と代わって……。

 

「ま、まぁ昨日もだったが、磯風も私を思っての事だからな。大目に見てやってくれ」

「ふんっ、提督さんは磯風を甘やかしすぎじゃ」

 

 な、何で浦風はご機嫌斜めなんだ……。

 ……そう言えば、何でこっちには駆逐艦しかいないのだろう。

 さっき盗み聞きした長門の話とは少し違う。

 奴め、やはり少し大袈裟に言ってやがったか……!

 少なくとも駆逐艦達に反感は見られない。

 ここにいる皆は友好的でいい子ばかりじゃないか。

 それはともかく、皆俺の手伝いをしてくれたり、俺を励ましてくれて、それはとても嬉しいのだが、何故駆逐艦だけが……。

 磯風のファインプレーが無ければ駆逐艦率百パーセントではないか。

 せめて十傑衆のお姉さん方の誰かが俺を慰めに来てくれても良いのでは……。

 え? 俺の味方駆逐艦と潜水艦しかいねぇの……?

 

 ちょ、ちょっと待て、じゃあ残りの面子はどこに……。

 い、嫌な予感がしやがる……!

 金剛の右膝と浦風の黒い微笑みの迫力により俺の股間が萎えた事で、俺は勢いよく立ち上がり、皆を見回して頭を下げたのだった。

 

「皆、こんな私を励ましてくれて本当に……ありがとう。おかげで元気が出たよ。皆に言われたように、私がしっかりしないとな。そして金剛も、せっかく来てくれて悪いが……少し、私を一人にしてくれないか」

「えっ……ふふっ、わかりました。時にはそういう事もありますネ。テートクに代わって潜水艦(サブマリン)達は私がしっかり見ておきマース! 安心して下サーイ!」

 

「……金剛姐さん、ええの? 来たばっかりじゃのに」

「ふふっ、寄り添うだけではなく、こういう支え方もあるのデスヨ。浦風にはまだわからないかもしれないネー」

「むっ……ふんっ、なんじゃい、提督さんも鼻の下伸ばしよって……」

 

 金剛と浦風が何やら話していたが、よく聞こえなかった。

 金剛が俺の言葉に素直に従ってくれたのが意外ではあったが、イムヤ達の様子も見てくれるとの事で、非常にありがたい。

 何故か浦風がむくれていたのが気になるが、それに構っている暇も無く、俺はその場を離れた。

 

 アイツら一体どこに……。

 

「フンハァーーーーッ‼」

 

 うおッ⁉ な、なんだ⁉ 南方海域からの敵襲か⁉ 戦艦ゴ級か⁉

 遠くから野獣の雄叫びのようなものが轟き、俺はそれが聞こえた方向へと走った。

 それは横須賀鎮守府の正門の方向であった。

 少し離れた所で身を潜めて観察すると、やはり他の艦娘達は全員正門前に集まっていた。

 

 もう少し近づくか……?

 いや、これ以上はバレる危険性が……しかしここからじゃ何も聞こえん……!

 くそっ、こういう時にはアレがあれば……! アレがあればなァ~……!

 

『あったよ、集音器が』

 

 よし、でかした!

 港に放置していた集音器をグレムリンが拾ってきていた。

 コイツらなんか今日は随分働くな。褒めて遣わそう。

 俺は集音器を艦娘達の方向に向け、耳に当てた。

 

≪な、長門くん……! それに、皆も……こ、これは一体、どういう事だね≫

≪手荒な真似をして申し訳無い……! しかし、ひとつだけ……どうしても前言撤回をさせて欲しい事ができた!≫

≪な、何だって……≫

 

 何だ……随分と不穏な空気ではないか。

 つーか遠すぎてよく見えなかったが、長門の奴、車を前方から押し戻してなかったか?

 手荒すぎんだろ……そこまでして一体何の前言撤回を……。

 

 しかし何だあの極熱筋肉は……。

 さっきまでの長門とは明らかに違う。

 周囲は煌々と輝き、体中からめっちゃ蒸気を噴出しているではないか。胸がアチャチャーー!

 あれではまさにゴリラマグマ……いや、戦艦ゴ級改flagship後期型……更なる進化を遂げた長門改二ならぬ長門フェーズ2・エボルゴリラと言ったところか……恐ろしすぎる。

 こんなに遠くにいるのに熱気が凄ェ……! 周囲の景色が熱気で歪んでんじゃねぇか……。

 

 いや、長門だけではなくあの場にいる全員の雰囲気がヤバいような気がする……。

 艦娘達の先頭に立つのは狂犬・那智、狂える猛禽・加賀、ゴリラモンドハザード長門……。

 桃太郎のお供狂化版三匹の前には、桃太郎ならぬホモタロス佐藤さん……。

 み、見るからにヤバい雰囲気が漂っている……! ヤベーイ……。

 

 し、しかもあの場には金剛を除いた駆逐艦以外の全員が揃っていないか……⁉

 いや、よく見れば何故か潮とその他二人もいるようだが……あ、当然だが金剛の代わりに磯風がいるな……。

 磯風に加えて龍驤に神通、大淀さん……俺の味方だと思われる艦娘達も、何故あんなにも尋常ではない雰囲気を……。

 遠目でよくわからんが、なんとなく間宮さんはあの場の雰囲気がよくわかってないような感じだが……そのまま染まらないでいてほしいものだが……。

 

 ま、まさか歓迎会の時のごとく、また長門の奴がそのカリスマで何かやらかそうと皆を引き連れて――⁉

 

 いかん! ここは俺のカリスマで皆を振り向かせねば!

 俺こそが艦隊の指揮を執る鎮守府のトップであるという事を思い出させてやらねば――!

 

 目を覚ませ皆ァーーッ‼

 艦隊の皆! 俺の声を聞けェーーッ‼

 ミナサーン、アタシノシジニシタガッテクダサイ……ンンッ、シタガッテクダサーイー!

 駄目だ、俺の声が届いてくれるビジョンが浮かばねェ……‼ 凹む。

 勝てねェ……! 長門のゴリスマには……‼

 

 俺が脳内シミュレーションで長門に惨敗したところで、長門の声が集音器を通して俺の耳に届いた。

 

≪佐藤元帥≫

≪提督は……神堂提督は、弱い……ザザッ≫

≪我らが……ザッ……すれば一人隠れて涙を流し、今もまた傷ついた部下を見て涙を流した≫

≪その心身はまるでザザッ……のごとく、脆く、ザザッ……頼りない。誰一人として沈むななどと、軍人としてあるまじき……ザッ……を口にするその……ザッ……は、絶望的なまでに軍人に向いていない……≫

≪その出自や艦隊指揮能力、そして……ザザザッ……我々の……ザッ……提督は、あらゆる面でこの横須賀鎮守府にいない方が良い……ザザッ……≫

 

 凹む。

 い、いや、うん……返す言葉も無ェ……!

 た、確かに俺は弱いし、よく泣くし……! 体力も無いし豆腐メンタルだし……!

 

 イムヤが轟沈しそうになった時の感覚も、アレだ。

 小学生の時に、国語の教科書に載っていた「スーホの白い馬」とか「ごん狐」を読んで授業中に号泣し、クラスメイトからドン引きされた苦い記憶が蘇る……!

 中学、高校の国語の授業も同様である。人が死ぬ系はマジで教科書に載せないで欲しいし、感動系はテストに出さないでほしい。テスト中も泣くから。

 

 最近明乃ちゃんに勧められて読んだ、内心馬鹿にしていた携帯小説でも明乃ちゃんより号泣したし、つーか人や動物が死ぬ展開だと百パーセント泣く……!

 寝取られモノで死にかけたのもだが、もしかして俺の感受性は異常なのか……⁉

 

 い、いやつまり、ただの豆腐メンタルなんだけど……!

 そ、そんな脆いメンタル、頼りないですよね……!

 

 誰一人沈むななんて提督命令は、やっぱり軍人としてあるまじき事だったようだし……俺は絶望的なまでに軍人に向いていないと……!

 た、確かに俺は具体的な指揮方針など出せやしない。

 

 その一、強くなれ

 その二、提督を尊敬せよ

 その三、巨乳であれ

 

 これが俺の最低限重視する艦隊運営方針であったが、それに先ほどの経験を活かして、

 

 その四、命を大事に

 

 これを新たに加えた四ヵ条を貞男ドクトリンと名付けよう。

 横須賀鎮守府の皆にはこれを遵守して頂きたい。

 

 この通り、俺にはこれが限界だ。

 素人だし、艦隊指揮能力は皆無だし……!

 あらゆる面で横須賀鎮守府にいない方がいいと……!

 

 わ、わかってる……わかってますけど……!

 だから舞鶴鎮守府に異動させられるんですよね……!

 そ、それで長門達は、結局佐藤さんに何を訴えて――。

 

≪……ザザッ……佐藤元帥……! ザザザッ……あの……ザッ……よりも優れた提督が現れ――ザザッ……! ザッ……艦隊司令部に逆らう事になろうとも! あの……ザザッ……の命を縮めてしまう事になろうとも、その先にどのような試練が待ち受けていようとも! 我々は神堂提督と……ザッ……戦うッ!≫

 

 エェェェエエエ⁉

 衝撃のあまり、俺は思わず集音器を耳から離した。

 ど、どういう事だ。途中ノイズが酷かったが、俺の天才的頭脳で穴埋めせねば。

 真実はいつも一つ……おそらく俺の推測によると、「佐藤元帥……! あの馬鹿よりも優れた提督が現れた今、艦隊司令部に逆らう事になろうとも、あの馬鹿の命を縮めてしまう事になろうとも、その先にどのような試練が待ち受けていようとも、我々は神堂提督と戦う!」的な事を……アカーーン⁉ ちょっちピンチすぎや! 

 

 何でや⁉ 何でその答えに至ったんや⁉

 元帥に、艦隊司令部に逆らってまで――⁉

 その為にどんな試練が待ち受けていようと――⁉

 エッ、つーかクソ提督を舞鶴に異動する方向で納得してたんじゃなかったの⁉

 何で異動による左遷じゃ飽き足らず俺に直接手を下す道を選んだの⁉

 

 さ、さっきの醜態のせい⁉

 そう言えばさっき霞も、「またあんな情けない姿見せたら、本ッ当に皆に愛想尽かされるわよ!」って言っていたが……すでに愛想を尽かされて――⁉

 

 そう考えれば、俺が何も考えずに放ったあの提督命令は、艦娘達にとって逆鱗に触れるものだったのではないだろうか。

 艦娘達はいつだって命がけで戦っている。

 それを、ド素人の提督が「全員沈むのは許さん」などと言い放ったのだ。

 そんなもの、ただの理想論ではないか。

 戦場に立っていない俺が、そんな事を言って許されるのだろうか。

 戦いの苦しみを知らぬ俺が口にしていい事だったのだろうか。

 

 ――俺の三番目の妹の美智子ちゃんは陸上部に所属しており、主に駅伝に出場している。

 ある時、美智子ちゃんは沿道で応援している俺の前で、他校の選手に追い抜かれたのだが、俺の隣にいたオッサンからこんなヤジを飛ばされた事があった。

「かァ~っ! 何でそこで抜かれんだよ! たるんでんぞ! 真剣に走れ!」

 たるんでいるのは、真昼間からビールの缶を片手に見物しているそのオッサンの腹だった。

 見るからに陸上とは縁が無さそうな、ただ暇つぶしに見物に来ただけという風貌のオッサンに、美智子ちゃんはそんな事を言われてしまったのだ。

 栄養バランスを考えた食事、効率的かつ厳しい練習……美智子ちゃんの普段の努力も何も知らぬオッサンにだ。

 

 口にも態度にも出さなかったが、その時俺は激怒した。

 

 もちろん美智子ちゃんは一生懸命走っていた。

 美智子ちゃんだけではなく、自校も他校も、選手達は皆死ぬ気で走ってるし、それでも追い抜かれてしまうのだ。

 追い越す側も、追い抜かれる側も、いつだって皆そうやって死ぬ気で、全力で、真剣に走っているのだ。

 選手達のその体つきを見ればわかるが、オッサンのようにたるんでいる余裕なんて無い。

 

 多分、なんとなくだが、あのオッサンには駅伝の経験は無い。

 走る苦しみをわからないから、あんな無責任なヤジを飛ばせるのだ。

 

 ――常に命がけで戦っている艦娘達に対して俺が叫んだ提督命令は、それと同レベルではないか?

 

 具体的なアドバイスも出せないド素人のくせにたるんでるなどとヤジを飛ばしたオッサンと、艦隊運用能力の無いド素人であるにも関わらず理想を掲げた俺は、同じではないのか?

 

 何故か駆逐艦達だけは俺に対して友好的だったが、精神的にまだ子供だからだろうか。

 ではそうでない者達は……⁉

 ド素人の分際で理想を語るなと、適当な事を言うなと、あの時オッサンにブチ切れた俺のように――俺にブチ切れてもおかしくは無い。

 艦娘達を率いている長門、加賀、那智……。

 ま、まさかあの三匹、一応俺の味方っぽいホモ太郎、いや佐藤さんに逆らってまで、自らの手で鬼退治を強行しようと――⁉

 俺は鬼つーかただのおにぃ――‼

 

 聞き間違いである事を信じつつ、俺は震える手で再び集音器を耳に当てた。

 

≪……彼は、とんでもない事をしでかしてくれたな……≫

 

 聞き間違いじゃないようだった。凹む。

 ウ、ウン……我ながら、とんでもない事をしでかしてしまいました……。

 今になって考えれば、俺はなんて無責任な発言を……。

 

≪いや、そうか……取り返しのつかない事をしてしまったのは、私の方か……私は……何て事を……≫

 

 え? も、もしかして佐藤さんにまで責任が及ぶレベル⁉

 まさか減給、いや、下手したら責任を取って降格、解雇とか……。

 ちょ、ちょっと待って下さい! そんなつもりじゃ……!

 た、確かに無理のある着任だったのは佐藤さんの判断かもしれんけど……!

 

≪佐藤元帥。貴方には感謝している……ザザッ……ザザッザザザッ……ザヴッ、ヴボボ、ウホウホホ≫

 

 おい集音器調子悪いんだけど。最後完全にゴリラ語に翻訳されてんだけど。

 俺ゴリラ語わかんねぇよ。長門じゃねぇんだから。

 くそっ、駄目だ。もう完全にノイズまみれで聞こえん……!

 そう言えばグレムリンとは機械に悪戯をする妖精らしいが、集音器の調子が悪いのはさてはお前らのせいじゃないだろうな。

 

『あぁぁー、こやつ、人のせいにしていますぞ』

『最低です』

『最低な駄目男です』

『略してサダオです』

『ダメダメすぎます』

『もう見捨ててもいいんじゃないかなー』

『でも私達が見捨てちゃったら、サダオもっと駄目になっちゃう』

『あー』

『あぁぁー』

『だよねー』

『ねー』

『わかるわかる』

『しょうがないねー』

『ねー』

 

 好き勝手言いやがって……!

 集音器を耳に当て続けるも、やはり雑音ばかりで何も聞き取れない。

 するとグレムリンが数匹、集音器にくっついてバシバシと叩き始めた。

 

『しょうがないですねー』

『どんてんかん、どんてんかん』

『本当に調子悪いねー』

『ねー』

『これでどうでしょうかー』

 

 再び集音器を耳に当ててみると、おぉっ、ノイズが消えているではないか。

 グレムリンにしては良い仕事だ。褒めて遣わそう。

 

≪フン……あの男、鉄仮面の下に随分と情けない本性を隠していたものだ……正直、見るに耐えん。ならば、我らが何とかするしかあるまい。奴の下からな……≫

 

 おごォォオッ‼ この重巡、容赦無ち(那智)

 聞かなきゃよかった!

 やはりさっきの醜態により、有能提督の仮面の下に隠していた俺の情けない本性がバレてしまっている……!

 だ、だよな……見るに堪えないよな……! 自分達の上官のあんな情けない姿……!

 ゆえに俺の下から何とかしようと、那智も長門に続いて下克上宣言を――⁉

 

≪そう……提督がどんな思……ザッ……ここに着任したのか……危うく、それを……ザザッ……ところだったわ……ザッ……本当に……救いようが無いわね≫

 

 またノイズで一部聞こえなかったが、バ、バレてる――⁉

 情けない本性だけではなく、俺がどんな思惑でここに着任したのかまでバレてる――⁉

 危うく騙されるところだったと……な、何でバレて――⁉

 や、やはり視線か⁉ それとも挙動か⁉

 俺が本当に救いようの無い奴であるのは自分でもわかってるが……! しょうがねえじゃん‼

 

 ハーレムが欲しくてさぁ‼

 レースとか紐パンとか どんなにきわどくてもいい……

 艦娘のパンツが見たくてさぁ‼

 それが悪い事かよ‼

 そう思う事が犯罪かよ‼

 だったら……! だったら提督全員犯罪者じゃねーか‼

 

『まごう事なき犯罪者です』

『本当に救いようが無いです』

『よその提督さんを巻き込まないで下さい』

 

 うるさいよ君達。少し黙ってなさい。

 そうだよ犯罪だよ。だがね、本人の同意があれば合法なのだよ。

 ゆえに俺はハーレムを夢見たのだ。

 優柔不断で一人に絞れないこの俺が、合法的に複数の艦娘達に癒される為にな!

 

『ホント最低ですね』

『サダオです』

『恥ずかしくないんですか』

 

 恥だと? ――そんなもん、俺の辞書には無い‼

 何とでも言うが良い。

 撤回はしなくていい。

 所詮妖精の戯言。

 俺の心には響かない。

 頭の上のグレムリン達を無視している俺の耳に、龍驤の声が届いた。

 

≪佐藤元帥、もう……ザザザッ……司令官……ザッ……無理やろ、あんなん。もうアカンわ≫

 

 オゴォォォオッ⁉ 辛辣ゥーーッ⁉

 龍驤の呆れたような声が俺の心に深く響いた。

 愛想尽かされすぎだろ俺……⁉

 まさかいい奴の龍驤に匙を投げられるとは……!

 続いて赤城の声が聞こえてくる。

 

≪私は今まで、何も理解できていませんでした……提督……ザザザッ……を張り倒してやりたいくらいです。どうか、これから……ザッ……提督と……ザッ……戦わせて頂けないでしょうか≫

 

 張り倒したいの⁉ エッ、つーか赤城、俺とタイマン希望⁉ これから⁉ 急ぎすぎじゃない⁉

 ちょ、ちょっと待って心の準備が――⁉

 くそっ、赤城の奴、穏やかな声色で何てことを言うんだ。自然体なのに相変わらず隙が無さすぎる。

 一航戦は二人揃ってヤバい。奴らが()ろうと思った時には、行動はすでに終わっているだろう。

 何気ない日常の中で眉一つ動かさず俺に必殺の矢を放ちかねん。

 張り倒されるどころかこのままではマジで殺される。な、何とかせねば――!

 

≪佐藤元帥っ! 鹿島からもお願いしますっ! 秘書艦としてっ、提督さんが少しでも楽に……ザッ……るよう頑張りますっ! 本気でっ、死ぬ……ザッ……でっ、やり……ザッ……ますっ! たとえザッ……かれ果ててもっ、最後まで……ザッ……絞ってっ、ザザッ……抜きますっ!≫

 

 鹿島お前真っ昼間から何言ってんだ!

 どさくさに紛れて俺から何を搾り取ろうとしてんだ!

 佐藤さん何とも言えない顔してんじゃねーか!

 何⁉ 提督が少しでも楽に死ねるよう頑張ります⁉

 本気で死ぬまでヤります⁉ たとえ枯れ果てても最後まで絞ってヌきます⁉

 この精巣殺し(テクノブレイカー)がァ~……! ある意味お前が一番殺意に満ち溢れてんぞ!

 つーか隣の川内型ァ! この淫魔何とかしろや!

 ほら、ドスケベサキュバスがこんな……こんな近くに‼

 コイツを何とかすんのがお前らの仕事だろうが‼ 何で野放しにしてんの⁉

 

 赤城と鹿島による死刑宣告に混乱する俺の頭に、利根の声が届いた。

 

≪佐藤元帥よ、悪い話……ザザッ……提督の下にあれば、この神通が修羅と化す。……ザザッ……先日の夜戦では提督の事を考えるあまり敵味方の見境が無くなり、吾輩まで沈めようとしたくらいじゃからな≫

 

 俺の事を考えるあまり修羅に⁉

 あのおとなしそうな神通が⁉ 敵味方の見境が無くなるほどに⁉

 う、嘘だろ⁉ 悪い話すぎんぞ!

 その夜戦の後に、俺の護衛をわざわざ申し出てきたという事は……。

 も、もしや鹿島を放置してるのは、俺を護衛する気など初めから無く、むしろ俺が妙な事をしないように監視する為に――⁉

 そ、そんな……川内、神通、那珂ちゃん……いい奴らだと思っていたのに……!

 そう言えば川内型は駆逐艦に恐れられてるという事らしいし……!

 やっぱり女心わかんねェ……!

 川内も那珂ちゃんもあんなに明るい笑顔だったのに……!

 神通も奥ゆかしい雰囲気で、物腰柔らかで清楚な感じだったのに……!

 裏では俺への鬱憤により敵味方の見境が無くなり、アホの利根を沈めかねんほどの修羅と化していたとは……‼

 怖ェよ……女の子怖ェよ……! 何考えてるのか全然わかんねェよ……!

 

 ガタガタと震えている俺の耳に、磯風の声が届く。

 

≪フッ、一方で大淀は司令の事を考えるあまり被弾しそうになっていたがな≫

 

 お、大淀にも俺の知らぬところで迷惑が――⁉

 すみません、クソ提督でホントすみません。

 重ね重ね申し訳ない。面目次第もありません。

 大淀にはいつも迷惑をかけてばかりで……!

 つーか大淀さん、何でそこにいんの⁉

 明石も夕張も青葉も……! これも何かの作戦……⁉

 敵なの⁉ 味方なの⁉ それとも中立なの⁉

 でも長門に勝るとも劣らないその異様な雰囲気……!

 そう言えば俺の提督命令に対して大淀の返事もやたら遅かったし、声も震えていた……!

 も、もしや怒りを堪えて――⁉

 だ、駄目だわかんねェ……! 俺には大淀の領域が遠すぎる……‼

 と、とりあえずすみません……!

 

 俺が脳内で大淀に平謝りしていると、佐藤さんが深刻そうな表情でゆっくりと口を開いたのだった。

 

≪この一件は、私の一存で決められる事では無い。だから、悪いが約束する事はできない≫

≪……はい≫

≪艦隊司令部に逆らってでも、という物騒な言葉は聞かなかった事にさせてもらおう。だが、君達の意思は、確かに艦隊司令部に持ち帰るよ。君達の熱意は……そのままにね≫

≪――は、はッ! どうか、よろしくお願いしますッ!≫

≪ザザッ……ザザザザーーーーッ……≫

 

 もう完全にノイズしか聞こえなくなって、俺は集音器を耳から離した。

 さ、佐藤さん、艦娘達の意思を艦隊司令部に持ち帰っちゃうの⁉

 あの異常な熱意つーか熱気そのままに⁉

 アイツら上官殺してもいいですかって言ってんですけど⁉

 くそっ、妖精さん! 早く直して下さい! オナシャス!

 

『世話が焼けますねー』

『妖精使いが荒いです』

『でも頼ってくれて嬉しいです』

『ねー』

『元気になってよかったねー』

『ねー』

『えい、えい』

『がたがたごっとん、ずったんずたん』

『出来ましたー』

 

 万歳するグレムリン達に構わず、俺は素早く集音器を耳に当てた。

 

≪――了解ッ‼≫

 

 何が⁉ お前ら何を了解したの⁉

 くそっ、大事なところが聞き取れんかった……!

 しかし艦娘達のあの雰囲気……!

 ま、まさか佐藤さん、アイツらの要求を聞き入れて――⁉

 そ、そんな、ついに俺は佐藤さんにも見捨てられて――⁉

 

 敬礼する艦娘達に見送られながら、佐藤さんは車の後部座席に乗り込んだ。

 アーーッ⁉ 全力で支えてくれるって言ったのにー⁉ 佐藤さん、何してるデース⁉

 わ、わかりました! えぇ、アナルHでいいならお相手しましょう!

 佐藤さんのマイクでも多分大丈夫!

 私っ、頑張るからっ、見捨てないでぇーーッ‼

 

 俺の心の叫びが届くはずもなく、佐藤さんを乗せた車はそのまま無慈悲に走り去ったのだった。凹む。

 




大変お待たせ致しました。
これにて長かった第三章は終了となります。
予定では上中下の三場面を三視点分で、九話くらいで短くまとまるつもりでしたが、描写量が予想を遥かに超えてしまいました。

次回から第四章が始まりますが、章単位での構想を少々練り直しますので、いつもよりも少し更新までに時間がかかると思われます。
普段の遅筆に加えて更に長くお待たせしてしまいますが、気長にお待ち頂けますと幸いです。

春の米騒動は六月中旬までらしいですね。。
運良く2-4で福江はお迎えできましたが、米以外が落ちません。
提督の皆さん、目標達成できるようにお互い頑張りましょう。

読者の皆様
いつも多くの感想、評価コメントを頂きましてありがとうございます。
皆様から頂ける一つひとつの御言葉をとても楽しみにしており、それが執筆の励みとなっております。
すぐに返信したいのですがリアルの事情にて難しい時もあり、感想の返信が遅れてしまう事もありますが、ご了承頂きますと幸いです。

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