ラストダンスは終わらない   作:紳士イ級

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051.『視線』【提督視点②】

 大淀に全てを託して倉庫から逃げ出した俺は、平静を装いつつ甘味処間宮の暖簾をくぐった。

 カウンターの向こうから俺に気が付いた間宮さんが、ぱあっと表情を輝かせながらぱたぱたと駆け寄って来る。

 

「提督、来て頂けたんですね。よかった……ひょっとしたらお昼を抜いてしまうのではと……」

「う、うむ。色々あって食事どころでは無かったが、私も間宮のしじみ汁を楽しみにしていたからな。少し大淀に任せて、抜け出してきたんだ」

「まぁ、嬉しい……ふふ、私もお待ちしておりました。しじみ汁、冷めてしまったので温め直しますね。鳳翔さん、伊良湖ちゃんと共に、お食事もすぐにご用意いたしますので、少々お待ち下さい」

 

 結婚したい。

 流石は横須賀十傑衆第一席にしてマンマ祭り四人衆筆頭にして横須賀爆乳三本柱最胸。身に纏う癒しのオーラが違う。

 狂暴な鬼や修羅や狂犬やゴリラに囲まれていた地獄から一転、ここは楽園であった。

 おそらく大淀がフォローしての事だとは思うが、間宮さんはこんな俺に対して、何故かかなり好意的に接してくれている。

 他の艦娘達は裏で何を考えているかわからない者も多いが、間宮さんだけは無条件に信じてしまう大らかさと安心感がある。

 

 案内された席に腰かけ、カウンター越しに間宮さんを眺めているだけで、鬼畜艦隊に傷つけられた俺のメンタルがみるみる癒されていく。

 鼻歌を歌いながら料理をしている間宮さんの他に、伊良湖と鳳翔さんの姿も見える。

 夜は小料理屋鳳翔、昼は甘味処間宮となるらしいが、どちらの時間もお互いに手伝っているのであろう。

 とんとんとん、と包丁がまな板を叩く音……それを聞きながら空腹と共に待つ時間……なんか、いいな……。

 

「しじみ汁だけ先に貰ってもいいかな」

「はい、勿論です。おかわりもいっぱいありますからね!」

 

 結婚したい。

 温め直されたしじみ汁で満たされたお椀が、俺の目の前に置かれる。

 間宮さんはニコニコと微笑みながら俺の様子を眺めていた。可愛い。い、いや、な、何だ? なんかプレッシャーだな……。

 何か気の利いた感想でも求めているのだろうか……。

 つい先ほどは鬼畜艦隊が謝罪の他に期待していた事を全く理解できずに失望されてしまった俺であるが、間宮さんにだけは失望されたくない。

 

 よし、テレビでよく見る、芸能人が食レポをしている番組とかを参考にしよう。

 とりあえず海産物を食べた時には「うわっ! プリップリやないか!」、野菜は畑から掘り出したものをそのまま生で齧り、「甘ーい! 果物より甘いですよコレ!」、チーズを食べれば「甘露! 甘露!」などと言っているイメージだ。

 いや、俺の勝手なイメージなのだが……。

 駄目だ、そんなありきたりなコメントでは間宮さんを失望させてしまう可能性大。

 しじみ汁キタコレ! ウマー!

 いかん、これでは潮と一緒にいたピンク色のメイドみたいなのと同レベルだ……。

 くそっ、あまり考えすぎても不自然だ。ここはいつも通り高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変なコメントが出るのを期待しよう。

 俺は諦めて目を閉じ、両手を合わせる。

 

「いただきます」

 

 しかし間宮さんが俺の為に作ってくれたしじみ汁……考えてみればなんて神々しいのだ。

 改めてお椀に注がれたしじみ汁を見ると、表面からオーロラが立ち上っているかのような気さえしてくる。

 俺はしじみ汁から立ち上るオーロラの美しいゆらめきを目で楽しみ……。

 適温に温め直された優しい温もりを掌で堪能し……。

 しじみの他に何が入っているのかよくわからんがとにかく具材が織り成す濃厚な香りのハーモニーを鼻で頬張り……。

 しじみ汁の上品な音色を耳で満喫し……そして……。

 こんなドスケベクソ提督の為に手ずから作ってくれた間宮さんに感謝をしながら……口で……舌で……全身で……。

 (たた)え……! 噛みしめ……! 味わった‼

 

 お椀に口をつけ、しじみ汁を啜る。

 口内にじんわり旨味と温かさが広がっていき、俺はコメントを考える間も、味わう間もなくそれを飲み込んでしまった。

 何だこれは。旨味の種類、数が半端なく詰まっている……ような気がする……。

 しじみの美味しさの分厚い層が口の中でだんだんほどけて広がっていく感じだ……。

 今まで眠っていた股間が少しずつ起こされていくぞ……! いや何でだ。

 これが間宮さんのしじみ汁か……!

 

 い、いかん……! 笑顔になろうとする顔を止められねェ……!

 美味しすぎて、満足すぎて、ニヤけちまう……!

 妹達からキモイから絶対に笑うなと言われていたが、股間を膨らませながらみだらな顔になってみろ……!

 完全に変態ではないか。間宮さんにドン引きされてしまう……!

 何とか堪えようとしたが、完全には無理だった。

 俺はお椀から口を離し、ふぅと息をつくと共に、自然と小さく笑ってしまったのだった。

 

「……美味い……。五臓六腑に沁み渡るな……」

 

 おまけに芸人以下のありきたりなコメントしか出せなかった。

 俺の語彙力の低さが露となってしまった瞬間であった。凹む。

 恐る恐る間宮さんに目をやると、ほっと小さく息をつきながら「よかった……」などと呟いていた。結婚したい。

 あまりにもコメントのレベルが低すぎたので、俺は気持ちを切り替えて間宮さんに訊ねた。

 

「いや、本当に美味い。私が今まで飲んだしじみ汁の中でも一番美味しかった……」

 

 間宮さんは俺の言葉を聞いて、「まぁ……!」と嬉しそうな声を漏らし、顔の前で掌を合わせた。結婚したい。

 

「何か隠し味でも入れてあるのか?」

「はい。東のボーキボトムサウンドにあるという幻のボーキサイトを隠し味に使うと、どんな料理も最高の味に……」

 

 ボーキ入れてあんの⁉

 だから俺の股間がボッ、あ、いや何でもないです。

 しじみ汁といい間宮アイスといい、何で間宮さんの作るものは俺の股間まで元気になるのだ。

 俺の表情を見て、間宮さんは「ふふっ、冗談です」とクスクス笑った。結婚したい。

 そして少しだけ考え込んだ後に、立てた人差し指を唇に当て、ウインクしながらこう言ったのだった。

 

「そうですね。愛情という名のスパイスでしょうか。ふふっ」

 

 結婚不可避。俺は間宮さんのトリコォ‼

 間宮さんのしじみ汁、晴れて俺のフルコースに採用決定!

 デザートのパイパイパパイヤに続き、俺のフルコースのスープが埋まった瞬間であった。

 俺の専属料理人になってほしい。俺に毎日しじみ汁を作ってほしい。

 気の利いたコメントの一つも返せなかった俺であったが、あの鬼共とは違い、間宮さんはそれで心から満足しているようだった。優しすぎる……。

 

「それでは調理に戻りますね。おかわりの際はお声をかけて下さいね」

「あ、あぁ。ありがとう」

 

 間宮さんは再び厨房へと戻り、俺がその様子を眺めながらしじみ汁を一口ずつ堪能していると、甘味処の入り口の方から足音が聞こえた。

 振り返った俺は動揺のあまり、思わずしじみ汁を噴き出しそうになった。

 そこには何故か泣き腫らした目に大粒の涙を浮かべ、それを指で拭う千歳お姉が立っていたからである。

 

「……て、提督……」

「ち、千歳おっ……千歳っ⁉」

 

 どどどどどどういう事だ。

 状況を整理しろ。俺が逃げる前には千歳お姉はこんな状態ではなかった。

 つまり俺が去った後に倉庫で何かがあり、お姉は号泣し、そして俺の元へ向かって来たという事……。

 千歳お姉にとって俺は視姦の加害者であり、お姉の優しさを考慮しても好ましい存在では無いはずだが……何が起こっているんだ。

 何故いつもべったりの千代田はいない……⁉ 何故俺の元に……⁉

 だ、駄目だ、わからん……! と、とにかく泣いてる千歳お姉を立たせっぱなしにするわけにはいかん!

 

 俺は訳も分からないままに千歳お姉に駆け寄った。

 

「ど、どうした、何があった……ま、まぁ座れ、ほらっ」

「うっ、うっ……はい……っ」

 

 俺に促されて、千歳お姉は俺の隣のカウンター席に腰かけた。

 やっぱり俺に対して警戒心とか不快感とかは抱いていないようだ……。

 もしもそうであるならば、自分の胸を凝視していたドスケベクソ提督の隣に腰かけるなんて有り得ない。

 大淀がやってくれたか……流石は横須賀鎮守府を裏で牛耳る黒幕大淀さん……一体どんな話術であの場を収めたのだろうか。

 我ながらかなり無茶振りだったと思うのだが……大淀は常に俺の予想の上を行く。

 こりゃあマジパナイ!

 

 千歳お姉は俺の顔を見て、何故か更に嗚咽を漏らした。

 

「提督、ご、ごめんなさい、ごめんなさい、わ、私っ、私のせいでっ……」

「ま、まぁまぁ、落ち着け。間宮、千歳にもしじみ汁を出してくれないか」

「は、はい」

 

 目を丸くしてこちらの様子を窺っていた間宮さんに、しじみ汁を用意してもらう。

 

「ほら、とりあえず飲んで、落ち着け。美味しいぞ、温まるぞ」

「うぅ、うっ……あ、ありがとうございます……」

 

 千歳お姉は泣きながらお椀に口をつけ、そして小さく吐息を漏らした。

 とりあえず落ち着くまでは、俺の方からは何も聞かない事にする。

 俺の昼食の用意が出来たのだろうか、間宮さんがお盆を持って、どうしますかと視線で問いかけてきたので、俺は掌を向けてそれを制止した。

 しじみ汁くらいならともかく、俺だけ飯を食えるような空気じゃない。

 代わりにしじみ汁のおかわりを頼むと、間宮さんは声に出さずともとても嬉しそうに、いそいそと注いでくれた。結婚したい。

 

 しかしバーカウンターで女性と並んでお酒を呑むというのに密かに憧れたりもしているが、まさか並んでしじみ汁を飲む事になるとは……。

 いやこれも普通に嬉しいんだけど……まぁそんな事はどうでもいい。

 やがて、千歳お姉はしじみ汁を飲み干すと、はぁぁ、と大きな溜め息をついた。

 

「沁みますね……」

「あぁ、本当に美味しい」

「それだけじゃなくて……ふふ、色々と……」

 

 もう流れる涙も枯れたのだろうか。

 千歳お姉は目元を拭いながら、自嘲気味に小さく笑った。

 そして、俺に向かって深く頭を下げてくる。

 

「先ほどは申し訳ありませんでした。提督にも考えがあっての事だったのに……」

「ま、まぁ待て待て。私が去った後、一体何があったんだ」

「はい……大淀さんが全て説明してくれました。提督が私達を見ていたのは、私達の性能を計る為なのだと」

 

 アイツ何つー説明してんの⁉

 お、大淀さん、それは流石に無理があるだろ……⁉

 何? 俺が千歳お姉たちを視姦してたのは性能を計る為って、そんな設定薄い本でしか見た事ねェよ!

 アレだろ、新しく着任した提督が身体検査とか性能測定とか言って胸のサイズを計ったり色々しちゃうやつ! 結構お約束のシチュエーション!

 俺の提督アイは性能なんて勿論計れない。性的潜在能力(セクシャルポテンシャル)に関しては測定できるが……。

 ちょっと待て、俺の行動が中身のない薄い本レベルなのはともかくとして、千歳お姉はそれで丸め込まれたのか⁉

 いや、この様子だと千歳お姉だけじゃなく他の面子も、胸のサイズじゃなくて、ガチで俺が性能を計ってたと信じているのか……⁉

 何故だ。そんな事が有り得ん事くらい馬鹿でもわかる。一体どんな話術を使えばこんな事になるのだ。

 これはもはや洗脳、いや催眠、いや、それ以上……⁉

 横須賀鎮守府の黒幕・大淀さんの完全催眠とでも称すべき話術を『眼鏡花水月(メガネすいげつ)』と名付けよう。

 そう、これが本当の、大淀型の力よ!

 

「そして、提督のお察しの通り、千代田は軽空母への改装にすでに目覚めていた事を隠していました……! 私は、それに気付かず、この半年間のうのうと……! 皆にも迷惑を……千代田にこんな真似までさせてしまって……うっ、うぅ……っ!」

 

 お察しした覚えが無い……!

 よし、千歳お姉が再び涙ぐんでしまった隙に、天才的頭脳をフル回転させて情報を整理するのだ。

 千歳お姉の言葉から推理するに、お姉が泣いていた理由は、千代田が軽空母への改装に目覚めていた、という事に起因する。

 俺の視姦によるものではないようだ……。

 理由はわからんが、つまり千代田は千歳お姉よりも強化されていた上で、それを隠していた。それが今回明らかになり、千歳お姉は自らを省みて泣いてしまった……そういう事だろうか。

 つまり俺が水上機母艦乳比べをしていたのはその性能を計る為であり、俺が千代田の秘密を察したという事になっているのか。

 そんな偶然があるものか……? いや、もしかすると千代田の秘密についても大淀は把握していて、それを泳がせていた可能性もあるのでは……。

 そして俺の無茶振りを何とかすべく策を弄した結果、今まで見逃していた千代田の秘密をこのタイミングで暴露する事で、俺が視姦していたという事実を闇に葬った……。

 結果的に千歳お姉はこんなに泣いてしまうほど深く傷ついてしまい、おそらく千代田も同様であろうが、大淀にとっては必要な犠牲として勘定された……。

 黒幕(アイツ)なら普通にそれくらいの事はやってしまいそうだ……。大淀の……底が見えない……!

 

「それに、私は一瞬とはいえ、疑ってしまいました……! 下心から、胸を見られていたのではと……!」

「そ、それはさっきも謝ったが、私が悪いんだ。本当にすまなかった」

「いいえ、いいえ! 提督がそんな人じゃないって、私、理解してたはずなのに、なんで……!」

 

 何が起こっているんだ。

 俺はどう考えてもそんな人だ。

 千歳お姉の表情、態度に嘘は見られない……。

 軽蔑なんて一切していない。心の底から、俺を信頼している目だ。

 

 千歳お姉とのファーストコンタクトが脳裏をよぎる。

 

『……この時間に、空母だけの編成で出撃させたなんて、提督の意図がわかりません。そして今回の急な出撃も……』

 

 そう、あの不信感に溢れていた目……。

 初日に俺と初めて話した時には、俺の素人丸出しの指示もあり、千歳お姉が俺に対して不信感を抱いていたのは明白であった。

 だが出撃前に谷風、出撃後に龍驤のフォローもあり、あの場は丸く収まった。

 つまり、千歳お姉も俺に対して普通に警戒していたし、あくまでも谷風、龍驤、そして大淀さんの助けがあって、何より千歳お姉自身の優しさがあってこそ、今は俺に対して何とか友好的に接してくれているという状況のはず。

 あの時は千代田に浜風、磯風ですら明らかに反抗的だったし、思い返せばなんか最初から友好的なのペチャパイしかいねェな……い、いや浦風もいたな。マンマ~。

 

 しかしそんな状況だった千歳お姉が、今では俺に下心なんて存在しない、性能を見る為に目を向けていたのに、疑ってしまった自分が悪い、と……何がどうなったらそんな考えになるんだ!

 俺が着任してからまだ僅か三日目だが、それだけでも俺の罪は今更数えきれないほど積み重なってしまっている。

 そんな簡単に人の評価は変わらない。

 特に俺がドスケベクソ提督であるという事は、少なくとも加賀や瑞鶴にはバレているし、周りの艦娘達も同様であろう。

 だというのに、千歳お姉の記憶の中からは、まるで俺に対する不信感など無かったかのように……これも大淀⁉ 大淀の話術なの⁉

 何という事だ、誰がそこまでやれと言った。

 いや、無茶振りしたのは俺なのだが、まさかその為に俺の過去の失態まで無かった事にするレベルの改変を行うとは……つーかそもそもやろうと思って行えるものなのか……⁉ 何なんだアイツは……⁉

 ま、まぁいい。難しい事は考えないに限る。これを思考放棄と言います。

 大淀がその気になれば詐欺師どころか何かの怪しい宗教の教祖とかにもなれそうだな……。

 横須賀鎮守府の黒幕・大淀さんの過去改変とでも称すべき話術を『メガネ・オブ・ジ・エンド』と名付けよう。

 そう、これが本当の、大淀型の力よ!

 

 と、ともかく大淀にしてはかなり力技というか、俺の無茶ぶりによって隠していた本当の力(奥の手)を使わせてしまった感があるが、何とか俺の提督の座はギリギリで保たれていると思ってもいいのだろうか。

 いや、洗脳とか催眠とかそういう搦め手は全く効かなそうなゴリラ達がいるから油断はできん。

 アイツらは気合で何とかしてしまいそうな凄みがある。

 心優しい千歳お姉なんかは押しに弱そうだからな。大淀の話術に騙されてくれたのだろう。本当にすみません。

 

 しかし千歳お姉がこんなに落ち込んでしまったのは千代田の秘密が暴露されてしまったせいで、それは俺の提督の座を守る為に大淀が策を弄したせいだから……やはりこれも俺のせいだ。

 くそっ、何とか元気づけてあげたいが、なんて声をかければいいんだ。

 気の利いた言葉が思いつかずに悩んでいる俺に、千歳お姉は覚悟を決めたような表情で俺を呼んだ。

 

「……提督っ!」

「な、何だ」

「もう一度、私の性能を見て下さい!」

「エッ」

「私は、私はこの半年間、全く成長してなかった……! これが限界なんですか⁉ このまま千代田に追いつけないんでしょうか⁉」

「ア、アノ」

 

 千歳お姉は両手を膝の上に置いて、まるで医師の診察を受けるかのように胸を張った。

 細い両腕に挟まれ、図らずもその爆乳が更に強調される形となる。

 やはり無理をしているのであろう。頬を朱に染めながらも、一切の曇りなきその双眸は、俺の目をじっと見据えている。

 隣の席に座っている俺と千歳お姉の距離は僅か数十センチ程度。

 俺は耐えきれなくなって、その爆乳に視線が吸い寄せられる前に瞼を閉じた。

 こんな至近距離でお姉のパイオツを目にしては冷静な判断などできやしない。

 腕組みをして、閉じられた視界の中で考えを巡らせる。

 

 おちょちょおちょ落ち着こう……!

 心を平静にして考えるんだ……! こんな時どうするか……。

 落ち着くんだ……素数を数えて落ち着くんだ……。

 素数は一と自分の数でしか割れない孤独な数字……友達のいない俺に勇気を与えてくれる……。

 3.14159265358979……違う、これは円周率だ。

 駄目だ、π(パイ)が頭から離れねェ……!

 

 くそっ、落ち着こう。気を紛らわさねば。よし、パイオツから離れて心を落ち着かせる為に、ここで謎かけをひとつ……よし、整いました!

 えー、千歳お姉のパイオツと掛けまして、着弾観測に必要不可欠、と解く。

 その心は? 水偵(吸いてェ)‼ おあとがよろしいようで……いや全然よろしくねェ……!

 つーかお題の時点でパイオツから離れられていねェ……!

 ドスケベ大喜利を開催している場合ではない。

 

 くそっ、もうパイオツの事を忘れるのは諦めよう。

 残念な状態の頭で思考するしかない。

 千歳お姉は何を言っているんだ。もう一度性能を見ろという事は、つまり、エッ、胸を⁉

 この至近距離で⁉ やだ、股間から燃料が溢れちゃうよぉ……。いや先走っている場合では無い。

 

 つまりどういう事だ。

 大淀が俺の視線にはそんな能力があるのだと薄い本じみたアホみたいな説明をし、千歳お姉がそれを信じ、千代田との性能差に悩んでいる以上、このような展開も想定内……!

 うまくやれば服が邪魔だと言って、医師の診察のごとくはだけさせる事も可能……!

 つまり合法的に千歳お姉のパイオツを……いや、パイオツどころかビーチクを……いや、お姉だけではなく――!

 お、大淀アイツ、昨夜の歓迎会で任せてから僅か半日足らずで艦娘達のパイオツを、つまり金剛のビーチクを合法的に得られる状況を作り出して――⁉

 青葉による盗撮という手段は使わず、交渉担当の明石と夕張に頼るまでもなく、アイツ一人で……!

 もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな。

 

 何なんだアイツは……! 完全に想定外であろう俺の無茶振りを利用して、いとも容易く任務完了しやがった……!

 変態司令部より入電! 提督、作戦成功しました。流石です!

 智将を自負する俺ですら足元にも及ばない知略、そして明石によれば腕っぷしも強いらしい……。

 おそらく戦闘時には完全催眠や過去改変レベルの話術に頼るまでもなく、単純に強いのだろう。

 先ほど見た通り、赤城に加賀、那智に神通、あの長門ですら逆らえないレベルだ。隙が無さすぎる。『全知全能(ジ・オールマイティ)』の称号を与えよう。

 そう、これが本当の、大淀型の力よ! 大淀型マジパナイ。

 そのまま俺の最悪の未来も改変してくれまいか。

 

 それはともかく、よっしゃあああっ! そうと決まれば話は早い!

 御言葉に甘えてさっそく千歳お姉の願いに応えねば――!

 薄い本で見た通り、やはり正確に性能を計るには見るだけでなく触れる事も肝心! 触診不可避。

 ここはMO作戦、いやAL/MI作戦……いや、名付けてMO/MI(モミモミ)作戦! 発動‼

 お前の運命(さだめ)は俺が決める!

 変態認証! お姉の乳を揉メッテオ! Ready⁉ OK! 理性崩壊(リミットブレイク)! ホーッ! ホワチャァァーーッ‼

 

 いや待て。だから落ち着くのだ。理性崩壊(リミットブレイク)してはイカン。

 一度冷静になって考えてみろ。

 大淀が俺にとって理想的な状況を作り上げてくれたとは言え、実行に移す事は本当に正解なのか?

 

 まず、俺が煩悩に従って目を開けたとしよう。

 前提として、巨大な質量を持つ物質には強い引力が発生するという自然の摂理がある。

 街中で巨乳の女性とすれ違う瞬間、巨乳の女性が前かがみになった瞬間、男の目はその意志に関わらず自然とそれに引き寄せられてしまう。これをパイ有引力の法則と言います。

 つまり千歳お姉のパイオツを乳球、いや地球に例えれば、俺の眼球は月のようなものだ。

 この至近距離で凝視したが最後、煩悩という引力に逆らう事が出来ず、千歳お姉のパイオツの周りを周回する衛星のごとく視姦し続ける事になるだろう。

 そんな俺を見て、千歳お姉はどう思う?

 いや、千歳お姉だけではない。今、この場には俺のマンマ間宮さん、一航戦すら恐れる大鬼鳳翔さん、あとついでに伊良湖もいる。

 大淀は俺の視線に理由をつける事であの場を切り抜けたが、本来そんな能力は無い。

 にも関わらず俺に再び視姦されただけの千歳お姉は、今度こそ俺に幻滅し、大淀の話術をもってしても二度と俺に近づいてくれなくなるだろう。

 間宮さんも同様かもしれない。考えただけで死ねる。鳳翔さんはキレるかもしれない。赤城のビンタどころでは無い。伊良湖は知らん。

 

 いや、この至近距離、しかもここまで合法的に好き放題できる状況……おそらく俺は見るだけで満足できない。

 つーかここで冷静にならなかったら完全に勢いのままに揉む気だった。

 酒は入っておらずとも、性欲のあまり、俺の中の俺(フルティンコ)が目を覚ます可能性もある。

 瞼を開けてお姉のパイオツが視界に飛び込んできた瞬間、俺の中の俺(フルティンコ)それ(メロン)にダイブし、「うわっ! プリップリやないか!」「甘ーい! 果物より甘いですよコレ!」「甘露! 甘露!」「爆乳キタコレ! ウマー!」と食レポを行う可能性が無きにしも非ず。水偵(吸いてェ)

 

 そんな事になってみろ。

 俺が幻滅されるだけならばまだいい。問題は、俺をフォローしてくれた大淀さんの顔に泥を塗る羽目になる事だ。

 大淀は俺がやろうと思えば好き放題できる状況を作ってはくれたものの、実際に好き放題したら千歳お姉から俺への好感度が終わる。

 俺の視線に性能を計る能力など無いと判明すれば、大淀が説明した事も出まかせである事が決定し、無能提督()の陰から暗躍するという大淀自身の黒幕ムーブにも確実に支障が出るであろう。

 俺からの無茶振りに対して大淀が行った仕事はパーフェクトだ。文句の言いようが無い。

 だがそれを他ならぬ俺が台無しにしてみろ。

 堪忍袋の緒が切れた大淀さんは俺をばっさりと切り捨てた後、前髪を掻き上げ、眼鏡を外して握り潰し、「私が天に立つ」とか言い出しかねん。

 俺はあくまでも大淀にとって都合の良い傀儡(かいらい)……だからこそ、ここまで庇われている。

 だが、不要となればいとも容易く切り捨てられる……俺はおそらくその程度の存在だ。

 大淀さんの意図を読まねば生き残れない……! 先を見据え、大局的な視野を持ってこその智将……!

 

 父さんの教えを思い出せ。俺の名は貞男。

 清く正しく節操を守り、どんな誘惑や困難にも負けない男。

 一時的な衝動に負けてしまう、弱い心を持つな。

 ここで俺がその気になれば、確かにお姉のパイオツを思う存分堪能できる。

 だがそれと同時に俺の人生も夢も終わりを告げる。

 もうこれで終わってもいい。だから、ありったけを――その考えじゃ駄目だ。

 お姉のパイオツは確かに魅力的だが、それだけでは俺の欲望は満たされない……。

 千歳お姉はあくまでも俺の求めるハーレムの一人なのだから。

 最終的な(ハーレム)の為ならば、目の前の性欲に囚われず、下心を忘れて生きていけるはず。

 要らない持たない夢も見ない、フリーな状態……。

 いけますって! ちょっとのお金と、翔鶴姉のパンツがあれば!

 そう、翔鶴姉のパンツが俺の明日だ。

 大淀もある意味で俺の欲望の大きさを信じたからこそ、このような策を立てたのではないだろうか。

 

 あのアホはこの程度では満足しない。

 もっと貪欲に夢を目指すはずだ。

 だから、たとえ合法的に好き放題できる環境が整ったからといって目の前の衝動には流されない……。

 そのくらいの判断力はあるはずだ。

 もしも私の期待を下回る、その程度の男だったら――私が天に立つ、と。

 俺は閉じられた瞼の裏で白目を剥いた。アカン。

 

 よ、よぉし、よぉし……! お任せ下さい! お任せ下さい‼

 貴女の傀儡にして操り人形、この神堂貞男にお任せ下さい! フフフ。一応提督。

 

 覚悟を決めてカッと目を見開くと、俺の様子を観察していたのであろう、緊張したような面持ちの千歳お姉とばっちり目が合った。

 やはりこのまま胸を見てしまえば、千歳お姉からは丸わかりだ。下心も隠しきれないだろう。

 俺は自分自身を繋ぎとめるように、しっかりと千歳お姉の目を見据えた。

 覚悟を決めたように唇を小さく噛み締めた様子の千歳お姉であったが、俺はそれどころではない。

 視線が下に行く前に、何とか千歳お姉を励ますべく、しかしノープランのまま、慎重に言葉を紡ぐ。

 

「千歳。お前の問いについては、その……答えかねる」

「……そう、ですか……」

 

 千歳お姉はしゅんと目を伏せてしまう。

 根拠の無い適当な慰めでは駄目だ。強くなれるなんて適当な事を言ってそれが当たらなかった時、俺の目が節穴だとバレてしまう。

 どうとでも取れるような曖昧な言葉ではぐらかしつつ、何とか励まさなければならない。

 とりあえず安定の黙秘権を発動した。

 何と言えばいいのか俺が言葉を探している内に、千歳お姉はだんだんと肩を震わせ、目に涙を浮かべ――そして不意に椅子から立ち上がった。

 

「も、申し訳ありません……っ! 私っ、まだ自分の力を引き出せてないんじゃないかなんて思ってっ、千代田が出来たんだから私も出来るなんて思って……っ! ただの、怠慢だったのに……! 私、私っ……! しっ、失礼します……っ!」

 

 い、いかん! 言葉に迷っていたせいで千歳お姉を不安にさせてしまった!

 千歳お姉はこの場から逃げ出すように、足早に店の出口へと向かう。

 俺も慌てて立ち上がり、そして思わず千歳お姉の手を掴んだ。

 

「まっ、待て! 私の話はまだ終わっていない!」

「いいんです! 提督の目を見ればわかります! 私に秘めた力なんて見えなかったんだって事は!」

 

 いやそれは秘めた力が無いからじゃなくて、本当に見えてないだけだよ!

 俺に手を掴まれているにも関わらず逃げ出そうとする千歳お姉を止めるべく、俺はその両肩をしっかりと掴んで俺の正面に向き直させた。

 何を言えばいいかも決まっていなかったが、勢いのままに言葉を続ける。

 

「落ち着け! 確かに、今の千歳にはそんなものは見えなかった。しかし、しかしだ。千歳、たとえ今、千代田の方が一歩先を行っていたとしてもだ。それでも、それでも私は、私の中では、お前の方を高く買っているんだ」

「えっ……な、何で……」

「決まっているだろう。お前が千代田の姉だからだ」

 

 千代田の方が巨乳だろうが軽空母だろうが、そんな事は俺にとってはどうだっていい。

 俺ランキング・横須賀十傑衆第四席という、あのラブリーマイエンジェル翔鶴姉すらも超える位置にいるのは伊達じゃない。

 それは決して胸の大きさランキングなどでは無いからだ。

 巨乳レベルで言えば上位に入る榛名達や千代田がランクインしていない事がそれを示している。

 千歳お姉の魅力は爆乳もだが、あくまでも姉属性、そしてその優しく大らかな内面、包容力によるものが大きい。

 それはどんなに強化されようともシスコンの千代田では決して辿り着けない境地で、いや何で俺の好みの話になっているんだ。我ながら意味がわからん。

 胸を見ないようにする事に必死すぎて、肝心の励ましについては全く考えていなかった。凹む。

 

「私が、千代田の姉だから……」

「う、うむ。千歳は、その、やはり姉として妹には負けてられないという気持ちがあるのではないか」

「……はい」

 

 目をぱちくりとさせながら言葉を漏らした千歳お姉に、俺は話を逸らすように言葉を続ける。

 

「その気持ちは私にもよくわかる。その、実は私も長男でな。妹が四人いるんだ。兄らしくあろうと考えてはいるのだが、なかなかうまくいかなくてな」

「……提督でも、ですか?」

「あぁ。妹達は私よりも要領が良かったり、頭が良かったり、足が速かったり……皆、私よりも秀でたものを持っていてな。兄妹の中では私が一番劣等生だな」

「て、提督が一番劣ってるんですか⁉」

「う、うむ。学生時代の成績から比較すれば、私が最も出来が悪いな」

「提督が一番出来が悪いんですか⁉」

 

 千歳お姉は何故かオーバーなリアクションを取った。

 そうか、千歳お姉は姉だからこそ妹には負けたくないという向上心の持ち主。

 兄妹の中で最も劣っている男が自分達の上官などと聞かされては、このような反応も当然であろう。凹む。

 

 実際のところ、妹達は俺よりもかなり才能に溢れていると思う。

 歳が離れているからこそ、母さんが亡くなった後にはしばらく俺が料理を作っていたが、最初は失敗ばかりだった。

 その後、俺が就職するまでに妹達に料理を教えてやったのだが、四人とも飲み込みが早く、一度教えたら二度と失敗しない。

 俺のように焦がしてしまったり、形が崩れてしまったりという事はなく、今では末っ子の澄香ちゃんですら普通に俺を超えていると思う。

 四人とも家庭科の成績はいいのだ。

 千鶴ちゃんは学年トップクラスに頭が良かったし、明乃ちゃんは友達が多いし、美智子ちゃんは現在リハビリ中だが兄妹で一番足が速かったし、澄香ちゃんは人一倍正義感が強い。

 俺には秀でたものは何も無い。

 智将を気取ってはいるが、それは悪知恵や小賢しさとでも呼ぶべきものだ。

 何も良いところが無いなりに、せめてもっと人に優しくなりたいと思ってはいるが、それも全然出来ている気がしない。

 兄妹の中で飛び抜けて一番エロいとか一番クズとか言う事は出来るだろうが、それはつまり最低という意味である。

 

「皆、私よりもしっかり者に育ってくれてな……私が頼りなさ過ぎて、自分がしっかりしなければならないと思ってくれたのかもしれない。千代田が千歳よりも先に次の段階へと進んだのも、案外そういう事かもしれないな」

「……私が頼りなかったから、ですか……」

「い、いや、千歳に限ってはそうは思わない。姉の存在を意識して、という事だ。その、千代田は千歳に対して強い対抗心を燃やしているらしいと聞いてはいるのだが……実際、そうなのか」

 

 オータムクラウド先生の作品『千代田に怒られちゃうから、黙っていて下さいね(千歳本)』『千歳お姉には内緒よ(千代田本)』から得られた知識である。

 千歳お姉が自分の意思で提督とイチャイチャするのとは違い、千代田は提督への嫉妬と千歳お姉への対抗心から、「この任務、千歳お姉にはさせられないわね……私がやらないと」と提督からのエロ任務に自ら足を踏み入れるという展開が濃密に描かれている名作だ。最終的には姉妹丼になる。いつもお世話になっております。

 

「よく……御存知ですね。はい、千代田はいつも、私に張り合ってきて……でも、私も千代田には負けてられないって思ってて……お互いに切磋琢磨できている、そう思っていました。でも、私は千代田について行けずに……姉失格です」

「千歳が姉失格なら、私も兄失格だ。しかし、失格で終われば楽なのだが……それでも辞める事が出来ないのが、先に生まれた者の辛いところだな。たとえ妹の方が優れていようと、それでも私は妹達の兄であるし……千歳も千代田の姉なのだ」

「姉である事は、辞める事が出来ない……?」

「うむ。先に生まれたその瞬間から、ずっとな。だからこそ、私は千歳の事を高く買っているんだ。千歳は、千代田には無いものを持っていると思う。落ち込む気持ちは私にもよくわかるが、だが、その、なんだ。とにかく、泣かないでくれ……」

 

 ノリと勢いとライブ感だけで言葉を続けた結果、最終的に自分でも何が言いたかったのかよくわからなくなってしまった。凹む。

 何とかうまい事誤魔化そうとしたはいいが、結局俺の好みの話に終着してしまっている……。作戦失敗!

 くそっ、俺に大淀の頭脳の1%でもあれば……!

 しばらく考え込んでいる様子の千歳お姉であったが、自信無さげに目を伏せながら小さく呟く。

 

「……提督の仰っている意味がよくわかりません……」

 

 でしょうね。俺もよくわかりません。本当に申し訳ない。

 くそっ、何の身にもならない話しか出来なかった。これでは満潮の時の二の舞ではないか。

 俺の頼りなさに呆れ果てたのか、やがて千歳お姉の俺を見る目がだんだんとジト目になっていく。

 そして俺を責めるような、少しトゲのある口調で言ったのだった。

 

「それに……提督ぅ? 触っていい、とは、一言も言ってませんけど?」

「あっ、すっ、すまんっ」

 

 俺は慌てて千歳の両肩から手を離した。

 しまった、珍しく今回はそんな気は無かったというのに、これでは完全にセクハラ……!

 気の利いた言葉も言えず、出てきた言葉は意味の分からない俺の好みの暴露……おまけにボディタッチまで……!

 ち、違うんだ、これはつい出来心で……! いや違う、必死すぎてつい……!

 だ、駄目だ、千歳お姉と言えども、流石にこれはアウト……。

 完全に嫌われた……やっちまった。ガチで凹む。

 

 俺が額に手を当てて悔やんでいると、千歳お姉はまるでいたずらをした子供に向けるような表情で俺を見ながら息をついて、言ったのだった。

 

「……ふぅ、仕方ない。今だけ特別ですよ? でも、千代田に怒られちゃうから、黙っていて下さいね。ふふっ」

 

 お姉~!

 トゲのある口調は、どうやらからかわれていただけらしい。

 俺のド下手すぎる謎の話で励まされるわけもなく、まだ落ち込んでいるだろうに、気丈に振舞ってくれている。優しすぎる。頼りなさすぎる俺に対してこの対応。

 大淀の話術により若干好感度を操作されている感もあるが、これもお姉の人柄あっての事だろう。

 この大らかさ、優しさ、包容力は間宮さんにも匹敵する。第四席の貫禄を見せつけた形だ。強い……。

 千歳お姉が魅力的すぎて見惚れてしまいそうになったので、俺は咳払いをして顔を逸らした。

 間宮さん達の視線も感じるので、やはりここで手を出さなかったのは正解だったのであろう。

 

 千歳お姉は指で涙を拭い、小さく微笑む。

 

「とりあえず、泣くのは止めます。提督ですら、同じ事で悩んでいるんですものね……提督が仰った意味はまだわかりませんが……よく考えてみますね」

「あ、あぁ。ありがとう……」

「ふふ、なんで提督がお礼を言うんですか……それは私の――」

「わぁぁーーっ!」

 

 千歳お姉が何かを言おうとしたところで、大きな泣き声と共に何かが勢いよく店内に駆けこんできた。

 ラブリーマイエンジェル翔鶴姉であった。

 何⁉ 今度は何なの⁉




大変お待たせ致しました。
何故か予定を遥かに超えて無駄に長くなってしまったので、分割します。
第四章はちょっと日常回が多めになっています。

そろそろ冬イベが近づいてきましたね。
我が弱小鎮守府はイベント前にも関わらずサラトガ狙いの大型艦建造で軽空母を量産してしまった為、大急ぎで備蓄の回復に取り組んでおります。
小規模イベとの事ですが、提督の皆さんも共に頑張りましょう。
年度末で執筆の時間の確保が難しい毎日ですが、次回も気長にお待ち頂けますと幸いです。

※どうでもいい裏設定
【神堂兄妹の好きな食べ物】
・千鶴ちゃん:お兄ちゃんが作ったカレー(野菜たっぷり)
・明乃ちゃん:兄貴が作った唐揚げ(たまに焦げている)
・美智子ちゃん:さだにぃが作ったハンバーグ(たまに崩れている)
・澄香ちゃん:おにぃが作ったオムライス(たまに卵が破れている)
・提督:母さんが作ってくれたカレー(甘口)

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