これは『無個性』な緑谷出久が『無個性』なまま足利茶々丸と一緒にヒーローになる物語。
僕のヒーローアカデミアと装甲悪鬼村正のクロスです。せっかく無個性という特徴を持っているのなら無個性のままヒーローを目指して貰おうという話です。

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僕と君のヒーローアカデミア

『個性』……一般的に四歳までに発現する特殊能力。

『無個性』……個性が発現しない者。圧倒的少数派。

『ヒーロー』……個性を用い、犯罪を行う(ヴィラン)を退治する者達

 

 緑谷出久はヒーローに憧れる無個性だった。いつかヒーローになる、そんな夢を無個性という現実が押し潰そうとする。その現実を半ば受け入れざる負えない状況にありながら、それでも彼はこう呟く。

 

「ヒーローになるのに個性なんて関係ない……!」

 

 茶々丸と出会ったのはまだ夢が叶うと疑う事もなかった頃の事だった。No.1ヒーロー、オールマイトに憧れ、ヒーローになれると純粋に信じていた。そんな頃に緑谷出久と足利茶々丸は出会った。当時の彼女はごく普通の女の子だった。

 

 四歳、それが緑谷出久と足利茶々丸の転機だった。出久も茶々丸も個性の発現が遅い方だった。次々と個性を発現させていく友達。それでも茶々丸がいたからおかしな事だとは思っていなかった。

 

 そして現実を突き付けられた。医者に個性が発現する可能性がないと言われたのだ。ショックだった。そのショックが冷め切らない内に次が訪れる。茶々丸の個性の発現だ。茶々丸の個性の発現は唐突だった。彼女は突然倒れ、そのまま病院に運ばれた。こういう事はたまにあるらしいと後から知った。その時は茶々丸が死んでしまうのではないかと不安になったものだ。個性を発現したと聞いた時は深い安堵と少しの絶望感を感じた。世界に一人取り残されたように思えたのだ。それでもヒーローになる夢は諦められなかった。

 

 無個性だという現実を呑み込めるようになった頃、茶々丸が退院した。だが彼女は変わってしまっていた。ごく普通のあまり印象に残らない少女だった茶々丸は昏く沈んだ目をするようになっていた。個性が発現した事で文字通り世界が変わってしまったのだ。人付き合いが悪くなった茶々丸は孤立し始めていた。それが許せなかった。

 

「ねぇ」

「あん?なんだデクか……あては話したくないんだけど」

 

 デクという蔑称で呼ばれた事に一瞬動揺する。これまで茶々丸はその名で出久を呼ぶことはなかったのだ。話しかけて一言目で感じる拒否感。それでも出久は一歩踏み出す。

 

「君が助けを求める顔をしてた」

「ハァ?」

 

 昏く沈んだ目、何かに耐えるような表情、そして時折、助けを求めるように彷徨う瞳、緑谷出久はそんな表情をした者を見捨てることなどできなかった。

 

「僕に何ができるか何て分からない。それでも……君を助けたいんだ」

「嘘……じゃないな。聞こえちまった。純粋な声してるじゃないか」

「聞こえた?」

「ハァ、諦めるつもりもないってか?」

 

 分からない。でも頷く。諦めるつもりなんて全く無かった。

 

「……あてに個性が発現したって言うのは知ってるな?」

 

 再び頷く。それが茶々丸が変わってしまった原因だという事も分かっている。

 

「あての個性は『感覚共有』、」

「感覚共有?」

「そう」

 

 感覚共有、テレパスヒーローサイコ・キャットのような個性だろうか?彼はその能力から大規模災害での指揮や被災者の探索で活躍している。

 

「ちょっと、違う。あてのは無差別(・・・)な読心能力とそれで得た情報を相手に共有することができるんだ」

「凄い……いや、無差別って事は制御できてないって事?」

 

 茶々丸が苦い顔で頷く。ということは個性の制御ができるようになれば良いのではないだろうか?

 

「出久、覚悟があるなら聞いてみるかい?あての世界を」

 

 一瞬、躊躇する、だが、ここで断るなんていう選択肢は出久には存在しなかった。茶々丸に頷きを返し、覚悟を決める。準備が整ったのを見て取ったのだろう。行くよ、と茶々丸が言う。

 

 何か――

 奥深くから、ひたひたと。迫り、押し寄せてくる、これ。

 ……人の声

 無数に、幾重にも聴こえてくる。

 いや……姿も?

 無数の人々の影……。

 これは聴覚?

 それとも視覚?

 ――――信号?

 

「あがッ――」

 

 情報!

 情報だ!

 氾濫する情報!

 余りにも多過ぎる。

 多大な音が、多大な光が、その全てが明確な意味を持って出久のもとへ殺到してくる。こんなもの……僕の脳は許容できない!!

 

「―――――――――」

 

 溢れ返る、

 溢れ返る、

 

 情報。情報。情報。情報。情報。

 溺れる。ただ激流に流される。

 これが――茶々丸の世界―――?

 

「これがあての個性の世界。情報の洪水。……出久?溺死しちゃってないだろうね?」

 

 輪唱、群像の中、茶々丸が語る。だがそれに答える余裕などない。ただただ流されないように必死にしがみつく。

 

 ソレ(・・)は唐突に終わった。おそらくそう長い事ではなかったのだろう。だが、一瞬が永遠にも感じられるような濃密な体験だった。

 

「……これ、が、茶々丸の世界……」

 

 ふらつく頭をかぶり振って、どうにか正気を保つ。そして思い当たる。茶々丸はこんな物に四六時中襲われているのだ。助けたい、その思いを新たにする。

 

 出久はすぐに行動を開始する。自分ではどうしようもない。その事実をまずは受け入れる。その上でどうすればいいのかを考える。

 

「助けを求めるしかない……」

「……誰に?医者はダメだった。その内制御できるようになるでしょうってさ」

 

 吐き捨てる茶々丸と視線を合わせ、出久は言う。

 

「会いに行こう。テレパスヒーローサイコ・キャットに」

 

 そう決意してからは早かった。まずは母を説得する。これは助けたいって気持ちを伝えるだけで良かった。拙く話が前後する出久の話を真剣に聞いてくれた母はまず抱きしめてくれた。

 

 そして、母の勧めでまずサイコ・キャットの事務所に連絡を取る。助けて、そう伝えただけで彼も動いてくれた。翌日には母に連れられて茶々丸とサイコ・キャットの事務所を訪ねる。

 

「やぁ、よく来たね僕がサイコ・キャットだ」

 

 受付に小さな会議室のような部屋に案内される。さほど待つこともなく穏やかそうな男が現れる。猫のひげのような物がピクピクと動いているのがかわいらしい。テレパスヒーローサイコ・キャットだ。

 

「茶々丸を、助けて!ください」

 

 椅子から立ち上がり、頭を下げる。その頭をサイコ・キャットが優しく撫でる。

 

「勇敢な子だ。他人のために必死になることができる、なかなかできる事じゃない。……もちろん助けるともそのために僕が来たんだ」

 

 サイコ・キャットを中心にサポート会社や他のヒーローの協力もあり、茶々丸はどうにか日常生活へと復帰することができた。その時に茶々丸に言われた言葉が忘れられない。

 

「……出久、ありがとう。出久はあてのヒーローだ」

 

 これが緑谷出久のヒーローとしての第一歩だった。無個性でも人の役に立つことはできる。そして出久は困った人を放って置くことなどできないのだ。

 

 

――――――

 

 

 中学三年になり進路を決めなくてはいけなくなった時、緑谷出久は迷わなかった。進学先の希望はNo.1ヒーローオールマイトの母校でもある雄英ヒーロー科一択だった。

 

 例え、その事をクラスメイトに笑われ、幼馴染である爆豪勝己に雄英を目指すなと脅されたとしても変わることはなかった。むしろ、ただ一人クラスで出久のことを笑わなかった茶々丸が何か考え込んでいることの方が気になったぐらいだ。

 

「……茶々丸、どうしたんだろう」

 

 学校からの帰り道、いつもなら一緒に帰る茶々丸はいつの間にかいなくなっていた。何か悩み事があるのなら一緒に解決したかったのだが、いないのなら仕方がない。そんな事を考えながら一人で歩いていた時の事だった。 

 

 ヘドロ状の(ヴィラン)と襲われた。為す術もなかった。取り込まれ掛けた出久は憧れのオールマイトに助けられることとなったのだった。出久には憧れのヒーローにどうしても聞きたい事があった。必死だった。颯爽と立ち去ろうとするオールマイトに抱きつき話をしようとした。

 

「個性がなくても、ヒーローは出来ますか!?」

 

 出久の事をヒーローだと言ってくれた人がいる。それでもやはり不安はぬぐえなかった。無個性な出久の事をヒーローだと認めてくれるそんな人はそうはいないと分かってる。それでも出久はオールマイトに訊きたかった。

 

「個性がない人間でも、あなたみたいになれますか?」

 

 そして出久は知る。オールマイトの真実を、平和の象徴の厳しさを。そしてオールマイトは告げる。

 

「……個性(ちから)が無くとも成り立つ、とはとてもじゃないがあ……口にできないね」

 

 憧れの存在から告げられる現実に出久は打ちのめされる。だが、それでも出久は立ち上がる。どれだけ困難だろうと、諦めるという道は既に存在しないのだ。

 

「茶々丸……」

 

 無性に茶々丸に会いたかった。困難な道行になることが分かっているからこそ自分のもう一つの原点を確認したかった。幽鬼のようにただ足を動かし帰路を行く。

 

 その道中、ヘドロの(ヴィラン)が暴れていた。その姿に驚愕する。そして理解する。自分のせいでヴィランを捕まえ損なったのだと。

 

「ヒーローなんで棒立ちィ?」

「中学生が捕まってるんだと」

 

 そんな声が観衆から聞こえる。その声に目を凝らす。

 

「茶々丸!?」

 

 ヘドロに取り込まれないように必死に藻掻いてる少女、それは茶々丸だった。幼稚園の頃からの幼馴染で今会いたいと思った相手。それがヘドロの中に垣間見えた。人混み野次馬をかき分け、最前列に向かう。

 

 そこに居たのは、やはり足利茶々丸その人だった。次の瞬間。彼女の顔が見える。気づいたときには、走り出していた。

 

(何で出た?

 何してんだ!?

 何で!!)

 

 他のヒーローに任せるべきだ、理性ではそう思う。だが、それでも足は止まらない。考える。どうすればいい?ヘドロ状の体には触れられない、狙うなら眼だ。眼までヘドロにしてしまえば何も見えなくなるからだろう、瞳だけはずっと出っぱなしだ。

 

 背負っていた鞄を投げつけ、中身をばら撒き、眼に当てる。自分を見失ったヘドロの懐に潜り込むと、ヘドロをかき分け茶々丸の腕を掴み引きずりだそうとする。動揺したのだろう。ヘドロのヴィランの拘束が緩み茶々丸が叫ぶ。

 

「出久!!」

「茶々丸!……君を、助けに来た!」

 

 その日、緑谷出久の運命が回り始める。

 

――――――

 

 足利茶々丸にとって緑谷出久はヒーローだった。苦しんでいる時に颯爽と現れ、無個性の癖に必死に救おうとする。そしてそんな出久の事が心配だった。出久は無個性でもヒーローになるだろう。だが、力なき正義は無力だ。未来が見えていた。

 

「茶々丸……本気かい?」

 

 あての師匠となったサイコ・キャットが尋ねる。初めてあった時は壮年であったサイコ・キャットも歳を取り、引退し後進の育成に専念するようになっていた。

 

「はい、あての本当(・・)の個性を出久のために使いたいです」

 

 サイコ・キャットの協力の元、分析と研鑽を続けていたあての個性。とあるヒーローの登場によってその本当の姿を露わになった。ワイルドワイルド・プッシーキャッツ――サイコ・キャットの娘も参加しているヒーローグループ――のラグドールが持つ個性『サーチ』の力だ。

 

「覚悟を決めているなら僕からは何も言うことはないよ……彼と一緒に頑張りなさい」

 

 そして、今、あては再び出久に救われた。物理的に救われた訳ではないかも知れない。それでもあてにとって出久が来てくれた事だけで十分だった。出久になら任せられる。

 

「出久!あてが出久の力になる!!縁はとっくに結ばれている!呼んで!出久。銘を!!」

 

――――――

 

 出久の心の中央。そこに一つの語句が思い浮かんだ。茶々丸がこれを求めているのだ、と理解する。出久はそれを舌に乗せ、唱えた。

 

「――――――虎徹」

 

 茶々丸が弾ける。弾けて散る。対象を失ったヘドロのヴィランが態勢を崩すのが目に映る。だが今はそんなことはどうでもいい。出久の周りを甲鉄が舞う。自然と力を溜めるように足を折り曲げ、腕をクロスする―――装甲ノ構(ソウコウノカマエ)

 

「獅子には肉を。狗には骨を。龍には無垢なる魂を

 今宵の虎徹は――血に飢えている」

 

 誕生する。流麗な鎧武者。圧倒的な存在感。沸き上がる万能感。

 そこには虎をモチーフにしたであろう甲冑が佇んでいた。

 背中に背負う二基の円筒状の物体、そしてたなびく紅いマフラーが印象的だった。

 

 

《さぁー、戦いだ!虎徹(あてら)の初陣だよ!出久――御堂!!》

「……うん」

 

 理解しきれていないことなど山のようにある。だが、それ以上に分かっている事もあった。茶々丸が自分の力になってくれたのだ。それだけ分かっていれば今は良かった。

 

(ヴィラン)はそこらのチンピラ、ヘドロ野郎。こんな奴あてらが勝つに決まってる!御堂、行ったれーーー!!》

「うん!」

 

 『架空(ゆめ)』は『現実(げんじつ)』に

 これは無個性な僕が無個性なまま茶々丸と一緒にヒーローになる物語。

 

 




足利茶々丸
個性:劔冑(つるぎ)

劔冑:超常の甲冑、ようはパワードスーツ。装甲悪鬼村正の世界で古来より戦場を支配した最強の兵器。 着用者たる仕手(して)熱量(カロリー)を消費し、生身とは比べ物にならぬ剛力を発揮し、 背中に装備された合当理(がったり)という推進器により空を飛ぶ。武者の飛行は『騎航』と言い劒冑の着用は『装甲』と言う。また、陰義(しのぎ)と呼ばれる超常の能力を備える物もある。茶々丸の陰義は感覚共有。


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