【Lily】
サンズに私が企てていることを全て話し、約束を取り付けた後、サンズのショートカットを使ってホテル前まで戻ってくる。
「ほら、ついたぞ」
「ん、ありがとね、サンズ」
お礼を言うが、そのまま彼は何も言わず、私をじっと見つめる。
「………何、何か私の顔についてる?」
流石に視線に耐えられなくなって訊けば、サンズは顔を顰め、一歩私に近付いた。
「……え、ほんとに何」
「……………お前さんは。さっき、『私みたいにならないで』と言ったな?」
「………うん、言ったけど……それが何さ」
サンズの質問の意図をよく読めないまま取り敢えず肯定しておく。すると、彼はギラッと左の眼孔に蒼い光を宿らせる。
「言われずともなってやるつもりは毛頭ねぇよ、この妹泣かせが」
それだけ一つ吐き捨てて、サンズは目の前から忽然と消えた。妹泣かせなのは私が一番分かってるよと言葉に出さずそう言い返し、私はホテルの前に立つ。
………さて、フリスクはホテルの中だったか。
サンズと話す前に聞いたことを頼りに、ホテルの中に入り込む。エアコンが効いて涼しいと思いながら、周りを見渡した。……あ、ガチでメタトンの噴水の構造こうなってんだ……もはや不良品の域にまで行ってないか、あれ。斬新過ぎにも程があるだろ。
そんな事を思いながら噴水の傍を通り抜け、エレベーター前を屯しているモンスター達を横目に、右に曲がる。そうして見えてきた部屋の奥から二番目の部屋のドアの前に立ち、ノックをする。
コンコンコン
「……フリスクー、入るよー」
一言声をかけてからノブに手をかけ、捻る。ガチャリという音を立ててドアが開いた。
「………あ」
部屋の中を覗くと、フリスクは広いベッドに身体を預けて寝転がっていた。疲れきっていたのか、すやすやと寝息を立てて眠っていた。
「……ん、ぁ、おはよ、お姉ちゃん」
そーっとフリスクを起こさないように部屋に入ろうとすると、フリスクがぱちりと目を覚ます。
「あぁ、おはよ、フリスク。よく眠れた? って言ってもまぁ、ほんのちょっとだったけど」
「うん、まぁね」
体を起こし、伸びをするフリスクに声をかけてみれば、そんな返答が返ってくる。
「どうする? もうちょっと休む?」
「ううん、行こう」
「ん、わかった」
フリスクは眠気を払うことも兼ねて首を横に振り、ベッドから降りて立ち上がった。二人で部屋から出て、部屋に鍵をかけておく。
「取り敢えず鍵返してくるね」
そう言ってパタパタと駆けていくフリスクについていき、途中で別れる。コアに繋がっているのであろう奥の扉の前で待っていると、少しすると鍵を返したフリスクが駆けてくる。
「お待たせ、行こう」
そう言ってフリスクは、ドアの取っ手に手をかけた。
――――――――――――――――――――
結構重かった扉を二人で開け、ドアを後ろ手で閉める。前を見てコアの外観を眺め、随分巨大なうえにメカメカしいなという感想を抱いた。……まぁ、これで地下世界全土の電力供給してるってるんだからこれぐらい大きくなきゃ足りなくなっちゃうわな。確かマグマの熱をエネルギー源にしてんだっけ。
「………ん?」
ふと見ると、何かの影が道の向こうに消えていったのが見えた。逆光であまり見えなかったが、十中八九メタトンに声をかけられたモンスター達だろうと見当を付ける。……そういえば思い出したけど、ゲームだったときの影って完全に人形だったのにエンカウントしたモンスター達は少なからず人形には見えないモンスターだったんだよなぁ、どうなってんだろ。
プルルル……
鳴り響く着信音でフリスクは携帯を引っ張りだし、電話に出る。
「……?」
そして一つ首を傾げてから頷き、すぐに電話を切った。
「アルフィスから?」
「うん、そうなんだけど……お姉ちゃん、さっき誰か居たよね?」
「あぁ、居たね」
「だよねぇ……」
んー?、と首を傾げるフリスクに荒んだ心が癒されるのを感じながら、私はフリスクに問い掛ける。
「……何か引っ掛かる事があったの?」
「いやね……アルフィスから聞いた話によれば、コアには誰も居ない筈なんだって」
「……待って。じゃあさっきのってまさかメタトンが用意した敵の可能性大?」
「うん、多分……」
「マジか、気を付けてかないとじゃん」
然り気無く会話誘導をしてフリスクにも警戒を促し、先に進む。
「うわぉ」
一本道を歩いて次のエリアに進むと、いかにもSFチックな近未来っぽい内装の部屋についた。これはテンションあがるなぁ。
プルルル……
また鳴り響いた電話にフリスクが出て、暫くすると切った。
「あのエレベーターで移動するんだって」
「ふーん……さっきホテルのエレベーターが止まってたの見かけたし嫌な予感しかしないのは私だけ?」
「安心してお姉ちゃん、ぼくもだから。それにぼくに至ってはレストランに居たモンスターからコアを弄くったっていう話を聞いてるから」
「おっと本格的にヤバい予感しかしない」
コントみたいなやり取りをしつつ、エレベーターの前にまで移動する。エレベーターを呼び出すボタンを押してみても、案の定反応しなかった。
「「やっぱり……」」
お約束の展開にお互い苦笑いしか出てこない。フリスクは取り敢えずアルフィスに連絡しようと考えたのか、携帯を取り出してボタンを押し、電話をかける。
「………」
無事アルフィスは電話に出たのか、フリスクは少ししてから電話を切り、笑顔で私に向き直る。
「迂回決定です、本当にありがとうございました」
「うんそんなことだろうとは思ってたよちくしょうめ」
「右側に行ってって」
最早メタトンは一発ぐらい殴っても許されるだろこの仕打ちはと思いながら、私は仕方ないと割り切って歩を進める。……確か、弄られて右側は進めなくなってるんだっけ?
そう思いながら右側の道に進むと、ただ真っ暗な闇が口を開けているだけで、何もなかった。
「あー、やっぱりか……」
またまた苦い顔をしたフリスクは握っていた携帯を弄り、また電話をかけた。少しすると電話を切り、振り返る。
「左の道から迂回しようってさ」
「うん、分かった。……というか、やっぱりフリスクが聞いた通り簡単には辿り着けないよう弄くられてるっぽいね。気を引き締めていこう」
「うん」
フリスクの手を引き、引き返してから左の道に進む。すると、フリスクの携帯が鳴り響いた。
プルルル……
直ぐにフリスクは電話に出て、アルフィスの話に相槌を打つ。その間警戒を解かずに待機していると、前からふわふわと魔女の帽子のような物が飛んで来る。それを見た私は、直ぐ様ポケットの中のナイフに手をかけた。
「フリスク、モンスターだ!」
「えっ!?」
フリスクが驚きの声をあげたと同時に、周りが白黒に切り変わる。
*
ポンッという音を立ててまるでマジックのように飛び出してきたマジック(であってるよね?)に向けてハンカチをつけたままのナイフを取り出す。
ピッというターンを進める音が響いた。
*MADJICK-ATK 29 DEF 24
*
『ちちんぷいぷい』
……それって他のモンスターと会話出来んの……?
アナウンスで流れた紹介文の部分を聞き、そんな事を思いながらそのまま此方に飛来する変なボールをナイフで弾き返す。これは確か、そのままその場に十字架型の弾幕が残るような弾幕だった筈だ。
私の予想通り、弾き返した瞬間ボールがあった場所に十字架が出現し、少ししてからすーっと消えていった。
*
少し間が空いた後にピッという音がして、ターンが回る。
*
*
そのアナウンスが流れた瞬間、その場で何度も回った後みたいにぐるぐると視点が回り、定まらなくなってくる。……うわ、まずい。
*
『アラカザム!!』
それでも1なのか、と思いながら、飛んで来る十字架の弾幕を定まらない視点のまま叩き落としていく。一発対応が遅れ、足を掠めていった。
*
ぐらぐらと揺れる視界の中で何とかフリスクの姿を捉え、『MERCY』を押すのを見守った。
*
*
戦闘が終わり、周りに色が戻ってきたところで目蓋を閉じたり開いたりして何とか視界を定めようとする。ひっでえ眩暈だな。何時ぶりだこんなに酷いのは。
「お姉ちゃん大丈夫……?」
私が視界を元に戻している内に電話が終わったのか、フリスクが心配そうな顔で訊ねてくる。
「ん、へーき。もう治ったよ」
「……なら、いいんだけど。行ける?」
「うん。先に進もう」
まだ心配そうな顔をするフリスクに手を引かれ、少し覚束ない足取りで次の部屋に進む。
「………ここは」
次の部屋に来て設備を見て、何となくレーザーの中を通り抜ける部屋だったかと思い出した。それと関連付けてアルフィスの言う順番とは逆のレーザー光線が来るんだとも思い出す。
「お姉ちゃん大丈夫? 起動するけど………いける?」
「平気だってば。もう、心配症だなぁフリスクは」
私が部屋について思い出しているうちに電話は終わったらしく、フリスクが携帯片手に話しかけてくる。その心配を頭を撫でて誤魔化し、私は話を振る。
「どんなギミックだって?」
「えっとね、あのボタンを押したら起動して、オレンジ、オレンジ、青の順番でレーザーが来るんだって。その中を通り抜けるんだって」
「成る程、ありがと」
原作通りの展開に安堵して、気を引き締める。……失敗したら大事故だ。絶対に回避しなきゃ。
「……じゃあ、行くよ?」
「うん」
携帯を持ったままボタンに手をかけたフリスクの反対の手を然り気無く繋ぎ、何時でも引っ張れるようにしておく。
「えいっ」
カチッ
という音と共に、目の前のガードが消え、青、青、オレンジのレーザーが迫ってくる。
「えっ」
アルフィスから聞いていたものとは違う順番だったことに驚いたのか、フリスクが目を見開いて固まった。それを利用して青のレーザー部分だけは止まり、オレンジが来た瞬間手を引いて廊下を走り抜けた。
「………あっぶね」
取り敢えず咄嗟に対応出来たようにする為にそう呟き、フリスクの方を見た。
「…ねぇフリスク、アルフィスはオレンジ、オレンジ、青って言ったんだよね?」
「…………うん、そのはず、なんだけど……」
困惑しきった顔でそう言ったフリスクに私は顔を顰め、繋いでいた手を離して、差し出す。
「携帯、アルフィスに繋いで貸して」
「え、うん……」
私の指示に従ってフリスクは携帯を少し弄ると、差し出してくる。それを受け取り、耳に宛てた。
プルルル………
「………もしもし、アルフィス?」
『え、あ、リリー?』
「そうだよ。……ねぇ、さっきオレンジ、オレンジ、青の順番ってこの子に言ったんだよね? 全く逆のレーザーが来たんだけど……」
取り敢えずそう言えば、電話越しでヒュッと息を飲む音が聞こえた。
『そ、そんな。大丈夫?』
「ん、まあね」
『ご……ごめんなさい、私間違った順番を言っちゃったわ。……で、でも、何とかなる、よね? さ、さぁ、気を取り直して先に進みましょ』
「あぁ、待って」
そう言って急いで電話を切ろうとしたアルフィスに待ったをかけ、小声で電話越しに囁いた。
「………一個だけアドバイス。口裏合わせを頼む相手は見極めた方がいいよ」
ガチャン……
そう一言一方的に言って電話を切り、フリスクに携帯を返す。
「ありがと、もう大丈夫」
「なんの話だったの?」
「ん、いや、ちょっとね。さて、行こうか」
フリスクの追求を誤魔化して避け、次のエリアに進む。次はただの分岐だった筈だから安全かな?
プルルル……
さっき返した携帯から着信音が響き、フリスクがまた電話に出る。
「………」
アルフィスから電話越しで指示があったのか、フリスクは真っ直ぐ進もうとして、困惑したような顔でその場に立ち止まってしまった。
「どしたの」
「……何か、アルフィスの指示が全く違うこと言ってて……」
「最初はどっちって?」
私が訊けば、フリスクは真正面に続く道を指す。
「………私は別にどっちでもいいよ。フリスクが選びな」
私の一言にますます困惑したような顔をしてからフリスクは考え込み、結局は真正面の道を選んだ。正解を選んだな、と思いながら後をついていく。
「うっわ」
道の先にあった動き回る大量のレーザーの壁にげんなりする。分かってはいたけど殺しにきてるなぁという感想を抱きつつ、アルフィスと電話をするフリスクを見る。……うーん、やっぱり怖いし抱えあげて一気にいった方がいいよなぁ。
「お姉ちゃん、アルフィスがこのレーザー、部屋の電気を落として止めてくれるって。その間に通り抜けよう」
そんな事を考えていると、携帯から少し耳を離したフリスクからそう提案される。
「ん、いいよ。……でも二人で走るとちょーっと時間かかりそうだから抱えあげていっていい?」
「……分かった」
少し間が空いた後、フリスクは頷いて私の傍にやってくる。フリスクをそっと抱えあげると同時ぐらいに、部屋の電気が落ちて薄暗くなる。
『よし、行って!』
「いくよ」
アルフィスの指示がスピーカーにされていたのであろう携帯から聞こえ、フリスクに一声かけてから廊下を駆け出す。少しした後、携帯の着信音が鳴り響いた。
『ま、まって! 止まって!』
フリスクがボタンを押した途端に悲鳴のような声が携帯から流れ、このタイミングかと足を止める。すると切られた筈の部屋の照明が点灯し、レーザーが復活して体を通過する。電源が復旧したのだと明確に分かった。
『で、電源が……自動復帰した。どうしよう……こ、こんなの想定してな……その……』
メタトンとの打ち合わせではこんなことをする予定では無かったのだろう、アルフィスの困惑したような声が電話越しに聞こえる。少しの間悩んだような間が空いてから、またアルフィスの声が流れ出した。
『えっと、また電源を落とします。それで、電源が落ちたら少し進む、復帰したら止まる、落ちたら……って感じに……け、ケガしないでね』
「了解」
アルフィスの指示に返事を返すと、電話が切れる。その瞬間電源がまた落ち、部屋が暗くなる。今度は注意を払って早足で進む。部屋の照明が点滅して明るくなる瞬間に足を止め、やり過ごす。体を何かが通り抜けていく感覚が消えて照明が落ちた瞬間また歩き出し、これを繰り返して確実に進んでいく。二、三回繰り返した所で道をやっと道を通り抜け、安堵の息を吐く。
「ふぅっ……何とかやり過ごせたね。フリスク、怪我はない?」
「うん。……あ、お姉ちゃん、降ろして?」
「はいよ」
プルルル……
フリスクをそっと地面に降ろすと、フリスクは携帯を弄り、アルフィスに電話をかける。多分もう制御しなくて大丈夫だと伝える為だろうなと考え、何もせずに見守る。呼び出し音が一つ流れた後、アルフィスに電話が繋がったのか、フリスクの言葉が聞こえなくなった。
「…………。よし、終わったよ。行こう」
少し話すと電話を切り、すぐに先を歩くフリスクの後をついていく。廊下の壁や天井を見ながら、そういえばこのコアって一日でアルフィスの持ってる地図が役に立たなくなるほど改造されたんだよなと思い至る。絶対に突貫工事だった筈なのに地下世界の電源が落ちてないって……え、モンスターの技術力高すぎない? 最早人間の技術越えてね?
そんな事を考えて愕然としてから前を見ると、またフリスクが携帯を耳に宛てて電話をかけていた。それを追い越して十字路の真ん中辺りに立ち、取り敢えず警戒も兼ねて辺りを見渡しておく。バタフライエフェクトでモンスターが配置されてたりしたら不味いし。
警戒しながら道の先を見てもモンスターの陰は見えず、取り敢えず安全そうだと判断し、電話を終えて携帯をしまい、セーブポイントの光に手を伸ばすフリスクに声をかける。
「モンスターはいないみたい。……さっきからアルフィスのナビが言い方が悪いけど役に立ってないし、これは完全に改造されたと見てよさそうだね」
「そうだね……ところで思ったんだけどさ、コアが改造されたのって少なくともぼくたちがこの地下世界にきてからだよね? ここの技術どうなってるの……?」
「それな」
先程の私と同じ考えに辿り着いて困惑したような顔をするフリスクに全面的に同意しておく。フリスクは首を傾げながら空中に手を彷徨わせ、セーブを行う。
「終わったよ」
「分かった、行こうか。……さて、どっちに進む?」
少ししてからセーブを終えたフリスクが傍にやってくる。その手を引き、選択肢を提示した。