守りたいもの   作:行方不明者X

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※支離滅裂です


100.地下で起こった物語

【Lily】

 

暫く泣いて、冷静を取り戻せたらしいフリスクが、ゆるゆると顔をあげる。

 

「………ひっく、ごめんなさい……」

「ん、いいよ。落ち着いた?」

「………うん」

 

頭を撫でて、目尻や頬を伝う涙をそっと拭ってやる。拭っている間、泣き止んだばかりでまだ潤んでいる瞳が私を見上げていた。やっぱりこの子に泣き顔は似合わないなと思いながら、跡が残らないように丁寧に拭った。

 

「これでよし」

「……ありがと」

「どういたしまして」

 

拭い終わると、フリスクは私から離れ、ぼーっと虚空を見つめる。そして、少ししてから力無く立ち上がった。

 

「………行こう」

「もう、大丈夫?」

「……うん」

 

大丈夫じゃないなこれは。

姉としての勘と短い問答でそう予想する。泣き止んで直ぐとはいえ、嫌に目が据わっている。このままアズゴアの所に連れてって大丈夫か……?

一抹の不安を覚えながら、私も立ち上がり、フリスクの手を繋いでエレベーターを降りた。

 

「………おぉ」

 

降りた先で視界に飛び込んでくるのは、一面の灰色。寂しささえ感じるほど色がない世界が広がっていた。

 

「色が、ないね」

「そうだね。……此処、本当に城か?」

 

ウォーターフォールで遠目から見た城は、此処まで悲しげな雰囲気が漂うような感じじゃなくて、本当に厳かで美しい城だった。それが近くで見ると、こんな感じだったのか。……まるで、喪に服しているみたいだと何となく思ってしまう。

 

「………あ、あの光だ」

 

私がそんな事を考えている内に、フリスクが道の先にいつもの光を見つける。フリスクと一緒にそのまま光に近付いて、フリスクがセーブを終えるのを待つ。

…………此処はゲームじゃなくて現実だし、今までBGMとか全く無かったけど、それがここだと逆に寂しい雰囲気を演出しているなと、しんと静まり返っている中で思う。

 

「お待たせ。終わったよ、行こう」

「ん、分かった」

 

フリスクに声をかけられ、意識を現実に引き戻す。そして、続いている先へと歩き出す。フリスクの手を引いて先を進み、道の先に少し顔を出して、道に誰も居ないことを確かめる。静まり返っていた先程の道とは違い、ざわざわと喧騒のような物が遠くから聞こえる。取り敢えず大丈夫そうだと判断して、フリスクを連れて道に出る。

 

「……エレベーター?」

 

道の端にあったエレベーターに興味を示したらしく、私の手を離して近寄っていく。そして直ぐに戻ってきた。

 

「どうだったよ」

「使われてた」

「まぁ、だよな」

 

戻ってきて直ぐに私の手をまた握りながら、フリスクはそう言った。左手に広がる街の風景を眺め、彼処に沢山のモンスターが住んでいるんだろうなと思いながら、足を進める。コツコツと、足音が響いた。

 

「………ここにモンスターが住んでるんだね」

「みたいだね」

 

曲がり角を曲がり、建物の合間を進んでいく。その道の先にある門を潜り抜けると、見覚えのある家に着いた。

 

「………ホーム……?」

 

目を見開いたフリスクが、一言そう呟いた。

 

「………いや、此処はニューホームじゃないかな。ほら、スノーディンの図書館の本に書いてあったでしょ?」

「あぁ、そっか」

 

納得したように頷いたフリスクは、手を離して枯れ葉の上を突っ切って目の前にあったセーブポイントに近付いていく。その間、先にニューホームに近付いてざっと外観を見ておく。………見れば見るほど本当に最初のホームにそっくりだな。

 

「終わったよ」

「ん、じゃあ、お邪魔しようか」

 

セーブを終えて追い付いてきたフリスクの手を繋ぎ、中に入り込む。警戒しながら入ると、優しい花の香りが鼻を擽った。………キンポウゲか。

中を見渡すと、やはりホームと構造が一緒で、何となく懐かしさを感じた。ただ、彼処と比べるとしんと静まり返っていて、全体的に灰色が主体となっている所為もあるのか生活感はあるが、何処か寂しげな印象を覚えた。

 

「………ママの所とは全然雰囲気が違うね」

「そうだね」

 

フリスクもホームと雰囲気が違うと感じたらしく、ぽつりとそう言った。その言葉に同調し、取り敢えず私は目の前の地下に続く階段に立ち入らないようにしている鎖に張り付いている紙を読む。

 

『やぁ! 私は庭にいます。何か伝えたいことがあれば、お越し下さい。鍵はキッチンと廊下にあります』

 

「………王様は庭に居るってよ。それとこの錠前の鍵はキッチンと廊下にあるってさ」

「何処の庭だろう……?」

「さぁ……」

 

紙から手を離し、花瓶を調べに行ったフリスクを待つ。直ぐに戻ってきてホームだとリビングだった部屋の方に進んでいくフリスクに続いて、部屋に入る。

 

「………」

 

中は、ホームと同じくリビングになっていた。ただ、ホームとは違って、テーブルを囲む椅子の数が四つになっていた。本棚を調べに行ったフリスクを追い越して、火が灯っていない暖炉の傍にある読書椅子(だろうか)を見る。ざっと見た感じだとホームでトリエルさんが使っていた物と色以外にそこまで大きさは変わらない。だが、埃が積もっているのを見て、使われていないらしいと見当をつける。

 

「わっ!?」

「!!?」

 

キッチンに行こうとしたらしいフリスクの驚いた声と周りが白黒になった事に気付いてに振り向くと、二匹のフロギーがフリスクの前に佇んでいた。

 

「どうしてコイツらがここに……!!?」

 

フリスクとフロギー達の間に立つ。一応『MERCY』してあるから襲ってこないとは思うけど、取り敢えずいつでもナイフを取り出せるように警戒しながら、ただ攻撃もせず、ただ佇んでいるフロギーを注視しておく。

 

『………昔々、ルインズに一人の人間が落ちてきました』

『ケガをした人間は助けを呼びました』

「は……? え、おい!」

 

それだけ言うと、二匹はそそくさと立ち去ってしまう。周りに色が戻ってくる中、去っていった二匹を見送る。

 

「………何だったんだ……?」

「分からないけど……昔話……だよね? 多分……」

 

……あぁ、ゲームでのあのシーンか。

フリスクと顔を見合わせて首を傾げ、やっと何がしたかったのかを思い至る。

 

「……取り敢えず、鍵取ってこないと」

「そうね」

 

キッチンに誰も居ないか見てから足を踏み入れる。迷い無く冷蔵庫を開けて物色するフリスクを横目に、台所の上に置いてある金色の鍵を手に取る。細かい細工がしてあるそれは、これだけでお宝と言えそうなほど綺麗だった。

 

「フリスク、鍵見っけたからキーチェーンに付けといて」

「ん、分かった」

 

冷蔵庫を閉めてメモに目を通していたフリスクに声をかけ、鍵を手渡す。鍵を受け取ったフリスクは取り出した携帯のキーチェーンに鍵を取り付け、手に持った。

 

「さて、次は廊下だっけ?」

「うん」

 

部屋から出る前にちらりとゴミ箱の中を見ると、何かが書いてある紙が丸められて幾つも入っていた。確かバタースコッチシナモンパイのレシピだったかと思い出し、何とも言えない気持ちになる。………王様は、やっぱりまだあの子達の死を受け入れられていないのか。

 

「お姉ちゃん?」

「………ん、何でもない。行こうか」

 

頭を振ってさっさと進んでしまおうと思い直し、フリスクを先頭にリビングに戻る。そして、部屋から出ようとしたところで、また周りが白黒に切り替わった。

 

「またか!?」

 

前を見ると、二匹のナキムシ(だったっけ)がふわふわと飛んでいた。

 

『アズリエル王子が、人間の声に気付きました』

『彼は人間を城に連れて戻りました』

 

それだけ言って、また彼らはふわふわと飛んでいってしまう。

 

「何がしたいんだ……?」

「分かんない……」

 

ゲームだった時も分からなかったこの行動の意味を考えながら、とにかく廊下へ戻る。

本当に何がしたいんだろう、モンスター達は。Tobyさんの意思だって言うならそれでおしまいだけど……それだけじゃない気が、何となくする。

そのまま廊下を突っ切り、ホームだと部屋があった方へ進む。廊下もざっと見た感じホームと同じようになっていた。其処らじゅうに飾ってある金の花が、たった一つのアクセントだった。

 

ガチャリ

 

取り敢えず最初の部屋に入ることにしたらしいフリスクがドアノブを回し、部屋に入る。鍵のかかっていないその部屋はあっさりと開き、中に入ることが出来た。

 

「………」

 

中は灰色だけの家具の数々があり、あまり生活感は感じられない部屋にだった。そして、その中で目につくのは………二つの、プレゼントボックス。

 

「なんだろこれ」

 

色が統一されすぎて殺風景な部屋にあるプレゼントボックスにフリスクも興味を持ったのか、ドアから近い方の箱に近付いて、しゅるりとリボンを解く。その間に私はドアから遠い方の箱に近付き、さっとリボンを解いた。リボンを畳んでから箱を開けると、中には、鞘に収まったナイフが一振り。

………あぁ、漸く見つけた。

心の底からそう思って、鞘からナイフを取り出してみる。使いふるされているがちゃんと錆びないように磨いである刃が、光に反射して煌めいた。

 

「お姉ちゃん、そっちは…………ナイフ?」

 

後ろから、驚いたような声が聞こえる。本体を鞘にしまい、振り向く。振り向いた先にいたフリスクの手の中には鈍い金色に輝くハート型のペンダントトップのペンダントが握られていた。

 

「そっちはペンダントだったんだね」

「うん……しかもこれ、開けるみたい。開けていいかな?」

「いいんじゃない?」

 

爪を引っ掻け、フリスクがロケットになっているハートを開ける。中には、小さい山羊のモンスター、そして、照れたように笑っている、人間が写っている写真が嵌め込まれていた。片面には、『ずっと友達だよ』と彫られている。

その写真の中にいる人間の顔に、私は見覚えがあった。

 

「えっ?」

 

フリスクも驚きを隠せない様子で目を見開く。そして、私と写真を見比べて、困惑したような顔をした。

 

「………この子、お姉ちゃんそっくりだ」

「………そうだね」

 

幸せそうに笑っている家族の写真の中にいる人間を見て、私は確信する。―――この子が、Charaだ。

じゃあ、この隣の子がアズリエルか。

 

「持っていっても、大丈夫かな、これ」

「いいんじゃない? 判断はフリスクに任せるよ」

 

二本目のナイフをポケットに入れ、悩むフリスクの判断を待つ。悩んだようにロケットをじっと見たフリスクは、暫くしてから、意を決したように首にペンダントを下げた。

 

「つけてくのね?」

「……うん」

「分かった、大事にしなよ?」

「うん」

 

フリスクが頷くと同時に、かかったペンダントが揺れる。ざっと部屋の中を見渡し、洋服棚らしきものの上にある写真立てを見つける。近付いて手に取ってみると、中にある写真には、幸せそうな家族が写っていた。山羊のモンスターの家族の中に、一人だけ人間が混ざっている。でも、それでもこの笑顔を見れば誰だって『家族写真』だと言うだろう。それぐらい、この写真の中の人間とモンスター達は幸せそうに笑っている。

写真立てを元に戻し、部屋をもう一度見てから廊下に出る。私が出てからも少し物色していたフリスクも直ぐに部屋から出て、私の先を進む。キンポウゲの植え込みを通り過ぎ、『リフォーム中』という板がかかった扉の前を通りすぎようとした所で、また周りが白黒に変わる。今度は、フリスクの足元にチビカビが三匹並んでいた。

 

『やがて、アズリエルと人間は兄弟のようになりました』

『王と女王も人間を本当の子供のように扱いました』

『地下世界には希望が溢れたのです』

 

子供に語るような口調で、チビカビ達は話して、去っていく。………というか、喋れたんかアイツら。

そんな下らないことを思いながら、フリスクが廊下にある小さな机の上にあった鍵をキーチェーンに取り付けるのを見る。そしてそのまま、フリスクは奥の部屋に入った。私も続いて中に入ると、そこはやっと生活感が感じられるような部屋になっていた。

 

「………ここ、は……」

 

真っ先に机の上に開いたままの分厚い本―――多分アズゴアの日記だろうそれにフリスクはほんの少しの間目を通し、すぐに部屋の奥へ進んでいく。フリスクが部屋を見ている間に、今度は私がその日記を見る。

最近の日記を見ると、今日はこんなことがあった、あんなことがあったという内容に、全て『素敵な1日だった!』という一文が添えてある日記が続いていた。そこからパラパラとページを捲って遡っていくと、丁度トリエルさんの日記と同じぐらいの所で、七人目の人間のことが書いてあった。人間の身体を槍で貫いた感覚が忘れられないと先程のまでの字と比べて荒い筆跡で書かれている。そこまで読んで、気付いた。ゲームでは書かれなかった今までの人間達の死因が、書いてあるんじゃないかと。

また遡ってみると、今度は六人目の事が書いてある。やはりそうらしいと思いながら、読み進めていく。

自ら命を差し出した人間を引き裂いた時の鼻につく生臭い鉄の臭いが何時までも鼻に残っている感覚がして消えないと書いてある。字が、震えている。

遡る。五人目。

遺体を抱えた時の身体の冷たさにあの子が死んだ時の記憶を鮮明に思い出してしまったとある。字が震えて、紙が少しよれている。涙の跡だろうかと、思い至った。

遡る。四人目。

自分がしている事は間違っていると言って、最後まで真っ直ぐ自分を見ていた強い瞳が恐ろしいと書いてあった。

遡る。三人目。

自分の奥さんを悲しませるなと叫んで飛び込んできた人間を貫いた感覚が手に残って離れないとある。また、紙がよれている。

遡る。二人目。

傷付いて傷付いて、それでもまだ諦めない意思を持って立ち向かってきた、あの子と同年代くらいの人間を殺した。私が自分の手で殺した。私が、私が。槍で刺した時顔や身体にかかってしまった赤い水の臭いが刻み込まれて離れない。何度洗っても洗っても、まだあの赤い水で全身が汚れている気がする。気持ち悪い。食べたものを全て吐ききってもまだ気持ち悪い。気持ち悪い。これを繰り返さないといけないのか。あぁ、嫌だ。これならいっそのこと………

その先は、塗りつぶされてしまってぐちゃぐちゃになって読めなかった。

ページを、捲っていく。遂に、運命の日のページに辿り着いた。どうせなら時系列に沿っていこうと、私はページをまた捲る。それらしきページを見つけて、そこから読み始める。

 

『〇日

あの子が、死んだ。死んでしまった。王国じゅうの医者を呼び寄せて、手を尽くしても、救えなかった。最後の願い事さえ叶えられずに死んでしまった。心が空っぽになってしまったような感覚が消えてくれない。トリがあの子の遺体に寄り添って、大泣きしている。ごめんなさいと泣き叫んでいる。こんな中、私まで泣いている訳にはいかない。アズの父として、トリの夫として、王として。しっかりしなければ。

明日から葬儀を執り行う為に準備をしよう。

追記:アズがあの子とお揃いのペンダントを握って、意を決したような顔をしていた。死を乗り越える決意をしてくれたのだろうか』

 

次のページに移る。

 

『※日

息子が、死んだ。私の手がもう少しで届く所で、目の前で死んでしまった。最後に「ごめんなさい」と言って、死んでしまった。まだ残っていたあの子のソウルを使って、あの子の最後の願いを叶えに、アズは外へと出たらしい。沢山の傷があの子の消えていく身体にあった。外の人間達に付けられたものだろう。

トリが部屋から出てこない。ドアに耳をつけて聞くと、啜り泣く声が聞こえる。私達は、二人も最愛の息子達を亡くしてしまった。地下世界は、アズとあの子が死んだことによって絶望で満たされている。このままではいけない。このままでは、あの子達が好きだったこの地下が壊れてしまう。王として、決断を迫られているのを感じる。どうすれば』

 

次のページを開く。そこには、選択を迫られた王の、独白が書いてあった。

 

『今日、王として、地下世界の民に「ここに落ちてくる人間は全て殺す」と宣言した。私の頭では、こうして皆の憎悪の行く先を地上に出て人間達を皆殺しにするという目標に摩り替えることしか思い浮かばなかった。トリに考え直してほしいと縋られている。だが、こうするしか方法が無い。これしか、私には出来ない。

だから、ここにもし私が全ての民に嫌われてしまっても決意が折れないように、私自身の決意を記す。

私は、これからずっと先、モンスター達の王として、人間を殺し続けると誓おう。天国にいる息子達に顔向けが出来なくなろうとも、ずっと、王としてこの玉座に居続けよう。それが、私が唯一王として出来ることなのだから。

この苦しみを、終わらせなければ』

 

そこで読んでいられなくなって、日記を元のページに戻した。……人のこと言えないけど、なんて決意を抱いてやがんだ、この人は。

 

「………お姉ちゃん?」

 

部屋の探索を粗方終えたらしいフリスクが、私を見上げてくる。その頭をそっと撫で、何でもないと誤魔化す。

 

「部屋の探索は終わった?」

「うん」

「そう、じゃあ行こうか」

「………うん」

 

フリスクを急かして部屋から出て、部屋の突き当たりにある鏡の前に立つ。そこには、ホームで見たよりもボロボロのパーカーを着た私と、傷一つ見当たらないフリスクが立っていた。

 

「………何があろうと、それでも私のままだ」

「!?」

 

アナウンスを捩った一言を呟くと、ばっとフリスクが此方を見た。そして、小さい声で、そうだね、と同意してくれた。そのまま徐に鏡から離れ、廊下を引き返す。そして玄関の階段の錠前の前に来る。フリスクが無言で鍵を錠前に合わせ、捻る。カチリ、という音を立てて錠前が外れる。外れた鎖を隅に寄せ、階段の前に立つ。ふと、壁にかけてあるカレンダーを見て、日付に丸がついていることに気付いた。………この丸は、何の意味があるんだろう。

そう考えてから、階段を降りずに待っているフリスクの横に立つ。

 

「………行こう」

「あぁ」

 

二人で手を繋ぎ、階段を降り始めた。

 

―――――――――――――――――――――

 

階段をゆっくり降りると、あまり光のない廊下に出る。ゆっくりとした足取りで進むと、前から誰かが現れ、周りが白黒に変わる。

 

『そして……ある日のこと……』

『人間は重い病気にかかってしまいました』

 

それだけ言って、また去っていく。また進むと、またモンスターが現れ、周りが白黒に変わる。

 

『病気になった人間はひとつだけ頼み事をしました』

『故郷の村から花畑を見たい』

『けれど私達にはどうすることもできませんでした』

 

またそれだけ言って、去っていく。暗い廊下を進み続けると、またモンスターが現れる。

 

『そして次の日』

『そして次の日』

『…………………………………』

『人間は死んでしまいました』

 

言いにくそうに押し黙ってしまったモンスターの片方の言葉を代弁するようにもう一方のモンスターがそう告げ、また去っていく。フリスクが息を飲む音が聞こえた。暗い廊下を進む。またモンスターが現れる。

 

『アズリエルはあまりの悲しみに我を忘れ、人間のソウルを吸収してしまいました』

『そして凄まじい力が彼の姿を変えたのです』

 

多少事実と離れている話をして、モンスターは去っていく。曲がり角を曲がろうとした所でモンスターが現れ、また周りが白黒に変わる。

 

『人間のソウルを得たアズリエルは、結界を通り抜けました』

『人間の遺体を抱えて夕焼けの空へ』

『人間の故郷の村へ』

 

それだけを告げ、また去っていく。曲がり角を曲がり、またその先の曲がり角を曲がった所で、またモンスターと出会う。

 

『アズリエルは村の中心に辿り着きました』

『そこには、金の花々のベッドがありました』

『彼は人間をそこに横たえました』

 

去っていったモンスターを追うように、先に進む。また城下町が見える廊下に出た所で、またモンスターが現れる。

 

『突然、叫び声が響きました』

『村人たちは人間の遺体を抱き締めるアズリエルの姿を見て』

『彼が子供を殺したのだと思ったのです』

 

またモンスターが去り、足を止めずに先に進む。またモンスターが現れる。

 

『人間たちは持てる力全てで彼を傷付けました』

『彼は何度も何度も殴られました』

『アズリエルは人々を皆殺しにする力を持っていました』

 

モンスターが去っていく。また道を進んでいくと、モンスターが現れる。

 

『けれど……』

『アズリエルはやり返しませんでした』

『人間の遺体を抱き締めて……』

『笑って、立ち去ったのです』

 

モンスターが去っていく。また進むと、違うモンスターが現れる。

 

『傷付いたアズリエルはよろめきながら地下世界へ戻り』

『城に着くと崩れ落ちてしまいました』

『彼の身体は塵と化し、庭園に散ったのです』

 

モンスターが去っていく。また進むと、またモンスターが現れる。

 

『王国は絶望に包まれました』

『王と女王は一夜でふたりの子供を失ったのです』

『人間は私達から二度も大事な物を奪っていきました』

 

モンスターが去っていく。また進むと、またモンスターが現れる。

 

『王はこの苦しみをもう終わらせようと決心しました』

『ここに落ちてきた人間は全て殺さなければ』

『十分なソウルが揃えば、結界を破ることができる』

 

モンスターが去っていく。そしてまた進むと、モンスターが現れる。

 

『今はもう先のことじゃない』

『アズゴア王が自由にしてくれる』

『アズゴア王が希望をくれる』

『アズゴア王が救ってくれる』

 

そう言って去ったモンスター達に、一瞬虫酸が走る。アズゴア王に頼りすぎだと、一言言ってやりたいのを飲み込み、先に進む。またモンスターが現れた。

 

『きみも、笑えよ』

『ワクワクするでしょ?』

『幸せでしょ?』

「……そんなわけねーじゃん」

 

去ったモンスターに向かって一言そう吐き捨て、先を進む。またモンスターが現れた。

 

『君も自由になれるんだ』

 

最後にそうフロギーが締めくくって、話が終わる。廊下の突き当たりまでやってきたことに気付き、無言のままフリスクの手を離して道の先にあるエレベーターを取り敢えず調べる。しゅっという音を立てて扉が開いて、動くのを確認してから分かれ道で待っているフリスクの所に戻る。

 

「ごめん、お待たせ。あのエレベーター動いたから、また戻るようなことがあればあれを使って戻れるとおもうよ」

「ん、分かった。ありがとう」

 

そう短く会話して、また手を繋ぐ。そして、曲がり角を曲がった道に、踏み入れる。

 

「………?」

 

暗い道の先を見ると、先程までの何処か暗い光ではなく、見覚えのある暖かい光がそこに満ちているのが分かった。その光に誘われるように道を抜けると、暖かみのあるオレンジの光と、セーブポイントが見えた。取り敢えずはセーブポイントに近寄り、フリスクがセーブを終えるのを待つ。その間、私は部屋を見ようと道の先に目をやった。そこに、影がひとつ。

 

「…………サンズ」

 

窓から差し込むオレンジの光――――夕陽に照らされながら目を瞑って佇む彼を見て、漸くここまで辿り着けたと思う。

 

審判の間に、辿り着いた。


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