守りたいもの   作:行方不明者X

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※オリジナル回となります

※本来のUndertaleでは出来ないことを行っています。ご注意下さい


102.弔い

【Lily】

 

夕陽の照らす廊下を抜け、また灰色の中を進む。曲がり角を右に曲がると、壁にある石板を見つけ、読む。

 

『玉座の間』

 

………とうとうここまで来たのか、と思う。この部屋の入り口を潜れば、会いたいけど逢いたくないあの王様が居るのか………

 

「………あれ、あっちに道があるよ」

 

フリスクの言葉に我に返り、フリスクが不思議そうに見る先を見る。セーブポイントの先に、曲がり角があるのが見えた。………あぁ、そうだ。あれもやらなくちゃ。

 

「先にあっちに行ってみる?」

「うん、そうしよう」

 

フリスクが私の問いかけに頷いたのを見て、二人で先に道の奥を探索しに行く。さっと素早く部屋の入り口とセーブポイントを通り過ぎ、道の奥の曲がり角を曲がる。少し歩いていくと、下に降りる階段が見えた。

 

「階段? 何処に繋がってるんだろう……?」

 

フリスクの疑問を聞き流しながら、結構長い階段を降りていく。

 

―――――――――――――――――――

 

暫く階段を降りていくと、やっと床に足を着けた。そのまま横を向くと、そこに並んでいたのは…………七つの、黒い箱。

 

「………えっ?」

 

フリスクが思わずといった様子で声を溢す。

 

「これ、って」

 

私の手を握っている手に、力が入る。震えている手を、出来るだけ優しく握る。………震えるのも仕方ない。目の前にあるこの箱たちは、父さんと母さんが入って焼かれた棺桶だったんだから。

 

「……棺桶、だよね?」

「……そうだね。多分、今まで落ちてきた子達が此処にいるんじゃないかな」

「…………そっか」

 

カタカタと小刻みに震えるフリスクの手を離し、向き直って目を合わせる。

 

「………ねぇ、フリスク。今まで拾ってきた服とか武器、ヘリで出せる?」

「……? うん………」

「……持ち主に返してあげたいんだけど、駄目かな」

 

トラウマを抉って追い討ちをかけてしまうかなと危惧しながら、出来る限り優しく声をかける。

 

「父さんと母さんを見送った時も、身に付けたものを一緒に送ったでしょ? 勿論、フリスクは中を見ないようにここに居ていいからさ。ヘリを呼んでくれるだけでいいんだ」

 

ダメかな、と問いかけると、フリスクは私から目を逸らし、考えるような素振りをする。

………ゲームだった時では、前の子達の武器は『Player』によっては売られてしまったりしていた。でも、ここは現実だ。少なくとも、子供達はフリスクと同い年ぐらいの年代の筈。そんな子達の装備が地下世界に散らばったままというのは……同じ年代の妹を持つ姉として、人間として、嫌だった。弔ってあげることは出来ないけど、せめて、持ち主に返してあげたかった。

 

「………お願い」

 

小さく、そう言ってみる。フリスクは少し青い顔のまま考え込み、暫くしてから顔をあげ、私を見た。

 

「いいよ。でも、ぼくだけここにいるのは何か違う気がするから、ぼくにも手伝わせて」

「……いいの?」

「うん。………これぐらいは、しなくちゃ」

 

小さく微笑んでフリスクはそう言うと、携帯を取り出して弄り出す。その姿を見て、やっぱりフリスクは強いな、と思う。

少しすると、ウォーターフォールでアイテムを預けた時のように箱を持った小型ヘリが飛んで来る。ヘリから箱を取り、預けていたアイテムを全て取り出してまた箱を返し、見送ってからアイテムを抱えようとする。すると、横からフリスクがそのアイテム達を奪っていった。

 

「ぼくが持つよ。お姉ちゃんは蓋開けたりして?」

「………うん、ありがと」

 

一つ目の棺桶を見る。名前が彫られている部分を見ると、そこには『Chara』と彫られていた。それを少し眺めてから、通り過ぎる。

 

「? お姉ちゃん、この棺桶はいいの?」

 

私の行動を不審に思ったのか、フリスクが首を傾げる。……しまった。

 

「……あー、いやさ、そこ、多分誰もいないと思うからさ」

「? 何で?」

 

慌てて取り繕えば、フリスクは不思議そうな顔をする。

 

「……さっきのモンスターの話によれば、そこに入る筈だった一人目の子って、アズリエルっていうモンスターに地上に送り返されてたじゃない? だから、多分空っぽなのかなって」

「……成る程」

 

慌ててそう言った私の言葉に納得したらしいフリスクは頷くと、ちらりと最初の棺を見てから、私の傍にやってくる。

 

「じゃあ、このペンダントを返す相手はいないんだね」

「………残念なことに、ね」

「そっか……」

 

首に下がるペンダントを見て、フリスクは残念そうな顔をする。返してあげたかったんだろうか、と思いながら、取り敢えず二つ目の棺桶の前に立つ。

 

「それじゃあ、返していこうか」

「うん」

 

フリスクに声をかけて、返品を始める。オレンジのハートが描かれている棺桶の蓋をあまり音を立てないようにしながらずらすと、中に横たわる小さな身体が見えた。

 

「………っ」

 

死体を見て、フリスクが息を飲む音がする。そっと頭を撫でてから、死体を少し観察する。

身長は、大体フリスクと同じくらいだろうか。腐乱臭が開けた時しなかったのに、肉がついているのが見える。魔法でもかけてあるんだろうか。

失礼します、と小さく声をかけて、この子ものだったグローブとバンダナの土埃を払ってからそっと入れ、蓋を締める。

次に、黄色のハートが描かれている棺桶の蓋をずらす。少し大きめの人間の遺体が見えた。また、腐乱臭はしない。やはり魔法がかかっているらしい。

また失礼しますと声をかけて、先程使わせてもらったカウボーイハットとリボルバーをハンカチで銃身を磨いてからそっと入れて、締める。

次に緑色のハートの描かれている棺桶の蓋をずらす。……どうも、来た順ではなくソウルの色順でこの棺達は並べられているらしい。またフリスクと同じぐらいの身長の身体が見えた。

失礼しますと声をかけて、エプロンの土埃を払い、フライパンの底の汚れを少し叩いて落とし、そっと入れて、締める。

次は、水色のハートが描かれている棺桶の蓋をずらす。フリスクより少し小さいくらいの身体が見えた。綺麗な長い髪も一緒に見えた。

失礼しますと声をかけ、リボンを蝶結びにして、玩具のナイフをハンカチで念入りに拭いてからそっと入れて、締める。

次は、青色のハートが描かれている棺桶の蓋をずらす。フリスクと同じくらいの身体が見えた。足が、傷だらけでぼろぼろだ。きっと、バレリーナ志望だったのだろうに。

失礼しますと声をかけて、汚れてしまったバレエシューズの汚れを出来るだけ払って、チュチュを少し畳んでそっと入れて、締める。

最後に、紫色のハートが描かれている棺桶の蓋をずらす。フリスクよりまた少し大きいくらいの身体が見えた。固く握られた片手には、古びてはいるが尖ったペンが見えた。

失礼しますと声をかけて、ノートと曇ってしまった眼鏡のレンズを拭いて、そっと入れて、締める。

 

「………これで、よし。手伝わせてごめんね、フリスク」

「ううん」

 

ゆるゆると、少し青い顔でフリスクは首を横に振った。やはり手伝わせない方が良かっただろうか、と思いながら、棺桶から離れ、階段の方に戻る。

 

「…………」

「お姉ちゃん?」

 

何となく、振り返る。私が足を止めたことに気付いたらしく、フリスクも振り返った。

 

「……ちょっと、待ってて」

「え? うん、分かった」

 

フリスクに待っててもらうように頼み、棺桶達にまた近付いて、膝をつく。そして、手を組んで、私の独り言を呟く。

 

「…………勝手にあなた達の持ち物を借りてしまって、ごめんなさい。使わせてくれて、本当にありがとう。私は神父でも牧師でもお坊さんでもシスターでも尼さんでも、ましてや神の声を聴ける聖女でも、遣わせられた天使でも、まあ兎に角清らかな存在じゃないから、あなた達をちゃんと弔ってあげることが出来ない。あなた達に持ち物を返すことと、あなた達の死後の安寧を祈ることぐらいしか出来ません。その祈りも、ただの私の自己満足。エゴにまみれた身勝手極まりない祈りです。誰も聞き届けてはくれないでしょう。それでも、祈らせてください。

どうか、あなた達が安らかに休むことが出来ますように。次の生では、道半ばで命を落とすことがありませんように。どうか、どうか……ありふれた幸せで満たされたもので、ありますように」

 

私の内の彼らに対する感謝をありったけ籠めて、祈る。こんな私の自己満足にまみれた祈りなんて、きっと誰も聞き届けてはくれはしないだろうと分かってはいる。でも、それでも、彼らの安寧を祈りたかった。

 

「………お休みなさい」

 

最後にそう呟いて、立ち上がる。我ながら祈るなんてらしくないことをしたな、なんて思いながら、フリスクの所に戻る。

 

「お待たせ、行こうか」

「………うん」

 

フリスクが頷いてから、じっと私を見上げてくる。

 

「……どうかした?」

「ううん。………お姉ちゃんの祈りは、身勝手なんかじゃないよ。きっと神様に届くよ」

「………ふふ、ありがと」

 

にっこり笑ってそう言ってくれたフリスクの優しさに心を癒されながら、階段を上って、来た道を戻る。そして、遂に、玉座の間の前にまで戻ってくる。

 

「あ、待って」

 

フリスクが光の前で立ち止まり、いつも通りセーブを行う。きっと一度しか出番がないまま終わるであろうそれを見ながら、フリスクがセーブを終えるのを待つ。

 

「………終わったよ」

「ん」

 

セーブを終え、二人で部屋の入り口の前に立つ。フリスクと目を合わせ、お互いの手をしっかり握る。

 

「……行こう」

「うん」

 

そして、部屋に足を踏み入れた。


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