※戦闘シーンを捏造しています。難しい……
※支離滅裂です
【Lily】
*
戦闘が始まり、その場に今までのボス戦とは全く違う空気が流れる。肌を突き刺すような、酷く張り詰めた空気だ。ナイフを握る手に、力が入る。もう今更後戻りはしない。だが、今目の前で血のように紅い槍を構える王と、話し合える道は無かったのだろうかと考えられずにはいられない。
………いいや、やめよう。
この世界はきっと
「全力で、倒す……!!」
彼への容赦の一切総てを消し、彼を見据える。ピッと、いう音がした。
*ASGORE-ATK 80 DEF 80
まずフリスクは彼を調べたらしく、彼の攻撃力と防御力が頭の中を掠めていく。硬いな、攻撃が通るだろうかと懸念していると、彼の手がゆらりと持ち上がり、連続する火の玉が飛来する。それぞれ逆方向に飛び退き、フリスクが回避に専念するなか、私は向かう火の玉の中を突っ込み、走る。自分に向かってくる火の玉をナイフを素早く振って掻き消しながらアズゴアの懐に潜り込み、ナイフを振りかぶった。
ギィン
大きく振りかぶったナイフは槍の柄で防がれ、大きな音が響く。ブン、と槍が振られ、ナイフを押しきられた勢いで後退し、その場で立ち止まる。
流石に、ゲームとは違ってそう簡単には傷付けさせてくれないよなぁ。
*………
アナウンスが、流れない。それさえも今は大事なことではないと断じて切り捨て、次に備える。ちらりと見たフリスクが『ACT』に手を伸ばしているのを見て、やはりかと思いながら、じりじりとフリスクと少し距離を詰め、庇いにいけるようにしておく。
きっとフリスクは傷付けることを決意していても、それでも何とか出来ないか考えるだろうとは分かっていた。自分が致命傷を受ける決意もきっと抱いているんだろうが、それは私が嫌だ。だから、アズゴアの首を獲りに行くと同時に、フリスクが致命傷を負ったりしないように守らないと。
*
フリスクは一歩前に出て、口を動かすと、そうアナウンスが流れた。それに対するアズゴアの反応を見ると、カタカタと、彼の持つ槍が震えている。
*
アナウンスも、私が見たことを伝えてくる。やはり彼は本心では殺したくないのだろうかと思う。そんなことを思っていると、槍が彼の両手から消え、空になった両手から連続する炎が鎖のようになって蛇行しながら此方に向かって飛んでくる。フリスクはトリエルさんの時も見た攻撃であることを思い出したのだろう、炎の鎖が蛇行する中で生じる隙間に身を滑り込ませる。私も同じように身を滑り込ませながら少しずつ彼に近付き、鎖が一瞬途切れた所で一気に加速してナイフで下から切り上げる。
ガキィン
現すならそんな音だろう音を立てて、瞬時に現れて握られた槍にまたナイフを防がれる。切り上げた腕を振り下ろして槍を持つ手の部分を狙う。それも読まれていたようで、また防がれる。それでも横に一線を引くように思いっきりナイフを振り、そのまま膠着状態になる。
*………
この至近距離になっても未だに目を合わせようとしないアズゴアの顔を下から覗き見る。目が合ったその顔は、哀しそうに、苦しそうに歪んでいた。
*
そんな中、アナウンスが響く。フリスクが言ったのであろうと思いながら、私は目を合わせたまま、アズゴアに話しかける。
「……ねえ、本当に、これ以外に道は無かったんですか? もっと他に、お互いに手を取り合っていけるような選択肢は無かったんですか……?」
「………!!!!」
*
アズゴアの顔が一層苦しそうに歪み、先程まで少しも乱れていなかった息遣いが、はっ、はっ、と小さく途切れるようになる。震える手で持つ槍にも震動が伝わり、ナイフの刃に当たってカチカチと音を立てる。迷いを振り払うように力を込めて振られた槍に腕ごとナイフを弾かれる。距離を少し取ると、彼の口の端から何かが漏れでる。白黒の世界である所為でそれが何か分からず一瞬判断が鈍り、次の瞬間に吐き出された火の玉を避ける為に体を捻るものの、パーカーを少し掠めていく。燃え移ったそれを素早く叩いて消し、追撃として両手から発射される炎の雨をナイフで掻き消しながら脱出する。また吐き出される火の玉を避け、炎の雨を避けを繰り返す。
*………
攻撃が止んでターンが回った所で、フリスクを見る。服装などに特に焼けたりした痕はなく、無事避けられているらしいと判断する。それだけを確認し、また前を見据える。
*You firmly tell ASGORE to STOP fighting《あなたはASGOREに闘いを止めるようはっきり伝えた》.
ピッという音が後ろから聞こえ、アナウンスが流れる。その瞬間、この距離からでも見える目を見開き、彼は体を身動ぎさせる。
*
そのアナウンスのあと、また彼は、悲痛そうに顔を歪めた。ぎり、という歯軋りをする音が小さく耳に届く。
*
*
アナウンスが、彼が弱体化したことを告げる。やはりモンスターの心情によってパラメーターは変動するのか、と思いながら、そのまま彼を見据え続ける。
不意に、彼の目が交互に青色に光った。
「!! フリスク、その場を動くな!!!」
何の攻撃か悟ってそう叫ぶや否や、彼の持っていた槍が見覚えのある青色に変色する。そして、素早く二回、槍が横凪ぎに振られる。直ぐに動きを止めた私の体を、透過した槍がすり抜けていく。槍が振られた際に生じた風の風圧でよろけそうになるのを堪え、その場に立ち続ける。槍の猛攻が止まった瞬間に走り、ブラフとして右足を前に出してナイフを横に振る。予想通り防がれた体勢から右足を軸に一回転し、勢いをつけて左足を手に叩き込む。
ゴツッ
という硬いものに踵が当たった感触がする。狙いが逸れて腕を覆っている籠手に当たったらしい。掴まらないように素早く後退し、出方を探る。
*………
ターンが回る。庇いにいける暇がないと危惧しながらフリスクを見ると、先程までと変わらない。攻撃は受けなかったらしいと思い安堵しながら、また彼を見る。
*
そうアナウンスが流れた瞬間、また彼が握っていた槍が消え、彼の両手が空になる。その両手に白色の火が宿り、そのまま横にスライドされる。両手から放たれる横一線に並ぶ火の玉の間を潜り抜け、凌ぐ。炎を掠めた頬がちりちりと痛んだ。
*………
ターンが回る。いつの間にか横に並んでいたフリスクを見ると、先程の『ACT』のアナウンスでもう話すことは彼には通じないと悟ったのか、じっと苦しそうな顔でナイフを見つめていた。そして、少ししてから、覚悟を決めたように顔をあげ、私を見る。
「………お姉ちゃん。お願いがあるんだけど」
「どうしたの」
真剣な声音のフリスクに聞き返すと、フリスクは、
「………ぼくが、攻撃出来るように、隙を作ってほしい」
私にそう頼んできた。
「……いいの?」
「うん。……殺すつもりは、ないけどね」
フリスクの顔を見つめると、そのまま覚悟を決めた眼差しが返ってくる。その眼差しに迷いがない事を確認して、私は頷いた。
「いーよ、やったげる」
「! ……ごめん」
「謝らないの。こうなることは分かってたしね、仕方ないよ」
短く会話をし、二人でナイフを顔を伏せたままのアズゴアに向かって構える。まさかフリスクにナイフを構えさせる日が来るとは思っていなかったなと思う。その考えを直ぐに打ち払い、目の前の敵に集中する。
「いくぞ」
一言そう声をかけて、アズゴアとの距離を詰め、飛び上がって首狙いでナイフを振るう。後ろに下がって避けられたそこから着地して立ち上がった勢いで下から切り上げるようにナイフを振る。また避けられる。
「………ぐッ!?」
私の攻撃を避けた筈のアズゴアから苦しそうな声が溢れる。見ると、私が正面から突っ込んでいる内に懐に潜り込んだらしいフリスクが、彼の手を切り裂いていた。それを見てから追撃として思いっきり鎧を押し出して距離を置けるように蹴る。ふと、彼の頭上を見ると黄緑色のバーが表示され、それが少し減った。成る程、これがHPか。
「お姉ちゃん!」
「!」
フリスクの叫ぶ声に我に返り、アズゴアが召喚したらしい幾重にも重なる炎の輪に囲まれていることに気付く。此方を丸焼きにしようと円が縮んでいく炎の輪の中を通り抜けて、また彼に近付いていく。
*………
ターンが回った瞬間また斬り込み、今度は左手を素早く振り抜いて、アズゴアの顎にアッパーを入れる。間一髪避けられたところで、一歩踏み込んで全体重をかけてタックルをする。彼が少しよろめいたところで、フリスクが前に出て、一線。
赤い軌道が、見えた。
ギィンッ
「………えっ」
硬い金属で出来ている筈の鎧に、本来ただのナイフならつけることが出来ない筈の有り得ない傷が入った。思わず一つ驚いたような声を上げてから、迫ってくる炎の大旋風を見てはっとして避ける。邪魔だ。
*………
ターンが回った途端、フリスクが『FIGHT』を押し、苦しそうな顔のままでナイフを構えて突っ込んでいく。
「ああああああ!!!」
そう雄叫びをあげて、フリスクがアズゴアの槍を潜り抜け、ナイフを振るった。表示されたバーがまた削れるのを見てから、私も追撃として横から蹴りを入れる。その瞬間、彼の瞳が青、オレンジ、オレンジと瞬き、槍が青色に変色する。
「まっず……!!」
まるで涙を流すように瞬いた瞳の色に変色する槍に追い付けず、確かに質量のあるものが体に当たり、吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「あぐッ………」
ズキン、と色々な箇所が地面に叩きつけられた時の分と、槍で横凪ぎに吹っ飛ばされた分の痛みを訴える。横凪ぎにされたときの痛みが横腹から直に伝わってくる中、痛みを堪えて這いずる。
「げほ、がはっ………」
ズキリ、ズキリと槍が当たったであろう箇所から、体全体に嫌な痛みが走る。呼吸をすることがままならない。メタトンに蹴られた際にもそこ辺りを蹴られたことを思い出し、今度こそ骨が折れたのかと見当をつける。………あの槍による攻撃は即死に繋がるもの。生きているだけ奇跡だと考え、歯を食い縛る。
*………
「お姉ちゃんッ!!」
「私は大丈夫だから攻撃に集中しろ!!」
槍を凌ぎきって叫んだフリスクにそう叫び返し、体を起こして立ち上がる。何とか離さずに握っておけたナイフを握り直し、構える。
私を見ていたフリスクは顔を歪め、ナイフをアズゴアに向けて『FIGHT』を押し、また突っ込んでいく。突き出された槍を最低限体を捻って避け、ナイフを振るった。赤い軌道がまた見える。攻撃がヒットし、彼の上に表示されたバーがまた削れていく。
「やぁッ!!!」
体を動かし、攻撃を行う。フリスクに集中していたらしい彼に突っ込み、ナイフを振るう。大振りな動作をしたからかズキリと体が痛みを訴え、軌道が逸れてしまった。彼のマントを切り裂くことしか出来なかった。その直後、彼の手に豪炎が集中する。掌大の塊に炎が固まったと思うと、次の瞬間には目の前に炎の壁が迫ってきていた。
横に飛び退いて転がって避けて、何とか凌ぐ。
*………
転がった先に、リュックがあることに気付く。腕を伸ばして手繰り寄せ、中にあるものを引っ張り出し、がっつく。甘いとだけしか感じられない。それでもアイテムとしての効力を発揮したらしく、体中を走る痛みがすっと引き、楽になる。急いで立ち上がり、ナイフを構えてまたアズゴアに向かっていく。しかしフリスクのターンはもう終わっていたようで、先程より傷が増えた彼が召喚したらしい炎の輪がまた周りに展開される。先程よりも速度を上げて小さくなってくる輪の中を潜り抜け、時々下がったりしながらも着実に距離を詰める。
*………
攻撃が止んだのを見計らって勢いを殺さず飛び込み、アズゴアの手にナイフを突き刺して、貫く。ぐちゃり、という肉を刺す感覚がナイフを経由して手に直に伝わり、気分が悪くなる。素早くナイフを引き抜いて下がると同時にフリスクが前に出て、私が刺した手とは逆の手を切った。
「………ッ」
ぐっと、痛みを堪える音が彼の口から聞こえる。その音に、心が揺らぐ。
―――――どうしても、彼を傷付けなくてはいけないのか。本当に、どうしても?
彼の瞳が光を放ち、槍がオレンジに変色するのを見て心に浮かんだ迷いを振り払い、回避する。色に応じた動きをすれば、痛々しい彼の手で振られた槍は体をすり抜けていった。
*………
強く地面を踏み込み、飛び上がる。ナイフを二回、首狙いで振り抜く。槍で防がれ、攻撃が通らない。その隙にフリスクが下から潜り込み、ナイフを切り上げるようにして下から上にナイフを振るった。バーが表示され、削れていく。………あと、半分ぐらい。
ボウッという炎が空気を焼く音を耳にし、フリスクの腕を掴んで素早く下がる。フリスクが居た場所を起点に炎が巻き上がる。あと一瞬遅かったら不味いことになっていたと確信しながら、フリスクの腕を掴んだまま炎の間を駆け抜けていく。
*………
「ありがと」
フリスクの小さな声に頷き返し、また先制攻撃を行う。ナイフを振るい、また槍で防がれた所を体を捻り、蹴りを先程貫いた手に当てる。抉るように足の先で蹴れば、嫌な感触がした。
「――――ッ!!!」
また叫び出したいのを堪えるような声が、耳に届く。その声を知ってか知らずか、フリスクがナイフを振るった。赤い軌道が走り、バーが削れる。
彼の口の端から炎が漏れ出るのを確認し、後退すると同時に炎が連続で吐き出される。間隔の中に滑り込んで横に避ければ彼の手から炎の雨が発射される。また間隔の中に滑り込んで避けを繰り返し、凌ぐ。
*………
炎の弾幕が止んだタイミングを見計らい、今度はフリスクが突撃する。苦しそうな顔のまま振るわれたナイフが、赤い軌道を描きながら彼を切り裂く。バーが削れる。………あと、半分。
幾重もの炎の輪が展開され、焼き殺さんと狭まってくる。炎の間を見つけて潜り抜け、次の攻撃を直ぐに行えるよう距離を詰めておく。
*………
今度は蹴りで先制攻撃を行う。後ろに受け流された勢いで振り返ってナイフを振るう。マントを切り裂き、鎧に少し傷がついたのが見えた。そこにフリスクが飛び込み、ナイフを振るう。バーが表示され、削れていく。………半分を、切った。
アズゴアの前にいるフリスクに、槍が振られる。彼が素早く一振りするごとに変色していく槍を、フリスクは被弾することなく冷静に回避していく。
*………
アズゴアの近くにいたフリスクが先に攻撃を行ったのか、アズゴアの体が揺らぎ、表示されたバーが削れる。後ろから攻撃を加えようとすれば、察知されたのか避けられる。それでも振り返ってナイフを振るうと、また距離を取られた。その距離のまま彼は左手を突き出し、炎を掌に集中させる。そうして集まった炎をスライドさせ、横並びの炎の壁を出現させる。此方に向かって飛んでくる炎を誘導して避け、凌ぎきる。
*………
炎が消えたと同時にアズゴアに飛び掛かる。ナイフを振るうと、腕にヒットする。その彼の視線が此方に向いた瞬間を見計らって、フリスクがナイフを突き刺した。バーが表示され、削れていく。………あと、三分の一。
また炎の輪が展開される。段違いの速さで迫ってくる輪の綻びに転がり込み、滑り込んで避けていく。炎がじり、と肌を掠めて焼く。火傷特有の痛みを感じながら、それでもアズゴアとの付かず離れずの距離を保つ。
*………
低い体勢を取って突っ込み、下から切り上げ、勢いを殺さず踏み込んで横に一線する。そして追撃に蹴りを入れ、隙を作る。攻撃に気取られたアズゴアを、フリスクが赤い軌道で切り裂いた。バーが表示され、削れていく。後ろによろめいた彼は、それでも炎を召喚して巻き上げ、此方に向かわせる。炎の弾幕の間を縫い、駆け抜けていく。
*………
ナイフを振るうと槍で防がれる。防がれる瞬間に踏み出される足に足払いをかけ、彼が体勢を崩したところで、ナイフで彼を切る。ギィン、という嫌な音が響き、鎧が傷付いた。モンスターの心によってパラメーターが変動する影響からか、鎧が酷く脆くなっているらしい。そう考えていると、フリスクがナイフを振るう。バーが表示され、削れていく。………あと、少し。
彼の瞳が輝き、槍が変色する。オレンジ、オレンジ、青、青の順で振られる槍に、それぞれの色の動きをする。ビュッという音を立てながら、風を切る程速く振られた槍が体を通り抜ける。
*………
近付いていたフリスクがナイフを振るうと、攻撃がヒットしたらしくバーが表示され、削れていく。先程よりもダメージ量が増えていることに気付き、また心が揺らぐ。その揺らぎを振り払い、突っ込んでナイフを彼に突き刺した。ギッ、という音を立てて、鎧にナイフが貫通した。嘘だろ、と思っていると、ボボボッという炎が灯る音を耳にし、ナイフを突き刺したまま離脱する。後退すると同時に周りに炎の輪が展開され、迫ってくる。間を縫い、駆け抜けていく。熱い、とだけしか思えなくなってきた。
*…………
フリスクを見ると、服が所々焦げ、穴が開いているところさえあるのが見えた。
この猛攻撃だ、避けられなくても可笑しくはない。
不思議と、フリスクが傷つけられているのに頭は冷静だった。フリスクが決意してやっていることなのだという思いがあったからだろうか。それとも……
その考えも今は捨て、先程刺したままのナイフを取りに懐に潜り込む。突き出された槍を避け、ナイフを手に取る。もう一度体の体重を掛けてナイフを押し込み、中の肉を抉るように横に回転させると、ぐりゅ、という気持ち悪い音が聞こえた。
「―――…………ッッ」
また、堪える音が聞こえた。だが、隙も出来た。ナイフを引き抜き、後退した途端に彼が刺された箇所を抑えた瞬間を縫ってフリスクが攻撃を行った。ヒットした途端にバーが表示され、削れていく。また、攻撃量が増えている。そんな事思っていると、ボッという音を聞く。反射的にフリスクを引き寄せ、距離を取った彼が巻き起こした炎の中を駆け抜け、突き進む。
*………
二人揃って突っ込み、彼を切りつける。鎧が傷付き、バーが削れていく。………あと、一撃。
それを確認した途端に彼の瞳が輝き、槍がオレンジに変色する。オレンジ、青、青、オレンジの順で振られる槍を凌ぎ、彼との距離を保ち続ける。
*………
「ああああああああああッ!!!!」
叫び声をあげて、フリスクがナイフを振るった。赤い軌道が走り、バーが、総て削れた。
「………ぐっ…………」
それと同時に、ついに耐えきれなくなったのか、彼が槍を落とし、がくりと膝をついた。彼の手を滑り落ちて地面に落ちた槍が、シュウッという音を立てて、空気に溶けていく。
『おお……………やはり、こうなるのだな』
結果は分かっていたと、言外にそう伝えるような言い方で、アズゴア王はそう言った。
『………息子が死んだ後の日々を思い出すよ』
絞り出すように、アズゴアはそう言葉を続ける。
『地下世界の全てが絶望で満ちていた。我らの未来はまたしても人間達に奪われたのだ』
あちこちに傷を作り、痛々しい姿のままで彼は言う。
『怒りに任せ、私は宣戦布告した。……ここに来た人間は、全て殺すようにと』
彼の言葉を遮らず、話を聞き続ける。
『私が人間の魂を使って神のようになり……この厳しい牢獄から自由になる為に』
ふと、目の前のフリスクに罪を告白するように言葉を紡ぐ彼の顔に対して強烈な違和感を抱く。よく観察して、先程まで戦っていたとは思えない程に何処か穏やかなものであることに気付き、一層違和感が大きくなる。
『そして人類を滅ぼし……モンスターに地上を支配させようとしたのだ』
そこでふうっと、彼は大きく息を吐く。
『間もなく、民達に希望が戻った。しかし妻は、私の行動に失望したのだ。妻はここを離れ、二度と戻らなかった』
彼の口から『妻』という言葉を聞いて、トリエルさんの顔が脳裏に浮かぶ。その顔を掻き消し、穏やかな顔のままのアズゴアに対し、警戒しながらゆっくり近付く。
『………本当は……………力など欲しくない』
彼は、自分の本心を吐き出す。
『誰も傷付けたくはない』
自分がこの後、死ぬのだと思ってしまっているから。
『私はただ、民に希望を持って欲しかった……』
そこで、彼は俯いた。フリスクの横に並び、彼を警戒し続ける。
『…………だが………私はもう疲れた』
悲しそうな、今にも泣き出しそうな声で、アズゴアは続ける。
『今はただ、妻に会いたい』
私達を見上げる顔は、永い間背負ってきた『モンスターの王』としての仮面を捨てた、『一匹のモンスター』としての顔だった。
『今はただ、私の子に会いたい』
その顔には、涙が伝っていた。
『頼む……若者よ……』
涙を頬に伝わせたまま、彼は懇願する。
『長い戦いはもう終わりだ』
そこまで聞いて、その顔を見て、何故違和感を感じたのか、何故穏やかな顔でいられたのか、理解する。
『君には力がある………』
彼は、
『私のソウルを手に、この呪われた地を去るといい』
―――――――死にたがっているのか。
画面越しでは解らなかった彼の心情を完全に理解すると同時に、フリスクの前に選択肢が現れる。そして、彼は少し顔を伏せ、ボソリと何かを呟いた。
それを、拾ってしまう。
「―――――……あぁ、これでやっと、あの子達に会いに逝ける」
一瞬、彼が何を言っているのか判らなかった。
そして、理解したと同時に、私の思考は怒り一色に染まりきった。
「………ふざけるなよ」
「……お姉ちゃん?」
フリスクの声が聞こえた気がする。今はそれもどうでもいい。
彼に近付き、私は
「ぐっ!?」
ぼろぼろのマントの襟をナイフを持っている手で掴み上げ、驚く彼の頬を狙って手を振り上げた。