守りたいもの   作:行方不明者X

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※アズゴアに対する多大なアンチヘイトが含まれています

※本作主人公が今回この上なく口悪いです

※アズゴアファンの方々申し訳ありません


105.罪の重さ

【Asgore】

 

パァンッ

 

酷く乾いた音が、近くで響く。視界が横に擦れ、遅れて先程まで感じていた切り裂かれる痛みや肉が抉られる痛みとは全く違う、じんと染みるような痛みが頬から伝わった。視線の端に映る振り下ろされた手を見て、頬を打たれたのだと気付いた。

 

「………ふざけるなよ、お前」

 

酷く冷たい、低い声が聞こえた方に顔を向ければ、私を掴み上げて此方を見るあの子に良く似た人間が視界いっぱいに映る。自分を見下ろすその瞳は、酷く冷たかった。

 

「私の妹に、なんてことさせようとしてんの?」

 

その強い口調と声に、見下ろされていることも有るのか思わず気圧される。どうやら目の前の人間には、先程思わず口に出してしまった想いを聞かれてしまったらしい。

 

「………すまない。だが、これで君たちは……」

「あのなぁ」

 

言葉を続けようとすると、遮られる。

 

「他人の妹にお前自身の罪を擦り付けて逃げようとしてんじゃねぇよ」

 

冷たい声が、私の心を射抜く。

……『逃げようとしている』という言葉に、何の言葉も返せなかった

 

「お前、今まで何人殺した? 六人だよな、最初の子を入れないで考えると」

 

酷くはっきり『殺した』と明言され、ズキリと心が痛む。私に心を痛める資格なんて、ないとは分かっているが。

 

「そうしなければならなかったとはいえ……お前は重罪を背負った。そんなのは、とうに理解は出来てるんだよな?」

「……あぁ、勿論だ」

「そうだよな、じゃあなんでうちの妹に自分を殺すよう促した?」

 

問い質す一言に返す言葉が出てこない。何を言おうとしてもどうしても詰まり、どうやったって返せない。

呆れたように、人間の目が細められる。

 

「お前は自分が犯した罪の重さを分かってない」

 

その言葉に、心底驚き、心外だと思う。

 

「そんな訳………」

「あるんだよ」

 

言葉を重ねようとした途端、有無を言わせない声音で封殺される。

 

「分かってるなら、そもそもさっきのタイミングで自分を殺すように促したりしない。自分の罪を誰かに背負わせようとなんてしない」

 

冷たい、底冷えしてしまいそうな程冷たい瞳が、私を見据える。

 

「………別にね、『罪から逃げるな』とは言わないよ。そんなのお前の勝手だし、知ったことじゃない。心底どうでもいい」

 

だけどな、とより一層視線をきつくし、人間は続ける。

 

「お前と同じ重罪を、誰かに、特にあの子に背負わせようとすんじゃねぇ。それは罪を背負う者として、絶対にしちゃならないことだ」

 

冷たく、人間は言う。

 

「…………お前は気が遠くなる程その罪を抱え続けてきたんだろう。それならお前は『罪を背負うことの過酷さ』を知ってる筈だろうが」

 

そう言われて、今までの日々が思い浮かぶ。

 

「それをお前は、たった十年しか生きていないガキに背負わせる気か? ………あの子は優しいから、お前が望めば震える手でお前にナイフを振るってお前を解放してくれるだろうよ。だがな、それは同時に『お前を殺した』という紛れもない罪を抱えさせることになるってことだ。名実共に、あの子はモンスターを殺した人間となる。あの子にはずっとお前を殺した事実が付いて回る。死ぬまで罪を背負わされるんだ。……これがどういう意味か、お前はよく知ってる筈だよな」

 

しかも、と言葉は続く。

 

「お前は人間を殺している。六人もだ。あの子がお前を殺してソウルを手に入れて外に帰ったとしよう。それを知った世間はあの子を讃えるかもしれないな、『よくやった』、『お前は悪くない、正しいことをしたんだ』って。だが、お前はさっき自分の本心を話した。そしてお前の周りのモンスター達がどれだけお前を大事に想っているのか、あの子は知っている。お前の性格や優しさを、あの子は正確に理解している。あの子は苦しむだろうなぁ、自分が犯してしまった罪と周りの評価との擦れに。それはお前だって味わってきたんだろう? 自分が救えなかった最愛の子と同じぐらいの子供を殺した自責の念と、『正しいことをしたんだ』、『殺してくれてありがとう』と笑顔でお前の功績を讃えてくるお前の気持ちを知らない民草共。その二重苦を、お前は知ってて背負わせようとしたのかよ。なぁ」

 

思わず、目を見開く。まるで見たことがあるように言われたその言葉は、酷く重くのし掛かった。一言も、返せる言葉が見当たらない。『お前に何が解る』、という苦し紛れの叫び声さえ、出てこなかった。

 

「…………逃げるなとは言わないって言った手前、言うつもりはないよ。でもな、これだけは言わせろ。自分が犯した罪の重さに潰されるくらいなら、最初から背負うなよ。一時の感情に任せて宣言したことを、結局後悔して死にたくなる程責任を感じるくらいなら、最初から『王として』なんて綺麗な言葉を使うなよ。一つソウルを手に入れた時点で外に出られた筈なのに、出ずに待っていただけの臆病者のくせに、覚悟を決めずに動くからこうなって後悔する羽目になるんだから」

 

冷たく突き放す言葉が、胸に刺さる。

 

「長くなったけど、結論として言いたいことは………お前の身勝手極まりない懇願なんて誰が受け取ってやるかよ。そんなことしても、結局は罪を背負わされるだけだ。妹の手は汚させないし、私もお前を殺してやらない。お前を罪から解放なんてしてやらない。死にたいなら、勝手に一人で死ねばいい。そんなことするくらいなら、この地下世界に永住した方がマシだ」

 

人間はそう私に吐き捨て、乱暴にマントを掴んでいた手を離し、一歩後ろに下がった。

 

「………お姉ちゃん、言い過ぎじゃない……?」

「これぐらい言わないと理解しないんだもの、このもふうさ王」

 

Charaにそっくりな人の剣幕に唖然としていた小さい子は、そう苦言を呈する。そして、ナイフを腰に下げた鞘にしまい、私に近付いて、目線を合わせてくれる。

 

「………でも、お姉ちゃんが言いたいことも分かるよ。ぼくだって、お姉ちゃんに手を汚してほしくないもん」

 

だから、と小さい子供は小さく笑みを浮かべる。

 

「さっきまで散々あなたを傷付けておいて、言えることではないのはわかってるんだ。でも、言わせて下さい。ぼくにあなたを殺す気は一切ありません。このナイフは、あなたに振るいません。あなたを自由にしてあげることはできません。でも、それでも罰がほしいなら、こう言います。

『罪を償う為にこれからは生きて下さい』」

 

―――――……罪を、償う為に

すとんと、目の前の彼女の言葉が胸に収まる。

 

「………今そこに居るお姉ちゃんが『誰かの命を奪ったら、その奪った命の残りを必ず生きないといけない』って、昔に教えてくれたんです。お姉ちゃんは命の重さを教える為に言ってくれたらしいんですけど……ずっと昔に言われた筈なのに、よく頭に残っているんです。今のあなたも、きっとそれに当てはまるとおもいます。あなたは六人分の残りの命を生きなくちゃいけないと、ぼくはおもいます。だから、生きて、どんなことがあっても生きて下さい。抱えた分を生ききるまで、死ぬことは絶対に赦しません。それがぼくがあなたに示す(MERCY)です」

 

彼女の慈悲が、まだ覚えたてなのであろう辿々しい敬語で告げられる。

 

 

 

――――――私は、勝者であるこの子に死なせてもらえなかった(生かされた)

 

 

 

それを、ゆっくりと理解する。

 

「………私が君を傷付けようとしてもなお……ここに留まり、耐え忍ぶことを選ぶのか………地上で幸せになることよりも?」

「はい。ぼくは、大好きなお姉ちゃんが傍にいてくれればそれで充分ですから」

「………フン」

 

何とか声に出した言葉に、目の前の彼女はにっこりと笑って頷き、一歩下がって見守っていたあの子にそっくりな人間は当然だと言わんばかりに鼻を鳴らす。

私よりもずっと強い心と覚悟を持った彼女達を、眩しく思った。

 

「………人間よ……約束しよう……」

 

その彼女達の慈悲に報いなければならない。

そう思った私は、約束を口にする。

 

「君がここにいる間……妻と私で、出来る限り面倒を見よう」

 

私の言葉が意外だったのか、彼女達は目を見開いた。

 

「居間に座って、お話をしよう……バタースコッチパイを食べながら………」

 

そこで区切ろうとした筈の自分自身の口から、そんな言葉が滑り出る。その言葉に、四人で暮らしていたあの日々を思い出した。

―――…………あぁ、そうか。私は、ずっと………

 

「そう、私達はまるで―――………まるで、家族のように………」

 

 

ずっと、あの日々に帰りたいと、焦がれていたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう気付いた瞬間、白い種のような魔法が現れる。

 

「なっ……!?」

 

あっという間に種は私達三人を取り囲み、逃げ場を失った。そして、風を切る音を立てて、魔法が発射される。

 

 

―――咄嗟に体が、動いた。

 

二人に手を伸ばして引き込み、覆い被さるようにして抱き締める。

 

「え」

 

ザシュッ

 

私の体を質量を持った何かが、幾つも通り抜けていった。

 

「が、はっ……………」

「そんな、え、どうして」

 

 

体が揺らぐ。

 

 

視界がずれていく。

 

 

全身の感覚が消えていく。

 

 

もう、なにも、わからない

 

 

 

 

 

―――――おとうさん

 

 

 

 

 

こえが きこえて

 

あぁ あのこが てを

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