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1.Re:start
【Lily】
――――――――瞬きした瞼を、開ける。
そして、開いた視界に、先程からずっといる
「……………あ……?」
次の瞬間に抱いたのは、強烈な違和感。
何故か、先程まで自分がいたのはここじゃない、という矛盾した思考が駆け巡る。
何故私はこの風景を懐かしいと感じているんだ……?
頭を振って拭いきれない違和感を振り払い、これから向かう目の前の部屋を見る。
そこでも、強烈な違和感を感じる。
「………?」
この先にはこれから行く筈なのに、この先に進んだことがある気がする。
これからアズゴア王と戦う筈なのに、もうその戦いの結果を知っているような気がする。
彼のことをゲームだった時の知識以外に知らない筈なのに、彼が死にたがっているのを、何故か知っている。
そして、何より。
―――――――――死に逝く王様の安らかな死に顔を、私は知っている気がする。
「………え、なんで?」
そんな筈がない、と直ぐ様思考を打ち消そうとしても、どうしても強烈な違和感は消えてはくれない。
混乱しながら取り敢えずフリスクのことを見ると、セーブポイントをじっと見つめていたフリスクが顔をあげた。
「………
ぽつりと、フリスクがそう呟く。静かな空間の中で呟かれた言葉が、私の中で木霊する。
『戻ってこれた』。
今、フリスクは。私の妹は、本当に、そう言ったのか?
信じられないその言葉を理解し、この一瞬の内に一体何が起きたのかを理解した途端にどくんと心臓が跳ねる。
まさか、まさか。でも、それならこの既視感の説明もつく。
自分の持ちうる全ての知識で私が辿り着いた結論は、たった一つ。
『
「? お姉ちゃん、どうしたの? ぼくのことをじっと見て……」
「ん? ………あぁ、いや、何でもないよ」
フリスクは自分を凝視する私に向かって首を傾げる。うん、かわいい。
そこまで辿り着いて、私は逆に
巻き戻された、ってことは、だ。一週目の私は心配だったフォトショップフラウィーを無事に……いや私のことだし、フラウィーも狂ってるから無事ではすまなかったんだろうけど、まぁ乗り越えることが出来たんだろう。彼との戦いではセーブとロードが奪われてるから、セーブデータは使えない筈だからね。アズゴア王と戦って死んでフリスクが巻き戻した可能性もあるけど、私が王様の死に顔を見た気がすることから考えてその可能性は低い。まぁとにかく、全てを乗り越えて、私はフリスクをニュートラルエンドまで連れていくことが出来たはず。そして、このセーブポイントの光の前まで戻ってきたってことは、これから進むのは、トゥルーパシフィストルート………つまりハッピーエンドルートの可能性がかなり高い。
そんな思考を回していると、フリスクがちょいちょいとパーカーの裾を引っ張ってくる。
「お姉ちゃん、あのね」
「ん、どうしたの?」
「フラウィーに会ったんだけどさ、それでアルフィスのラボに行けって言われたんだけど………行っていい?」
上目遣いで訊ねてくるフリスクに、思わず私は目を見開いた。
「…………いいけどさ、フリスク、何時フラウィーに会ったの……?」
そう聞き返せば、フリスクはきょとんとした顔をする。
…………フラウィーがフリスクの前には姿を現すことは無かったはずじゃなかったのか? それとも、バタフライエフェクトで……? いやでも私が目を開けるのにそこまで時間はかからなかったから、会うほどの時間は無いはず。寝ていた訳でもないし、一体どうやって……?
私がそう思っていると、フリスクは目を伏せて考え始める。
「……あれ?」
そして暫くしてから顔をあげ、戸惑いを浮かべた顔で私を見る。
「………ぼく、いつフラウィーに会ったんだっけ」
困惑した顔を見て、ふと思う。もしかして、フリスクが会ったわけじゃないのか、と。
ゲームだったとき、フラウィー戦の後にフラウィーを『MERCY』して見逃せば、エンディングの後にフラウィーは『Player』に『何故自分を見逃したのか』という疑問をぶつけ、『アルフィスのラボに行け』という指示をするシーンが見れた。だが、それはあくまでも『Player』に向けるヒントであって、『フリスク』自身に向けたものじゃない。なのに、フリスクの知識としてそれがあるってことは………フリスクと『Player』の繋がりが強くなっているのか、でも糸が太くなったりした様子は無いし、それとも………
「………まぁ、いいよ。あのフラウィーにアドバイスされるとかちょっと所じゃなく癪だけど、フリスクが行きたいって言うなら従うさ。でも、その前に」
止まらなさそうな思考を一旦切り上げ、私は先程の部屋に足を一歩踏み入れる。
此方に背を向けたまま、紫色のマントを纏った彼が佇んでいる。
何故か泣きそうになる中、声をかける。
「すみません、王様。ちょっと用事を思い出したので済ましてきます」
「……そうか。なら、行ってきなさい。私はいつでも待っているからね」
「! ………はい」
たった、一言。
それでも返された優しい声が、心にじんと広がっていく。
――――良かった。彼が、生きている
その事実が、何故か泣きそうになるほど嬉しかった。
こう思うってことは、きっと一週目の私は、
視界が霞んでいくのに気付き、慌てて袖で拭う。これ以上居たらマジで泣きそうで、急いで部屋から出る。
「お待たせ。話してきたよ」
「ありがとう………?」
戻ってフリスクに伝えると、お礼の後に首を傾げられる。
「………お姉ちゃん、泣きそうになったの? なんかあった?」
そして一発で泣きそうになったことを見抜かれ、思わず苦笑する。
「……王様があの部屋で立っているのを見たら、なんか……嬉しすぎて、涙が出てきちゃって………何でだろうね」
何も知らない体でそうフリスクに告げれば、その顔が一瞬悲しそうに歪む。大方、フリスクは私が後悔していたのを知っていたんだろうなと思いながら、未だに浮かんでくる涙を拭い、今度こそ泣き止む。
「………まぁ、それは置いとくとして。ラボに行くんだって?」
「うん」
話題の方向転換を図ると、フリスクはそれに頷く。
「うーん、私さっきアルフィスに結構きついこと言ったり威圧かけたりしちゃったんだけど……合わせる顔がないなー」
「あはは……」
フォローのしようのない私の一言に、フリスクは苦笑いを返した。
「………まぁ、私の事情は置いといて。じゃあ、ホットランドに戻ろうか。えーと、どのルートが最短だ?」
「うーん、取り敢えず廊下の前のエレベーターで戻って、そこからコアに行くエレベーターに乗ってホテルのところで降りて、ホテルの近くに確かエレベーターあったよね? それに乗ってラボに行くのが最短じゃない?」
「あー、やっぱりそれが最短かぁ……」
ラボに行く最短経路をフリスクと話し合いながら、手を繋いで歩き出す。
………………ここからが、正念場だ。
一週目の私がちゃんと予定通りニュートラルエンドにまでフリスクを連れていったんだ。二週目の私は、ハッピーエンドにまで、必ずフリスクを連れていかなくちゃ。
画面越しで見ていたあの夕焼けを、必ずフリスクに見せなくちゃ。
私は、胸に、決意を抱いた。