守りたいもの   作:行方不明者X

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2.手紙(ラブレター)

【Lily】

 

フリスクと他愛もない話をしながらコアまで戻ってくる。そして、コアからホテルに繋がる廊下の半ばに差し掛かった時、

 

プルルル………プルルル………

 

フリスクが持つ携帯の着信音が廊下に響く。その着信音にさえ、懐かしさを覚えた。

 

「え、えっと、何処だっけ………」

 

ごそごそとポケットを探り、フリスクは携帯を取り出して電話に出た。

 

「………」

 

電話に出た瞬間、フリスクの声が一切聞こえなくなる。慣れていた筈のその現象に、どきりと心臓が跳ねる。………一週目に地下を出て、結構な日数が経っていたらしい。地下世界で付けた『有り得ない現象』に対する耐性が無くなってるな。

 

「…………」

 

暫くしてフリスクは電話を切り、携帯をしまって、困った顔で私を見る。

 

「どうしよう、お姉ちゃん。アンダインに頼まれごとされちゃったんだけど……先に行くべきかなぁ?」

 

………あぁ、やっぱりその電話だったのね。此処でその電話といえば、それしかないし。

フリスクが言っているのが今後に関わってくる大事なイベントだと察し、少し考える。

 

「………私の意見を言えば、ラボに行くのは後でいいんじゃないかなとは思うよ。アンダインは私達を待ってるんでしょ? それに比べて、アルフィスは別に私達を待ってるわけじゃない。勝手に私達が押し掛けるだけだし。だったら、待っててくれてる方を優先した方がいいとは思うな。………まぁ、フリスクに任せるよ」

「そっか……」

 

私の言葉を聞いて、フリスクは少し考え込むような素振りを見せる。そして、少ししてから顔をあげて、頷く。

 

「うん、決めた。アンダインの方に先にいく」

「ん、オッケー。じゃあ、ホットランドに着いたらラボじゃなくてそのままリバーパーソンさんの所に行くのでいいね?」

「うん、それでいい」

 

予定を擦り合わせ直し、二人で確認し合う。

 

「あぁ、楽しみだなぁ」

 

妙に浮き足だっているフリスクを見ながら、アンダインやパピルスに会えるのが嬉しいのだろうかと見当をつける。

 

「さて、じゃあ待たせるのもなんだし、急ごうか」

「うん!」

 

フリスクを促して手を繋ぎ、スノーディンへ向かって走り出した。

 

―――――――――――――――――――――

 

「ありがとうございました、リバーパーソンさん」

「トゥララ。またいつでもおいで」

「はい」

 

ホットランドを経由し、リバーパーソンさんに送ってもらってスノーディンに辿り着く。途中、ラボの前を通った時フリスクがじっとラボを見つめていたりしたが、それは割愛する。

フリスクは岸についた途端にリバーパーソンさんの船から飛び出し、走っていく。

 

「ちょ、ちょっとフリスク!?」

「トゥララ、子供は元気なくらいが丁度いい」

「まぁ、そうですけど……ともかく、ありがとうございました!」

 

ちゃんと頭を下げてから慌ててフリスクの後を追う。季節外れなざくざくという雪を踏み締める感覚と冬特有の寒さが酷く懐かしい。そんな思いに駈られながら、とにかくフリスクを追う。

道の先を行くフリスクが角を曲がる。私も角を曲がった所で、叫び声が上がった。

 

「ニェッ!!?」

「ンガアアア!!?」

 

懐かしさを覚える声にハッとして顔をあげると、少し先で、フリスクが木造の家の前で立っている背の高い骸骨―――パピルスと、青い肌に紅い髪の魚人の女性―――アンダインに飛び付いているのが見えた。

 

「な、なんだ、どうした人間!? 俺様達に会えなかったのがそんなに寂しかったのか!!?」

 

驚き、戸惑う二人に、フリスクはぎゅうと抱き付く。まぁ無理もない。別れてそこまで経ってない友人が唐突に抱き付いてきたら、驚きもするわな。私だってそうだし。

そこで、私も追い付いた。

 

「ちょっ、と………急に、走るな………」

 

ゼェゼェと突然走った影響で膝に手をついて肩で息をしながら、フリスクに注意をする。すると、ハッとしたようにフリスクは二人から離れ、慌てて私に駆け寄る。

 

「大丈夫か??」

「おい、私から逃げていた時のガッツはどうした」

 

ざくざくという音ともに、不意に、懐かしさを感じる声が上からかかる。ハッとして顔をあげると、パピルスとアンダインが心配そうな顔で私を見ていた。

 

「―――――――………うん、大丈夫……」

 

その顔を見て、思わず笑みが溢れた。

 

「そうか!! 怪我はしてないな!?」

 

にっこりと笑って続けられたパピルスの一言に、浮かんだ笑みが引っ込んだ。

………うーん! 何とも言い辛い! メタトンに蹴られたってバカ正直に言う訳にもいかないしなぁ……

 

「あー、うん。ダイジョウブ」

「そうか!」

 

メタトンに蹴られた際の横腹の痛みを思いだし、思わず手を宛てて擦る。棒読みになりながらも頷くと、パピルスはその笑顔を保ったまま、満足そうに頷いた。アンダインは本当は良くないことを察したのか、苦い顔をする。

 

「………まぁ、それは置いとくとして。それで? 頼みごとって何さ」

 

口を開こうとしたアンダインから追及を受ける前に本題を訊ねて話題を逸らす。露骨に話題を逸らされたからか、アンダインは一瞬眉を吊り上げたが、直ぐに諦めたように眉を下げ、深く溜息を吐く。……いやごめんて。そんな深く溜息吐かなくてもええやん。

 

「あー、それで、少し頼まれてくれないか」

「何を?」

 

無言で首を縦に振るフリスクと一緒に頷くと、途端にアンダインが居心地悪そうにし出す。そして、先程から何故か背中に隠していた左手を、シュバッという音を立てそうなぐらいに勢いよく差し出した。

 

「えーと、こ……この手紙を届けてくれ」

 

その手には、水色のシンプルな手紙が乗っていた。

 

「へぇ、手紙か。誰に届ければいいの?」

「宛先はアルフィス博士だ」

 

手紙を受け取り、引っくり返してみたりして、よく観察する。何処を見ても名前が見当たらず、ゲーム通り手紙に名前は書いていないらしいと思う。

一生懸命書いたのに名前を忘れるとか………やっぱちょっと抜けてるな、アンダイン……

………この手紙は、アルフィスに会って、今後のルートを進める為に重要な物だ。これに名前が書いてなかったからこそ、彼女を連れ出せるのだが……少しだけ、指摘した方がいいのかと、迷う。

私が手紙を見て悩んでいる間に、背伸びして手紙を見ていたフリスクがアンダインに向き直り、パクパクと口を動かす。

 

「ハァ!? どうして自分で渡さないのか……?」

「そうだよ、自分で行けよ」

 

そう指摘すると、アンダインは徐々に顔を赤らめ、もじもじとしだす。ちょ、現実で見るとなおのこと可愛いな。フリスクには敵わないけど。

 

「………えーと。そ、その………そ、それは個人的な話だが……あたしたちは友達だし……その……」

「なんだどうした可愛いな。おらはよ言え」

「ちょ、可愛いってなんだ!! 茶化すな!! え、えと、その……し、正直に言うと……」

 

ニヤニヤしながら悪ノリして揶揄うように言えば、青い実が熟れて赤くなるように赤くなり、人差し指を突き合わせ始める。案外いじりがいあるな。

そして、ハッとしたような顔をしてから顔を上げて、笑った。

 

「ホットランドはクッッッソ熱い!! 自分で行きたくないんだよな!!!」

「それだけじゃないでしょ?」

「………あと、文章が今一しっくり来なくて何度も書き直しちゃうし……」

「で?」

「…………恥ずかしいからデス……」

 

間髪入れずに突っ込んでみると、再び顔を赤くして俯いてしまう。ゲームの台詞は誤魔化しだったらしい。乙女だな。

 

「………と、とにかく、そういう訳で頼んだ」

「………」

 

フリスクは頷き、任せろと言うように自分の胸を叩いた。

 

「ありがとな! お前はサイコーの友達だ!!」

「……ねぇアンダイン、ちょっとこっちに」

「?」

 

喜ぶアンダインを手招きして、パピルスとフリスクから少し離れた所で、内緒話をするように問う。

 

「ちなみにこれもしかしてラブレターだったりする?」

「…………!!! おっま、なんで……!」

「あぁ、マジなのね……」

 

彼女はそれを聞くと、驚いた顔で私を見る。その反応にやっぱりか、と思いながら、取り敢えず話を続ける。

 

「いや、さっきからどーも恋する乙女みたいな反応してるからさ……もしかして、と思ってね。まぁ所謂女の勘ってやつ?」

「………マジかよ……」

「残念ながらマジだよ……」

 

顔を隠して項垂れるアンダインに肩を回しながら頷く。

 

「……………まぁ、他ならぬ『親友』の頼みだし、やったげるよ」

「……! 本当か!?」

「勿論」

 

そう言うと、アンダインは顔をあげ、ぱっと輝かせる。

 

「花も恥じらう恋する乙女・アンダインちゃんのキューピッドになったげようじゃないか」

「………!!!!! ば、ばかにするな!!」

「いてて、馬鹿にはしてないよ」

 

にやっと笑ってそう言えば、また彼女は顔を真っ赤にして此方を睨み、バシッと背中を叩いてくる。はは、ぜんぜん怖くないしあの死闘みたいな攻撃じゃないから痛くねぇ。

 

「……心の底から、その恋が上手くいくように応援してるんだよ。頑張って渡してくるから、アンダインも頑張って」

「……! あ、ありがとう」

 

最後はニヤケ顔から元に戻して真剣に言えば、アンダインは目を丸くしてから、ほにゃっと笑う。うん、彼女にはやっぱり笑顔がイチバン。

 

………その想いを、私は知ってて利用するんだけどね。

 

「ねぇ、何の話してるの……?」

「ん? あぁ、何でもないよ。気にしないで」

 

湧き出してきた自己嫌悪が、何を話してるのか気になったらしく、近付いてきたフリスクの声で一旦奥に引っ込む。

 

「それじゃ、この手紙はお預かりさせていただきます」

「な、なんだよ、急に………まぁ、よろしく頼む。捨てたりしたら容赦しないからな。あ、あと中身絶対読むなよ!」

「えー、そう言われるとなおのこと内容が気になるんだけど。開けちゃおっかな………ごめんごめん冗談だから。冗談だから無言で拳構えないで」

 

手紙を開けるフリをした途端にすっと突然真顔になって拳を構えたアンダインから危機感を感じて一歩距離を取ると、にっと豪快な笑顔を見せる。

 

「冗談だ」

「君の拳は洒落にならんよ。いや揶揄った私が悪いけどさ。……じゃ、行こうか」

「うん」

 

そろそろ茶番とアンダインいじりを自重し、苦笑いしているフリスクに声をかける。

 

「それじゃあまたね二人とも!」

「おう!」

「またな人間!」

 

二人にフリスクと一緒に手を振り、一旦別れてリバーパーソンさんの所にまで戻る。……さて、デートでバタフライエフェクトが出てないといいんだけど。

 

―――――――――――――――――――

 

またリバーパーソンさんに送ってもらい、手紙を持ってホットランドにまで戻ってくる。因みに犬の船だった。そこまでの時間離れてないのに犬の船になってたのが謎過ぎる。いつの間に変えたん……?

まぁそんなことを思いながら、またお礼を言って階段を上がり、ラボの前に立つ。

 

「………引き受けたはいいけど………」

 

ラボをじっと見て、フリスクは私を見た。

 

「どうしよう。ポストとか見当たらないんだけど……」

「それな」

 

ポストが見当たらないことに気付いたフリスクが、困ったように言った。私はどうすればいいか知ってるけどね。

取り敢えず、といった様子で、徐にフリスクは扉の前に進んでいく。そして、コンコンコン、とノックした。

 

「…………どう?」

「……返事は、ないなぁ。居ない筈ないんだけど……」

 

そのまま、フリスクはペタペタと扉を調べ出す。

 

「………何してるの?」

「いや、隙間でもないかな、って。そうすれば、この手紙を入れられるんだけど……」

 

そう言ってフリスクが屈み、扉の下を探る。

 

「………あ、あったよ!」

「ん、マジ?」

 

嬉しそうにフリスクが振り返り、私を見る。歩いて同じように屈んで扉の下を見ると、確かに僅かながら隙間があった。手紙を宛がって見ると、抜き差し出来るぐらいにはあるらしいと分かった。……まぁ、ここで無かったらゲーム的に詰んでたけどね。

 

「………入りそうだね」

「そうだね。入れてみるか」

「うん」

 

フリスクに手紙を渡すと、すっ、とアンダインの手紙を中に滑り込ませる。そして、ノックをした。それを見て、ドアに耳を宛てて、中の様子を伺う。

すると、ゆっくりとした足音が聞こえてきた。

 

「……どう?」

「近付いてきてる。……静かにね」

 

唇に人差し指を当て、静かにするように指示すると、神妙な顔でフリスクは頷き、同じように耳を宛てた。

 

「………ど、どう、どうしよう、また手紙かな……?

 

ぶつぶつと呟く、懐かしくてちょっとだけ聞きたくなかった声がする。……アルフィスの声だ。

 

開けたくないなぁ……そ、そのまま返そっかな……?

 

ずっと一人でいたからだろう、思考を独り言として呟く癖が着いているらしい。思考がそのまま口に出されている。

 

…………………い……いや、いつまでもこんなこと出来ないわ。この手紙は読もう

 

意を決したような声がする。そして、紙が擦れる音が微かに聞こえる。そして遅れて、ガリガリという音が聞こえ、開けようとしていることを察する。

 

………な、なんか、封がき、きつくない、コレ? ちょっと待って……

 

足音が遠く離れていく。そして少ししてから、ガチャガチャという音を立てて、また足音が近付いてきた。何か機材を持ってきたらしい。

 

カチ チュイイイイン

 

何かが削れる音が扉越しに少し聞こえ、そして、少ししてからカサカサという音が聞こえる。

 

…………え、これ、って……

 

驚いたような声が聞こえ、そして、此方に近付いてくる音がする。

 

「あ、来る。離れよう」

「うん」

 

急いで立ち上がり、扉から離れる。一歩離れた瞬間、扉が開き、小柄の黄色い恐竜のような女性が、水色の紙――多分便箋だろう、を胸に大事そうに抱えておずおずと出てきた

 

「あの、ねぇ、これ、冗談のつもりなら、これ………」

 

アルフィスが手紙とフリスクを見比べながら聞こうとすると、冗談ではないよ、というように、フリスクは首を横に振った。因みに私とは目さえ合わせてくれない。無視つらい。

 

「……嘘でしょ?」

 

それを見て、アルフィスは驚いたように目を見開いた。

 

「この手紙あなたが書いたの?」

 

その言葉を聞いて、フリスクはピシリと固まり、目を見開く。

 

「名前が書いてないから、一体、誰のものなのか……嘘でしょ。どうしよ」

 

アンダインの小さなミスからとんでもない食い違いが起きていることに気付いたのか、フリスクが困ったように私を見る。うん、私も流れとしてはどうしてこうなるのか理由が全くわからないから安心してくれ。

そしてアルフィスは、顔を少し赤らめた。

 

「すっごくかわいい……」

「……は?」

 

アルフィスが言った言葉が一瞬理解できず、ゲーム通りの台詞とはいえ聞き返してしまう。

 

「そ、それに全然知らなかったわ、あなたがこんな風にその、文章を書くなんて!」

 

ぎゅっと手紙を大事に抱え、アルフィスは続ける。

 

「びっくりした、だって……あんなに酷いことしたのに……」

 

アルフィスの顔に、影が差す。

 

「……私、本当は許されるべきじゃないの。ましてや、その、こんな言葉で? それも、こんなに情熱的に」

 

影の差した顔が、戸惑う顔に変わる。慌てて誤解を解こうとしたフリスクの動きが少し面白い。いや面白がってる場合じゃないわ。ゲーム通りに進むとしても誤解は解こうとしとかないと。

 

「えーっと、アルフィス? それ、私達のじゃなくてだな」

「よし、わかった! やってみる!」

 

弁明をしようとした瞬間、タイミングが悪かったらしく、アルフィスの声が被った。あ、こりゃ駄目だ。もう修正できない。

 

「お詫びにはこれくらいしなくちゃね!」

 

一旦フリスクと顔を見合わせ、そうよ、と言って自分を納得させようとするアルフィスを見る。私の視線を受けて、やっとアルフィスが私を見てくれる。

 

「お詫び?」

「え、ええ! 二人でデートしましょ!」

「!?」

 

今度こそフリスクは大きく目を見開いた。

 

「……あ、でもどうしましょ、三人じゃデートできないわ」

「……あぁ、それならご心配なく。私はエスコートマンだから。直接デートはしないよ」

「ちょっとお姉ちゃん!?」

「そ、そうなの? それじゃあ、始めましょうか」

 

DATE START………?

 

デートを早々に放棄する言葉をアルフィスに向けて言えば、アルフィスが怯えながらも納得したようにそう言った。瞬間、周りが白黒に切り替わり、聞き覚えのあるアナウンスが流れた。フリスクはこの現象を見て、これはもう駄目だと悟ったのか、バタバタと忙しなく動かしていた手をぶらりと下げる。

 

「……どうしようお姉ちゃん。食い違いが起きてるよ」

「………私もそれは思った。でも、うん。何とかなるよ」

「えぇ……」

 

雑談しながらデートが始まるのを待つ。そこで、アルフィスが居ないことに気付く。

 

「あれ、主役が居ない」

 

何処かにいるのかと思って周りを見渡しても、アルフィスが居ない。

 

『あうぅ、ごめん! ちょっと私まだ着替えてる途中で!』

「……あぁ、着替えてるのね」

 

不意に、研究所の方からアルフィスの声がする。着替えてるのかと納得し、待つ。

少しすると、研究所の方から、黒い生地に白い水玉の柄のワンピース、いやドレス?を着てきたアルフィスが急ぎ足でやってくる。

 

『ど、どうかしら? 私の友達がこのドレスを選ぶの手伝ってくれたの』

「おう、よく似合ってると思うよ」

 

私の言葉に続き、デートをする覚悟を決めたらしくフリスクが頷く。すると、アルフィスは嬉しそうに破顔する。

 

『彼女って本当にいいセンスを持ってて……』

 

物語を知っている私は、その彼女が手紙の本来の主であることを察する。ほんっと見ててもどかしいなぁこの子達。

自分が何を話そうとしたのか気付いたらしいアルフィスは慌てて私達を見る。

 

『えーと、まぁいいわ! さぁデートを始めましょ!』

「じゃあ……」

 

DATE STAR……

『ちょ、ちょっと、ままま待って!!』

 

今度こそデートが始まろうとした瞬間、他でもないアルフィスによってストップがかけられる。

 

『ま、まだ、デートを始める準備が出来てなかったわ!!』

「ありゃ」

 

DATE……STOP?

 

戸惑い気味のアナウンスを聞きながら、アルフィスを見ておく。私の視線を受けたからか、ピクリと体が跳ねた気がする。ほんと嫌われてるな。

 

『うーん、まず始める前に好感度をあげるアイテムをあなたに使わないと!』

「アイテム?」

『これで私達のデートの成功率を向上させることが出来るわ!』

 

おぉ、『成功率』とかリケジョっぽいこと言うなぁ。流石科学者。……なんて思ったっけ。

一番最初に『Undertale』をやったときの感想を思わず思い出した。

 

『いいかな……?』

「いいよ」

 

おずおずと聞いてくるアルフィスに、フリスクが頷く。私も指で丸を作り、了承しておく。

 

『まぁとにかく、な、なにも心配しないで! 準備はしてあるわ! わっわたし、こういうデートのために素敵なプレゼントを用意してあるの!』

「おぉ」

 

そう言って、アルフィスはドレスのポケット辺りを探り出す。まぁ、きっと、その用意している本来の相手は私達じゃないんだろうけど。

そして、何かを引っ張り出した。

 

『ま、まずこれ、これが……金属鎧用の研磨剤!』

 

ポケットから取り出したのは、瓶……だろうか。とにかく、容器に入った何か。

 

『………あー、多分あなたには使えないアイテムね』

「せやな」

 

鎧なんか着てないしね私ら。

デートで私達を年上としてエスコートしようとしているのだろう、慌てるアルフィスを見ながら同意しておく。

 

『でっでも!! 人間でも使える鱗用の防水クリームも持ち歩いているわ! あなたの、そう、鱗の……』

「アルフィス、君テンパってるな? 一旦落ち着け、私達に鱗はない」

 

ゲーム通りとは知ってはいても、此方のニーズに合わないアイテムを出してくるアルフィスに落ち着けと言ってしまう。

 

『うぅ、じゃあ、これはどうかな……』

 

クリームをしまい、またアルフィスはごそごそとポケットを漁る。

 

『この魔法の槍、修理キット、これは私が……え、えーと……』

 

どう考えても私達向けではなくどっかの騎士団長向けのアイテムばかり出してくるアルフィスに、思わず苦笑いを浮かべる。

 

『……ね、ねぇ、アイテムについては無かったことにしてちょうだい!』

「オッケー私達は何も見てない、いいね」

 

慌てるアルフィスの言葉を聞いて、フリスクにそう言うと、フリスクは首を何回も縦に振った。

 

『さぁとにかくデートを始めましょ!』

 

DATE!! START!!

 

三度目の正直と言わんばかりに、やっとデートの開幕がアナウンスされる。

 

『いぇーい!!! レッツ、ゥ、デート!』

「どんどんぱふぱふー」

 

アルフィスの無理矢理あげているであろうテンションに乗っかり、拍手をしながらそう言った。

………そして、そのまま沈黙が流れる。

 

『…………』

「…………」

「…………」

 

………いや気まっずいな!?

 

『………あー……あなたって……アニメ……好きなの……?』

 

気まずい雰囲気を破ったのは意外にも、そしてゲーム通りアルフィスで、此方に質問を投げ掛けてくる。その質問に、フリスクは少ししてから頷く。

 

『や、やったぁ! 私もよ!!』

「私も好きだぞ。スノーディンの一番最初のカメラに向かってやったやつもアニメ……というか漫画のネタだし」

「そ、そうなの!? 是非知りたいわ……! あれ、とても面白かったのよ……!!」

「お、マジか」

 

やはりオタクの同士という点ではアルフィスと根本的には同じなのか、妙に親近感を感じる。いや私オタクとはいってもライトな方だったらしいけど。腐ってはなかったけど。ちなみにソースは今世の友人。

そして、それだけで会話がつきてしまったのか、また沈黙が流れる。

 

『………ね、ねぇ! どっかに!! お出かけしましょ!!!』

「そうだね、そうしようか」

 

またも沈黙を破ったのはアルフィスで、その提案に直ぐに乗る。……いやぁ、お互い気の乗らないデートだとこんなに気まずいんだね! 初めて知ったよ!!

 

『でも何処に行けばデートとして良いのかしら……?』

「さぁね……私達地下世界のことあんまり知らないし」

「それもそうよね……」

 

私達から目を逸らし、アルフィスは少し考える素振りをする。

 

『………分かったわ!!!』

「お、なんかいいとこ思い付いた?」

「ええ!!」

 

閃いたらしいアルフィスに訊ねると、彼女は少し戸惑ってから、言う。

 

『さぁ、ゴミ捨て場に行きましょう!!』

「………マジか」

 

ゲーム通りか、というのとまた靴が濡れるなぁ、と擦れた感想を抱きながら、勇み足で前を行くアルフィスの後を、フリスクと顔を見合わせてから追った。


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