守りたいもの   作:行方不明者X

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4.『知る権利』

【Lily】

 

行きのように無言で道を辿り、ホットランドまで戻ってくる。そのまま進み、研究所の前にまできた。

 

「………お姉ちゃん、さっきからどうしたの? 怖い顔してる……」

 

思わず立ち止まって研究所を見ていると、フリスクにそう言われた。

 

「……え、そう?」

「うん」

「ありゃ」

 

引いていた手を離し、顔に手を宛てる。鏡がないから自分が今どんな顔をしているのかが分からない。だが、確かに怖いと言われるだけの顔をしているんだろうなとは分かる。フリスクの前でするつもりは無かったんだけどな。

 

「………ごめん、なんかちょっと嫌な予感がしてね。顔が険しくなっちゃってた」

「そうなの?」

 

苦しい嘘をフリスクに言えば、フリスクは気遣うように私を見上げる。十中八九、それだけではないと気付いてはいるんだろうけど。ごめん、これだけは言えない。

 

「うん。それより、無理矢理引っ張っちゃってごめんね。痛くなかった?」

「ううん、大丈夫。そこまで無理矢理じゃなかったから」

 

話を逸らし、屈んで目を合わせながら引っ張ってしまった手を擦りながら言うと、緩慢な動きでフリスクは首を横に振った。

 

「そっか、ならいいんだけど。………それじゃあ、入るか」

「うん」

 

今度は出来るだけ優しく手を繋ぎ直し、二人で進んでいく。扉の前に立つと、先程――――メタトンと戦う前と同じく、自動ドアが横に開いた。

 

「………アルフィスー? 入るぞー」

「お邪魔しまーす……」

 

此処に居ないとはわかっているが、一応声をかけておく。私に倣ってか、フリスクも声をかける。だが返事は無く、しんと静まり返った研究所は、明かりが灯っていても少し不気味だった。

 

「前に行かなかった上の所に居るのかな……?」

「どうだろう。取り敢えず入るか」

 

そのまま入り込むと、アルフィスが『シャワーを浴びてくる』と言って駆け込んだ部屋の前に、一枚の紙が落ちていることに気付く。

 

「紙?」

「というか、手紙みたいだけど……」

 

二人でそれに近付き、フリスクがそれを拾い上げる。それを見ながら、ぽっかりと口を開けている部屋のドアの中をちらっと見てみる。遠くに、ホットランドで乗れるエレベーターの様な内装が見えた。

………あれが、真研究所に繋がる……

それを確認してから、拾った手紙を、フリスクが読んでいる横から覗き見る。走り書きなのかそれともやはり勇気を振り絞って書いたからか、少し字が汚い。

 

『やぁ。ずっと助けてきてくれてありがとう。皆……そしてあなたもいつも私を助けてくれる。

だけど……これって本当に言いづらいんだけど……あなた達には、とてもじゃないけど私の問題は解決できないわ。

私はもっともっといい自分になりたい。これ以上恐れることなんてしたくない。そしてあの事についても、私は自分の過ちと見つめ合わなきゃいけない。

私は今からそれに決着をつけます。

全てをはっきりさせたい。

これは他でもない私の問題。

だけどもし直接私から伝える機会がなかったら……そしてあなたが「すべての真相」を知りたいなら。この手紙の北にあるドアの中に入ってください。

あなたには真相を知る権利があると思うから』

 

全てを読みきったらしいフリスクは顔を上げ、困惑した表情を見せる。

 

「……ねぇお姉ちゃん、これ、い、遺書じゃないよね……?」

「違うと思うよフリスク。不穏な気持ちになったのは分かったから落ち着け」

「だ、だよね……」

 

そしてアルフィスを心配するあまりか、手紙を握り締めたままとんでもないことを言い出したフリスクの頭を撫でる。

 

「………この『北にあるドア』って、あの開いてるドアでいいんだよね……? でも、彼処って確か、シャワールームだったんじゃ……?」

 

落ち着いたらしく、少ししてからフリスクはドアを見ながらそう言った。

 

「……中で道が別れてるのか、それかそれも嘘だったんじゃない」

「そっか……」

 

私の素っ気ないであろう答えに、フリスクは少し悲しそうな顔をする。

 

「……それで、どうするよ。入る?」

 

話を本題に戻した私の問いに、フリスクは考えるような素振りを見せ、そして、頷いた。

 

「入る。『知る権利がある』って言うなら、それを知っておくべきだと思うから」

「……そう。分かった」

 

フリスクの真面目な顔を見て、私も覚悟を決め直す。

………いよいよ研究所だ。ゲーム通りに進むとはいえ、何が起こるかは分からない。もしかしたらバタフライエフェクトで私の知らないことが起きるかもしれない。守りきらなければ。

 

「………それじゃあ、行こうか」

「………うん」

 

多少緊張しながら、フリスクと顔を見合わせ、頷き合う。そして、この中へと足を踏み入れる。

中は暗くてよく見えないが、真っ直ぐ進んだ先が明るくなっていて、先程見えたエレベーターの柄が見える。

 

「………エレベーター?」

 

先を進むフリスクが不思議そうに呟き、駆けていく。そして、エレベーターの中に乗り込み、キョロキョロと中を見渡した。

 

「お姉ちゃん、これ、エレベーターみたい」

「あぁ、やっぱりそうなのか」

 

フリスクにそう言われながら遅れて中に乗り込んで見渡すと、確かにエレベーターだった。……中のボタンが開閉以外に下降と上昇しかないのが少し気になる。普通は階層表示みたいなものがある筈なのだが。

 

「しめていい?」

「あぁ、どうぞ」

 

訊ねてきたフリスクにオッケーを返すと、フリスクは閉じるボタンを押し、下降ボタンを押した。

 

ガタン

 

音を少し立てて、エレベーターがゆっくりと下降を始める。そして、降り始めて少ししたところで、

 

ビーッ ビーッ

 

「う、わ……!?」

 

突如としてエレベーター内に警報が響き、点いていた光が白から非常用なのだろう赤色に切り変わる。

 

《警告! 警告! 動力低下! 巻き上げ機停止! 高度低下!》

 

「なっ!? フリスク!!」

「きゃっ」

 

そしてエレベーターのスピーカー部分から流れ出す警告に、咄嗟にフリスクを抱き締めて床に伏せた。特に衝撃は来ず、突如としてブツリと光が全て消え、視界が真っ暗闇に閉ざされる。

 

 

 

 

 

シュッ

 

暫くそのままの体勢でいると、不意にエレベーターの扉が開き、薄い光が入ってくる。

 

「………もう大丈夫そうだ。離すぞ」

「うん。……ありがとう」

「いやいや」

 

フリスクを抱き起こして立ち上がり、その光を頼りにエレベーター内を見てみる。先程光っていた筈の機能ボタンに触れてみるが、何も起こらない。

 

「………ダメだ、反応しない。電力が切れてるみたいだ」

「電力低下って、さっきの警報言ってたもんね……」

 

立ち上がったフリスクにそう告げると、冷静な一言が返ってくる。……案外冷静だな。

 

「動かすにはブレーカーとかここの電力を賄ってる装置を見つけ出して、それで電源を入れ直さないとかな、これは」

「そうだよね……でも……」

 

そこで、フリスクがエレベーターの外を覗く。

 

「………結構、不気味……」

 

そう言って戻ってきたフリスクに続いてエレベーターの外に顔を出すと、非常用か、それとももとからこういう明かりなのか、薄暗い光が外を照らし出している。中途半端な明るさが、確かに不気味な感じを演出していた。

 

「……確かに、ちょっと怖いけど。でもここで立ち止まってたって仕方無いじゃない? ここにアルフィスが居て、電源を入れてくれるとも限らないし。下手したらここに閉じ込められたままだよ? それに、……真実を、知りたかったんじゃないの? 逆にチャンスだと思うけどね」

「………そう、だね」

 

敵は見当たらないことを確認してから戻り、やはり少し怖いからか、あまり乗り気でない様子で顔を伏せるフリスクの頭を撫で、言う。すると、フリスクは少ししてから頷いた。

 

「そうだよね、ぼくは真実を知りに来たんだ。こんなとこで立ち止まってちゃダメだよね」

 

そして自分の意思を口に出し、顔を上げる。その目には、もう恐怖は宿っていなかった。

 

「………もう、大丈夫?」

「うん。もう平気。行こう」

 

そう言って頷いたフリスクは私の手を取り、この優しい地下世界の陰へと足を踏み入れた。


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