【Lily】
昔の名残を思い出しながら、消しておいた懐中電灯を点け直す。
「………?」
先程より若干光が弱まっているような気がして、何回か点けたり消したりを繰り返す。結果、やっぱり少し弱まっていることを確信する。電池が切れかかっているらしい、と気付いた。
「お姉ちゃん何してるの?」
「いや、どうも光がさっきより弱まってる気がしてさ。電池が切れかかってんのかな」
「えっ」
私の行動に疑問を抱いたらしいフリスクに訊ねられ、そう返す。
「一応予備は一個だけ持ってきてあるけど、もしかしたら途中で急に切れるかもしれないからそれは覚悟しといて」
「う、うん……」
一応フリスクにもそれを伝え、覚悟だけはしておいてもらう。
「………まあ、それはおいといて。二つ道があるけど、どっち行く?」
光が消えるのを不安に思ったのか、少し怯えた様子のフリスクに対して、言わなきゃ良かったかなと思いながら話を変える為にそう訊ねる。するとフリスクは顔を上げて考える素振りをする。そして、私の手を握って、もう片方の手で選んだ方を指差した。
「分かった、そっちね」
フリスクが指差したその方向を見て、またホラー体験しなきゃかと内心若干げんなりする。その方向は、ゲームで真上から見た際の右の部屋に進む道だったからだ。
進まないとハッピーエンディングに行けないのだから仕方無いと割り切り、フリスクの手を握り返して進んでいく。
中に踏み入れると、場違いな花の匂いが鼻を擽る。壁に嵌め込まれた鏡と、その中に映る暗い金色が目に飛び込んでくる。索敵を行い、中の構造は細長くなっているらしいと判断する。部屋の横幅はそこまで狭くはないが、先程まで広い部屋に居たからか、何処か狭く感じる。
「………あれ、この花って……?」
まだ出てこないよな、と警戒しながら辺りを照らしながら少しずつ進んでいると、横の机の上にずらりと並ぶ金の花の植木鉢に気付いたのか、フリスクが声をあげた。
「お姉ちゃん、この花、王様の所で見たよね?」
「あぁ、そうだね。あとはルインズとゴミ捨て場の所でも見かけたよね」
「何でこんなところに……?」
不思議そうに呟いて花を見つめるフリスクを見てから手を離し、壁にかかっているパネルの前に立つ。ピッという音を立てて内容が表示され、その内容に目を通す。
『報告書7
時がくれば、モンスターのソウルを納めておく為の器が必要になる。
どう足掻いても、モンスターは他のモンスターのソウルを吸収することは出来ないのだ。
人間が人間のソウルを吸収することが出来ないのと同じように……
それならば……人間でもモンスターでもない何かを利用するのはどうだろう?』
全身が映る程大きい鏡を通り越し、次のパネルに移る。
『報告書10
器の実験は失敗に終わった。
予測データと比較して何が異なっているのか分からない。
一体どうして。
とにかく難問ばかりだ。
まとわりついて、先に進めない……』
そこまで読んでからフリスクの方に顔を向け、声をかける。
「フリスクー、その花がある理由が分かったぞ。此処でしてた研究の実験台にされてたみたい」
「えっ……!?」
観察していたのか結構花の近くにいたフリスクが、私の言葉を聞いて俊敏な動きで花から距離を取る。そのまま警戒してじっと花を見つめるフリスクを余所に、私もちらりと花を見る。アルフィスに世話をされているのだろうその花々は、静かに咲き誇っている。
………もし、この研究がまた成功していたらこの地下世界には喋る花が二匹以上も居たのかと思うと、ゾッとした。
「多分そこには何もいないと思うよ。先に行こう」
「………そうだね」
私が声をかけると、フリスクはちらちらと振り返って花を見て警戒しながらも此方にやってくる。警戒するのはそっちじゃないんだよな、と思いながら追い付いてきたフリスクの手を握り、先を歩く。左横の壁に、鏡が連続して嵌め込まれている事に気付き、警戒を最高レベルにまで引き上げる。
「鏡だ……何でこんな、に」
五つ並んでいる鏡を通り抜けようとすると、不意に、鏡を眺めながら進んでいたフリスクの言葉が途切れる。
足が止まったのか、繋いでいた手が離れてしまった。
嫌な予感がして、振り返る。
「フリスク?」
「…………………お、ねぇ、ちゃん」
顔を青くして、鏡を見つめるフリスクが、鏡の中を指差す。
その先を見てみれば、
かがみのなかでしろい どろりとした ものが 蠢いている
ぎょっとして振り返れば、
白のなかに
黒くておおきい
つきみたいにまんまるな
めが、ひとつ。
それが、わたしを、
じぃっと、のぞきこんでいた。
「!!!!!」
そして肥大化した白いモノを見て這い上がる恐怖感に咄嗟にフリスクを抱き寄せてその場から脱する。
世界が、白黒に切り替わった。