守りたいもの   作:行方不明者X

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12.TrueLaboratory探索⑤

【Lily】

 

部屋の入り口を潜り、一番最初に目についたのは大きなテレビの画面。

 

「………テレビ? どうしてこんなところに……」

 

かなり大きめのテレビを見て、フリスクは首を傾げる。研究所に何故あるのか、不思議なのだろう。

 

「多分だけど、気分転換に使ってたんじゃないかな。ほら、一つのことだけやってたら気が滅入っちゃうでしょ?」

「あー、そっか……」

 

私が言ったこじつけの理由に納得したらしいフリスクは頷くと、テレビ台のガラスの扉を開け、中を探り始める。フリスクの背中越しに、テープレコーダーらしきものと、その横に積まれているビデオテープが見えた。ざっと、五つぐらいだろうか。

 

「……? これ……ビデオテープだ」

 

フリスクはそう言って一番上のビデオテープを手に取る。表面ある埃を払い、じっとビデオテープを見るフリスクを横目に、パネルへと近付く。

 

『報告書4

 

ソウルに関する情報を何か得られればと思い人間の調査を続けてきた。

そして王城で……奇妙なテープを見つけた。

アズゴア王はこれを見ていないんじゃないだろうか……

それに見ない方がいい。』

 

きっと博士が著者なのだろうその報告書を読んで、フリスクが手に持つビデオテープがゲーム通りのモノであることを察する。

 

「………おーいフリスク、こっちに報告書あったぞ」

「え、本当?」

 

声をかけると、フリスクはビデオテープから顔を上げて此方を見る。手招きすると、持っていたビデオテープを置いて此方にやってきた。立っていた場所をフリスクに譲り、そのままテレビの横にある棚を見てみる。HDやDVDが主流となった地上じゃあまり見なくなったビデオテープが所狭しと並んでいる。孤児院には、院長が友人から譲り受けたらしいテープレコーダーがあって、よくフリスクの同年代の子やそれより小さい子達がビデオテープの取り合いをしていたことを思い出しながらそれを観察していくと、所々タイトルを書ける部分に記載されている話数が欠けていたり、何故か見るからにベタついているものが所々有るのを無視し、ベタついていないものを一つ手にとって見てみると、大分古い型のもののようだが、まだまだ使えそうだと分かった。内容は……書かれている題名からして、どうやらアニメの部類らしい。一見全てアルフィスの持ち物のようにも思えるが、どうやらそれだけではないみたいだ。ここにいた研究員の趣味だろうか。………まさか、これを見てアルフィスはオタクの道に……?

 

閑話休題(まぁそれはそれとして)

 

手に取ったビデオテープを元の位置に戻し、部屋の反対側へと歩いていく。すると、目当てのスロットがあった。色は、黄色。

 

「お姉ちゃん、何して………あ、スロットだ」

 

報告書を読み終わったらしいフリスクが後ろから声をかけてくる。その次に奥にあるスロットに気付いたのか、私を追い越して駆け寄っていった。その後ろをついていく。

 

「えーっと……これは、黄色かな……?」

 

そして、ポケットにしまっていた携帯を取り出し、キーチェーンを弄り出す。手元を懐中電灯で照らしてやりながら待つと、少ししてからキーチェーンから黄色の鍵を取外し、穴に差し込んだ。

 

カチッ

 

という音が鳴って、鍵がぴったりと嵌まり、機械が作動を始める。

 

「よし、これであと二つかな?」

「そうだね、あとはさっき見つけた青と、緑かな」

 

フリスクの言葉に頷き、この研究所探索も終わりに近付いていることを改めて認識する。ここが終われば………あとは、ラスボスだけだ。

 

「………お姉ちゃん?」

「ん? どうした?」

 

不意にフリスクに声をかけられ、フリスクを見る。するとフリスクは目を瞬いて首を傾げる。そして、直ぐに首を元の位置に戻した。

 

「…………ううん、気の所為だったみたい。何でもない」

「なんだよぅ、それ。気になるじゃんか」

 

そう言ってテレビの前に戻っていったフリスクの行動を不思議に感じながら、テレビの方に向き直る。

 

「まぁ、いいや。話は変わるけど、さっきの報告書の内容読んだよね? 何かアズゴア王に見せちゃいけない内容のテープがあるとかなんとか」

「みたいだね………この積んであるやつかな?」

「多分そうだろうね。他のはアニメ系ばっかりだし」

 

……そう言えば、このビデオテープは何故此処に積んであったんだろう……? 入りきらなかったから置いといたのか……?

そんな事を思いつつ、フリスクがビデオテープを手に取るのを眺める。

 

「………見てみても、怒られないかな?」

 

ビデオテープを片手に訊いてくるフリスクに、不審に思われないように少し間を開けてから、言葉を返す。

 

「いいんじゃない、見たって。私達はここに真実を知りに来たんだし、そのビデオテープだってその内に入るでしょ」

「……そっか、そうだね」

 

私の言葉に納得したようにフリスクは頷くと、持っていたビデオテープを一瞬見て、そしてまた私の方を見た。

 

「どれから見る?」

「あー……順番があるなら順番通り見た方がいいんじゃないかな」

「それもそうだね。ええっと、一番、一番……」

 

どうやら順番関係なく積まれていたらしいビデオテープを一つ一つ確認し、目当ての一番のテープを手に取ると、横にあったテープレコーダーにセットした。そして、テレビの電源をつけて、再生ボタンを押した。それを見て、今は不要だと判断して懐中電灯の電源を切る。

真っ暗な画面は、何も映し出さない。

 

「………あれ? おかしいな」

 

何も映さないテレビを不思議に思ったのか、フリスクがまたテレビに手を伸ばそうとする。その手を掴み、元の位置に戻した。

 

「えっ、お姉ちゃ……」

「しーっ、静かに」

 

困惑するフリスクの唇に人差し指を押し付け、口を閉ざさせる。そして、流れてくる音に耳を済ませた。

 

『ねぇ。ゴリー、起きてちょうだい』

 

流れてきたのは、布が擦れるような音と、聞き覚えのある優しい声。その声に思わず、体が一瞬跳ねた。少しまだ声が若々しいが、これは……間違いなく、トリエルさんの声だ。

 

『んー? やあ君、どうしたんだい?』

 

その次に流れてきたのは、寝惚けたような男性の声。此方も少しまだ若いが、アズゴア王の声だ。

 

『……えっ、それにどうしてそのビデオカメラを持っているんだい?』

 

シチュエーションとしては、ベッドで眠っていたアズゴア王がカメラを持っているトリエルさんに起こされたところなのだろう。『ゴリー』という愛称をトリエルさんが使っているところから察するに、まだ恋人関係……または夫婦だったときの、平穏で、幸せな日常の一コマ。

 

『しーっ! あなたがどんな反応をするか撮りたいのよ』

 

楽しそうなトリエルさんの声に対して、あまり事態を飲み込めていないのか、アズゴア王からの言葉はない。

 

『愛しのゴリー。私の好きな野菜はなんでしょう?』

『………うーん……ニンジン、だよね?』

 

まだ眠たいのか、眠たげな声でアズゴア王はトリエルさんの問い掛けに答えた。

 

『ざーんねん! 私の好きな野菜は……エダ「ママ」よ』

 

少し間を開けて、トリエルさんは彼女にとっては本当に面白いのであろうギャグを言った。

 

『…………分かったかしら???』

 

しん、と静まり返った中、トリエルさんがくすくすと笑いながらそう言った。

 

『……………ベッドに戻りなさい、ハニー』

 

それに対して、アズゴア王はトリエルさんに優しくそう言った。その声には若干、呆れを含んでいるような気もする。

 

『いやよ!! まだあるんだから! へへへ』

 

それでもトリエルさんはまだ言い足りないようで、楽しそうな声で続ける。

 

『じゃあ、もし私が犬だったら、どんな種類の犬になるでしょう?』

『………うーん………分からないなぁ。何の犬になるんだい?』

 

もう諦めてトリエルさんに付き合うことにしたのか、アズゴア王はそう返した。

 

『それはね………ドーベルママンよ!』

 

そのギャグに続いて、吹き出すような音が聞こえた。

 

『ははは! 君はその子を授かって本当に嬉しいんだね』

 

…………あぁ、そうか。先程から妙にママネタを挟むなと思ったら、もう、この時にはトリエルさんのお腹には、アズリエル君が居たんだっけ。

ぼんやりと、もう顔も思い出せない母さんと父さんが、フリスクを授かったと知った時のことを思い出す。普段の倍以上、喜んでたっけなぁ。フリスクが産まれた時も、そうだったっけ。疲れきった顔をした母さんと、産まれたばかりのフリスクを抱えて泣きそうな父さんが居たこと、そして、フリスクを守ろうと誓った記憶が甦った。

 

『なぁ、もし君がそうやってジョークを言い続けてたら……』

 

アズゴア王の声で物思いから引き戻される。ビデオに集中しなくては。

 

『いつか君は有名な……ママンザイ師になれるかもしれないな』

 

そのギャグに、今度はトリエルさんが言葉を失った。

 

『………ええと、もう寝るわね』

『おい! そりゃないよ、トリ! 今のは面白かったろ!』

 

トリエルさんが聞かなかったことにして寝ようとすると、すかさずアズゴア王が不服そうにそう言った。

 

『ウフフ、分かってるわ。からかっただけよ』

 

そこで、小さなリップ音が響いた。

 

『おやすみなさい、あなた』

『………おやすみ、ハニー』

 

………ゴソゴソと、音がした。

 

『あらあなた、暗くてビデオに写らなかったかもしれないわ……』

 

そこで、ぷつん、という音とともにビデオは止まる。

 

「………お姉ちゃん、今のって……ママと、王様だよね……?」

 

視聴を終えて少し間を開けてから、フリスクがそう尋ねてくる。

 

「そうだろうね。まだ、夫婦だったときの」

「やっぱり? ……あれ?」

 

フリスクに肯定を返すと、フリスクは首を傾げる。

 

「これの何処が『見ない方がいい』ビデオなんだろう……? これは王様も知ってるみたいだけど……」

「………。取り敢えず、他の四つも見てみようよ」

「うん……」

 

最もな疑問を抱くフリスクに対し、あと四つのビデオを見ることを促す。フリスクは頷き、一番のビデオをレコーダーから取り出して、次のテープを差し込み、再生ボタンを押した。

 

『………オッケー、Chara、準備はいい?』

 

「あれ、この声……」

 

再生されたビデオから流れ出した声には、私もフリスクも聞き覚えがあった。真っ暗な画面を見つめる。

 

『気味のわるーい顔をしてごらん!』

 

子供らしい、高い声が響く。すると、少し間が開いた。

 

『ワーーーッ!! へへへ!』

 

カメラを向けているであろう人物―――Charaちゃんがした気味のわるーい顔に驚いたのか、そんな声が聞こえた。

 

『あ! 待って! レンズキャップつけたままだ……』

 

そこで、内容は聞き取れないが、もう一つの声が入った。その声に私は酷く聞き覚えがあった。

 

『え!? 今の顔、もうやらないの……?』

 

先程の言葉を反芻するように、子供の声がそう言った。その言葉に対して、また先程の声が入る。

 

『おい、からかうなよ! あはは!』

 

じゃれあうようなそんな笑い声を最後に、ぷつん、と、ビデオが終わる。

 

「……………お姉ちゃん、今の声って……!」

「落ち着いて、フリスク。……次のを、見てみよう」

「……うん」

 

動揺するフリスクを押し留め、先を促す。フリスクも一旦落ち着いてくれたらしく、テープの入れ換えを行ってくれる。二番目のテープを取り出し、三番目のテープを差し込み、再生した。

 

『………やぁ、Chara! カメラに向かって笑って!』

 

また先程の子供の声が流れ出した。少し間が開く。

 

『はは、今度は君が引っ掛かったね! キャップをわざと……つけっぱなしにしてたんだ! 君は今なーんの意味もなく笑ってるってことさ! へへへ!』

 

そこで、また声が入る。

 

『え? ああ、うん、覚えてるよ。ぼくたちがパパにバタースコッチパイを作ろうとした時でしょ?』

 

その声に応えて、子供の声はそう言った。

 

『バターをカップ数杯分ってレシピには書いてあったけど……間違えてバターカップの花を入れちゃった』

 

「!」

 

そこで、思わず手に力が入った。

そんな私などお構い無しに、ビデオは進んでいく。

 

『そう! お花を食べたパパはとっても具合が悪くなったよね!』

 

一瞬入った声に、子供の声はそう答えた。

 

『気まずかったなぁ。ママをホントに怒らせちゃった。笑い飛ばしちゃえばよかったよ、君みたいに……』

 

昔を懐かしむように、鳥の囀ずりの中で子供の声は言う。

 

『えっと、それよりさ、それ持って何処にいくの?』

 

今度は子供の声が、もう一つの声に問う。すると、もう一つの声がまた聞こえた。

 

『えっ? カメラを切ってだって……? いいよ』

 

その声を最後に、ぷつんと、ビデオが終わる。

今度は何も言わず、フリスクはすぐにテープを入れ換えた。三番目を取り出し、四番目のテープを差し込み、再生する。

 

『………や……やめたほうがいいよ、Chara』

 

再生が始まると、また子供の声が流れ出した。その声は、ぐすぐすと鼻を啜るような音が混じっている。泣きそうになっていると、直ぐに察しがついた。次には、その子供の声を馬鹿にしたような声が入る。その声は、所々掠れていて、酷く辛そうだった。

 

『な……なんだって? そそ、そんなことないもん……』

 

そこで、深呼吸するように息を吸って、吐き出すような音が微かに聞こえた。

 

『………おっきい子は泣かない。うん、君の言うとおりさ』

 

そこで、疑うような声が入る。

 

『そんな! 君を疑うもんか、Chara……! 絶対にさ!』

 

また声が入り、話は続く。

 

『う……うん! ぼくたち強くなろう!』

 

そして、次に、その声は。

 

『皆を解放するんだ』

 

決意に満ちた言葉を吐いた。

 

『お花を取ってくるね』

 

その声を最後に、ぷつんと、ビデオが終わる。

フリスクが、最後のテープに取り、入れ換える。四番目を取り出し、最後のテープを差し込み、再生ボタンを、押した。

 

『………Chara……聞こえるの……? 目を覚ましてちょうだい……』

 

震える女性の声が、再生が始まった途端に流れた。その声は、先程の子供の声よりずっと泣きそうだ。

 

『Chara! 決意を抱きつづけるんだ!』

 

焦燥しきった、男性の声が続けて聞こえる。

 

『諦めるな……君は人間とモンスターの未来なんだ……』

 

縋るような声が、胸に突き刺さる。その声から、家族を想う深い愛情を感じた。

 

『…………ねぇ……Chara……お願い……起きてよ……』

 

少し間が開いて、泣きそうな子供の声が聞こえた。

 

『こんな計画もう嫌だ。ぼくは……ぼくは………』

 

言葉が出ないのか、沈黙が流れる。

 

『…………………ううん……言ったんだ。君を疑ったりしないって』

 

そこで、ゴソゴソという音がした。

 

『………六つ、だよね? 六つだけ取ってくればいい……』

 

少し声が遠くなったが、子供の声は、はっきりと聞こえる。

 

 

 

 

 

『ぼくらで一緒にやるんだよね?』

 

 

 

 

 

最後に流れたその声は、酷く、此方が聞いていられない程に、辛そうだった。

ぷつんと、ビデオが終わる。これで、全てのビデオを見終わった。

 

「……………………今の、って」

 

フリスクが、テレビを凝視しながら呟く。

 

「………今まで聞いてきた話の、真実……?」

「……だろうな」

 

呆然と、そう呟くフリスクに頷くと、フリスクはその場に崩れ落ちて、緩慢な動作で私を見た。

 

「……Chara、って、多分、このロケットのお姉ちゃんそっくりな子だよね?」

「多分ね」

 

自らが辿り着いた真実を確認するように、フリスクは言葉を紡ぐ。

肯定する。

 

「………バターカップの花、あの、金のお花には、毒があったってことだよね?」

「…………本で読んだ知識だけど。バターカップの花って、日本の名前ではキンポウゲっていう花なんだ。その花には………かなり強い、毒がある」

 

軽い説明を入れながら、肯定する。

 

「……………自殺だった、ってこと……!!?」

 

最後のその言葉に、頷く。

 

「………こりゃ確かに、アズゴア王とかトリエルさんには見せない方がいいだろうね」

 

その言葉を付け加えて。

 

「……どうして………? そんなこと、ママもパパも、アズリエル、王子もきっと望んでなかったのに……!」

 

遂に、涙まで流しはじめてしまったフリスクの頭を撫でる。

 

「………きっとだけれど。それがCharaって子の決意だったんじゃないかな。だから、そんな風に言わないであげて。その言い方は、『君がやったことは無意味だった』って言ってるようなもんだから」

 

そうフリスクに伝えれば、フリスクは涙を溢す目を大きく見開き、あ、と小さく呟く。

………Charaちゃんがどんな性格かまだ良くわからないけれど、今フリスクが流した涙は、ただの侮辱だと、何故か私は思った。

 

「………そう、だね。そう言っちゃ、ダメだね」

 

フリスクは涙を拭い、そう言った。

 

「………取り敢えず、この事実は私達の胸の中にしまっとこう。いいね?」

「……………うん」

「よし」

 

頷いてくれたフリスクに手を差し出し、握ってくれた所で引っ張って立ち上がらせる。そして持っていた懐中電灯の光を再度つけて、握ってくれた手をそのまま握り返す。

 

「………さて、他の場所に行こうか」

「……うん」

 

頷いたフリスクの手を引き、部屋から出て、先に進む。山羊の頭蓋骨の前を通り抜け、レモンブレッドが居て通れなかった反対側へとやってくる。

 

「あ、パネルだ。読む?」

「うん」

 

フリスクを連れ立ってパネルの前に立つと、

 

『決意抽出装置:非稼働』

 

という表示が現れる。

……これ、非稼働ってだけで動かせない訳じゃないってことだよな? うわ、こわ。

 

「なんだ、これだけか。行こう」

 

フリスクの手を引いて先に進もうと、パネルの前から離れて奥に続く入り口から一歩踏み出した瞬間、

 

「うわっ!?」

「えっ!?」

 

一瞬で真っ白な霧に視界を奪われる。これはまずいと即座に判断して、瞬時に体を引っ込める。

懐中電灯で暗い中を照らすと、少し先で光が消えてしまうほど濃い霧のようなものが部屋を充満していることに気付く。

 

「お姉ちゃん大丈夫!? なんかあった!?」

「うん、何ともないよ。ただ、この部屋の中凄い濃い霧がかかってるみたいでさ、中が調べられないな、これじゃ」

 

心配するフリスクに対して言葉を返し、見てみなよ、と付け足して、懐中電灯で照らしながら中が見えるように退くと、フリスクも中を覗き込んだ。

 

「………うわ、本当だ。これじゃ進めないね……」

「でしょう? こっちは一旦諦めて反対側に進むしかないと思うんだけど」

「そうだね、そうしようか」

 

そう二人で結論付け、来た道を引き返し始めた。

 

―――――――――――――――――――――

 

反対側の部屋までやってくると、そこにも先程の部屋ほどではないが霧がかかっていた。

 

「うわ、ここでもか……」

「でも、何も調べられない程じゃないよ。取り敢えずパネルあるし、調べちゃおうよ」

「………うん、そうだね」

 

直ぐ横にあるパネルを指差しながら言うフリスクに頷いてから、ちらっと部屋の天井辺りを見る。霧に混じって、無数の白い何かが浮いているのに気付く。やっぱりか、と思いながら、パネルに目線を移した。

 

『報告書11

 

メタトンは今や成功を納めて、もう私には話しかけてくれない。

……ただ「いつ体を完成させてくれるのか」と尋ねてくるだけ。

もし彼の体を完成させてしまったら、もう私は必要とされないのではないか……

そうなったら、もう永遠に友達でいられなくなってしまう。

………言うまでもなく、彼の体を完成させようとする度に、ただただ冷や汗が溢れる……』

 

「…………これ、アルフィスの……?」

 

遅れてパネルを読み始めた私より先に読み終わったらしいフリスクがそう呟いた。

 

「そうだろうね。アルフィスがメタトンを作ったらしいって話も聞いたし」

「だよね……」

「………まぁ、こんな隠し事してたんだし、いつ見捨てられるのか、離れていってしまうのかと思うと、気が気じゃなかっただろうね」

 

最後にそう言えば、フリスクは顔を歪めた。

 

「……辛かった、のかな。やっぱり」

「………そりゃそうだろうね。まぁ、それも過去の話だ。これからどうするかはアルフィスとメタトン次第だし、頼られたとき以外あんまり口は出さないようにね」

「うん、分かってるよ」

 

フリスクに一応忠告をして、そのままパネルの前から離れる。霧が立ち込める中、全て換気扇らしきものになっている壁の前の狭い道を進んでいく。

 

「換気扇かな、これ」

「だろうね。こんなにあるってことは、多分研究所の全ての換気扇に繋がってるんじゃないのかな」

 

そんな会話をしながら、部屋の一番奥にまで辿り着く。壁にかかっているスイッチを見つけると、フリスクは私を追い越してそのスイッチに駆け寄った。

 

「押していいかな?」

「いいと思うよ」

 

首だけこちらに向けて訊ねてきたフリスクにゴーサインを出すと、フリスクはスイッチに手を伸ばし、押した。

 

カチン、ゴオオオォォォォ………

 

という音を立てて、換気扇が回り始める。その大きさ故か、直ぐに霧は吸い込まれ、視界が晴れ、明瞭になる。

 

「おし、これで………」

 

向こうの霧も晴れたでしょ、と、言葉を続けようとした瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どちゃっ

 

 

音に表すなら、そんな音だろうか。

 

 

私の後ろから、質量のあるモノが落ちてきた音が聞こえた。

 

 

「ひぃっ」

 

 

壁側にいるフリスクが、怯えた顔で後退り、壁に背中をつけた。

 

 

 

その視線は、私の背後に向いている。

 

 

 

ずるずる ずるずる、ずるずる

 

 

後ろから、何かが引き摺られるような、そんな音がする。

 

 

獣特有の臭いが 音ともに近付いてくる。

 

 

後ろを、振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、酷く形が不安定な、巨大な白いモノがいた。

 

 

私よりもずっと大きいそれが 本来ある筈のパーツが全てないのっぺりとした顔で、私の瞳を覗き込んでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウォォォォォン…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獣の臭いと、犬か狼かその辺りの遠吠えらしきものが、五感を支配していく。

 

 

 

 

足が、動かない。

 

 

 

 

「お姉ちゃん!」

 

 

 

 

後ろから聞こえるフリスクの声を合図に、世界が白黒に切り替わった。

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