【Lily】
「ここまで本当によくやってきたわ、我が子よ。」
と、部屋を移動して最初にトリエルさんは言った。
「けれど……ちょっと辛いことをしないといけないの。」
トリエルさんの言葉に、辛いこと?と言いたげにフリスクは首を傾げる。
「この部屋は二人で進んでほしいの。……許してね」
そう言ってトリエルさんはさっさと奥に進んでいってしまった。
「……そこまで辛いことでもないね?」
「そうだね」
何を許せばいいんだろう?、とフリスクはまた首を傾げる。激かわ。
「行こう、お姉ちゃん」
そう言ってフリスクは歩きだした。その後ろをちょっと間隔を開けて私も歩く。
……結構長いし、少し考え事でもするか。
さっきの戦闘で気づいたことが一つ。それは疑問に思っていた『Player』に私の姿は見えているのか、ということ。それに結論が出そうなことに気づいた。
ダミーの時もフロギーの時も、アナウンスは『You』、単数形で話していた。私がもしも見えているのなら、複数形でもいいはず。なのに一貫として『You』だったことからして、【私の姿はあっちには見えていない】と一応結論を出す。でも、トリエルさんが見えていることからして、【見えていても手を出していないように見えている】という可能性もある。
それから、【この糸の先のPlayerは始めたばかり】という可能性も見えてきた。
実はダミーの時、ボタンのところのハートが迷ったように行ったり来たりして、結局『ACT』を押していた。Gルート経験者なら、迷わず『FIGHT』を押してもいいはず。なのに迷ったということは、完全にとは言い切れないが、初心者であるという可能性が見え―――「お姉ちゃんっ!!」
はっとして声がした方を見る。そこには膨れっ面をしたフリスクがいた。
「もうっ、さっきから呼んでるのに返事もしないし!」
「あはは、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
どうやら考えているうちについたようである。これにはトリエルさんも苦笑いしていた。
「ここで待っててほしいの、お願いできるかしら?」
「はい。大丈夫ですよ」
「良かった、じゃあ、これを妹さんに渡しておくわね」
そう言ってトリエルさんはフリスクに携帯電話を手渡す。
「もし何かあったら、いつでも電話してね。…いい子にしているのよ、わかった?」
一瞬間が空いたが、フリスクは小さく頷いた。あ、これはいい子にしてないパターンだな?
その返事に安心したのか、トリエルさんは去っていった。
さて、フリスクが動くまで座ってましょうかね、と私は柱に背中を預けた。
――――――――――――――――――
……数十分後、フリスクに揺り起こされて私は目を開ける。いつの間にか寝てたらしい。
「お姉ちゃん」
「………んー、どうした……」
「ぼく、先を見に行きたい」
「……そっか、じゃあ行こっか」
頬を叩いて眠気を覚まし、立ち上がった。その様子を見てフリスクは驚いた顔をした。
「……止めないの?」
「…私もここを見て周りたかったし。…まぁ、利害の一致、ってことで。」
笑いながらそう言えば、フリスクは嬉しそうに頷いた。
「……さて、行きましょうかねぇ」
「うん」
手を繋いで、私達は歩きだした。
※ご指摘があったので解説させていただきます。
「You」は単数形の意味だけではなく複数形の意味、つまり「あなた達」と言う意味もあります。なのに彼女は単数形だと思っている。つまりは……彼女のうっかりです。ご了承お願いいたします。