守りたいもの   作:行方不明者X

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18.前哨戦

【Lily】

 

*(A strange light fills the room(不思議な光が部屋を満たす).)

 

 

いつもよりも厳かなアナウンスが、流れ始める。フリスクと繋いでいる手をもう一度握り締めてから離し、私は必要はないと分かってはいるが、何も知らないフリをしてナイフを取り出し、この先何が起こるかしらないフリスクは、辛そうな顔で鞘に手をかける。

 

 

*(Twilight is shining through the barrier(黄昏の光が結界の向こうから照らされている).)

 

 

ナイフに巻き付かせていたハンカチを取り、ポケットに突っ込む。フリスクは鞘をゆっくりと外し、ベルトの部分に取り付ける。

 

 

きっとフリスクは、どうしてまた彼と闘わなくてはいけないのか、このままではまた彼は殺されてしまうのではないのか、そう頭の中で考えているんだろう。

 

 

私だって本当は、フリスクにはナイフを持たせたくなんてなかった。

 

 

*(It seems your journey is finally over(あなたの旅はついに終わるようだ).)

 

 

―――――……それでも、闘わなくては。

 

 

私が望むあの夕陽を、絶対に見るために。

 

 

戦闘に邪魔なリュックを放り投げ、フリスクと一緒にナイフを構える。

 

 

*(You're filled with(あなたは胸に)

 

 

 

 

 

 

DETERMINATION(決意を抱いた).)

 

 

 

 

『人間よ………』

 

 

 

最後に、重々しく、辛そうな声で、アズゴアが語りかけてくる。

 

 

 

『君に会えて本当に良かった』

 

 

 

―――――――さようなら

 

 

 

そう言って彼が、顔を俯かせた。

 

 

その時だった。

 

 

 

ボボッ

 

 

 

目の前に、空気を燃やす音を立てて、色を無くした炎の塊が現れたのは。

 

 

 

「………え?」

 

 

 

突然のことに、フリスクの口から戸惑いの言葉が溢れる。

そして私は、台本(ゲーム)通り彼女が来てくれたことに、そっと胸を撫で下ろした。

 

 

突如現れた炎に驚いたのは、フリスクだけじゃなかった。

 

 

「………どうしてこれが、」

 

 

対峙するアズゴア王にもこの炎には見覚えがあったらしく、辛そうに歪められていた顔の目を見開き、炎を見つめる。

 

 

そのアズゴア王に、炎は勢いよく飛んでいった。

 

 

「ぐぅっ!?」

 

 

完全に油断していたらしいアズゴア王は、炎に吹っ飛ばされていく。

 

 

フリスクは唖然と、私は安堵しながら、アズゴア王を見ていると、

 

 

『何て恐ろしい魔物なんでしょう。罪の無い子供を、傷付けるなんて……』

 

 

―――酷く、懐かしい、優しい声が耳に届いた。

 

 

それと同時に、炎を出してアズゴア王を攻撃した張本人である彼女が、姿を見せる。

 

 

『ああ、怖がらないでいいのよ。私よ、トリエルよ。あなたの味方で保護者だわ』

 

 

そして、彼女は―――トリエルさんは、私達に向かって優しい笑みを浮かべた。

 

 

「……トリエル、さん」

 

 

気付けば、アズゴア王を睨み付けながら登場した彼女の名前を、口に出していた。

 

 

「えぇ、そうよ。………まぁ、また見ない内にボロボロになって! 大丈夫? どこも痛くない? 誰がこんなことをしたの? 直ぐに謝らせるわ」

「あ、えっと、これは、その………」

 

 

にっこりと笑って頷いてくれた彼女は、私がルインズを出た時よりもずっとパーカーが破れたりしていることからボロボロであると判断したらしく、傷を見咎めて、顔を心配そうに歪めて駆け寄ってくる。その無償に与えられる優しさに、『フリスクを庇って受けた傷で私の勲章なんで大丈夫です』とは流石に言えず、肩を抱き寄せられて、暖かいモノに包まれたままただ撫でられるのを受けるしかなかった。

 

 

駆け寄ってきたトリエルさんの腰にフリスクは抱き付き、ぎゅうっと抱き締める。

 

 

「あなた、は………怪我はないわね? ……もしかしてこの傷達は、私の時と同じようにあなたを庇って受けたのね?」

 

 

フリスクに抱き付かれたことによって私を離し、フリスクと視線を合わせて抱擁を返す。そしてトリエルさんはざっとフリスクの身体を見て、確信を持った声でフリスクに優しく訊く。それに、フリスクは安心したのか、涙を目尻に浮かべて力強く頷いた。それを見た瞬間、トリエルさんが怖い笑顔を携えて此方を向いた。たまらず私は視線を逸らした。

 

 

「駄目じゃない、リリー。この子を不安にさせちゃ。それに、女の子なんだから、身体は大切にしなくちゃ」

「………はい。ごめんなさい」

 

 

目線を逸らしてしまっているので顔は見えないが、きっと怖い笑顔で言われたぐうの音も出ない正論で諭され、何も言えなかった。

 

 

「………」

 

 

目線を恐る恐る戻すと、目尻に浮かべた涙を拭い、フリスクはトリエルさんを見て首を傾げて口を動かす。それを見たトリエルさんが、また優しく微笑んだ。

 

 

「戦いを止めるために、あなたを追いかけてきたのよ」

 

 

どうやらフリスクはトリエルさんに『どうしてここにいるのか』とでも聞いたらしく、トリエルさんはそう答えた。

 

 

『最初はね、あなたをひとりで行かせようとしたんだけど……でもどうしてもあなたのことが気がかりで。きっと一筋縄ではいかない冒険になるでしょう? ……そしたら、あなたが恐ろしい選択を迫られてしまうと思うと。この世界から出るために、あなたが誰かの命を奪うしかなくなると思うと。あなたがアズゴアを倒さなくてはならなくなると考えたの』

 

 

そう言って、トリエルさんはフリスクを慈しむように頭を撫でる。

 

 

『でもね………分かったの………そんなことあってはならないって』

 

 

フリスクを撫でながら、トリエルさんは言葉を続ける。

 

 

『ここから抜け出すのに誰かが犠牲になる必要なんてないんだわ。私は今までそれを防ぐ為に守ってきたんじゃなかったの? そう、だから、私はこの戦いを止めにきたのよ。あの恐ろしいアズゴアでも………等しく慈悲を、受けるべきだから』

 

 

そう言って、トリエルさんはフリスクに微笑みかける。私はその光景から目を逸らし、話題に上がったアズゴア王の方を見た。そう言っている割りには随分派手に飛ばされていったが、大丈夫だったのだろうか。

そう思いながらアズゴア王の方を見ると、やはり結構ダメージがあったらしく、よろよろと立ち上がっていた。そして、顔を上げて、トリエルさんを見る。

 

 

『トリ………戻ってきてくれたんだね……!』

 

 

心の底から嬉しそうな声で、破顔しながらアズゴア王はトリエルさんに言った。トリエルさんはその声を聞くとピタリと動きを止め、フリスクを離して私達を庇うように前に立った。

 

 

『「トリ」と呼ばないでちょうだい、ドリーマー!』

 

 

そして、厳しい声でアズゴア王に返した。その声に、アズゴア王の顔が悲しそうに歪む。

 

 

『あなたは手のかかる子供と同じよ。あなたが本当に皆を自由にしたいと願っていたなら……ひとつソウルを手に入れた後に結界を通り抜けて………六つのソウルを得て戻れば、皆を自由にすることも出来たかもしれない』

 

 

冷たい声で現実を突き付けるトリエルさんの言葉を聞いて、アズゴア王はしゅんと項垂れる。

 

 

『あなたはそうせず、皆を絶望の淵に立たせ続けたわ………なぜなら、二度と人間が来ないことを祈り続けていた方が楽だったからよ』

 

 

厳しくそう言ったトリエルさんの言葉に、まぁ確かにとは思うが、少し思うところがあった。

………正直に言えば、私は一週目で彼がフリスクに遠回しに『殺してくれ』と言っていたあの台詞を言われていたらキレていた自信がある。いや、十中八九一週目ではキレたんだろう。視界の端のフリスクが一瞬反応したし。だからこそこのルートでは責任を背負って生きることを選んだ彼の行動は正当に評価するべきだと思う。

 

 

「……いや…………」

 

 

長い沈黙の後、アズゴア王は口を開いた。

 

 

『トリ………その通りだよ………私は恐ろしい魔物だ……』

 

 

そして、アズゴア王は、苦しそうな顔でトリエルさんが言ったことを肯定した。

 

 

『…………それでも、また友達からやり直させてくれないかな?』

 

 

それでもトリエルさんとやはり一緒に居たいのか、アズゴア王は控えめな笑みを浮かべてトリエルさんにそう言った。

 

 

『………』

 

 

そのアズゴア王を見て、はぁ、と、トリエルさんは呆れたように溜め息を吐く。

 

 

『ダメよ、アズゴア』

 

 

そして結構キッパリとその申し出を断った。アズゴア王は膝を着いた。玉砕したな、南無。

 

 

『ンガアアアアア!!!』

 

 

そこへ、また聞き覚えのある声………いや、雄叫びが聞こえてきた。徐々に近付いてくるその声に振り返ると、また見覚えのあるモンスターがやってきていた。

 

 

『アズゴア! 人間!! お互い争うことはない!!!』

 

 

そこに居たのは、私の親友になった彼女―――アンダインだった。

 

 

「アンダイン……」

 

 

思わず声が溢れる。台本(ゲーム)通りとはいえ、彼女が来てくれたことが嬉しかった。

 

 

『誰でも友達同士になれるんだ、なんならあたしが……!! あたしが………』

 

 

必死にこれから起きようとしていた戦いを止めようとして駆け付けてくれた彼女は振り返ってアンダインを見ていたトリエルさんに気付いたらしく、私の後ろを見て言葉の勢いを落として、ぽかんとした顔をする。

 

 

『こんにちは。私はトリエルよ。この子のお友達かしら? 初めまして』

 

 

そんな自分を見る視線に応えてか、トリエルさんは先程までアズゴア王に向けていた厳しい声とは真逆の優しい声で、アンダインに向かって自己紹介をした。

 

 

『うん、あぁ……?』

 

 

あまり状況を良く理解していないのか、アンダインは曖昧な笑みを作り、そして少し悩んだ後に、

 

 

『よろしくな!』

 

 

流石に挨拶は返さないといけないと考えたらしく、美しい豪快な笑顔を浮かべてトリエルさんにそう返して、アズゴア王の傍に近付いた。

 

 

『アズゴア王、あれは元カノか何かか?』

 

 

大真面目な顔付きで、かつドストレートにアズゴア王に彼女は尋ねる。思わず吹き出しそうになるのを堪え、彼女を見続ける。その問いに、彼は微妙な顔をした。

 

 

『えーと。とにかく頑張れ、お前さん』

 

 

完全に飛び込んで来た際の勢いを無くしたアンダインがそう言うと、

 

 

『ね、ねぇ!』

 

 

また、聞き覚えのある声が後ろから聞こえる。今度は私が振り返るより先に、彼女の方が先に私に近付いてきた。

 

 

『お互い傷付け合うのはやめましょう!!』

 

 

やってきた怖がりな彼女―――アルフィスは、私の前に立って、両腕を広げて声を張り上げる。よく見ればその身体は少し震えている。やはり少し怖いのだろう。

 

 

「アルフィス……」

 

 

またしても、彼女の名前が口から溢れる。

…………どうやら私は、こうやって皆が駆け付けてくれるのが嬉しいらしい。

 

 

『…………』

 

 

しんと静まり返った空気にアルフィスが顔を上げると、アルフィスをじっと見ていたトリエルさんの視線とぶつかる。

 

 

『あら! あなたもお友達なのね? 私はトリエル。こんにちは!』

 

 

トリエルさんを見て固まったアルフィスの心情など露知らず、トリエルさんは笑顔を浮かべて、まるで近所の子に挨拶するようにそう言った。

 

 

『えっ、は、は、はい!』

 

 

その優しい笑顔に若干気圧されたのか、吃りながらもアルフィスは頷いた。そして、訳がわからないのか首を傾げた。まぁ、自分が敬愛してる人物とそっくりな人物が突如現れたらビビるわな。

 

 

「アルフィス! お前も来てくれたのか!」

「! あ、アンダイン! あなたも来てたのね!」

 

 

嬉しそうな声で、アンダインは駆け付けたアルフィスの名を呼ぶ。その声で奥にいるアンダインに気が付いたらしいアルフィスは、彼女の傍へと駆けていった。

 

 

『よし! 今すぐ闘いを止めるんだ!』

 

 

熱っぽく見つめ合い始めた二人を余所に、また聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

『抗おうものなら……! それなら!!! 俺様と闘おう!!!』

 

 

振り返った先には、本来ならば赤いスカーフを靡かせて、真剣な顔で此方を見つめる彼―――パピルスがいた。

 

 

「パピルス……」

 

 

気付けばまた、現れた人物の名前を呼んでいた。私の声が聞こえたらしいパピルスが、此方を向く。

 

 

「ニェーヘッヘッヘ!! もう大丈夫だぞ人間!! お前は誰も傷付けなくていいのだ!!!」

 

 

彼特有の笑い声をあげて、彼はそう言った。その言葉に、心臓が跳ねた。

 

 

『アンダインも手伝ってくれ!!!』

 

 

そこまでパピルスが言うと、

 

 

『こんにちは!』

『あっ! こんにちは、国王陛下!』

 

 

トリエルさんが、彼に向かって挨拶をした。その挨拶を受けて、すぐにパピルスは挨拶を返した。どうやらトリエルさんとアズゴア王の区別はついていないらしいが。

 

 

『ちょっと! なぁ、人間……』

 

 

パピルスは此方に近付くと、トリエルさんには聞こえないようにか、フリスクを自分の方に手招きし、やってきた所でこっそり耳打ちした。それでもパピルスは従来声が大きいからか、普通に此方にも内容が聞こえる。そんな事に気付いてはいないらしいパピルスは、トリエルさんをチラチラみながら、困惑したような顔でフリスクに尋ねる。

 

 

『アズゴアは髭を剃ったのか……? そのうえ………クローンを作ったのか????』

「グフッ」

 

 

にこにこと微笑む彼女をどうしてもアズゴア王とは別のモンスターであると判断出来なかったらしく、斜め上の質問をフリスクに投げ掛けた。やめてくれい、思わず吹き出しちゃったじゃないか。

 

 

『ようお前達………何かあったか?』

「うわっ!?」

 

 

そんな所へ、ひょっこりと、また聞き覚えのある声が聞こえた。………私の後ろから。

思わず驚いて後ろを振り向くと、彼―――サンズがいつものニヤニヤとした笑顔を携えて立っていた。コイツ絶対ショートカット使っただろ、と思いつつ、私は彼を見る。

 

 

「サン、ズ………」

 

 

一瞬彼の名前を呼んでいいのか戸惑うが、それでも言うと、呼ばれた本人であるサンズは、気安そうな雰囲気で手を上げて、そしてじぃっと鋭い瞳で私を見た。

 

 

「…………よう。()()()()だな」

「………うん、久しぶり」

 

 

お互いに他の誰にも気付かれない別の意味合いを含んだ挨拶を短く交わす。これでいいんだな、と言いたげな彼の視線に、他の誰にも気付かれないように小さく、本当に小さく頷いてみせた。ナイスタイミングだよ、サンズ。

 

 

『この声は……!!』

 

 

現れたサンズの声に反応して、トリエルさんが私の横に並んでくる。フリスクの傍に寄って場所を譲ると、トリエルさんは私が居た場所に立って、サンズを見る。

 

 

『こんにちは。多分、私達……知り合いなのよね?』

 

 

恐る恐る、といった様子で、トリエルさんはサンズにそう言った。トリエルさんの言葉に、サンズは目を丸く見開く。そして少し眉を潜めながら此方を見たので、誰にも気付かれないように首を横に降っておいた。それを読み取ったサンズは、だよな、と言わんばかりに顔を伏せて、笑い声を一つ溢すと、トリエルさんに改めて向き直る。

 

 

『ああ、そういや……俺もこの声には聞き覚えがあるな』

 

 

トリエルさんの発言によってビシリという音が聞こえそうなくらいに凍った空気を物ともせず、サンズはそう言った。

 

 

『私はトリエル。これからよろしくね』

『………名前はサンズ。まぁ、そうだな、同じく』

 

 

トリエルさんとサンズが言葉を交わす中、アズゴア王の方を見てみる。すると、また泣き出して膝を着いていた。そんな彼をアンダインやアルフィスが慌てて慰めようとしている光景が広がっていた。やだ、テラシュール。

 

 

『あら! 待って、それなら……!』

 

 

サンズの自己紹介を聞いて、何かを思い出したらしいトリエルさんは、パピルスの方に向き直った。

 

 

『あなたが兄弟の、パピルスなのね! 御機嫌よう、パピルス! あなたに会えてとっても嬉しいわ! よく兄弟があなたについて聞かせてくれたのよ』

 

 

そして嬉しそうに、パピルスに笑いかけた。

突然王様のクローンである(と思っている)トリエルさんから自分の名前が出て困惑したのか、パピルスは目を少し丸くし、そしてその次に照れたように目を少し伏せる。

 

 

『なんと……アズゴアのクローンさんが俺様を知っているだと!!!』

「あー、パピルス、トリエルさんはアズゴア王のクローンじゃ」

『今日は人生最高の日だ!!!!!!!』

「聞けよ」

 

 

流石にクローン扱いは失礼だろうと思ってパピルスの認識を訂正しようとすると、どうやらテンションがハイになっているらしく私の言葉は無視された。つら。

 

 

『ねぇ、パピルス………スケルトンのお家はどんな屋根でしょう?』

 

 

そんなパピルスに、トリエルさんが一つ問いかける。

 

 

『うぬぬぬ………耐雪タイルのことか???』

 

 

パピルスはトリエルさんの問いに対し、腕を組んで首を捻りながら、そう答えた。そんなもん使ってんだね。

 

 

『いいえ、違うわ! スケルトンのお家の屋根は………』

 

 

そこでトリエルさんは言葉を切り、悪戯っぽく、楽しそうに笑う。

 

 

『骨材がスケスケなのよ!!!』

 

 

トリエルさんのその言葉を聞いて、パピルスは目を丸くし、頭を抱える。

 

 

『しまった!!! 今日は人生最悪の日だ!!!』

 

 

そして、先程とは真逆の言葉を叫んだ。

 

 

『よしよし、アズゴア王! もう大丈夫だって! 他にも女は「大漁」にいるんだからさ……』

 

 

一方アズゴア王の方では、アンダインとアルフィスがまだ傷付いた彼のことを慰めていた。苦笑いしながら、今度はそちらを見る。

 

 

『そ、そうですよ、アズゴア様!! アンダインが言うなら間違いないわ!』

 

 

アンダインを見習ってか、アルフィスもアズゴア王に言葉をかけ続ける。その甲斐あってか、アズゴア王の目から涙は止まっていた。

 

 

『あ、あなたなんて女の子は入れ食いなんだから、あー………あ、あの毛玉モンスターのことは諦めて、ええと………可愛い魚系女子でも釣りにいったら……?』

 

 

一瞬、アルフィスの口からサンズ達と楽しそうに話し込むトリエルさんに対して、かなり聞き捨てならない暴言が吐かれた気がしたが、彼女も彼女なりに頑張って励ましているのだと思い直してスルーする。そして、自分の好みである女性像をアズゴア王に提示し、口を噤む。

 

 

『…………………アッ、比喩です』

 

 

そしてきょとんと驚いた顔で自分を見つめるアンダインの視線に自分が何を口走ったのか察したらしいアルフィスは、誤魔化すようにそう付け加えた。その女性像が誰なのか察しがついたらしいアンダインがニヤニヤと笑った。

 

 

『分かってる。うまい喩えだと思うぞ』

 

 

ニヤニヤとしたままアンダインがそう言うと、

 

 

『まったくもう!』

 

 

突如、機械音のような声が聞こえた。入り口の方を振り返ると、ぶすっとした顔の彼―――メタトンが顔を覗かせていた。

 

 

『さっさと熱いキスを交わしてくれない!? 観客がロマンチックな展開に飢えて死にそうなんだけど!!!』

 

 

皆が唖然と彼を見る中、彼は焦れったいのかアルフィスとアンダインに向かってダメ出しをする。

 

 

『おい、黙ってろ!!』

 

 

逸早く我に返ったアンダインの一喝が飛ぶと、メタトンは肩を竦めながら黙った。

 

 

『まったく、なんて図々しいやつなんだ!』

 

 

そう言いながらも、どうせ冗談だろうと思っているらしいアンダインは笑った。

 

 

『だろう、アルフィス!??』

 

 

そしてアルフィスに対して同意を求めたが……肝心のアルフィスは、考え込むように黙りこくったままだった。

 

 

『………あれ、アルフィス??』

 

 

同意してくれるだろうと思っていたアルフィスから返答が無くて不安になったのか、アンダインはもう一度アルフィスに声をかけた。

 

 

『………いや。彼は正しいわ。キスしましょう』

 

 

その呼び掛けに、アルフィスは唐突な爆弾発言で返す。アンダインはそれを聞いて、まるで凍りついたように固まった。その場の空気も固まった。

 

 

『…………????????????』

 

 

アルフィスが言ったことが理解できないのか、アンダインはそのままフリーズする。

 

 

『はい??? は??? 何だって??? そうしたいなら??? それなら???』

 

 

そして、覚悟を決めたのか、にっこりと笑顔を浮かべた。

 

 

『手加減は無用だからな!!!』

「えっ、ちょっと」

 

 

顔を近付いていくアンダインとアルフィスを見て、突然の展開についていけず慌てているフリをしてから唖然としているフリスクを見て、目を塞ぐ。

 

 

「わっ、お姉ちゃん、見えないよ!?」

「見るな」

 

 

突然目の前が真っ暗になったことに驚いたのか、フリスクが声をあげ、私の手を剥がしにかかる。それを無視して目を覆い続け、アルフィスとアンダインの顔が近付いていくのをガン見する。そして、唇が触れようとしたその瞬間、

 

 

『ま、待って! 人間の前なのに!』

 

 

フリスクの教育上よろしくないと判断したらしいトリエルさんが慌てて間に割って入った。

 

 

『ああ、そうだった! ごめんなさい、頭に血が昇っていたわ』

 

 

トリエルさんが間に入ったことによって頭が冷えたのか、二人は照れたように距離を取る。そして、アルフィスが照れながらそう言った。

 

 

『うふふ』

 

 

そこで、トリエルさんは笑って、此方に向き直る。それに倣って、駆け付けてくれた彼らも、一列に並んで此方を見た。

 

 

『我が子よ、もうしばらくここに留まらないといけないようね』

「………みたいですね」

 

 

優しく微笑んで言うトリエルさんに、私はナイフを握った手の力を再び入れ直しながら、笑顔を返す。

 

 

『でもこんなに素敵なお友達に囲まれているのなら……きっと……ここでも幸せに暮らせると思うわ』

「……そうですね。素敵なお母さんも居ますし」

「! まぁ……ふふふ」

 

 

冗談を交えてトリエルさんにそう返せば、彼女は目を細めた。

………まぁ、その笑顔も、すぐに消えてしまうのだけれど。

 

 

『ね、ねぇ、そういえば』

 

 

―――ほら、来た。

 

 

『パピルス……あなたが皆をここに呼び寄せたの、よね? その、彼女の、ええと、他の皆を。で、その……もし、私が先にここに来ていたら……どうやって皆を呼んで回るつもりだったの?』

 

 

きっと誰もが気になっていたであろう疑問を、アルフィスが代わりに口に出し、パピルスに問いかける。

 

 

『ああ、それなら………』

 

 

それに対し、パピルスは何事もないように、こう言った。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

パピルスがそう言うや否や、私の中の警戒が最大レベルに引き上げられる。

 

 

『小さい………花ですって?』

 

 

震えた声でアルフィスがそう繰り返した瞬間だった。

 

 

ヒュッ

 

 

何かが、空を切る音がする。

 

 

「!!!」

「なんだ!!?」

 

 

闘いに身を投じていたモノの勘か、逸早く何かを察知したらしいアンダインとアズゴア王が、行動に移そうとした瞬間、

 

 

ビュッ

 

 

「ぐあっ……!?」

「あぁっ!!?」

 

 

皆の身体を、先に手をつけた太い蔓が縛り上げた。

 

 

「!! あの蔓………っ」

 

 

その蔓を、私とフリスクは知っている。

 

 

私は知識として。

 

 

フリスクは実際に見たものとして。

 

 

その事から、皆を縛り上げている犯人が誰なのか、直ぐに分かった。

 

 

そして、その犯人が、地中から顔を出す。

 

 

『バーカ。オマエたちがよろしくやってる間に……人間のソウルをいただいちゃったもんね!』

 

 

此方を嘲笑いながら、ソイツは言う。

 

 

『そして今、そのパワーだけじゃない……オマエのお友達のソウルも、ぼくのものとなるのさ!』

「―――やっぱりお前か、フラウィー……!!」

 

 

そして、私は、ソイツを―――フラウィーを、睨み付けた。

 

 

「やぁ、Chara! 久しぶりだね、一年半ぶりかい?」

 

 

私の視線を物ともせず、フラウィーは私に笑いかけた。フラウィーの言った『一年半』というのは、多分、一週目の私達が地上に出て一年半、ということなのだろう。

 

 

「………なんの話だ、私達が会ったのはルインズだけだろうが」

 

 

私が何も知らないフリをしてそうフラウィーに返すと、フラウィーは目を丸くした。

 

 

「冗談でしょ? 君、まさか本当に記憶が無いの……?」

「だから何の話だよ!! そんな事より、皆を離せ!!」

 

 

これ以上突かれたらボロが出る。

そう判断して話を変えれば、フラウィーは顔を無表情にした。

 

 

「は? 駄目に決まってるじゃん。何でぼくからCharaを奪うコイツらを生かしとかないといけないの?」

 

 

―――そう言い切るフラウィーの目は、何処までも暗い、闇のようだった。

 

 

『へへへ……一番面白いのは何か分かるかい?』

 

 

ぞっとするような無機質な無表情を消し、フラウィーは呆然とするフリスクに語りかける。

 

 

『全部オマエのせいだってことさ』

 

 

そして、フリスクに、フリスクの心に、

 

 

『皆にオマエを愛させたせいなんだよ』

 

 

妄言を、埋め込む。

 

 

『皆の話に耳を貸して……応援したり……心配したり……』

 

 

まるで本当にフリスクが悪いかのように、

 

 

『そうもしなければ、コイツらはここには来なかっただろうからね』

 

 

呪詛を、張り付けていく。

 

 

『そして今、こいつらと人間のソウルを手に入れて……ぼくは本当の姿になるのさ』

 

 

そこでフラウィーは、私に向かって笑いかける。

 

 

「見ててね、Chara! 一年半前には見せれなかったぼくの本当に格好いい姿を見せてあげる!」

「………見たくもねーよ、そんなもん」

「もう、冷たいなぁ」

 

 

突き放しても、フラウィーは恍惚な表情で笑うばかりで、意味は無かった。

私がそれでもフラウィーを睨み付けていると、フリスクが一歩、前に出る。

 

 

『はぁ? 今更どうしてこんなことをするかだって?』

 

 

フラウィーはフリスクに向き直り、呆れたように溜め息を吐く。

 

 

『まだ分かんないの? これはただの「ゲーム」だ』

 

 

そして呆れたように、フリスクに言う。

 

 

『もし君が満足のいく結果を残して地下を去ったら、それは君の「勝ち」になる。もし「勝て」ば、君はもうぼくとゲームを「プレイ」しようとは思わないだろう』

 

 

当たり前だと肯定するように、フリスクはフラウィーの言葉に頷いた。

 

 

『それならどうすればいいか?』

 

 

そこで、フラウィーは凶悪な笑みを見せた。

 

 

『このゲームを永遠に終わらせなきゃいいのさ』

 

 

そして、答えをフリスクに告げた。

 

 

『きみの目の前に、勝利をぶら下げておいて……掴もうとする瞬間にそれをパッと取り上げちゃう。何度も、何度も、何度もね……』

 

 

何がおかしいのか、クスクスと笑いながらフラウィーは言う。

 

 

『………ねぇ』

 

 

不意に、笑うのをやめて、フラウィーはフリスクに話を持ちかける。

 

 

『もしぼくを倒せるとでもいうなら、「ハッピーエンド」をくれてやるよ。きみのお友達も返してあげる。結界も破ってあげる』

 

 

そこで、フラウィーはチラッと、私を見た。

 

 

「そして………Charaにももう、今後一切関わらないであげる」

「なっ……!?」

 

 

台本(ゲーム)には無かった筈の条件が追加され、目を見開く。

 

 

『それで皆満足でしょ? でもそんなこと絶対起こらない』

 

 

ニヤニヤと、笑いながらフラウィーは言う。

 

 

『お前には……! 何が何でもここに居てもらうからね!』

 

 

フラウィーがそう言った瞬間、突如、足が急に強く引っ張られ、身体が倒れた。

 

 

「しまっ……!?」

 

 

足を見ると、白い色を無くした蔓が足に絡んでいる。咄嗟に受け身を取ろうとするが、身体が続いて生えてきた蔓に絡め取られる。

 

 

「ぐっ………」

「お姉ちゃんッ!!」

 

 

そのままギチギチという音を立てる程強い力で縛られ、その場に動けないように縫い付けられる。フリスクが此方に手を伸ばそうとして、

 

 

「Charaに触らないでよ」

「!! フリスク、避けて!!」

 

 

フラウィーのその一言と共に、背後から伸びた蔓に身体を縛られた。

 

 

「へへへ………やぁっと、君を捕まえた」

 

 

恍惚な表情で私を見るフラウィーに一睨みを返し、何とか抜け出してフリスクを助けだそうと抵抗する。

 

 

「こんの……ッ」

 

 

そんな私のことなど露知らず、フラウィーは私と距離を置いて縛り付けたフリスクに向き直った。

 

 

「そう、オマエにはここに居てもらわなくちゃね」

 

 

そして、先程の言葉を繰り返す。それと同時に、フリスクの周りに、白い種のような弾幕が展開された。

 

 

『たとえ、1000000回殺してもね!!!!』

「!! や、やめ、やめて、やめてぇ!!!!!!!」

 

 

さっと、自分の血の気が引いていくのが分かった。そんな私の懇願も虚しく、フラウィーは高笑いと共に、

 

 

弾幕を、発射した。

 

 

「……!!!!」

 

 

フリスクが、弾幕に貫かれる。

 

 

痛みからか、顔が歪んだ。

 

 

「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははッッ!!!!」

 

 

『勝ち』を確信した嗤い声を響かせながら、フラウィーは弾幕を何度も発射して、

 

 

フリスクを、

 

 

貫いて、

 

 

切り裂いて、

 

 

傷つけて、

 

 

じわりじわりと

 

 

『死』に至らしめていく。

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁあああ!!!!???」

 

 

わたしは、ただその光景をみて

 

 

さけびごえをあげることしか できない

 

 

 

「やめてぇぇぇぇぇえええ!!!!!!」

 

 

 

さけんで、ていこうしているあいだにも、

 

 

ふりすくは

 

 

しんで

 

 

「………が、は……」

 

 

攻撃が、一瞬止まった。

 

 

フリスクは力無く項垂れた。

 

 

「隕九※縺ヲ縺ュ、Chara!! 莉雁コヲ縺薙◎繧ウ繧、繝?°繧、解放縺励※縺ゅ£繧!!」

 

 

笑顔を浮かべた繝輔Λ繧ヲ繧」繝シが言っていることが理解できない

 

 

いや

 

 

いやだ

 

 

ふりすく

 

 

まだ あなたに

 

 

 

つぐないきれて いないのに――――…………

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――その、時だった。

 

 

ボボボッ

 

 

空気の燃える、音がする。

 

 

その音で、我に返った。

 

 

フリスクの周りを見ると、白い炎がフリスクを守るように囲んでいた。

 

 

その炎が、フラウィーの種の弾幕を跳ね退けた。

 

 

『えっ?』

 

 

フラウィーの、困惑した声がする。

 

 

『恐れないで、我が子よ………』

 

 

ハッとして、声がした方を見る。

 

 

縛られながらも尚、フリスクを守る為に炎を縛られている腕から起こした彼女を、トリエルさんを見る。

 

 

『どんな事が起こっても……私たちはいつでもあなたのことを守るから!』

 

 

安心させる為か、そう言ってトリエルさんは微笑んだ。

 

 

その言葉に、

 

 

その笑顔に、

 

 

すっと、押し潰されそうだった心が軽くなる。

 

 

「ははは!! なに、根拠もない言葉を信じるわけ!!? バッカじゃないの、オマエ!!」

 

 

その言葉を、フラウィーは否定する。

 

 

「そんなことできるわけない!!!」

 

 

そう言って、フラウィーはまたフリスクに攻撃を仕掛ける。

 

 

それを、現れた大きな骨と、槍が防いだ。

 

 

『そうだぞ、人間! お前なら勝てる!!』

 

 

骨を出現させて、フリスクを守ったパピルスが、言葉を紡ぐ。

 

 

『俺様はお前を信じる、だから……お前もお前を信じろ!!』

 

 

私が言われた訳じゃないのに、心強いその言葉は、胸の中に、すっと広がっていく。

 

 

『なぁ! 人間! あたしを越えた貴様ならば、何だって出来る筈だろ!』

 

 

次に、槍でフリスクを守ったアンダインが、フリスクに言葉をかける。

 

 

『くよくよすんな! あたしたちがどこまでもついていくぞ!!』

 

 

いつだって背中を押してくれるその励ましが、心に届く。

 

 

『ん? お前、コイツをまだ倒してないのか?』

 

 

サンズが、少し小馬鹿にした様子で声をかけてくる。

 

 

『おいおい、こんなやつがお前に敵うはずないぜ』

 

 

心の底から『お前なら勝てる』と、信じてくれている言葉が聞こえる。

 

 

「…………う」

 

 

ピクリと、フリスクが反応する。

 

 

「! コイツ、まだ………!!」

 

 

フリスクに止めを刺そうと、弾幕が飛ぶ。

 

 

その弾幕も、素早い雷と炎の壁によって防がれた。

 

 

『科学的には、この状況であなたが勝つのは不可能だけど……』

 

 

電気を駆使し、弾幕を跳ね返したアルフィスが笑う。

 

 

『で、でも……絶対に、あなたなら出来るってわかるの!!』

 

 

『この人なら勝てる』と告げる自分の本心を叫ぶ声が聞こえる。

 

 

『人間よ、人間とモンスターの未来の為に……!』

 

 

炎の壁で弾幕を燃やし尽くしたアズゴア王は願う。

 

 

『決意を抱き続けるんだ!!』

 

 

その希い(ねがい)が、心に反響する。

 

 

「今更、何を……!!!」

 

 

フラウィーの顔が腹立たしげに歪んだ、その瞬間だった。

 

 

『ラ ラ ラ ラ!』

『私タチモ一緒ヨ!』

『やっちゃおうぜ!』

『貴女なら勝てるわ!』

『お前ならできるぜ!』

『ゲコ』

 

 

たくさんのモンスターが、私達の傍へとやってきた。

 

 

―――ともだちの、こえがする。

 

 

涙が、溢れそうだった。

 

 

そんな中、

 

 

「!!!」

 

 

フリスクが、ゆっくりと顔を上げた。

 

 

先程までの、あとは死を待つだけだった、彼女はいない。

 

 

 

大切な友達の存在に背中を押され、フリスクは『決意(生きる意志)』を取り戻した。

 

 

 

『うぅぅぅ………そんな!』

 

 

フリスクの味方であるモンスター達全員に睨まれ、フラウィーは怖じ気付いたようにフリスクから離れた。

 

 

『そんなバカな!! こんなことあり得ない……!!』

 

 

動揺するフラウィーは、顔を伏せて、声を震わせる。

 

 

『オマエ…………オマエらが………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこまでバカだったなんてな

 

 

パッと顔を上げたフラウィーの顔は、凶悪に歪んでいた。

 

 

『オマエらのソウル全部ぼくのものだ!!!』

 

 

フラウィーがそう嗤うと、辺りが眩しく光り始める。

 

 

そして、

 

 

そこで、私の意識は途切れた。

 

――――――――――――――――――

 

次に目覚めたのは、真っ暗な闇の中。

 

 

ぼんやりとする頭を無理矢理覚醒させ、身体を起こす。

 

 

「!! フリスク!!!」

 

 

遅れて自分が今何をしているのかを思い出して、隣で眠っていたフリスクを揺らして起こす。

 

 

「フリスク! 起きて、フリスク!!!」

 

 

中々目を覚まさないフリスクに、嫌な予感が過る。まさかこの子は、とまで考えて、慌ててそれを振り払う。

 

 

「…………う、うーん……」

 

 

かなり激しく揺らすと、やっとフリスクは目を開けた。

 

 

「……お姉ちゃん…………お姉ちゃんッ!?」

「わっ」

 

 

そして寝惚け眼で私を見たかと思うと、勢い良く起き上がった。

 

 

「お姉ちゃん、無事!?」

「うん、私は大丈夫だけど……フリスクは?」

「ぼくも大丈夫。あぁ、よかった、無事で」

「そっちこそ」

 

 

安否を確認しあい、二人で抱き締めあう。そして少しして回していた腕を離し、辺りを見渡す。

 

 

「ここは何処だろう……」

「……多分、フラウィーが作り上げた空間だと思うよ」

「え、嘘でしょ?」

 

 

思わずそう呟けば、フリスクから返答が返ってきた。そうか、この子は一週目で一回フラウィーと戦ってるから知ってるのか。

 

 

「……とにかく、皆を探そうよ。何処かにいる筈だし」

「そうだね」

 

 

急かすフリスクに同意して、取り敢えず立ち上がると、

 

 

ぼんやりと、白い影が目の前に形成されていく。

 

 

「!?」

 

 

突如現れた影に、警戒を跳ね上げる。それはだんだんと輪郭を現していき、やがて、私が知っている形になった。

 

 

山羊の頭部を持った人形のそれは、闇を見渡すと、手を握って開いて、そして、笑った。

 

 

『ぼくはもう。花でいることに疲れたんだ』

 

 

そう一言、目の前のモンスターは闇に呟いて、此方に振り返る。

 

 

そして、閉じていた目をゆっくりと開けて、真っ直ぐ此方を見た。

 

 

『やぁ! Chara、そこにいるの?』

 

 

そう言って微笑みかけてくるその顔は、トリエルさんとアズゴア王にそっくりだった。

 

 

『ぼくだよ、君の一番の友達―――』

 

 

閃光が、走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ASRIEL(アズリエル) DREEMURR(ドリーマー)さ!!】

 

 

闇に、まだ幼さが抜けきれていない声が響く。

 

 

閃光が消えた先には、

 

 

【神】となった彼―――アズリエルがいた。

 

 

 

 

 

――――最後の闘いが、始まった。


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